説明

耐固着障害性アクチュエータ

耐固着障害性アクチュエータ(2)は、ハウジング(4)と、回転運動を発生するための第1原動機(6)と、使用時に、第1原動機(6)の回転運動を変換するように構成された第1ギアボックス(10)とを含む。第1ギアボックスは、ハウジングに対して回転するように取り付けられたケーシング(14)を有しており、第2ギアボックス(16)は、第1ギアボックス(10)のケーシング(14)の回転運動を変換するように構成される。制動部(20)は、第2ギアボックス(16)の回転運動に対して作用するように構成される。使用時において、制動部は、第1ギアボックス(10)に固着障害が発生していないとき、第1ギアボックス(10)のケーシング(14)とアクチュエータ(2)のハウジング(4)との間の相対回転に対して抵抗するように作動する。第1ギアボックスに固着障害が発生しているとき、制動部(20)は解除され、第1ギアボックスのケーシング(14)がハウジング(4)に対して回転可能となる。アクチュエータは、第2原動機(22)を含んでいてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータに関する。詳しくは、航空機の構成要素を駆動するための耐ジャミング性電気機械式アクチュエータに関するが、これに限定されるものではない。
【背景技術】
【0002】
航空機の着陸装置のような航空機の構成要素を駆動する(例えば、前脚を操向する)ために、アクチュエータが用いられる。このようなアクチュエータには、勿論、高い保全性が要求され、故障するおそれの非常に小さなものである必要がある。例えば、アクチュエータにとって、少なくとも2つの動作モード、例えば、通常動作モードの動作が故障した場合に航空機の構成要素を駆動するための補助動作モードまたは緊急動作モードを有することが重要である。このような補助動作モードまたは緊急動作モードは、航空機の構成要素を能動的に駆動する場合もあり、あるいは、単に、航空機の構成要素がアクチュエータに連結されているにも関わらず動くことが可能となるようにする場合がある(前脚操向用アクチュエータの場合、補助動作モードまたは緊急動作モードは、前脚の自由回転(free-castoring)を可能にすることを含む場合がある)。
【0003】
電気機械的アクチュエータには、主として、リニアアクチュエータとロータリアクチュエータがある。リニアアクチュエータは、典型的には、減速ギアボックスに連結された電動モータを備え、減速ギアボックスはローラーねじまたはボールねじに連結されている。電動モータの高速/低トルクの回転運動は、低速/高推進力の直線運動に変換される。ロータリアクチュエータも、典型的には、減速ギアボックスに連結された電動モータを備えており、この場合には、電動モータの高速/低トルクの回転運動は、低速/高トルクの回転運動に変換される。直線運動または回転運動は、用途に応じて必要とされる。例えば、航空機の着陸装置の伸張/引込システムには、リニアアクチュエータが必要であり、一方、航空機のドアの操作または前輪の操向には、ロータリアクチュエータが必要である。
【0004】
従来の航空機で使用されるアクチュエータは、油圧機械式アクチュエータであることが多い。現在、大型の商用航空機において、油圧システムへの依存度を低減し、従来油圧機械式アクチュエータが使用されていたところに、電気機械式アクチュエータを使用することに対する要望がある。電気機械式アクチュエータの動作には、リニアアクチュエータまたはロータリアクチュエータに関わらず、ギアボックス中のギアのような部品を駆動することが含まれており、これによって、アクチュエータに機械的な固着障害(ジャミング)が発生して、アクチュエータの効率的及び/又は安全な動作が妨げられるおそれがある。したがって、このような固着障害に対して、少なくとも部分的に耐性を有する電気機械式アクチュエータに対する要望がある。
【0005】
従来、耐固着障害性アクチュエータの構成に関して、多くの提案がある。例えば、このような提案は、米国特許出願第2005/0103928号、米国特許第3,986,412号、米国特許第4,215,592号、米国特許第4,488,744号、米国特許第4,858,490号、米国特許第5,071,397号、米国特許第5,120,285号、米国特許第5,152,381号、米国特許第5,518,466号、及び、米国特許第5,779,587号に開示されている。しかしながら、これらの提案には、様々な欠点がある。
【0006】
例えば噛合クラッチのような噛み合い歯車の係合/解除、または、他の解除可能な高トルク結合機構を用いた提案では、アクチュエータの固着障害の発生に対して複雑な機構が要求される(例えば、米国特許出願公開2005/0103928号、米国特許第4,488,744号、米国特許第4,858,490号、米国特許第5,071,397号、及び、米国特許第5,779,587号参照)。
【0007】
アクチュエータに耐固着障害性にすることを目的として、アクチュエータの固着障害の発生時に、アクチュエータの部品を破壊する提案もある(例えば、米国特許第5,518,466号参照。これには、固着障害の発生時に破壊されるように設計された剪断突起部を含むシステムが記載されている。)このようなシステムは、フェール・ワンス型のシステムであり、アクチュエータをその主要なモードで再度動作させようとする場合には、常に、アクチュエータの少なくとも一部を交換する必要がある。また、このようなシステムは、トルクが所定の閾値を超える瞬間に壊れることに依存するものでもある。1つの閾値を選択することにより、固着障害が発生していないときに剪断突起部が破壊されること、及び/または、部分的にまたは完全に固着障害が発生したときに、剪断突起部の破壊が遅れることが生じる可能性がある。
【0008】
また、特定の用途のために使用するには、単純に嵩張り過ぎるかまたは重過ぎる提案もある(例えば、米国特許第4,215,592号)。
【0009】
アクチュエータによって実現可能な出力動作を、限定された(典型的には、出力動作の完全な1回転よりも小さい)角度範囲の動作に制限する提案もある。これは、例えば、それ以上の角度範囲と配線とが干渉する結果である(例えば、米国特許5,152,381号、米国特許第5,518,466号、及び、米国特許第5,779,587号)。例えば、アクチュエータの少なくとも1つの動作モードにおいて、1つまたは複数の原動機の回転を要するように考えられる提案もある。
【0010】
主要動作モードにおける固着障害の発生時に電力を供給すること、及び/または、複数の原動機を備えることを要する提案もある。このような要求は、電源の利用可能性に依存していること、及び/又は、複数の原動機を要するために重量が増加することの結果として、特定の用途において、不利なものとなる。
【0011】
アクチュエータ内のギア装置のギア比、及びそれによって発生するトルクのために制限を受ける提案もある。例えば、米国特許第5,120,285号に記載されたアクチュエータは、このような制限を受けるものと考えられる。また、米国特許第5,120,285号に記載されたアクチュエータでは、主要動作モード及び補助動作モードの両方を動作不能にする固着障害が発生する可能性があると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/0103928号明細書
【特許文献2】米国特許第3,986,412号明細書
【特許文献3】米国特許第4,215,592号明細書
【特許文献4】米国特許第4,488,744号明細書
【特許文献5】米国特許第4,858,490号明細書
【特許文献6】米国特許第5,071,397号明細書
【特許文献7】米国特許第5,120,285号明細書
【特許文献8】米国特許第5,152,381号明細書
【特許文献9】米国特許第5,518,466号明細書
【特許文献10】米国特許第5,779,587号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上述した欠点の1つまたは複数を軽減するアクチュエータを提供することを目的とする。上述した欠点の1つのみを怪訝するアクチュエータを提供することも、本発明の範囲に含まれる。その代わりに、または、それに加えて、本発明は、例えば、少なくともいくつかの上述した先行技術文献で提案されているアクチュエータと比較して、適用可能な用途に関して柔軟性の高いアクチュエータのような、改善されたアクチュエータを提供することを目的とする。その代わりに、または、それに加えて、本発明は、航空機で使用するための耐固着障害性のアクチュエータであって、航空機の中央油圧システムに依存せず、例えば、電気機械式ロータリアクチュエータであるアクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、ハウジングと、回転運動を発生するための原動機と、前記ハウジングに対して回転するように取り付けられたケーシングを有して、使用時に、前記原動機の回転運動を、該回転運動よりも高トルクかつ低速の回転運動に変換するように構成された第1ギアボックスと、前記第1ギアボックスの前記ケーシングの回転運動を、該回転運動よりも低トルクかつ高速の回転運動に変換するように構成された第2ギアボックスと、前記第2ギアボックスの低トルクかつ高速の回転運動に対して作用するように構成された制動部とを含み、該制動部は、使用時に、(i)前記第1ギアボックスに固着障害が発生していないとき、前記第1ギアボックスの前記ケーシングと前記ハウジングとの間の相対回転に対して抵抗するように作動可能であり、(ii)前記第1ギアボックスに固着障害が発生したとき、前記第1ギアボックスの前記ケーシングが前記ハウジングに対して回転できるように解除可能である、アクチュエータを提供するものである。
【0015】
このアクチュエータは、上記の構成により、第1ギアボックスに障害、例えば固着障害(ジャミング)が発生しても、第1ギアボックスのケーシングが回転可能であることによってアクチュエータの出力は固着されないという点で、耐固着障害性のアクチュエータとなっている。また、このアクチュエータは、第1ギアボックスと第2ギアボックスの両方を備える結果、アクチュエータを動作させるために、大きな制動部も大きな原動機も要しないため、比較的軽量かつ小型なものとすることができる。第1ギアボックス及び第2ギアボックスは、両方のギアボックスに同時に固着障害が発生する確率が無視可能な程度であるように構成することができる。第1原動機も、第1原動機がその内部で固着障害が発生するように故障するリスクが無視可能な程度であるように構成することができる。したがって、このアクチュエータは、動作の間に、その出力に恒久的な固着障害が発生することに関して無視可能なリスクしか有していない耐固着障害性を有するように構成することができる。
【0016】
原動機は、記ハウジングに対して固定されているものであってもよい。
【0017】
原動機及び第1ギアボックスを、アクチュエータを動作させるための主手段とすることができる。第2ギアボックスは、原動機または第1ギアボックスが故障した場合に使用するバックアップ手段の少なくとも一部を形成するものであってもよい。したがって、第1ギアボックス及び第2ギアボックスは、異なる機械的特性をゆするものであってもよい。例えば、第2ギアボックスは、第1ギアボックスのギア比よりも低いギア比を有することができる。これによって、第2ギアボックスを、逆向きに動作可能なものとしてもよい。一方、第1ギアボックスは、逆向きに動作可能なものである必要はない。第2ギアボックスは、第1ギアボックスよりも小さい質量を有するものであってもよい。
【0018】
第1ギアボックスのギア比は、好ましくは10:1以上である。例えば、このギア比は、20:1よりも大きいものであっても、または、30:1よりも大きいものであってもよい。本発明の一実施形態では、アクチュエータは、第1ギアボックスのギア比は少なくとも50:1であり、少なくとも8,500Nmのトルクを発生する。同様に、第2ギアボックスのギア比は、好ましくは10:1以上である。例えば、このギア比は、20:1よりも大きいものであっても、または、30:1よりも大きいのもであってもよい。上述したように、第2ギアボックスは、第1ギアボックスのギア比よりも低いギア比を有するものとしてもよい。第1ギアボックス及び第2ギアボックスのギア比の選択は、異なる要求に基づくものであってもよい。第1ギアボックスの場合、ギア比は、原動機/ギアボックスの組合せのサイズ及び重量の観点から選択することができる。第2ギアボックスの場合、ギア比は、逆向きに動作可能な程度の低いギア比であるという第1の要求、及び制動トルクを低減するために十分な高いギア比であることという第2の要求の観点から選択することができる。
【0019】
勿論、第1ギアボックス及び/又は第2ギアボックスは、任意の適切な種類のギアボックスとすることができる。1つのまたはそれぞれのギアボックスは、例えば、ウォームドライブ、ハーモニックドライブ、遊星ギア、エピサイクリックギア、ハイポイドギア、斜め歯ギア、または他の任意の適切な種類のギアボックスまたはギア構成とすることができる。アクチュエータは、第1ギアボックスの出力が、使用時に、少なくとも±180°の範囲に亘る(すなわち、少なくとも1回転の)出力回転を生成可能なように構成されていてもよい。好ましくは、アクチュエータは、第1ギアボックスの出力において、複数回転を生成可能なものである。
【0020】
アクチュエータは、好ましくは、再構成可能なものである。第1ギアボックスの固着障害が予備の部品を要することなく修復できる場合、アクチュエータは、その部品を交換することなく修理することができる。例えば、アクチュエータは、好ましくは、アクチュエータを固着状態で機能させるために破壊する必要がある部品を有しないものである。アクチュエータは、第1ギアボックスに固着障害が発生した後、固着障害の原因を修復しさえすれば、再度使用可能である。この機能性は、固着障害の発生時に破壊されるように設計された他の部品の交換を必要とする先行技術の幾つかのアクチュエータにはないものである。
【0021】
アクチュエータは、好ましくは、逆向きに動作可能なものであり、より好ましくは、第1ギアボックスに固着障害が発生したときに、逆向きに動作可能のものである。例えば、第2ギアボックス及び原動機の両方が、逆向きに動作可能であることが好ましい。第2ギアボックス及び原動機は、使用時において、第1ギアボックスに固着障害が発生したときに逆向きに動作可能なように構成されていてもよい。例えば、第1ギアボックスの出力は、第2ギアボックス及び原動機が自由回転することを要する他の手段によって回転するものであってもよい。その際、アクチュエータの出力は、アクチュエータに損傷を発生させる可能性のある負荷を与えることなく、そのような他の手段によって回転されるものである。勿論、第1ギアボックスを、第1ギアボックスに固着障害が発生したときに、逆向きに動作可能なものとする必要はない。また、第1ギアボックスは、特に第1ギアボックスに固着障害が発生したときに、逆向きに動作できないように構成されていてもよい。
【0022】
制動部は、電動ブレーキであってもよい。制動部は、好ましくは、「パワーオン」型のブレーキであり、電源の遮断時には自動的に解除されるものである。
【0023】
アクチュエータは、減衰機構を備えるものであってもよい。アクチュエータの運動は、少なくとも第1ギアボックスに固着障害が発生したときに、その減衰機構によって減衰させることが好ましい。例えば、減衰機構は、第1ギアボックスに固着障害が発生して制動部が解除されたときに、第1ギアボックスのケーシングが、その運動を減衰させつつアクチュエータのハウジングに対して回転できるように構成されていてもよい。減衰機構は、油圧式減衰手段を使用するものであってもよい。減衰機構は、慣性減衰手段を使用するものであってもよい。減衰機構は、受動型の減衰手段を使用するものであってもよい。アクチュエータは、例えば、電磁式減衰機構を備えるものであってもよい。例えば、減衰機構は、制動部に組み込まれていてもよい。例えば、制動部は、より大きな制動手段の一部に含まれており、その制動手段が減衰機構も含むものであってもよい。減衰機構は、能動型の減衰装置を使用するものであってもよい。減衰機構は、電動モータを含んでいてもよい。この電動モータは、制御部の使用による能動的な減衰作用、及び/又は、制御部の使用による受動的な減衰作用、もしくは、電動モータの巻線を短絡させることによる受動的な減衰作用を有するものであってもよい。
【0024】
アクチュエータは、第1ギアボックスに固着障害が発生したときに、受動的に動作するものであってもよい。アクチュエータが、第1ギアボックスに固着障害が発生したときに、駆動力を有する運動を発生しないという特徴を有することによって、アクチュエータを比較的軽量にすることができる。この軽量化が可能な構成と比較して、バックアップ動作モードまたは補助動作モードにおいて駆動力を有する運動が必要な場合、アクチュエータに対して余分の重量を追加する必要がある。例えば、アクチュエータが、第2の原動機を備える必要がある場合もある。代わりに、第1ギアボックスと原動機との結合を分離し、原動機を(例えば、第2ギアボックスを介して)アクチュエータの出力に再結合するための更なる機械的手段を備える必要がある場合もある。バックアップ動作モードまたは補助動作モードにおいて駆動力を有する運動を供給可能な機能を有するようにアクチュエータを構成することは、以下に説明するように、本発明の範囲に含まれる。但し、本発明の実施形態において、好ましくは、負荷が印加されている要素の結合を分離するために必要な分離機構を有しないまたは要しないものである。
【0025】
代わりに、または、加えて、アクチュエータは、第1ギアボックスに固着障害が発生したときに、能動的に動作するものであってもよい。例えば、アクチュエータは、その出力の駆動を続けるものであってもよい。駆動力は、最初に記載した原動機(以下、第1原動機という)によって供給される。代わりに、第2原動機を備えるものであってもよい。第2原動機を備えることは、アクチュエータに冗長性を付与し、第1ギアボックスに固着障害が発生したときに、第1ギアボックスから第1原動機を分離するための複雑な機構の必要性を低減する点で、有利なものである。アクチュエータは、回転運動を発生するための第2原動機を含んでいてもよい。この第2原動機は、第2ギアボックスに関連付けられるものであってもよい。例えば、第2ギアボックスは、使用時に、第2原動機の回転運動を、該回転運動よりも高トルクかつ低速の回転運動に変換するように構成されていてもよい。
【0026】
第2原動機は、第1ギアボックスに固着障害が発生したとき(制動部が解除され、それによって第1ギアボックスのケーシングがアクチュエータのハウジングに対して回転可能となったとき)に、第2原動機の回転運動を、第2ギアボックスにより第1ギアボックスのケーシングの回転運動(第2原動機の出力よりも高トルクかつ低速の回転運動)に変換するように構成さていてもよい。このように発生した回転運動は、第1ギアボックスに固着障害が発生していないときに発生する回転運動の出力と同一の出力に供給される。勿論、第2原動機は、第1ギアボックスに固着障害が発生していないときには、制動部が第1ギアボックスのケーシングとアクチュエータのハウジングとの間の相対回転に抵抗しつつ、第1原動機の回転運動が第1ギアボックスによって高トルクかつ低速の回転運動に変換されることが可能となるように、構成されるものであってもよい。
【0027】
第2原動機は、電動モータであってもよい。第1原動機は、第2原動機よりも大きく、重く、及び/又は高出力のものであってもよい。第2ギアボックス及び第2原動機は、第1原動機または第1ギアボックスが故障したときのためのバックアップ手段とみなすこともできる。
【0028】
アクチュエータは、使用時に第1ギアボックスを固着させるための固着機構を含むものであってもよい。第1ギアボックスに部分的な固着障害が発生した場合、第1ギアボックスは機能するものの、その効率が著しく低減する。この場合、第1ギアボックスに完全な固着障害が発生したかのようにアクチュエータが動作するように、固着機構使用して第1ギアボックスを完全に固着させることができる。アクチュエータは、2つの異なる状態、すなわち、第1ギアボックスが自由に動作する状態及び第1ギアボックスが完全に固着された状態のいずれかにおいて、良好に動作するように構成されていてもよい。この場合、第1ギアボックスが、他の状態(例えば、部分的に固着障害が発生した状態)になる可能性を低減することが望ましい。固着機構は、その使用により、第1ギアボックスのケーシングを入力運動と同じ速度で回転させるように構成されていてもよい。固着機構は、例えば、ギアボックスのケーシングの、そのギアボックスの他の部分に対する回転を阻止することが可能なように構成されていてもよい。固着機構は、例えば、クラッチ、ブレーキ、またはアクチュエータの部品を次のように結合及び分離することが可能な他の手段を含むものであってもよい。すなわち、(a)固着障害が発生していないとき、第1ギアボックスの自由な駆動が可能であり、かつ、(b)入力シャフトの回転により、第1ギアボックスのケーシング及び出力に対応する回転が発生するように第1ギアボックスを実質的にロックすることが可能なものである。
【0029】
アクチュエータは、制御部を含むものであってもよい。制御部は、例えば、第1ギアボックスの固着障害を検出するように構成された固着障害検出手段として構成されるか、または、そのような固着障害検出手段を含む。固着障害検出手段は、例えば、アクチュエータの効率を監視するように構成されていてもよい。例えば、固着障害検出手段は、アクチュエータの出力を監視するものであってもよい。アクチュエータの測定された出力は、予想される出力と比較され、大きな相違がある場合には、固着障害によってアクチュエータの効率が低減したと仮定されるものであってもよい。
【0030】
アクチュエータは、好ましくは、航空機の構成要素を駆動するために適合するように構築される。航空機の構成要素は、例えば、着陸装置であってもよい。この場合、アクチュエータは、操向用アクチュエータであってもよい。あるいは、航空機の構成要素は、スラットまたはフラップのような飛行制御面とすることもできる。あるいは、航空機の構成要素は、例えば着陸装置庫のドアのようなドアであってもよい。アクチュエータの出力は、別のギア機構によって、駆動対象の構成要素に結合される。別のギア機構は、アクチュエータの出力を、さらに高いトルクと低い速度を有する運動に変換する。別のギア機構のギア比は、例えば、4:1よりも大きなものとすることができる。この場合、構成要素を100°以上の範囲に亘って駆動するためには、アクチュエータの出力を、1回転より相当に大きく回転させる必要がある。用途に応じて、アクチュエータの出力を、2回転またはそれ以上の範囲に亘って回転させる必要がある場合もある。
【0031】
アクチュエータは、例えば、航空機の一部をなすものである。この場合、アクチュエータのハウジングは、航空機の隣接する構造物に対して、回転しないように固定される。
【0032】
本発明は、更に、航空機の少なくとも1つの車輪を支持するための脚部(例えば、前脚)と、該脚部を(例えば、脚部をその軸回りに回転することにより)操向するように構成されたアクチュエータとを含み、該アクチュエータは、本発明の任意の態様に従うアクチュエータであることを特徴とする着陸装置組立体を提供するものである。本発明は、更に、このような着陸装置組立体を含む航空機を提供するものである。本発明は、更に、航空機の構成要素と、該航空機の構成要素を駆動するように構成されたアクチュエータとを含み、該アクチュエータは、本発明の任意の態様に従うアクチュエータであることを特徴とする航空機を提供するものである。航空機は、50トンよりも重い乾燥重量、より好ましくは、200トンよりも重い乾燥重量を有するものであってもよい。航空機は、乗客数75人以上として設計された航空機、より好ましくは、乗客数200人以上として設計された航空機と同等なサイズを有するものであってもよい。本発明に係るアクチュエータに関連する本発明の様々な態様の特徴は、本発明に係る着陸装置組立体及び航空機に組み込むことができる。
【0033】
本発明に係るアクチュエータの構成部品は、1つまたは複数の国で別々に製造され、異なる国で組立てられるものであってもよい。このため、本発明の範囲には、本発明の任意の態様に従うアクチュエータであって、1つまたは複数の原動機を備えていないアクチュエータも含まれるものである。このような原動機は、アクチュエータの製造後にアクチュエータに取り付けることができる。例えば、アクチュエータは、その使用のためにアクチュエータを取り付ける時点で、その場で完全に組立てることが必要なものであってもよい。したがって、本発明は、本発明の任意の態様に従うアクチュエータを製造するための部品キットも提供するものである。部品キットは、少なくとも、ハウジング、第1ギアボックス、第2ギアボックス、及び制動部を含んでいるものであってもよい。部品キットは、1つまたは複数の原動機を含むものであってもよい。本発明に係るアクチュエータに関連する本発明の様々な態様の特徴は、部品キットに関連する本発明のこの態様に組み込むことができる。
【0034】
本発明、更に、構成要素を駆動するための方法であって、第1トルクを有する入力回転運動を第1ギアボックスに供給する段階と、前記第1ギアボックス全体の回転運動を阻止するために、第2ギアボックスを介して対抗トルクを印加する段階と、前記第1ギアボックスが、前記第1トルクよりも大きな第2トルクを有する回転運動を出力し、構成要素を駆動する段階と、前記第1ギアボックスに固着障害が発生した後、前記第1ギアボックスの固着障害により前記構成要素の動きが阻害されることを防止するために、前記第2ギアボックスを介して印加される前記対抗トルクを解除し、前記第1ギアボックス全体が回転できるようにする段階と、を含む方法を提供するものである。
【0035】
対抗トルクは、制動部によって第2ギアボックスの入力に印加され、第2ギアボックスは、第2ギアボックスのギア比の結果として、より大きなトルクを有する対抗トルクを出力するものであってもよい。
【0036】
第1ギアボックスの固着障害が、部分的な固着である場合もある。この場合、本発明に係る方法は、(必要に応じて)第1ギアボックスを実効的に完全に固着させる段階を含むものであってもよい。これによって、例えば、第1ギアボックスの出力運動は、第1ギアボックスの入力運動と一致し、また、入力運動は出力運動と一致する。第1ギアボックスのギア比は、実効的に1:1のギア比に変換される。これは、固着障害が発生したときに、第1ギアボックスの入力と出力を結合する手段(例えば、ブレーキまたはクラッチ、またはその同等物)によって達成される。
【0037】
本発明に係る方法は、第1ギアボックスに固着障害が発生した後に実行され、第1ギアボックスまたは第2ギアボックス以外の手段によって構成要素を駆動する段階を含むものであってもよい。構成要素の運動により、第2ギアボックスの運動が生じるものであってもよい。構成要素の運動は、好ましくは減衰するものであってもよい。
【0038】
本発明に係る方法は、第1ギアボックスに固着障害が発生した後に実行され、第2ギアボックスに入力回転運動を与えることによって構成要素を駆動する段階を含むものであってもよい。
【0039】
本発明に係る方法は、第1ギアボックスに固着障害が発生した後、本発明に係る方法を実施するために使用される任意の他の部品の不可逆的な破壊または変更を要することなく、構成要素を駆動可能なように実施されるものであってもよい。
【0040】
本発明に係る方法は、第1ギアボックスの固着障害を監視し、第1ギアボックスの固着障害を検出して、その検出に基づいて、第2ギアボックス介して印加される対抗トルクを解除する段階を含むものであってもよい。
【0041】
本発明の様々な態様の特徴は、本発明の他の態様に組み込むことができる。例えば、アクチュエータに関連する本発明の態様は、構成要素を駆動する方法に関連する本発明の態様に組み込むことができる、また、構成要素を駆動する方法に関連する本発明の態様を、アクチュエータに関連する本発明の態様に組み込むこともできる。したがって、例えば、この方法は、本発明の任意の態様に従うアクチュエータの使用することが含まれる段階を含むものであってもよい。本発明に係るアクチュエータは、本発明の任意の態様に従う方法を実施することに適合する特徴を有するものであってもよい。本発明に係る方法は、航空機の一部をなす構成要素に対して実施することができる。本発明に係る方法は、例えば、航空機に対して実施することができる。
【0042】
本発明の様々な実施形態は、例示のみを目的として、以下の添付図面を参照して説明される。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】図1は、本発明の第1実施形態におけるアクチュエータを示す断面図である。
【図2】図2は、本発明の様々な実施形態におけるアクチュエータを、健全性監視システムとともに模式的に示すブロック図である。
【図3】図3は、本発明の第2実施形態におけるアクチュエータを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
図1は、本発明の第1実施形態を示す図であり、この実施形態は、大型商用航空機の前脚操向用アクチュエータとして使用するための、再構成可能な耐固着障害性の電気機械式ロータリアクチュエータ2である。アクチュエータ2は、隣接する構造物(図示省略)に固定される外部ハウジング4を含む。アクチュエータは、2つの異なる動作モードを有している。第1動作モードは、主要かつ通常の動作モードである。第2動作モードは、補助的な、バックアップの、または(例えば、自由回転のような)緊急時用の動作モードである。
【0045】
アクチュエータ2は、ハウジング内にモータシャフト8を備えた回転型電動モータ6を含み、電動モータは、モータシャフト8によって第1ギアボックス10と連結される。この電動モータは、双方向に回転可能なブラシレスDCモータであり、必要に応じて耐故障性の巻線構成を備え、約27Nmの最大トルクを発生可能である。第1ギアボックス10は、電動モータ6の低トルクかつ高速の回転運動を、主出力シャフト12から出力される高トルクかつ低速の回転運動に変換する。第1ギアボックスは、約500:1のギア比及び約75%の効率を有しており、その結果、逆向きに動作させることはできない。出力シャフト12で発生可能な最大出力トルクは、約10,000Nmである。この出力シャフトは、別のギア装置を介して航空機の前脚に連結されており(別のギア装置は約4:1のギア比を有しており、したがって全体のギア比は2000:1となる)、このアクチュエータによって、一定の角度範囲(−95°から+95°まで)に亘って前脚を操向することができる。アクチュエータの出力シャフトは、前脚から切り離されている時に自由に回転でき、これによって、逆回転を要することなく、複数回の回転を実施することができる。
【0046】
第1ギアボックス10のケーシング14は、アクチュエータ2のハウジング4に対して回転可能なように取り付けられている。但し、第1ギアボックスのケーシング14は、第1動作モードの間には回転できない。これは、ケーシング14を、第2ギアボックス16を介して補助シャフト18に連結することによって達成される。第2ギアボックス16は、第1動作モードの間に、制動部20によって制動される。第2ギアボックス16の出力は、第1ギアボックス10のケーシング14に効率的に結合されている。第2ギアボックス16は、約50:1の低いギア比を有しており、逆向きに動作可能である。そして、第2ギアボックスは、その入力(すなわち、補助シャフト18)における低トルクかつ高速の運動を、その出力(すなわち、第1ギアボックス10のケーシング14)における高トルクかつ低速の運動に変換する。これによって、第1ギアボックス10のケーシング14の回転を阻止するための高トルクの制動力を、低いトルクを印加する比較的軽量の制動部20によって、第2ギアボックス16に印加することができる。第1ギアボックス10によって発生する10,000Nmのトルクに対抗するために、制動部20は、(静的条件では、ギアボックスの効率が因子として含まれないため)約200Nm以上の保持力を供給するだけでよい。制動部20は、電気駆動式の制動装置であり、電力の供給により動作し、その動作は電力の遮断により停止する。制動部20には、受動型の電磁式減衰機構であるダンパー21も関連付けられている。このダンパー21は、第1動作モードの間は機能しない。
【0047】
アクチュエータ2には、図2に模式的に示す制御部26が関連付けられており、この制御部は、健全性監視システムを含んでいる。制御部26は、回転数カウンター(図示省略)で、出力シャフト12の回転速度を示す信号12aを受信する。制御部26は、アクチュエータ2の電動モータ6及び制動部20の動作を制御するための制御信号26a、26bを出力する。
【0048】
第1動作モード(または、通常動作モード)の間、第1ギアボックス10のギア列は、(第2ギアボックス16の出力でもある)ケーシング14とは独立に回転する。電動モータ6は、制御部26(の信号26a)によって、第1ギアボックス10を駆動するように制御される。第1ギアボックス10のケーシング14の、ハウジング4に対する回転は、制御部26からの指令(信号26b)に基づいて動作する制御部によって、実質的に阻止される。これによって、電動モータ6の高速かつ低トルクの回転は、主出力シャフト12における低速かつ高トルクの回転に変換される。
【0049】
アクチュエータの(出力シャフト12における)出力回転速度は、制御ユニット26によって測定され(信号12aの受信)、予想される出力回転速度と比較しつつ連続的に監視される。第1ギアボックス10に固着障害(ジャミング)が発生すると、制御部26で受信される信号は、出力シャフト12の予想される出力回転速度(すなわち、アクチュエータ2の制御部26から送信された制御信号26a、26bに基づいて予想される出力回転速度)よりも低い回転速度を示す信号となる。出力シャフトの予想される出力回転速度よりも低い回転速度を示す信号を受信すると、制御部26は、第1ギアボックス10に固着障害が発生したものと想定し、制御信号26bを変更して、これによって動作モードが切り替わる(図2にブロック28で示す)。第1実施形態では、動作モードの切り替えは、信号26bの送信を停止し、これによって制動部20が解除されることによって生じる。これによって、ケーシング14が、アクチュエータ2のハウジング4に対して回転できるようになる。ケーシングは、第2ギアボックス16の出力に相互に依存しつつ、その出力と同じ速度で回転する。また、制御信号26aも停止され、電動モータ6への電力の供給が遮断される。
【0050】
このように、アクチュエータの動作は、固着障害の発生時に、(i)電動モータ6及び第1ギアボックス10からなる主手段(図2にブロック32で示す)が出力シャフト12を駆動する第1動作モードから、(ii)第1ギアボックスのケーシング14に関連付けられた補助手段(図2にブロック30で示す)のケーシングに対する動作を、(制動部20を解除することによって)変化させて、出力シャフト12を回転させる第2動作モードに切り替わる。上述したように、第2ギアボックス及び電動モータは、ともに逆向きに動作可能である。したがって、たとい第1ギアボックス10に固着障害が発生し、かつ第1ギアボックスが出力シャフト12に連結されていたとしても、出力シャフト12は、アクチュエータ2のハウジング4に対して回転することができ、これによって出力シャフト12の自由運動が可能となる。この出力シャフト12の自由運動は、制御部がアクチュエータの固着障害を検出した後直ちに制動部20を解除することによって、容易に達成される。
【0051】
出力シャフト12の運動は、制動部20に関連付けられた受動型の電磁式減衰装置21によって減衰する。出力シャフトの運動を減衰できることは、アクチュエータが第2動作モード(バックアップまたは緊急動作モード)で動作する場合、重要である。運動が減衰されないと、航空機の前脚が震える(その結果、前脚に異常振動が発生する)可能性があるからである。アクチュエータが第2動作モードで動作している間、前脚は「自由回転」状態にあると考えられる。この状態における航空機の操向は、主脚の車輪を差動的に制動することによって実施することができる。
【0052】
第1ギアボックスに固着障害が発生した場合、制御部26は、自動的に、アクチュエータに対して第2動作モードを選択させるものである。固着障害が修復可能なものである場合、制御部26を使用して、アクチュエータの動作モードを第1動作モードに戻すこともできる。
【0053】
本発明の第1実施形態は、耐固着障害性アクチュエータを備えた軽量の解決手段であり、このアクチュエータは、第1ギアボックスに固着障害が発生した場合、前脚の自由回転を可能にするものである。用途によっては、主動作モード及びバックアップ動作モードの両方において駆動力を供給可能なアクチュエータを備えることが望ましい場合もある。このような二重の冗長性を有するアクチュエータは、図3に示す本発明の第2実施形態によって提供される。
【0054】
図3に示す再構成可能な耐固着障害性の電気機械式ロータリアクチュエータ2は、2つの電動モータ6、22を含む。これらの電動モータは、アクチュエータの出力シャフト12で出力される回転運動を発生するための駆動力を、それぞれ独立に供給することができる。第2実施形態におけるアクチュエータの構成要素のうち、第1実施形態におけるアクチュエータの対応する構成要素と同一のものには、同一の参照符号が付されている。第2実施形態におけるアクチュエータの、第1実施形態におけるアクチュエータに対する主要な相違点を、以下に説明する。
【0055】
図3に示すアクチュエータ2は、第1実施形態と同様に、第1ギアボックス10に関連付けられた第1電動モータ6を含んでいる。さらに、このアクチュエータは、第1電動モータ6と第1ギアボックスのケーシング14とを結合及び分離するために、クラッチ24を備えている。第1動作モードの間、クラッチ24は開放されており、第1電動モータ6の出力と第1ギアボックス10のケーシング14は分離されている。また、ケーシング14は、第2ギアボックス16を介してケーシング14に作用する制動部20により、アクチュエータのハウジング4に対して略静止状態に保持されている。本実施形態における制動部20は、追加的な減衰手段を有していない(必要な場合には、第2電動モータ22によって能動的に減衰させることができる)。
【0056】
図3に示すアクチュエータ2は、第2ギアボックス16に関連付けられた第2電動モータ22を含む。本実施形態では、第2ギアボックスは、(第1ギアボックスのギア比と同等の)高いギア比を有しており、逆向きの動作はできない。第2動作モードの間、クラッチ24が適用され、第1電動モータ6の出力と第1ギアボックスのケーシング14とが結合される。これによって、第1ギアボックスの入力8と出力12とが直接結合して相互依存するようになり、第1ギアボックス10は完全に固着されているように動作する。また、制動部20は解除されて、ケーシング14がアクチュエータのハウジング4に対して回転可能となる。第2電動モータ22は、補助シャフト18を駆動し、補助シャフトは、低トルクかつ高速の回転運動を第2ギアボックス16の入力に与え、高トルクかつ低速の回転運動が第1ギアボックス10のケーシングに出力される。クラッチ24が適用されて第1ギアボックスが実効的に完全に固着される結果、出力シャフト12はケーシング14とともに回転する。第2電動モータにより第2ギアボックスを介して駆動されるときの出力シャフトの回転運動のトルクは、第1電動モータにより第1ギアボックスを介して駆動されるときの出力シャフトの回転運動のトルクと同一の(または近似する)ものである。このように、本実施形態におけるアクチュエータは、動作モードが第1動作モードであるか、または第2動作モードであるかに関わらず、出力シャフトに駆動力を供給する。第2動作モードは、バックアップ動作モードであるものの、代替動作モードまたは緊急動作モードとみなすことができ、第1動作モードよりもその動作性能が劣るものではない。これは、一方の第1電動モータ及び第1ギアボックスと、他方の第2電動モータ及び第2ギアボックスとが、同等の機能、品質、構造を有しているためである。ただし、市販のギアボックスには様々なタイプのものがあるため、2つのギアボックスに異なるタイプのものを使用して、両方のギアボックスに同一又は同等の機能を持たせつつ、共通の故障の発生を回避するものであってもよい。
【0057】
第1ギアボックス10を実効的に完全に固着させることができるように、クラッチ24を備えることは、第1ギアボックスに部分的な固着障害が発生した場合に特に有用である。クラッチ24によって、出力シャフト12とケーシング14とを相互依存させることができる。部分的な固着障害の発生時に出力シャフト12とケーシング14との間の自由な相対運動が可能である場合には、第1ギアボックス内のギアが動き続け、出力シャフト12の回転よりも高速で第1電動モータ6を逆向きに駆動する結果、パワーの損失及びパワーが流れる方向の転換が発生する。したがって、部分的な固着障害の発生時に、アクチュエータの第2動作モードにおけるパワー出力及び効率性が著しく低下するおそれがある。また、ギアボックスの障害によって固着が断続的に発生し、アクチュエータの出力運動にがたつきが生じる場合にも、第1ギアボックスを完全に固着して第2動作モードに切り替えることができることが好ましい。このクラッチは、このような固着機構を形成するものである。
【0058】
第1実施形態と同様に、第2実施形態におけるアクチュエータ2は、その使用時に、制御部に関連付けられており、制御部は、固着障害の発生を検出し、それに基づいてバックアップ動作モードを実行させることが可能なものである。図2の模式的なブロック図は、第2実施形態にも同様に適用できる。すなわち、第1動作モードの間、制御部26は、アクチュエータ2の第1電動モータ6を駆動させるための制御信号26aを出力する。また、制御ユニット26は制御信号26bを出力し、これによって(図2にブロック28で示す)、制動部20が適用され、クラッチ24が開放される。そして、図2に第1ギアボックス10に作用するブロック32として示す第1動作モードが出力12を発生し、一方、第2動作モード(図2に第1ギアボックス10のケーシング14に作用可能なブロック30として示す)は、制御部からの指令に基づいて止められる(図2にブロック28として示す)。第1ギアボックス10に固着障害が発生した場合、制御部26は、出力シャフト12の予想される速度よりも低い速度を示す信号を受信する(矢印12a)。この信号の受信の応答として、制御部26は制御信号26aを送信し、これによって、第1電動モータの動作は停止し、第2電動モータの動作が開始する。また、制御部26は、制御信号26bも送信し、これによって(図2にブロック28で示す)、制動部20は解除され、クラッチ24は適用される。アクチュエータは、図2に第1ギアボックス10のケーシング14に作用するブロック30として示す第2動作モードを使用し、一方、第1動作モードは止められる。
【0059】
上述した本発明の第1、第2実施形態は、次の点で共通するものである。すなわち、各実施形態は、(a)ハウジングと、(b)回転運動を発生するための第1原動機と、(c)ハウジングに対して回転するように取り付けられたケーシングを有して、使用時に、第1原動機の回転運動を、該回転運動よりも高トルクかつ低速の回転運動に変換するように構成された第1ギアボックスと、(d)第1ギアボックスのケーシングの回転運動を、該回転運動よりも低トルクかつ高速の回転運動に変換するように構成された第2ギアボックスと、(e)第2ギアボックスの低トルクかつ高速の回転運動に対して作用するように構成された制動部と、を含むアクチュエータを提供するものである。そして、各実施形態において、アクチュエータは、少なくとも2つの動作モードを有している。第1ギアボックスに固着障害が発生していない第1モードの間、第1ギアボックスのケーシングとアクチュエータのハウジングとの間の相対回転は実質的に阻止される。出力回転運動は、第1原動機が第1ギアボックスを駆動することによって発生する。第2ギアボックスを備えることによって、第1ギアボックスのケーシングの回転を阻止することができる。第1ギアボックスに固着障害発生したときの第2動作モードの間、第1ギアボックスのケーシングは、アクチュエータのハウジングに対して回転する。第1ギアボックスのケーシングが回転可能であるため、第1ギアボックスに固着障害が発生していても、アクチュエータの同じ出力における回転運動が可能となる。特定の実施形態では、第2動作モードにおいて第2ギアボックスは駆動され、駆動運動を出力に発生させる。一方、他の実施形態では、アクチュエータは、第2動作モードにおいて、単に出力の回転運動を能動的に阻止しないように機能するのみである。
【0060】
以上、本発明を特定の実施形態に関連させて説明及び図示したが、本発明が、本明細書に記載されていない多様な変形に適することは、当業者には明らかである。
【0061】
上述した第2実施形態の変形例として、第1ギアボックスのギア比と第2ギアボックスのギア比を異なるものとし、第2ギアボックスの逆向きの動作ができるようにしてもよい。この場合、第2動作モードの間の出力トルクが低減する。これによって、電力が完全に遮断される障害が発生した場合には、制動部は第1ギアボックスのハウジングを開放し、クラッチは、出力シャフトと第1ギアボックスのハウジングとを結合する(この場合、クラッチは、電力の遮断が発生すると適用されるように構成される)。そして、出力シャフトは回転可能となり、第2ギアボックス及び第2電動モータは逆向きに駆動される。アクチュエータが航空機の前脚の操向システムを駆動するために使用されている場合、これによって、前脚の自由回転が可能となる。回転運動の減衰は、電気機械式の減衰機構を追加することによって実施することができる。
【0062】
アクチュエータは、航空機の、前脚とは異なる構成要素を駆動するものであってもよい。
【0063】
制御部は、専用の健全性監視システムを含み、それによって、固着障害の発生につながる動作の劣化を検出及び防止するものであってもよい。アクチュエータの健全性を監視し、小さな欠陥を、固着障害の大きな危険性が存在する状態にまで悪化する以前に修復することによって、第2(バックアップ)動作モードの使用を、アクチュエータの使用寿命中の比較的少数のサイクルに亘る信頼性が要求される緊急時の使用のみに限定することができる。このような健全性監視システムは、アクチュエータによって発生する力を監視して、損耗及び劣化を検知するために、位置センサ、力センナ、及び電流センサを含むものであってもよい。
【0064】
固着障害の発生を検出するために速度を検知する代わりに、あるいはそれに追加して、トルクまたは電流、もしくは位置を検知するものであってもよい。
【0065】
個別に図示されていない本発明の別の実施形態に従って、第1ギアボックスを介して出力に結合された第1原動機を含む第1駆動システムと、第2ギアボックスを介して同一の出力に結合された第2原動機を含む第2駆動システムとを有するアクチュエータが提供される。全ての構成要素が正常に機能しているときには、複数の原動機からの運動が出力に結合され、それによって、速度加算機能が提供される。第1駆動システムまたは第2駆動システムのいずれか一方に障害(例えば、ギアボックスの固着障害)が発生したときには、他方の駆動システムが影響を受けることなく動作を続けることによって、低減されたレベルでの出力の運動が維持される。本実施形態は、第2ギアボックスを保持する制動部を要しない。但し、他の目的のために他の制動部を備えるものであってもよい。したがって、この態様に従って、本発明は、ハウジングと、回転運動を発生するための第1原動機と、ハウジングに対して回転するように取り付けられたケーシングを有して、使用時に、第1原動機の回転運動を、該回転運動よりも高トルクかつ低速の回転運動に変換するように構成された第1ギアボックスと、回転運動を発生するための第2原動機と、使用時に、第2原動機の回転運動を、該回転運動よりも高トルクかつ低速の回転運動に変換するように構成された第2ギアボックスとを含み、使用時に、(i)第1ギアボックス及び第2ギアボックスに固着障害が発生していないとき、第1原動機及び第2原動機の両方が、それぞれ第1ギアボックス及び第2ギアボックスを介して同時に第1原動機の出力に回転運動を供給可能であり、(ii)第1ギアボックス及び第2ギアボックスのうちのいずれか一方に固着障害が発生しているとき、第1原動機の出力の回転は、第1原動機または第2原動機のうちのいずれか一方によって維持可能である、アクチュエータも提供するものである。
【0066】
上述した説明には、既知の、明白な、または予測可能な均等物を有する要素が記載されており、このような均等物は、それらが個別に記載されたものとして本明細書に含まれる。本発明の真の範囲は、任意の均等物を包含するものとして解釈するべきであり、本発明の真の範囲を判別するためには、請求項を参照しなければならない。また、好適な、有利な、または便利な、等々として記載された本発明の要素または特徴は、任意に選択可能なものであり、独立請求項の範囲を限定するものではないことも明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
回転運動を発生するための第1原動機と、
前記ハウジングに対して回転するように取り付けられたケーシングを有して、使用時に、前記第1原動機の回転運動を、該回転運動よりも高トルクかつ低速の回転運動に変換するように構成された第1ギアボックスと、
前記第1ギアボックスの前記ケーシングの回転運動を、該回転運動よりも低トルクかつ高速の回転運動に変換するように構成された第2ギアボックスと、
前記第2ギアボックスの低トルクかつ高速の回転運動に対して作用するように構成された制動部とを含み、該制動部は、使用時に、
(i)前記第1ギアボックスに固着障害が発生していないとき、前記第1ギアボックスの前記ケーシングと前記ハウジングとの間の相対回転に対して抵抗するように作動可能であり、
(ii)前記第1ギアボックスに固着障害が発生したとき、前記第1ギアボックスの前記ケーシングが前記ハウジングに対して回転できるように解除可能である、アクチュエータ。
【請求項2】
前記第1原動機は、前記ハウジングに対して固定されていることを特徴とする請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項3】
前記第1ギアボックスは、30:1よりも高いギア比を有することを特徴とする請求項1または2に記載のアクチュエータ。
【請求項4】
前記第2ギアボックスは、前記第1ギアボックスのギア比よりも低いギア比を有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のアクチュエータ。
【請求項5】
使用時に、前記第1ギアボックスの出力が、少なくとも±180°の範囲に亘る出力回転を発生可能であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のアクチュエータ。
【請求項6】
前記第1ギアボックスの固着障害が発生したときに、逆向きに動作可能であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のアクチュエータ。
【請求項7】
少なくとも前記第1ギアボックスに固着障害が発生したときに、前記アクチュエータの運動が減衰するように構成された減衰機構を含むことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のアクチュエータ。
【請求項8】
回転運動を発生するための第2原動機を含み、該第2原動機は、前記第2ギアボックスに関連付けられていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のアクチュエータ。
【請求項9】
使用時に、前記第1ギアボックスを固着することが可能な固着機構を含むことを特徴とする請求項8に記載のアクチュエータ。
【請求項10】
前記第1ギアボックスの固着障害を検出するように構成された制御部を含むことを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載のアクチュエータ。
【請求項11】
航空機の少なくとも1つの車輪を支持するための脚部と、該脚部を操向するように構成されたアクチュエータとを含み、該アクチュエータは、請求項1から10のいずれか1項に記載のアクチュエータであることを特徴とする着陸装置組立体。
【請求項12】
航空機の構成要素と、該航空機の構成要素を駆動するように構成されたアクチュエータとを含み、該アクチュエータは、請求項1から10のいずれか1項に記載のアクチュエータであることを特徴とする航空機。
【請求項13】
少なくとも前記ハウジング、前記第1ギアボックス、前記第2ギアボックス、及び前記制動部を含んでいる請求項1から10のいずれか1項に記載のアクチュエータを製造するための部品キット。
【請求項14】
構成要素を駆動するための方法であって、
第1トルクを有する入力回転運動を第1ギアボックスに供給する段階と、
前記第1ギアボックス全体の回転運動を阻止するために、第2ギアボックスを介して対抗トルクを印加する段階と、
前記第1ギアボックスが、前記第1トルクよりも大きな第2トルクを有する回転運動を出力し、構成要素を駆動する段階と、
前記第1ギアボックスに固着障害が発生した後、前記第1ギアボックスの固着障害により前記構成要素の動きが阻害されることを防止するために、前記第2ギアボックスを介して印加される前記対抗トルクを解除し、前記第1ギアボックス全体が回転できるようにする段階と、を含むことを特徴とする方法。
【請求項15】
前記対抗トルクは、制動部によって前記第2ギアボックスの入力に印加され、前記第2ギアボックスは、該第2ギアボックスのギア比の結果として、より大きなトルクを有する対抗トルクを出力することを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記第1ギアボックスに固着障害が発生した後に実行され、前記第1ギアボックスまたは前記第2ギアボックス以外の手段によって前記構成要素を駆動する段階を含むことを特徴とする請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
前記第1ギアボックスの固着障害を監視し、前記第1ギアボックスの固着障害を検出し、該検出に基づいて、前記第2ギアボックス介して印加される前記対抗トルクを解除する段階を含むことを特徴とする請求項14から16のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−501398(P2010−501398A)
【公表日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−525112(P2009−525112)
【出願日】平成19年8月17日(2007.8.17)
【国際出願番号】PCT/GB2007/050495
【国際公開番号】WO2008/023198
【国際公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ハーモニックドライブ
【出願人】(302053010)エアバス・ユ―ケ―・リミテッド (54)
【Fターム(参考)】