説明

耐塩水性磁石合金粉、及びそれを用いて得られるボンド磁石用樹脂組成物、ボンド磁石又は圧密磁石

【課題】塩水に触れる環境下でも錆が発生しない耐塩水性磁石合金粉、及びそれを用いて得られるボンド磁石用樹脂組成物、ボンド磁石又は圧密磁石の提供。
【解決手段】希土類元素を含む鉄系磁石合金粉からなる磁石粉末(A)が、少なくともアルミニウム、亜鉛、マンガン、銅又はカルシウムから選ばれた1種以上の金属の酸化物、複合酸化物、リン酸塩又はリン酸水素化合物とリン酸が添加された有機溶媒中で、平均粒径8μm以下に粉砕されることで、磁石合金粉の表面上に、鉄と希土類元素の金属リン酸塩(b−1)、及びアルミニウム、亜鉛、マンガン、銅又はカルシウムから選ばれた1種以上の金属リン酸塩(b−2)からなる複合金属リン酸塩被膜(B)が均一に形成されており、かつ、金属リン酸塩(b−2)の金属成分が、複合金属リン酸塩被膜(B)の金属成分に対して50重量%以上であることを特徴とする耐塩水性磁石合金粉などによって提供。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐塩水性磁石合金粉、及びそれを用いて得られるボンド磁石用樹脂組成物、ボンド磁石又は圧密磁石に関し、さらに詳しくは、塩水に触れる環境下でも錆が発生しない耐塩水性磁石合金粉、及びそれを用いて得られるボンド磁石用樹脂組成物、ボンド磁石又は圧密磁石に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、フェライト磁石、アルニコ磁石、希土類磁石などが、一般家電製品、通信・音響機器、医療機器、一般産業機器をはじめとする種々の製品にモーターやセンサーなどとして組込まれ、使用されている。これら磁石は、主に焼結法で製造されるが、脆く、薄肉化しにくいため複雑形状への成形は困難であり、また焼結時に15〜20%も収縮するため寸法精度を高められず、研磨等の後加工が必要で、用途面で大きな制約を受けている。
【0003】
これに対し、ボンド磁石(樹脂結合型磁石)は、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂などの熱可塑性樹脂、あるいは、エポキシ樹脂、ビス・マレイミドトリアジン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂などの熱硬化性樹脂をバインダーとし、これに磁石合金粉を充填して容易に製造できるため、新しい用途開拓が繰り広げられている。
【0004】
希土類元素を含む鉄系の磁石合金粉を、樹脂バインダーと混練してボンド磁石を製造する場合、磁石合金粉を数μm程度に粉砕する必要がある。粉砕は不活性ガスまたは有機溶媒中で行うが、粉砕後の磁石合金粉は極めて活性であり、大気に触れると急激に酸化が進み磁気特性を劣化させるので、微粉砕後に、僅かな酸素を不活性雰囲気に導入して徐酸化する方法が採られている。
【0005】
こうしたボンド磁石の中でも、特に、希土類元素を含む鉄系磁石合金粉を用いたボンド磁石は、塩水中で錆が発生しやすいため、例えば、成形体表面に熱硬化性樹脂等のコーティング膜を形成することで発錆を抑制したり、また、特開2000−208321号公報に開示されているように、成形体表面にリン酸塩含有塗料による被覆処理を施すことで発錆を抑制している。しかし、上記方法で作製された磁石合金粉でも塩水中のような腐食性の厳しい環境下では、錆の抑制に対して十分に満足できるものではなかった。
【0006】
従来、磁石合金粉を被膜処理する場合、粉砕溶媒中にリン酸を添加し、希土類や鉄のリン酸塩を合金粉表面に生成させる方法が検討されている。しかし、この方法で作製した磁石合金粉は、高温高湿度の環境下では磁気特性の低下が非常に少ないものの、これを用いて作製したボンド磁石を塩水中に24時間浸漬すると、赤錆の発生を多少は低減できるが完全になくすことはできなかった。
【0007】
近年、家電機器用モーター、自動車用センサーやモーターにおいて、海外で部品を組み立てるため船などによる輸送が必要となり、その使用環境、輸送環境がさらに厳しくなり、また機器を小型化するため、上記課題とともに磁気特性にも優れたものが要求されている。
【0008】
前記のような希土類元素を含む鉄系磁石合金粉から得られるボンド磁石の磁気特性は、これら用途に使用するには不十分であり、希土類元素を含む鉄系磁石合金粉の耐塩水性を早期に改善し、ボンド磁石の磁気特性を向上させることが強く望まれていた。
【0009】
また、ボンド磁石よりもエネルギー積を高めるためには、磁石体の見かけ密度を、その磁石合金粉の真密度に近づけることが必要である。先に述べた焼結法がその解決方法として一般的な製造方法となるが、その他にも熱間圧縮成形法で圧密化する方法もある。たとえば、液体急冷法で製造されたネオジム−鉄−ほう素系磁石合金粉をホットプレスすることによって、最大エネルギー積が112kJ/m程度の等方性圧密磁石が製造されている。
【0010】
また、サマリウム−鉄−窒素系磁石合金粉では、およそ600℃以上に加熱するとサマリウム−鉄−窒素系化合物が分解するため、「粉体および粉末冶金」47号(2000)第801頁に示された等方性熱間圧縮成形法(HIP)、特開平6−077027号公報に開示された衝撃圧縮法、特開2000−294415号公報に開示された通電粉末圧延法が検討されている。
【0011】
これらの圧密磁石においても、磁気特性に優れた磁石は得られるものの、その使用環境、輸送環境などの過酷化は、ボンド磁石の場合と同様であり、耐塩水性を改善する必要があった。また、従来の磁石合金粉を用いて圧密磁石を製造する場合には、サマリウム−鉄−窒素系化合物の分解、脱窒素あるいは磁石合金粉粒子同士の金属結合による粒子間磁気的相互作用が強まるためか、圧密磁石の保磁力が低く実用材としてはまだ不十分である。
【特許文献1】特開2000−208321号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平6−077027号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2000−294415号公報(特許請求の範囲)
【非特許文献1】「粉体および粉末冶金」47号(2000)第801頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、前述した従来技術の問題点に鑑み、塩水に触れる環境下で錆が発生しない耐塩水性磁石合金粉、及びそれを用いて得られるボンド磁石用樹脂組成物、ボンド磁石又は圧密磁石を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、希土類元素を含む鉄系の磁石合金粉に、鉄と希土類元素の金属リン酸塩、及びアルミニウム、亜鉛、マンガン、銅又はカルシウムから選ばれた1種以上の金属リン酸塩の2種類が複合化した金属リン酸塩被膜を形成すると、該被膜が塩水を遮断し、磁石合金粉の発錆を抑制する耐塩水性に優れた磁石合金粉が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、本発明の第1の発明によれば、希土類元素を含む鉄系磁石合金粉からなる磁石粉末(A)が、少なくともアルミニウム、亜鉛、マンガン、銅又はカルシウムから選ばれた1種以上の金属の酸化物、複合酸化物、リン酸塩又はリン酸水素化合物とリン酸が添加された有機溶媒中で、平均粒径8μm以下に粉砕されることで、磁石合金粉の表面上に、鉄と希土類元素の金属リン酸塩(b−1)、及びアルミニウム、亜鉛、マンガン、銅又はカルシウムから選ばれた1種以上の金属リン酸塩(b−2)からなる複合金属リン酸塩被膜(B)が均一に形成されており、かつ、金属リン酸塩(b−2)の金属成分が、複合金属リン酸塩被膜(B)の金属成分に対して50重量%以上であることを特徴とする耐塩水性磁石合金粉が提供される。
【0015】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、複合金属リン酸塩被膜(B)の厚さが、5〜100nmであることを特徴とする耐塩水性磁石合金粉が提供される。
【0016】
また、本発明の第の発明によれば、第の発明において、有機溶媒が、N,N−ジメチルホルムアミド、ホルムアミド、2−メトキシエタノール、エタノール、メタノール又はイソプロピルアルコールから選ばれた1種以上であることを特徴とする耐塩水性磁石合金粉が提供される。
【0017】
また、本発明の第の発明によれば、第の発明において、リン酸塩溶液を形成する金属成分は、希土類元素を含む鉄系磁石合金粉に対して、0.01〜1mol/kg(粉末重量当たり)の割合で添加されることを特徴とする耐塩水性磁石合金粉が提供される。
【0018】
さらに、本発明の第の発明によれば、第の発明において、リン酸は、希土類元素を含む鉄系磁石合金粉に対して、0.1〜2mol/kg(粉末重量当たり)の割合で添加されることを特徴とする耐熱性磁石合金粉が提供される。
【0019】
一方、本発明の第の発明によれば、第1〜のいずれかの耐塩水性磁石合金粉に、少なくとも熱可塑性樹脂を含有してなるボンド磁石用樹脂組成物が提供される。
【0020】
また、本発明の第の発明によれば、第の発明のボンド磁石用樹脂組成物を、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法又は射出プレス成形法から選ばれるいずれかの成形法により成形したボンド磁石が提供される。
【0021】
さらに、本発明の第の発明によれば、第1〜のいずれかの耐塩水性磁石合金粉を圧密化して、見かけ密度を真密度の85%以上にしたことを特徴とする圧密磁石が提供される。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明の磁石合金粉は、その表面を特定の金属リン酸塩が複合化した被膜によって均一に保護されているため、従来法により得られる磁石合金粉とは異なり、塩水に触れる環境下で錆が発生しない。この磁石合金粉を用いれば、耐塩水性ボンド磁石および圧密磁石の製造が可能となり、その工業的価値は極めて大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の耐塩水性磁石合金粉、及びそれを用いたボンド磁石用樹脂組成物、ボンド磁石又は圧密磁石について詳細に説明する。
【0024】
1.耐塩水性磁石合金粉
本発明の耐塩水性磁石合金粉は、希土類元素を含む鉄系磁石合金粉からなる磁石合金粉(A)の表面に、特定な金属リン酸塩が複合化した被膜(B)を形成してなる耐塩水性磁石合金粉である。
【0025】
A 磁石合金粉
磁石合金粉は、希土類元素を含む鉄系磁石合金の粉末であれば、特に制限されない。希土類−鉄系磁石合金粉としては、例えば、希土類−鉄−ほう素系、希土類−鉄−窒素系などの各種磁石合金粉を使用でき、中でも希土類−鉄−窒素系の磁石合金粉が好適である。希土類元素としては、Sm、Nd、Pr、Y、La、Ce、またはGd等が挙げられ、単独若しくは混合物として使用できる。これらの中では、特にSm又はNdを5〜40at.%、Feを50〜90at.%含有するものが好ましい。
【0026】
希土類−鉄系磁石合金粉には、フェライト、アルニコなど、ボンド磁石や圧密磁石の原料となる各種磁石合金粉を混合してもよく、異方性磁石合金粉だけでなく、等方性磁石合金粉も対象となるが、異方性磁場(HA)が、4.0MA/m以上の磁石合金粉が好ましい。
【0027】
また、ボンド磁石や圧密磁石の原料となるため、磁石合金粉の平均粒径は、8μm以下、特に5μm以下であることが望ましい。平均粒径が8μmを超えると、成形性が悪化するので好ましくない。
【0028】
B 複合金属リン酸塩被膜
本発明の磁石合金粉は、その表面が鉄と希土類元素の金属リン酸塩(b−1)、及びアルミニウム、亜鉛、マンガン、銅又はカルシウムのいずれか1種以上を含む金属のリン酸塩(b−2)が複合化した被膜で均一に被覆されている。ここで、均一に被覆されるとは、磁石合金粉表面の80%以上、好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上が複合金属リン酸塩被膜で覆われていることをいう。
【0029】
金属リン酸塩(b−1)は、リン酸サマリウム、リン酸鉄などで、これは磁石合金粉を構成する希土類や鉄にリン酸が反応して形成されたものである。一方、金属リン酸塩(b−2)は、例えば、リン酸アルミニウム、リン酸亜鉛、リン酸マンガン、リン酸銅、リン酸カルシウム又はこれらが2種以上複合した金属塩などである。これらアルミニウム、亜鉛、マンガン、銅およびカルシウム以外に、クロム、ニッケル、マグネシウムなどの金属リン酸塩が含まれていてもかまわない。
【0030】
金属リン酸塩(b−1)と、金属リン酸塩(b−2)とが複合化した金属リン酸塩は、樹脂バインダーとの結合力を高め、磁石合金粉の耐塩水性を高める成分である。但し、充分な耐塩水性を得るためには、金属リン酸塩(b−2)の金属成分、すなわちアルミニウム、亜鉛、マンガン、銅又はカルシウムから選択された1種以上が、複合金属リン酸塩被膜(B)の金属成分に対して、50重量%以上、好ましくは80重量%以上含まれた複合金属リン酸塩とする。
【0031】
複合金属リン酸塩被膜は、平均で5〜100nmの厚さが必要である。平均厚さが5nm未満であると十分な耐塩水性が得られず、一方、100nmを越えると磁気特性が低下し、またボンド磁石を作製する際には混練性や成形性が低下する。
【0032】
この磁石合金粉を樹脂バインダーと混合してボンド磁石を作製した場合、海水の塩分濃度付近である5%塩水中に24時間浸漬しても、ボンド磁石に赤錆は全く生じない。また磁石合金粉を圧密化した磁石についても、同様に高い耐塩水性を示す。
【0033】
2.耐塩水性磁石合金粉の製造方法
本発明の耐塩水性磁石合金粉を製造するには、希土類元素を含む鉄系磁石合金粉を、一段階で複合リン酸塩化するか、二段階で複合リン酸塩化するかで区別される二通りの方法がある。
【0034】
希土類元素を含む鉄系磁石合金粉を、一段階で複合リン酸塩化する方法とは、平均粒径20μmを超える希土類元素を含む鉄系磁石合金粉を、有機溶媒中で、平均粒径8μm以下に粉砕する際、少なくともアルミニウム、亜鉛、マンガン、銅又はカルシウムから選ばれた1種以上の金属の酸化物、複合酸化物、リン酸塩又はリン酸水素化合物と、リン酸を添加した後、該溶液を攪拌する方法である。
【0035】
先ず、平均粒径20μmを超える希土類元素を含む鉄系磁石合金の粉末に、有機溶媒を加え、磁石合金粉の粉砕前、あるいは粉砕中に、アルミニウム、亜鉛、マンガン、銅又はカルシウムから選ばれた1種以上の酸化物、リン酸塩又はリン酸水素化合物の1種以上からなる金属成分を添加する。該金属成分がリン酸塩又はリン酸水素化合物以外の場合、及びリン酸塩又はリン酸水素化合物が有機溶媒に溶解し難い場合には、リン酸を添加して、攪拌を続ける。攪拌は、通常1〜180分間続行する。
【0036】
金属成分は、アルミニウム、亜鉛、マンガン、銅又はカルシウムなどのイオンの供給源であり、有機溶媒に溶け金属イオンを生成する酸化物、複合酸化物、リン酸塩又はリン酸水素化合物などの金属化合物である。
【0037】
有機溶媒としては、特に制限はなく、2−メトキシエタノール、イソプロピルアルコール、エタノール、トルエン、メタノール、ヘキサン等のいずれか1種または2種以上の混合物を用いると良い。但し、メタノールは、リン酸と速やかに反応してエステル化し、良好な被覆が形成されるのを妨げる恐れがあるので取り扱いには注意を要する。
【0038】
前記の金属成分が容易に金属イオンを生成し、磁石合金粉の溶解を適度に調整するためには、N,N−ジメチルホルムアミド、ホルムアミド等の極性溶媒を混合することが望ましい。また、磁石合金粉の溶解を促進するために、有機溶媒に水や酸を混合しても良い。
【0039】
アルミニウム化合物としては、アルミニウムイオンの供給源となり、有機溶媒に溶ける化合物であれば、特に制限されず、例えば、酢酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、塩化アルミニウムアンモニウム、安息香酸アルミニウム、炭酸アルミニウム、エチルアセト酢酸アルミニウム、ぎ酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、硝酸アルミニウム、ナフテン酸アルミニウム、オレイン酸アルミニウム、しゅう酸アルミニウム、酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、リン酸水素アルミニウム、塩化カリウムアルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、硫化アルミニウム、フタロシアニンアルミニウム、又は酒石酸アルミニウムが例示される。特に好ましいのは、リン酸アルミニウム、あるいはリン酸水素アルミニウムである。
【0040】
亜鉛化合物としては、亜鉛イオンの供給源となり、有機溶媒に溶ける化合物であれば、特に制限されず、例えば、酢酸亜鉛、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、塩化亜鉛アンモニウム、安息香酸亜鉛、炭酸亜鉛、エチルアセト酢酸亜鉛、ぎ酸亜鉛、水酸化亜鉛、硝酸亜鉛、ナフテン酸亜鉛、オレイン酸亜鉛、しゅう酸亜鉛、酸化亜鉛、リン酸亜鉛、リン酸亜鉛四水和物、リン酸水素亜鉛、リン酸亜鉛カルシウム、塩化カリウム亜鉛、ステアリン酸亜鉛、硫化亜鉛、フタロシアニン亜鉛、又は酒石酸亜鉛が例示される。特に好ましいのは、酸化亜鉛、リン酸亜鉛四水和物、或いはリン酸水素亜鉛である。
【0041】
マンガン化合物としては、マンガンイオンの供給源となり、有機溶媒に溶ける化合物であれば、特に制限されず、例えば、酢酸マンガン、硫酸マンガン、塩化マンガン、塩化マンガンアンモニウム、安息香酸マンガン、炭酸マンガン、エチルアセト酢酸マンガン、ぎ酸マンガン、水酸化マンガン、硝酸マンガン、ナフテン酸マンガン、オレイン酸マンガン、しゅう酸マンガン、酸化マンガン、リン酸マンガン、リン酸水素マンガン、塩化カリウムマンガン、ステアリン酸マンガン、硫化マンガン、フタロシアニンマンガン、又は酒石酸マンガンが例示される。特に好ましいのは、酸化マンガン、或いはリン酸水素マンガンである。
【0042】
また、銅化合物としては、銅イオンの供給源となり、有機溶媒に溶ける化合物であれば、特に制限されず、例えば、酢酸銅、硫酸銅、塩化銅、塩化銅アンモニウム、安息香酸銅、炭酸銅、エチルアセト酢酸銅、ぎ酸銅、水酸化銅、硝酸銅、ナフテン酸銅、オレイン酸銅、しゅう酸銅、酸化銅、リン酸銅、リン酸水素銅、塩化カリウム銅、ステアリン酸銅、硫化銅、フタロシアニン銅、または酒石酸銅などが用いられる。特に好ましいのは、酸化銅(I)、或いはリン酸水素銅である。
【0043】
さらに、カルシウム化合物としては、カルシウムイオンの供給源となり、有機溶媒に溶ける化合物であれば、特に制限されず、例えば、酢酸カルシウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、塩化カルシウムアンモニウム、安息香酸カルシウム、炭酸カルシウム、エチルアセト酢酸カルシウム、ぎ酸カルシウム、水酸化カルシウム、硝酸カルシウム、ナフテン酸カルシウム、オレイン酸カルシウム、しゅう酸カルシウム、酸化カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、塩化カリウムカルシウム、ステアリン酸カルシウム、硫化カルシウム、フタロシアニンカルシウム、又は酒石酸カルシウムが例示される。特に好ましいのは、酸化カルシウム、或いはリン酸水素カルシウムである。
【0044】
金属成分であるアルミニウム、亜鉛、マンガン、銅又はカルシウムから選ばれた1種以上の金属の酸化物、複合酸化物、リン酸塩又はリン酸水素化合物は、粉砕する磁石合金粉の粒径、表面積等に合わせて最適量を添加するが、該磁石合金粉に対して、0.01〜1mol/kg(粉末重量当たり)とする。すなわち、0.01mol/kg未満であると磁石合金粉の表面が十分に被覆されないために耐塩水性が改善されず、1mol/kgを超えると磁化の低下が著しくなり、磁石としての性能が低下する。
【0045】
上記の金属化合物は、溶媒中でイオン化し、磁石合金粉の成分である希土類金属や鉄が溶媒へ溶け出すにともない、磁石合金粉の表面で反応して金属リン酸塩が複合した被膜を形成する。
【0046】
リン酸としては、金属化合物と反応して金属リン酸塩を生成するオルトリン酸をはじめ、亜リン酸、次亜リン酸、ピロリン酸、直鎖状のポリリン酸、環状のメタリン酸が使用できる。また、リン酸アンモニウム、リン酸アンモニウムマグネシウムなども使用できる。これら化合物は、単独でも複数種を組み合わせてもよく、通常、キレート剤、中和剤などと混合して処理剤とされる。
【0047】
これらのうち、オルトリン酸が好ましい性能を発揮するが、その理由は、これが上記の金属化合物と反応しやすく、希土類系金属を成分とする磁石合金粉の表面に保護膜を形成しやすいためと考えられる。
【0048】
リン酸は、磁石合金粉の粒径、表面積等に合わせて最適量を添加するが、通常は、粉砕する磁石合金粉に対して0.1〜2mol/kg(粉末重量当たり)であり、好ましくは0.15〜1.5mol/kg、さらに好ましくは0.2〜0.4mol/kgである。
【0049】
すなわち、0.1mol/kg未満であると、磁石合金粉の表面が十分に被覆されないために耐塩水性が改善されず、また大気中で乾燥させると酸化・発熱して磁気特性が極端に低下する。2mol/kgを超えると、磁石合金粉との反応が激しく起こって磁石合金粉が溶解する。
【0050】
リン酸の濃度は、特に制限されず、無水リン酸、50〜99%リン酸水溶液(例えば、85%リン酸水溶液、75%リン酸水溶液)などが用いられる。なお、有機溶剤も、特に制限はなく、通常はエタノールまたはイソプロピルアルコール等のアルコール類、ケトン類、低級炭化水素類、芳香族類、またはこれらの混合物が用いられる。但し、メタノールは、リン酸と速やかに反応してエステル化し、良好な被覆が形成されるのを妨げる恐れがあるので取り扱いには注意を要する。
【0051】
金属成分を添加する時期は、磁石粉末を粉砕する際で有れば、いつでも良く、粉砕前に溶媒に溶かしておき、粉砕途中に一度に添加する方法、粉砕中、徐々に添加する方法などが用いられる。
【0052】
これによって、粉砕中に溶けだした希土類元素、鉄など磁石を構成する元素がリン酸塩を形成し、これに添加した金属化合物も反応しあって、複合金属リン酸塩が磁石合金粉を被覆する。この反応が完結し、充分な膜厚の被膜を形成するには、金属化合物の種類などにもよるが、1〜180分間、好ましくは3〜150分、さらに好ましくは5〜60分の攪拌(粉砕)、保持時間が必要である。
【0053】
平均粒径20μmを超える鉄系磁石合金粗粉は、平均粒径8μm以下、好ましくは1〜5μmまで粉砕される。
【0054】
複合リン酸塩被膜を形成させる第二の方法は、先ず、リン酸を含む有機溶媒に磁石合金粉を配合して該合金粉を粉砕し、次に、このリン酸塩溶液に金属化合物を添加して攪拌する方法である。
【0055】
有機溶媒の種類、リン酸や金属成分の添加量などは、前記第一の方法と同じ条件が採用される。第二の方法であれば、耐塩水性に優れる金属リン酸塩(b−2)が、金属リン酸塩(b−1)よりも後に形成されるので、さらに良好な複合金属リン酸塩被膜が得られるので一層有利である。
【0056】
上記のうち、いずれかの湿式処理法で被覆処理された磁石合金粉は、その後に加熱し乾燥することで、表面の被膜が磁石合金粉に定着する。すなわち、処理溶液と磁石合金粉は、被膜形成後に、100〜500℃の真空オーブン中で1〜30時間乾燥させる。不活性ガス中または真空中で加熱処理を施すことが好ましい。100℃未満で加熱処理を施すと、磁石合金粉の乾燥が十分進まずに、安定な表面被膜の形成が阻害され、また、500℃を超える温度で加熱処理を施すと、磁石合金粉が熱的なダメージを受け、保磁力がかなり低くなるという問題がある。
【0057】
金属リン酸塩被膜を形成した耐塩水性磁石合金粉には、必要に応じて、さらにシラン系、アルミネート系、チタネート系など各種のカップリング剤やアビエチン酸系化合物などから選択された1種以上を用いて被覆してもよい。
【0058】
3.ボンド磁石用樹脂組成物及びボンド磁石
本発明のボンド磁石は、金属リン酸塩を被覆した耐塩水性磁石合金粉に、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を樹脂バインダーとして配合することで容易に製造できる。
【0059】
樹脂バインダーは、磁石粉末の結合材として働く成分であり、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂などの熱可塑性樹脂、あるいは、エポキシ樹脂、ビス・マレイミドトリアジン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、硬化反応型シリコーンゴムなどの熱硬化性樹脂が使用できるが、特に熱可塑性樹脂が好ましい。
【0060】
熱可塑性樹脂は、特に制限されず、従来樹脂バインダーとして公知のものを使用できる。熱可塑性樹脂の具体例としては、6ナイロン、6、6ナイロン、11ナイロン、12ナイロン、6、12ナイロン、芳香族系ナイロン、これらの分子を一部変性した変性ナイロン等のポリアミド樹脂;直鎖型ポリフェニレンサルファイド樹脂、架橋型ポリフェニレンサルファイド樹脂、セミ架橋型ポリフェニレンサルファイド樹脂;低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン樹脂、高密度ポリエチレン樹脂、超高分子量ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン−エチルアクリレート共重合樹脂、アイオノマー樹脂、ポリメチルペンテン樹脂;ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合樹脂;ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂;メタクリル樹脂;ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリ三フッ化塩化エチレン樹脂、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合樹脂、エチレン−四フッ化エチレン共重合樹脂、四フッ化エチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂;ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリアリルエーテルアリルスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアリレート樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、酢酸セルロース樹脂、前出の各樹脂系エラストマー等が挙げられ、これらの単重合体や他種モノマーとのランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体、他の物質による末端基変性品等が挙げられる。
【0061】
これら熱可塑性樹脂は、得られるボンド磁石に所望の機械的強度が得られる範囲で、溶融粘度や分子量が低いものが望ましい。また、熱可塑性樹脂の形状は、パウダー状、ビーズ状、ペレット状等、特に限定されないが、磁石合金粉と均一に混合される点で、パウダー状が望ましい。
【0062】
熱可塑性樹脂の配合量は、磁石合金粉100重量部に対して、通常5〜100重量部、好ましくは5〜50重量部である。熱可塑性樹脂の配合量が5重量部未満であると、組成物の混練抵抗(トルク)が大きくなったり、流動性が低下して磁石の成形が困難となり、一方、100重量部を超えると、所望の磁気特性が得られない。
【0063】
熱硬化性樹脂であれば、その取扱い性、ポットライフの面から2液型が有利であり、2液を混合後は、常温から200℃までの温度で硬化しうるものが好ましい。その反応機構は、一般的な付加重合型でも縮重合型であってもよい。また、必要に応じて過酸化物等の架橋反応型モノマーやオリゴマーを添加しても差し支えない。
【0064】
これらは、反応可能な状態にあれば、重合度や分子量に制約されないが、硬化剤や他の添加剤等との最終混合状態で、ASTM100型レオメーターで測定した150℃における動的粘度が500Pa・s以下、好ましくは400Pa・s以下、特に好ましくは、100〜300Pa・sである。動的粘度が500Pa・sを超えると、成形時に著しい混練トルクの上昇、流動性の低下を招き、成形困難になるので好ましくない。一方、動的粘度が小さくなりすぎると、磁石粉末と樹脂バインダーが成形時に分離しやすくなるため、0.5Pa・s以上であることが望ましい。
【0065】
樹脂バインダーは、磁石合金粉100重量部に対して、3〜50重量部の割合で添加される。添加量は7〜30重量部、さらには、10〜20重量部がより好ましい。3重量部未満では、著しい混練トルクの上昇、流動性の低下を招いて、成形困難になり、一方、50重量部を超えると、所望の磁気特性が得られないので好ましくない。
【0066】
本発明における樹脂バインダーには、滑剤、紫外線吸収剤、難燃剤や種々の安定剤等を添加できる。
【0067】
滑剤としては、例えば、パラフィンワックス、流動パラフィン、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、エステルワックス、カルナウバ、マイクロワックス等のワックス類;ステアリン酸、1,2−オキシステアリン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、オレイン酸等の脂肪酸類;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウム、ラウリン酸カルシウム、リノール酸亜鉛、リシノール酸カルシウム、2−エチルヘキソイン酸亜鉛等の脂肪酸塩(金属石鹸類);ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘン酸アミド、パルミチン酸アミド、ラウリン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、ジステアリルアジピン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、ジオレイルアジピン酸アミド、N−ステアリルステアリン酸アミド等の脂肪酸アミド類;ステアリン酸ブチル等の脂肪酸エステル;エチレングリコール、ステアリルアルコール等のアルコール類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、及びこれら変性物からなるポリエーテル類;ジメチルポリシロキサン、シリコングリース等のポリシロキサン類;弗素系オイル、弗素系グリース、含弗素樹脂粉末といった弗素化合物;窒化珪素、炭化珪素、酸化マグネシウム、アルミナ、二酸化珪素、二硫化モリブデン等の無機化合物粉体が挙げられる。これらの滑剤は、一種単独でも二種以上組み合わせても良い。該滑剤の配合量は、磁石合金粉100重量部に対して、通常0.01〜20重量部、好ましくは0.1〜10重量部である。
【0068】
紫外線吸収剤としては、フェニルサリシレート等のベンゾフェノン系;2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系;蓚酸アニリド誘導体などが挙げられる。
【0069】
また、安定剤としては、ビス(2、2、6、6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1、2、2、6、6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、1−[2−{3−(3,5−ジ−第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}エチル]−4−{3−(3、5−ジ−第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン、8−ベンジル−7、7、9、9−テトラメチル−3−オクチル−1、2、3−トリアザスピロ[4、5]ウンデカン−2、4−ジオン、4−ベンゾイルオキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン、こはく酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン重縮合物、ポリ[[6−(1、1、3、3−テトラメチルブチル)イミノ−1、3、5−トリアジン−2、4−ジイル][(2、2、6、6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ]ヘキサメチレン[[2、2、6、6−テトラメチル−4−ピペリジル]イミノ]]、2−(3、5−ジ−第三ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロン酸ビス(1、2、2、6、6−ペンタメチル−4−ピペリジル)等のヒンダード・アミン系安定剤のほか、フェノール系、ホスファイト系、チオエーテル系などの抗酸化剤等が挙げられる。これらの安定剤も、一種単独でも二種以上組み合わせても良い。該安定剤の配合量は、磁石合金粉100重量部に対して、通常0.01〜5重量部、好ましくは0.05〜3重量部である。
【0070】
混合方法は、特に限定されず、例えば、リボンブレンダー、タンブラー、ナウターミキサー、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、プラネタリーミキサー等の混合機、或いはバンバリーミキサー、ニーダー、ロール、ニーダールーダー、単軸押出機、二軸押出機等の混練機が使用できる。
【0071】
次いで、上記のボンド磁石用組成物は、熱可塑性樹脂の場合、その溶融温度で加熱溶融された後、所望の形状を有する磁石に成形される。その際、成形法としては、従来からプラスチック成形加工等に利用されている射出成形法、押出成形法、射出圧縮成形法、射出プレス成形法、トランスファー成形法等の各種成形法が挙げられるが、これらの中では、特に射出成形法、押出成形法、射出圧縮成形法、及び射出プレス成形法が好ましい。
【0072】
熱硬化性樹脂は、混合時の剪断発熱等によって硬化が進まないよう、剪断力が弱く、かつ冷却機能を有する混合機を使用することが好ましい。混合により組成物が塊状化するので、これを射出成形法、圧縮成形法、押出成形法、圧延成形法、或いはトランスファー成形法等により成形する。
【0073】
こうして得られたボンド磁石は、実用上重要な高温環境下で複合金属リン酸塩被膜に欠陥部が生じにくく、塩水の影響を受けることがない。従来は、サマリウム−鉄−窒素系合金磁石のような核発生型の保磁力発現機構を示す磁石合金粉末で、一部にでもこのような欠陥領域が生じると著しく保磁力が低下する問題があったが、本発明によれば、このような問題点が完全に克服される。
【0074】
4.圧密磁石
本発明の耐塩水性磁石合金粉を用いて、圧密磁石を製造する方法は、特に限定されず、高い圧縮力がかけられ、見かけ密度を真密度の85%以上としうる方法であればよい。見かけ密度が85%未満では磁気特性が低く、また、磁石合金粉の劣化要因である酸素や水分の経路となるオープンポアによって耐塩水性が低下する。本発明の磁石合金粉は、そのままで高い耐塩水性を示すが、圧密磁石のオープンポアを無くすことによって、さらに高い耐塩水性を実現できる。
【0075】
なお、本発明のサマリウム−鉄−窒素系磁石合金粉から圧密磁石を製造する場合には、上記の耐塩水性以外に磁気特性、特に磁石の保磁力が改善される。圧密化するとき、サマリウム−鉄−窒素系化合物の分解や脱窒素を防止するとともに、粒子間に非磁性体のリン酸塩被膜が均一に存在するため保磁力の低下を防ぐことができる。
【実施例】
【0076】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は、これら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0077】
(1)成分
磁石合金粉
・Sm−Fe−N系磁石合金粉[住友金属鉱山(株)製、平均粒径:30μm]
有機溶媒
・イソプロピルアルコール(IPA)[関東化学(株)製]
・N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)[関東化学(株)製]
添加剤(被膜成分)
・酸化亜鉛[関東化学(株)製]
・リン酸亜鉛四水和物[関東化学(株)製]
・リン酸アルミニウム[関東化学(株)製]
・酸化マンガン[関東化学(株)製]
・酸化銅(I)[関東化学(株)製]
・酸化カルシウム[関東化学(株)製]
リン酸
・85%オルトリン酸水溶液[商品名:りん酸、関東化学(株)製]
【0078】
(2)被覆された磁石合金粉の特性、性能の測定、評価。
・被膜厚さ及び金属リン酸塩(b−2)被膜の複合リン酸塩被膜(B)に対する金属成分の比率
得られた磁石合金粉試料の断面をFE−TEM(電界放出型透過電子顕微鏡)で観察し、被膜厚さを測定した。また、被膜組成分析を、TEM−EDX(エネルギー分散型蛍光X線分析装置)で行い、金属リン酸塩(b−2)被膜の複合リン酸塩被膜(B)に対する金属成分の比率を求めた。
【0079】
・耐塩水性
得られた磁石合金粉試料とナイロン12を、200℃のラボプラストミル中で30分混練し、空冷後、各組成物をプラスチック粉砕機により粉砕してそれぞれ成形用ペレットとした。得られたペレットを射出成形機にて7mm方向に560kA/mの配向磁界をかけながら、φ10mm×7mmの円柱状希土類系磁石を製造した。これを5%NaCl水溶液中に成形体の半分までつかるようにして浸漬後、室温にて24時間放置し、錆の発生の有無を目視観察した。
【0080】
・磁気特性評価
上記の円柱状希土類系磁石試料の磁気特性を、チオフィー型自記磁束計にて常温で測定した。磁気特性のうち残留磁化(Br)の結果を表1、表2に示す。
【0081】
[実施例1〜7]
容器内部を窒素で置換したアトライタを用い、回転数200rpmで、還元磁石合金粉(Sm−Fe−N系)1kgを1.5kgの有機溶媒中で2時間粉砕し、平均粒径3μmの磁石合金粉を作製した。表1の記載に従って所定量の85%オルトリン酸水溶液、酸化物、リン酸塩などを合金粉に添加、攪拌した。その後、磁石合金粉を真空中150℃で4時間乾燥させた。得られた磁石合金粉の被膜厚さを測定し、金属リン酸塩(b−2)被膜の複合リン酸塩被膜(B)に対する金属成分の比率を求め、表1の結果を得た。次に、得られた磁石合金粉を用いて、磁粉体積率が60%となるように、12ナイロンを添加し、ラボプラストミルで混練後に、200℃にて射出成形してボンド磁石を作製した。得られた磁石試料の磁化を上記方法で測定し、表1の結果を得た。
【0082】
【表1】

【0083】
[比較例1〜4]
添加剤を用いないか、添加剤やリン酸の量を変えて、上記の実施例と同様にして、磁石合金粉を処理した。結果を表1に示した。
【0084】
[実施例8〜14]
実施例1〜7で用いた磁石合金粉10gを、窒素雰囲気下でアルミニウムカプセルに充填し、1600kA/mの配向磁界をかけながら50MPaで一軸加圧した。次に、この圧粉体をカプセルごと450℃、30min.、200MPaで等方性熱間圧縮法(HIP)で成形した。圧力媒体として窒素ガスを用いた。得られた磁石試料の磁化を測定し、表2の結果を得た。ここで見かけ密度は、真密度を7.67g/ccとした相対密度で表している。
【0085】
【表2】

【0086】
[比較例5〜8]
比較例1〜4で用いた磁石合金粉から、実施例8〜14に示した方法により等方性熱間圧縮法(HIP)で成形して圧密磁石を作製した。結果を表2に示した。
【0087】
表1から、本発明の磁石合金粉を成形して得られたボンド磁石は、磁石合金粉の表面が適切な厚さの複合金属リン酸塩被膜によって均一に保護されているため、磁化が0.7T以上であり、かつ5%塩水中でも錆の発生がないことが分かる。また、表2から、本発明の磁石合金粉を見かけ密度85%以上に圧密化して得られた圧密磁石は、磁石合金粉の表面が適切な厚さの複合金属リン酸塩被膜によって均一に保護されているため、磁化が1.2T以上と十分高く、5%塩水中でも錆が見られないことが分かる。これに対して、比較例のボンド磁石、圧密磁石は、金属リン酸塩被膜が複合化されていないか、被膜の厚さが適切ではないので、磁化、保磁力が小さいか、錆が発生することが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類元素を含む鉄系磁石合金粉からなる磁石粉末(A)が、少なくともアルミニウム、亜鉛、マンガン、銅又はカルシウムから選ばれた1種以上の金属の酸化物、複合酸化物、リン酸塩又はリン酸水素化合物とリン酸が添加された有機溶媒中で、平均粒径8μm以下に粉砕されることで、磁石合金粉の表面上に、鉄と希土類元素の金属リン酸塩(b−1)、及びアルミニウム、亜鉛、マンガン、銅又はカルシウムから選ばれた1種以上の金属リン酸塩(b−2)からなる複合金属リン酸塩被膜(B)が均一に形成されており、かつ、金属リン酸塩(b−2)の金属成分が、複合金属リン酸塩被膜(B)の金属成分に対して50重量%以上であることを特徴とする耐塩水性磁石合金粉。
【請求項2】
複合金属リン酸塩被膜(B)の厚さが、5〜100nmであることを特徴とする請求項1に記載の耐塩水性磁石合金粉。
【請求項3】
有機溶媒が、N,N−ジメチルホルムアミド、ホルムアミド、2−メトキシエタノール、エタノール、メタノール又はイソプロピルアルコールから選ばれた1種以上であることを特徴とする請求項1に記載の耐塩水性磁石合金粉。
【請求項4】
リン酸塩溶液を形成する金属成分が、希土類元素を含む鉄系磁石合金粉に対して、0.01〜1mol/kg(粉末重量当たり)の割合で添加されることを特徴とする請求項1に記載の耐塩水性磁石合金粉。
【請求項5】
リン酸は、希土類元素を含む鉄系磁石合金粉に対して、0.1〜2mol/kg(粉末重量当たり)の割合で添加されることを特徴とする請求項1に記載の耐塩水性磁石合金粉。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の耐塩水性磁石合金粉に少なくとも熱可塑性樹脂を含有してなるボンド磁石用樹脂組成物。
【請求項7】
請求項に記載のボンド磁石用樹脂組成物を、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法又は射出プレス成形法から選ばれるいずれかの成形法により成形したボンド磁石。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載の耐塩水性磁石合金粉を圧密化して、見かけ密度を真密度の85%以上にしたことを特徴とする圧密磁石。

【公開番号】特開2008−72130(P2008−72130A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−254363(P2007−254363)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【分割の表示】特願2002−122420(P2002−122420)の分割
【原出願日】平成14年4月24日(2002.4.24)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】