説明

耐変色性ポリプロピレン樹脂組成物

【課題】アルカリ洗剤等に対する耐変色性に優れたポリプロピレン樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ポリプロピレン樹脂と、エステル構造を有しないヒンダードフェノール系酸化防止剤と、を含有するポリプロピレン樹脂組成物であって、前記ヒンダードフェノール系酸化防止剤が、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレート及び1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタンの少なくとも一方である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン樹脂組成物に関する。さらに詳細には、アルカリ洗剤等に対する耐変色性に優れたポリプロピレン樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
便蓋や便座等、便器周辺で使用される部材に、ポリプロピレン樹脂等の樹脂成形品が使用される場合がある。このような樹脂成形品には、尿便や洗剤の付着により、赤色や茶褐色の変色が生じるという問題がある。特に、尿による変色については、人尿が樹脂成形品の便座等に付着したまま時間が経過すると、尿を拭き取っても尿が付着した部分が赤や灰色等に変色し、洗浄薬品等で拭き取っても退色しないため、樹脂製の便座等トイレ部品の商品価値を低下させる原因の一つになっている。
【0003】
上記の問題に対して、例えば、特許文献1には、特定のリン系酸化防止剤(テトラキス(2,4−ジ−t−ブチル−5−メチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジフォスフォナイト)を使用したトイレ用樹脂成形品が開示されている。この成形品では、尿便、酸系洗剤等による変色を抑制できると記載されている。
しかしながら、上述した特定の酸化防止剤を使用する必要があった。また、アルカリ性洗剤に対する耐変色性も要求されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−8653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、アルカリ洗剤等に対する耐変色性に優れたポリプロピレン樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、以下のポリプロピレン樹脂組成物等が提供される。
1.ポリプロピレン樹脂と、エステル構造を有しないヒンダードフェノール系酸化防止剤と、を含有するポリプロピレン樹脂組成物。
2.前記ヒンダードフェノール系酸化防止剤が、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレート及び1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタンの少なくとも一方である、1に記載のポリプロピレン樹脂組成物。
3.さらに、リン系酸化防止剤を0.5重量部未満含有する1又は2に記載のポリプロピレン樹脂組成物。
4.さらに、難燃剤及び難燃助剤の少なくとも一方を含有する1〜3のいずれかに記載のポリプロピレン樹脂組成物。
5.前記エステル構造を有しないヒンダードフェノール系酸化防止剤の配合量が、前記ポリプロピレン樹脂100重量部に対し、0.01〜3重量部である、1〜4のいずれかに記載のポリプロピレン樹脂組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、アルカリ洗剤等に対する耐変色性に優れたポリプロピレン樹脂組成物が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のポリプロピレン樹脂組成物は、ポリプロピレン樹脂と、エステル構造を有しないヒンダードフェノール系酸化防止剤を含有することを特徴とする。本発明は、ヒンダードフェノール系酸化防止剤のうち、エステル構造(−COO−)を有さないものを使用することにより、アルカリ洗剤等に対する耐変色性に優れる樹脂組成物が得られることを見出したものである。
【0009】
本発明で使用するポリプロピレン樹脂は、特に限定はなく、工業的に販売されているものを使用できる。即ち、用途や加工条件にあわせて、適した特性(メルトフローレート、分子量等)を有するものを選択することができる。例えば、プライムポリマー(株)社製のJ−3000GPやJ−6083等を使用できる。
【0010】
本発明で使用するエステル構造を有さないヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレート、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、4,4−ブチリデンビス(3−メチル−5−t−ブチルフェノール)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン等が挙げられる。
これらのうち、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレート、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタンが好ましい。
尚、酸化防止剤は1種単独で使用してもよく、また、2種以上を混合して使用してもよい。
【0011】
上記の酸化防止剤は、工業的に販売されているものを使用できる。例えば、(株)ADEKA社製のアデカスタブAO−20、AO−30、AO−40、AO−330等が使用できる。
本発明で使用するヒンダードフェノール系酸化防止剤の構造式の一例を以下に示す。
【0012】
【化1】

【0013】
本発明のポリプロピレン樹脂組成物の配合は、ポリプロピレン樹脂100重量部に対し、エステル構造を有しないヒンダードフェノール系酸化防止剤0.01〜3.0重量部とすることが好ましい。ヒンダードフェノール系酸化防止剤の配合量が0.01重量部未満では、酸化防止剤の効果が発現しない場合がある。一方、3.0重量部を超えると、酸化防止剤がブリードし外観不良を生じたり、成形時に可塑化しにくく(溶けにくく)となるおそれがある。
ヒンダードフェノール系酸化防止剤の配合量は0.01〜3重量部であることが好ましく、特に、0.1〜0.5重量部であることが好ましい。
【0014】
本発明のポリプロピレン樹脂組成物には、上述したポリプロピレン樹脂及びエステル構造を有しないヒンダードフェノール系酸化防止剤の他、さらに、リン系酸化防止剤や、難燃剤及び難燃助剤の少なくとも一方を含有していてもよい。
リン系酸化防止剤としては、例えば、トリフェニルホスファイト、ジフェニルノニルフェニルホスファイト、トリス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス−(ジノニルフェニル)ホスファイト、ジフェニルイソオクチルホスファイト、トリス(2−エチルヘキシル)ホスファイト、トリス(イソデシル)ホスファイト、トリス(トリデシル)ホスファイト、ジブチルハイドロゲンホスファイト、トリラウリルトリチオホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4−ビフェニレンジホスファイト等が使用できる。これらの酸化防止剤は、工業的に販売されているものを使用できる。
リン系酸化防止剤の配合量は、ポリプロピレン樹脂100重量部に対し、0.5重量部未満であることが好ましい。
【0015】
難燃剤及び難燃助剤としては、燐系、窒素系、シリコン系、ハロゲン系の各種難燃剤を挙げることができる。これらは、工業的に販売されているものを使用できる。特に、便座用途の場合には、成形品の光沢性の面からハロゲン系の難燃剤を使用することが好ましい。
難燃剤の配合量は、ポリプロピレン樹脂100重量部に対し、30〜50重量部であることが好ましい。
難燃助剤の配合量は、ポリプロピレン樹脂100重量部に対し、10〜20重量部であることが好ましい。
【0016】
本発明においては、上記成分の他に、本発明の目的を損わない範囲で、必要に応じて従来公知の添加剤、その他配合物を配合することができる。
例えば、耐候剤として、ベンゾフェノン系、サリチレート系、ベンゾトリアゾール系、ヒンダードアミン系等の各種耐候剤を添加してもよい。帯電防止剤として、アニオン系、カチオン系、ノニオン系、両性系等の各種帯電防止剤を添加してもよい。滑剤として、脂肪酸、脂肪酸アミド、脂肪酸金属塩、脂肪酸エステル、炭化水素系等を添加してもよい。核剤として、金属塩系、ソルビトール系等の各種核剤を添加してもよい。充填剤として、タルク、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、ガラス繊維、マイカ、ワラストナイト等を使用してもよい。さらに、金属不活性化剤、着色剤、ブルーミング防止剤、表面処理剤等も使用できる。
【0017】
本発明の樹脂組成物は、上記各成分を任意の方法で溶融混練することによって製造することができる。例えば、ヘンシェルミキサーに代表される高速攪拌機、単軸又は二軸の連続混練機、バンバリーミキサー、ロールミキサー等を単独で又は組み合わせて用いる方法がある。
本発明の樹脂組成物は、通常の樹脂材料を用いて製造する方法と同様の方法で各種成形品に加工することができる。例えば、ペレット状に加工した本発明の樹脂組成物を射出成形、射出圧縮成形、ブロー成形、シート成形等で目的の形状に成形することができる。
【実施例】
【0018】
以下、実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、実施例及び比較例中に示された添加配合割合は全て重量部である。
尚、実施例及び比較例で使用した材料は以下のとおりである。
・ポリプロピレン樹脂1(以下、PP1)
J−3000GP プライムポリマー社製ホモポリマー
・ポリプロピレン樹脂2(以下、PP2)
J−6083HP プライムポリマー社製ブロックコポリマー
・難燃剤A;ノンネンPR2 丸菱油化社製
・難燃剤B;ピロガードSR720 第一工業製薬社製
・難燃助剤;三酸化アンチモンFCP−AT3 鈴裕化学社製
・フェノール系酸化防止剤A;アデカスタブAO60 アデカ社製
・フェノール系酸化防止剤B;アデカスタブAO20 アデカ社製
・フェノール系酸化防止剤C;アデカスタブAO30 アデカ社製
・リン系酸化防止剤;トリス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト
【0019】
実施例1
(1)造粒過程
ホモポリマー(PP1)を43重量部、ブロックコポリマー(PP2)を43重量部、難燃剤Aを3重量部、難燃剤Bを7重量部、難燃助剤を4重量部、フェノール系酸化防止剤Bを0.1重量部、リン系酸化防止剤を0.2重量部及びその他の添加剤を2.8重量部計量し混合した。混合物をスクリュー径45mmの二軸押出機を用い溶融混練した(シリンダの設定温度:240℃)。ダイスから吐出されたストランドを冷却バスにより冷却し、ペレタイザーにて切断することにより、ペレット状のポリプロピレン組成物を得た。
【0020】
(2)試験片作製
上記ペレットを、射出成形機にて平板(80×40mm、厚み;2mm)に成形した。成形条件は、シリンダ温度を210℃、金型温度を50℃とした。
また、同じ条件で、UL94に規定される垂直燃焼試験片(127×12.7mm、厚み;2.5mm)を作製した。
【0021】
得られた成形品について、難燃性及び耐アルカリ性を評価した。
・難燃性(UL94 50W垂直燃焼試験)
UL94の規定に準拠して評価した。試験片は上記記載の垂直燃焼試験片を用いた。
・耐アルカリ性(変色評価)
3%アンモニア水溶液100mlを満たした200mlビーカーに、80mm×40mm平板を半分漬かるように垂直方向に浸漬し蓋をして密閉した。それを60℃に設定したギアオーブン中にて1週間放置した。その後、平板を洗浄した。1週間経過後の平板と浸漬前の平板との色差(ΔE)を測定した。色差が小さいほど、変色が小さくアルカリ性に対する耐変色性が高いことを示している。尚、色差はスガ試験機(株)のSMカラーコンピューターSM45を使用し、測定条件は光源2℃視野とした。
結果を表1に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
実施例2−6 比較例1
表1に示すように、組成を変更した他は、実施例1と同様にしてポリプロピレン組成物を作製し、評価した。結果を表1に示す。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明のポリプロピレン樹脂組成物は、便座、便蓋等のトイレ部品や、尿便やアルカリ系洗剤が付着する可能性があるもの、例えば、汚物入れ、トイレブラシ、浴槽、洗面器、剃刃や歯ブラシの柄、洗濯機の洗濯槽や外板、排水パン、食器洗浄機や乾燥機の部品等に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン樹脂と、
エステル構造を有しないヒンダードフェノール系酸化防止剤と、を含有するポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項2】
前記ヒンダードフェノール系酸化防止剤が、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレート及び1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタンの少なくとも一方である、請求項1に記載のポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項3】
さらに、リン系酸化防止剤を0.5重量部未満含有する請求項1又は2に記載のポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項4】
さらに、難燃剤及び難燃助剤の少なくとも一方を含有する請求項1〜3のいずれかに記載のポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項5】
前記エステル構造を有しないヒンダードフェノール系酸化防止剤の配合量が、前記ポリプロピレン樹脂100重量部に対し、0.01〜3重量部である、請求項1〜4のいずれかに記載のポリプロピレン樹脂組成物。

【公開番号】特開2011−168689(P2011−168689A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−33345(P2010−33345)
【出願日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(000104364)出光ライオンコンポジット株式会社 (23)
【Fターム(参考)】