説明

耐屈曲摩耗性ポリエステル繊維

【課題】耐屈曲摩耗性に優れたポリエステル繊維であって、ポリシロキサン金属化合物を20質量%もの高濃度に添加しても強度の低下の割合が少なく、耐屈曲摩耗性と強度とのバランスの優れた繊維を提供する。
【解決手段】下記式[1]で示されるポリシロキサン金属化合物を0.3〜20質量%含有していることを特徴とする耐屈曲摩耗性ポリエステル繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリシロキサン金属化合物を含有したポリエステル繊維であって、耐屈曲摩耗性に優れたポリエステル繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維は、一般衣料用途をはじめとして、カーテン、カーペット等のインテリア用途、車両内装用途等の様々な用途へ展開されている。中でもポリエチレンテレフタレート繊維は、その価格と強伸度等の物理的特性とのバランスの良さから様々な用途への展開の拡大が期待されている。
【0003】
しかしながら、ポリエステル繊維は、ポリアミド繊維に比べて耐摩耗性が悪いという欠点があり、産業資材用途の中でも耐摩耗性や耐屈曲摩耗性等が要求される用途への展開は、十分には進んでいなかった。高強度ポリエチレンテレフタレート繊維を例にとれば、高強度化するほど分子鎖が繊維軸方向に高度に配向しているために、繊維軸に対して垂直な力に対しては非常に弱く、摩擦などにより繊維が容易にフィブリル化するという欠点がある。そのため、例えば、建設現場で使用される安全ネットや河川、港湾等の埋め立て護岸工事の際に中に石等を詰めて使用されるボトムフィルターのようなネット状袋材といった製網加工を施す用途においては、編組織が複雑であるため、製網加工工程で編地にかかる負荷や摩擦は、一直線方向のものだけでなく多方向からも複雑にかかるものとなり、加工工程において毛羽立ちや断糸、白化等が生じるという欠点があった。この問題を解消するためには、加工速度を低下させることが必要となり、このため操業性が悪くなるという問題があった。
【0004】
また、これら繊維製品の使用時においては、製品の内部では中に詰めた石が流動することによって生じる摩擦や衝撃を受け、一方、製品の外部では流石や流木等による摩擦や衝撃を受けることとなる。このため、製品の内部と外部に繰り返しかかる多方向からの負荷によって毛羽が発生したり、繊維が擦り切れたりするなど、耐久性にも問題があった。
【0005】
特許文献1には、合成繊維からなるモノフィラメントの表面に特定のシラン系コート剤で被覆する方法が提案されている。この方法により得られる繊維は、耐摩耗性はある程度改善されるものの未だ不十分であり、さらに製造工程が複雑になると共に、コストアップにつながる問題があった。
【0006】
特許文献2には、無水マレイン酸改質ポリエチレン/ポリプロピレンゴムを、特許文献3には、脂肪酸ビスアミド及び/またはアルキル置換型の脂肪酸モノアミドを、それぞれポリエステル繊維の製造工程時に溶融混練することにより、耐摩耗性を有するポリエステル繊維が得られる方法が提案されている。しかしながら、これらの方法により得られる繊維も、耐摩耗性はある程度改善されるものの、異ポリマーを混練しているため強度が上がらなかったり、耐摩耗性と強度とのバランスが悪いという問題点があり、加えて十分な耐屈曲摩耗性を有するものには至っていない。
【特許文献1】特開2005−273066号
【特許文献2】特開2005−273025号
【特許文献3】特開2004−091968号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記のような問題点を解決し、耐屈曲摩耗性に優れたポリエステル繊維であって、強度の低下の割合が少なく、耐屈曲摩耗性と強度とのバランスの優れた繊維を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の化学構造を有するポリシロキサン金属化合物をポリエステルに所定量範囲で含有させることで、繰り返し屈曲による疲労が蓄積される使用環境にあっても、耐屈曲摩耗性に優れたポリエステル繊維が得られることを見出し、本発明に到達した。すなわち本発明は、以下の構成を要旨とする。
【0009】
(a)下記式[1]で示されるポリシロキサン金属化合物を0.3〜20質量%含有していることを特徴とする耐屈曲摩耗性ポリエステル繊維。

(ただし、式[1]中のMは、金属原子を示す。また、R〜Rは炭素数が1〜10のアルキル基であり、nは6〜100である。分子量は900〜16000である。)
【0010】
(b)ポリシロキサン金属化合物が下記式[2]で示されるホウ素化合物であることを特徴とする(a)記載の耐屈曲摩耗性ポリエステル繊維。

(ただし、式[2]中のBは、ホウ素原子を示す。R〜R=CHであり、nは6〜100である。分子量は900〜16000である。)

【発明の効果】
【0011】
本発明のポリエステル繊維は、特定のポリシロキサン金属化合物を所定量含有しているため、耐屈曲摩耗性に優れている。また、本発明におけるポリシロキサン金属化合物は、中心金属や配位子を特定しているためポリエステルとの相溶性に優れ、20質量%もの高濃度に添加した場合であっても繊維強度の低下が非常に少なく、耐屈曲摩耗性と強度バランスに優れたものとなる。このため、衣料用途や産業資材、土木用途等、繰り返しの屈曲が課せられる様々な分野において好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の耐屈曲摩耗性ポリエステル繊維(以降、本発明のポリエステル繊維と略記することがある。)としては、ポリエステルを主体成分として溶融紡糸した繊維である。本発明におけるポリエステルとしては、分子内にエステル結合を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば芳香族ポリエステルでは、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート等が挙げられ、また、脂肪族ポリエステルでは、例えばポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリカプロラクトン等が挙げられる。
【0013】
また、本発明におけるポリエステルとしては、本発明のポリエステル繊維の特性を損なわない範囲であれば、これらポリエステルに他のジカルボン酸成分、ジオール成分あるいはオキシカルボン酸成分等を共重合してもよく、あるいはこれらポリエステルをブレンドして用いてもよい。共重合できる他の成分としては、ジカルボン酸では、例えば、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、無水フタル酸、セバシン酸、アジピン酸、コハク酸等が挙げられ、ジオール成分では、エタンジオール、プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。
【0014】
本発明におけるポリエステルの相対粘度としては、特に限定はされないが、その用途に適したものを選択することが好ましい。例えば、強伸度等の実用的な観点から、衣料用繊維については、相対粘度が1.2以上、より好ましくは1.3以上、さらに好ましくは1.35以上であり、産業資材用繊維については、相対粘度が1.4以上、より好ましくは1.5以上、さらに好ましくは1.55以上が挙げられる。
【0015】
本発明のポリエステル繊維としては、下記式[1]で示されるポリシロキサン金属化合物を0.3〜20質量%含有していることが必要であり、0.5〜18質量%含有していることが好ましく、さらに好ましくは1.0〜15質量%である。ポリシロキサン金属化合物の含有量が0.3質量%未満である場合、得られる繊維の耐屈曲摩耗性向上効果が不十分となる。一方、20質量%を超える場合、紡糸、延伸、巻き取り時に糸切れ等が発生し操業性が悪化するとともに、強伸度等の機械的特性も劣るものとなる。
【0016】

(ただし、式[1]中のMは、金属原子を示す。また、R〜Rは炭素数が1〜10のアルキル基であり、nは6〜100である。分子量は900〜16000である。)
【0017】
また、本発明におけるポリシロキサン金属化合物の各ポリシロキサン配位子の中のR〜Rとしては、炭素数が1〜10のアルキル基であることが必要であり、好ましくは炭素数が1〜5である。該アルキル基としては、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロキル基、n−ブタン基、イソブタン基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノナン基、デカン基などの飽和アルキル基が挙げられる。
【0018】
また、各ポリシロキサン配位子のユニット数(n)としては、6〜100であることが必要であり、好ましくは10〜85である。さらに、ポリシロキサン金属化合物の分子量としては、900〜16000であることが必要であり、好ましくは、1000〜15000である。ポリシロキサン配位子の中のアルキル基の炭素数、ユニット数(n)、分子量の範囲がこの範囲を外れると、融点が低下する等の理由により取扱いが困難となる。
【0019】
本発明におけるポリシロキサン金属化合物の中心金属としては、ホウ素、アルミニウム、亜鉛、マンガン、ニッケル、クロム、ガリウム、インジウム、タリウム等が挙げられる。
このうち、本発明におけるポリシロキサン金属化合物としては、下記式[2]で示されるポリシロキサン金属化合物のホウ素化合物であることが好ましい。
【0020】

(ただし、式[2]中のBは、ホウ素原子を示す。R〜R=CHであり、nは6〜100である。分子量は900〜16000である。)
【0021】
本発明のポリエステル繊維においては、ポリシロキサン金属化合物のポリシロキサン配位子、該配位子のユニット数、中心金属、分子量を特定しているため、ポリエステルへの相溶性が優れ、繊維の耐屈曲摩耗性が向上していると共に、ポリエステル中に20質量%もの高濃度に添加しても、ポリエステル繊維の強度低下の割合が少なく、耐屈曲摩耗性と強度とのバランスの優れた繊維となる。
【0022】
本発明のポリエステル繊維としては、同様の紡糸・延伸条件にて採取したポリシロキサン金属化合物を含まない基準ポリエステル繊維に比較して、該ポリシロキサン金属化合物を20質量%もの高濃度に含有していても強度の低下が少なく、その強度比としては、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上を保持したものである。また、耐屈曲摩耗回数比としては、同様に基準ポリエステル繊維に比較して、好ましくは1.30倍以上、より好ましくは1.40倍以上、さらに好ましくは1.50倍以上である。
【0023】
なお、本発明のポリエステル繊維において、特定組成のポリシロキサン金属化合物を特定量添加することにより耐屈曲摩耗性が向上する機構については不明ではあるが、その高い相溶性のため、繊維表面においても均一に分散しており、繊維表面でスリップ剤として機能しているものと推測される。
【0024】
本発明のポリエステル繊維としては、繊維構造として特に限定されるものではなく、ポリシロキサン金属化合物を含有したポリエステルのみから構成される単繊維や中空繊維、あるいは本発明におけるポリシロキサン金属化合物を含有しない他のポリマーとの複合繊維等のいずれの形態を選択することもできる。例えば、複合繊維とした場合、ポリシロキサン金属化合物を含有したポリエステルを鞘成分とした芯鞘型複合繊維、サイドバイサイド型複合繊維、海島型複合繊維、あるいは他の異形断面複合繊維など、適宜選択することができる。また、複合繊維を紡糸するにあたっては、通常の手法を選択して行うことができる。
【0025】
また、複合繊維とした場合、繊維表面でのポリシロキサン金属化合物の耐屈曲摩耗性への寄与を効果的に発現させるために、本発明のポリエステル繊維としては、上記のポリシロキサン金属化合物を含有したポリエステルが、繊維表面の少なくとも一部で露出しているように配されていることが好ましい。具体的には、繊維表面の25%以上を該ポリエステルが露出して配されていることが好ましく、より好ましくは50%以上であり、最も好ましくは全繊維表面を該ポリエステルが占めている場合である。これにより、本発明のポリエステル繊維は、外部との接触する面が当該ポリエステルとなる頻度が高くなるため、全体としての耐屈曲摩耗性が効果的に向上することとなる。これらの場合においても、ポリエステル繊維において、ポリシロキサン金属化合物を0.3〜20質量%含有していることが必要である。
【0026】
また、本発明のポリエステル繊維が複合繊維である場合、ポリシロキサン金属化合物を含有したポリエステルとともに用いる他の樹脂成分としては、熱可塑性樹脂であれば特に限定するものではないが、ポリシロキサン金属化合物を含有しないポリアミド、ポリエチレンテレフタレートを主成分とするポリエステル、ポリ乳酸樹脂等が挙げられる。例えば、ポリエチレンテレフタレートを主成分とするポリエステルとしては、共重合成分としてイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、無水フタル酸、アジピン酸、セバシン酸のようなジカルボン酸成分、さらに1,6−ヘキサジオール、シクロヘキサンジメタノールのようなジオール成分を含んでいてもよい。
【0027】
本発明のポリエステル繊維としては、複数本の単糸からなるマルチフィラメントであってもよく、単糸1本からなるモノフィラメントであってもよい。ここで、ポリエステル繊維がマルチフィラメントの場合は、単糸繊度が1〜200dtexであることが好ましく、総繊度は20〜5000dtexであることが好ましく、中でも40〜3000dtexであることがより好ましい。また、ポリエステル繊維がモノフィラメントの場合は、繊度を150〜5000dtexとすることが好ましい。さらに、本発明のポリエステル繊維は、長繊維としても短繊維として用いてもよい。
【0028】
本発明のポリエステル繊維がモノフィラメントの場合、単糸の断面形状としては、丸断面の他、異形断面、中空断面でもよい。また、複合繊維の場合、その横断面構造は芯鞘型や貼り合わせ型のほか、並列型(サイドバイサイド)、多重並列型(縞状)、分割型、多層型、放射状型、海島型等の複合断面でもよい。
【0029】
本発明のポリエステル繊維としては、その効果を損なわない範囲であれば、必要に応じて例えば熱安定剤、結晶核剤、艶消し剤、顔料、耐光剤、耐候剤、酸化防止剤、抗菌剤、香料、可塑剤、染料、界面活性剤、表面改質剤、各種無機及び有機電解質、微粉体、難燃剤等の各種添加剤を添加することができる。また、得られる繊維の結節強度を高めるために、脂肪酸アミド類、例えばメタキシリレンビスステアリルアミド、メタキシリレンビスオレイルアミド、キシレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリルアミド、エチレンビスステアリン酸アミド等を添加することができる。
【0030】
本発明のポリエステル繊維は、前記のように特定のポリシロキサン金属化合物を用いているため、ポリエステルへの相溶性が優れ、ポリエステル中に20質量%もの高濃度に添加しても、ポリエステル繊維の強度の低下の割合が少なく、耐屈曲摩耗性と強度とのバランスの優れた繊維となることができる。従って、必要な耐屈曲摩耗性能を達成するために、該ポリシロキサン金属化合物を高濃度に添加しても、強度低下が非常に少ないため、耐屈曲摩耗性が特に必要な分野、例えば安全ロープ等の分野においても、好適に使用することが可能である。
【0031】
次に、本発明のポリエステル繊維の製造方法について一例を用いて説明する。
例えば単繊維の場合、まず通常の方法により、ポリシロキサン金属化合物を予め高濃度に含有したポリエステルチップ(マスターチップ)を製造し、紡糸工程において、ポリシロキサン金属化合物の濃度が所定の範囲となるように、マスターチップとポリシロキサン金属化合物を含有していないポリエステルチップとを適正に溶融混合し紡糸することで目的とする糸条を得る。あるいは、ポリシロキサン金属化合物とポリシロキサン金属化合物を含有していないポリエステルチップとを所定のポリシロキサン金属化合物含有量となるように直接溶融混合し紡糸することでも目的とする糸条を得る。
【0032】
また、複合繊維とする場合には、ポリシロキサン金属化合物を含有したポリエステルと他の樹脂成分とから、通常の複合紡糸装置を用いて溶融紡糸し目的とする糸条を得る。続いて、得られた糸条を冷却し、油剤を付与しあるいは付与せず、一旦未延伸糸として巻き取った後、又は一旦捲き取ることなく引き続いて延伸を施す。このとき、延伸倍率は2〜8倍とし、ローラ間で加熱ローラを用いて、150〜220℃での熱延伸、巻取り操作を連続して行い、目的とするポリエステル繊維を得る。
【0033】
本発明においては、前記のように特定のポリシロキサン金属化合物を用いるため、ポリエステルへの相溶性が優れ、ポリエステル中に高濃度に添加しても、ポリエステル繊維の強度の低下の割合が少なく、耐屈曲摩耗性と強度とのバランスの優れた繊維となることができる。
【実施例】
【0034】
次に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、実施例における特性値の測定法等は次のとおりである。
(1)引張強伸度[cN/dtex、%]
得られた繊維について、島津製作所社製オートグラフ AG−1型を用い、試料長25cm、引張速度30cm/min、初荷重を0.05g/dtexとして測定し、基準ポリエステル繊維の引張強度との対比において60%以上であれば合格とした。
(2)耐屈曲摩耗性(回)
得られたポリエステル繊維の8本を株式会社国分鉄工製の8打角打製紐機を用い、製紐品を作成し、得られた8本製紐品に、デシテックス当たり0.015g(1100dtex×8本:200g)の荷重をかけ、OCHI FILE WORK‘s CO LTD社製丸やすり(300m/m、(12“)丸中目)に対し、90度の角度で接触させ、ストローク幅330±30mm、ストローク速度30±1回/分で往復摩擦させ、製紐品が破断に至るまでの回数を測定し、基準ポリエステル繊維の摩耗回数との対比において1.30以上であれば合格とした。
【0035】
(3)基準ポリエステル繊維(比較例1)の採取
相対粘度が1.72(フェノール/テトラクロロエタン=1/1(質量比)混合溶液を用い、濃度0.5g/dl、温度20℃で測定した)のポリエチレンテレフタレートをエクストルーダー型溶融紡糸機に供給し、紡糸孔の直径0.5mm、孔数192の紡糸口金を用い、紡糸温度305℃で溶融紡糸を行った。紡出した糸条に紡糸油剤を付与し、一旦捲き取ることなく、220℃に加熱した熱ローラで延伸倍率が5.7倍になるように熱延伸を施し、総繊度1670dtexのポリエステル繊維(マルチフィラメント)を得た。得られたポリエステル繊維を基準ポリエステル繊維として、以下の実施例1〜14、比較例2〜4に記載したポリシロキサン金属化合物含有ポリエステル繊維と対比し耐屈曲摩耗性を評価した。
【0036】
(実施例1)
相対粘度が1.72(フェノール/テトラクロロエタン=1/1(質量比)混合溶液を用い、濃度0.5g/dl、温度20℃で測定した)のポリエチレンテレフタレートに、表1に示した構造を有するポリシロキサン金属化合物を20質量%含有させたマスターチップ(SILO CHEM CO.LTD製 Neo−PET LotNo.5909E2−3100)を加え、繊維質量に対してポリシロキサン金属化合物が0.4質量%となるようにエクストルーダー型溶融紡糸機に供給した以外は、上記基準ポリエステル繊維の採取の方法と同様にして総繊度1670dtexのポリエステル繊維(マルチフィラメント)を得た。
【0037】
(実施例2〜6、比較例2〜4)
繊維中のポリシロキサン金属化合物の含有量が表1に示す値となるように、ポリエチレンテレフタレートとマスターチップとの配合割合を変更した以外は実施例1と同様に行い、ポリエステル繊維を得た。
【0038】
(実施例7)
相対粘度が1.72(フェノール/テトラクロロエタン=1/1(質量比)混合溶液を用い、濃度0.5g/dl、温度20℃で測定した)のポリエチレンテレフタレートと、表1に示したポリシロキサン金属化合物を20質量%含有させたマスターチップ(SILO CHEM CO.LTD製 Neo−PET LotNo.5909E2−3100とを配合して得られたポリシロキサン金属化合物を2質量%含有するポリエステルを鞘部に、相対粘度が1.72(フェノール/テトラクロロエタン=1/1(質量比)混合溶液を用い、濃度0.5g/dl、温度20℃で測定した)のポリエステルを芯部となるように、芯鞘型ノズル(芯鞘比率:1/1)を有するエクストルーダー型溶融紡糸機に供給し、繊維質量に対しポリシロキサン金属化合物の含有量が1質量%である複合ポリエステル繊維を吐出した以外は、実施例1と同様にして総繊度1671dtexの芯鞘型複合ポリエステル繊維(マルチフィラメント)を得た。
【0039】
(実施例8)
鞘部を、ポリシロキサン金属化合物を6質量%となるように配合させたポリエチレンテレフタレートに変更し、繊維質量に対しポリシロキサン金属化合物の含有量が3質量%となるように複合ポリエステル繊維を吐出した以外は実施例7と同様に行い、総繊度1671dtexの芯鞘型複合ポリエステル繊維(マルチフィラメント)を得た。
【0040】
(実施例9〜14)
繊維中のポリシロキサン金属化合物が表1に示す構造のものとなるように、ポリシロキサン金属化合物を種々変えた以外は実施例3と同様に行い、ポリエステル繊維を得た。
実施例1〜14、比較例1〜4で得られたポリエステル繊維の引張強度、耐屈曲摩耗性を測定した結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
表1から明らかなように、実施例1〜14のポリエステル繊維は、特定のポリシロキサン金属化合物を所定量含有しているため、引張強度、耐屈曲摩耗性ともに優れたものであった。
一方、比較例1のポリエステル繊維は、ポリシロキサン金属化合物を含有していなかったため、耐屈曲摩耗性に劣るものであった。比較例2のポリエステル繊維は、ポリシロキサン金属化合物の添加量が少なすぎたため、耐屈曲摩耗性に劣るものであった。比較例3のポリエステル繊維は、ポリシロキサン金属化合物の含有量が多すぎたため、引張強度が低く、さらに耐屈曲摩耗性に劣るものであった。比較例4では、ポリシロキサン金属化合物の含有量がさらに多すぎたため、巻き取り時に糸切れが多発し、繊維を得ることができなかった。







【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式[1]で示されるポリシロキサン金属化合物を0.3〜20質量%含有していることを特徴とする耐屈曲摩耗性ポリエステル繊維。

(ただし、式[1]中のMは、金属原子を示す。また、R〜Rは炭素数が1〜10のアルキル基であり、nは6〜100である。分子量は900〜16000である。)
【請求項2】
ポリシロキサン金属化合物が下記式[2]で示されるホウ素化合物であることを特徴とする請求項1記載の耐屈曲摩耗性ポリエステル繊維。

(ただし、式[2]中のBは、ホウ素原子を示す。R〜R=CHであり、nは6〜100である。分子量は900〜16000である。)







【公開番号】特開2010−13757(P2010−13757A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−173629(P2008−173629)
【出願日】平成20年7月2日(2008.7.2)
【出願人】(399065497)ユニチカファイバー株式会社 (190)
【Fターム(参考)】