説明

耐性接着部分的回折構造転写シート

【課題】従来のホログラム等からなる転写シート等の偽造防止媒体では、カード、商品券などに転写された後(耐熱性を有するフィルム基材の剥離後)の耐性に関しては考慮されていなかったため、日常生活で起こり得る行為によって白濁、発泡、剥離などが起こる可能性があった。
【解決手段】接着層に耐性機能を付与することにより転写後想定される100℃の熱における粘性の変化を測定温度100℃と30℃の対数減衰率の差が0.000〜0.030に調整することにより、沸騰水あるいはアルコール類などよる接着層の白濁や発泡を抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造、改ざん、秘密にされるべき情報の盗み読み等の不正防止対策や、万一そのような不正が懸念されても不正の有無の判別を容易とする対策、これらの対策を必要とされる技術分野に関係する[本明細書ではこれらの対策を偽造防止対策と称する]。
例えば、商品券やクレジットカード等の有価証券類の偽造防止対策や、ブランド品や高級品等の一般的に高価なものへの適用希望が多い真正品であることを証明するための偽造防止対策、これらの要求に効果的な技術、またはデザインよって装飾性にも優れた視覚効果を得られる技術であって、OVDとの組合せによって高い効果を得られる偽造防止転写シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学効果を発現させる技術の例として、従来からある光の干渉を用いて立体画像や特殊な装飾画像とかあるいは特殊な色の変化などを表現し得るホログラムや回折格子、また、光学特性の異なる薄膜を光学的に適当な多層に重ねることによって見る角度により色の変化(カラーシフト)を生じる多層薄膜、等々の技術を利用した、いわゆるOVDが利用されている。[OVDは、“Optical(ly)VariableDevice”の略である。]
尚、色の変化について云えば、OVDの材料や構造に起因して色を呈しまた色が変化する現象があり、光の波長によって光自体の性質が異なることに由来している。本明細書中ではこのような色を構造色と称している。構造色の発現に関わる光学現象としては、多層膜干渉、薄膜干渉、屈折、分散、光散乱、Mie散乱、回折、回折格子、等がある。
【0003】
このOVDは高度な製造技術を要すること、独特な視覚効果を有し、一瞥で真偽が判定できることから有効な偽造防止手段としてクレジットカード、有価証券、証明書類等の一部にあるいは全面に形成され使用されている。最近では、有価証券以外にもスポーツ用品やコンピュータ部品をはじめとする電気製品ソフトウエアー等に貼り付けられ、その製品の真正さを証明する認証シールや、それら商品のパッケージに貼りつけられる封印シールとしても広く使われるようになってきた。
【0004】
このようにOVDは一般に精巧な偽造が難しく確認が容易な偽造防止手段であるが、商品券や紙幣、パスポート、若しくは株券等の紙媒体に添付する場合には貼り替えが容易でない熱転写方式が多くの場合採用されている。ところが、従来のホログラム等の転写シートを用いて被転写材上に形成する場合、転写時の熱や圧力により金属蒸着層に割れや白化が生じるという問題があった。
この問題に対し、転写時の熱に対して優れた効果を発揮するホログラム転写シートが発案されている(例えば特許文献1)。これによると、金属蒸着層上に熱硬化性樹脂により形成した耐熱保護層を接着層との間に設けることにより、ホログラム画像の歪み(白濁やクラック)を防止するものである。
【0005】
【特許文献1】特公平7−92635号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の場合確かに転写時の熱白化防止に対して有効な手段であるが、転写された後(耐熱性を有するフィルム基材の剥離後)の耐性に関しては考慮されていない。従来からのカード類へ転写される場合(多くの場合塩化ビニル製カード)には、被転写材(カード)の耐熱性(ガラス転移温度:70℃前後)が十分でないため、転写後の耐熱性は不要であった。また、近年になり、紙媒体への転写が主流と変わりつつあり、特に商品券や紙幣を例に挙げると、サイフやポケットに入れておいたまま気づかずに水または温水で洗濯をしてしまい接着層が白濁または発泡してしまうことが考えられる。また、使用者の不注意によってお茶などの沸騰水あるいはお酒などのアルコール類が転写シートにかかってしまい接着層が白濁または発泡してしまうことが想定される。
【0007】
この様に、使用者の不注意であるにしても、偽造防止用に添付されたOVD媒体が、日常生活で起こり得る行為によって、接着層の白濁や発泡による転写シートの白化の発生、非回折構造部の白濁または発泡、また、紙媒体から部分的でもはく離を生じることは好ましくない。このような現象が生じた場合、有価証券類の偽造とみなされる可能性があり、偽造は犯罪行為であるため、善良な使用者に被害が及ぶことは避けねばならない課題である。
【0008】
本発明は上記課題を解決するために提案されたものであり、転写された後の接着層に耐性及び接着性を強化し、水や沸騰水あるいはアルコール類に浸漬しても接着層に発泡や白濁および剥離の発生しない部分的回折構造転写シートを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は特定の材料設計をした耐性接着層を有する転写シートを用いることにより上記課題を解決できることを見出した。
【0010】
請求項1記載の発明は、耐熱性を有するシート状の支持体上に、該支持体に近い側から、少なくとも、該支持体から剥離が可能な耐熱性保護層、回折光を発生させるための微小な凹凸面を有する透明な回折構造形成層、該凹凸面に薄膜が部分的に設けられた回折効果層、少なくとも該回折効果層が有る領域を覆うように設けてあるマスク層、及び、該マスク層の面と該マスク層が無い回折構造形成層の面を覆うように設けてある耐性接着層、以上を具備した部分的回折構造転写シートであって、その該耐性接着層を剛体振り子型物性試験器により測定(測定条件:パイプエッジ:直径4mm、フレーム重さ:45g)した場合、測定温度30℃における対数減衰率が0.020〜0.050であることを特徴とする耐性接着部分的回折構造転写シートを提供する。
【0011】
請求項2記載の発明は、耐熱性を有するシート状の支持体上に、該支持体に近い側から、少なくとも、該支持体から剥離が可能な耐熱性保護層、回折光を発生させるための微小な凹凸面を有する透明な回折構造形成層、該凹凸面に薄膜が部分的に設けられた回折効果層、少なくとも該回折効果層が有る領域を覆うように設けてあるマスク層、及び、該マスク層の面と該マスク層が無い回折構造形成層の面を覆うように設けてある耐性接着層、以上を具備した部分的回折構造転写シートであって、その該耐性接着層を剛体振り子型物性試験器により測定(測定条件:パイプエッジの直径4mm、フレーム重さ45g)した場合、測定温度100℃における対数減衰率が0.040〜0.070であることを特徴とする耐性接着部分的回折構造転写シートを提供する。
【0012】
請求項3記載の発明は、耐熱性を有するシート状の支持体上に、該支持体に近い側から、少なくとも、該支持体から剥離が可能な耐熱性保護層、回折光を発生させるための微小な凹凸面を有する透明な回折構造形成層、該凹凸面に薄膜が部分的に設けられた回折効果層、少なくとも該回折効果層が有る領域を覆うように設けてあるマスク層、及び、該マスク層の面と該マスク層が無い回折構造形成層の面を覆うように設けてある耐性接着層、以上を具備した部分的回折構造転写シートであって、その該耐性接着層を剛体振り子型物性試験器により測定(測定条件:パイプエッジの直径4mm、フレーム重さ45g)した場合、測定温度100℃の対数減衰率と測定温度30℃の対数減衰率の差が0.000〜0.030であることを特徴とする耐性接着部分的回折構造転写シートを提供する。
【0013】
請求項4記載の耐性接着層の材料が酸、アルカリ、水もしくはアルコール類に対する耐性を有しており、少なくともアクリル樹脂を含むことを特徴とする耐性接着部分的回折構造転写シートである。
【0014】
請求項5記載の耐性接着層の材料が、すくなくとも無機酸化物フィラーを固形分5重量%以上含むことを特徴とする耐性接着部分的回折構造転写シートである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の耐性接着部分的回折構造転写シートを用いれば、沸騰水やアルコール類に浸漬されても、耐性接着部分的回折構造転写シートの接着層の白濁や発泡が防止され、シートの透明性を維持するものとなる。本発明により、物品への貼付後に優れた耐性を有した耐性接着部分的回折構造転写シートを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の耐熱接着部分的回折構造転写シートは、本発明者の次の知見に基づくものである。剛体振り子型物性試験器による測定(以下剛体振り子測定)は、被測定物質上に振り子を乗せ、その振り子を振動させながら被測定物質に温度を連続的に変化させて測定すると動的粘弾性が測定できる装置である。この装置ではデータの1つとして対数減衰率が測定される。物質は硬化・乾燥すると、物質を構成している成分は化学反応によって分子量が増大する。これを化学的橋かけと呼ぶ。一方、鎖状分子は熱によって運動し、糸がもつれる現象が発生し、物理的橋かけとなる。さらに物質に無機酸化物等のフィラーが入ると、フィラーに物質が吸着し、物理化学的橋かけとなり、これらの効果は分子量の増大の形で発現する。橋かけ量が少ないと粘性が大きいため、振動にブレーキがかかり振動は減衰し、対数減衰率を大きくする。同じく橋かけ量が多いと網目が緻密になり剛直性が出て温度が高くなっても粘性が低くなり、振動にブレーキがかからず対数減衰率が小さくなる。したがって、対数減衰率を評価することによって、橋かけの生成による粘性の変化が測定できる。
【0017】
転写シートは熱圧着によって、紙などの媒体に転写される。この時の接着機構としては、転写シートの接着層が紙繊維の隙間に侵入して接着するアンカー効果が支配的である。したがって、熱圧着時に紙繊維に侵入できる程度の粘性を有していなければならない。発明者らの鋭意研究の結果、この時の対数減衰率は測定温度30℃で約0.020以上必要であることを見出した。また、紙への転写後に想定される環境に対しては常温の水や100℃の沸騰水あるいはアルコール類に耐性を有しない接着層は、100℃以上の温度で粘性が大きくなることを見出した。この時の対数減衰率は測定温度100℃で0.070より大きく、接着層の白濁や発泡あるいは転写シートと紙との剥離の原因となる。
【0018】
これに対して、接着層に耐性機能を付与することにより転写後想定される100℃の熱における粘性の変化を測定温度100℃と30℃の対数減衰率の差が0.000〜0.030に調整することにより、沸騰水あるいはアルコール類などよる接着層の白濁や発泡を抑えることができる。
【0019】
以下に、本発明の実施の形態を図面により詳細に説明する。
図1、図2は、本発明に係る回折構造転写シートの一実施例を示す断面図である。図1、図2に示したように、本発明による回折構造転写シートは、少なくとも、支持体1上に保護層2、回折光を発生させるための微少な凹凸面を有する回折構造形成層3、部分的に設けられた回折効果層4、マスク層5、接着層6が少なくとも設けられたことを特徴とした構成である。この転写シートを用いれば、ホットスタンプ等の手段を用いて、様々な物品に対してかなりの自由度をもって、ほぼ任意の形状に回折構造を有する偽造防止媒体が形成可能となる。すなわち、被転写材と接着層に熱および圧を与えることによって接着させた後、不要な支持体を剥してしまうことにより、偽造防止用の媒体を形成することが可能となる(図示せず)。
【0020】
図3に接着層を剛体振り子型物性試験器により測定した測定温度に対する対数減衰率の関係を示した一例である。被測定物質に熱を加えると7までは物質の構造が運動しないため対数減衰率は変化しない。ところが、8では物質の構造が運動する温度になったため粘性が増加して、対数減衰率が大きくなる。9は物質構造が全て運動状態になり、粘性は温度との関係式にしたがって減少するため、対数減衰率は低下する。10はその変化点としてピークが現われる。さらに、11は測定温度が上昇するとその系での最低粘性まで低下するため対数減衰率は平衡になる。
【0021】
支持体1としては厚みが安定しており、かつ耐熱性の高いポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムを用いるのが一般的であるが、これに限るものではない。その他の材料としては、ポリエチレンナフタレート樹脂フィルム、ポリイミド樹脂フィルム等が耐熱性の高いフィルムとして知られており、同様の目的で使用することが可能である。また、他のフィルム、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、耐熱塩化ビニル等の材料でも、塗液の塗工条件、さらに言えば乾燥条件が許せば使用可能である。
また、転写条件等により保護層2の剥離が困難である場合には、支持体側に別途従来既知の離形層を設けても良く、剥離が軽すぎる場合には同様に従来既知の易接着処理を行って剥離を調整しても良い。また、転写層への影響が無い限りは、帯電防止処理やマット加工、エンボス処理等の加工をしても何ら問題は無い。
【0022】
保護層2は、支持体1から剥がれる層であり、剥離した後は回折構造形成層3の上を覆うように形成されていることになって、機械的損傷や携帯時の擦り等の外部損傷、生活物質(酒、水等)に対する耐性を備え、外的要因(特に本発明においては沸騰水)による損傷を保護する役目も兼ねている。これらの性能および耐性を有していれば従来から公知の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線あるいは電子線硬化性樹脂のいずれの材料も使用することができる。その例として、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネイト樹脂、ポリアミドイミド樹脂等の熱可塑性樹脂やウレタン系硬化樹脂や、メラミン硬化樹脂、エポキシ硬化樹脂等の熱硬化樹脂、エポキシ(メタ)アクリル、ウレタン(メタ)クリレート等の紫外線あるいは電子線硬化樹脂が挙げられるがこれに限定されるものではない。
【0023】
また、保護層中には、耐摩擦性を付与する目的で、従来既知の滑剤を添加することが可能である。これら滑剤は公知の材料であれば適宜選択し添加可能である。
【0024】
OVDの作用・効果で云う前記の構造色を発現する回折構造形成層3は、主に光の干渉を利用した画像を呈するものがあり、立体画像の表現や見る角度により色の変化を生じる(即ちカラーシフトする)表示体である。この構造色に関わる具体例には、コレステリック液晶を材料として利用したものや、光学多層干渉膜、ホログラムとか回折格子のごときOVDがある。
【0025】
回折構造形成層3は、光学現象による構造色を発現する層であり、レリーフ型のOVDの場合には、プレス版にて成形可能であるという性能が要求され、その主となる材質は熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線あるいは電子線硬化性樹脂のいずれであっても良い。
回折構造形成層3に使用可能な材料は、例えば、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、セルロース系樹脂、ビニル系樹脂等の熱可塑性樹脂や、反応性水酸基を有するアクリルポリオールやポリエステルポリオール等にポリイソシアネートを架橋剤として添加、架橋したウレタン樹脂や、メラミン系樹脂、フェノール系樹脂等の熱硬化樹脂、エポキシ(メタ)アクリル、ウレタン(メタ)アクリレート等の紫外線あるいは電子線硬化樹脂を、単独もしくはこれらを複合して使用できる。また、上記以外のものであっても、OVD画像を形成可能であれば適宜使用してよい。
【0026】
回折効果層4は、回折構造形成層3に設けられたOVD画像を効果的に認識させるための層であり、用いる材料は反射膜の場合、Al、Sn、Cr、Ni、Cu、又は、Au、等の金属材料の単体か、若しくは、その化合物が挙げられる。
【0027】
マスク層5は、酸やアルカリに対する耐久性を持っていることが好ましい。その理由としては、上述した回折効果層4を部分的に設ける手段として、マスク層5を設けた後にエッチング処理を施すと効率が良いからである。材料としてはニトロセルロース、塩化ビニルおよび酢酸ビニルやその共重合体、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂等を挙げることができるが、これに限定されるものでは無い。その他、収縮等の問題無き場合には、熱硬化系、湿気硬化系、紫外線硬化系、電子線硬化系樹脂等を使用しても良い。
また、一般的なエッチング手法として一例を挙げると、40〜50℃程度に熱した1.5NのNaOH溶液中に、10〜20秒浸すものであるため、2倍の40秒程度浸して塗膜に変化なければ十分な耐性があると判断される。上述した耐熱材料は、十分な化学薬品に対する耐性を有している。
【0028】
耐性接着層6は、様々な被転写材(例えば、紙・プラスチック)に接した状態で熱および圧力を与えられることにより、被転写材に接着する機能を有するアクリル樹脂のような公知の感熱樹脂(感熱性接着材料)が使用される。また、耐熱性および箔切れ性を良くするために無機酸化物フィラーを固形分20wt%以上添加する。無機酸化物フィラーとしては
酸化珪素、二酸化チタンまたはそれらの混合が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
また、意匠性を向上すべく各層を着色することや表面もしくは層間に印刷を施す等、使用の目的により適宜利用可能である。また、各層の接着性を鑑みて、各層間に接着アンカー層を設けることや、コロナ放電処理・プラズマ処理・フレーム処理等の各種易接着処理を施すことも可能である。
【実施例1】
【0030】
以下に本発明の実施例を具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0031】
[剛体振り子型物性試験器による接着層の対数減衰率の測定]
測定装置は、(株)エー・アンド・デイ製RPT-3000Wを用いた。フレーム形状(振り子)はパイプ直径4mm、フレーム重さ45gのRBP-040を用いた。測定温度範囲は30℃から230℃とし、昇温速度は20℃/min、測定幅は20mmで専用のアルミニウム板に試料を固定した。これらの条件で接着層に対して3箇所の対数減衰率を測定し、その平均値を各実施例の対数減衰率のデータとした。
【0032】
<実施例1>
本実施例においては、図1の構成を代表例として説明する。
厚み25μmの透明ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムから成る支持体1に保護層2として下記組成物からなるインキを塗布・乾燥後の膜厚が2μmとなる様に設けた。次に、回折構造形成層3として、下記組成物からなるインキを塗布し、150℃10秒間の焼き付け乾燥後の膜厚が1μmとなる様に設けた。次いで、ロールエンボス法によりOVDレリーフパターンを形成(図示せず)した後、光反射性の回折効果層4として、アルミニウムを真空蒸着法にて50nmの膜厚となる様に形成した。次に、マスク層5として以下の組成物からなるインキをパターン印刷し、乾燥後の膜厚が1mmとなる様に形成した。次に、上記作成された転写シート(中間品)を、50℃に加熱された1.5NのNaOH溶液が入った浴槽に10秒間浸漬してエッチングした後、0.1NのHCl溶液にて中和し、その後水洗・乾燥工程を経て所望の部分的に形成された回折効果層4及び、マスク層5を得た。ここで、マスク層5は、回折効果層4上にしか存在していないことが確認された。最後に、回折構造形成層3及び、マスク層5の全面を覆うように下記組成物からなるインキを用いて、接着層6を塗布・乾燥後の膜厚が1mmとなる様に形成し、所望の耐性接着部分的回折構造転写シートを得た。以下に各インキ成分の配合比(固形分wt%)を示す。

「保護層インキ組成物」
アクリル樹脂(Tg:105℃) 98.7wt%
ポリエチレンパウダー 1.3wt%


「回折構造形成層インキ組成物」
ウレタン樹脂 100wt%


「マスク層インキ組成物」
塩化ビニル酢酸ビニル共重合体 66.7wt%
沈降性硫酸バリウム(比重5.5) 33.3wt%


「接着層インキ組成物」
塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂 7.2wt%
アクリル樹脂 34.4wt%
ポリエステル樹脂 3.9wt%
シリカ 54.5wt%

【0033】
<実施例2>
実施例2として、接着層6のインキ成分を変えた点を除き、全て実施例1と同一の組成・加工にて部分的回折構造転写シートを得た。なお、接着層インキの組成を以下に記す。

「接着層インキ組成物」
塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂 7.0wt%
アクリル樹脂 35.6wt%
二酸化チタン 2.0wt%
シリカ 55.4wt%

【0034】
<比較例1>
比較例1として、接着層6のインキ成分を変えた点を除き、すべて実施例1と同一の組成・加工にて部分的回折構造転写シートを得た。なお、接着層インキの組成を以下に記す。

「接着層インキ組成物」
塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂 25.4wt%
アクリル樹脂 27.3wt%
シリカ 27.3wt%

【0035】
<比較例2>
比較例2として、接着層6のインキ成分を変えた点を除き、すべて実施例1と同一の組成・加工にて部分的回折構造転写シートを得た。なお、接着層インキの組成を以下に記す。

「接着層インキ組成物」
塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂 28.8wt%
アクリル樹脂 48.1wt%
シリカ 23.1wt%

【0036】
<比較例3>
比較例3として、接着層6のインキ成分を変えた点を除き、すべて実施例1と同一の組成・加工にて部分的回折構造転写シートを得た。なお、接着層インキの組成を以下に記す。

「接着層インキ組成物」
塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂 13.0wt%
アクリル樹脂 48.1wt%
ポリエステル樹脂 7.3wt%
シリカ 44.0wt%

【0037】
上記製造された転写シートの評価を行った。転写シートの接着層に対して剛体振り子型物性試験器を用いて、測定温度30℃から230℃までの対数減衰率の測定を行い、30℃及び100℃の対数減衰率を求め、さらに、測定温度30℃と測定温度100℃の対数減衰率の差を求めた。
転写シートは被転写材として厚み約200mmの上質紙上に、版面温度120℃、2000kg/cm2の圧力でホットスタンプを行った(加圧時間は0.3秒)。上記貼付された転写シートを沸騰水(蒸留水:温度100℃)に30分間浸した後、転写シートの状態を目視観察し、白濁、発泡、皺があったものを×とした。次に、転写シートをエタノールに浸漬した。ここでも、転写シートの状態を目視観察し、白濁、発泡、皺があったものを×とした。それぞれの結果を表1に記す。
【0038】
【表1】

【0039】
以上のように、実施例1及び2は対数減衰率の値が30℃及び100℃の請求項1、2の範囲に、また、対数減衰率100℃と30℃の差が請求項3の範囲にすべて入り、その時に接着層が耐性を有している。一方、比較例1及至3は対数減衰率の値が1つでも請求項1及至3の範囲内に入らない場合、接着層は耐性が十分でなく、実生活環境において耐えられるものではなかった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は商品券やクレジットカード等の有価証券類の偽造防止対策や、ブランド品や高級品等の一般的に高価なものへの適用希望が多い真正品であることを証明するための偽造防止対策に用いられる偽造防止転写シートに利用できる。

【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明による耐熱接着部分的回折構造転写シート一実施例を示す断面図である。
【図2】本発明による耐熱接着部分的回折構造転写シート一実施例を示す断面図である。
【図3】接着層を剛体振り子型物性試験器により測定した測定温度に対する対数減衰率の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
1・・・支持体
2・・・保護層
3・・・回折構造形成層
4・・・回折効果層
5・・・マスク層
6・・・耐性接着層
7・・・物質の構造が運動しないため対数減衰率は変化しない領域
8・・・物質の構造が運動する温度になったため対数減衰率が大きくなる領域
9・・・物質の構造が全て運動状態になり対数減衰率は低下する領域
10・・物質の構造の運動状態の変化点
11・・物質の構造が最低粘性まで低下し対数減衰率は平衡になる領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱性を有するシート状の支持体上に、該支持体に近い側から、少なくとも、該支持体から剥離が可能な耐熱性保護層、回折光を発生させるための微小な凹凸面を有する透明な回折構造形成層、該凹凸面に薄膜が部分的に設けられた回折効果層、少なくとも該回折効果層が有る領域を覆うように設けてあるマスク層、及び、該マスク層の面と該マスク層が無い回折構造形成層の面を覆うように設けてある耐性接着層、以上を具備した部分的回折構造転写シートであって、その該耐性接着層を剛体振り子型物性試験器により測定(測定条件:パイプエッジ:直径4mm、フレーム重さ:45g)した場合、測定温度30℃における対数減衰率が0.020〜0.050であることを特徴とする耐性接着部分的回折構造転写シート。
【請求項2】
耐熱性を有するシート状の支持体上に、該支持体に近い側から、少なくとも、該支持体から剥離が可能な耐熱性保護層、回折光を発生させるための微小な凹凸面を有する透明な回折構造形成層、該凹凸面に薄膜が部分的に設けられた回折効果層、少なくとも該回折効果層が有る領域を覆うように設けてあるマスク層、及び、該マスク層の面と該マスク層が無い回折構造形成層の面を覆うように設けてある耐性接着層、以上を具備した部分的回折構造転写シートであって、その該耐性接着層を剛体振り子型物性試験器により測定(測定条件:パイプエッジの直径4mm、フレーム重さ45g)した場合、測定温度100℃における対数減衰率が0.040〜0.070であることを特徴とする耐性接着部分的回折構造転写シート。
【請求項3】
耐熱性を有するシート状の支持体上に、該支持体に近い側から、少なくとも、該支持体から剥離が可能な耐熱性保護層、回折光を発生させるための微小な凹凸面を有する透明な回折構造形成層、該凹凸面に薄膜が部分的に設けられた回折効果層、少なくとも該回折効果層が有る領域を覆うように設けてあるマスク層、及び、該マスク層の面と該マスク層が無い回折構造形成層の面を覆うように設けてある耐性接着層、以上を具備した部分的回折構造転写シートであって、その該耐性接着層を剛体振り子型物性試験器により測定(測定条件:パイプエッジの直径4mm、フレーム重さ45g)した場合、測定温度100℃の対数減衰率と測定温度30℃の対数減衰率の差が0.000〜0.030であることを特徴とする耐性接着部分的回折構造転写シート。
【請求項4】
前記耐性接着層の材料は、酸、アルカリ、水もしくはアルコール類に対する耐性を有しており、少なくともアクリル樹脂を含むことを特徴とする請求項1及至3のいずれかに記載の耐性接着部分的回折構造転写シート。
【請求項5】
前記耐性接着層の材料は、すくなくとも無機酸化物フィラーを固形分5重量%以上含むことを特徴とする請求項1及至4のいずれかに記載の耐性接着部分的回折構造転写シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−312266(P2006−312266A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−135674(P2005−135674)
【出願日】平成17年5月9日(2005.5.9)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】