説明

耐指紋性フィルム及びその製造方法

【課題】透明基材上に耐指紋層を形成した耐指紋性フィルムにおいて、その表面硬度を高めると共に、耐摩耗性などを向上させる。
【解決手段】ベースフィルム1の上に、離型剤を塗布することによって離型層2を形成する。離型層2の上に、耐指紋層材料を塗工し硬化させることによって、耐指紋層3を形成する。透明基材層材料として、紫外線硬化型のアクリル系樹脂組成物を、ラミネートフィルム5で覆ってキャスト法で成膜することによって透明基材層4を形成する。耐指紋層3から、離型層2及びベースフィルム1を剥離するすると共に、透明基材層4からラミネートフィルム5を剥離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種ディスプレイの表面に設ける耐指紋性フィルム、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
陰極管表示装置(CRT)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、液晶表示装置(LCD)、プロジェクションディスプレイ、エレクトロルミネセンスディスプレイ(ELD)といった様々な表示装置において、ディスプレイの表面を手で触れたりすることによって、その表面に指紋などの汚れが付着して画面が不鮮明になることがある。
そこで、ディスプレイの表面に耐指紋性フィルムを貼り付けることによって、ディスプレイ表面の汚れを抑える方法がとられている。
【0003】
この耐指紋性フィルムは、一般に、透明なプラスチックフィルムの上に、耐指紋性を有する耐指紋層が積層されて構成されていて、耐指紋層は紫外線硬化型樹脂で形成されている。
このような耐指紋性フィルムを表示装置の表面に貼付けると、その表面を手で触っても指紋の跡が目立ちにくくなったり、指紋の跡を拭き取ることによって目立たなくなったりするので、長期にわたって鮮明な画像が得られる。
【0004】
ところで、このような耐指紋性フィルムにおいて、耐指紋性と共に、表面の耐摩耗性やすべり性も併せて求められている。
そのために、耐指紋性フィルムとして、透明フィルム上に形成する、ポリシロキサンなどの成分を含むハードコート層を形成したものも開発されている。
例えば、特許文献1には、トリアセチルセルロースフィルムの一方の面上に、プライマー層を介してハードコート層を形成したハードコートフィルムが開示され、その表面の鉛筆硬度が3H以上で、水やヘキサデカンの接触角が大きいことが示されている。
【0005】
また、特許文献2には、プラスチックフィルムの一方の面に、紫外線硬化型の樹脂でハードコート層を形成し、他方の面に、接着層を介して印刷シートに積層された積層体が開示されている。このハードコート層の表面にはフッ素原子あるいはケイ素原子を含む有機基を有し、表面の水の接触角が大きくなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−38945号公報
【特許文献2】特開2005−319661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のようにプラスチックフィルムの表面にハードコート層を設けることによって、表面の硬度を鉛筆硬度で3H程度に高くすることができ、耐摩耗性や耐擦傷性を向上させることができるが、さらに、表面硬度の高い耐指紋性フィルムを安定して得ることが望まれる。また、ハードコート材料を塗り重ねるだけでは、基材とハードコート層の密着が十分ではないため、太陽光線照射や高温高湿度等の影響により膜剥離が生じることもある。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑み、透明基材上に耐指紋層を形成した耐指紋性フィルムにおいて、その表面硬度をさらに高めることができ、耐久性に優れたものを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明にかかる耐指紋性フィルムの製造方法では、第1基材の上に、硬化型の樹脂材料からなる耐指紋層を形成する耐指紋層形成工程と、耐指紋層上に、電離放射線硬化型樹脂組成物を塗布した後、電離放射線を照射して硬化させることによって透明基材層を形成する透明基材層形成工程と、耐指紋層から第1基材を剥離する剥離工程とを設けた。
【0010】
ここで、上記基材層形成工程において、塗工された電離放射線硬化型樹脂組成物を第2基材で被覆してラミネートした状態で電離放射線を照射して当該電離放射線硬化型樹脂組成物を硬化させ、剥離工程において、耐指紋層から第1基材を剥離すると共に、透明基材層から第2基材を剥離することが好ましい。
また、耐指紋層形成工程の前に、第1基材の上に、離型材からなる離型層を形成する離型層形成工程を設け、耐指紋層形成工程では、離型層の上に耐指紋層を形成することが好ましい。
【0011】
上記電離放射線硬化型樹脂組成物が、架橋を形成するアクリル系樹脂または架橋を形成するアクリル系樹脂と無機酸化物を成分とすることが好ましい。
また、上記目的を達成するため、本発明にかかる耐指紋性フィルムは、電離放射線硬化型樹脂組成物からなる透明基材層の上に、硬化型の樹脂材料からなる耐指紋層が積層されてなり、透明基材層と耐指紋層とが接する界面において両層が結合している構成とした。
【0012】
ここで、透明基材層と耐指紋層との界面における結合は、シロキサン結合や光ラジカル反応による結合で形成することが好ましい。
上記電離放射線硬化型樹脂組成物は、架橋を形成するアクリル系樹脂、または架橋を形成するアクリル系樹脂と無機酸化物を成分とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
上記本発明の耐指紋性フィルムの製造方法によれば、耐指紋層形成工程で、第1基材の上に、硬化型の樹脂材料からなる耐指紋層を形成し、透明基材層形成工程において、耐指紋層の上に、電離放射線硬化型樹脂組成物を塗布した後、電離放射線を照射して硬化させることによって透明基材層を形成する。
このように、電離放射線硬化型樹脂組成物を硬化させて透明基材層を作製しているので、形成される透明基材層自体も、通常のフィルムと比べて硬度が高い上に、透明基材層と耐指紋層との界面において、架橋部分が耐指紋層の材料に結合するので、界面における密着性も良好となる。
【0014】
透明基材層と耐指紋層との界面における密着性向上の要因としては、以下の2つが考えられる。
一つ目の要因として、例えば、耐指紋層にアクリル系の材料を用いた場合、通常アクリルモノマーは大気中で紫外線硬化を行なうと塗膜表面は大気中の酸素により反応が進行せず、耐指紋層の表面には未反応のアクリル成分が残留する。その後、耐指紋層上に電離放射線硬化型樹脂組成物を塗布した後、電離放射線を照射して硬化させると、耐指紋層の表面に残存する未反応のアクリル成分と、電離放射線硬化型樹脂組成物中のアクリル成分が、お互いに光ラジカル反応することによって、界面で結合が進むためと考えられる。
【0015】
二つ目の要因として、耐指紋層の無機酸化物中に有するシラノール基が電離放射線硬化型樹脂組成物中に含まれる水酸基等の種々の官能基や含有する無機酸化物中のシラノール基が反応し、界面間でシロキサン結合等が形成されるためと考えられる。
従って、上記製造方法によって製造された耐指紋性フィルムは、硬度が高く、耐摩耗性も良好である。
【0016】
また、本発明の耐指紋性フィルムの製造方法によれば、比較的柔軟性の乏しい透明基材層であっても、耐指紋層よりも後に形成されるので、ロール・ツー・ロール加工で製造する上でも有利である。
ここで、上記基材層形成工程において、塗工された電離放射線硬化型樹脂組成物を第2基材で被覆してラミネートした状態で電離放射線を照射して当該電離放射線硬化型樹脂組成物を硬化させ、剥離工程において、耐指紋層から第1基材を剥離すると共に、透明基材層から第2基材を剥離すれば、透明基材層の膜厚を均一的に形成でき、作製される耐指紋性フィルムに反りも生じにくい。
【0017】
また電離放射線硬化型樹脂組成物が硬化反応において酸素阻害性のある材料の場合でも、第1基材と第2基材とで大気から隔離するため、酸素の侵入を防止できる。
本発明の製造方法において、耐指紋層形成工程の前に、第1基材の上に、離型材からなる離型層を形成する離型層形成工程を設け、耐指紋層形成工程では、離型層の上に耐指紋層を形成するようにすれば、剥離工程において、第1基材と耐指紋層との間に離型層が介在しているので、第1基材が耐指紋層から良好に剥離される。
【0018】
従って、剥離後の耐指紋層の表面状態が良好なものとなる。
また、本発明にかかる耐指紋性フィルムは、透明基材層と耐指紋層とが接する界面において両層が結合している構成となっているので、上記製造方法で説明したのと同様の理由で、高い硬度が得られ、耐摩耗性も良好である。
ここで、透明基材層における架橋を、シロキサン結合や光ラジカル反応による結合で形成すれば、透明基材層を高硬度にすることができ、透明基材層と耐指紋層との密着性もより向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】耐指紋性フィルム20を製造する方法を示す図である。
【図2】耐指紋性フィルム20の構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、耐指紋性フィルム20を製造する方法を示す図、図2は、耐指紋性フィルム20の構成を模式的に示す図である。
<耐指紋性フィルム20>
図2に示すように、耐指紋性フィルム20は、透明基材層4の上に耐指紋層3が積層されて構成されるフィルムである。
【0021】
透明基材層4は、電離放射線硬化型の樹脂、中でもアクリル系樹脂が架橋されて硬化した材料からなる層であり、有機高分子セグメント及び無機セグメントを構成要素とする有機−無機共重合体で形成されていることが好ましい。透明基材層4の厚みは特に限定はないが、耐久性、可撓性などを勘案して、20〜500μmが好ましく、50〜300μmがより好ましく、100〜250μmがさらに好ましい。
【0022】
このように透明基材層4は、架橋型のアクリル系樹脂をはじめとする電離放射線硬化型の樹脂で形成されるので、基材の硬度が高く、特に有機高分子セグメント及び無機セグメントの両方を構成要素と含む共重合樹脂で形成することによって、鉛筆硬度3H〜9Hの高硬度基材層が得られる。
耐指紋層3は、アクリル系硬化樹脂からなる厚み1μm〜10μm程度のハードコート層であり、透明基材層4の表面上を覆うことによって、透明基材層4の表面の耐指紋性を向上させる。
【0023】
耐指紋層3を構成するアクリル系硬化樹脂としては、ポリウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ポリオールアクリレートなどのアクリル系樹脂、特に、ウレタン結合を介したポリエーテル構造を有することが好ましい。また、この耐指紋層3に、ポリシロキサンが含まれていることも好ましい。
そして、上記透明基材層4の中に形成されている架橋は、耐指紋層3における界面7の近傍に存在する基にも及んでいる。
【0024】
このような耐指紋性フィルムは、透明基材層4側が画像表示装置の表面に貼り付けられ、耐指紋層3が外側に露出される。
このような耐指紋層3は、耐指紋性が優れた層なので、その表面を手で触っても指紋の跡が目立ちにくく、拭き取ることによってさらに目立たなくなる。
また、透明基材層4は、架橋を形成するアクリル系樹脂組成物を硬化させて形成されているので、透明基材層自体の硬度が高い上に、透明基材層4と耐指紋層3との界面において、架橋部分が耐指紋層3の材料に結合しているので、界面における密着性も良好となる、
従って、過酷な光照射環境や高温高湿環境においても安定なので、基材劣化に起因する剥離も発生し難い。
【0025】
以上のように、耐指紋性フィルム20は、耐指紋性が優れると共に、表面の耐摩耗性やすべり性も優れる。
<耐指紋性フィルム20の製造方法>
図1を参照しながら耐指紋性フィルム20を製造する方法を説明する。
1.図1(a),(b)に示すように、ベースフィルム1の上に、離型剤を塗布することによって離型層2を形成する。
【0026】
この離型剤としては、一般的なフッ素系樹脂からなる離型剤を用いることができる。
紫外線硬化型の離型性HC材料を塗工し、UV光を照射して硬化させることによって離型層2を形成する。
離型層2の表面をコロナ処理することが好ましい。
以上で、ベースフィルム1上に離型層2が積層されてなる離型用基材10が作製される。
【0027】
なお、ベースフィルム成型時に離型剤を混入することで、ベースフィルム自体に離型性を付与してもよい。
2.図1(c)に示すように、離型用基材10における離型層2の上に耐指紋層3を形成する。
耐指紋層3の形成方法を、以下に示す。
【0028】
耐指紋層3を形成は、アクリル系の硬化性樹脂組成物を耐指紋層の材料として用い、この材料を、離型用基材10における離型層2の上に塗工し、溶媒を除去した後、UV光を照射して硬化させることによって、耐指紋層3が形成される。
耐指紋層3の材料には、紫外線硬化型のアクリル変性ポリシロキサン組成物、あるいは、紫外線硬化型のアクリル変性ポリシロキサンに、アクリル基含有イソシアネート系化合物を混合した組成物、紫外線硬化型のアクリル系樹脂組成物などが用いられる。
【0029】
この樹脂組成物には、以下に列挙するような架橋性オリゴマー、単官能または多官能モノマー、光重合開始剤、光開始助剤などが含まれる。
架橋性オリゴマーとしては、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリートオリゴマーが好ましい。
【0030】
より具体的には、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA型エポキシアクリレート、ポリウレタンのジアクリレート、クレゾールノボラック型エポキシ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
単官能または多官能モノマーとしては、(メタ)アクリル酸エステル等の(メタ)アクリルモノマーが好ましい。
【0031】
具体的には、2官能の(メタ)アクリル酸エステルとしてトリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。3官能の(メタ)アクリル酸エステルとして、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等が挙げられ、4官能の(メタ)アクリル酸エステルとして、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等が挙げられ、6官能の(メタ)アクリル酸エステルとして、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等が挙げられる。
【0032】
光重合開始剤として、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンジルメチルケタールなどのベンゾイン、並びにそのアルキルエーテル類が挙げられ、そのほかに、アセトフェノン類、チオキサントン類、ケタール類、ベンゾフェノン類及びアゾ化合物などの光重合開始剤も挙げられる。
さらに、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミンなどの第3級アミン;2-ジメチルアミノエチル安息香酸、4-ジメチルアミノ安息香酸エチルなどの安息香酸誘導体等の光開始助剤などを組み合わせることもできる。
【0033】
このような耐指紋層材料を、離型用基材10における離型層2の上に、ロールコータなどで塗工し、溶媒を除去した後、高圧水銀灯等を用いてUV光を照射して硬化させることによって、ハードコート層である耐指紋層3が形成される。
3.図1(d)に示すように耐指紋層3の上に透明基材層4を形成する。
透明基材層4は、電離放射線硬化型樹脂組成物を塗布した後、紫外線や電子線等を照射して硬化させることによって形成する。
【0034】
ここでは、透明基材層材料として、紫外線硬化型のアクリル系樹脂組成物を用い、耐指紋層3の上にキャスト法で成膜することによって透明基材層4を形成する例を示すが、透明基材層材料として、電子線硬化型のアクリル系樹脂組成物を用いても同様に実施できる。
透明基材層材料を耐指紋層3の上に塗布する方法は一般的な塗布方法を用いることができるが、好ましくは、耐指紋層3上に紫外線硬化型のアクリル系樹脂組成物を塗布し、これを挟み込みむように透明なラミネートフィルム5を積層し、ローラーで圧着することによってラミネートする。そして、このようにラミネートした状態で、ラミネートフィルム5の上からUV照射して、アクリル共重合樹脂組成物を硬化させることによって透明基材層4が形成される。
【0035】
上記のアクリル系樹脂組成物は、アクリル基を含むモノマー及びオリゴマーがブレンドされた樹脂成分に、光開始剤、充填材、安定剤、溶媒などが添加されてなる組成物である。 アクリル系のモノマーについては、3官能モノマーとして、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPT)あるいはそれのEO変性、PO変性物、ペンタエリスリトールトリアクリレート(PET−3A)が挙げられる。また、4官能モノマーとして、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、6官能モノマーとしては、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPE−6A)などが挙げられる。
【0036】
アクリル系オリゴマーとしては、アクリル基を含むウレタン系あるいはエポキシ系のオリゴマーが挙げられる。
一般に、オリゴマーの比率を高くすると、成膜後の可撓性が増加するが、硬度は低下する。従って、可撓性と硬度が両立して得られるように、これらモノマーとオリゴマーの比率を設定することが好ましい。
【0037】
重合開始剤としては、例えばチバ・スペシャリティー・ケミカルズ株式会社製イルガキュア907(2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1−オン)やイルガキュア184などの一般的な光重合開始剤を用いることができる。
溶剤としては、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、イソブチルアルコール(IBA)、エチルアルコール、メチルアルコール、ノルマルブチルアルコール(NBA)、シクロヘキサノン(CAN)、ジアセチルアセトン(DAA)、酢酸ブチル、酢酸エチル、イソプロピルアルコール(IPA)等を用いることができる。
【0038】
なお、上記のモノマーが溶媒を兼ねることもできるので、別途に溶剤を用いない場合もある。
上記アクリル系樹脂組成物を、耐指紋層3の上に塗工して、紫外線を照射すると、樹脂組成物に含まれるラジカル開始剤がラジカルを発生し、生成したラジカルを開始点として3次元状に架橋反応が進むので、形成される透明基材層4は、3次元架橋構造を有し、硬度、耐擦傷性などの機械強度に優れたものとなる。
【0039】
また、透明基材層4に架橋が形成されるときに、耐指紋層3における界面7の近傍領域に残っている未反応基とも結合して、耐指紋層3にもまたがって架橋が形成されるので、透明基材層4と耐指紋層3との密着強度も良好となる。
特に、透明基材層4を高硬度に形成するために、透明基材層4に無機セグメントであるシロキサン結合で架橋を形成することが好ましいが、そのために、ゾル・ゲル法を利用してアクリルモノマーとシロキサンを付加重合(ハイブリッド化)させて形成した共重合樹脂のオリゴマーを用いることが好ましい。
【0040】
より具体的には、「プラスチックハードコート材料の最新技術」(シーエムシー出版、2008)を参照することができる。
また、透明基材層4に、粒径100nm以下のシリカ微粒子(いわゆるナノシリカ)を分散させてもよい。
5.図1(e)に示すようにフィルム1,5を剥離する。
【0041】
耐指紋層3から、離型層2及びベースフィルム1を剥離するすると共に、透明基材層4からラミネートフィルム5を剥離する。この剥離工程では、ベースフィルム1の上に形成されている離型層2と耐指紋層3と間でスムースに剥離がなされるので、剥離後の耐指紋層3の表面状態も良好なものとなる。
以上で、透明基材層4上に耐指紋層3が積層された耐指紋性フィルム20が作製される。
【0042】
(上記製法による効果)
なお、上記1〜6の各工程は、ロール・ツー・ロール加工で連続的に行うこともでき、それによって、耐指紋性フィルムを効率よく製造することができる。
ところで、ロール・ツー・ロール加工を行う場合、透明基材層4は耐指紋層3と比べて厚みが大きく柔軟性に乏しいので、透明基材層4を形成する工程をできるだけ後で行う方が有利であるが、上記製法によれば、耐指紋層3よりも透明基材層4の方が後で形成されるので、ロール・ツー・ロール加工で耐指紋性フィルム20を製造する上でメリットがある。
【0043】
(実施の形態の変形など)
上記実施の形態では、ベースフィルム1の上に、離型剤を塗布することによって離型層2を形成し、離型層2の上に耐指紋層3を形成したが、ベースフィルム1の上に耐指紋層3を直接形成してもよい。ただし、離型層2を形成しておく方が、剥離工程においてベースフィルム1を容易に剥離できる。
【0044】
一方、剥離工程において、透明基材層4からラミネートフィルム5を容易に剥離できるように、予めラミネートフィルム5に離型層を形成しておいてもよい。
【実施例】
【0045】
実施の形態で説明した耐指紋性フィルム20の製造方法に関して、その具体例を以下に述べる。
1.ベースフィルム1として、二軸延伸PETフィルム(東洋紡績株式会社製「コスモシャイン A4100」厚み100μm)を用意する。
2.離型層2を形成する工程:
ベースフィルム1の上に、離型剤として、チッソ株式会社製ハードコートU1006を塗布し、UV光を照射して硬化することによって、離型層2を形成する。形成した離型層2の表面をコロナ処理する。
【0046】
以上で、ベースフィルム1上に離型層2が積層されてなる離型用基材10が作製される。
3.耐指紋層3の形成
耐指紋層の材料としては、いずれも日本ペイント株式会社製、ルシフラールG−720を用意する。この塗料をマイヤーバー(#10)で離型用基材10に塗布し、その後、60℃にて有機溶媒を揮発させるとともに樹脂を硬化させて耐指紋層3を形成する。
【0047】
4.透明基材層4の形成工程
4−1: 9Hタイプの透明基材層4を形成する例
紫外線硬化型アクリル系樹脂材料として、ペンタエリスリトールトリアクリレート(PET−3A)75重量部に対して、3官能ウレタンアクリレート(第一工業製薬製ニューフロンティアR1302)25重量部を混合したものを用意する。これに光重合開始剤(チバ・スペシャリティー・ケミカルズ株式会社製イルガキュア184)を5重量部混合することにより、樹脂組成物を作製する。
【0048】
この樹脂組成物を、マイヤーバー(#200)を用いて、耐指紋層3上に塗布する。
得られた塗布膜の表面にPETフィルムを貼合する。ラミネートフィルム5は、ベースフィルム1と同様のPETフィルムである。
この貼合を行う際に、塗布膜に気泡が入らないように留意し、塗膜の厚みが一定に保たれるように低押圧力で、ラミネートフィルム5をローラーで圧着しながら貼合する。
【0049】
このようにラミネートした状態の積層体に対し、外部から高圧水銀ランプ(管長1200mm、出力電力15kW)で紫外線を約10秒間照射して塗布膜を硬化する。
形成される透明基材層4は、無機セグメントと有機高分子セグメントを構成要素とする有機−無機共重合体からなり、ガラスと樹脂との中間的性質を有し、表面の鉛筆硬度は9Hである。
【0050】
透明基材層4の厚みは200μmである。
4−2: 3Hタイプの透明基材層4を形成する例
紫外線硬化型アクリル樹脂材料として、UV7600B(日本合成化学)を用意した。
光重合開始剤(チバ・スペシャリティー・ケミカルズ株式会社製イルガキュア184)を5重量部、メチルエチルケトンを5重量部先に混合した溶液を、このUV7600Bに添加混合して紫外線硬化塗料を作製する。
【0051】
この樹脂組成物を、マイヤーバー(#200)を用いて、耐指紋層3上に塗布する。塗布したフィルムを、乾燥オーブンにて80℃で5分間処理し、塗布膜中の溶媒を除去した。得られた塗布膜の表面にPETフィルムを設置・貼合して、外部より高圧水銀ランプ(管長1200mm、出力電力15kW)を用い、紫外線を約10秒間照射して塗布膜を硬化して透明基材層4を形成する。
【0052】
この製法で作製した透明基材層4の表面は鉛筆硬度3Hを有していることが確認できた。
5.剥離工程
耐指紋層3と離型層2との間を剥離すると共に、透明基材層4とラミネートフィルム5との間を剥離する。
【0053】
以上で、透明基材層4上に耐指紋層3が積層された耐指紋性フィルム20が作製される。
以上の製法で作製された耐指紋性フィルム20は、適度な屈曲性を有すると共に、非常に高硬度であることも確認した。
(性能試験)
上記実施例に基づいて、耐指紋性フィルム20を作製した。透明基材層4は、鉛筆硬度3H(3Hタイプ)及び9H(9Hタイプ)で作製した。
【0054】
また、比較例として、PET基材、並びに透明基材層4の材料を硬化させて作製した透明基材層(3Hタイプ)の上に、耐指紋層材料を直接塗布して耐指紋層を形成した耐指紋性フィルムも作製した。
【0055】
【表1】

表1において、No.1,2は透明基材層の上に耐指紋層を直塗りで形成した比較例にかかる耐指紋性フィルムであって、No.1は、PET基材の上に耐指紋層を直塗りで形成したものである。
【0056】
No.3〜5は、実施例にかかる耐指紋性フィルムであって、No.3,4は、耐指紋層の上に鉛筆硬度3Hの透明基材層(3Hタイプ)を塗布形成したもの、No.5は、耐指紋層の上に鉛筆硬度9Hの透明基材層(9Hタイプ)を塗布形成したものである。
なお、No.3は、耐指紋層を半硬化の状態で透明基材層を形成し、No.4,5は、耐指紋層を完全硬化の状態で透明基材層を形成した。ここで半硬化とは、耐指紋層塗布後に有機溶媒を揮発させたのみで、紫外線を照射せず、実質的な硬化反応はさせていない状態をいう。
【0057】
各サンプルの表面の鉛筆硬度を測定した。また、セロテープ(登録商標)で剥離試験を行った。
鉛筆硬度の測定は、「JIS K5400 8.4.1 鉛筆引っかき値 試験機法」に基づき実施した。
テープ剥離試験は、各サンプルの表面にニチバン株式会社製「セロテープ(登録商標)」を貼り、膜面に対し垂直方向にテープを瞬時にひき剥がし、目視にて剥離の有無を観察した。
【0058】
クロスカット剥離試験は、各サンプルの膜面をカッターで10×10にクロスカットした後に、同様にしてひき剥がし、目視にて剥離の有無を観察した。
各試験結果は表1に示すとおりであって、鉛筆硬度はいずれも3H以上あった。
特に、実施例にかかるNo.5は鉛筆硬度が9Hと高い。このように耐指紋層の表面硬度も高いのは、透明基材層が高硬度であり、且つ透明基材層と耐指紋層との密着性が良好であるためと考えられる。
【0059】
比較例にかかるNo.2は、クロスカット剥離が0/100であるのに対して、実施例にかかるNo.3,4はクロスカット剥離が100/100である。
この結果は、透明基材層上に耐指紋層を塗布形成した比較例にかかるNo.2と比べて、耐指紋層上に透明基材層を塗布形成した実施例にかかるNo.3,4の方が、耐指紋層と透明基材層との間の密着性が良好であることを示している。
【0060】
このように、実施例で耐指紋層と透明基材層との間の密着性が良好になったのは、耐指紋層の上に透明基材層材料を塗布して硬化させることによって、透明基材層に形成される架橋が耐指紋層との界面付近において耐指紋層材料にも結合しているためと考えられる。
耐指紋性の比較試験:
実施例にかかるNo.4の耐指紋性フィルム、比較例にかかるNo.2の耐指紋性フィルム、比較例にかかるフィルム基材(3Hタイプ基材のみ)について、指紋の目立ちやすさ、指紋の拭き取り性、すべり性を比較した。
【0061】
「指紋の目立ちやすさ」は、各フィルムの表面に指紋を付着し、付着した指紋の目立ちやすさを目視で比較評価した。
「指紋の拭き取り性」は、各フィルムの表面に指紋を付着し、コットンで拭き取った後、その指紋の目立ちやすさを目視で比較した。
「滑り性」は、各フィルムの表面を指で擦って、その滑りやすさを比較した。
【0062】
その結果、「指紋の目立ちやすさ」は、実施例(No.4)および比較例(NO.2)が、比較例(3Hタイプ基材)と比べて良好であった。
また、「指紋の拭き取り性」、「滑り性」については、実施例(No.4)、比較例(NO.2)、比較例(3Hタイプ基材)が、ほぼ同等であった。
スチールウール摺動試験:
実施例(No.4)、比較例(NO.2)、比較例(3Hタイプ基材)について、スチールウール摺動試験を行って、表面の耐擦傷性を評価した。
【0063】
その結果を表2に示す。
【0064】
【表2】

表2に示すように、比較例(3Hタイプ基材)では、10回で傷がみられたが、実施例(No.4)及び比較例(No.2)では、500回でも傷がみられず、耐擦傷性が良好である。
これより、透明基材層4に対して、耐指紋層を設けることによって耐擦傷性が向上することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明にかかる耐指紋性フィルムは、ディスプレイの表面に貼り付けることによって指紋などによる汚染を防ぐことができ、耐久性も向上するので、ディスプレイ表面の耐久性が必要な場合に特に適している。
【符号の説明】
【0066】
1 ベースフィルム
2 離型層
3 耐指紋層
4 透明基材層
5 ラミネートフィルム
10 離型用基材
20 耐指紋性フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1基材の上に、
硬化型の樹脂材料からなる耐指紋層を形成する耐指紋層形成工程と、
前記耐指紋層上に、電離放射線硬化型樹脂組成物を塗布した後、電離放射線を照射して硬化させることによって透明基材層を形成する透明基材層形成工程と、
前記耐指紋層から前記第1基材を剥離する剥離工程とを備えることを特徴とする耐指紋性フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記基材層形成工程において、
前記塗工された電離放射線硬化型樹脂組成物を第2基材で被覆してラミネートした状態で電離放射線を照射して当該電離放射線硬化型樹脂組成物を硬化させ、
前記剥離工程において、
前記耐指紋層から前記第1基材を剥離すると共に、前記透明基材層から前記第2基材を剥離することを特徴とする請求項1記載の耐指紋性フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記耐指紋層形成工程の前に、前記第1基材の上に、離型材からなる離型層を形成する離型層形成工程を備え、
前記耐指紋層形成工程では、前記離型層の上に前記耐指紋層を形成することを特徴とする請求項1又は2記載の耐指紋性フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記電離放射線硬化型樹脂組成物が、架橋を形成するアクリル系樹脂または架橋を形成するアクリル系樹脂と無機酸化物を成分とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の耐指紋性フィルムの製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか記載の製造方法で製造され、
電離放射線硬化型樹脂からなる透明基材層の上に、
アクリル系硬化樹脂からなる耐指紋層が積層されてなる耐指紋性フィルム。
【請求項6】
電離放射線硬化型樹脂組成物からなる透明基材層の上に、
硬化型の樹脂材料からなる耐指紋層が積層されてなり、
前記透明基材層と前記耐指紋層とが接する界面において両層が結合していることを特徴とする耐指紋性フィルム。
【請求項7】
前記透明基材層と前記耐指紋層とが接する界面における結合は、シロキサン結合、及び/または光ラジカル反応による結合により形成されていることを特徴とする請求項5又は6記載の耐指紋性フィルム。
【請求項8】
前記電離放射線硬化型樹脂組成物が、架橋を形成するアクリル系樹脂、または架橋を形成するアクリル系樹脂と無機酸化物を成分とすることを特徴とする請求項5〜7のいずれか記載の耐指紋性フィルム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−166480(P2012−166480A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−30233(P2011−30233)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】