説明

耐指紋性光硬化性組成物および耐指紋性コーティング層が設けられた塗装物

【課題】塗布などによる非常に簡便な工程によって物品の耐指紋性を向上させることができる、耐指紋性光硬化性組成物を提供する。
【解決手段】両末端それぞれに少なくとも1つの(メタ)アクリレート基を有する、ポリエーテル骨格含有ウレタン(メタ)アクリレート(A)、光重合性多官能化合物(B)、および光重合開始剤(C)、を含み、このポリエーテル骨格含有ウレタン(メタ)アクリレート(A)は、下記式(1):


[式中、Xは、ポリエーテル骨格を有するポリオール化合物の両末端の水酸基を除いた残基を示す。]で示される構造を有し、および該ポリエーテル骨格含有ウレタン(メタ)アクリレート(A)の水トレランスが6.0ml以下であり、溶解性パラメータが12以下である、耐指紋性光硬化性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性および耐指紋性に優れた耐指紋性コーティング層を付与することができる耐指紋性光硬化性組成物、およびこの耐指紋性光硬化性組成物から形成される耐指紋性コーティング層が設けられた耐指紋性フィルムおよび塗装物に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置(液晶ディスプレイ)は、近年、コンピュータ、ワードプロセッサ、テレビジョン、携帯電話、携帯情報端末機器、携帯型ゲーム機などといった様々な分野で使用されている。また、画面上の表示を押さえることによって機器を操作する機構を有する、いわゆるタッチパネルディスプレイが急速に普及している。このようなタッチパネルディスプレイは、例えば、銀行ATM、自動販売機、携帯情報端末(PDA)、複写機、ファクシミリ、ゲーム機、博物館およびデパートなどの施設に設置される案内表示装置、カーナビゲーション、マルチメディアステーション(コンビニエンスストアに設置される多機能端末機)、携帯電話、鉄道車両のモニタ装置などにおいて広く用いられている。
【0003】
このような、液晶表示装置、タッチパネルディスプレイなどの光学表示装置については、これらの光学表示装置の表面上に指紋跡がつかない、または指紋跡がついたとしても簡単に拭き取ることができるという、いわゆる耐指紋性が求められている。これらの光学表示装置についてはさらに、使用による擦傷跡が残らないという、耐擦傷性も求められている。特にタッチパネルディスプレイにおいては、ディスプレイ表面に指を触れることによって操作されるため、その表面に皮脂などの脂質成分による指紋跡が多く付着し、そしてこの指紋跡の付着が機器端末の視認性および操作性を妨げるという問題がある。
【0004】
さらに近年においては、ディスプレイ表面以外においても、耐指紋性の向上が求められている。例えば携帯電話などにおいては、意匠性およびデザイン性の向上の観点から、金属メッキ加工によるまたは金属メッキ加工がなされたような塗装による鏡面仕上げが施されたものが好まれる傾向にある。さらに家庭用電気製品、家具、室内調度品または化粧品のケースなどにおいてもまた、意匠性およびデザイン性の向上の観点から、金属メッキ加工によるまたは金属メッキ加工がなされたような塗装による鏡面仕上げが施されたものが好まれる傾向にある。これらの物品はデザイン性が高い一方で、指紋跡の付着が非常に目立つという欠点がある。そのためこれらの鏡面仕上げが施された物品においてもまた、耐指紋性の向上が求められている。
【0005】
光学表示装置表面または鏡面仕上げが施された物品において、耐指紋性などの防汚性を向上させる方法として、シリコンオイルやフッ素ポリマーを塗布することにより、表面の防汚性(撥水・撥油性)を向上させる方法が提案されている。しかしながらこの方法は、防汚剤を表面に塗布するのみであるため、防汚剤がすぐにとれてしまい防汚性の効果が長続きしない、つまり防汚耐久性に劣る、という欠点がある。一方で、これらのシリコンオイルやフッ素ポリマーなどの添加剤を含むコーティング組成物を用いてコーティング層を設けることにより、耐指紋性などの防汚性を向上させる方法もある。しかしながら、これらの添加剤は一般にソフトブロックといわれるものであり、樹脂に可撓性を付与するという性質も併せて有している。そしてこれらを添加することによってコーティング層の表面硬度などの機械的強度が低下してしまうという欠点がある。
【0006】
特開2004−230562号公報(特許文献1)には、透明基材フィルムの少なくとも片面に、電離放射線感応型樹脂組成物の硬化物からなり、かつ表面の水の接触角が70°以下になるようにアルカリ性水溶液で表面処理されてなるハードコート層を設けたことを特徴とするハードコートフィルムが記載されている(請求項1)。このハードコートフィルムは、塗布した組成物を紫外線照射などにより一旦硬化させ、その後アルカリ性水溶液を用いて表面の水の接触角が70°以下になるようにアルカリ性水溶液で表面処理する方法が採用されているが、水の接触角が70°以下になるようにするためには高度な工程管理や多くの試行錯誤が要求されるため、工程が増えており煩雑である。また発生する多量のアルカリ廃液の処理コストなどの問題も含んでおり、工業化する上でいくつかの問題点を含んでいた。
【0007】
特開2006−43919号公報(特許文献2)には、平均表面粗さRaが0.1μm以下の剥離フィルム上に形成されたエネルギー線硬化性ハードコート組成物層に基材フィルムを貼り合わせ、加熱後、エネルギー線を照射することによって前記エネルギー線硬化性ハードコート組成物層を硬化させて前記基材フィルムにハードコート層を密着形成することを特徴とするハードコートフィルムの製造方法が記載されている(請求項1)。このハードコートフィルムは、平滑な表面を有する基材フィルムを用いることによって指紋拭き取り性の向上を図っている。またこのハードコートフィルムは、ハードコート層を剥離フィルムおよび基材フィルムの間に挟まれた状態で設けることを特徴としている。従ってこの製造方法もまた、ハードコート層を挟まれた状態にするための調製工程が必要であり、その製造工程が煩雑である。又特許文献2は指紋の拭き取り性の向上を考慮したものであり、本願とは技術的背景が異なる。
【0008】
特開2007−34027号公報(特許文献3)には、凹凸表面を有するディスプレイ用表面材が記載されている(請求項1)。このディスプレイ用表面材は、微細な凹凸を有するため、ディスプレイ用表面材の表面に付着した指紋を形成する生体由来脂質成分が微細に形成された凹凸の凹部に速やかに入り込む結果、指紋が視認され難くなる、と記載されている([0010]段落など)。そしてこの表面剤の凹凸表面は、アルミナゾル液を塗布し、次いで温水に浸漬することにより形成されている(請求項2)。つまり、特許文献3が開示する方法によれば、別の役割を持ったいくつもの層をフィルム上に形成させる必要がある。そのように形成した表面材もまた、浸漬などといった後処理工程が必要であり、その製造工程が煩雑であり、工業化する上でいくつかの問題点を含んでいた。
【0009】
【特許文献1】特開2004−230562号公報
【特許文献2】特開2006−43919号公報
【特許文献3】特開2007−34027号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、塗布などによる非常に簡便な工程によって光学表示装置表面または鏡面仕上げが施された物品の耐指紋性を向上させることができる、耐指紋性光硬化性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、
両末端それぞれに少なくとも1つの(メタ)アクリレート基を有する、ポリエーテル骨格含有ウレタン(メタ)アクリレート(A)、
光重合性多官能化合物(B)、および
光重合開始剤(C)、
を含み、
このポリエーテル骨格含有ウレタン(メタ)アクリレート(A)は、下記式(1):
【化1】

[式中、Xは、ポリエーテル骨格を有するポリオール化合物の両末端の水酸基を除いた残基を示す。]
で示される構造を有し、および
このポリエーテル骨格含有ウレタン(メタ)アクリレート(A)の水トレランスが6.0ml以下であり、溶解性パラメータが12以下である、
耐指紋性光硬化性組成物、を提供するものであり、これにより上記目的が達成される。
【0012】
上記耐指紋性光硬化性組成物はさらに、ポリエーテルまたはポリエーテル(メタ)アクリレート(D)を含んでもよい。
【0013】
また、上記ポリエーテル骨格含有ウレタン(メタ)アクリレート(A)は、ポリエーテル骨格を有するポリオール化合物(a)、ポリイソシアネート(b)および水酸基含有(メタ)アクリレートモノマー(c)を反応させることによって調製された、ポリエーテル骨格含有ウレタン(メタ)アクリレートであるのが好ましい。
【0014】
上記耐指紋性光硬化性組成物は、
ポリエーテル骨格含有ウレタン(メタ)アクリレート(A)0.5〜40重量%、
光重合性多官能化合物(B)30〜99.5重量%、
ポリエーテルまたはポリエーテル(メタ)アクリレート(D)0〜30重量%、
(但し、上記成分(A)、(B)および(D)の総重量が100重量%となることを条件とする)、および
光重合開始剤(C)を、成分(A)、(B)および(D)の総重量100重量部に対して0.1〜20重量部、
を含むのが好ましい。
【0015】
本発明はさらに、透明基材およびコーティング層を有する耐指紋性フィルムであって、このコーティング層が上記耐指紋性光硬化性組成物によって形成されるコーティング層である、耐指紋性フィルム、も提供する。
【0016】
本発明はさらに、上記耐指紋性光硬化性組成物によって形成される耐指紋性コーティング層が設けられた塗装物も提供する。
【0017】
上記塗装物は、タッチパネルディスプレイ、液晶表示ディスプレイ、発光ダイオードディスプレイ、エレクトロルミネセンスディスプレイ、蛍光ディスプレイ、プラズマディスプレイパネルまたは鏡面仕上げが施された物品であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の耐指紋性光硬化性組成物を用いることによって、光学表示装置表面または鏡面仕上げが施された物品などに、優れた耐指紋性を有するコーティング層を、より簡便に設けることができる。本発明の耐指紋性光硬化性組成物により得られるコーティング層は、透明性にも優れており、光学表示装置表面または鏡面仕上げが施された物品の表面などにおける使用に非常に適している。本発明の耐指紋性光硬化性組成物により得られるコーティング層は、さらに、優れた耐擦傷性および表面の膜硬度を有する。本発明の耐指紋性光硬化性組成物により得られるコーティング層は、単層であっても、優れた耐指紋性、そして高い耐擦傷性および表面の膜硬度を有している。さらに本発明の耐指紋性光硬化性組成物は光硬化性であるため、このような優れた性能を有するコーティング層を、光学表示装置表面または鏡面仕上げが施された物品の上に、より簡便に形成できるという利点がある。そのため本発明の耐指紋性光硬化性組成物を用いることによって、生産効率および製造コストに優れたコーティング層およびこのコーティング層を有する耐指紋性フィルムを形成することができる。さらにこのコーティング層は、耐指紋性を長期間維持させることができ、耐指紋性耐久性にも優れているという利点を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の耐指紋性光硬化性組成物は、
両末端それぞれに少なくとも1つの(メタ)アクリレート基を有する、ポリエーテル骨格含有ウレタン(メタ)アクリレート(A)、
光重合性多官能化合物(B)、および
光重合開始剤(C)、
を含む。本発明の耐指紋性光硬化性組成物はさらに、ポリエーテル樹脂またはポリエーテル(メタ)アクリレート(D)を含んでもよい。
【0020】
ポリエーテル骨格含有ウレタン(メタ)アクリレート(A)
本発明の耐指紋性光硬化性組成物に含まれるポリエーテル骨格含有ウレタン(メタ)アクリレート(A)は、
(i)分子の両末端それぞれに少なくとも1つの(メタ)アクリレート基を有すること、
(ii)下記式(1):
【0021】
【化2】

[式中、Xは、ポリエーテル骨格を有するポリオール化合物の両末端の水酸基を除いた残基を示す。]
で示される構造を有すること、および
(iii)水トレランスが6.0ml以下であり、溶解性パラメータが12以下であること、
を条件とする、ウレタン(メタ)アクリレートである。
【0022】
本発明において、成分(A)が、上記式(1)で示される、ウレタン結合を介したポリエーテル構造を有することによって、優れた耐指紋性が得られることとなる。また成分(A)が、両末端それぞれに少なくとも1つの(メタ)アクリレート基を有することによって、良好な耐擦傷性が得られることとなる。
【0023】
なお成分(A)のウレタン(メタ)アクリレートは、分枝構造を有していてもよい。そしてこの場合において「両末端」とは、分子鎖が最長となる状態における両方の末端を意味する。そしてこのような分枝構造を有する場合は、分枝鎖の末端においても少なくとも1つの(メタ)アクリレート基を有してもよい。
【0024】
上記式(1)で示される構造を有する、両末端それぞれに少なくとも1つの(メタ)アクリレート基を有するポリエーテル骨格含有ウレタン(メタ)アクリレート(A)として、例えば、ポリエーテル骨格を有するポリオール化合物(a)とポリイソシアネート(b)と水酸基含有(メタ)アクリレートモノマー(c)との反応物が挙げられる。
【0025】
ポリエーテル骨格を有するポリオール化合物(a)としては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ジブチレングリコール、ポリブチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ビスフェノールAポリエトキシジオール、ポリカプロラクトン、および、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイドのブロックまたはランダム共重合の少なくとも1種の構造を有する、ポリエーテルポリオール;トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ポリトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ポリペンタエリスリトール、ソルビトール、マンニトール、グリセリン、ポリグリセリン、ポリテトラメチレングリコールなどの多価アルコールをポリエーテル変性した、ポリエーテル骨格を含む多価アルコール;上記ポリエーテルポリオールと無水マレイン酸、マレイン酸、フマール酸、無水イタコン酸、イタコン酸、アジピン酸、イソフタル酸などの多塩基酸との縮合物であるポリエステルポリオール;ポリエーテルポリオールをカプロラクトン変性したカプロラクトン変性ポリオール;などが挙げられる。
【0026】
ポリイソシアネート(b)としては、例えば、芳香族系、脂肪族系、脂環式系などのポリイソシアネートが挙げられ、中でもトリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、水添化ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリフェニルメタンポリイソシアネート、変性ジフェニルメタンジイソシアネート、水添化キシリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、フェニレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、リジントリイソシアネート、ナフタレンジイソシアネートなどのポリイソシアネート或いはこれらポリイソシアネートの三量体化合物、ビューレット型ポリイソシアネート、水分散型ポリイソシアネート、またはこれらポリイソシアネートとポリオールの反応生成物などを挙げることができる。
【0027】
水酸基含有(メタ)アクリレートモノマー(c)は、(メタ)アクリレート基を1つ有する単官能モノマーであってもよく、(メタ)アクリレート基を2またはそれ以上有する多官能モノマーであってもよい。単官能モノマーとして、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリロイルホスフェート、2−(メタ)アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシプロピルフタレート、カプロラクトン変性2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。多官能モノマーとして、例えば、2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイロキシプロピル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。
【0028】
両末端それぞれに少なくとも1つの(メタ)アクリレート基を有する、ポリエーテル骨格含有ウレタン(メタ)アクリレート(A)は、ポリエーテル骨格を有するポリオール化合物(a)、ポリイソシアネート(b)および水酸基含有(メタ)アクリレートモノマー(c)を反応させることによって調製することができる。この調製において、例えばポリエーテル骨格を有するポリオール化合物(a)、ポリイソシアネート(b)および水酸基含有(メタ)アクリレートモノマー(c)を一度に反応させてもよく、あるいは、例えばポリエーテル骨格を有するポリオール化合物(a)とポリイソシアネート(b)とを反応させた後、水酸基含有(メタ)アクリレートモノマー(c)を反応させてもよい。
【0029】
ポリエーテル骨格を有するポリオール化合物(a)とポリイソシアネート(b)との反応は、ポリオール化合物(a)の水酸基1当量に対して、ポリイソシアネート(b)のイソシアネート基1.1〜2.5当量を反応させるのが好ましく、1.3〜2.0当量を反応させるのが特に好ましい。反応温度は、70〜100℃が好ましく、反応時間は、1〜20時間程度が好ましい。このポリオール化合物(a)とポリイソシアネート(b)との反応においては、ブチルチンジラウレートのような金属系触媒または1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7のようなアミン系触媒などを用いて、反応を促進させるのがより好ましい。
【0030】
ポリエーテル骨格を有するポリオール化合物(a)、ポリイソシアネート(b)および水酸基含有(メタ)アクリレートモノマー(c)を一度に反応させる場合においては、水酸基含有(メタ)アクリレートモノマー(c)の量は、ポリイソシアネート(b)1当量に対して1.0〜1.5当量を用いるのが好ましく、1.0〜1.3当量用いるのがより好ましい。反応温度は、60〜100℃が好ましく、反応時間は、1〜20時間であるのが好ましい。
【0031】
また、ポリエーテル骨格を有するポリオール化合物(a)とポリイソシアネート(b)とを反応させた後、水酸基含有(メタ)アクリレートモノマー(c)を反応させる場合においては、ポリオール化合物(a)およびポリイソシアネート(b)の反応物のイソシアネート基1当量に対して、水酸基含有(メタ)アクリレートモノマー(c)の水酸基0.95〜1.5当量を反応させるのが好ましく、1.0〜1.1当量を反応させるのが特に好ましい。反応温度は、60〜100℃が好ましく、反応時間は、1〜20時間であるのが好ましい。
【0032】
両末端それぞれに少なくとも1つの(メタ)アクリレート基を有する、ポリエーテル骨格含有ウレタン(メタ)アクリレート(A)は、重量平均分子量が3000〜50000であるのがより好ましい。ポリエーテル骨格含有ウレタン(メタ)アクリレート(A)の重量平均分子量が3000より小さい時は、ポリエーテル骨格を有するポリオール化合物(a)の分子量が低下してウレタン基含有率が相対的に高くなるために製造時の粘度上昇による生産性低下の恐れがある。一方、50000を超えると、得られる耐指紋性光硬化性組成物の粘度が高まることによる耐指紋性光硬化性組成物の生産性の低下や、アクリレート基含有率が相対的に低下するために最終的に得られるコーティング層の機械的強度の低下の恐れがあり好ましくない。なおここでいう平均分子量は、重量平均分子量であり、ポリスチレンを標準として用いて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定結果から算出することができる。
【0033】
本発明においては、ポリエーテル骨格含有ウレタン(メタ)アクリレート(A)として、水トレランスが6.0ml以下であり、溶解性パラメータが12以下であるものが用いられる。成分(A)の水トレランスが6.0ml以下であり、溶解性パラメータが12以下であることによって、良好な耐指紋性が得られることとなる。
【0034】
水トレランスとは親水性の度合を評価するものであり、その値が高いほど親水性が高いことを意味する。上記水トレランスの測定方法は、23℃の条件下で、100mlビーカー内に上記ポリエーテル骨格含有ウレタン(メタ)アクリレート(A)0.5gをテトラヒドロフラン10mlに混合して分散させ、この混合物にビュレットを用い、イオン交換水を徐々に加え、この混合物が白濁を生じるまでに要するイオン交換水の量(ml)を測定する。このイオン交換水の量(ml)を水トレランスと定義する。
【0035】
溶解性パラメータ(solubility parameter、SP値と略記することもある。)とは、溶解性の尺度となるものである。SP値は数値が大きいほど極性が高く、数値が小さいほど極性が低いことを示す。なお成分(A)が2種以上の混合物である場合のSP値は、各成分の溶解性パラメータの加重平均値をSP値とする。
【0036】
SP値は次の方法によって実測することができる[参考文献:SUH、CLARKE、J.P.S.A−1、5、1671〜1681(1967)]。
【0037】
測定温度:20℃
サンプル:樹脂0.5gを100mlビーカーに秤量し、良溶媒10mlをホールピペットを用いて加え、マグネティックスターラーにより溶解する。
溶媒:
良溶媒…ジオキサン、アセトンなど
貧溶媒…n−ヘキサン、イオン交換水など
濁点測定:50mlビュレットを用いて貧溶媒を滴下し、濁りが生じた点を滴下量とする。
【0038】
成分(A)のSP値δは次式によって与えられる。
【0039】
【数1】

【数2】

【数3】

【0040】
Vi:溶媒の分子容(ml/mol)
φi:濁点における各溶媒の体積分率
δi:溶媒のSP値
ml:低SP貧溶媒混合系
mh:高SP貧溶媒混合系
【0041】
成分(A)の水トレランスが6.0ml以下であり、溶解性パラメータが12以下であることによって、良好な耐指紋性が得られることとなる理由は、理論に拘束されるものではないが以下のように考えられる。成分(A)はウレタン基を有しているため、分子内に局部的に極性が高い部分構造を持つ。一方、成分(A)は、水トレランスが6.0ml以下であることによって、分子全体としては、極性が低い化合物であるということとなる。ここで、指紋跡を構成する脂質成分は長鎖脂肪酸であるとされており、長鎖脂肪酸はアルキル基による極性が低い部分と極性が高いカルボキシル基から構成される。耐指紋性を向上させるには指紋跡を構成する脂質成分へのなじみ性を高くしてやればよいと考えられ、このことから上記のように分子内に局部的に極性が高い部位(ウレタン基)と分子全体として極性が低い性質を有する成分(A)を用いることで、良好な耐指紋性を付与できたものと考えられる。溶解性パラメータについても同様である。溶解性パラメータが12以下であることによって、極性の高いウレタン基を有する成分(A)は、分子全体としては極性の低い化合物であるということとなる。そしてこれにより、指紋跡を構成する脂質成分へのなじみ性が高くなり、耐指紋性が向上することとなると考えられる。なお、水トレランスが6.0ml以下であることと溶解性パラメータを12以下とすることはいずれも分子全体として極性が低い性質を示すものである。一方で、本発明は上記理論によって全て解明できるものではなく、水トレランスが6.0ml以下であること、溶解性パラメータが12以下であること、ならびにウレタン基をもつことによる局部的に極性が高い構造を有するという性質を、全て兼ね備えた成分(A)を用いることによって、耐指紋性の向上が達成されることとなる。そして本発明者は、上記事実を実験により見いだし、本発明を完成するに至っている。
【0042】
なお、本発明における成分(A)のより好ましい例として、例えば下記式で示されるポリエーテル骨格含有ウレタン(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0043】
【化3】

[式中、Rは、ポリエーテル骨格を有するポリオール化合物(a)の両末端の水酸基を除いた残基であり、Rはポリイソシアネート(b)の両末端のイソシアネート基を除いた残基であり、RおよびRは、同一であっても異なってよい、水酸基含有(メタ)アクリレートモノマー(c)の水酸基を除いた残基であり、およびnは1〜60の整数である。]
このポリエーテル骨格含有ウレタン(メタ)アクリレート(A)は、重量平均分子量が3000〜50000であるのがより好ましい。また上記nは1〜60の整数であるのがより好ましく、1〜30の整数であるのがより好ましい。
【0044】
光重合性多官能化合物(B)
本発明の耐指紋性光硬化性組成物はポリエーテル骨格含有ウレタン(メタ)アクリレート(A)を含有することを特徴としている。そして本発明の耐指紋性光硬化性組成物においては、塗膜形成成分としてさらに光重合性多官能化合物(B)が含まれる。光重合性多官能化合物(B)が含まれることによって、耐指紋性光硬化性組成物の光硬化性が向上し、また得られるコーティング層の機械的強度(耐擦傷性など)が高まることとなる。光重合性多官能化合物(B)は、一分子中に2以上の光重合性基を有する化合物である。光重合性多官能化合物(B)として、分子中に2個以上の(メタ)アクリレート基を有する化合物を用いることができる。光重合性多官能化合物(B)として、3個以上の(メタ)アクリレート基を有する化合物が好ましい。なお光重合性多官能化合物(B)として、2個以上の(メタ)アクリレート基を有する化合物であれば、モノマーであってもオリゴマーであってもよい。
【0045】
モノマーとしては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレートなどのアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート;ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの低分子量ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートまたはそのアルキレンオキシド変成体;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジまたはトリまたはテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタまたはヘキサ(メタ)アクリレートなどのポリオールポリ(メタ)アクリレートまたはそのアルキレンオキサイド変成体;イソシアヌル酸アルキレンオキシド変成体のジまたはトリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これら分子中に2個の(メタ)アクリレート基を有する化合物と分子中に3個以上の(メタ)アクリレート基を有する化合物の混合割合を調整して適用することで、得られるコーティング層の物性を調整することが可能である。光重合性多官能化合物(B)中において、分子中に3個以上の(メタ)アクリレート基を有する化合物の占める含有率は50〜100%が好ましく、70〜100%がより好ましい。分子中に3個以上の(メタ)アクリレート基を有する光重合性多官能化合物(B)に占める含有率が50%未満の場合、最終的に得られるフィルムの耐スチールウール性に代表される傷つき防止性、耐溶剤性、ペン摺動性が低下する恐れがあり好ましくない。
【0046】
オリゴマーとしては、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、アクリル(メタ)アクリレートなどのオリゴマーが挙げられる。なお、光重合性多官能化合物(B)として用いることができるこれらのオリゴマーは、重量平均分子量が300〜5,000であることが好ましく、500〜3,000であることがより好ましい。5,000より大きいと高粘度になり、取り扱いが困難となる恐れがある。
【0047】
これらの光重合性多官能化合物(B)は、1種を単独で用いてもよく、また2種以上を併用してもよい。
【0048】
光重合性多官能化合物(B)として、一分子中に3またはそれ以上の光重合性基(即ち、(メタ)アクリレート基)を有するモノマーを少なくとも一部に用いるのが好ましい。このようなモノマーを用いることによって、得られるコーティング層の機械的強度をより高めることができる。好ましい光重合性多官能化合物(B)として、例えばペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパンEO変性トリアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートなどが挙げられる。
【0049】
光重合開始剤(C)
本発明の耐指紋性光硬化性組成物は、光重合開始剤(C)を含むのが好ましい。光重合開始剤(C)が存在することによって、紫外線などの活性エネルギー線照射に対する耐指紋性光硬化性組成物の重合性が向上することとなる。光重合開始剤(C)の例として、例えば、アルキルフェノン系光重合開始剤、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤、チタノセン系光重合開始剤、オキシムエステル系重合開始剤などが挙げられる。アルキルフェノン系光重合開始剤として、例えば2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−ヒロドキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−(ジメチルアミノ)−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−[4−(4−モルホリニル)フェニル]−1−ブタノンなどが挙げられる。アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤として、例えば2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイドなどが挙げられる。チタノセン系光重合開始剤として、例えば、ビス(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウムなどが挙げられる。オキシムエステル系重合開始剤として、例えば、1.2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−,2−(O−ベンゾイルオキシム)]、エタノン,1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−,1−(0−アセチルオキシム)、オキシフェニル酢酸、2−[2−オキソ−2−フェニルアセトキシエトキシ]エチルエステル、2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチルエステルなどが挙げられる。さらには、ベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸メチル、2,4−ジエチルチオキサントン、2−エチルアントラキノン、カンファーキノンなどの水素引き抜き型開始剤を用いることもできる。これらの光重合開始剤は、1種を単独で用いてもよく、また2種以上を併用してもよい。
【0050】
上記光重合開始剤(C)のうち、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1および2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オンなどがより好ましく用いられる。
【0051】
ポリエーテルまたはポリエーテル(メタ)アクリレート(D)
本発明の耐指紋性光硬化性組成物は、必要に応じて、ポリエーテルまたはポリエーテル(メタ)アクリレート(D)を含んでもよい。耐指紋性光硬化性組成物に、ポリエーテル樹脂またはポリエーテル(メタ)アクリレートである成分(D)が含まれることによって、耐指紋性能が向上するという利点がある。特に、成分(D)が含まれることによって、より脂質とのなじみ性が改善され、指紋拭取り性がさらに向上するといった特異的な性能が達成されることとなる。
【0052】
成分(D)としてのポリエーテルとして、炭素数3以上であるアルキレンオキシドを含むポリエーテルジアルキルエーテル、ポリエーテルモノオールまたはポリエーテルポリオールなどが挙げられる。「炭素数3以上であるアルキレンオキシド」として、例えば、−O−CH−CH(CH)−で示されるイソプロピレンオキシドを含むプロピレンオキシド、−O−(CH−で示されるテトラメチレンオキシド、−O−CH−CH(CHCl)−で示される3−クロロプロピレンオキシド、など、炭素数3〜4のアルキレンオキシドなどが挙げられる。この「炭素数3以上であるアルキレンオキシド(d−1)」はプロピレンオキシドであるのがより好ましく、イソプロピレンオキシドであるのがさらに好ましい。ポリエーテルのアルキル基部分の炭素数が3に満たないアルキレンオキシド(d−2)も使用することができるが、耐指紋性能は「炭素数3以上であるアルキレンオキシド」が主として付与するので、炭素数3以上のアルキレンオキシドは成分(D)の少なくとも一部を構成することが好ましい。
【0053】
ポリエーテルまたはポリエーテル(メタ)アクリレート(D)は、分子量が400以上であるのが好ましく、700以上であるのがより好ましい。なおここでいう分子量は、JIS K 1557により算出した水酸基価の測定結果から算出することができる。
【0054】
ポリエーテルまたはポリエーテル(メタ)アクリレート(D)として、市販されているポリエーテルまたはポリエーテル(メタ)アクリレートを用いてもよい。好ましく用いることができるポリエーテルまたはポリエーテル(メタ)アクリレートとして、例えば、キシダ化学(株)社製ポリプロピレンシリーズおよび新中村化学(株)社製ポリエーテルジアクリレートシリーズなどが挙げられる。
【0055】
本発明の耐指紋性光硬化性組成物においては、各成分(A)、(B)および(D)の量は、
ポリエーテル骨格含有ウレタン(メタ)アクリレート(A)0.5〜40重量%、
光重合性多官能化合物(B)30〜99.5重量%、
ポリエーテルまたはポリエーテル(メタ)アクリレート(D)0〜30重量%、
であるのが好ましい。
より詳しくは、成分(D)が含まれない場合は、
ポリエーテル骨格含有ウレタン(メタ)アクリレート(A)0.5〜40重量%、より好ましくは2〜35重量%
光重合性多官能化合物(B)30〜99.5重量%、より好ましくは65〜98重量%、
であるのがより好ましい。なお上記成分(A)および(B)の総重量が100重量%となることを条件とする。
また、成分(D)が含まれる場合は、
ポリエーテル骨格含有ウレタン(メタ)アクリレート(A)0.5〜40重量%、より好ましくは2〜35重量%、
光重合性多官能化合物(B)30〜97重量%、より好ましくは45〜95重量%、
ポリエーテルまたはポリエーテル(メタ)アクリレート(D)1〜30重量%、より好ましくは2〜20重量%、
であるのがより好ましい。なお上記成分(A)、(B)および(D)の総重量が100重量%となることを条件とする。さらに配合される成分(D)が炭素数3以上であるアルキレンオキシド(d−1)と炭素数3未満のアルキレンオキシド(d−2)を併せ持つ場合、当該成分(D)に含まれる(d−1)と(d−2)の合計のうち、25質量%以上は(d−1)であることが好ましい。(d−1)の構成比率が上記の好ましい下限を下回ると、得られるハードコート層の耐指紋性が低下する場合があり、好ましくない。またこの場合、成分(D)に含まれる(d−1)の上記比率の上限は100質量%である。
【0056】
また配合される成分(D)が、(d−1)由来のポリエーテルまたはポリエーテル(メタ)アクリレート(D−1)と(d−2)由来のポリエーテルまたはポリエーテル(メタ)アクリレート(D−2)の混合物である場合、(D−1)と(D−2)の合計のうち、10質量%以上は(D−1)であることが好ましい。(D−1)の配合比率が上記の好ましい下限を下回ると、得られるハードコート層の耐指紋性が低下する場合があり、好ましくない。またこの場合、成分(D)に含まれる(D−1)の上記比率の上限は100質量%である。
【0057】
ポリエーテル骨格含有ウレタン(メタ)アクリレート(A)の量が上記範囲より少ない場合は、得られる耐指紋性コーティング層の耐指紋性の低下や耐屈曲性またはカール性などが劣ることとなるおそれがある。またポリエーテル骨格含有ウレタン(メタ)アクリレート(A)の量が上記範囲を超える場合は、耐スチールウール性または耐溶剤性などが低下するおそれがある。光重合性多官能化合物(B)の量が30重量%より少ない場合は、耐擦傷性、表面の膜硬度などの物理的強度が劣ることとなるおそれがある。
また光重合開始剤(C)は、成分(A)、(B)および(D)の総重量100重量部に対して0.1〜20重量部含むのが好ましい。光重合開始剤(C)の量が上記範囲を外れる場合は、光硬化性が不十分となり、物理的強度が劣ることとなるおそれがある。
【0058】
他の成分
本発明の耐指紋性光硬化性組成物は、必要に応じて、エチレン性不飽和基を1個有する化合物を配合することもできる。このような化合物を含めることによって、得られるコーティング液の粘度、得られるコーティング層の密着性、硬度、および柔軟性を調整することができる。エチレン性不飽和基を1個有する化合物としては、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレートなどの環状構造を有する(メタ)アクリレート化合物;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;フェノキシエチル(メタ)アクリレートなどのフェノールのアルコキシオキシド付加物の(メタ)アクリレート化合物;エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレーとなどのグリコールのモノ(メタ)アクリレート;N−ビニルピドリロン、N−ビニルカプロラクタムなどのビニル化合物などが挙げられる。
【0059】
本発明の耐指紋性光硬化性組成物は、必要に応じて無機粒子または有機粒子などの充填剤を含んでもよい。無機粒子または有機粒子を含むことによって、コーティング層の耐擦傷性および表面の膜硬度をさらに向上させたり、防眩性を付与することができる。これらの無機粒子または無機粒子は、平均粒径5nm〜数μm程のものであるのがより好ましい。用いることができる無機粒子として、例えば、金属または金属の酸化物の微粒子を挙げることができる。金属としては、例えば、Si、Ti、Al、Zn、Zr、In、Sn、Sbなどが挙げられる。具体的な無機粒子として、例えばシリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニアなどが挙げられる。さらに、これらの無機粒子は、粒子表面をUV硬化可能な官能基、例えばアクリレート基で変性処理してあることがより好ましい。また、用いることができる有機粒子として、例えば、アクリル、ポリエステルなどの有機粒子が挙げられる。
【0060】
なお、無機粒子または有機粒子を用いる場合は、耐指紋性光硬化性組成物の固形分重量に対して0.1〜50重量%ほど用いるのが好ましい。無機粒子または有機粒子の含有量が50重量%を超える場合は、得られるコーティング層の膜強度が弱くなるおそれがある。
【0061】
本発明の耐指紋性光硬化性組成物はさらに、必要に応じて、希釈溶媒としての有機溶媒を含んでもよい。このような有機溶媒として、例えば、用いられる溶媒の具体例としては、例えば、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶媒;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ミネラルスピリットなどの脂肪族系溶媒;メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒;ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、アニソール、フェネトールなどのエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、エチレングリコールジアセテートなどのエステル系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドンなどのアミド系溶媒;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブなどのセロソルブ系溶媒;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのエーテルエステル系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール系溶媒;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルムなどのハロゲン系溶媒;などが挙げられる。これらの溶媒は単独で用いてもよく、また混合して用いてもよい。
【0062】
本発明の耐指紋性光硬化性組成物はさらに、必要に応じて、光重合開始助剤、帯電防止剤、重合禁止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、消泡剤、レベリング剤、顔料などの通常用いられる添加剤を含んでもよい。例えば、好ましく用いることができる光重合開始助剤として、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、ジブチルエタノールアミン、メチルジエタノールアミンなどが挙げられる。
【0063】
耐指紋性光硬化性組成物
本発明の耐指紋性光硬化性組成物は、ポリエーテル骨格含有ウレタン(メタ)アクリレート(A)、光重合性多官能化合物(B)および光重合開始剤(C)、そして必要に応じたポリエーテルまたはポリエーテル(メタ)アクリレート(D)を含有する。そして本発明の耐指紋性光硬化性組成物を用いることによって、単層であっても耐指紋性に非常に優れ、かつ耐擦傷性、表面の膜硬度および耐指紋性耐久性にも優れたコーティング層を、形成することができる。
【0064】
また、本発明の耐指紋性光硬化性組成物は光硬化性である。そのため、コーティング層を形成する際に、加熱重合させる必要がないという利点を有する。光学表示装置の中には、例えば樹脂フィルムなど耐熱性が低い部材を含んでいるものも多く含まれる。本発明の耐指紋性光硬化性組成物は、そのような耐熱性が低い部材を含む光学表示装置そして樹脂フィルムに対しても、良好にコーティング層を形成することができるという利点を有する。
【0065】
本発明の耐指紋性光硬化性組成物は、上記成分を混合することによって調製することができる。また、組成物の調製時に、必要に応じて、希釈に用いることができる有機溶媒を用いてもよい。なお、本発明の耐指紋性光硬化性組成物は、希釈して用いてもよく、また希釈することなく用いてもよい。
【0066】
耐指紋性光硬化性組成物の調製方法としては、例えば、上記ポリエーテル骨格含有ウレタン(メタ)アクリレート(A)、光重合性多官能化合物(B)および光重合開始剤(C)、そして必要に応じたポリエーテルまたはポリエーテル(メタ)アクリレート(D)および添加剤、有機溶媒などを混合することによって、調製することができる。
【0067】
なお本発明の耐指紋性光硬化性組成物は、シリコーン系添加剤およびフッ素系添加剤いずれも含まないのが好ましい。これらの添加剤は、得られるコーティング層の撥水性および撥油性を向上させ防汚性を向上させる作用がある一方、この撥水性および撥油性の向上によりコーティング層に付着した油脂成分をはじいてしまい、かえって汚れが目立ってしまうおそれがあるからである。
【0068】
本発明の耐指紋性光硬化性組成物を用いることにより、耐指紋性フィルムを容易に調製することができる。この耐指紋性フィルムは、透明基材とコーティング層とを有する。このコーティング層は、上記の耐指紋性光硬化性組成物から形成される層であり、この層の存在によって耐指紋性が発揮されることとなる。
【0069】
耐指紋性フィルムの調製に用いられる透明基材としては、各種透明プラスチックフィルム、例えばトリアセチルセルロース(TAC)フィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ジアセチルセルロースフィルム、アセテートブチレートセルロースフィルム、ポリエーテルサルホンフィルム、ポリアクリル系樹脂フィルム、ポリウレタン系樹脂フィルム、ポリエステルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリスルホンフィルム、ポリエーテルフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリエーテルケトンフィルム、(メタ)アクリルニトリルフィルムなどが使用できる。透明基材として、ポリエチレンテレフタレートを使用するのが好ましい。なお、透明基材の厚さは、用途に応じて適時選択することができるが、一般に25〜1000μm程で用いられる。
【0070】
耐指紋性を有するコーティング層は、透明基材上に、上記の耐指紋性光硬化性組成物を塗装することにより形成される。耐指紋性光硬化性組成物の塗装方法は、耐指紋性光硬化性組成物および塗装工程の状況に応じて適時選択することができ、例えばディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法やエクストルージョンコート法(この方法は米国特許2681294号明細書に記載される公知の方法である。)などにより塗装することができる。
【0071】
透明基材上に塗装された耐指紋性光硬化性組成物は、次いで活性エネルギー線の照射に曝されることによって硬化し、これにより耐指紋性のコーティング層が形成される。なお本明細書において「光硬化性」という用語は広義の意味で用いられており、遠紫外線、紫外線、近紫外線、赤外線などの光線に加えて、X線、γ線などの電磁波、電子線、プロトン線、中性子線などの活性エネルギー線を照射することによって硬化する性質を意味する。この中でも、硬化速度、照射装置の入手のし易さ、価格などの面から、紫外線照射による硬化が有利である。紫外線硬化させる方法としては、200〜500nm波長域の光を発する高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ケミカルランプ等を用いて、100〜3000mJ/cmほど照射する方法などが挙げられる。
【0072】
また、本発明の耐指紋性光硬化性組成物を、光学表示装置の表面上に塗装することによって、光学表示装置の表面上にコーティング層を形成することができる。本発明の耐指紋性光硬化性組成物を用いてコーティング層を設けることができる光学表示装置として、タッチパネルディスプレイ、液晶表示ディスプレイ、発光ダイオードディスプレイ、エレクトロルミネセンスディスプレイ、蛍光ディスプレイ、プラズマディスプレイパネルなどが挙げられる。これらの光学表示装置の表面に用いられる各種透明プラスチックフィルム、透明プラスチック板およびガラスなどに、本発明の耐指紋性光硬化性組成物を塗布することによって、光学表示装置の表面上にコーティング層を形成することができる。
【0073】
さらに本発明の耐指紋性光硬化性組成物を、金属メッキ加工または金属メッキ加工がなされたような塗装によって鏡面仕上げが施された物品の表面上に塗装することによって、これらの物品の表面上に耐指紋性のコーティング層を形成することができる。鏡面仕上げが施された物品として、例えば、携帯情報端末、家庭用電気製品、家具、室内調度品または化粧品のケースなどが挙げられる。これらの鏡面仕上げが施された物品の表面上に、耐指紋性のコーティング層を設けることによって、指紋跡の付着を防ぐことができる。
【0074】
耐指紋性光硬化性組成物の塗装方法としては、例えば、スピンコート法、ディップコート法、グラビアコート法、スプレー法、ローラー法、はけ塗り法などが挙げられる。そして塗装する光学表示装置の種類に応じて、適した塗装方法を選択することができる。耐指紋性光硬化性組成物の塗装において、得られるコーティング層の厚さが0.1〜20μmとなるように塗装するのが好ましい。こうして塗装された耐指紋性光硬化性組成物は、上記と同様に活性エネルギー線の照射に曝されることによって硬化し、これにより耐指紋性のコーティング層が形成される。
【実施例】
【0075】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、重量基準による。
【0076】
製造例1 両末端それぞれに少なくとも1つの(メタ)アクリレート基を有する、ポリエーテル骨格含有ウレタン(メタ)アクリレート(A1)の調製
イソホロンジイソシアネート(IPDI)666重量部、ポリプロピレングリコール(ポリプロピレングリコール1000、キシダ化学(株)社製)2000重量部、ペンタエリスリトールトリアクリレートおよびペンタエリスリトールテトラアクリレートの混合物(混合重量比60:40)900重量部を、反応容器に加え、さらに触媒としてジブチルスズジラウレートを1000ppm、重合禁止剤としてハイドロキノンを1000ppm、および溶媒としてメチルイソブチルケトン(MIBK、固形分が40%となる量で用いた。)を加えて、空気を吹き込みながら80℃で3時間混合した。
【0077】
こうして、両末端にアクリレート基を有する、ポリエーテル骨格含有ウレタン(メタ)アクリレート(A1)を得た。得られたポリエーテル骨格含有ウレタン(メタ)アクリレートのSP値および水トレランス値を測定したところ、SP値10.8および水トレランス値3.5であった。また重量平均分子量は7000であった。なお重量平均分子量はGPC測定によるポリスチレン換算値で表した。
【0078】
製造例2 両末端それぞれに少なくとも1つの(メタ)アクリレート基を有する、ポリエーテル骨格含有ウレタン(メタ)アクリレート(A2)の調製
イソホロンジイソシアネート(IPDI)44重量部、ポリプロピレングリコール(ポリプロピレングリコール4000、キシダ化学(株)社製)800重量部、ペンタエリスリトールトリアクリレートおよびペンタエリスリトールテトラアクリレートの混合物(混合重量比60:40)90重量部を、反応容器に加え、さらに触媒としてジブチルスズジラウレートを1000ppm、重合禁止剤としてハイドロキノンを1000ppm、および溶媒としてメチルイソブチルケトン(MIBK、固形分が40%となる量で用いた。)を加えて、空気を吹き込みながら80℃で3時間攪拌反応させた。
【0079】
こうして、両末端にアクリレート基を有する、ポリエーテル骨格含有ウレタン(メタ)アクリレート(A2)を得た。得られたポリエーテル骨格含有ウレタン(メタ)アクリレートのSP値および水トレランス値を測定したところ、SP値10.7および水トレランス値3.7であった。また重量平均分子量は9000であった。なお重量平均分子量はGPC測定によるポリスチレン換算値で表した。
【0080】
製造例3 両末端それぞれに少なくとも1つの(メタ)アクリレート基を有する、ポリエーテル骨格含有ウレタン(メタ)アクリレート(A3)の調製
イソホロンジイソシアネート(IPDI)44重量部、ポリプロピレングリコール(ポリプロピレングリコール2000、キシダ化学(株)社製)400重量部、ペンタエリスリトールトリアクリレートおよびペンタエリスリトールテトラアクリレートの混合物(混合重量比60:40)90重量部を、反応容器に加え、さらに触媒としてジブチルスズジラウレートを1000ppm、重合禁止剤としてハイドロキノンを1000ppm、および溶媒としてメチルイソブチルケトン(MIBK、固形分が40%となる量で用いた。)を加えて、空気を吹き込みながら80℃で3時間攪拌反応させた。
【0081】
こうして、両末端にアクリレート基を有する、ポリエーテル骨格含有ウレタン(メタ)アクリレート(A3)を得た。得られたポリエーテル骨格含有ウレタン(メタ)アクリレートのSP値および水トレランス値を測定したところ、SP値11.1および水トレランス値4.8であった。また重量平均分子量は8000であった。なお重量平均分子量はGPC測定によるポリスチレン換算値で表した。
【0082】
製造例4 両末端それぞれに少なくとも1つの(メタ)アクリレート基を有する、ポリエーテル骨格含有ウレタン(メタ)アクリレート(A4)の調製
イソホロンジイソシアネート(IPDI)44重量部、ポリプロピレングリコール(Pluronic PE3100、BASFジャパン(株)社製)200重量部、ペンタエリスリトールトリアクリレートおよびペンタエリスリトールテトラアクリレートの混合物(混合重量比60:40)90重量部を、反応容器に加え、さらに触媒としてジブチルスズジラウレートを1000ppm、重合禁止剤としてハイドロキノンを1000ppm、および溶媒としてメチルイソブチルケトン(MIBK、固形分が40%となる量で用いた。)を加えて、空気を吹き込みながら80℃で3時間攪拌反応させた。
【0083】
こうして、両末端にアクリレート基を有する、ポリエーテル骨格含有ウレタン(メタ)アクリレート(A4)を得た。得られたポリエーテル骨格含有ウレタン(メタ)アクリレートのSP値および水トレランス値を測定したところ、SP値11.7および水トレランス値5.6であった。また重量平均分子量は7000であった。なお重量平均分子量はGPC測定によるポリスチレン換算値で表した。
【0084】
比較製造例1 ウレタンアクリレート(1)の調製
イソホロンジイソシアネート(IPDI)222重量部、ポリプロピレングリコール(ポリプロピレングリコール1000、キシダ化学(株)社製)1000重量部、ペンタエリスリトールトリアクリレートおよびペンタエリスリトールテトラアクリレートの混合物(混合重量比60:40)450重量部を、反応容器に加え、さらに触媒としてジブチルスズジラウレートを1000ppm、重合禁止剤としてハイドロキノンを1000ppm、および溶媒としてメチルイソブチルケトン(MIBK、固形分が40%となる量で用いた。)を加えて、空気を吹き込みながら80℃で3時間混合して、ウレタンアクリレート(1)を得た。
【0085】
得られたウレタンアクリレートは、片方の末端にアクリレート基を有するものであった。また得られたウレタンアクリレートのSP値および水トレランス値を測定したところ、SP値11.2および水トレランス値5.2であった。また重量平均分子量は3000であった。なお重量平均分子量はGPC測定によるポリスチレン換算値で表した。
【0086】
比較製造例2 ウレタン化合物の調製
イソホロンジイソシアネート(IPDI)222重量部、ポリプロピレングリコール(ポリプロピレングリコール1000、キシダ化学(株)社製)2000重量部を、反応容器に加え、さらに触媒としてジブチルスズジラウレートを1000ppm、重合禁止剤としてハイドロキノンを1000ppm、および溶媒としてメチルイソブチルケトン(MIBK、固形分が40%となる量で用いた。)を加えて、空気を吹き込みながら80℃で3時間混合して、ウレタン化合物を得た。
【0087】
また得られたウレタン化合物のSP値および水トレランス値を測定したところ、SP値11.0および水トレランス値4.7であった。また重量平均分子量は6000であった。なお重量平均分子量はGPC測定によるポリスチレン換算値で表した。
【0088】
実施例1 耐指紋性光硬化性組成物の調製
製造例1により得られたポリエーテル骨格含有ウレタン(メタ)アクリレート 20重量部、アロニックスM305(ペンタエリスリトールトリアクリレートおよびペンタエリスリトールテトラアクリレートの混合物(混合重量比約60:40) 80重量部およびイルガキュア184D(1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン) 3重量部を混合し、そしてMIBKを溶媒として不揮発分率が40重量%となるように調整し、耐指紋性光硬化性組成物を得た。
【0089】
得られた組成物を、PETフィルム(厚さ100μm)上にバーコーター(No.12)にて、乾燥膜厚が5μmとなるようにバーコート塗装し、80℃で1分間加熱して溶媒を除去乾燥した。その後、高圧水銀灯(120W/cm)で紫外線を300mJ/cmの工ネルギーとなるように露光し、硬化させることにより、コーティング層を形成し、耐指紋性フィルムを得た。
【0090】
実施例2〜17 耐指紋性光硬化性組成物の調製
表1〜3に示される原料を表1〜3で示される重量部で用いたこと以外は、実施例1と同様にして、耐指紋性光硬化性組成物を得た。また実施例1と同様にしてコーティング層を形成し、耐指紋性フィルムを得た。なお実施例5のみ、乾燥膜厚が3μmとなるように塗装した。
【0091】
比較例1〜14 光硬化性組成物の調製
表4〜5に示される原料を表4〜5で示される重量部で用いたこと以外は、実施例1と同様にして、耐指紋性光硬化性組成物を得た。また実施例1と同様にしてコーティング層を形成し、耐指紋性フィルムを得た。
【0092】
得られたコーティング層を有するサンプルの評価を下記記載のように行なった。なお、これらの評価方法により得られた結果を下記表に示す。
【0093】
耐指紋性評価(オレイン酸拭き取り評価)
得られたサンプルのコーティング層上に、オレイン酸を1滴垂らした。次いでクリーンワイパーを用いて10往復回数拭き取った。評価試験前および評価試験後のサンプルのヘイズを上記に従い測定し、△ヘイズ値を求めた。得られた△ヘイズ値の値に従って、下記基準によって耐指紋性評価を行った。
5点:△ヘイズが0.5未満
4点:△ヘイズが0.5以上、1.0未満
3点:△ヘイズが1.0以上、3.0未満
2点:△ヘイズが3.0以上、5.0未満
1点:△ヘイズが5.0以上
【0094】
なおヘイズ値は、次のようにして測定した。ヘイズメーター(スガ試験機社製)を用いて、サンプルの拡散透光率(T(%))および上記全光線透過率(T(%))を測定し、ヘイズ値を算出した。なお、表中に示される全光線透過率(%)およびヘイズ(%)は、いずれも、コーティング層の調製に基材として用いられた厚さ100μmのPETフィルム部分を介在して測定された値である。
【0095】
【数4】

【0096】
H:ヘイズ(曇価)(%)
:拡散透光率(%)
:全光線透過率(%)
【0097】
耐スチールウール性の評価
得られたサンプルのコーティング層上において、#0000のスチールウールを、500g/cmの荷重下にて、100往復させた。その後、評価試験後の硬化膜表面の目視評価をおこない、下記基準によって耐スチールウール性評価を行った。
◎:キズほぼなし
○:キズ2本以下
△:キズ3本以上、10本以下
×:キズ11本以上
【0098】
耐溶剤性の評価
硬化膜表面上を、MEK(メチルエチルケトン)を含浸させた綿棒で100往復回数軽く擦りつけ、試験後の塗膜表面の状態を目視にて以下のように評価した。
○:痕跡なし
△:わずかに痕跡有り
×:白化
【0099】
ペン摺動性の評価
ポリアセタール製のペン(先端の形状:0.8mmR)に200gの荷重をかけ、4万回(往復2万回)の直線摺動試験を硬化膜表面上でおこなった。この時の摺動距離は30mm、摺動速度は300mm/秒とした。この摺動耐久性試験後に、摺動部を目視によって観察した。
○:ほぼ痕跡なし
△:わずかに痕跡有り
×:白化
【0100】
耐屈曲性の評価
硬化塗膜フィルムを、JIS K 5600に準じて円筒形マンドレル法にて測定した。塗膜にクラックが入らなかった円筒の最小直径から以下のように評価した。
○:直径13mm未満
△:直径13以上〜18mm未満
×:直径18mm以上
【0101】
カール性の評価
硬化塗膜フィルムを10cm角の正方形に切り取り、静置時の4角の浮き上がり量の平均値(mm)で評価した。
○:10mm未満
△:10mm以上、30mm未満
×:30mm以上
【0102】
上記実施例1〜16および比較例1〜14の配合および評価結果を下記表にまとめて示す。なお表中の記号は下記内容を示すものである。
・UV−6100B:日本合成化学(株)社製、両末端それぞれに少なくとも1つの(メタ)アクリレート基を有するポリエーテル骨格含有ウレタンアクリレート、重量平均分子量5000
・UV−3700B:日本合成化学(株)社製、両末端それぞれに少なくとも1つの(メタ)アクリレート基を有するポリエーテル骨格含有ウレタンアクリレート、重量平均分子量41000
・UA−47:東邦化学(株)社製、両末端それぞれに少なくとも1つの(メタ)アクリレート基を有するポリエーテル骨格含有ウレタンアクリレート、重量平均分子量2000
・U−324A:新中村化学(株)社製、ウレタンアクリレート
・DPHA−40H:日本化薬(株)社製、ウレタンアクリレート
・アロニックスM305:東亞合成(株)社製、ペンタエリスリトールトリアクリレートおよびペンタエリスリトールテトラアクリレートの混合物(混合重量比約60:40)
・アロニックスM309:東亞合成(株)社製、トリメチロールプロパントリアクリレート
・アロニックスM350:東亞合成(株)社製、トリメチロールプロパン3EO変性トリアクリレート
・アロニックスM450:東亞合成(株)社製、ペンタエリスリトールテトラアクリレート
・イルガキュア184D:1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン
・イルガキュア907:2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モリフォリノプロパン−1−オン
・ポリプロピレングリコール400:キシダ化学(株)社製、ポリプロピレングリコール、平均分子量400
・ポリプロピレングリコール700:キシダ化学(株)社製、ポリプロピレングリコール、平均分子量700
・ポリプロピレングリコール1000:キシダ化学(株)社製、ポリプロピレングリコール、平均分子量1000
・PE−3100:Pluronic PE3100、BASFジャパン(株)社製、ポリプロピレングリコール90%、ポリエチレングリコール10%のブロックポリマー、分子量1000
・PE−61:三洋化成工業(株)社製、ポリプロピレングリコール86%、ポリエチレングリコール14%のブロックポリマー、分子量2000
・APG−700:新中村化学(株)社製、ポリエーテルジアクリレート
・UX−5000:日本化薬(株)社製、ポリエステルアクリレート
・UX−5001T:日本化薬(株)社製、ポリエステルアクリレート
・エポキシエステル70PA:共栄社化学(株)社製、エポキシアクリレート
・エポキシエステル80MFA:共栄社化学(株)社製、エポキシアクリレート
・BYK320:ビッグケミージャパン(株)社製、シリコン系表面調整剤
【0103】
【表1】

【0104】
【表2】

【0105】
【表3】

【0106】
【表4】

【0107】
【表5】


*上記表中、比較製造例1のウレタンアクリレート(1)は、片方の末端にのみアクレート基を有するものであり、比較製造例2は、末端にアクリレート基を有しないウレタン化合物である。
【0108】
上記表に示されるように、実施例の耐指紋性光硬化性組成物により得られた耐指紋性フィルムはいずれも、耐指紋性、耐スチールウール性、耐溶剤性、ペン摺動性、耐屈曲性、カール性の何れも優れるものであることが確認できた。
比較例1は、片方の末端にアクリレート基を有するウレタンアクリレートを用いた実験例である。この場合は、耐指紋性は優れる一方で、耐スチールウール性および耐溶剤性などが劣るものであった。
比較例2は、末端にアクリレート基を有さないウレタン化合物を用いた実験例である。この場合は、耐指紋性は優れる一方で、耐スチールウール性および耐溶剤性などが大きく劣るものである。
比較例3〜4は、SP値または水トレランス値が、本発明の範囲外であるウレタンアクリレートを用いた実験例である。この場合は、耐指紋性が劣ることが確認された。
比較例5および6は、ポリエーテル骨格含有ウレタン(メタ)アクリレート(A)の代わりにポリエーテルまたはポリエーテル(メタ)アクリレート(D)を用いた実験例である。この場合は、耐スチールウール性およびペン摺動性が劣ることが確認された。
比較例7および8は、ポリエーテル骨格含有ウレタン(メタ)アクリレート(A)の代わりにポリエステルアクリレートを用いた実験例である。この場合は、耐指紋性が発現しないことが確認された。
比較例9および10は、ポリエーテル骨格含有ウレタン(メタ)アクリレート(A)の代わりにエポキシアクリレートを用いた実験例である。この場合もまた、耐指紋性が発現しないことが確認された。
比較例11〜14は、光重合性多官能化合物(B)のみで調製した実験例である。この場合もまた、耐指紋性が発現しないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明の耐指紋性光硬化性組成物を用いることによって、光学表示装置などの表面に、優れた耐指紋性を有するコーティング層を、より簡便に設けることができる。本発明の耐指紋性光硬化性組成物により得られるコーティング層は、透明性にも優れており、光学表示装置などの表面における使用に非常に適している。本発明の耐指紋性光硬化性組成物により得られるコーティング層は、さらに、優れた耐擦傷性および表面の膜硬度を有する。さらに本発明の耐指紋性光硬化性組成物は光硬化性であるため、このような優れた性能を有するコーティング層を、光学表示装置の表面上により簡便に形成できる。本発明の耐指紋性光硬化性組成物を用いることによって、生産効率および製造コストに優れたコーティング層を形成することができるという産業上の利点を有する。さらにこのコーティング層は、耐指紋性を長期間維持させることができ、耐指紋性耐久性にも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】本発明の耐指紋性フィルムの断面該略図である。
【符号の説明】
【0111】
1…耐指紋性フィルム、3…コーティング層、5…透明基材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両末端それぞれに少なくとも1つの(メタ)アクリレート基を有する、ポリエーテル骨格含有ウレタン(メタ)アクリレート(A)、
光重合性多官能化合物(B)、および
光重合開始剤(C)、
を含み、
該ポリエーテル骨格含有ウレタン(メタ)アクリレート(A)は、下記式(1):
【化1】

[式中、Xは、ポリエーテル骨格を有するポリオール化合物の両末端の水酸基を除いた残基を示す。]
で示される構造を有し、および
該ポリエーテル骨格含有ウレタン(メタ)アクリレート(A)の水トレランスが6.0ml以下であり、溶解性パラメータが12以下である、
耐指紋性光硬化性組成物。
【請求項2】
さらに、ポリエーテルまたはポリエーテル(メタ)アクリレート(D)を含む、請求項1記載の耐指紋性光硬化性組成物。
【請求項3】
前記ポリエーテル骨格含有ウレタン(メタ)アクリレート(A)は、ポリエーテル骨格を有するポリオール化合物(a)、ポリイソシアネート(b)および水酸基含有(メタ)アクリレートモノマー(c)を反応させることによって調製された、ポリエーテル骨格含有ウレタン(メタ)アクリレートである、請求項1または2記載の耐指紋性光硬化性組成物。
【請求項4】
ポリエーテル骨格含有ウレタン(メタ)アクリレート(A)0.5〜40重量%、
光重合性多官能化合物(B)30〜99.5重量%、
ポリエーテルまたはポリエーテル(メタ)アクリレート(D)0〜30重量%、
(但し、上記成分(A)、(B)および(D)の総重量が100重量%となることを条件とする)、および
光重合開始剤(C)を、成分(A)、(B)および(D)の総重量100重量部に対して0.1〜20重量部、
を含む、請求項1〜3いずれかに記載の耐指紋性光硬化性組成物。
【請求項5】
透明基材およびコーティング層を有する耐指紋性フィルムであって、該コーティング層が請求項1〜4いずれかに記載の耐指紋性光硬化性組成物によって形成されるコーティング層である、耐指紋性フィルム。
【請求項6】
請求項1〜4いずれかに記載の耐指紋性光硬化性組成物によって形成される耐指紋性コーティング層が設けられた塗装物。
【請求項7】
前記塗装物が、タッチパネルディスプレイ、液晶表示ディスプレイ、発光ダイオードディスプレイ、エレクトロルミネセンスディスプレイ、蛍光ディスプレイ、プラズマディスプレイパネルまたは鏡面仕上げが施された物品である、請求項6記載の塗装物。

【図1】
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【公開番号】特開2011−42795(P2011−42795A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−214074(P2010−214074)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【分割の表示】特願2009−194065(P2009−194065)の分割
【原出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】