説明

耐指紋性向上剤、これを用いた活性エネルギー線硬化型ハードコート剤、これらを用いて得られる硬化膜および硬化膜を有する物品

【目的】付着した指紋が外観上目立ちにくく、拭取りが容易なハードコート膜が得られる耐指紋性向上剤およびこれを含有する活性エネルギー線硬化性ハードコート剤を提供する。
【解決手段】重合成分として、フルオロオレフィン(a)と、水酸基含有ビニルエーテルモノマーモノマー(b)を含む、水酸基価70〜84のフッ素系ポリマーを含有する耐指紋性向上剤と多官能(メタ)硬化成分を含有する活性エネルギー線硬化型ハードコート剤を提供する。好ましくは(a)成分がクロロトリフルオロエチレンであり、フルオロオレフィン(a)、水酸基含有ビニルエーテルモノマー(b)および水酸基を含有しないビニルエーテルモノマー(c)のモル比率が(a):(b):(c)=40〜60:3〜40:0〜57である耐指紋性向上剤を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードコート剤などのコーティング剤に配合することにより、形成される硬化膜に付着した指紋などの皮脂汚を目立ち難く、拭取りを容易にできる効果を与えることができる耐指紋性向上剤、耐指紋性を有する硬化膜を得ることができる活性エネルギー線硬化型樹脂、これらを用いたハードコート剤、ハードコート剤を用いて得られた硬化膜および硬化膜を有する物品に関する。
【背景技術】
【0002】
活性エネルギー線硬化型樹脂組成物は、各種物品の表面に塗工し、紫外線等の活性エネルギー線の照射により容易に硬化し、高硬度で耐擦傷性、透明性などに優れた硬化被膜(ハードコート被膜)を形成させることができることから、プラスチック材料等の表面を保護するハードコート剤等として広く用いられている。
【0003】
しかし、近年、携帯電話やタッチパネルを用いた電子機器の普及により、ハードコート剤の適用分野が広がり、コーティング材料として従来の傷付き難さを付与するハードコート性に加えて、皮脂等の油汚れから保護する機能も求められている。また、指で操作する表示部材に用いられる場合には、指紋の付着汚れが目立たずに拭取りが容易であることが求められている。
【0004】
かかる課題に対しては、例えば、ハードコート剤にフッ素系界面活性剤を配合し、得られる硬化膜を撥水化する技術(特許文献1)、ポリフルオロアルキル基を有する重合性モノマーと光硬化性官能基を有する重合性モノマーとの共重合体とするなど光硬化性官能基を有するフッ素系重合体を硬化成分として用いる技術(特許文献2)などフッ素に由来する高い撥水撥油性を利用して、ハードコート剤に指紋汚れ防止性を付与する技術が提案されている。しかし、得られる硬化膜は脂成分である指紋汚れを弾き、一定の汚れ付着低減効果はあるものの、完全に付着が防止できるものではなく、表面に弾かれたまま残存した指紋は光による乱反射を受けて、かえって外観上汚れが目立ちやすくなり、実用上満足できるものではない。
これに対して、基材表面とシロキサン結合を介して脂肪酸エステル基の被膜を形成させたり(特許文献3)、シリコンやフッ素を含まない撥水基を有する(メタ)アクリレートを共重合成分として含む(メタ)アクリル系共重合体、又は、これと無機酸化物微粒子との複合体を用いた水接触角が80度以上でオレイン酸などに対する接触角が10度以下の耐汚染剤を用いたりして(特許文献4)、指紋と馴染みやすくし外観上の汚れを目立たなくする技術も提案されている。しかし、得られる被膜はハードコート性を有しないものであり、また、付着した指紋汚れは堆積しやすく、その拭取りが困難になるという問題がある。
【0005】
【特許文献1】特開平10−1101118号公報
【特許文献2】特開2002−241446号公報
【特許文献3】特開2001−353808号公報
【特許文献4】特開2004−359834号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ハードコート剤など物品表面に被膜を形成させるコーティング剤などに配合することにより、付着した指紋が外観上目立ちにくく(指紋汚れ目立ち防止性が良好)、しかも拭取りも容易(指紋拭取り性が良好)となる特性(耐指紋性)を付与することができる耐指紋性向上剤を提供すること、および耐指紋性が良好なハードコート膜が得られる活性エネルギー線硬化性ハードコート剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、フルオロオレフィンと水酸基含有ビニルエーテルモノマーを共重合成分として含み、水酸基価が特定の範囲に調整されたフッ素系ポリマーをハードコート剤の成分として使用することによりこれらの課題を解決することを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、
重合成分として、フルオロオレフィン(a)と、水酸基含有ビニルエーテルモノマーモノマー(b)を含む、水酸基価90〜130(mgKOH/g)のフッ素系ポリマーを含有することを特徴とする耐指紋性向上剤;フルオロオレフィン(a)がクロロトリフルオロエチレンである前記耐指紋性向上剤;重合成分として、さらに水酸基を含有しないビニルエーテルモノマー(c)を含む前記耐指紋性向上剤;フルオロオレフィン(a)、水酸基含有ビニルエーテルモノマー(b)および水酸基を含有しないビニルエーテルモノマー(c)のモル比率が(a):(b):(c)=40〜60:3〜40:0〜57である前記耐指紋性向上剤;前記耐指紋性向上剤と多官能性(メタ)アクリロイル化合物を含有する活性エネルギー線硬化型ハードコート剤;前記活性エネルギー線硬化型ハードコート剤を硬化して得られる硬化膜および硬化膜が表面に形成された物品、に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の耐指紋性向上剤は、撥水撥油性を示すフルオロオレフィンと、親水性および親油性を示す極性基を有する水酸基含有ビニルエーテルモノマーを必須構成モノマーとする共重合体であり、好ましくはさらに水酸基を含有しないビニルエーテルモノマーを構成成分とし、その撥水撥油部位と極性部位とを適度なバランスで共存させた共重合体からなるものであるため、各種コーティング剤に配合することにより、得られるコーティング膜に指紋の汚れ目立ち防止性および指紋拭取り性を付与することができる。また、本発明の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物は、高硬度で、優れた耐擦傷性などのハードコート性が良好なことに加え、良好な指紋汚れ目立ち防止性および指紋拭取り性を併せ持つ硬化膜(ハードコート膜)と形成させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の耐指紋性向上剤は、共重合成分として、フルオロオレフィン(a)(以下、(a)成分という。)と、水酸基含有ビニルエーテルモノマー(b)(以下、(b)成分という。)を含む、水酸基価90〜130(mgKOH/g)のフッ素系ポリマーを含有することを特徴とするものである。
【0011】
(a)成分としては、オレフィン中の水素原子の全部または一部がフッ素原子に置換されたものであれば、特に限定することなく公知のものを使用することができる。具体的には、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレンなどの炭素数2〜3のフルオロオレフィンが挙げられる。これらのうち、クロロトリフルオロエチレンとテトラフルオロエチレンが好ましく、より好ましくはクロロトリフルオロエチレンである。
【0012】
(b)成分としては、分子中に少なくとも水酸基を1個以上有し、(a)成分と重合可能な二重結合を1個有するものであれば特に限定することなく公知のものを使用することができる。(b)成分としては、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、好ましくは、炭素数3〜8のヒドロキシアルキル基を有するものが挙げられる。具体例としては2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、3−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、3−ヒドロキシブチルビニルエーテル、5−ヒドロキシペンチルビニルエーテル、6−ヒドロキシヘキシルビニルエーテル、シクロヘキサンジオールモノビニルエーテル、グリシジルビニルエーテル、などが挙げられる。これらの中でも、4−ヒドロキシブチルビニルエーテルが特に好ましい。
【0013】
本発明のフッ素系ポリマーは、上記(a)成分と(b)成分を必須成分とする共重合体であるが、重合成分として、さらに水酸基を含有しないビニルエーテルモノマー(c)(以下、(c)成分という。)を含むものとすることにより、水酸基価の範囲を水酸基価90〜130(mgKOH/g)とするフッ素系ポリマーの製造が容易になる点において好ましい。(c)成分としては、分子中に水酸基を有さず、(a)成分および(b)成分と重合可能な二重結合を有するものであれば特に限定されず公知のものを使用することができる。ビニルエーテルモノマーとしては、直鎖状、分岐状または環状のアルキルビニルエーテルなどが挙げられ、好ましくは、炭素数2〜8の直鎖状または分岐状のアルキルビニルエーテル、シクロアルキルビニルエーテルなどが挙げられる。具体的には、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、ヘキシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテルなどが挙げられる。
【0014】
本発明に用いるフッ素系ポリマーは、水酸基価90〜130(mg−KOH/g)の範囲内である限り、各共重合成分のモル比率は特に限定されないが、通常(a):(b):(c)=40〜60:3〜40:0〜57であり、水酸基価の調整のし易さの点などから(a):(b):(c)=45〜55:5〜30:25〜50の範囲とすることが好ましい。
【0015】
本発明のフッ素系ポリマーは、必要により前記(a)〜(c)成分以外のモノマー成分(d)(以下、(d)成分という。)を適宜使用することもできる。(d)成分としては、(a)〜(c)成分と重合可能な二重結合を有するものであれば特に限定されず公知のものを使用することができ、例えば、ビニルエステル、アリルエーテル、アリルエステル、イソプロペニルエーテル、イソプロペニルエステル、メタリルエーテル、メタリルエステル、α−オレフィン、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルなどが挙げられる。
【0016】
ビニルエステルとしては、酪酸ビニル、酢酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニルなどの脂肪酸ビニルエステルなどが挙げられる。アリルエーテルとしては、エチルアリルエーテル、シクロヘキシルアリルエーテルなどのアルキルアリルエーテルなどが挙げられる。アリルエステルとしては、プロピオン酸アリル、酢酸アリルなどの脂肪酸アリルエステルが挙げられる。イソプロペニルエーテルとしてはメチルイソプロペニルエーテルなどのアルキルイソプロペニルエーテルなどが挙げられる。α−オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、イソブチレンなどが挙げられる。
【0017】
フッ素系ポリマーの重合方法としては、公知の重合方法、例えば、溶液重合、沈殿重合、懸濁重合、塊状重合、乳化重合等を特に限定することなく採用することができ、例えば、鶴田禎二「高分子合成方法」改定版日刊工業新聞社刊、1971)や大津隆行、木下雅悦共著「高分子合成の実験方法」化学同人、昭和47年刊、124〜154頁)に記載されている方法に従えばよい。
【0018】
例えば、ラジカル重合開始剤を用いた溶液重合により重合する場合には、使用溶剤として、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ベンゼン、トルエン、アセトニトリル、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノールなどの有機溶剤を、反応液総重量の5〜70重量%程度、好ましくは10〜60重量%程度となるように加えて反応液とし、さらにラジカル重合開始剤を添加して、通常、反応温度50〜100℃程度、反応圧力1〜30kg/cm程度で、反応時間1〜30時間程度行えばよい。なお、使用溶剤は、前記有機溶剤の1種を単独で、または2種以上の混合物でも良いし、これらと水との混合溶媒としても良い。
【0019】
重合反応に用いられるラジカル重合開始剤としては、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジハイドロクロライド、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタノイックアシッド)のようなアゾ系開始剤や、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、アセチルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、t−ブチルハイドロパーオキサイド、過硫酸カリウムなどが挙げられる。重合開始剤の使用量は特に限定されず、モノマーの重合性等により適宜調節すればよいが、通常、全モノマー成分に対して0.01〜10.0重量%程度とすればよい。
【0020】
こうして得られたフッ素系ポリマーは、その水酸基価が水酸基価90〜130(mg−KOH/g)の範囲に調整されたものであることが必要である。水酸基価が90を下回ると、指紋拭き取り容易性が不十分となり、また多官能性(メタ)アクリロイル化合物との相溶性が悪く、相分離や塗工膜の白化が起こりやすい。130を超えると、指紋目立ち防止性が不十分となり、また得られる樹脂粘度が著しく上昇し、塗料化が困難になるなど取り扱性が悪くなる。
同様の観点から水酸基価が95〜110の範囲とすることがより好ましい。また、フッ素系ポリマーの分子量は、特に限定されないが、ゲルパーメーションクロマトグラフィー法によるポリスチレン換算の数平均分子量で1000〜100000程度のものであることが好ましい。
【0021】
また、本発明で使用するフッ素系ポリマーは、前述したように重合により調製してもよいが、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、ルミフロン(旭硝子社製)、セフラルコート(セントラル硝子社製)、ザフロン(東亜合成社製)、ゼッフル(ダイキン工業社製)、フルオネート(大日本インキ工業製)、フローレン(日本合成ゴム社製)、が挙げられる。
【0022】
本発明のフッ素系ポリマーは、ハードコート剤やその他の各種物品の表面コーティング剤に配合する耐指紋性向上剤として用いることができる。
なお、フッ素系ポリマーは、通常、架橋剤を使用せず、そのまま耐指紋性向上剤として用いればよいが、最終的に水酸基が90〜130の範囲に調整されたものである限り、架橋剤を使用して架橋させたものを使用してもよい。架橋剤としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート三量体、トリレンジイソシアネート等のイソシアネート類などが挙げられる。
【0023】
本発明の活性エネルギー線硬化型ハードコート剤は、前記耐指紋性向上剤、活性エネルギー線により硬化可能な多官能性(メタ)アクリロイル化合物、を含有するものである。多官能性(メタ)アクリロイル化合物としては、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリ(メタ)エステルアクリレートなどが挙げられ、これらは東亜合成(株)のアロニックス製品群や大阪有機工業(株)のビスコート製品群より容易に入手することができる。なお、これらはそれぞれを単独で、または2種以上を併用して用いてもよい。フッ素系ポリマーを含有する耐指紋性向上剤と多官能性(メタ)アクリロイル化合物の使用割合は、特に制限されないが、多官能性(メタ)アクリレート100部に対して耐指紋性向上剤を0.5〜20部程度で使用することが好ましい。耐指紋性向上剤が0.5部を下回ると耐指紋性の効果が十分に発揮できない傾向があり、20部を超えるとハードコート性を低下させる傾向があるためである。
【0024】
本発明のハードコート剤を紫外線で硬化させる場合には光重合開始剤を使用することができる。光重合開始剤としては、紫外線により分解してラジカルを発生して重合を開始させることができるものであれば、特に限定されず公知のものを用いることができる。具体的には、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−シクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、4−メチルベンゾフェノン等が挙げられ、これらはチバ・ジャパン(株)などから容易に入手することができる。なお、これらは1種を単独で、あるいは2種以上を組合せて用いることができる。光重合開始剤の使用量は、活性エネルギー線硬化型樹脂組成物100部に対して、0.1〜10部程度とすることが好ましい。
また、本発明のハードコート剤は、必要により適宜レベリング剤や消泡剤、スリップ剤、光増感剤等の各種添加剤を配合してもよい。また、適宜、他のフッ素化合物やシリコーン化合物を含む添加剤を用いてもよいが、これらは硬化膜表面の特性がより撥水性の強いものに変化させる傾向があるため、指紋目立防止効果などを低下させてしまわない程度の使用量にとどめるべきである。
【0025】
本発明のハードコート剤を用いて物品表面にハードコート層(硬化膜)を形成させる方法としては、物品表面にハードコート剤を公知の方法で塗布して乾燥させた後に、活性エネルギー線を照射して硬化させることにより行う。ハードコート剤の塗布方法としては、例えばバーコーター塗工、メイヤーバー塗工、エアナイフ塗工、グラビア塗工、リバースグラビア塗工、オフセット印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷法等が挙げられる。なお、塗布量は特に限定されないが、通常は、乾燥後の重量が0.1〜20g/m、好ましくは0.5〜10g/mになる範囲である。
【0026】
本発明のハードコート剤(活性エネルギー線硬化型樹脂組成物)を使用してハードコート層が形成可能な物品(基材)としては、特に制限はなく、例えば、プラスチック(ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリエステル、ポリオレフィン、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、トリアセチルセルロース樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、ノルボルネン系樹脂等)、金属、木材、紙、ガラス、スレート等が挙げられる。
【実施例】
【0027】
以下に、実施例および比較例をあげて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら各例に限定されるものではない。なお、各例中、部および%は特記しない限りすべて重量基準である。
【0028】
(ハードコート剤の調製)
以下に本発明の耐指紋性向上剤として市販のまたは上記合成例で得られた各種ポリマーを使用して塗料化し、活性エネルギー線硬化型ハードコート剤を調製した。
【0029】
(実施例1)
フッ素系ポリマーとして旭硝子社製 商品名「ルミフロン」品番LF9010(水酸基価100mgKOH/g、分子量9,000)を10部、ペンタエリスリトールトリアクリレートを90部、光重合開始剤(イルガキュア184、チバ・ジャパン(株))3部を配合し、不揮発分が40%になるようにメチルエチルケトンで希釈調製し、均一に混合した。
【0030】
(比較例1)
耐指紋性向上剤として、フッ素系ポリマーである旭硝子製 商品名ルミフロン品番LF710F(水酸基価48mgKOH/g、分子量13,000)を10部、ペンタエリスリトールトリアクリレートを90部、光重合開始剤(イルガキュア184、チバ・ジャパン(株))3部を配合し、不揮発分が40%になるようにメチルエチルケトンで希釈調製し、均一に混合した。
【0031】
(比較例2)
撹拌機、温度計、エアーバブリング装置および還流冷却器を備えたフラスコに、メチルメタクリレート(以下、MMA)40部、ステアリルメタアクリレート(以下、SMA)20部、メチルイソブチルケトン(以下、MIBK)200部、アゾビスイソブチロニトリル(以下、AIBN)0.5部を仕込み、窒素雰囲気下で撹拌しながら1時間かけて90℃に昇温させた後、90℃で5時間反応させた。その後、AIBNを0.2部入れ、90℃で2時間反応させ、その後、100℃3時間維持し、残存するAIBNを完全に分解させた。その後室温に冷却し、MMA/SMA共重合ポリマーを得た。重量平均分子量(GPCによるポリスチレン換算値)は16,000であった。なお、重量平均分子量は、ゲルパーメーションクロマトグラフィー(東ソー(株)製、商品名「HLC−8220」、カラム:東ソー(株)製、商品名「TSKgel superHZ2000」を2本直列に連結して測定した値を示す。
上記合成で得たMMA/SMA共重合ポリマーを10部、ペンタエリスリトールトリアクリレートを90部、光重合開始剤(イルガキュア184、チバ・ジャパン(株))3部を配合し、不揮発分が40%になるようにメチルエチルケトンで希釈調製し、均一に混合した。
【0032】
(比較例3)
ペンタエリスリトールトリアクリレート99部に、市販のUV硬化型防汚性添加剤としてダイキン化学社製フッ素添加剤「オプツールDAC」(登録商標)を固形換算で1部を配合、さらに光重合開始剤(イルガキュア184、チバ・ジャパン(株))3部を配合し、不揮発分が40%になるようにメチルエチルケトンで希釈調製し、均一に混合した。
【0033】
(比較例4)
ペンタエリスリトールトリアクリレート100部、光重合開始剤(イルガキュア184、チバ・ジャパン(株))3部を配合し、不揮発分が40%になるようにメチルエチルケトンで希釈調製し、均一に混合した。
【0034】
(硬化膜の作成)
各実施例および比較例で調製したコーティング剤を厚さ188μmの片面易接着処理ポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡績(株)製「A4100」)の易接着面にバーコーターNo.8で塗布し、80℃、1分間乾燥させた後、紫外線光を300mJ/cmで照射し、膜厚約4μmの硬化膜を得た。
【0035】
(塗膜評価)
作成した塗膜について下記項目の試験を行い、ハードコート性(外観、硬度、耐擦傷性)と耐指紋性(指紋の目立ち難さ、指紋の拭取り性)について評価した。
得られた結果を表1に示す。
【0036】
<外観>
塗膜の外観をレベリング性(平滑性)、ゆず肌、ピンホールについての不具合の有無を目視にて評価した。
○=優秀 ×=不良
<鉛筆硬度>
JIS−K−5600の試験方法に則り、評価した。
<耐擦傷性>
グレード0000のスチールウールを1平方センチメートルあたり500g加重で、塗膜表面を50回摩擦し、塗膜表面の傷の有無を目視で観察した。
◎=傷無 ○=薄い傷が3-6本程度 ×=深い傷が多数
【0037】
<耐指紋性>
(目立ち難さ)
塗膜表面に指を押し当てて付着する指紋の目立ち難さを下記の4段階で評価した。
1:塗膜面に付着した指紋がガラス板に付着した指紋よりも、白くハッキリ目視できた。
2:塗膜面に付着した指紋がガラス板に付着した指紋と同程度の目立ち易さであった。
3:塗膜面に付着した指紋がガラス板に付着した指紋よりも目立ち難かった。
4:塗膜面に付着した指紋がガラス板に付着した指紋よりも明らかに目立ち難かった。
(拭取り性)
各塗膜面に付着させた指紋に対し、キムタオル(日本製紙クレシア(株))で一方向に往復して指紋が目視できなくなるまで拭取り、指紋の拭き取り性を下記の3段階で評価した。
A:塗膜面に付着した指紋が確認できなくなるまで、3往復以内の拭き取りで容易に拭取れた。
B:塗膜面に付着した指紋が確認できなくなるまで、3往復以上の拭き取り回数を要して指紋が拭取れた。
C:塗膜面に付着した指紋が確認できなくなるまで、3往復以上の拭き取り回数を要しても、指紋が完全に拭き取れなかった。
なお、比較例1は、硬化膜の白化による外観不良のため、前記2つの耐指紋性の評価を行うことができなかった。
【0038】
【表1】

【0039】
表1中の略号は、以下のとおりである。
ルミフロンLF9010:旭硝子(株)社製超耐候性塗料用フッ素樹脂ルミフロン(登録商標)LF9010 水酸基価100mgKOH/g
ルミフロンLF710F:旭硝子(株)社製超耐候性塗料用フッ素樹脂ルミフロン(登録商標)LF710F 水酸基価48mgKOH/g
オプツールDAC:ダイキン工業(株)社製UV硬化型防汚性添加剤「オプツールDAC」(登録商標)
PETA:ペンタエリスリトールトリアクリレート
MMA:メチルメタクリレート
SMA:ステアリルメタアクリレート
Irg184:チバ・ジャパン(株)イルガキュアー184
OHV:水酸基価
【0040】
以上の結果より、本発明の指紋付着防止剤を配合して得られたハードコート剤を用いて形成した硬化膜は、先行文献の指紋付着防止剤や撥水撥油性の市販の防汚性付与剤を添加したものに比べ、指紋の目立ち難さ、拭取り易さが両立できており、耐指紋性が従来技術の防汚性付与剤に比べて優れた効果を示していることが明らかである。さらに、比較例4で示すところの一般的なハードコートアクリル樹脂と比較しても、ハードコート性が同等のであることから、本発明の指紋付着防止剤を配合して得られたハードコート剤は、十分なハードコート剤と耐指紋性を基材に付与することができるものでありであり、タッチパネルディスプレイ等の指紋の付着が想定される部材へのコーティングに有益なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合成分として、フルオロオレフィン(a)と、水酸基含有ビニルエーテルモノマー(b)を含む、水酸基価90〜130(mgKOH/g)のフッ素系ポリマーを含有することを特徴とする耐指紋性向上剤。
【請求項2】
フルオロオレフィン(a)がクロロトリフルオロエチレンである請求項1記載の耐指紋性向上剤。
【請求項3】
重合成分として、さらに水酸基を含有しないビニルエーテルモノマー(c)を含む請求項1または2記載の耐指紋性向上剤
【請求項4】
フルオロオレフィン(a)、水酸基含有ビニルエーテルモノマー(b)および水酸基を含有しないビニルエーテルモノマー(c)のモル比率が(a):(b):(c)=40〜60:3〜40:0〜57である請求項3のいずれかに記載の耐指紋性向上剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の耐指紋性向上剤、多官能性(メタ)アクリロイル化合物を含有する活性エネルギー線硬化型ハードコート剤。
【請求項6】
請求項5記載の活性エネルギー線硬化型ハードコート剤を硬化して得られる硬化膜。
【請求項7】
請求項6に記載の硬化膜が表面に形成された物品。


【公開番号】特開2010−84033(P2010−84033A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−255343(P2008−255343)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000168414)荒川化学工業株式会社 (301)
【Fターム(参考)】