説明

耐摩耗剤、潤滑剤用添加剤組成物及び潤滑油組成物

【課題】耐摩耗性、摩擦低減性、塩基価維持性に優れ、潤滑油用耐摩耗剤を提供すること。
【解決手段】ピリジン類、ピロール類、ピリミジン類、ピラゾール類、ピリダジン類、イミダゾール類、ピラジン類、トリアジン類、トリアゾール類、テトラゾール類、オキサゾール類、オキサジアゾール類、チアゾール類、チアジアゾール類、フラン類、ジオキサン類、ピラン類、チオフェン類から選ばれる化合物に由来する複素環骨格を有する複素環化合物、及び/又は該複素環化合物とホウ素化合物、モリブデン化合物及びケイ素化合物から選ばれる化合物との反応生成物からなる耐摩耗剤及び潤滑油組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐摩耗剤及びそれを含有する潤滑油組成物に関する。更に詳しくは、本発明は、従来使用されている耐摩耗剤と同等以上の耐摩耗性能、摩擦低減性能及び塩基価維持性能を有する耐摩耗剤、並びにそれを含む、特にガソリンエンジン、ディーゼルエンジン及びガスエンジン等の内燃機関に有用な潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の自動車用エンジンには排出ガスを清浄化するために、酸化触媒、三元触媒、NOx吸蔵型還元触媒、ディーゼルパティキュレートフィルター(DPF)等が使用されている。
これらの排出ガスの後処理装置は、エンジン油中の金属分、リン分及び硫黄分により悪影響を受けることが分かっており、これらの成分をできるだけ低くする方が好ましいことは当然である。
更に、エンジン油中の金属分、リン分及び硫黄分を減らすことは触媒の劣化対策上好ましい。
エンジン油の耐摩耗剤としてジアルキルジチオリン酸亜鉛が長年使用されており、現在も必須の添加剤と考えられている。
ジアルキルジチオリン酸亜鉛は、金属分、リン分及び硫黄分を含んでおり、このジアルキルジチオリン酸亜鉛の分解物は硫酸、燐酸となり、エンジン油中の塩基性化合物を消耗することで更油期間が極端に短くなることから、代替の耐摩耗剤が望まれている。
また、同様のことがエンジン油以外の他の潤滑油についても云える。
【0003】
複素環化合物の潤滑油への適用例は下記の特許文献に記載されている。
特許文献1では、腐食防止剤としてベンゾトリアゾールが使用されている。
特許文献2には、トリアゾール誘導体の冷凍機油組成物への適用が記載されており、耐摩耗性の効果を主張している。
特許文献3では、イミダゾールフッ素誘導体が表面処理剤として使用されている。
特許文献4には、内部潤滑剤を有するポリマーとして、ポリベンゾイミダゾールを用いる記載がある。
特許文献5には、チアジアゾールやベンゾトリアゾールを含有し、耐摩耗性に優れるアクティブサスペンション用の流体組成物に関する記載がある。
特許文献6には、トリアジン誘導体を潤滑剤及び燃料のための分散剤として用いる記載がある。
特許文献7には、潤滑剤用としてのインダゾールチオン添加剤の記載がある。
特許文献8には、トリアジン構造を有する低トラクション性流体の記載がある。
更に、特許文献9には、トリアジン誘導体を含有する耐摩耗性潤滑剤組成物の記載がある。
特許文献10は、フレオン圧縮機で使用する耐摩耗剤として置換チオフェンが使用されている。
特許文献11は、複素環化合物として置換ピリジン誘導体、置換ジアジン誘導体の記載がある。
しかしながら、記載されている化合物は、耐摩耗性を要求されたレベルに達せず、実用性能上問題がある。
【0004】
【特許文献1】特開昭64−29497号公報
【特許文献2】特開平06−100881号公報
【特許文献3】特開平06−157471号公報
【特許文献4】特表平07−506860号公報
【特許文献5】特開平08−165483号公報
【特許文献6】特表2002−534436号公報
【特許文献7】特表2003−505577号公報
【特許文献8】特開2004−315703号公報
【特許文献9】特開2004−331950号公報
【特許文献10】特開昭58−103594号公報
【特許文献11】特開昭62−243692号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、耐摩耗性、摩擦低減性、塩基価維持性に優れ、耐摩耗剤として有用な複素環化合物、該複素環化合物とホウ素化合物、モリブデン化合物及びケイ素化合物から選ばれる化合物との反応生成物、及びそれらを含有する潤滑油組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記従来技術の現状に鑑み、耐摩耗性を向上させた潤滑油組成物を開発すべく研究を行った結果、特定の化学構造を有する複素環化合物、及び該複素環化合物とホウ素化合物、モリブデン化合物及びケイ素化合物から選ばれる化合物との反応生成物が耐摩耗剤として優れた特性を示し、内燃機関や駆動系伝達機関において潤滑油に耐摩耗性等を付与し得ることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、
1.下記の一般式(I)
【0007】
【化1】

【0008】
〔一般式(I)中、X1、X2、X3及びX4は、それぞれ独立にNもしくはNH、O又はSを、pは0又は1を示す。x及びyは、それぞれ独立に0〜2の整数、u及びrは、それぞれ独立に0〜3の整数、t及びwは、それぞれ独立に0〜3の整数を示す。pが0の場合、vは0〜5の整数を示し、pが1の場合、vは0〜3の整数を示す。n及びmは、それぞれ独立に0又は1、kは0〜3の整数を示し、pが0の場合、x、y、n、m及びvは同時に0にはならない。R1〜R4は、それぞれ独立に炭素原子に結合する水素原子又はアミノ基、アミド基、エーテル基及びカルボキシル基の中から選ばれる少なくとも一種の置換基を有していてもよい炭化水素基を示し、pが0の場合、R1及びR2は同時に水素原子になることはなく、pが1の場合、R1〜R4は同時に水素原子になることはない。Y1及びY2は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、又はアミノ基、アミド基、水酸基、カルボニル基、アルデヒド基、カルボキシル基、エステル基及びエーテル基の中から選ばれる官能基、あるいは同官能基の中から選ばれる少なくとも一種の官能基を有していてもよい全炭素数が1〜150の炭化水素基を示す。〕
で表される環状部分に二重結合を有していてもよい複素環化合物、及び/又は該複素環化合物とホウ素化合物、モリブデン化合物及びケイ素化合物から選ばれる化合物との反応生成物からなる耐摩耗剤。
2.一般式(I)におけるpが0又は1であり、X1、X2及びX3がそれぞれ独立にNもしくはNH、O又はSである上記1に記載の耐摩耗剤、
3.一般式(I)がピリジン類、ピロール類、ピリミジン類、ピラゾール類、ピリダジン類、イミダゾール類、ピラジン類、トリアジン類、トリアゾール類、テトラゾール類、オキサゾール類、オキサジアゾール類、チアゾール類、チアジアゾール類、フラン類、ジオキサン類、ピラン類、チオフェン類から選ばれる化合物に由来する複素環骨格を有する上記1又は2に記載の耐摩耗剤、
4.上記1〜3のいずれかに記載の耐摩耗剤を含有する潤滑油組成物、
5.潤滑油組成物全量基準で亜鉛の含有量が、元素換算で600質量ppm以下である上記4に記載の潤滑油組成物、
6.潤滑油組成物全量基準でリンの含有量が、元素換算で500質量ppm以下である上記4に記載の潤滑油組成物、
7.内燃機関用である請求項4〜6のいずれかに記載の潤滑油組成物
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の耐摩耗剤を含む潤滑油組成物を用いることにより、例えば、内燃機関におけるガソリンエンジン油、ディーゼルエンジン油、ガスエンジン油、2サイクルエンジン油等において、前記複素環化合物、該複素環化合物とホウ素化合物、モリブデン化合物及びケイ素化合物から選ばれる化合物との反応生成物が優れた耐摩耗性、摩擦低減性、塩基価維持性を示す。
また、前記複素環化合物及び反応生成物は、エンジン油等の潤滑油の更油期間を延長できると共に、排出ガスの後処理装置等への悪影響、更には触媒の劣化も少ないという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の耐摩耗剤は、上記一般式(I)で表される複素環化合物、該複素環化合物とホウ素化合物、モリブデン化合物及びケイ素化合物から選ばれる化合物との反応生成物からなる。
【0011】
前記一般式(I)において、
(1)pが0の場合
1、X2、及びX3は、それぞれ独立にNもしくはNH、O又はSを示す。
x及びyは、それぞれ独立に0〜2の整数、vは0〜5の整数を示す。
n及びmは、それぞれ独立に0又は1、x、y、n、m及びvは同時に0にはならない。
1及びR2は、それぞれ独立に炭素原子に結合する水素原子又はアミノ基、アミド基、エーテル基及びカルボキシル基の中から選ばれる少なくとも一種の置換基を有していてもよい炭化水素残基を示し、R1及びR2は同時に水素原子になることはない。
【0012】
前記一般式(I)において、
(2)pが1の場合
1、X2、X3及びX4は、それぞれ独立にNもしくはNH、O又はSを示す。
x及びyは、それぞれ独立に0〜2の整数、u及びrは、それぞれ独立に0〜4の整数、t及びwは、それぞれ独立に0〜3の整数を示す。vは0〜3の整数を示す。
n及びmは、それぞれ独立に0又は1、kは0〜3の整数を示し、R1〜R4は、それぞれ独立に炭素原子に結合する水素原子又はアミノ基、アミド基、エーテル基及びカルボキシル基の中から選ばれる少なくとも一種の置換基を有していてもよい炭化水素残基を示し、R1〜R4は同時に水素原子になることはない。
【0013】
1及びY2は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、又はアミノ基、アミド基、水酸基、カルボニル基、アルデヒド基、カルボキシル基、エステル基及びエーテル基の中から選ばれる官能基、あるいは同官能基の中から選ばれる少なくとも一種の官能基を有していてもよい全炭素数が1〜150の炭化水素基を示す。
【0014】
1〜R4は、好ましくは水素原子又は炭素数1〜150の炭化水素基であり、具体的には、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、オクチル、2−エチルヘキシル、デシル、ドデシル、ドデセニル、テトラデセン、テトラデセニル、ヘキサデセン、ヘキサデセニル、オクタデシル、オクタデセニル、オレイル、ステアリル、イソステアリル、ドコセニル、デセントリマー、ポリブテン基等の炭化水素基であり、これらは直鎖状でも分岐状でも、飽和でも不飽和でもよい。
より好ましくは、オクチル、2−エチルヘキシル、デシル、ドデシル、ドデセニル、テトラデセン、テトラデセニル、ヘキサデセン、ヘキサデセニル、オクタデシル、オクタデセニル、オレイル、ステアリル、イソステアリル、ドコセニル、デセントリマー基等の炭素数8〜30の炭化水素基である。
一般式(I)で表される複素環化合物は、例えば、複素環の基本骨格となるピリジン、ピロール、ピリミジン、ピラゾール、ピリダジン、イミダゾール、ピラジン、トリアジン、トリアゾール、テトラゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、チアゾール、チアジアゾール、フラン、ジオキサン、ピラン、チオフェンを基本骨格とする化合物及びそれらの誘導体(a)と炭素数10〜200のアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基を有するハロゲン化合物、アミン化合物、アルコール類、エポキシ化合物及びカルボキシル基を有する化合物(b)とをモル比(a):(b)を1:5〜5:1、好ましくは、1:2〜2:1の割合で反応させて得られる反応生成物である。
【0015】
モル比(a):(b)を1:5以上及び5:1以下とすることにより、本発明の耐摩耗剤の有効成分量が少なくなるのを防ぎ、耐摩耗性、摩擦低減性、塩基価維持性を示すために多量添加する必要性がなくなる。
(a)と(b)の反応は、室温〜200℃、好ましくは50〜150℃で行う。
反応は、無触媒でも触媒の存在下で行なってもよい。
また、反応を行うに際して溶剤、例えば、ヘキサン、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルフォルムアミド(DMF)等の有機溶剤を使用することもできる。
【0016】
一般式(I)で表される複素環化合物において、複素環の基本骨格は1つの環が窒素及び/又は酸素及び/又は硫黄数の合計が1〜4である飽和又は不飽和化合物である。
このような環状化合物としては、ピリジン、ピロール、ピリミジン、ピラゾール、ピリダジン、イミダゾール、ピラジン、トリアジン、トリアゾール、テトラゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、チアゾール、チアジアゾール、フラン、ジオキサン、ピラン、チオフェン及びそれらの誘導体が挙げられる。
より好ましくは、ピリジン、ピロール、ピリミジン、ピラゾール、ピリダジン、イミダゾール、ピラジン、トリアジン、トリアゾール、テトラゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、フラン、ジオキサン、ピラン、及びそれらの誘導体が挙げられる。
これらは、前記した単環の環状化合物であっても、例えば、インドール、インダゾール、ベンゾトリアゾール、ベンゾイミダゾール、プリン、キノリン、イソキノリン、ナフチリジン、カルバゾール、ナフトイミダゾール等の多環の環状化合物性であってもかまわない。
また、複素環化合物に官能基として炭化水素基又はアミン、アミド、アルコール、ケトン、アルデヒド、カルボン酸、エステル、エーテル、ハロゲン及びそれらを含む炭化水素化合物が付加したものでもよいが、炭化水素基又はアミン、アミド、アルコール、ケトン、アルデヒド、カルボン酸、エステル、エーテル及びそれらを含む炭化水素化合物が付加したものがよい。
複素環化合物に付加する官能基の例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、アミン、アミド、アルコール、メチルカルボキシ、エチルカルボキシ、アルデヒド、カルボン酸、アセトキシル、プロピオキシル、ブチロイルキシル、ハロゲン、エチルオキシ、プロピルオキシ、エチルアミン、メチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ポリエチレンポリアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、テトラエチレンペンタアミン、アミノエチルピペラジン等が挙げられる。
好ましくは、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、アミン、アミド、アルコール、メチルカルボキシ、エチルカルボキシ、アルデヒド、カルボン酸、アセトキシル、プロピオキシル、ブチロイルキシル、エチルオキシ、プロピルオキシ、エチルアミン、メチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ポリエチレンポリアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、テトラエチレンペンタアミン、アミノエチルピペラジン等が挙げられる。
【0017】
化合物(b)としては、2−デシル−1−ブロモテトラデカン、2−ブチル−1−ブロモオクタン、2−ペンチル−1−ブロモノナン、2−ヘキシル−1−ブロモデカン、2−ヘプチル−1−ブロモウンデカン、2−オクチル−1−ブロモドデカン、2−ノニル−1−ブロモトリデカン、2、4−ジオクチル−1−ブロモテトラデカン、ブロモポリブタン、ブロモドデカン、ブロモドデカン、ブロモテトラデカン、ブロモヘキサデカン、ブロモオクタデカン、ブロモエイコサン、ブロモドコサン、ブロモテトラコサン、ブロモイソステアリルのような臭素系の化合物、2−デシル−1−クロロテトラデカン、2−ブチル−1−クロロオクタン、2、4−ジオクチル−1−クロロテトラデカンクロロポリブタン、クロロドデカン、クロロテトラコサンのような塩素系の化合物、2−デシル−1−ヨードテトラデカン、2−ブチル−1−ヨードオクタン、2、4−ジオクチル−1−ヨードテトラデカン、ヨードポリブテン、ヨードドデカン、ヨードテトラコサンのようなヨウ素系の化合物、2−デシル−1、2エポキシテトラデカン、2−ブチル−1、2エポキシオクタン、2、4−ジオクチル−1,2エポキシテトラデカン、ポリブテンエポキシド、1、2エポキシドデカン、1、2エポキシテトラコサンのようなエポキシ化合物、2−デシル−テトラデシルアミン、2−ブチル−オクチルアミン、2、4−ジオクチル−1−テトラデシルアミン、ポリブテニルアミン、ドデシルアミン、テトラコシルアミンのようなアミン化合物、2−デシル−テトラデシルアルコール、2−ブチル−オクチルアルコール、2、4−ジオクチル−1−テトラデシルアルコール、ポリブテニルアルコール、ドデシルアルコール、テトラコシルアルコールのようなアルコール類、2−デシル−テトラデカン酸、2−ブチル−オクタン酸、2、4−ジオクチル−1−テトラデカン酸、ポリブテニルカルボン酸、ドデカン酸、テトラコサン酸のようなカルボキシル基を有する化合物などが挙げられる。
これらは単独で用いてもよいし、2種類以上の混合物として用いてもよい。
【0018】
一般式(I)で表される複素環化合物におけるpが0の場合の環状構造部分又はpが1の場合の2つの環状構造部分は、上記化合物(a)に由来する。
1及びY2のうちの少なくとも一方は、化合物(b)に由来する。
【0019】
本発明の耐摩耗剤である一般式(I)で表される複素環化合物とホウ化合物との反応生成物は、上記のようにして得られた複素環化合物に対して、ホウ素化合物をモル比1:0.01〜10の割合で、好ましくは1:0.05〜5の割合で反応させて得られるものである。
複素環化合物とホウ素化合物との反応は、50〜250℃、好ましくは100〜200℃で行なわれる。
反応を行うに際して溶剤、例えば、炭化水素油、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン等の有機溶剤を使用することもできる。
ホウ素化合物としては、例えば、酸化ホウ素、ハロゲン化ホウ素、ホウ酸、ホウ酸無水物、ホウ酸エステルなどを使用することができる。
【0020】
また、本発明の耐摩耗剤である一般式(I)で表される複素環化合物とモリブデン化合物との反応生成物は、上記のようにして得られた複素環化合物に対して、モリブデン化合物をモル比1:0.01〜10の割合で、好ましくは1:0.05〜5の割合で反応させて得られるものである。
複素環化合物とモリブデン化合物との反応は、50〜250℃、好ましくは100〜200℃で行なわれる。
反応を行うに際して溶剤、例えば、炭化水素油、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン等の有機溶剤を使用することもできる。
モリブデン化合物としては、例えば、酸化モリブデン、ハロゲン化モリブデン、モリブデン酸などを使用することができる。
【0021】
更に、本発明の耐摩耗剤である一般式(I)で表される複素環化合物とケイ素化合物との反応生成物は、上記のようにして得られた複素環化合物に対して、ケイ素化合物をモル比1:0.01〜10の割合で、好ましくは1:0.05〜5の割合で反応させて得られるものである。
複素環化合物とケイ素化合物との反応は、50〜250℃、好ましくは100〜200℃で行なわれる。
反応を行うに際して溶剤、例えば、炭化水素油、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン等の有機溶剤を使用することもできる。
ケイ素化合物としては、例えば、酸化ケイ素、ハロゲン化ケイ素、ケイ酸、ケイ酸エステルなどを使用することができる。
【0022】
上記のようにして得られる本発明の耐摩耗剤である一般式(I)で表される複素環化合物、該複素環化合物とホウ素化物、モリブデン化物及びケイ素化物から選ばれる反応生成物を潤滑油基油と混合することにより、本発明の潤滑油組成物が得られる。
【0023】
本発明の耐摩耗剤の配合量は、潤滑油組成物全量基準で、0.01〜20質量%、好ましくは、0.05〜15質量%、より好ましくは、0.1〜10質量%である。
配合量を0.01質量%以上とすることにより、耐摩耗性能、摩擦低減性能及び塩基価維持性能が発揮され、20質量%以下とすることにより、コスト増を避け、かつ、潤滑油基油が有する本来の特性を低下させることを防止することができる。
【0024】
本発明の潤滑油組成物には、本発明の目的が損なわれない範囲で、必要に応じて他の添加剤、例えば、粘度指数向上剤、流動点降下剤、清浄分散剤、酸化防止剤、耐摩耗剤又は極圧剤、摩擦低減剤、金属不活性化剤、防錆剤、界面活性剤又は抗乳化剤、消泡剤などを適宜配合することができる。
【0025】
粘度指数向上剤としては、例えば、ポリメタクリレート、分散型ポリメタクリレート、オレフィン系共重合体(例えば、エチレン−プロピレン共重合体など)、分散型オレフィン系共重合体、スチレン系共重合体(例えば、スチレン−ジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体など)などが挙げられる。
粘度指数向上剤の配合量は、配合効果の点から、潤滑油組成物全量基準で、通常0.5〜15質量%程度であり、好ましくは1〜10質量%である。
【0026】
流動点降下剤としては、例えば、重量平均分子量が5000〜50,000程度のポリメタクリレートなどが挙げられる。
流動点降下剤の配合量は、配合効果の点から、潤滑油組成物全量基準で、通常0.1〜2質量%程度であり、好ましくは0.1〜1質量%である。
【0027】
清浄分散剤としては、無灰分散剤、金属系清浄剤を用いることができる。
無灰分散剤としては、潤滑油に用いられる任意の無灰分散剤を用いることができるが、例えば、一般式(II)で表されるモノタイプのコハク酸イミド化合物、又は一般式(III)で表されるビスタイプのコハク酸イミド化合物が挙げられる。
【化2】

一般式(II)、(III)において、R11、R13及びR14は、それぞれ、数平均分子量500〜4,000のアルケニル基若しくはアルキル基で、R13及びR14は同一でも異なっていてもよい。
11、R13及びR14の数平均分子量は、好ましくは1,000〜4,000である。
また、R12、R15及びR16は、それぞれ、炭素数2〜5のアルキレン基で、R15及びR16は同一でも異なっていてもよく、rは1〜10の整数を示し、sは0又は1〜10の整数を示す。
上記R11、R13及びR14の数平均分子量が500未満であると、基油への溶解性が低下し、4,000を超えると、清浄性が低下し、目的の性能が得られないおそれがある。
また、上記rは、好ましくは2〜5、より好ましくは3〜4である。
rが1未満であると、清浄性が悪化し、rが11以上であると、基油に対する溶解性が悪くなる。
一般式(III)において、sは好ましくは1〜4、より好ましくは2〜3である。
上記範囲内であれば、清浄性及び基油に対する溶解性の点で好ましい。
アルケニル基としては、ポリブテニル基、ポリイソブテニル基、エチレン−プロピレン共重合体を挙げることができ、アルキル基としてはこれらを水添したものである。
好適なアルケニル基の代表例としては、ポリブテニル基又はポリイソブテニル基が挙げられる。
ポリブテニル基は、1−ブテンとイソブテンの混合物あるいは高純度のイソブテンを重合させたものとして得られる。
また、好適なアルキル基の代表例としては、ポリブテニル基又はポリイソブテニル基を水添したものである。
【0028】
上記のアルケニル若しくはアルキルコハク酸イミド化合物は、通常、ポリオレフィンと無水マレイン酸との反応で得られるアルケニルコハク酸無水物、又はそれを水添して得られるアルキルコハク酸無水物を、ポリアミンと反応させることによって製造することができる。
上記のモノタイプのコハク酸イミド化合物及びビスタイプのコハク酸イミド化合物は、アルケニルコハク酸無水物若しくはアルキルコハク酸無水物とポリアミンとの反応比率を変えることによって製造することができる。
上記ポリオレフィンを形成するオレフィン単量体としては、炭素数2〜8のα−オレフィンの一種又は二種以上を混合して用いることができるが、イソブテンとブテン−1の混合物を好適に用いることができる。
【0029】
ポリアミンとしては、エチレンジアミン,プロピレンジアミン,ブチレンジアミン,ペンチレンジアミン等の単一ジアミン、ジエチレントリアミン,トリエチレンテトラミン,テトラエチレンペンタミン,ペンタエチレンヘキサミン、ジ(メチルエチレン)トリアミン、ジブチレントリアミン、トリブチレンテトラミン、ペンタペンチレンヘキサミン等のポリアルキレンポリアミン、アミノエチルピペラジン等のピペラジン誘導体を挙げることができる。
【0030】
また、上記のアルケニル若しくはアルキルコハク酸イミド化合物の他に、そのホウ素誘導体、及び/又はこれらを有機酸で変性したものを用いてもよい。
アルケニル若しくはアルキルコハク酸イミド化合物のホウ素誘導体は、常法により製造したものを使用することができる。
例えば、上記のポリオレフィンを無水マレイン酸と反応させてアルケニルコハク酸無水物とした後、更に上記のポリアミンと酸化ホウ素、ハロゲン化ホウ素、ホウ酸、ホウ酸無水物、ホウ酸エステル、ホウ素酸のアンモニウム塩等のホウ素化合物を反応させて得られる中間体と反応させてイミド化させることによって得られる。
このホウ素誘導体中のホウ素含有量には、特に制限はないが、ホウ素として、通常、0.05〜5質量%、好ましくは0.1〜3質量%である。
【0031】
一般式(II)で表されるモノタイプのコハク酸イミド化合物、又は一般式(III)で表されるビスタイプのコハク酸イミド化合物の配合量は、潤滑油組成物全量基準で、0.5〜15質量%、好ましくは1〜10質量%である。
配合量が0.5質量%未満であると、その効果が発揮されにくく、又15質量%を超えてもその配合量に見合った効果は得られない。
また、コハク酸イミド化合物は、上記の規定量を含有する限り、単独又は二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
金属系清浄剤としては、潤滑油に用いられる任意のアルカリ土類金属系清浄剤が使用可能であり、例えば、アルカリ土類金属スルフォネート、アルカリ土類金属フェネート、アルカリ土類金属サリシレート及びこれらの中から選ばれる2種類以上の混合物等が挙げられる。
【0033】
アルカリ土類金属スルフォネートとしては、分子量300〜1,500、好ましくは400〜700のアルキル芳香族化合物をスルフォン化することによって得られるアルキル芳香族スルフォン酸のアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩等が挙げられ、中でもカルシウム塩が好ましく用いられる。
【0034】
アルカリ土類金属フェネートとしては、アルキルフェノール、アルキルフェノールサルファイド、アルキルフェノールのマンニッヒ反応物のアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩等が挙げられ、中でもカルシウム塩が特に好ましく用いられる。
【0035】
アルカリ土類金属サリシレートとしては、アルキルサリチル酸のアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩等が挙げられ、中でもカルシウム塩が好ましく用いられる。
【0036】
前記アルカリ土類金属系清浄剤を構成するアルキル基としては、炭素数4〜30のものが好ましく、より好ましくは6〜18の直鎖又は分枝アルキル基であり、これらは直鎖でも分枝でもよい。
これらはまた1級アルキル基、2級アルキル基又は3級アルキル基でもよい。
また、アルカリ土類金属スルフォネート、アルカリ土類金属フェネート及びアルカリ土類金属サリシレートとしては、前記のアルキル芳香族スルフォン酸、アルキルフェノール、アルキルフェノールサルファイド、アルキルフェノールのマンニッヒ反応物、アルキルサリチル酸等を直接、マグネシウム及び/又はカルシウムのアルカリ土類金属の酸化物や水酸化物等のアルカリ土類金属塩基と反応させたり、又は一度ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩としてからアルカリ土類金属塩と置換させること等により得られる中性アルカリ土類金属スルフォネート、中性アルカリ土類金属フェネート及び中性アルカリ土類金属サリシレートだけでなく、中性アルカリ土類金属スルフォネート、中性アルカリ土類金属フェネート及び中性アルカリ土類金属サリシレートと過剰のアルカリ土類金属塩やアルカリ土類金属塩基を水の存在下で加熱することにより得られる塩基性アルカリ土類金属スルフォネート、塩基性アルカリ土類金属フェネート及び塩基性アルカリ土類金属サリシレートや、炭酸ガスの存在下で中性アルカリ土類金属スルフォネート、中性アルカリ土類金属フェネート及び中性アルカリ土類金属サリシレートをアルカリ土類金属の炭酸塩又はホウ酸塩を反応させることにより得られる過塩基性アルカリ土類金属スルフォネート、過塩基性アルカリ土類金属フェネート及び過塩基性アルカリ土類金属サリシレートも含まれる。
【0037】
本発明において金属系清浄剤としては、上記の中性塩、塩基性塩、過塩基性塩及びこれらの混合物等を用いることができ、特に過塩基性サリチレート、過塩基性フェネート、過塩基性スルフォネートの1種以上と中性スルフォネートとの混合が清浄性、耐摩耗性において好ましい。
【0038】
本発明において、金属系清浄剤の全塩基価は、通常、10〜500mgKOH/g、好ましくは15〜450mgKOH/gであり、これらの中から選ばれる1種又は2種以上併用することができる。
なお、ここでいう全塩基価とは、JIS K 2501「石油製品及び潤滑油−中和価試験方法」の7.に準拠して測定される電位差滴定法(塩基価・過塩素酸法)による全塩基価を意味する。
【0039】
また、本発明の金属系清浄剤としては、その金属比に特に制限はなく、通常20以下のものを1種又は2種以上混合して使用できるが、好ましくは、金属比が3以下、より好ましく1.5以下、特に好ましくは1.2以下の金属系清浄剤を必須成分とすることが、酸化安定性や塩基価維持性及び高温清浄性等により優れるため特に好ましい。
なお、ここでいう金属比とは、金属系清浄剤における金属元素の価数×金属元素含有量(モル%)/せっけん基含有量(モル%)で表され、金属元素とはカルシウム、マグネシウム等、せっけん基とは、スルホン酸基、フェノール基及びサリチル酸基等を意味する。
【0040】
金属系清浄剤は、通常、軽質潤滑油基油等で希釈された状態で市販されており、また入手可能であるが、一般的に、その金属含有量が1.0〜20質量%、好ましくは2.0〜16質量%のものを用いるのが望ましい。
【0041】
金属系清浄剤の配合量は、潤滑油組成物全量基準で、0.01〜20質量%、好ましくは0.1〜10質量%である。
配合量が0.01質量%未満であると、その効果が発揮されにくく、また20質量%を超えてもその添加に見合った効果は得られない。
また、金属系清浄剤は、上記の規定量を含有する限り、単独又は二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、モリブデンアミン錯体系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤等が挙げられる。
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール);4,4’−ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール);4,4’−ビス(2−メチル−6−t−ブチルフェノール);2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール);2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール);4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール);4,4’−イソプロピリデンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール);2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−ノニルフェノール);2,2’−イソブチリデンビス(4,6−ジメチルフェノール);2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール);2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール;2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール;2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノール;2,6−ジ−t−アミル−p−クレゾール;2,6−ジ−t−ブチル−4−(N,N’−ジメチルアミノメチルフェノール);4,4’−チオビス(2−メチル−6−t−ブチルフェノール);4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール);2,2’−チオビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール);ビス(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルベンジル)スルフィド;ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)スルフィド;n−オクチル−3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート;n−オクタデシル−3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート;2,2’−チオ[ジエチル−ビス−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]などが挙げられる。
これらの中で、特にビスフェノール系及びエステル基含有フェノール系のものが好適である。
【0043】
また、アミン系酸化防止剤としては、例えば、モノオクチルジフェニルアミン;モノノニルジフェニルアミンなどのモノアルキルジフェニルアミン系、4,4’−ジブチルジフェニルアミン;4,4’−ジペンチルジフェニルアミン;4,4’−ジヘキシルジフェニルアミン;4,4’−ジヘプチルジフェニルアミン;4,4’−ジオクチルジフェニルアミン;4,4’−ジノニルジフェニルアミンなどのジアルキルジフェニルアミン系、テトラブチルジフェニルアミン;テトラヘキシルジフェニルアミン;テトラオクチルジフェニルアミン;テトラノニルジフェニルアミンなどのポリアルキルジフェニルアミン系、及びナフチルアミン系のもの、具体的には、α−ナフチルアミン;フェニル−α−ナフチルアミン;更にはブチルフェニル−α−ナフチルアミン;ペンチルフェニル−α−ナフチルアミン;ヘキシルフェニル−α−ナフチルアミン;ヘプチルフェニル−α−ナフチルアミン;オクチルフェニル−α−ナフチルアミン;ノニルフェニル−α−ナフチルアミンなどのアルキル置換フェニル−α−ナフチルアミンなどが挙げられる。
これらの中で、ジアルキルジフェニルアミン系及びナフチルアミン系のものが好適である。
【0044】
モリブデンアミン錯体系酸化防止剤としては、6価のモリブデン化合物、具体的には三酸化モリブデン及び/又はモリブデン酸とアミン化合物とを反応させてなるもの、例えば、特開2003−252887号公報に記載の製造方法で得られる化合物を用いることができる。
6価のモリブデン化合物と反応させるアミン化合物としては特に制限されないが、具体的には、モノアミン、ジアミン、ポリアミン及びアルカノールアミンが挙げられる。
より具体的には、メチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、メチルエチルアミン、メチルプロピルアミン等の炭素数1〜30のアルキル基(これらのアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい)を有するアルキルアミン;エテニルアミン、プロペニルアミン、ブテニルアミン、オクテニルアミン、及びオレイルアミン等の炭素数2〜30のアルケニル基(これらのアルケニル基は直鎖状でも分枝状でもよい)を有するアルケニルアミン;メタノールアミン、エタノールアミン、メタノールエタノールアミン、メタノールプロパノールアミン等の炭素数1〜30のアルカノール基(これらのアルカノール基は直鎖状でも分枝状でもよい)を有するアルカノールアミン;メチレンジアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、及びブチレンジアミン等の炭素数1〜30のアルキレン基を有するアルキレンジアミン;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等のポリアミン;ウンデシルジエチルアミン、ウンデシルジエタノールアミン、ドデシルジプロパノールアミン、オレイルジエタノールアミン、オレイルプロピレンジアミン、ステアリルテトラエチレンペンタミン等の上記モノアミン、ジアミン、ポリアミンに炭素数8〜20のアルキル基又はアルケニル基を有する化合物やイミダゾリン等の複素環化合物;これらの化合物のアルキレンオキシド付加物;及びこれらの混合物等が例示できる。
また、特公平3−22438号公報及び特開2004−2866公報に記載されているコハク酸イミドの硫黄含有モリブデン錯体等が例示できる。
【0045】
硫黄系酸化防止剤としては、例えばフェノチアジン、ペンタエリスリトール−テトラキス−(3−ラウリルチオプロピオネート)、ジドデシルサルファイド、ジオクタデシルサルファイド、ジドデシルチオジプロピオネート、ジオクタデシルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネート、ドデシルオクタデシルチオジプロピオネート、2−メルカプトベンゾイミダゾールなどが挙げられる。
【0046】
酸化防止剤の配合量は、潤滑油組成物全量基準で、0.1〜5質量%、好ましくは0.1〜3質量%である。
【0047】
上記のように、本発明によれば、他の耐摩耗剤を配合しなくても、耐摩耗性能、摩擦低減性能及び塩基価維持性能が良好な潤滑油組成物を得ることができるが、本発明の目的が損なわれない範囲で、他の耐摩耗剤を配合してもよい。
耐摩耗剤又は極圧剤としては、ジチオリン酸亜鉛、リン酸亜鉛、ジチオカルバミン酸亜鉛、ジチオカルバミン酸モリブデン、ジチオリン酸モリブデン、ジスルフィド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類、硫化エステル類、チオカーボネート類、チオカーバメート類、ポリサルファイド類等の硫黄含有化合物;亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、ホスホン酸エステル類、及びこれらのアミン塩又は金属塩等のリン含有化合物;チオ亜リン酸エステル類、チオリン酸エステル類、チオホスホン酸エステル類、及びこれらのアミン塩又は金属塩等の硫黄及びリン含有耐摩耗剤が挙げられる。
【0048】
他の耐摩耗剤又は極圧剤を必要に応じて配合する場合、他の耐摩耗剤の配合量は、潤滑油組成物全量基準で、亜鉛として元素換算で600質量ppm以下である。
好ましくは、0〜500質量ppm、より好ましくは0〜400質量ppmである。
また、他の耐摩耗剤又は極圧剤の配合量は、潤滑油組成物全量基準で、リンとして元素換算で500質量ppm以下である。
好ましくは、0〜400質量ppm、より好ましくは0〜300質量ppmである。
亜鉛の配合量が600質量ppm以下、リンの配合量が500質量ppm以下であると、潤滑油組成物中、例えば、エンジン油中の塩基性化合物を消耗し更油期間が極端に短くなることがない。
【0049】
摩擦低減剤としては、潤滑油用の摩擦低減剤として通常用いられている任意の化合物が使用可能であり、例えば、炭素数6〜30のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有する、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪族アミン、脂肪族エーテル等の無灰摩擦低減剤が挙げられる。
摩擦低減剤の配合量は、潤滑油組成物全量基準で、0.01〜2質量%、好ましくは0.01〜1質量%である。
【0050】
金属不活性化剤としてベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、及びイミダゾール系化合物等が挙げられる。
金属不活性剤の配合量は、潤滑油組成物全量基準で、0.01〜3質量%、好ましくは0.01〜1質量%である。
【0051】
防錆剤としては、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、多価アルコールエステル等が挙げられる。
これら防錆剤の配合量は、配合効果の点から、潤滑油組成物全量基準で、通常0.01〜1質量%程度であり、好ましくは0.05〜0.5質量%である。
【0052】
界面活性剤又は抗乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル及びポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン性界面活性剤等が挙げられる。
界面活性剤又は抗乳化剤の配合量は、潤滑油組成物全量基準で、0.01〜3質量%、好ましくは0.01〜1質量%である。
【0053】
消泡剤としては、シリコーン油、フルオロシリコーン油及びフルオロアルキルエーテル等が挙げられ、消泡効果及び経済性のバランスなどの点から、潤滑油組成物全量基準で、0.005〜0.5質量、好ましくは 0.01〜0.2質量%である。
【0054】
本発明の潤滑油組成物における潤滑油基油については特に制限はなく、従来、内燃機関用潤滑油の基油として使用されている鉱油や合成油の中から任意のものを適宜選択して用いることができる。
鉱油としては、例えば、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製等の1つ以上の処理を行って精製した鉱油、あるいはワックス、GTL WAXを異性化することによって製造される鉱油等が挙げられる。
一方、合成油としては、例えば、ポリブテン、ポリオレフィン[α−オレフィン単独重合体や共重合体(例えばエチレン−α−オレフィン共重合体)など]、各種のエステル(例えば、ポリオールエステル、二塩基酸エステル、リン酸エステルなど)、各種のエーテル(例えば、ポリフェニルエーテルなど)、ポリグリコール、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンなどが挙げられる。これらの合成油のうち、特にポリオレフィン、ポリオールエステルが好ましい。
本発明においては、基油として、上記鉱油は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、上記合成油を一種用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
更には、鉱油一種以上と合成油一種以上とを組み合わせて用いてもよい。
基油の粘度については特に制限はなく、潤滑油組成物の用途に応じて異なるが、通常100℃における動粘度が、通常2〜30mm2/s、好ましくは3〜15mm2/s、特に好ましくは4〜10mm2/sである。
100℃における動粘度が2mm2/s以上であると蒸発損失が少なく、また30mm2/s以下であると、粘性抵抗による動力損失が抑制され、燃費改善効果が得られる。
【0055】
また、基油としては、環分析による%CAが3.0以下で硫黄分の含有量が50質量ppm以下のものが好ましく用いられる。
ここで、環分析による%CAとは、環分析n−d−M法にて算出した芳香族分の割合(百分率)を示す。
また、硫黄分はJIS K 2541に準拠して測定した値である。
%CAが3.0以下で、硫黄分が50質量ppm以下の基油は、良好な酸化安定性を有し、酸価の上昇やスラッジの生成を抑制しうる潤滑油組成物を提供することができる。
より好ましい%CAは1.0以下、さらには0.5以下であり、またより好ましい硫黄分は30質量ppm以下である。
さらに、基油の粘度指数は、70以上が好ましく、より好ましくは100以上、さらに好ましくは120以上である。
この粘度指数が70以上の基油は、温度の変化による粘度変化が小さい。
【0056】
本発明の耐摩耗剤を炭化水素油や合成油の潤滑油留分あるいはそれらの混合物に配合したものは、内燃機関用潤滑油組成物(例えば、ガソリンエンジン用潤滑油、ディーゼルエンジン用潤滑油組成物、ガスエンジン用潤滑油組成物)、ギヤ油、軸受油、変速機油、ショックアブソーバー油、グリース、湿式ブレーキ油、油圧作動油、タービン油、圧縮機油、冷凍機油等として使用することができる。
【実施例】
【0057】
以下に本発明の実施例及び比較例を挙げて更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0058】
合成例1
500mlのフラスコに、NaH1.3g(0.055モル)、ジメチルフォルムアミド(DMF)100mlを入れた。
次に、DMF100mlに溶解した3,5−ジアミノ−1,2,4−トリアゾール5.0g(0.05モル)を滴下し、100℃で2時間反応させた。
次いで、反応混合物にオレイルブロマイド16.6g(0.05モル)を滴下し、100℃で4時間反応させた。
DMFを留去後、トルエン200mlに溶解して水洗した。
硫酸マグネシウムで乾燥後、トルエンを留去して、1−オレイル−3,5−ジアミノ−1,2,4−トリアゾールと4−オレイル−3,5−ジアミノ−1,2,4−トリアゾール(耐摩耗剤Aと呼称する)の混合物15gを得た。
得られた複素環化合物の主成分の構造式は、一般式(I)におけるpが0、m及びnはいずれも1、X1、X2及びX3がいずれもN、x、y及びvのいずれかひとつが0、他の2つが1、R1及びR2の一方がオレイル基、他方が水素、Y1及びY2がいずれもアミノ基である。
【0059】
合成例2
500mlのフラスコに、3,5−ジアミノ−1,2,4−トリアゾール5.0g(0.05モル)、トリエチルアミン5.3g(0.053モル)、THF200mlを入れ、還流攪拌した。
それにTHF50mlに溶解したオレイン酸クロライド15.0g(0.05モル)を滴下し、4時間反応させた。
反応混合物をろ過し、THFを留去後、トルエン200mlに溶解して水洗した。
硫酸マグネシウムで乾燥後、トルエンを留去して複素環化合物を得た。得られた複素環化合物の収量は16g(耐摩耗剤Bと呼称する)であった。
得られた複素環化合物の主成分の構造式は、一般式(I)におけるpが0、m及びnはいずれも1、X1、X2及びX3がいずれもN、x、y及びvのいずれかひとつが0、他の2つが1、R1及びR2の一方がオレイン酸アミド基、他方が水素、Y1がアミノ基、Y2が水素である。
【0060】
合成例3
3,5−ジアミノ−1,2,4−トリアゾールの代わりに、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール4.2g(0.05モル)を使用した以外は、合成例2と同様に反応を行った。
得られた複素環化合物の収量は16g(耐摩耗剤Cと呼称する)であった。
得られた複素環化合物の主成分の構造は、一般式(I)におけるpが0、m及びnはいずれも1、X1、X2及びX3がいずれもN、x、y及びvのいずれかひとつが0、他の2つが1、R1及びR2の一方がオレイン酸アミド基、他方が水素、Y1及びY2が水素である。
【0061】
合成例4
3,5−ジアミノ−1,2,4−トリアゾールの代わりに、6−アミノインダゾール6.7g(0.05モル)を使用した以外は、合成例2と同様に反応を行った。得られた複素環化合物の収量は17g(耐摩耗剤Dと呼称する)であった。
得られた複素環化合物の主成分の構造は、一般式(I)におけるpが1、mが1、nが0、kが0、X1、X3がN、xが0、vが1、wが0、uが4、R1及びR2が水素、R3及びR4の一方がオレイン酸アミド基、他方が水素、Y1、Y2及びY3が水素である。
【0062】
合成例5
オレイン酸クロライドの代わりに、ヘプチルウンデカン酸クロライド15.1g(0.05モル)を使用した以外は、合成例2と同様に反応を行った。
得られた複素環化合物の収量は17g(耐摩耗剤Eと呼称する)であった。
得られた複素環化合物の主成分の構造式は、一般式(I)におけるpが0、m及びnはいずれも1、X1、X2及びX3がいずれもN、x、y及びvのいずれかひとつが0、他の2つが1、R1及びR2の一方がヘプチルウンデカン酸アミド基、他方が水素、Y1及びY2が水素がである。
【0063】
合成例6
3,5−ジアミノ−1,2,4−トリアゾールの代わりに、2−アミノウラシル6.4g(0.05モル)を使用した以外は、合成例2と同様に反応を行った。
得られた複素環化合物の収量は17g(耐摩耗剤Fと呼称する)であった。
得られた複素環化合物の構造式は、一般式(I)におけるpが0、mが1、nが0、vが3、X1及びX3がそれぞれN、xが1、R1及びR2の一方がオレイン酸アミド基、他方が水素、Y1及びY2が水酸基である化合物とR1及びR2の一方がオレイルエーテル基、他方が水素、Y1が水酸基、Y2がアミノ基である化合物の混合物である。
【0064】
合成例7
3,5−ジアミノ−1,2,4−トリアゾールの代わりに、5,5−ジメチルヒダントイン6.4g(0.05モル)を使用した以外は、合成例2と同様に反応を行った。
得られた複素環化合物の収量は16g(耐摩耗剤Gと呼称する)であった。
得られた複素環化合物の主成分の構造式は、一般式(I)におけるpが0、mが1、nが0、X1及びX3がそれぞれN、xが1、vが2、R1及びR2の一方がオレイン酸アミド基、他方が水素、Y1がカルボニル基として2つ、Y2がメチル基として2つである。
【0065】
合成例8
3,5−ジアミノ−1,2,4−トリアゾールの代わりに、グリセロールホルマール5.2g(0.05モル)を使用した以外は、合成例2と同様に反応を行った。
得られた複素環化合物の収量は15g(耐摩耗剤Hと呼称する)であった。
得られた複素環化合物の主成分の構造は、一般式(I)におけるpが0、mが1、nが0、X1、X3がО、xが3、vが1、R1及びR3の一方がオレイルエーテル基、他方が水素、Y1及びY2が水素である。
【0066】
合成例9
3,5−ジアミノ−1,2,4−トリアゾールの代わりに、コウジ酸7.1g(0.05モル)を使用した以外は、合成例2と同様に反応を行った。
得られた複素環化合物の収量は16g(耐摩耗剤Iと呼称する)であった。
得られた複素環化合物の主成分の構造は、一般式(I)におけるpが0、m及びnが0、X3がО、vが5、R1及びR2の一方がオレイルメチルエーテル基、他方が水素、Y1が水酸基、Y2がカルボニル基である化合物とR1及びR2の一方がオレイルエーテル基、他方が水素、Y1がヒドロキシメチル基、Y2がカルボニル基である化合物の混合物である。
【0067】
合成例10
オレイン酸クロライドの代わりに、トリデカン酸クロライド24.3g(0.05モル)を使用した以外は、合成例2と同様に反応を行った。
得られた複素環化合物の収量は26g(耐摩耗剤Jと呼称する)であった。
得られた複素環化合物の主成分の構造式は、一般式(I)におけるpが0、m及びnはいずれも1、X1、X2及びX3がいずれもN、x、y及びvのいずれかひとつが0、他の2つが1、R1及びR2の一方がトリデカン酸アミド基、他方が水素、Y1がアミノ基、Y2が水素である。
【0068】
合成例11
オレイン酸クロライドの代わりに、ポリイソブタン(重量平均分子量Mw=350)酸クロライド20.7g(0.05モル)を使用した以外は、合成例2と同様に反応を行った。
得られた複素環化合物の収量は23g(耐摩耗剤Kと呼称する)であった。
得られた複素環化合物の主成分の構造式は、一般式(I)におけるpが0、m及びnはいずれも1、X1、X2及びX3がいずれもN、x、y及びvのいずれかひとつが0、他の2つが1、R1及びR2の一方がポリイソブタン酸アミド基、他方が水素、Y1がアミノ基、Y2が水素である。
【0069】
合成例12
3,5−ジアミノ−1,2,4−トリアゾールの代わりに、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール4.2g(0.05モル)を使用した以外は、合成例1と同様に反応を行った。
得られた複素環化合物の収量は14g(耐摩耗剤Lと呼称する)であった。
得られた複素環化合物の主成分の構造式は、一般式(I)におけるpが0、m及びnはいずれも1、X1、X2及びX3がいずれもN、x、y及びvのいずれかひとつが0、他の2つが1、R1及びR2の一方がオレイル基、他方が水素、Y1がアミノ基、Y2が水素である。
【0070】
合成例13
3,5−ジアミノ−1,2,4−トリアゾールの代わりに、6−アミノインダゾール6.7g(0.05モル)を使用した以外は、合成例1と同様に反応を行った。
得られた複素環化合物の収量は16g(耐摩耗剤Mと呼称する)であった。
得られた複素環化合物の主成分の構造は、一般式(I)におけるpが1、mが1、nが0、kが0、X1及びX3がN、xが0、vが1、wが0、uが4、R1及びR2の一方がオレイル基、他方が水素、R3及びR4が水素、Y1が水素、Y2及びY3の一方がアミノ基、他方が水素である。
【0071】
合成例14
500ミリリットルのフラスコにNaH1.3g(0.055モル)及びキシレン100ミリリットルを入れた。
次いで、その中にキシレン100ミリリットルに溶解した合成例1で得られた化合物17.5g(0.05モル)を滴下し、100℃で2時間反応させた。
次いで、その中に2−ブロモエタノール6.9g(0.055モル)を滴下し、100℃で4時間反応させた。
反応物を水洗、乾燥後、キシレンを留去して複素環化合物を得た。
得られた複素環化合物の収量は22g(耐摩耗剤Nと呼称する)であった。
得られた複素環化合物の主成分の構造は、一般式(I)におけるpが0、m及びnはいずれも1、X1、X2及びX3がいずれもN、x、y及びvのいずれかひとつが0、他の二つが1、R1及びR2の一方がオレイル基、他方が水素、Y1が2−ヒドロキシエチルアミノ基、Y2が水素である。
【0072】
合成例15
2−ブロモエタノールの代わりに、2−ブロモエチルアミン6.8g(0.055モル)を使用した以外は、合成例14と同様に反応を行った。
得られた複素環化合物の収量は17g(耐摩耗剤Oと呼称する)であった。
得られた複素環化合物の主成分の構造は、一般式(I)におけるpが0、m及びnはいずれも1、X1、X2及びX3がいずれもN、x、y及びvのいずれかひとつが0、他の二つが1、R1及びR2の一方がオレイル基、他方が水素、Y1が2−アミノエチルアミノ基、Y2が水素である。
【0073】
合成例16
200mlのフラスコに、合成例1の方法で得られた1−オレイル−3,5―ジアミノ-1,2,4−トリアゾール69.9g(0.2モル)、ほう酸6.2g(0.1モル)を入れ、窒素気流下、80℃で1時間反応した。
次いで、150℃に昇温して3時間反応した。
水を減圧留去し、得られた複素環化合物の収量は72g(耐摩耗剤Pと呼称する)であった。
生成物のほう素含有量は1.5重量%であった。
【0074】
合成例17
200mlのフラスコに、合成例1の方法で得られた1−オレイル−3,5-ジアミノ−1,2,4−トリアゾール69.9g(0.2モル)、三酸化モリブデン7.2g(0.05モル)、水3.6g(0.2モル)を入れ、窒素気流下、80℃で1時間反応した。
次いで、100℃に昇温して3時間反応した。
水を減圧留去し、得られた複素環化合物の収量は74g(耐摩耗剤Qと呼称する)であった。
生成物のモリブデン含有量は6.3重量%であった。
【0075】
合成例18
3,5−ジアミノ−1,2,4−トリアゾールの代わりに、グリセロールカーボネート5.9g(0.05モル)を使用した以外は、合成例2と同様に反応を行った。
得られた複素環化合物の収量は15g(耐摩耗剤Rと呼称する)であった。
得られた複素環化合物の主成分の構造は、一般式(I)におけるpが0、mが1、nが0、X1及びX3がО、xが2、vが1、R1及びR2の一方が9−オクタデセニルカルボキシメチル基、他方が水素、Y1がオキソ基である。
【0076】
合成例19
オレイン酸クロライドの代わりに、ヘプチルウンデカン酸クロライド15.1g(0.05モル)を使用した以外は、合成例3と同様に反応を行った。得られた複素環化合物の収量は17g(耐摩耗剤Sと呼称する)であった。
得られた複素環化合物の主成分の構造は、一般式(I)におけるpが0、m及びnはいずれも1、X1、X2及びX3がいずれもN、x、y及びvのいずれかひとつが0、他の2つが1、R1及びR2の一方がヘプチルウンデカン酸アミド基、他方が水素、Y1が水素である。
【0077】
合成例20
500mlフラスコに塩化シアヌル(2,4,6−トリクロロ−1,3,5−トリアジン)18.4g(0.1モル)、アセトン180ml、水20ml、炭酸水素ナトリウム27.7g(0.33モル)を張り込み、攪拌しながら窒素置換し,0℃に維持した。
オレイルアミン26.7g(0.1モル)を滴下し、1時間反応した。
次いで、アンモニア水(NH3;25質量%)7.5g(0.11モル)を添加し、50℃で2時間反応した。
さらに、反応混合物をオートクレーブに移し、アンモニア水(NH3;25質量%)7.5g(0.11モル)を添加し、100℃で2時間反応した。
反応混合液をろ過後、アセトン/水を留去した。
得られた複素環化合物の収量は32g(耐摩耗剤Tと呼称する)であった。
得られた複素環化合物の主成分の構造は、一般式(I)におけるpが0、m及びnはいずれも1、X1、X2及びX3がいずれもN、x、y及びvがいずれも1、R1及びR2の一方がオレイルアミノ基、他方が水素、Y1及びY2がいずれもアミノ基である。
【0078】
合成例21
500mlフラスコに、オレイン酸28.2g(0.1モル)、エチレンジアミン7.2g(0.12モル),トルエン100mlを張り込み、窒素気流下、110℃で反応して、脱水した。
次いで、トルエンを留去しながら、230℃に昇温して、2時間反応した。得られた複素環化合物の収量は31g(耐摩耗剤Uと呼称する)であった。
得られた複素環化合物の主成分の構造は、一般式(I)におけるpが0、mが1、nが0、X1及びX3がN、xが1、vが1、R1及びR2の一方が8−ヘキサデセニル基、他方が水素、Y1が水素である。
【0079】
合成例22
3,5−ジアミノ−1,2,4−トリアゾールの代わりに、1,2,4−トリアゾール3.5g(0.05モル)を使用した以外は、合成例1と同様に反応を行った。
得られた複素環化合物の収量は13g(耐摩耗剤Vと呼称する)であった。
得られた複素環化合物の主成分の構造式は、一般式(I)におけるpが0、m及びnはいずれも1、X1、X2及びX3がいずれもN、x、y及びvのいずれかひとつが0、他の2つが1、R1及びR2の一方がオレイル基、他方が水素、Y1が水素である
【0080】
合成例23
500mlのフラスコに、ジイソプロピルアミン7.4g(0.073モル),THF100mlを入れた。
それに−30℃でブチルリチウム44ml(1.67Mヘキサン溶液;0.073mol)を滴下し、同温で30分間攪拌した。
次いで、γ―ピコリン5.1g(0.055モル)のTHF溶液(80mL)を加え、−10℃で1時間30分攪拌した。
次に、2−デシル−1−ブロモテトラデカン15.0g(0.036モル)のTHF溶液(80ml)を滴下し、室温で1時間、40℃で4時間反応した。
反応混合物に飽和塩化アンモニウム水溶液を加えた後、ヘキサンで抽出し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した。
溶媒を留去後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した。
得られた複素環化合物の収量は8g(耐摩耗剤Wと呼称する)であった。
得られた複素環化合物の主成分の構造式は、一般式(I)におけるpが0、m及びnはいずれも0、X3がいずれもN、vが5、R1及びR2の一方が2−デシルテトラデシル基、他方が水素、Y1が水素である。
【0081】
合成例24
500mlのフラスコに、NaH1.4g(0.037モル)、DMF20mlを入れた。
それにDMF30mlに溶解したベンゾイミダゾール4.2g(0.036モル)を滴下し、室温で30分間反応した。
次いで、反応混合物にトルエン15mlに溶解した2−デシル−1−ブロモテトラデカン12.6g(0.03モル)を滴下し、100℃で7時間反応した。
溶媒を留去後、ヘキサン300mlに溶解して水洗した。
硫酸マグネシウムで乾燥後、ヘキサンを留去して、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した。
得られた複素環化合物の収量は8g(耐摩耗剤Xと呼称する)であった。
得られた複素環化合物の主成分の構造は、一般式(I)におけるpが1、mが1、nが0、kが0、X1及びX3がN、xが1、vが1、wが1、uとrの和が4、R1及びR2の一方が2−デシルテトラデシル基、他方が水素、R3及びR4が水素、Y1がアミノ基、Y2及びY3がいずれも水素である。
【0082】
合成例25
200mlのフラスコに、合成例24の方法で得られた1−(2−デシルテトラデシル)ベンゾイミダゾール23.5g(0.05モル)、ほう酸1.6g(0.025モル)を入れ、窒素気流下、80℃で1時間反応した。
次いで、150℃に昇温して3時間反応した。
水を減圧留去し、得られた複素環化合物の収量は23g(耐摩耗剤Yと呼称する)であった。
生成物のほう素含有量は1.0重量%であった。
【0083】
合成例26
500mlのフラスコに、オレイン酸56.5g(0.2モル)、アミノグアニジン重炭酸塩28.4g(0.21モル)、水20ml、キシレン100mlを入れ、窒素気流下、100℃で1時間反応した。
次いで、水及びキシレンを除去しながら180℃に昇温して5時間反応した。
得られた複素環化合物の収量は76g(耐摩耗剤Zと呼称する)であった。
得られた複素環化合物の主成分の構造式は、一般式(I)におけるpが0、m及びnはいずれも1、X1、X2及びX3がいずれもN、x、y及びvのいずれかひとつが0、他の2つが1、R1及びR2の一方がオレイル基、他方が水素、Y1がアミノ基である。
【0084】
合成例27
200mlのフラスコに、合成例26の方法で得られた1−(8−ヘプタデセニル)−3−アミノ−1,2,4−トリアゾール32.0g(0.1モル)、ほう酸1.6g(0.025モル)を入れ、窒素気流下、80℃で1時間反応した。
次いで、150℃に昇温して3時間反応した。
水を減圧留去し、得られた複素環化合物の収量は31g(耐摩耗剤AAと呼称する)であった。
生成物のほう素含有量は0.8重量%であった。
【0085】
合成例28
オレイルブロマイドの代わりに、2−エチルヘキシルブロマイド9.7g(0.05モル)を使用した以外は、合成例1と同様に反応を行った。
得られた複素環化合物の収量は12g(耐摩耗剤ABと呼称する)であった。
得られた複素環化合物の主成分の構造式は、一般式(I)におけるpが0、m及びnはいずれも1、X1、X2及びX3がいずれもN、x、y及びvのいずれかひとつが0、他の2つが1、R1及びR2の一方が2−エチルヘキシル基、他方が水素、Y1及びY2がいずれもアミノ基である。
【0086】
合成例29
200mlのフラスコに、合成例28の方法で得られた1−(2−エチルヘキシル)−3−アミノ−1,2,4−トリアゾール21.1g(0.1モル)、ほう酸1.6g(0.025モル)を入れ、窒素気流下、80℃で1時間反応した。
次いで、150℃に昇温して3時間反応した。
水を減圧留去し、得られた複素環化合物の収量は21g(耐摩耗剤ACと呼称する)であった。
生成物のほう素含有量は1.1重量%であった。
【0087】
実施例1〜31及び比較例1〜3
表1に記載の各成分(耐摩耗剤A〜AC)及び2−(アミノメチル)ピリジンを表1に記載の割合で配合し、潤滑油組成物を調製した。
これらの潤滑油組成物の性能を、下記に示すシェル四球摩耗試験及び往復動摩擦摩耗試験により評価した。
得られた結果を表1に示す。
【0088】
実施例32及び比較例4〜5
表2に記載の各成分を表2に記載の割合で配合し、潤滑油組成物を調製した。
これらの潤滑油組成物の性能を、下記に示すシェル四球摩耗試験、往復動摩擦摩耗試験及び酸化安定度試験により評価した。
得られた結果を表2に示す。
【0089】
〔シェル四球摩耗試験〕
ASTM D2783に準拠し、試験球として1/2インチのSUJ−2製ボールを用い、回転数1200rpm、荷重294N、温度80℃、時間30分の条件で摩耗試験を行い、摩耗試験後の試験球の摩耗痕径を測定した。
摩耗試験後の試験球の摩耗痕径が小さいほど、耐摩耗性が優れていることを示す。
【0090】
〔往復動摩擦摩耗試験〕
試験板として硬度(HRC)61、表面粗さ(Rz)0.042μmで3.9t×38×58mmのSUJ−2製板、試験球として10mmのSUJ−2製ボールを用い、荷重50N、振幅15mm、振動数5Hz、温度100℃、時間30分の条件で摩耗試験を行い、摩耗試験後の摩耗痕幅を測定した。
摩耗試験後の試験板の摩耗痕幅が小さいほど、耐摩耗性が優れていることを示す。
また、併せて、摩擦係数も測定した。
摩擦係数が小さいほど摩擦低減性が優れていることを示す。
【0091】
〔酸化安定度試験〕
JIS K2514−1996に準拠し、内燃機関用潤滑油酸化安定度試験(Indiana Stirring Oxidation Test)を下記の条件で行い、試験前後の潤滑油組成物の塩基価を測定し、塩基価残存率を求めた。
試験温度;165.5℃、回転数;1300rpm、試験時間;48時間、触媒;銅板、鉄板
塩基価残存率は、以下の式により算出した。
塩基価残存率(%)=(試験後の潤滑油組成物の塩基価/試験前の潤滑油組成物の塩基価)×100
塩基価残存率が大きいほど、ロングドレン性に優れており、更油交換期間が長いことを示す。
【0092】
各潤滑油組成物の性状測定については、以下のようにして行った。
(カルシウム含有量)
JIS−5S−38−92に準拠して測定した。
(リン含有量)
JPI−5S−38−92に準拠して測定した。
(硫黄含有量)
JIS K2541に準拠して測定した。
(硫酸灰分)
JIS K2272に準拠して測定した。
【0093】
表1〜2において、用いた各成分は以下の通りである。
1.合成1〜29で得られた耐摩耗剤A〜AC、2−(アミノメチル)ピリジン:アルドリッチ社製(引用文献11の実施例に対応)
2.基油:水素化精製基油、40℃における動粘度;21mm2/s、100℃における動粘度;4.5mm2/s、粘度指数;127、%CA(%CA;n−d−M環分析法による);0.0、硫黄含有量;20質量ppm未満、NOACK蒸発量(石油学会規格PI−5S−41−93);13.3質量%
3.金属系清浄剤:過塩基性カルシウムサリシレート、塩基価(過塩素酸法);225mgKOH/g、カルシウム含有量;7.8質量%、硫黄含有量;0.3質量%
4.無灰分散剤:ポリブテニルコハク酸イミド:ポリブテニル基の数平均分子量;1000、窒素含有量;2.0質量%
5.耐摩耗剤:ジアルキルジチオリン酸亜鉛:アルキル基;第2級ブチル基と第2級ヘキシル基の混合物、Zn含有量;9.0質量%、リン含有量;8.2質量%、硫黄含有量;17.1質量%、アルキル基;第2級ブチル基と第2級ヘキシル基の混合物
【0094】
【表1】

【0095】
【表2】

【0096】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明の耐摩耗剤を鉱油系の炭化水素油や合成系の潤滑油基油あるいはそれらの混合物に配合したものは、内燃機関や駆動系伝達機関において耐摩耗性を向上させ、優れた摩擦低減性能及び塩基価維持性能を発揮する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(I)
【化1】

〔一般式(I)中、X1、X2、X3及びX4は、それぞれ独立にNもしくはNH、O又はSを、pは0又は1を示す。x及びyは、それぞれ独立に0〜2の整数、u及びrは、それぞれ独立に0〜3の整数、t及びwは、それぞれ独立に0〜3の整数を示す。pが0の場合、vは0〜5の整数を示し、pが1の場合、vは0〜3の整数を示す。n及びmは、それぞれ独立に0又は1、kは0〜3の整数を示し、pが0の場合、x、y、n、m及びvは同時に0にはならない。R1〜R4は、それぞれ独立に炭素原子に結合する水素原子又はアミノ基、アミド基、エーテル基及びカルボキシル基の中から選ばれる少なくとも一種の置換基を有していてもよい炭化水素基を示し、pが0の場合、R1及びR2は同時に水素原子になることはなく、pが1の場合、R1〜R4は同時に水素原子になることはない。Y1及びY2は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、又はアミノ基、アミド基、水酸基、カルボニル基、アルデヒド基、カルボキシル基、エステル基及びエーテル基の中から選ばれる官能基、あるいは同官能基の中から選ばれる少なくとも一種の官能基を有していてもよい全炭素数が1〜150の炭化水素基を示す。〕
で表される環状部分に二重結合を有していてもよい複素環化合物、及び/又は該複素環化合物とホウ素化合物、モリブデン化合物及びケイ素化合物から選ばれる化合物との反応生成物からなる耐摩耗剤。
【請求項2】
一般式(I)におけるpが0又は1であり、X1、X2及びX3がそれぞれ独立にNもしくはNH、O又はSである請求項1に記載の耐摩耗剤。
【請求項3】
一般式(I)がピリジン類、ピロール類、ピリミジン類、ピラゾール類、ピリダジン類、イミダゾール類、ピラジン類、トリアジン類、トリアゾール類、テトラゾール類、オキサゾール類、オキサジアゾール類、チアゾール類、チアジアゾール類、フラン類、ジオキサン類、ピラン類、チオフェン類から選ばれる化合物に由来する複素環骨格を有する請求項1又は2に記載の耐摩耗剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の耐摩耗剤を含有する潤滑油組成物。
【請求項5】
潤滑油組成物全量基準で亜鉛の含有量が、元素換算で600質量ppm以下である請求項4に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
潤滑油組成物全量基準でリンの含有量が、元素換算で500質量ppm以下である請求項4に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
内燃機関用である請求項4〜6のいずれかに記載の潤滑油組成物。

【公開番号】特開2009−40869(P2009−40869A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−206888(P2007−206888)
【出願日】平成19年8月8日(2007.8.8)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】