説明

耐摩耗性に優れた鋼管用半球型搬送ロール

【課題】耐摩耗性に優れるというセラミックスの特性を生かし、かつ、鋼管進入時の衝撃によってセラミックスに破損が生じることを防止でき、従来ロールよりも使用寿命の長い鋼管用半球型搬送ロールを提供する。
【解決手段】半球状体の背面の中心をとおり、背面に垂直に穿孔した貫通孔を有するセラミックス部2と、該セラミックス部の貫通孔の内周面全面を覆うことができる形状を有するスリーブ状の金具3と、該セラミックス部の背面全面を覆うことができる形状を有するリング状の金具4と、該セラミックス部へ金具を介して回転を伝達可能に構成してなるロール軸5とを具備し、2種の金具3、4を接着剤によってセラミックス部2へ固着した鋼管用半球型搬送ロール1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐摩耗性に優れるというセラミックスの特性を生かし、かつ、鋼管進入時の衝撃によってセラミックスに破損が生じることを防止でき、従来ロールよりも使用寿命の長い鋼管用半球型搬送ロールに関する。
【背景技術】
【0002】
所定の外・内径と長さをもつ鋼管は、外表面が球面の一部で形成された鋼管用半球型搬送ロールによって支持され、搬送される。このような鋼管用半球型搬送ロール1は、図4に示したように、鋼管Wの搬送方向に対し、ロール軸5を傾けて搬送方向複数個所に配置されている。
なお、図4は、超音波探傷装置8で探傷検査を行う検査ラインの配置図であり、中央部の探傷セクションには鋼管用半球型搬送ロール1が6対配置され、その入側および出側のセクションにも、鋼管用半球型搬送ロール1が複数対配置されている。
【0003】
図4中、9は超音波探傷装置8の搬送通り芯を示す。
上記した検査ラインでは探傷検査を精度よく効率的に行うために、耐摩耗性に優れ、しかも使用寿命の長い搬送ロールが必要とされる。
つまり、鋼管用半球型搬送ロール1の摩耗が進行するほど、半径が小さくなり、搬送速度が低下する。また、鋼管用半球型搬送ロール1の摩耗が進行し、外表面の形状が崩れると超音波探傷装置8の搬送通り芯9と、管軸芯10とのずれが大きくなり、探傷精度が低下する。搬送速度低下、探傷精度悪化を防止するには、ロール交換を早期に行う必要があるが、これを行うと、ロール交換時間が増大し、生産性の低下につながる。このため、セラミックス製ロールのように耐摩耗性に優れた搬送ロールが必要とされる。
【0004】
ここで、特許文献1には従来技術として、鋼管製造工程のクーリングベッド、矯正、管厚、および外径検査(非破壊検査)、管端切断などで、鋼管用半球型搬送ロールにセラミックス製ロールが使用されていたと記載されている。
また、弾性材料からなる層のうえに、金属またはセラミックスの溶射層を形成した金属管用搬送ロールも提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62―246614号公報
【特許文献2】実開平1―127603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1には、セラミックスの破損を防止する技術に関して言及がない。また、特許文献1には、使用寿命が6ヶ月程度である樹脂製の搬送ロールに関して記載され、耐摩耗性が不十分であるという、問題がある。
したがって、鋼管用半球型搬送ロールにセラミックス製ロールを用いた場合、摩耗が進行するよりも前に、鋼管進入時の衝撃によってセラミックスに破損が生じ、これに起因して使用寿命が短くなることが懸念される。
【0007】
特許文献2記載の金属管用搬送ロールは、弾性材料からなる層のうえに、耐摩耗性に優れた溶射層を厚く形成するのは困難であり、使用寿命に問題がある。
本発明は、上記従来技術の問題点を解消し、耐摩耗性に優れるというセラミックスの特性を生かし、かつ、鋼管進入時の衝撃によってセラミックスに破損が生じることを防止でき、従来ロールよりも使用寿命の長い鋼管用半球型搬送ロールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討し、以下の形状を有する2種の金具を、鋼管進入時の衝撃を受ける部材とすることで、上記した課題を解決できることを知見し、本発明をなした。
本発明は、以下のとおりである。
1.鋼管用半球型搬送ロールであって、半球状体の中心をとおり、背面に垂直な貫通孔を有するセラミックス部と、該セラミックス部の貫通孔の内周面全面を覆うスリーブ状の金具と、該セラミックス部の背面全面を覆うリング状の金具と、該セラミックス部へ回転を伝達可能に構成してなるロール軸とを具備し、前記2種の金具は接着剤によって前記セラミックス部へ固着してなることを特徴とする耐摩耗性に優れた鋼管用半球型搬送ロール。
2.前記ロール軸は、前記セラミックス部に接着剤によって固着したスリーブ状の金具を、締結手段で挟み込む構造とし、前記セラミックス部から取り外し可能としてなることを特徴とする上記1.に記載の耐摩耗性に優れた鋼管用半球型搬送ロール。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、2種の金具を接着剤によってセラミックス部へ固着して鋼管進入時の衝撃を受ける部材としたから、耐摩耗性に優れるというセラミックスの特性を生かし、かつ、鋼管進入時の衝撃によってセラミックスに破損が生じることを防止でき、従来ロールよりも使用寿命の長い鋼管用半球型搬送ロールを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明例の鋼管用半球型搬送ロールの構造を示す断面図である。
【図2】図1の本発明例に用いた緩衝用金具の形状を示す背面図である。
【図3】本発明例と肉盛溶接ロールとの耐摩耗性を示す特性図である。
【図4】超音波探傷装置(UST)で鋼管の探傷検査を行う検査ラインの配置図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明例の鋼管用半球型搬送ロールについて図を用い、詳細に説明する。
図1は、本発明例の鋼管用半球型搬送ロール1の構造を示す断面図、図2は図1の本発明例に用いた2種の金具3,4の形状を示す背面図である。2種の金具3,4はそれぞれセラミックス部2へ接着剤によって固着されている。
この2種の金具のうち一方の、セラミックス部2の貫通孔の内周面全面を覆うことができるスリーブ状の金具3は、セラミックス部2の前面側(図1中の左側)からセラミックス部2の貫通孔へ挿入され、残るセラミックス部2の背面全面を覆うことができるリング状の金具4は、セラミックス部2の背面側に配置され、前面側から貫通孔へ挿入されたスリーブ状の金具3とねじ結合される。
【0012】
前記したスリーブ状の金具3には、前面側および背面側の内周にそれぞれリング状の段差3b、3cが形成され、また図1、2に示したように、キー溝3aが設けられている。キー溝は、ロール軸5の先端部にも設けられている(図1中のキー溝5b)。
ここで、セラミックス部2は、図1に示したように、外表面が球面の一部で形成されたもので、半球状体の中心Oをとおり、背面に垂直に貫通孔を穿孔することで得ることができる。たとえばセラミックスの一種であるSiからなる半球状体を用いることが好適であるが、本発明に用いるセラミックスは、Siに限定されない。
【0013】
図1中、Rは半球状体の半径である。5はロール軸を示し、段差5aより先端側はスリーブ状の金具の段差3b、3cの間の内周に嵌合可能な径となっている。段差5aより基端側(図中右側)は、スリーブ状金具の段差3cより背面側の内周に嵌合可能な径となっている。6は締結手段である締結ナットを示す。締結ナット6は、ロール軸5の先端部に設けた雄ねじと、ねじ結合する雌ねじを有する。7はキー溝3aに挿入したキーを示す。
【0014】
このように本発明例の半球型鋼管用搬送ロール1は、半球状体の中心Oをとおり、背面に垂直な貫通孔を有するセラミックス部2と、上記した2種の金具3,4と,セラミックス部2へ回転を伝達可能に構成してなるロール軸5とを具備し、2種の金具3,4を接着剤によってセラミックス部2へ固着したことを特徴とする。
本発明によれば、2種の金具3,4を接着剤によってセラミックス部2へ固着して、鋼管進入時の衝撃を受ける部材としたので、実施例で説明するように、耐摩耗性に優れるというセラミックスの特性を生かし、かつ、鋼管進入時の衝撃によってセラミックスに破損が生じることを防止できる。
【0015】
ロール軸5は、セラミックス部2へ接着剤によって固着したスリーブ状の金具3を、締結ナット6で挟み込む構造としてなるのが好ましい。
この理由は、使用寿命まで使用したセラミックス部2の交換を行う際、締結ナット6を回して緩めることで、セラミックス部2をロール軸5から容易に取外せるからである。
ただし、使用寿命まで使用したセラミックス部2は、再利用が難しいので、ロール軸5から取外した後、使用したセラミックス部2をハンマーなどでたたいて破壊することで、セラミックス部2へ接着剤によって固着した2種の金具3,4の方だけを、再利用することになる。
【0016】
そこで、半球型鋼管用搬送ロール1を組み立てる際、2種の金具3,4は固化することで、強固な接着力を示すエポキシ樹脂からなる接着剤を介してセラミックス部2へ固着するのが好ましい。
なお、図2に示した、リング状の金具4のボルト孔4aは、半球型鋼管用搬送ロール1を組み立てる過程で、セラミックス部2の背面にリング状の金具4が接着剤によって固着するまでボルトで締め付けておくためのものである。
【実施例】
【0017】
図1に示した半球型鋼管用搬送ロール1を、超音波探傷装置(UST)で継目無鋼管の探傷検査を行う検査ラインに組み込み、使用寿命を評価した。
その結果を、図3に示した。
ただし、セラミックス部2の寸法、スリーブ状の金具3とリング状の金具4の寸法、およびロール軸5の寸法は以下とした。
(1)セラミックス部2の寸法:半球状体の半径R=100mm、貫通孔の直径=95mm、有効軸方向長さL=80mm。(2)スリーブ状の金具3の寸法:全長=95mm、中央部の外径=95mm、中央部の内径=50mm。(3)リング状の金具4の寸法:外径=200mm、内径=95mm、厚み=10mm。(4)ロール軸5の直径=70mm、ロール軸5の雄ねじ外径=50mm。
【0018】
なお、肉盛溶接ロールは、C含有量:0.45mass%の炭素鋼の基地に、Ni-WCからなる肉盛溶接層を3mm形成したものである。
本発明例、肉盛溶接ロールともに、図4中の黒抜きで示した超音波探傷装置8の搬送方向上流側と下流側に配置して、使用日数と、X=69mmの位置での磨耗量との関係を調査した。半球状体の背面からの距離X=69mmの位置は、最も磨耗が進行する位置である。
【0019】
図3に示した結果から、使用後9ヶ月経過した時点で、本発明例の方が、肉盛溶接ロールに比べて5倍という耐摩耗性を有し、しかも、鋼管進入時の衝撃によってセラミックスに生じやすい破損を防止できていることがわかる。
また、肉盛溶接ロールの場合、使用後1年を経過すると、肉盛溶接層3mmが磨耗によって消滅し、磨耗量が急上昇するため、使用寿命≒1年である。
【0020】
これに対して本発明例の場合には、使用後9ヶ月経過した時点での摩耗量が0.4mmであるため、摩耗量が3mmに達するまでの使用寿命を推定すると、使用寿命≒5年となり、従来ロールよりも寿命が長い。
【符号の説明】
【0021】
W 鋼管
O 半球状体の中心
R 半球状体の半径
L 有効軸方向長さ
X 半球状体の背面からの距離
1 半球型鋼管用搬送ロール
2 セラミックス部
3、4 金具
3a キー溝
3b、3c 段差
4a ボルト孔
5 ロール軸
5a 段差
6 締結ナット(締結手段)
7 キー
8 超音波探傷装置
9 搬送通り芯
10 管軸芯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管用半球型搬送ロールであって、半球状体の中心をとおり、背面に垂直な貫通孔を有するセラミックス部と、該セラミックス部の貫通孔の内周面全面を覆うスリーブ状の金具と、該セラミックス部の背面全面を覆うリング状の金具と、該セラミックス部へ回転を伝達可能に構成してなるロール軸とを具備し、前記2種の金具は接着剤によって前記セラミックス部へ固着してなることを特徴とする耐摩耗性に優れた半球型鋼管用搬送ロール。
【請求項2】
前記ロール軸は、前記セラミックス部に接着剤によって固着したスリーブ状の金具を、締結手段で挟み込む構造とし、前記セラミックスから取り外し可能としてなることを特徴とする請求項1に記載の耐摩耗性に優れた半球型鋼管用搬送ロール。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−71320(P2012−71320A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−216901(P2010−216901)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】