説明

耐摩耗性チェーン

【課題】チェーン稼動時における潤滑油の漏出と外部塵埃の侵入を防止するとともに、連結ピンの外周面とブシュの内周面との間の摺接摩耗を抑制して、チェーン摩耗伸びを長期にわたって防止する耐摩耗性チェーンを提供すること。
【解決手段】内リンク240と外リンク270とがチェーン長手方向に交互に連結され、内リンク240の内プレート210の外側面212から一部突出したブシュ230の両端部が、外リンク270の外プレート250の内側面をピン圧入孔211と同軸の拡径状態で座ぐりしてなるブシュ軸支部252にそれぞれ支持されているとともに、ブシュ230の内周面231と連結ピン260の外周面261との間に潤滑油を供給する油溜り溝262が、連結ピン260の外周面261に刻設されている耐摩耗性チェーン200。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝動用ローラチェーン、搬送コンベヤチェーンなどに用いる耐摩耗性チェーンに係るものであって、特に、前後一対のブシュの両端部を左右一対の内プレートのブシュ圧入孔に圧入嵌合してなる内リンクと前記ブシュ内にそれぞれ貫通する前後一対の連結ピンの両端部を左右一対の外プレートのピン圧入孔に圧入嵌合してなる外リンクとがチェーン長手方向に交互に連結され、ブシュの内周面と連結ピンの外周面との間に潤滑油が封入されている耐摩耗性チェーンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、2個の外リンクプレートの両端部をピンにて連結した外リンクと、2個の内リンクプレートをブシュにて連結した内リンクとを前記ピンをブシュに遊嵌することにより交互に連結し、かつ、ピンとブシュとの間に注入された潤滑油を封止するシール手段を備えてなるシールチェーンが知られている。
そして、このようなシールチェーンのシール手段は、少なくともブシュの軸方向端面に接触するように配置されるリング部材と、このリング部材とそれに対向する外リンクプレートとの間に圧接される弾性シールリングとを備えている(例えば特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2004−256262号公報(特許請求の範囲、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前述したような従来のシールチェーンでは、ブシュと外リンクプレートとの間を密封してピンとブシュとの間に注入された潤滑油のシール効果を持続させるために、リング部材と弾性シールリングがブシュと外リンクプレートとの間に押圧状態で配置され、このような押圧状態の押圧力によって、外リンクプレートと内リンクプレートとの間の相対的な屈曲抵抗、すなわち、チェーン自体の屈曲抵抗が大きくなるという問題があった。
【0004】
また、リング部材と弾性シールリングが外リンクプレート等に対して摺接摩耗することによって生じるシール効果の低化を防止するために、リング部材及び弾性シールリングと接触する外リンクプレートの内側面とブシュの端面の表面粗さを小さくする表面仕上げ加工を施す必要があり、その表面仕上げ加工の加工負担が増加するという問題があった。
【0005】
そして、シール手段としてのリング部材と弾性シールリングとを基本的なチェーン構成部品であるブシュと外プレートとの間に設けているので、チェーンの部品点数、組立工数が多くなり、チェーンの組立性が悪くなるという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、従来の問題を解決するものであって、すなわち、本発明の目的は、チェーン稼動時における潤滑油の漏出と外部塵埃の侵入を防止するとともに、連結ピンの外周面とブシュの内周面との間の摺接摩耗を抑制して、チェーン摩耗伸びを長期にわたって防止し、チェーンの部品点数が少なくチェーン製造負担とチェーン切り継ぎ等の分解組み付け作業負担が簡便な耐摩耗性チェーンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る本発明は、内リンクと前記ブシュ内にそれぞれ貫通する前後一対の連結ピンの両端部を左右一対の外プレートのピン圧入孔に圧入嵌合してなる外リンクとがチェーン長手方向に交互に連結され、前記ブシュの内周面と連結ピンの外周面との間に潤滑油が封入されている耐摩耗性チェーンにおいて、前記内プレートの外側面から一部突出したブシュの両端部が、前記外プレートの内側面をピン圧入孔と同軸の拡径状態で座ぐりしてなるブシュ軸支部にそれぞれ支持されているとともに、前記ブシュの内周面と連結ピンの外周面との間に潤滑油を供給する油溜り溝が、前記連結ピンの外周面に刻設されていることにより、前述した課題を解決したものである。
【0008】
請求項2に係る本発明は、請求項1記載の構成に加えて、前記外プレートの内側面と内プレートの外側面が、相互に近接対向するラビリンス構造形成粗面を備えていることにより、前述した課題をさらに解決したものである。
なお、ここで意味するラビリンス構造形成粗面とは、潤滑油を溜めたり、外部塵埃の侵入を抑制したりするラビリンス構造を形成し得る粗面のことである。
【0009】
請求項3に係る本発明は、請求項1または請求項2記載の構成に加えて、前記ブシュ軸支部の内径Wj、ブシュの内径Wbi、ブシュの外径Wbo及び連結ピンの外径Wpが、Wj−Wbo>Wbi−Wpを満足するようにそれぞれ形成されていることにより、前述した課題をさらに解決したものである。
【0010】
請求項4に係る本発明は、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の構成に加えて、前記ブシュ軸支部の座ぐり深さDj及びブシュ端部の内プレート外側面からの突出量Dbが、Dj<Dbを満足するようにそれぞれ形成されているとともに、前記ブシュ軸支部の座ぐり深さDj、ブシュ端部の内プレート外側面からの突出量Db、外リンクの内幅Do及び内リンクの外幅Diが、Dj+Do<Di+2Db<2Dj+Doを満足するようにそれぞれ形成されていることにより、前述した課題をさらに解決したものである。
【発明の効果】
【0011】
そこで、本発明は、前後一対のブシュの両端部を左右一対の内プレートのブシュ圧入孔に圧入嵌合してなる内リンクとブシュ内にそれぞれ貫通する前後一対の連結ピンの両端部を左右一対の外プレートのピン圧入孔に圧入嵌合してなる外リンクとがチェーン長手方向に交互に連結され、ブシュの内周面と連結ピンの外周面との間に潤滑油が封入されていることにより、外部からの無給油状態で長期にわたってチェーン駆動することができるばかりでなく、以下のような特有の効果を奏することができる。
【0012】
請求項1に係る本発明の耐摩耗性チェーンによれば、内プレートの外側面から一部突出したブシュの両端部が、外プレートの内側面をピン圧入孔と同軸の拡径状態で座ぐりしてなるブシュ軸支部にそれぞれ支持されていることにより、このようなブシュの端部とブシュ軸支部の内面との間に形成されたラビリンス構造が、チェーン稼動時の周回走行によって生じる遠心力等に起因した潤滑油の漏出を抑制するとともに外部塵埃の侵入を抑制して、チェーンの摩耗伸びを長期にわたって防止することができる。
【0013】
また、内プレートと外プレートとの間には、従来のシールチェーンのようなブシュと外リンクプレートとの間に押圧状態で配置したシール部材を別部品として設けていないので、チェーン稼動時に円滑に屈曲して周回走行するとともに、チェーンの部品点数が少なくチェーン切り継ぎ等の分解組み付け作業が容易である。
また、従来のシールチェーンでは、シール部材の摺接摩耗を防止して潤滑油の密封性を維持するために、内リンクプレートの外側面と外リンクプレートの内側面に表面粗さを小さくする表面仕上げ加工を施す必要があったが、本発明の耐摩耗性チェーンでは、従来のような表面仕上げ加工を施す必要がなく、チェーンの製造負担を軽減することができる。
【0014】
さらに、ブシュの内周面と連結ピンの外周面との間に潤滑油を供給する油溜り溝が、連結ピンの外周面に刻設されていることにより、より多くの潤滑油を封入することができ、連結ピンとブシュとの間に潤滑油を継続的に供給できるので、連結ピンの外周面とブシュの内周面の摺動摩耗を長期に亘って低減でき、チェーンの摩耗伸びをより一層防止することができる。
【0015】
請求項2に係る本発明の耐摩耗性チェーンによれば、請求項1記載の耐摩耗性チェーンが奏する効果に加えて、外プレートの内側面と内プレートの外側面が、相互に近接対向するラビリンス構造形成粗面を備えていることにより、外プレートの内側面と内プレートの外側面との間にはラビリンス構造が形成されているので、連結ピンとブシュとの間に注入された潤滑油のシール効果をより一層向上させることができ、ブシュと連結ピンとの間に注入された潤滑油が外部に漏れ出すことを防止できるとともに外部から塵埃が侵入することを防止できる。
【0016】
請求項3に係る本発明の耐摩耗性チェーンによれば、請求項1または請求項2記載の耐摩耗性チェーンが奏する効果に加えて、ブシュ軸支部の内径Wj、ブシュの内径Wbi、ブシュの外径Wbo及び連結ピンの外径Wpが、Wj−Wbo>Wbi−Wpを満足するようにそれぞれ形成されていることにより、チェーン進行方向に引張力を受けるチェーン稼動時、すなわち、内リンクが外リンクに対してチェーン進行方向に偏在した場合に、ブシュの内周面と連結ピンの外周面とが接触して、潤滑油が充分に供給されてない状態となっても、ブシュ端部の外周面とブシュ軸支部の内周面とが互いに接触することを完全に阻止する。
その結果、ブシュ端部の外周面とブシュ軸支部の内周面との摺動接触に起因する金属摩耗粉が連結ピンとブシュとの間に侵入し、このような金属摩耗粉が研摩剤となって連結ピンとブシュとの間で生じがちな異常な摩耗損傷を防止することができ、チェーンの摩耗伸びを大幅に防止することができる。
【0017】
請求項4に係る本発明の耐摩耗性チェーンによれば、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の耐摩耗性チェーンが奏する効果に加えて、ブシュ軸支部の座ぐり深さDj及びブシュ端部の内プレート外側面からの突出量Dbが、Dj<Dbを満足するようにそれぞれ形成されていることにより、チェーン稼動時に内リンクが外リンクに対してチェーン幅方向にスキュー、揺動、若しくは、偏在した場合であっても、摺動面積の小さいブシュ端面とブシュ軸支部の底面とが互いに接触して、摺動面積の大きい内プレートの外側面と外プレートの内側面とが接触することを完全に阻止するので、長期に亘る円滑なチェーンの屈曲摺動を実現できる。
【0018】
また、ブシュ軸支部の座ぐり深さDj、ブシュ端部の内プレート外側面からの突出量Db、外リンクの内幅Do及び内リンクの外幅Diが、Dj+Do<Di+2Db<2Dj+Doを満足するようにそれぞれ形成されていることにより、チェーン稼動時に内リンクが外リンクに対してチェーン幅方向にスキュー、揺動、若しくは、片寄りを生じた場合であっても、ブシュ端部がブシュ軸支部から外れることはなく、したがって、チェーン稼動時における潤滑油の漏出と外部塵埃の侵入を防止でき、連結ピンの外周面とブシュの内周面の摺動摩耗を長期に亘って低減でき、チェーンの摩耗伸びを更に一段と防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、前後一対のブシュの両端部を左右一対の内プレートのブシュ圧入孔に圧入嵌合してなる内リンクと前記ブシュ内にそれぞれ貫通する前後一対の連結ピンの両端部を左右一対の外プレートのピン圧入孔に圧入嵌合してなる外リンクとがチェーン長手方向に交互に連結され、前記ブシュの内周面と連結ピンの外周面との間に潤滑油が封入されている耐摩耗性チェーンにおいて、内プレートの外側面から一部突出したブシュの両端部が、外プレートの内側面をピン圧入孔と同軸の拡径状態で座ぐりしてなるブシュ軸支部にそれぞれ支持されて、チェーン稼動時における潤滑油の漏出と外部塵埃の侵入を防止するとともに、連結ピンの外周面とブシュの内周面との間の摺接摩耗を抑制して、チェーン摩耗伸びを長期にわたって防止し、しかも、チェーンの部品点数が少なくチェーン製造負担とチェーン切り継ぎ等の分解組み付け作業負担が簡便なものであれば、その具体的な実施の形態は如何なるものであっても何ら構わない。
【0020】
すなわち、本発明の耐摩耗性チェーンは、ローラチェーン、ブシュチェーンのいずれのものがその対象であっても差し支えないが、ローラチェーンの場合には、スプロケットとの噛み合いが円滑となるため、チェーンの摩耗を防止するので、より好ましい。
【0021】
また、本発明における油溜り溝の具体的形状については、Dカット形状の凹溝、連結ピンの外面に周設した環状の凹溝などいずれであっても差し支えないが、Dカット形状の凹溝の場合には、連結ピンの強度を維持しつつ、多くの潤滑油を封入することができるので、より好ましい。
【0022】
また、本発明におけるブシュ軸支部の具体的な形状については、円形の凹溝、正多角形の凹溝などいずれであっても差し支えない。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の理解を助けるための参考例である耐摩耗性チェーン100を図面に基づいて説明する。
ここで、図1は、本発明の理解を助けるための参考例である耐摩耗性チェーンの一部を切り欠いた全体概要図であり、図2は、図1に示す耐摩耗性チェーンの連結状態を示す斜視図であり、図3は、図1に示す耐摩耗性チェーンを一部拡大視した断面図であり、図4は、図1に示す耐摩耗性チェーンの組み付け寸法図であり、図5は、図1の耐摩耗性チェーンがチェーン進行方向に引張られている状態を示す寸法図であり、図6は、図1の耐摩耗性チェーンがチェーン幅方向に片寄った状態を示す寸法図である。
【0024】
まず、本発明の理解を助けるための参考例である耐摩耗性チェーン100は、図1及び図3に示すように、左右一対で離間して配置された内プレート110、110のブシュ圧入孔111、111にローラ120、120が遊嵌された前後一対のブシュ130、130の両端部を嵌入固定した内リンク140と、左右一対で離間して配置された外プレート150、150のピン圧入孔151、151に前後一対の連結ピン160、160の両端部を嵌入固定した外リンク170とを備えている。
また、内リンク140と外リンク170とは、ブシュ130に連結ピン160が遊嵌されることにより連結されている。
そして、ブシュ130と連結ピン160との間に潤滑油が封入されている。
【0025】
そこで、本参考例の耐摩耗性チェーン100が最も特徴とするブシュ130、外プレート150及び内プレート110の具体的な形態について図2乃至図6により詳しく説明する。
まず、図2及び図3に示すように、外プレート150の内側面153には、2つのピン圧入孔151、151と同軸の拡径状態で座ぐり加工してなる2つのブシュ軸支部152、152が設けられている。
そして、ブシュ130の両端部は、内プレート110の外側面112から突出して、ブシュ軸支部152にそれぞれ支持されている。
また、図3に示すように、外プレート150の内側面153と内プレート110の外側面112には、梨地状のラビリンス構造形成粗面153a、112aをそれぞれ備えている。
【0026】
また、耐摩耗性チェーン100は、図4に示すように、ブシュ軸支部152の内径Wj、ブシュ150の内径Wbi、ブシュ130の外径Wbo及び連結ピン160の外径Wpが、Wj−Wbo>Wbi−Wpを満足するようにそれぞれ形成されている。
そして、ブシュ軸支部152の座ぐり深さDj及びブシュ130の内プレート110の外側面112からの突出量Dbが、Dj<Dbを満足するように形成されている。
そして、ブシュ軸支部152の座ぐり深さDj、ブシュ150の内プレート110の外側面112からの突出量Db、外リンク170の内幅Do及び内リンク140の外幅Diが、Dj+Do<Di+2Db<2Dj+Doを満足するように形成されている。
【0027】
このようにして得られた本発明の理解を助けるための参考例の耐摩耗性チェーン100は、内プレート110の外側面112から一部突出したブシュ130の両端部が、外プレート150の内側面153をピン圧入孔151と同軸の拡径状態で座ぐり加工してなるブシュ軸支部152にそれぞれ支持されている。
したがって、ブシュ130の端部とブシュ軸支部152の内面との間には、ラビリンス構造L1が形成されているので、チェーン稼動時のチェーン周回走行によって生じる遠心力等に起因した潤滑油の漏出を防止できるとともに、外部から塵埃が侵入することを防止できる。
【0028】
すなわち、スプロケットに掛け回わされたチェーンが稼動すると、チェーン周回走行によって生じる遠心力が封入されている潤滑油に作用し、潤滑油はブシュ130の内周面131にガイドされて左右一対の外プレート150、150に向けて滲み出す。
このとき、ブシュ130の端部とブシュ軸支部152との間に生じた潤滑油の漏出経路が、チェーン幅方向およびチェーン進行方向に複雑に屈曲した構造、所謂、ラビリンス構造L1を呈するので、潤滑油の外部への漏出を防止することができる。
また、同様に、前記ラビリンス構造L1により外部からの塵埃の侵入を防止することができる。
【0029】
また、耐摩耗性チェーン100は、内プレート110と外プレート150との間にシール部材を別部品として何ら設けていない。
したがって、ブシュと外プレートとの間にシール部材が押圧状態で配置された従来のシールチェーンと比べて、円滑に屈曲摺動するとともに、チェーンの部品点数が少なく、チェーン切り継ぎ等の分解組み付け作業が容易である。
そして、シール部材の摩耗を防止して潤滑油の密封性を維持するために、内リンクプレートの外側面と外リンクプレートの内側面の表面粗さを小さくする表面仕上げ加工を施す必要がある従来のシールチェーンとは異なり、このような表面仕上げ加工を施す必要がなく、チェーンの製造負担を軽減することができる。
【0030】
また、外プレート150の内側面153と内プレート110の外側面112は、相互に近接対向するラビリンス構造形成粗面153a、112aを備えている。
したがって、外プレート150の内側面153と内プレート110の外側面112との間にはラビリンス構造L2が形成されているので、連結ピン160とブシュ130との間に注入された潤滑油のシール効果をより一層向上させることができ、ブシュ130と連結ピン160との間に注入された潤滑油が外部に漏れ出すことを防止できるとともに、外部から塵埃が侵入することを防止できる。
【0031】
また、ブシュ軸支部152の内径Wj、ブシュ130の内径Wbi、ブシュ130の外径Wbo及び連結ピン160の外径Wpが、Wj−Wbo>Wbi−Wpを満足するようにそれぞれ形成されている。
したがって、図5に示すように、チェーン稼動時に耐摩耗性チェーン100に高負荷状態の張力が作用して内リンク140が外リンク170に対してチェーン進行方向に片寄った場合であっても、ブシュ130の内周面131と連結ピン160の外周面161が接触して、潤滑油が充分に供給されていないブシュ130の端部の外周面132とブシュ軸支部152の内周面152aとが互いに接触することを完全に阻止できる。
その結果、ブシュ130の端部の外周面132とブシュ軸支部152の内周面152aとの摺動接触に起因して生じる金属摩耗粉が連結ピン160とブシュ130との間に侵入し、このような金属摩耗粉が研摩剤となって連結ピン160とブシュ130との間で異常な摩耗損傷が生じることを防止でき、チェーンの摩耗伸びを防止することができる。
【0032】
そして、ブシュ軸支部152の座ぐり深さDj及びブシュ130の端部の内プレート110の外側面112からの突出量Dbが、Dj<Dbを満足するようにそれぞれ形成されている。
したがって、図6に示すように、内リンク140が外リンク170に対してチェーン幅方向にスキュー、揺動、若しくは、片寄った場合であっても、摺動面積の小さいブシュ130の端面133とブシュ軸支部152の底面152bとが互いに接触して、摺動面積の大きい内プレート110の外側面112と外プレート150の内側面153とが接触することを完全に阻止するので、長期に亘る円滑なチェーンの屈曲摺動を実現できる。
【0033】
さらに、ブシュ軸支部152の座ぐり深さDj、ブシュ130の端部の内プレート110の外側面112からの突出量Db、外リンク170の内幅Do及び内リンク140の外幅Diが、Dj+Do<Di+2Db<2Dj+Doを満足するようにそれぞれ形成されている。
したがって、図6に示すように、内リンク140が外リンク170に対してチェーン幅方向にスキュー、揺動、若しくは、片寄った場合であっても、ブシュ130の端部がブシュ軸支部152から外れることを防止して、チェーン稼動時における潤滑油の漏出と外部塵埃の侵入を防止でき、連結ピン160の外周面161とブシュ130の内周面131の摺動摩耗を長期に亘って低減でき、チェーンの摩耗伸びを防止することができるなど、その効果は甚大である。
【0034】
つぎに、本発明の実施例である耐摩耗性チェーン200について、図7及び図8に基づいて説明する。
まず、本発明の実施例である耐摩耗性チェーン200は、図7及び図8に示すように、左右一対で離間して配置された内プレート210、210のブシュ圧入孔211、211にローラ220、220が遊嵌された前後一対のブシュ230、230の両端部を嵌入固定した内リンク240と、左右一対で離間して配置された外プレート250、250のピン圧入孔251、251に前後一対の連結ピン260、260の両端部を嵌入固定した外リンク270とを備えている。
また、内リンク240と外リンク270とは、ブシュ230に連結ピン260が遊嵌されることにより連結されている。
そして、ブシュ230と連結ピン260との間に潤滑油が封入されている。
【0035】
そこで、本実施例の耐摩耗性チェーン200が最も特徴とするブシュ230、外プレート250、内プレート210及び連結ピン260の具体的な形態について図7乃至図8により詳しく説明する。
まず、図7及び図8に示すように、外プレート250の内側面253には、2つのピン圧入孔251、251と同軸の拡径状態で座ぐり加工してなる2つのブシュ軸支部252、252が設けられている。
そして、ブシュ230の両端部は、内プレート210の外側面212から突出して、ブシュ軸支部252にそれぞれ支持されている。
また、図8に示すように、外プレート250の内側面253と内プレート210の外側面212は、梨地状のラビリンス構造形成粗面253a、212aを備えている。
そして、連結ピン260の外周面には、Dカット形状の油溜り溝262が刻設されている。
【0036】
また、耐摩耗性チェーン200は、ブシュ軸支部252の内径Wj、ブシュ250の内径Wbi、ブシュ250の外径Wbo及び連結ピン260の外径Wpが、Wj−Wbo>Wbi−Wpを満足するようにそれぞれ形成されている。
そして、ブシュ軸支部252の座ぐり深さDj及びブシュ250の内プレート210の外側面212からの突出量Dbが、Dj<Dbを満足するようにそれぞれ形成されている。
そして、ブシュ軸支部252の座ぐり深さDj、ブシュ250の内プレート210の外側面212からの突出量Db、外リンク270の内幅Do及び内リンク240の外幅Diが、Dj+Do<Di+2Db<2Dj+Doを満足するように形成されている。
【0037】
このようにして得られた本実施例の耐摩耗性チェーン200は、内プレート210の外側面212から一部突出したブシュ230の両端部が、外プレート250の内側面253をピン圧入孔251と同軸の拡径状態で座ぐり加工してなるブシュ軸支部252にそれぞれ支持されている。
したがって、ブシュ230の端部とブシュ軸支部252の内面との間にはラビリンス構造L3が形成されているので、チェーン稼動時のチェーン周回走行によって生じる遠心力等に起因した潤滑油の漏出を防止できるとともに外部から塵埃が侵入することを防止できる。
【0038】
すなわち、スプロケットに掛け回されたチェーンが稼動すると、チェーン周回走行によって生じる遠心力が潤滑油に作用し、潤滑油はブシュ230の内周面231にガイドされて左右一対の外プレート250、250に向けて滲み出す。
このとき、ブシュ230の端部とブシュ軸支部252との間に生じた潤滑油の漏出経路が、チェーン幅方向およびチェーン進行方向に複雑に屈曲した構造、所謂、ラビリンス構造を呈するので、潤滑油の外部への漏出を防止することができる。
また、同様に前記ラビリンス構造L3により外部からの塵埃の侵入を防止することができる。
【0039】
また、耐摩耗性チェーン200は、内プレート210と外プレート250との間にシール部材を何ら設けていない。
したがって、ブシュと外プレートとの間にシール部材が圧縮状態で配置された従来のシールチェーンと比べて、円滑に屈曲摺動するとともに、チェーンの部品点数が少なく、チェーン切り継ぎ等の分解組み付け作業が容易である。
そして、シール部材の摩耗を防止して潤滑油の密封性を維持するために、内リンクプレートの外側面と外リンクプレートの内側面の表面粗さを小さくする表面仕上げ加工を施す必要がある従来のシールチェーンとは異なり、このような表面仕上げ加工を施す必要がなく、チェーンの製造負担を軽減することができる。
【0040】
また、ブシュ230の内周面231と連結ピン260の外周面261との間に潤滑油を供給する油溜り溝262が、連結ピン260の外周面261に刻設されている。
したがって、より多くの潤滑油を封入することができ、連結ピン260とブシュ230との間に潤滑油を継続的に供給できるので、連結ピン260の外周面261とブシュ230の内周面231の摺動摩耗を長期に亘って低減でき、チェーンの摩耗伸びを防止することができる。
【0041】
また、外プレート250の内側面253と内プレート210の外側面212は、相互に近接対向するラビリンス構造形成粗面253a、212aを備えている。
したがって、外プレート250の内側面253と内プレート210の外側面212との間にはラビリンス構造L4が形成されているので、連結ピン260とブシュ230との間に注入された潤滑油のシール効果をより一層向上させることができ、ブシュ230と連結ピン260との間に注入された潤滑油が外部に漏れ出すことを防止できるとともに外部から塵埃が侵入することを防止できる。
【0042】
また、ブシュ軸支部252の内径Wj、ブシュ230の内径Wbi、ブシュ230の外径Wbo及び連結ピン260の外径Wpが、Wj−Wbo>Wbi−Wpを満足するようにそれぞれ形成されている。
したがって、耐摩耗性チェーン200に張力が作用して内リンク240が外リンク270に対してチェーン進行方向に片寄った場合であっても、ブシュ230の内周面231と連結ピン260の外周面261が接触して、潤滑油が充分に供給されていないブシュ230の端部の外周面232とブシュ軸支部252の内周面152aとが互いに接触することを完全に阻止できる。
その結果、ブシュ230の端部の外周面232とブシュ軸支部252の内周面252aとの摺動接触に起因して生じる金属摩耗粉が連結ピン260とブシュ230との間に侵入し、このような金属摩耗粉が研摩剤となって連結ピン260とブシュ230との間で異常な摩耗損傷が生じることを防止でき、チェーンの摩耗伸びを防止することができる。
【0043】
そして、ブシュ軸支部252の座ぐり深さDj及びブシュ230の端部の内プレート210の外側面212からの突出量Dbが、Dj<Dbを満足するようにそれぞれ形成されている。
したがって、内リンク240が外リンク270に対してチェーン幅方向にスキュー、揺動、若しくは、片寄った場合であっても、摺動面積の小さいブシュ230の端面233とブシュ軸支部252の底面252bとが互いに接触して、摺動面積の大きい内プレート210の外側面212と外プレート250の内側面253とが接触することを完全に阻止するので、長期に亘る円滑なチェーンの屈曲摺動を実現できる。
【0044】
さらに、ブシュ軸支部252の座ぐり深さDj、ブシュ230の端部の内プレート210の外側面212からの突出量Db、外リンク270の内幅Do及び内リンク240の外幅Diが、Dj+Do<Di+2Db<2Dj+Doを満足するようにそれぞれ形成されている。
したがって、内リンク240が外リンク270に対してチェーン幅方向にスキュー、揺動、若しくは、片寄った場合であっても、ブシュ230の端部がブシュ軸支部252から外れることを防止して、チェーン稼動時における潤滑油の漏出と外部塵埃の侵入を防止でき、連結ピン260の外周面261とブシュ230の内周面231の摺動摩耗を長期に亘って低減でき、チェーンの摩耗伸びを防止することができるなど、その効果は甚大である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の理解を助けるための参考例である耐摩耗性チェーンの一部を切り欠いた全体概要図。
【図2】図1に示す耐摩耗性チェーンの連結状態を示す斜視図。
【図3】図1に示す耐摩耗性チェーンを一部拡大視した断面図。
【図4】図1に示す耐摩耗性チェーンの組み付け寸法図。
【図5】図1の耐摩耗性チェーンがチェーン進行方向に引張られた状態を示す寸法図。
【図6】図1の耐摩耗性チェーンがチェーン幅方向に片寄った状態を示す寸法図。
【図7】本発明の実施例である耐摩耗性チェーンの連結状態を示す斜視図。
【図8】図7に示す耐摩耗性チェーンを一部拡大視した断面図。
【符号の説明】
【0046】
100 、200 ・・・ 耐摩耗性チェーン
110 、210 ・・・ 内プレート
111 、211 ・・・ ブシュ圧入孔
112 、212 ・・・ 外側面
112a、212a ・・・ ラビリンス構造形成粗面
120 、220 ・・・ ローラ
130 、230 ・・・ ブシュ
131 、231 ・・・ 内周面
132 、232 ・・・ 外周面
133 、233 ・・・ 端面
140 、240 ・・・ 内リンク
150 、250 ・・・ 外プレート
151 、251 ・・・ ピン圧入孔
152 、252 ・・・ ブシュ軸支部
152a、252a ・・・ 内周面
152b、252b ・・・ 底面
153 、253 ・・・ 内側面
153a、253a ・・・ ラビリンス構造形成粗面
160 、260 ・・・ 連結ピン
161 、261 ・・・ 外周面
170 、270 ・・・ 外リンク
262 ・・・ 油溜り溝
L1、L2、L3、L4・・・ ラビリンス構造
Wj ・・・ ブシュ軸支部の内径
Wbi ・・・ ブシュの内径
Wbo ・・・ ブシュの外径
Wp ・・・ 連結ピンの外径
Dj ・・・ ブシュ軸支部の座ぐり深さ
Db ・・・ ブシュ端部の内プレートの外側面からの突出量
Do ・・・ 外リンクの内幅
Di ・・・ 内リンクの外幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後一対のブシュの両端部を左右一対の内プレートのブシュ圧入孔に圧入嵌合してなる内リンクと前記ブシュ内にそれぞれ貫通する前後一対の連結ピンの両端部を左右一対の外プレートのピン圧入孔に圧入嵌合してなる外リンクとがチェーン長手方向に交互に連結され、前記ブシュの内周面と連結ピンの外周面との間に潤滑油が封入されている耐摩耗性チェーンにおいて、
前記内プレートの外側面から一部突出したブシュの両端部が、前記外プレートの内側面をピン圧入孔と同軸の拡径状態で座ぐりしてなるブシュ軸支部にそれぞれ支持されているとともに、
前記ブシュの内周面と連結ピンの外周面との間に潤滑油を供給する油溜り溝が、前記連結ピンの外周面に刻設されていることを特徴とする耐摩耗性チェーン。
【請求項2】
前記外プレートの内側面と内プレートの外側面が、相互に近接対向するラビリンス構造形成粗面を備えていることを特徴とする請求項1記載の耐摩耗性チェーン。
【請求項3】
前記ブシュ軸支部の内径Wj、ブシュの内径Wbi、ブシュの外径Wbo及び連結ピンの外径Wpが、Wj−Wbo>Wbi−Wpを満足するようにそれぞれ形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の耐摩耗性チェーン。
【請求項4】
前記ブシュ軸支部の座ぐり深さDj及びブシュ端部の内プレート外側面からの突出量Dbが、Dj<Dbを満足するようにそれぞれ形成されているとともに、
前記ブシュ軸支部の座ぐり深さDj、ブシュ端部の内プレート外側面からの突出量Db、外リンクの内幅Do及び内リンクの外幅Diが、Dj+Do<Di+2Db<2Dj+Doを満足するようにそれぞれ形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の耐摩耗性チェーン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−232444(P2008−232444A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−148179(P2008−148179)
【出願日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【分割の表示】特願2006−259030(P2006−259030)の分割
【原出願日】平成18年9月25日(2006.9.25)
【出願人】(000003355)株式会社椿本チエイン (861)
【Fターム(参考)】