説明

耐摩耗性成形体用の樹脂組成物

【課題】ギアのような耐摩耗性が要求される摺動部品の製造原料として好適な耐摩耗性成形体用の樹脂組成物を提供する。
【解決手段】繊維状充填材の束にポリアミドを溶融させた状態で含浸させ一体化した後に、5〜15mmの長さに切断した樹脂含浸繊維束を含む樹脂組成物であり、前記ポリアミドが芳香族ポリアミドであり、前記繊維状充填材が炭素繊維等であり、下記摩耗性試験において、目視により表皮がめくれないと確認できるものである、耐摩耗性成形体用の樹脂組成物。<摩耗性試験>ISO178に準拠して上記樹脂組成物から作製した試験片を用いて、往復動摩擦摩耗試験機(AFT−15MS;株式会社オリエンテック製)により下記の条件で摩耗性を評価する。鋼球:直径10mm(2-プロパノールで脱脂したものを使用する),荷重:500g,移動速度:50mm/sec,移動距離:10mm,回数:1000回

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ギアのような耐摩耗性が要求される摺動部品の製造原料として好適な耐摩耗性成形体用の樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ギアのような摺動部品には、軽量化と強度付与の観点から、熱可塑性樹脂と長繊維を組み合わせたものが知られており、射出成形により製造することが記載されている(特許文献1、2)。
【0003】
特許文献1では、電動パワーステアリング装置用減速ギア用途が記載されており(段落番号0001)、実施例では、ガラス長繊維、炭素長繊維とナイロン6、ナイロン66を組み合わせている。
【0004】
特許文献2では、アイドラプーリ等として使用できる合成樹脂製プーリの発明が開示されており(段落番号0001)、実施例では、ガラス長繊維、炭素長繊維とPA66、PPSを組み合わせた例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−176227号公報
【特許文献2】特開2006−316973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、耐摩耗性が優れており、高速回転する回転機構を備えた回転工具のギア用として好適な、耐摩耗性成形体用の樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、課題の解決手段として、
繊維状充填材を長さ方向に揃えた状態で束ね、前記繊維状充填材の束にポリアミドを溶融させた状態で含浸させ一体化した後に、5〜15mmの長さに切断した樹脂含浸繊維束を含む樹脂組成物であり、
前記ポリアミドが、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジアミン又は脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジアミンから得られる芳香族ポリアミドであり、
前記繊維状充填材が、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、玄武岩繊維から選ばれるものであり、
前記樹脂組成物を用いた下記摩耗性試験において、目視により表皮がめくれないと確認できるものである、耐摩耗性成形体用の樹脂組成物。
<摩耗性試験>
ISO178に準拠して上記樹脂組成物から作製した試験片を用いて、往復動摩擦摩耗試験機(AFT−15MS;株式会社オリエンテック製)により下記の条件で摩耗性を評価する。
鋼球:直径10mm(2−プロパノールで脱脂したものを使用する)
荷重:500g
移動速度:50mm/sec
移動距離:10mmm
回数:1000回
【発明の効果】
【0008】
本発明の樹脂組成物から得られた成形体は、耐摩耗性、耐水性、機械的強度が優れている。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の樹脂組成物は、樹脂含浸繊維束を含むものである。樹脂含浸繊維束は、繊維状充填材を長さ方向に揃えた状態で束ね、前記繊維状充填材の束にポリアミドを溶融させた状態で含浸させ一体化した後に、5〜15mm、好ましくは6〜12mmの長さに切断したものである。
【0010】
本発明で用いるポリアミドは、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジアミンから得られるポリアミド又は脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジアミンから得られる芳香族ポリアミドであり、脂肪族ポリアミドは含まれない。
【0011】
芳香族ポリアミドとしては、ヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸の重合体(ポリアミド6T)、ヘキサメチレンジアミンとイソフタル酸の重合体(ポリアミド6I)、ヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸及びイソフタル酸の重合体(ポリアミド6T/6I)、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸及びテレフタル酸の重合体、ヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸及びε−カプロラクタムの重合体、メタキシリレンジアミンとアジピン酸の重合体(ポリアミドMXD-6)、トリメチルヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸の重合体(ポリアミドTMD-6)、トリメチルヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸とε−カプロラクタムの重合体、トリメチルヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸とイソフタル酸の重合体、テレフタル酸及びイソフタル酸とヘキサメチレンジアミン及びε−カプロラクタム重合体、メタキシリレンジアミンとテレフタル酸及びイソフタル酸とε−カプロラクタムの共重合体、ノナンジアミンとテレフタル酸の共重合体(ポリアミド9T)、メチルペンタジアミンとテレフタル酸の共重合体(ナイロンM5T)、デカメチレンジアミンとテレフタル酸の共重合体(ポリアミド10T)等を挙げることができる。これらの中でもポリアミド9T、ポリアミドMXD-6が耐水性を高める観点から好ましい。
【0012】
本発明で用いる繊維状充填材は、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、玄武岩繊維から選ばれるものであり、炭素繊維が好ましい。
【0013】
樹脂含浸繊維束に含まれる繊維状充填材の長さは、樹脂含浸繊維束の長さと同一である。
樹脂含浸繊維束に含まれる繊維状充填材の本数は100〜30000本、好ましくは500〜20000本、さらに好ましくは1000〜10000本程度である。
【0014】
樹脂含浸繊維束は、ダイスを用いた周知の製造方法により製造することができ、例えば、特開平6−313050号公報の段落番号7、特開2007−176227号公報の段落番号23のほか、特公平6−2344号公報(樹脂被覆長繊維束の製造方法並びに成形方法)、特開平6−114832号公報(繊維強化熱可塑性樹脂構造体及びその製造法)、特開平6−293023号公報(長繊維強化熱可塑性樹脂組成物の製造方法)、特開平7−205317号公報(繊維束の取り出し方法及び長繊維強化樹脂構造物の製造方法)、特開平7−216104号公報(長繊維強化樹脂構造物の製造方法)、特開平7−251437号公報(長繊維強化熱可塑性複合材料の製造方法及び製造装置)、特開平8−118490号公報(クロスヘッドダイ及び長繊維強化樹脂構造物の製造方法)等に記載の製造方法を適用することができる。
また市販品、例えば商品名プラストロン(ダイセルポリマー(株)製)を用いることもできる。
【0015】
本発明の樹脂組成物は、樹脂含浸繊維束自体を樹脂組成物とすることができるが、樹脂含浸繊維束とは別に配合した芳香族ポリアミドを含有することもできる。
【0016】
本発明の樹脂含浸繊維束中の長繊維の含有割合は10〜70質量%、好ましくは20〜60質量%であり、ポリアミドは合計で100質量%となる残部割合である。樹脂含浸繊維束とは別に配合した芳香族ポリアミドを含有する場合も、前記割合になるように調整する。
【0017】
本発明の樹脂組成物は、本発明の課題を解決できる範囲にて、公知の各種樹脂添加剤を含有することができる。
公知の添加剤としては、滑剤、離型剤、帯電防止剤、難燃剤、着色剤、可塑剤、軟化剤、分散剤、安定化剤(ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤などの酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定化剤など)、アンチブロッキング剤、結晶核成長剤、充填剤(シリカやタルクなどの粒状充填剤など)などを含んでいてもよい。
【0018】
本発明の樹脂組成物は、下記摩耗性試験において、目視により表皮がめくれないと確認できるものである。
<摩耗性試験>
ISO178に準拠して上記樹脂組成物から作製した試験片を用いて、往復動摩擦摩耗試験機(AFT−15MS;株式会社オリエンテック製)により下記の条件で摩耗性を評価する。
鋼球:直径10mm(2−プロパノールで脱脂したものを使用する)
荷重:500g
移動距離:10mm
速度:50mm/sec
回数:1000回
【0019】
本発明の樹脂組成物から耐摩耗性成形体を製造するときは、公知の射出成形法を適用して製造することができる。
本発明の樹脂組成物から製造された耐摩耗性成形体は、前記成形体に含有されている繊維状充填材の重量平均繊維長が0.5〜1.5mmの範囲になるようにすることが好ましく、より好ましくは0.5〜1.0mmの範囲になるようにする。
樹脂組成物が含有する樹脂含浸繊維束の長さ(即ち、繊維状充填材の長さ)は5〜15mmであり、好ましくは6〜12mmであるが、射出成形する過程において、繊維状充填材が折れて小さくなる。このときの射出成形条件を調整することで、前記の重量平均繊維長の範囲にすることができる。
この場合、長さ5〜15mmの樹脂含浸繊維束を用い、成形条件を変えたときの成形体中の重量平均繊維長のデータを取ることにより、容易に成形体中の重量平均繊維長を所定範囲内に調整することができる。
【0020】
本発明の樹脂組成物は、回転機構を有する回転工具であって、前記回転機構を構成するためのギア用として適している。
本発明の樹脂組成物は、特に100r/min以上、好ましくは500r/min以上の回転機構を有する電動工具であって、トルクが170N・m以下である前記回転機構を構成するためのギア用として適している。
本発明の樹脂組成物は、軽量化、強度及び耐摩耗性を付与できることから、回転機構を構成するギア用として適している。
【実施例】
【0021】
製造例1(樹脂含浸炭素繊維束の製造)
連続繊維の通路を波状に加工したクロスヘッドを通して、炭素繊維ロービングを引きながら、表1に示す熱可塑性樹脂をクロスヘッドに接続された押出機から溶融状態で供給して、炭素繊維に含浸させた。
押出機で表1に示す熱可塑性樹脂を溶融させる温度は、PA9Tが360℃、MXD6が300℃、PA6が300℃であった。
その後、賦形ダイを通してストランドとして引取り、冷却後、裁断し、表1に示す炭素繊維含有量で、長さ9mmのペレット(樹脂含浸炭素繊維束)を得た。
【0022】
製造例2(樹脂含浸ガラス繊維束の製造)
炭素繊維に代えてガラス繊維を使用したほかは製造例1と同様にして、表1に示すガラス繊維含有量で、長さ9mmのペレット(樹脂含浸ガラス繊維束)を得た。
【0023】
製造例3(ブレンド用ペレットの製造)
二軸押出機TEXα30(株式会社日本製鋼所製)を使用し、シリンダー温度270℃、スクリュー回転数250r/minの条件に設定して、MXD6に対してPTFE、PE−WAXをそれぞれ10質量%配合したブレンド用ペレットを製造した。
【0024】
製造例4(比較例用ペレットの製造)
二軸押出機TEXα30(株式会社日本製鋼所製)を使用し、シリンダー温度300℃、スクリュー回転数250r/minの条件に設定して、GFチョップドストランドをサイドフィードして、比較例用ペレットを製造した。
【0025】
実施例及び比較例
表1に示す各樹脂組成物を用いて、下記条件にて射出成形して成形品を得た。(射出成形条件)
射出成形機:J150E−II(株式会社日本製鋼所製)
シリンダー温度:PA9T(330℃)、MXD6(280℃)、PA6(280℃)
金型温度:PA9T(150℃)、MXD6(130℃)、PA6(100℃)
【0026】
<樹脂組成物の成分>
PA9T:Genestar N1000A (L41)((株)クラレ製)
MXD6:レニー6002(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製)
PA6:UBEナイロン 1013B(宇部興産(株)製)
CF:炭素繊維ロービング,トレカT700GC−12000(東レ株式会社)
GF:ガラス繊維ロービング,RS240QR−483(日東紡績株式会社製)
短繊維GF:CSX−3J−451S(日東紡績(株)製)[ガラス繊維チョップドストランド]
PTFE(内部滑剤):FLUON PTFE L169E(旭硝子(株)製)
PE−WAX(内部滑剤):A−Cポリエチレン715(HONEYWELL INTERNATIONAL INC.製)
ステアリン酸カルシウム(外部滑剤)SC−100(堺化学工業(株)製)
【0027】
(1)重量平均繊維長
成形品から約3gの試料を切出し、下記の方法で繊維を取り出した。取り出した繊維の一部(500本)から重量平均繊維長を求めた。計算式は、特開2006−274061号公報の〔0044〕、〔0045〕を使用した。
炭素繊維:硫酸により樹脂を溶解除去して繊維を取り出した。
ガラス繊維:650℃で加熱・灰化させて繊維を取り出した。
(2)引張強さ(MPa):ISO 527−1に準拠して測定した。
(2)曲げ強さ(MPa):ISO 178に準拠して測定した。
(3)曲げ弾性率(MPa):ISO 178に準拠して測定した。
(4)シャルピー衝撃試験
ISO179/1eA(エッジワイズ)に準拠した。試験片は絶乾燥状態のものを使用した。
(5)飽和吸水率
20℃の水中に試験片(長さ125mm×幅12.5mm×厚み1.5mm)を浸漬し、浸漬前後の質量変化から飽和吸水率を求めた。
(6)耐摩耗性試験
目視による確認により、表皮がめくれていなかったものを○とし、一部の表皮がめくれていたものを△、表皮がめくれて溝が発生していたものを×とした。
【0028】
【表1】

【0029】
本発明の樹脂組成物から得られた成形体は、機械的強度が高く、耐水性もよく(飽和吸水量が小さい)、耐摩耗性も優れている。
このため、高湿度雰囲気でも使用可能な、高速回転機構を有する回転工具の回転機構を構成するギア用として適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維状充填材を長さ方向に揃えた状態で束ね、前記繊維状充填材の束にポリアミドを溶融させた状態で含浸させ一体化した後に、5〜15mmの長さに切断した樹脂含浸繊維束を含む樹脂組成物であり、
前記ポリアミドが、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジアミン又は脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジアミンから得られる芳香族ポリアミドであり、
前記繊維状充填材が、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、玄武岩繊維から選ばれるものであり、
前記樹脂組成物を用いた下記摩耗性試験において、目視により表皮がめくれないと確認できるものである、耐摩耗性成形体用の樹脂組成物。
<摩耗性試験>
ISO178に準拠して上記樹脂組成物から作製した試験片を用いて、往復動摩擦摩耗試験機(AFT−15MS;株式会社オリエンテック製)により下記の条件で摩耗性を評価する。
鋼球:直径10mm(2−プロパノールで脱脂したものを使用する)
荷重:500g
移動速度:50mm/sec
移動距離:10mmm
回数:1000回
【請求項2】
回転機構を有する電動工具であって、前記回転機構を構成するためのギア用である請求項1記載の耐摩耗性成形体用の樹脂組成物。
【請求項3】
100r/min以上の回転機構を有する、トルクが170N・m以下の回転工具であって、前記回転機構を構成するためのギア用である請求項1記載の耐摩耗性成形体用の樹脂組成物。
【請求項4】
回転工具が電動工具であり、その回転機構を構成するギア用である請求項1〜3のいずれか1項記載の耐摩耗性成形体用の樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリアミドがポリアミド9T、ポリアミドMXD-6から選ばれるものであり、前記繊維状充填材が炭素繊維である請求項1〜4のいずれか1項記載の耐摩耗性成形体用の樹脂組成物。
【請求項6】
前記樹脂組成物中の繊維状充填材の含有量が10〜70質量%である請求項1〜5のいずれか1項記載の耐摩耗性成形体用の樹脂組成物。

【公開番号】特開2012−131918(P2012−131918A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−285728(P2010−285728)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(501041528)ダイセルポリマー株式会社 (144)
【Fターム(参考)】