説明

耐放射線性組成物及び電線・ケーブル

【課題】発癌性が低く、物理特性、電気特性、経済性、取扱い性に優れ、かつ耐熱性、耐放射線性に優れた耐放射線性組成物を提供する。
【解決手段】ポリマ100重量部に対し、IP346法(DMSO抽出)による多環芳香族(PCA)抽出量が3%以下、かつクルツ分析による芳香族化合物含有量が20%以上である芳香族系プロセス油5〜80重量部と、耐放射線性付与剤とが配合され、架橋または加硫されてなるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電所用の耐放射線性組成物、特に、芳香族系油をプロセス油及び/又は耐放射線性付与剤(アンチラッド剤)として添加すると共に、老化防止剤を添加し、さらにポリマブレンドにより耐放射線性を付与したケーブル絶縁体及び/又はシース材料に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、原子力発電所など原子力関係設備に使用されているケーブル絶縁体及び/又はシース材料には、エチレンプロピレンゴム、ポリクロロプレンゴム、クロロスルフォン化ポリエチレンが使用され、耐放射線性(アンチラッド)を付与するため、一般的には放射線防御作用を有する芳香族系などのプロセス油や老化防止剤などを添加する手法がとられている。
【0003】
芳香族系油は、放射線のエネルギーを吸収するエネルギートランスファ型のアンチラッド剤として使用され、ブリードが発生せず大量添加が可能である。老化防止剤は、ポリマに発生したラジカルを捕捉・安定化する1次老化防止剤と、過酸化物をアルコールに分解する過酸化物分解型の2次老化防止剤との組み合わせで使用されている。これらを添加することで放射線劣化による引張特性、電気特性などの低下を抑えることができる(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0004】
さらに、放射線崩壊型ポリマを添加し、放射線暴露後も適度な物理的特性残存性を示す耐放射線性高分子組成物も提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0005】
原子力発電所では、LOCA(冷却水喪失事故)時も考慮に入れ、沸騰水型原子力発電所(BWR)は約760kGy、加圧水型原子力発電所(PWR)では約2MGyの放射線量に耐える組成物が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−268350号公報
【特許文献2】特開平2−227914号公報
【特許文献3】特開平8−96629号公報
【特許文献4】特開2005−48129号公報
【特許文献5】特開2005−23296号公報
【特許文献6】特開2000−80208号公報
【特許文献7】特開2004−217804号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
エネルギートランスファ型のアンチラッド剤として添加されている芳香族系油は、EU指令(Commission Directive 97/69/EEC)によれば、IP(英国石油協会)346法に基づいてDMSO(ジメチルスルホキシド)で抽出される3〜7環のPCA量を3%以上含有し、人体に対し発癌性があるとされる。したがって、このような物質を使用することは環境面、安全面から好ましくない。
【0008】
一方、PCA量が3%以下のパラフィン系油およびナフテン系油は、前記ゴム、特に極性を有する塩素系ゴムとの相溶性が悪く、ブリードアウトする可能性がある。さらに放射線に対し、エネルギートランスファ効果を有する芳香族化合物の含有量が少ないため、アンチラッド剤としての効果がなく、放射線劣化により、ゴム材料の物理特性、電気特性を大きく低下させてしまうという問題がある。
【0009】
また、放射線崩壊型のポリマの添加は、放射線暴露後も適度な物理特性を示すものの、長期安全性を考慮した場合、大量添加は好ましくない。
【0010】
そこで、本発明の目的は、発癌性が低く、物理特性、電気特性、経済性、取扱い性に優れ、かつ耐熱性、耐放射線性に優れた耐放射線性組成物及び電線・ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために創案された本発明は、ポリマ100重量部に対し、IP346法(DMSO抽出)による多環芳香族(PCA)抽出量が3%以下、かつクルツ分析による芳香族化合物含有量が20%以上である芳香族系プロセス油5〜80重量部と、耐放射線性付与剤とが配合され、架橋または加硫されてなる耐放射線性組成物である。
【0012】
前記芳香族プロセス油はアニリン点が90℃以下のTDAEであるとよい。
【0013】
前記ポリマが、架橋されてなる第1成分ポリマ50〜100重量部と、非架橋の第2成分ポリマ50〜0重量部とからなるとよい。
【0014】
前記耐放射線性付与剤が老化防止剤であり、該老化防止剤が2〜30重量部配合されるとよい。
【0015】
前記第1成分ポリマがエチレンプロピレンゴム、ポリクロロプレンゴム、クロロスルフォン化ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、ニトリルゴムのうち少なくとも1種であり、前記第2成分ポリマがエチレンプロピレンゴム、クロロスルフォン化ポリエチレン、塩素化ポリエチレンのうち少なくとも1種であるとよい。
【0016】
また本発明は、前記の耐放射線性組成物を絶縁体及び/又はシース材料に用いた電線・ケーブルである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、大量の放射線暴露後も組成物の劣化を抑制できる耐放射線性組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の好適実施の形態を示す電線の横断面図である。
【図2】本発明の他の実施の形態を示す電線の横断面図である。
【図3】本発明の好適実施の形態を示すケーブルの横断面図である。
【図4】本発明の他の実施の形態を示すケーブルの横断面図である。
【図5】クルツ分析による芳香族化合物含有量を求める際に用いる三角グラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。
【0020】
本実施形態に係る耐放射線性組成物は、ポリマ100重量部に対し、IP346法(DMSO抽出)によるPCA抽出量が3%以下、かつクルツ分析による芳香族化合物含有量が20%以上である芳香族系プロセス油5〜80重量部と、老化防止剤とが配合され、架橋または加硫されてなる。
【0021】
ポリマ、特にゴムに添加する芳香族系プロセス油は一般に、原油を常圧もしくは減圧蒸留した残留油を脱瀝し、溶剤抽出により各構成成分を分離、芳香族化合物を多く含んだものである。しかし、前述のような芳香族系油は多くのPCAを含有し、発癌性が高い。パラフィン系およびナフテン系プロセス油を添加することも考えられるが、ゴムとの相溶性を考えた場合、特に極性を持った塩素系ゴムとの相溶性が悪く、ブリードが発生してしまう。また、パラフィン系およびナフテン系油は放射線に対しエネルギートランスファ効果を持つ芳香族化合物の含有量が低く、アンチラッド効果を得ることができない。
【0022】
プロセス油は、原油を常圧もしくは減圧蒸留した残留油を脱瀝、溶剤抽出、脱蝋、水素添加処理を1種もしくは2種以上組み合わせて処理を行い精製する。
【0023】
本実施形態ではこのようなプロセス油のうち、IP346法DMSO抽出によるPCA抽出量が3%以下であり、EU指令(76/769/EEC)「有害物質の販売と使用の制限」で規制される表1に示した多環芳香族炭化水素(以下、PAH:Polycyclic Aromatics Hydrocarbon)が規制値以下、芳香族化合物含有量(CA:クルツ分析による環分析の値で、芳香環を構成する炭素の全炭素量に対する割合の指標)が20%以上、アニリン点が90℃以下になるように処理された芳香族系プロセス油を使用する。また、芳香族系プロセス油の芳香族化合物含有量の上限値は50%であり、アニリン点の下限値は4℃である。
【0024】
【表1】

【0025】
芳香族化合物含有量が20%未満では、放射線に対しエネルギートランスファ効果を持つ芳香族化合物の含有量が低く、アンチラッド効果を得ることができない。また、ゴム用の芳香族系油として販売されているもののほとんどは芳香族化合物含有量が50%以下である。
【0026】
また、クルツ分析による芳香族化合物含有量は、以下の方法により求めることができる。
(i)芳香族系プロセス油の動粘度と密度から、式(1)を用いて粘度比重恒数(Viscosity Gravity Constant=VGC)を算出する。(ii)芳香族系プロセス油の密度と屈折率から、式(2)を用いて屈折度切片(Refractivity Intercept=RI)を算出する。(iii)算出した上記VGCとRIを図5に記載の三角グラフにあてはめ、芳香族化合物含有量(% Aromatic Carbons)を求める。
【数1】

【数2】

【0027】
アニリン点はゴムと油の相溶性を示す1つのパラメータである。芳香族化合物含有量が高ければアニリン点も低い。アニリン点が90℃を超えると、ポリマ、特にゴムとの相溶性が悪くなる。また、芳香族系油として販売されているもののほとんどはアニリン点が4℃以上である。
【0028】
本実施形態で用いる芳香族系プロセス油は、アニリン点が90℃以下と低いため、ポリマ、特にゴムとの相溶性がよく、大量に添加してもブリードが発生せず、さらに芳香族化合物を多く含有するためにアンチラッドの効果を有している。このようなプロセス油には、例えばMES(軽度抽出溶媒和物:Mild Extract Solvate)やさらに水素添加処理を行ったHydro treated MES、TDAE(処理留出物芳香族系抽出物:Treated Distillate Aromatics Extracts)などがある。MESよりもTDAEの方が一般的にアロマ含有量は多く、パラフィン含有量は少ない。このため、TDAEの方が耐放射線性に優れている。さらに、油の基本的性質に密接な関係を持つ粘度比重恒数(VGC)値もTDAEの方が高く、相溶性に優れているため、特にTDAEを添加することが好ましい。
【0029】
芳香族系プロセス油は、ポリマ100重量部に対し5重量部未満では、配合量が少なすぎ、放射線暴露後、材料が脆化し、80重量部を超えると、配合量が多すぎてブリードアウトの発生が激しくなる。好ましくは、5〜50重量部である。
【0030】
組成物にさらなる耐放射線性を付与するために、耐放射線性付与剤として老化防止剤を添加する。ポリマに発生したラジカルを捕捉・安定化させる目的でフェノール系老化防止剤及び/又はアミン系老化防止剤を1種もしくは2種以上組み合わせて添加する。
【0031】
老化防止剤は、ポリマ100重量部に対し、2〜30重量部配合されるとよい。老化防止剤は、ポリマ100重量部に対し2重量部未満では、老化防止剤によって耐放射線性をさらに向上させる明確な効果が得られず、30重量部を超えるとブルームの発生、経済面から適当ではない。特にアミン系老化防止剤とイオウ系老化防止剤の組み合わせが好ましい。
【0032】
フェノール系老化防止剤には、モノフェノール系、ビスフェノール系、およびポリフェノール系のそれぞれに分類される1次老化防止剤が存在する。モノフェノール系の老化防止剤は、例えば、2,2'−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、またはモノ(α−メチルベンジル)などを用いることができる。また、ビスフェノール系の老化防止剤は、例えば、2,2'−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2'−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4'−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4'−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、p−クレゾールとジシクロペンタジエンとのブチル化反応生成物、またはジ(α−メチルベンジル)などを用いることができる。さらにポリフェノール系の老化防止剤は、例えば、2,5'−ジ−t−ブチルハイドロキノン、2,5'−ジ−t−アミルハイドロキノン、トリ(α−メチルベンジル)などを用いることができる。
【0033】
アミン系の老化防止剤としては、キノリン系の老化防止剤と、芳香族第二級アミン系の老化防止剤とを用いることができる。キノリン系の老化防止剤は、例えば、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン、または6−エトキシ−1,2−ジヒドロ−2,2,4−トリメチルキノリンなどを用いることができる。芳香族第二級アミン系の老化防止剤は、例えば、フェニル−1−ナフチルアミン、アルキル化ジフェニルアミン、オクチル化ジフェニルアミン、4,4'−ビス(α、α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、p−(p−トルエンスルホニルアミド)ジフェニルアミン、N,N'−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン、N,N'−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N'−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N'−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン、またはN−フェニル−N'−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−p−フェニレンジアミンなどを用いることができる。
【0034】
イオウ系の老化防止剤には、ベンゾイミダゾール系、ジチオカルバミン酸塩系、チオウレア系、および有機チオ酸系のそれぞれに分類される老化防止剤が存在する。ベンゾイミダゾール系の2次老化防止剤は、例えば、2−メルカプトベンゾイミダゾール、2−メルカプトメチルベンゾイミダゾール、または2−メルカプトベンゾイミダゾールの亜鉛塩などを用いることができる。また、ジチオカルバミン酸塩系の老化防止剤は、例えば、ジエチルジチオカルバミン酸ニッケル、またはジブチルジチオカルバミン酸ニッケルなどを用いることができる。さらに、有機チオ酸系の2次老化防止剤は、チオジプロピオン酸ジラウリルなどを用いることができる。
【0035】
リン系の老化防止剤は、亜リン酸系として、例えば、トリス(ノニルフェニル)ホスファイトなどを用いることができる。
【0036】
本発明者らは、さらに組成物に耐放射線性・耐熱性を付与するために、架橋されてなるポリマと非架橋のポリマとのポリマブレンドに効果があることを見出した。特に架橋されてなる放射線架橋型ポリマの架橋ポリマに、非架橋の放射線架橋型ポリマの非架橋ポリマを添加することで、放射線暴露後も適度な物理特性を付与することに成功した。なお、上記放射線架橋型ポリマとは、原子力発電所内で使用される際の放射線により架橋が進行するポリマのことを指す。
【0037】
ポリマ組成は、第1成分ポリマとしての架橋ポリマが100〜50重量部と、第2成分ポリマとしての非架橋ポリマが0〜50重量部とからなる。第1成分ポリマの例としては、エチレンプロピレンゴム、ポリクロロプレンゴム、クロロスルフォン化ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、ニトリルゴムなどの架橋ゴムのうち、少なくとも1種であり、第2成分ポリマの例としては、エチレンプロピレンゴム、塩素化ポリエチレン、クロロスルフォン化ポリエチレンなどの非架橋ゴムのうち、少なくとも1種である。ポリマ組成は、第1成分ポリマと第2成分ポリマをあわせて100重量部とすることを特徴とする。
【0038】
ここで、架橋ポリマは、架橋処理時に、電離性放射線を照射線量1kGy〜2MGyで照射したり、140〜200℃の熱処理を行ったりすると、配合された架橋剤によって架橋される架橋剤が効きやすいポリマであり、非架橋ポリマは、架橋処理時に、電離性放射線を照射線量1kGy〜2MGyで照射したり、140〜200℃の熱処理を行ったりしても、配合された架橋剤によって架橋されにくく、架橋剤が効きにくいポリマである。両者をブレンドして架橋したとしても、架橋部分と非架橋部分が存在する。
【0039】
両者をブレンドした場合、架橋処理すると第1成分ポリマは架橋されるが、第2成分ポリマは架橋処理したとしても架橋されにくいため、架橋成分と非架橋成分とからなるポリマを生成することができる。
【0040】
放射線劣化により、著しく低下する物理的特性は破断伸びであり、第2成分ポリマである非架橋の放射線架橋型ポリマを添加することで、放射線暴露後も適度な破断伸びを得ることができる。特に第2成分ポリマのエチレンプロピレンゴムはプロピレン量が50%以上であることが好ましい。プロピレン含有量が多い場合、放射線による架橋が進まず、放射線暴露後も適度な物理特性を得ることができる。本実施形態に係る耐放射線性組成物では、放射線崩壊型ポリマを添加するのではなく、非架橋放射線架橋型ポリマを添加するため、ポリマ自体の崩壊の可能性は低く、安全性に優れている。
【0041】
第2成分ポリマが50重量部を超えると、50重量部以下と比較し、物理特性が著しく低下してしまう。
【0042】
第1成分ポリマと第2成分ポリマの組み合わせは限定しないが、相溶性や特性を考慮し、第1成分ポリマ/第2成分ポリマとして、エチレンプロピレンゴム/エチレンプロピレンゴム、ポリクロロプレンゴム/塩素化ポリエチレン、ポリクロロプレンゴム/クロロスルフォン化ポリエチレン、クロロスルフォン化ポリエチレン/エチレンプロピレンゴム、クロロスルフォン化ポリエチレン/塩素化ポリエチレンが特に好ましい。ポリクロロプレンゴム/塩素化ポリエチレン、ポリクロロプレンゴム/クロロスルフォン化ポリエチレンの組み合わせは、ポリクロロプレンゴム単独と比較し、耐放射線性だけでなく、耐熱性も改善される。
【0043】
本実施形態に係る耐放射線性組成物には、その目的を阻害しない程度に、カーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム、クレー、焼成クレーなどの充填剤・補強剤、ステアリン酸、ワックスなどの滑剤、ハロゲン化合物、金属水酸化物、三酸化アンチモンなどの難燃剤、鉛化合物、ハイドロタルサイトなどのハロゲン安定剤、加硫促進剤などの添加剤を加えることが可能であり、必要に応じて他のプロセス油としてフタル酸系エステルやトリメリット酸系エステルなどを添加してもよい。
【0044】
本実施形態に係る耐放射線性組成物は、特に製造方法を限定せず、公知の混練方法、加硫・架橋方法で製造することができる。
【0045】
本実施形態に係る耐放射線性組成物では、ポリマ100重量部に対し、前述した芳香族系プロセス油を5〜80重量部配合することで、発癌性が低く、ポリマ、特にゴムとの相溶性がよく、しかも芳香族化合物含有量が20%以上と多いため、アンチラッド剤としての効果も十分である。
【0046】
さらに、老化防止剤を配合してさらなる耐放射線性が付与されているので、本実施形態に係る耐放射線性組成物によれば、大量の放射線暴露後も組成物の劣化を抑制できる。
【0047】
次に、本実施形態に係る電線・ケーブルの一例を説明する。
【0048】
図1に示す電線10は、導体11の外周に前述した耐放射線性組成物で絶縁体12を形成した1層電線である。絶縁体12は押出し被覆して形成される。
【0049】
図2に示す電線20は、導体11の外周に2層構造の絶縁体21を形成した2層電線である。絶縁体21は、内層絶縁体22と、前述した耐放射線性組成物で形成される外層絶縁体23とからなり、2層同時に押出し被覆して形成される。
【0050】
また、図3に示すケーブル30は、導体31の外周に絶縁体32を形成して絶縁線心33とし、その絶縁線心33を複数本(図3では3本)介在34と共に撚り合わせてコア35とし、そのコア35の外周に前述した耐放射線性組成物でシース36を形成した1層ケーブルである。
【0051】
図4に示すケーブル40は、図3のコア35の外周に2層構造のシース41を形成した2層ケーブルである。シース41は、内層シース42と、前述した耐放射線性組成物で形成される外層シース43とからなり、2層同時に押出し被覆して形成される。
【0052】
このように、電線10,20やケーブル30,40は、最外層の絶縁体12,外層絶縁体23や最外層のシース36,外層シース43が前述した耐放射線性組成物で形成されるので、発癌性が低く、物理特性、電気特性、経済性、取扱い性に優れ、かつ耐熱性、耐放射線性に優れる。
【0053】
したがって、電線10,20やケーブル30,40は、原子力発電所や原子力研究機関などの使用に適している。
【0054】
前記実施形態では、絶縁体またはシースが1層の例と2層の例で説明したが、絶縁体またはシースは少なくとも1層であればよく、その最外層の絶縁体及び/又はシースが前述した耐放射線性組成物で形成されていればよい。
【実施例】
【0055】
[混練]
表2に示す構成成分で実施例1〜10、比較例1〜7の各試料の混練を行った。表2の構成成分中の単位は、配合重量部(phr)である。混練はオープンロールを用いて行った。
【0056】
[架橋または加硫、シート形成]
架橋または加硫、シート形成はプレスにより行った。実施例1、2、比較例1、2の架橋条件は180℃、10分間、実施例3、4、比較例3は145℃、40分間、実施例5〜10、比較例4〜7の架橋条件は150℃、30分間とした。シート厚は1mmに成形した。
【0057】
[引張試験]
成形したシートを4号ダンベルで打ち抜き、500mm/minで引張試験機を用いて引張試験を行い、引張強さ、伸びを測定した。
【0058】
伸びの定義:
1.ダンベル状試験片の中央部(幅5mm、長さ20mm以上)に一定の長さの標線を付ける(標線間隔=L0)。
【0059】
2.これを引張試験機で引っ張り、破断時の標線間隔がL1とすると伸びE0は下式
0={(L1−L0)/L0}×100
となる。
【0060】
[ブリードの確認]
ブリード発生の確認は目視にて実施した。
【0061】
[発癌性]
IP346法、DMSO抽出により抽出されるPCA量が3%以下のプロセス油を使用した組成物には、発癌性がないものとした。
【0062】
[放射線照射]
放射線の照射は日本原子力研究開発機構の高崎研究所にある60Coを利用しγ線の照射を行った。線量率は約4kGy/hで実施した。実施例5、6と比較例3はポリクロロプレンゴムが放射線に弱いポリマのため、線量は760kGy、それ以外はすべて2MGy照射している。
【0063】
[合否判定]
放射線照射後の伸びが100%以上、かつブリードが発生しておらず、発癌性のないものを合格とした。
【0064】
【表2】

【0065】
実施例1はEPDM(エチレンプロピレンジエン共重合体)100重量部に対し、TDAE10重量部、老化防止剤を8重量部添加することで、放射線暴露後も満足な物理特性を得ることができる。
【0066】
架橋されたEPDMと非架橋のEPM(エチレン−プロピレン共重合体)をブレンドした実施例2は、放射線暴露後、実施例1よりもさらに良好な物理特性を得ることができた。実施例2では非架橋のポリマのブレンドによる初期引張強度の低下を防ぐため、シリカを5重量部添加している。
【0067】
実施例3および実施例4は、老化防止剤の添加量を実施例1とは変えている。老化防止剤の配合量はいずれも前述した範囲内であり、初期物性、耐放射線性を満足している。
【0068】
実施例5は架橋されたポリクロロプレンゴムと架橋されたクロロスルフォン化ポリエチレンのブレンドポリマ100重量部に対し、TDAE10重量部、老化防止剤を4重量部添加している。非架橋ポリマをブレンドしたわけではないが、比較的、耐放射線性のあるクロロスルフォン化ポリエチレンをブレンドすることで放射線暴露後も満足な物理特性を得ることができた。
【0069】
架橋されたポリクロロプレンゴムと非架橋の塩素化ポリエチレンをブレンドした実施例6は、放射線暴露後、実施例5よりもさらに良好な物理特性を得ることができた。シリカを添加しているのは実施例2と同様の理由からである。
【0070】
実施例7および実施例8は、TDAEの添加量を変えている。TDAEの配合量はいずれも前述した範囲内であり、初期物性、耐放射線性を満足している。
【0071】
実施例9および実施例10は架橋されたクロロスルフォン化ポリエチレンと非架橋塩素化ポリエチレン、非架橋エチレンプロピレンゴムのブレンドポリマ100重量部に対し、TDAE10重量部、老化防止剤を4重量部添加することで、高線量の放射線暴露後も満足な物理特性を得ることができた。
【0072】
これに対し、比較例1は放射線暴露後も実施例1と同等の物理特性を得ることができるが、発癌性の高い多環芳香族を多く含有した芳香族系油を使用しているため不合格とした。
【0073】
比較例2は老化防止剤の添加量が30重量部より多いため、架橋ができず、さらに老化防止剤が表面に析出してしまい材料として適切ではない。比較例3は、老化防止剤の添加量が2重量部未満であるため放射線照射後、劣化が著しく、満足な物理特性を得ることはできなかった。
【0074】
比較例4はTDAEの添加量が3重量部と少なく、放射線暴露後、材料が脆化し満足な物理特性を得ることができなかった。逆に比較例5は、TDAEを90重量部添加している。シート成形の時点でブリードアウトの発生が激しく、材料として適切ではない。
【0075】
比較例6はアニリン点の高いパラフィン油を添加しているため、クロロスルフォン化ポリエチレンとの相溶性が悪くブリードアウトが発生し、さらに、芳香環の含有量が少ないため放射線暴露後、満足な物理特性を得ることができなかった。
【0076】
比較例7は、非架橋ポリマのみの例である。非架橋のため、1000%以上伸び、さらに強度も弱いため、材料として適切ではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマ100重量部に対し、IP346法(DMSO抽出)による多環芳香族(PCA)抽出量が3%以下、かつクルツ分析による芳香族化合物含有量が20%以上である芳香族系プロセス油5〜80重量部と、耐放射線性付与剤とが配合され、架橋または加硫されてなることを特徴とする耐放射線性組成物。
【請求項2】
前記芳香族プロセス油はアニリン点が90℃以下のTDAEである請求項1記載の耐放射線性組成物。
【請求項3】
前記ポリマが、架橋されてなる第1成分ポリマ50〜100重量部と、非架橋の第2成分ポリマ50〜0重量部とからなる請求項1または2記載の耐放射線性組成物。
【請求項4】
前記耐放射線性付与剤が老化防止剤であり、該老化防止剤が2〜30重量部配合される請求項1〜3いずれかに記載の耐放射線性組成物。
【請求項5】
前記第1成分ポリマがエチレンプロピレンゴム、ポリクロロプレンゴム、クロロスルフォン化ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、ニトリルゴムのうち少なくとも1種であり、前記第2成分ポリマがエチレンプロピレンゴム、クロロスルフォン化ポリエチレン、塩素化ポリエチレンのうち少なくとも1種である請求項3または4記載の耐放射線性組成物。
【請求項6】
請求項1〜5いずれかに記載の耐放射線性組成物を絶縁体及び/又はシース材料に用いたことを特徴とする電線・ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−168556(P2010−168556A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−287013(P2009−287013)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】