説明

耐放射線性絶縁電線

【課題】原子力発電所、特にBWRの格納容器内に適用でき、耐熱性、耐放射線性及び電気特性に優れた組成物からなる絶縁体を備えた耐放射線性絶縁電線を提供する。
【解決手段】導体と、前記導体の周囲を被覆する絶縁層を備えた絶縁電線であって、前記絶縁層は、オレフィン系ポリマ100質量部に対し、老化防止剤を10〜15質量部、芳香族系プロセスオイルを5〜40質量部含有し、更に焼成クレーを5〜40質量部含有する耐放射線性絶縁電線である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は難燃性組成物、特に耐放射線性、電気特性に優れた組成物からなる絶縁体を備えた耐放射線性絶縁電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所で使用されている電線・ケーブル類は、定常運転時には熱、放射線に、また想定される冷却材喪失事故(LOCA;Loss Of Coolant Accident)時には熱、放射線及び熱水に同時に曝される。さらに、垂直トレイに布設されたケーブルの火災を模擬した高度な難燃性が要求されている。
【0003】
このような組成物やそれを用いた電線、ケーブルとして本件出願人において既に以下のような発明が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
すなわち、塩素を含むポリマと、耐放射線性をポリマに付与する耐放射線性付与材と、放射線の照射によりポリマ中に発生するイオン性成分を捕捉する非晶質無機材と、ポリマの機械的強度を補強し、非晶質無機材の量以下の量の補強材とを備える耐放射線性シース材料の開発を進めており、これにより、BWR(沸騰水型原子炉;Boiling-Water Reactor)用のシース材料、及びPWR(加圧水型原子炉;Pressurized-Water Reactor)用のシース材料として用いることができるとともに、難燃性、耐熱性、耐放射線性、及びシースの割れによる耐浸水性に優れ、逆逐次法による試験に対応することができており、耐放射線性ケーブルに使用するシース材料として一応の解決を見るに至っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−53246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、導体の上に位置する絶縁体、いわゆる内部絶縁体あるいは、絶縁電線における絶縁層に、難燃性、耐熱性、耐放射線性を付与する開発を進める中で、既提案の上記シース材料の耐放射線性は、シース材料として使用される場合には顕著であるが、これを導体と直接接触する内部絶縁体として使用する場合には、必ずしも期待するような効果が得られず、別な問題点が潜んでいることがその後次第に明らかになってきた。
【0007】
それは、この内部絶縁体あるいは絶縁電線における絶縁層には、前記特性以外に、原子力発電所格納容器内で想定される通常運転時及びLOCA時を模擬した、熱劣化、γ線照射後、熱水に暴露する試験に耐える必要があり、熱水に暴露されている間も電気的絶縁性を保持する必要があるということである。
【0008】
熱及び放射線に曝された難燃性絶縁材料は、含有するハロゲン系難燃剤又は老化防止剤からハロゲンの脱離反応(塩化水素や臭水素)や、老化防止剤の変質によりイオン性成分が多く含まれ、この状態で熱水に曝されると容易に吸水する現象が見られ、イオン性成分は水の存在により絶縁体材料内において動きやすくなるため(イオン伝導性)、絶縁体の電気絶縁性が大幅に低下し、定められた耐圧試験を満足できずLOCA時に要求されるケーブルとしての機能を果たせないことが本発明者らの検討により最近判明した。
【0009】
そこで、従来技術においては高い耐熱性、耐放射線性と、電気特性(電気絶縁性)とを兼ね備えた内部絶縁体として使用可能な材料及び技術がこれまでになく、高い耐熱性、耐放射線性とを備えつつ、かつ、電気特性(電気絶縁性)を併せ持つ、いわゆる内部絶縁体として使用できる樹脂組成物が強く望まれている状況にあった。
【0010】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、原子力発電所、特にBWRの格納容器内に適用でき、耐熱性、耐放射線性及び電気特性に優れた組成物からなる絶縁体を備えた耐放射線性絶縁電線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために創案された本発明は、導体と、前記導体の周囲を被覆する絶縁層を備えた絶縁電線であって、前記絶縁層は、オレフィン系ポリマ100質量部に対し、老化防止剤を10〜15質量部、芳香族系プロセスオイルを5〜40質量部含有し、更に焼成クレーを5〜40質量部含有する耐放射線性絶縁電線である。
【0012】
前記老化防止剤は、アミン系およびイオウ系老化防止剤からなると良い。
【0013】
前記焼成クレーは、オルガノシランで表面処理されていると良い。
【0014】
オレフィン系ポリマ100質量部に対し、更に難燃剤を含有させると良い。
【0015】
前記絶縁層は、前記導体の周囲を被覆する内部絶縁層と、その内部絶縁層の周囲を被覆する外部絶縁層とからなり、前記外部絶縁層は、オレフィン系ポリマ100質量部に対し、難燃剤を20質量部以上含有すると良い。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、原子力発電所、特にBWRの格納容器内に適用でき、耐熱性、耐放射線性及び電気特性に優れた組成物からなる絶縁体を備えた耐放射線性絶縁電線を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】LOCA模擬試験の試験条件を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な一実施の形態について説明する。
【0019】
前記した課題を達成するため種々検討した結果、オレフィン系ポリマ100質量部に対し、老化防止剤10〜15質量部、芳香族系プロセスオイル5〜40質量部、焼成クレー5〜40質量部添加することにより可能となることが判明した。
【0020】
ケーブルは放射線(γ線)、熱に暴露後、LOCA模擬試験により高温熱水に曝される。この時、オレフィン系ポリマ100質量部に対し老化防止剤が10〜15質量部、芳香族系プロセスオイル5〜40質量部、難燃剤20質量部以上、焼成クレー5〜40質量部添加した材料を絶縁体に使用することにより、電気特性の耐電圧試験に合格すると共に、LOCA模擬試験後も優れた機械特性を示し、厳しい難燃性試験にも合格することができる。
【0021】
これは、老化防止剤、芳香族系プロセスオイルで高い耐放射線性、耐熱性を付与し、難燃剤で高い難燃性を保持させつつ、それらが放射線及び熱により変質や脱離したイオン性成分を焼成クレーに捕捉させることで、電気特性の低下を抑えたことに起因する。
【0022】
また、焼成クレーをオルガノシラン(有機シラン)で表面処理することにより、ポリマと粒子との間の相互作用が高まり絶縁層内への水分の進入を抑え、電気特性の低下を防ぐことができる。
【0023】
以下に、絶縁体に使用する各成分について詳述する。
【0024】
オレフィン系ポリマとしてはポリエチレン(PE)(低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレンなど)、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン・メチルアクリレート共重合体(EMA)、エチレン・エチルアクリレート共重合体(EEA)、天然ゴム(NR)、エチレン・プロピレンゴム(EPM)、エチレン・プロピレン・ジエンターポリマ(EPDM)、ブチルゴム(IIR)、ニトリルゴム(NBR)、ノンハロゲン系アクリルゴム(ACM)、塩素化ポリエチレン、クロロスルホン化ポリエチレン、エピクロロヒドリンゴム、アクリルゴム、ハロゲン化ブチルゴムなどが挙げられ、これらは単独または2種以上をブレンドして使用できる。またこれらは全て架橋(加硫)して使用される。
【0025】
上記材料に対し、老化防止剤は一般的には耐熱性保持のために用いられるが、耐放射線性においても重要な役割を果たす。種類としては一次老化防止剤のフェノール系、アミン系があり、二次老化防止剤としてイオウ系とリン系がある。ここでは特にアミン系老化防止剤とイオウ系老化防止剤が効果的であるが、他の老化防止剤を使用もしくは併用しても差し支えない。その添加量は両者の合計が10質量部以上必要である。これ未満では耐放射線性・耐熱性の効果が充分ではない。上限としては、15質量部程度までが好ましい。これ以上添加してもその効果は飽和し、さらに、老化防止剤よりイオン伝導性を持つ物質が精製されて電気特性に悪影響を及ぼすため得策ではない。
【0026】
フェノール系老化防止剤は分子中に存在する水酸基(−OH)の数によってモノフェノール、ビスフェノール、ポリフェノールの3種類に分類される。
【0027】
モノフェノールには2,6−ジ−ter−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−ter−ブチル−4−エチルフェノール、モノ(α−メチルベンジル)フェノールなどがあり、ビスフェノールには2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−ter−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−ter−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−ter−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−ter−ブチルフェノール)、ジ(α−メチルベンジル)フェノールなどがあり、ポリフェノールには2,5’−ジ−ter−ブチルハイドロキノン、2,5’−ジ−ter−アミルハイドロキノン、トリ(α−メチルベンジル)フェノール、p−クレゾールとジシクロペンタジエンなどがある。
【0028】
アミン系老化防止剤としてはキノリン系と芳香族第二級アミンに大別され、前者では2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン、6−エトキシ−1,2−ジヒドロ−2,2,4−トリメチルキノリンが挙げられる。後者としては、フェニル−1−ナフチルアミン、アルキル化ジフェニルアミン、オクチル化ジフェニルアミン、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジエニルアミン、p−(p−トルエンスルホニルアミド)ジフェニルアミン、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−p−フェニレンジアミンなどがある。
【0029】
イオウ系はベンゾイミダゾール系、ジチオカルバミン酸塩系、チオウレア系に分類され、ベンゾイミダゾール系には2−メルカプトベンゾイミダゾール、2−メルカプトメチルベンゾイミダゾール、2−メルカプトベンゾイミダゾールの亜鉛塩などがあり、ジチオカルバミン酸塩系にはジエチルジチオカルバミン酸ニッケル、ジブチルジチオカルバミン酸ニッケル、などがあり、チオウレア系には1,3−ビス(ジメチルアミノプロピル)−2−チオ尿素、トリブチルチオ尿素などがある。
【0030】
リン系には亜リン酸系としてトリス(ノリルフェニル)ホスファイトが挙げられる。
【0031】
芳香族プロセスオイルは一般的に混練や押出し時の加工性を安定させる配合剤として使用されるが、耐放射線性付与剤(アンチラッド)としての効果がある鉱油である。プロセスオイルはパラフィン系、ナフテン系、芳香族系に大別されるが、本発明ではクルツ分析で芳香族化合物の含有量が20%以上のものを芳香族プロセスオイルとする。
【0032】
芳香族プロセスオイルの添加量は5質量部未満では耐放射線性が十分でなく、40質量部より多くてもその効果が飽和し、さらに難燃性が低下して、難燃性試験に合格することができない。また、ポリマを過酸化物架橋剤で架橋する際は架橋阻害を起こし、架橋を十分に行うことができない。
【0033】
難燃剤はポリマの難燃性を向上させるために添加する。少ない添加量で機械的特性を落とさず、高い難燃効果を発揮できるハロゲン系難燃剤が望ましいが、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物等のノンハロゲン系難燃剤や、リン化合物、メラミンなどの窒素含有化合物、シリコーン化合物、ホウ酸カルシウムやスズ酸亜鉛などの一般的に販売されている難燃剤を使用しても構わない。
【0034】
ハロゲン系難燃剤としてはエチレンビスペンタブロモベンゼン、テトラブロモビスフェノール、A−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、デカブロモジフェニルオキサイド、オクタブロモジフェニルオキサイド、ペンタブロモジフェニルオキサイド、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA−ビス(アリルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2−ヒドロキシエーテル)、ヘキサブロモシクロデカン、ビス(トリブロモフェノキシ)エタン、テトラブロモビスフェノールAエポキシオリゴマ、テトラブロモビスフェノールAカーボネートオリゴマ、エチレンビステトラブロモフタルイミド、ポリ−ジブロモフェニレンオキサイド、2,4,6−トリブロモフェノール、テトラブロモビスフェノールA−ビス(アクリレート)、テトラブロモフタリックアンヒドリド、テトラブロモフタレートジオール、2,3−ジブロモプロパノール、トリブロモスチレン、テトラブロモフェニルマレイミド、ポリ(ペンタブロモベンジル)アクリレート、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェート、トリス(ジブロモフェニル)ホスフェート、トリス(トリブロモフェニル)ホスフェート、1,2,3,4,7,8,9,10,13,13,14,14−ドデカクロロ−1,4,4a,5,6,6a,7,10,10a,11,12,12a−ドデカヒドロ−1,4,7,10−ジメタノジベンゾ(a,e)シクロオクテン、塩素化パラフィン、パークロロシクロペンタデカン、テトラクロロ無水フタル酸、クロレンド酸、ドデカクロロシクロオクタン等が挙げられる。その添加量は20質量部未満では十分な難燃性を与えることができない。上限は特に設けないが電気特性の低下を考えると30質量部程度までが望ましい。
【0035】
ハロゲン系難燃剤は難燃助剤の三酸化アンチモンと併用することでその効果をさらに発揮することが知られており、本発明もその例外ではなく、三酸化アンチモンを添加しても構わない。その添加量などは特に規定しないが、ハロゲン3原子に対しアンチモンが1原子になるような割合で添加することが望ましい。
【0036】
また、ノンハロゲン系難燃剤を用いる場合は、その添加量は十分な難燃性を付与するため80質量部以上添加することが好ましい。特に上限は設けないが、実情を鑑みるとせいぜい100質量部程度が望ましい。
【0037】
焼成クレーは含水ケイ酸アルミニウムが主成分で、クレーを適温(600〜800℃)で焼成し、結晶水を放出、結晶構造を崩壊させて活性を高め、かつ、光散乱法または回折法による平均粒径が2.0μm以下のものを用いる。一般的に押出製品の外観悪化を防止するために添加するが、イオン導電性物質を吸着し、電気特性を向上させる効果が期待できる。その添加量は5質量部未満ではハロゲン系難燃剤又は老化防止剤から生成したイオン導電性物質を十分に捕捉することができず、40質量部より多く添加すると、焼成クレー及びポリマ/焼成クレーの界面に水分を呼び込みやすく、逆に電気特性を悪化させる。
【0038】
さらにLOCA模擬試験のように高温高圧蒸気に曝されると、ポリマ/焼成クレーの界面へ水分が浸透しやすくなるため、焼成クレーはオルガノシランで表面処理していることが望ましい。オルガノシランで表面処理することで焼成クレーの凝集を防ぎ、ポリマ中への分散性を向上させ、ポリマと焼成クレーの密着性を向上させる。
【0039】
オルガノシランの種類としては、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、N−(p−ビニルベンジル)−N−(トリメトキシシリルプロピル)エチレンジアミン・塩酸塩、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリキシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリキシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)ジスルフェド、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)テトラスルフェド、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリプロポキシシラン、アリルトリメトキシシラン、ジアリルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、N−(1,3−ジメチルブチリデン)3−アミノプロピルトリエトキシシランなどのシランカップリング剤やアルコキシシラン、ビニルメチルシロキサン−ジメチルシロキサンコポリマ、トリメチルシロキシ誘導体などのシロキサンオリゴマなどが挙げられ、取り扱い性、価格などの観点から、3−グリキシドキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、シロキサンオリゴマが好ましい。
【0040】
また表面処理量は0.5mass%以上3mass%を超えない量(0.5mass%以上、3.0mass%未満)が望ましく、それ未満では十分な効果は得られず、またそれ以上では電気絶縁特性に悪影響を及ぼす虞がある。オルガノシランは前もって無機充填剤に処理を施す方法でも、樹脂と無機充填剤に直接添加し、混練するインテグラルブレンド法でも構わない。
【0041】
架橋、加硫の方法は特に規定しないが、耐熱性、耐放射線性に優れた過酸化物架橋であることが望ましく、架橋度を上げるためにトリアリルシアヌレート(TAC)、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPT)などの多官能モノマのような架橋助剤を併用しても良い。
【0042】
その他、一般のゴム材料に添加される滑剤、加工助剤、充填剤、着色剤、光安定剤(ヒンダードアミン光安定剤など)、紫外線吸収剤などの配合剤は本発明の効果を損なわない限りにおいて各種のものが使用できる。
【0043】
シース材料に適用される塩素系ポリマとしてはポリクロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、塩素化ポリエチレンなどがあり、単独もしくは2種以上をブレンドして使用できる。また、塩素系ポリマと上記オレフィン系ポリマをブレンドして使用できる。シース材料も絶縁体と同様、架橋(加硫)して使用される。
【0044】
シース材料もまた絶縁体材料と同様に老化防止剤、耐熱安定剤、耐放射線性付与剤を含むプロセスオイル、滑剤、加工助剤、充填剤、着色剤、光安定剤、紫外線吸収剤などの配合剤は各種のものが使用できる。
【0045】
以上説明したように、本発明の耐放射線性絶縁電線では、導体の周囲を被覆する絶縁層に、オレフィン系ポリマ100質量部に対し、老化防止剤を10〜15質量部、芳香族系プロセスオイルを5〜40質量部含有し、更に焼成クレーを5〜40質量部含有させるようにしている。
【0046】
これにより、老化防止剤、芳香族系プロセスオイルで高い耐放射線性、耐熱性を付与し、難燃剤で高い難燃性を保持させつつ、それらが放射線及び熱により変質や脱離したイオン性成分を焼成クレーに捕捉させることで、電気特性の低下を抑えることができる。
【0047】
本発明は上記実施の形態に限られず、本発明の技術的思想の範囲内において種々の変更が可能である。
【0048】
例えば、本発明の耐放射線性絶縁電線では、他の実施の形態として、絶縁体を2層構造にすることで、電線・ケーブルの電気特性を更に向上させることができる。
【0049】
つまり、オレフィン系ポリマ100質量部に対し老化防止剤を10〜15質量部、芳香族プロセスオイル5〜40質量部、焼成クレー5〜40質量部添加された組成物を導体直上の絶縁体内層(内部絶縁層)に使用すると共に、外層(外部絶縁層)には、前記の組成に対して更に難燃剤を20質量部以上添加した樹脂組成物を使用することで、耐放射線性絶縁電線の難燃性を維持しつつ、内部絶縁体に使用する樹脂組成物の中に難燃剤が添加されていない分、電気特性を向上させることができる。
【実施例】
【0050】
以下に、本発明の実施例と比較例を説明する。
【0051】
表1、表2に示す絶縁体材料と、表3に示すシース材料の各種配合剤を秤量後、架橋剤を除き75リッターバンバリミキサに投入して混練し、得られた1stコンパウンドに約60℃に保持した50リッターニーダ中で架橋剤を添加混合させ、2ndコンパウンドを得た(表1、表2中、シラン処理焼成クレーはオルガノシランで表面処理した焼成クレーを表す)。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
【表3】

【0055】
表1および表2に示した夫々の絶縁体材料を導体断面積2.0mm2の導体上に厚さ0.8mmで押出し被覆後、約190℃の高圧蒸気で架橋後、その2本を撚り合わせたコアの周囲に押出機によりシース材料を押出し被覆後、約200℃の加圧ソルト(溶融塩)により架橋させ、外径10.5mmφのケーブルを得た。
【0056】
表4に作製したケーブルの詳細を示す。
【0057】
【表4】

【0058】
表4に示す通り、表1、絶縁体AのI〜VIに示した材料を絶縁層に使用したケーブルを実施例1〜6とした。
【0059】
また、表2、絶縁体BのI〜VIIに示した材料を絶縁層に使用したケーブルを比較例1〜7とした。
【0060】
得られたケーブルについて下記項目について試験を実施し、総合評価した。
【0061】
(1)難燃性試験:
IEEE Std 1202−1991に基づき垂直トレイ燃焼試験を実施・評価した。長さ2.4mのケーブル3本を1束としこれを8本垂直トレイに設置し試験を実施し、延焼距離(火ぶくれ)150cm以下を合格とした。
【0062】
(2)LOCA模擬試験:
長さ約10mのケーブルを用い下記条件でLOCA模擬試験用試料とした。60Co・γ線にて5kGy/hの線量率で1MGy照射後、140℃×9日熱老化した試料に対し、図1に示すLOCA模擬試験条件で高圧蒸気暴露試験を実施した。その後ケーブル外径の40倍マンドレルに巻きつけ、両端以外の部分を常温の水中に1時間放置後、絶縁抵抗計(メガー)で絶縁抵抗を計測、その後耐電圧試験(2.6kV−5分間)を行い破壊せずに保持できたものを合格とした。
【0063】
また、耐電圧試験後、外観上ケーブルの健全な部分を採取し、JISC3005に基づき、引張試験機で引張試験を実施し、破断伸びを評価した。
【0064】
以上の各試験結果を総合的に判断し、合格・不合格を決定した。
【0065】
ケーブル評価結果を表5に示す。
【0066】
【表5】

【0067】
表5に示したように、本発明の実施例1〜6は何れの特性も満足し、総合判定は合格であった。
【0068】
一方、比較例を見ると、老化防止剤の添加量が少ない比較例1はγ線暴露と熱劣化により、著しく劣化し、電気特性が悪化、LOCA模擬試験に合格できなかった。比較例2は老化防止剤の量が多く、γ線及び熱劣化により、イオン性成分が多くなり、電気特性を悪化させたため、LOCA模擬試験に合格できなかった。芳香族系プロセスオイルの添加量が少ない比較例3は耐放射線性に劣りγ線により著しく劣化してしまい、LOCA模擬試験に合格できなかった。また、芳香族系プロセスオイルの添加量の多い比較例4はLOCA模擬試験に合格できるものの、難燃性が不合格となった。難燃剤の添加量が少ない比較例5も同様に難燃性試験が不合格であった。焼成クレーの添加量が少ない比較例6は電気特性が悪く、LOCA模擬試験が不合格であった。これはイオン導電成分を捕捉しきれなかったことに起因すると考えられる。焼成クレーの添加量が多い比較例7も電気特性が悪化しLOCA模擬試験に合格することができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、前記導体の周囲を被覆する絶縁層を備えた絶縁電線であって、
前記絶縁層は、オレフィン系ポリマ100質量部に対し、老化防止剤を10〜15質量部、芳香族系プロセスオイルを5〜40質量部含有し、更に焼成クレーを5〜40質量部含有することを特徴とする耐放射線性絶縁電線。
【請求項2】
前記老化防止剤は、アミン系およびイオウ系老化防止剤からなる請求項1記載の耐放射線性絶縁電線。
【請求項3】
前記焼成クレーは、オルガノシランで表面処理されている請求項1又は2記載の耐放射線性絶縁電線。
【請求項4】
オレフィン系ポリマ100質量部に対し、更に難燃剤を含有させる請求項1〜3いずれか記載の耐放射線性絶縁電線。
【請求項5】
前記絶縁層は、前記導体の周囲を被覆する内部絶縁層と、その内部絶縁層の周囲を被覆する外部絶縁層とからなり、
前記外部絶縁層は、オレフィン系ポリマ100質量部に対し、難燃剤を20質量部以上含有する請求項1〜3いずれか記載の耐放射線性絶縁電線。

【図1】
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【公開番号】特開2012−238528(P2012−238528A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108021(P2011−108021)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】