説明

耐放射線性非ハロゲン難燃性樹脂組成物及びこれを用いた電線・ケーブル

【課題】耐放射線性に優れた非ハロゲン難燃性樹脂組成物及びこれを用いた電線・ケーブルを提供する。
【解決手段】エチレン系ポリマ100重量部に対し、融点が40℃以上の芳香族アミン系酸化防止剤を1〜30重量部および金属水酸化物を50〜300重量部混和された非ハロゲン難燃性樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粒子加速器施設、原子力発電所、使用済核燃料再処理施設など、放射線環境で使用できる耐放射線性非ハロゲン難燃性樹脂組成物及びこれを用いた電線・ケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
粒子加速器施設のビームライン周辺設備や原子力発電所、高速増殖炉、使用済核燃料再処理施設などにおいては、使用環境にガンマ線をはじめとする放射線が存在する。このことから、各施設・設備への電源供給、信号伝送等に用いる電線・ケーブルには、放射線による劣化に耐えることが必要とされている。
【0003】
一方電線・ケーブルには、火災時の安全性や環境配慮の観点から、塩素などハロゲン元素を含まず、燃焼時に有害なガスを発生させない非ハロゲン電線・ケーブルが望まれるようになっている。この要望対し、近年、ビル内設備用ケーブルとして被覆材料に「エコマテリアル」を使用したJISC3605、JISC3401に規定されているごとき電線・ケーブルが普及してきている。
【0004】
エコマテリアルとは、エチレン−エチルアクリレート(EEA)やエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−αオレフィン共重合体など軟質のエチレン系ポリマに、水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物系難燃剤を混和してなる非ハロゲン難燃性樹脂組成物の総称である。
【0005】
【特許文献1】特開2002−302574号公報
【特許文献2】特開2001−345022号公報
【特許文献3】WO2003−046085号公報
【特許文献4】特開2000−281837号公報
【特許文献5】特開平7−179682号公報
【特許文献6】特開平5−81936号公報
【特許文献7】特開平1−128313号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、エコマテリアルを使用した電線・ケーブルに使用する樹脂組成物は、前述のようにエチレン系ポリマが主成分となっているため、室温においても放射線に暴露された場合の劣化が激しく、粒子加速器施設や原子力関連施設に代表される放射線環境で適用することはできなかった。
【0007】
これは、エチレン系ポリマが放射線照射により、酸化劣化に起因する主鎖切断や架橋が進行し、伸び、引張強さなど機械物性や難燃性が著しく低下するためである。電線・ケーブルにおいては、劣化により被覆に亀裂が入る、万一の火災時の安全性低下などを招くこととなる。
【0008】
そこで、本発明の目的は、耐放射線性に優れた非ハロゲン難燃性樹脂組成物及びこれを用いた電線、ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の問題点を解決するため、放射線劣化を防止するためのエチレン系ポリマの添加剤を系統的に種々検討し、以下の発明に至った。
【0010】
すなわち請求項1の発明は、エチレン系ポリマ100重量部に対し、融点が40℃以上の芳香族アミン系酸化防止剤を1〜30重量部および金属水酸化物を50〜300重量部混和されたことを特徴とする耐放射線性非ハロゲン難燃性樹脂組成物である。
【0011】
請求項2の発明は、前記芳香族アミン系酸化防止剤が、キノリン系酸化防止剤またはフェニレンジアミン系酸化防止剤である請求項1記載の耐放射線性非ハロゲン難燃性樹脂組成物である。
【0012】
請求項3の発明は、前記エチレン系ポリマ100重量部に対し、30重量部以下のメルカプト化合物が混和されている請求項1又は2記載の耐放射線性非ハロゲン難燃性樹脂組成物である。
【0013】
請求項4の発明は、前記エチレン系ポリマ100重量部に対し、芳香族系プロセスオイルが混和されている請求項1〜3のいずれかに記載の耐放射線性非ハロゲン難燃性樹脂組成物である。
【0014】
請求項5の発明は、前記エチレン系ポリマが、エチレン−アクリ酸エステル共重合体からなる請求項1〜4のいずれかに記載の耐放射線性非ハロゲン難燃性樹脂組成物である。
【0015】
請求項6の発明は、請求項1〜5のいずれかに記載の耐放射線性非ハロゲン難燃性樹脂組成物を被覆材料として適用したことを特徴とする電線である。
【0016】
請求項7の発明は、請求項1〜5のいずれかに記載の耐放射線性非ハロゲン難燃性樹脂組成物を被覆材料として適用したことを特徴とするケーブルである。
【発明の効果】
【0017】
以上、要するに本発明によれば、耐放射線性に優れた非ハロゲン難燃性樹脂組成物及びこれを用いた電線・ケーブルを提供することが可能となった。
【0018】
本発明による耐放射線性非ハロゲン難燃性樹脂組成物は、燃焼時に有害なガスを発生せず、また、放射線環境下で使用されても機械特性低下の少ないものである。また、その樹脂組成物を絶縁体またはシースに使用することにより、使用時に有害なガスを発生せず、高い耐放射線性を有する電線・ケーブルを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の好適な一実施の形態を詳述する。
【0020】
本発明は、エチレン系ポリマ100重量部に対し、融点が40℃以上の芳香族アミン系酸化防止剤を1〜30重量部および金属水酸化物を50〜300重量部混和した耐放射線性非ハロゲン難燃性樹脂組成物からなるものである。
【0021】
ここで、放射線劣化を防止するため、エチレン系ポリマの添加剤について詳しく説明する。
【0022】
エチレン系ポリマにガンマ線などの放射線を照射すると、通常の加熱老化とことなり、室温においてもポリマから水素が引抜かれてラジカルが生成し、このラジカルが酸素と結合することによりポリマの酸化劣化が生じる。この結果、ポリマの架橋や分子切断がおこるため樹脂組成物の機械特性が急激に低下すると考えられている。
【0023】
この劣化現象を対策するためには、ポリマに生成したラジカルを速やかに捕捉することが重要と考え、系統的な添加剤の検討を行い、融点が40℃以上の芳香族アミン系酸化防止剤がエチレン系ポリマの劣化に対して有効であることを見出したものである。
【0024】
融点が40℃以上の芳香族アミン系酸化防止剤としては、ゴム・プラスチック酸化防止剤として市販されている化合物があり、例えばジフェニルアミン系化合物、キノリン系化合物、ナフチルアミン系化合物などのモノアミン化合物や、フェニレンジアミン系化合物、ベンゾイミダゾール系化合物などのジアミン化合物が挙げられる。
【0025】
ジフェニルアミン系化合物としては、p−(p−トルエン・スルホニルアミド)−ジフェニルアミン(商品名:ノクラックTD他)、4,4’−(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(商品名:ノクラックCD、ナウガード445他)、4,4’−ジオクチル・ジフェニルアミン(商品名:ノクラックAD、アンテージLDA他;JIS略号ODPA)、ジフェニルアミン誘導体(商品名:ノクラックODA−N、アンテージOD−P、アンテージDDP他)などが挙げられる。
【0026】
キノリン系化合物としては、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンの重合物(商品名:ノクラック224他;JIS略号TMDQ)などが挙げられる。
【0027】
ナフチルアミン系化合物としては、フェニル−α−ナフチルアミン(商品名:ノクラックPA他;JIS略号PAN)、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン(商品名:ノクラックWhite他;JIS略号DNPD)などが挙げられる。
【0028】
フェニレンジアミン系化合物としては、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン(商品名:ノクラックDP他;JIS略号DPPD)、N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン(商品名:アンテージ3C、ノクラック810NA他;JIS略号IPPD)、N−フェニル−N’−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−p−フェニレンジアミン(商品名:ノクラックG−1他)、N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン(商品名:アンテージ6C、ノクラック6C他)、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン(商品名:ノクラックWhite他;JIS略号DNDP)、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン(JIS略号DPPD)の混合物(商品名:ノクラック500、アンテージDP2他)、ジアリール−p−フェニレンジアミン誘導体またはその混合物(商品名:ノクラック630、アンテージST1他)などが挙げられる。
【0029】
ベンゾイミダゾール系化合物としては、2−メルカプトベンゾイミダゾール(商品名:アンテージMB他;JIS略号MBI)、2−メルカプトメチルベンゾイミダゾール(商品名:ノクラックMMB他)、2−メルカプトベンゾイミダゾールの亜鉛塩(商品名:ノクラックMBZ他;JIS略号ZnMBI)、2−メルカプトメチルベンゾイミダゾールの亜鉛塩(商品名:ノクラックMMBZ他)などが挙げられる。
【0030】
添加量は、エチレン系ポリマ100重量部に対し、1〜30重量部が好適である。
【0031】
添加量が、1重量部未満の場合、放射線環境での劣化防止の効果が小さく、30重量部を超えた場合、放射線の照射によりブルームが発生する。より好ましくは、2〜10重量部である。
【0032】
これらの芳香族アミン系化合物は、単独または2種以上をブレンドして使用することができる。融点が40℃より低いものは、室温で液状のため、放射線の照射によりブリードを発生する。
【0033】
また、芳香族アミン系化合物に加え、メルカプト化合物を併用するようにしてもよい。
【0034】
エチレン系ポリマとしては、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、直鎖状超低密度ポリエチレン(VLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、エチレン−メチルメタクリレート共重合体(EMMA)、エチレン−メチルアクリレート共重合体(EMA)、エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA),エチレン−ブチルアクリレート共重合体(EBA)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、エチレン−ブテン−ヘキセン三元共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(EPDM)、エチレン−オクテン共重合体(EOR)、エチレン共重合ポリプロピレン(ランダムPPまたはブロックPP)、エチレン−プロピレン共重合体(EPR)、ポリ−4−メチル−ペンテン−1、マレイン酸グラフト低密度ポリエチレン、水素添加スチレン−ブタジエン共重合体(H−SBR)、マレイン酸グラフト直鎖状低密度ポリエチレン、マレイン酸グラフト直鎖状超低密度ポリエチレン、エチレンと炭素数が4〜20のαオレフィンとの共重合体、エチレン−スチレン共重合体、マレイン酸グラフトエチレン−スチレン共重合体、マレイン酸グラフトエチレン−メチルアクリレート共重合体、マレイン酸グラフトエチレン−酢酸ビニル共重合体,エチレン−無水マレイン酸共重合体、エチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸三元共重合体、ブテン−1を主成分とするエチレン−プロピレン−ブテン−1三元共重合体などが挙げられ、これらの単独または2種以上をブレンドした材料が挙げられる。
【0035】
このうち、EMA、EEA、EBAなどのエチレン−アクリル酸エステル共重合体が、後述する芳香族アミン系酸化防止剤とメルカプト化合物の併用による難燃性向上効果が高いため好適であり、特にEEAが最も好適である。また、メタロセン触媒により重合されたVLDPEは引張強度が高いため、好適である。
【0036】
これらのポリマをイオウ化合物や過酸化物の添加、電子線照射、シラングラフト水架橋などの常法に従い、架橋させることができる。
【0037】
エチレン系ポリマに添加する金属水酸化物系難燃剤としては、水酸化マグネシウム(Mg(OH) )、水酸化アルミニウム(Al(OH) ),ハイドロタルサイト,カルシウムアルミネート水和物,水酸化カルシウム,水酸化バリウム,ハードクレー等を挙げることが出来る。
【0038】
このうち、難燃化効果が大きいのは水酸化マグネシウムであり、合成水酸化マグネシウム、天然ブルーサイト鉱石を粉砕した天然水酸化マグネシウム、Ni,Zn,Caなど他の元素との固溶体となったものなどが挙げられる。
【0039】
上記金属水酸化物は、機械的特性、分散性、難燃性の点からレーザー式粒度分布計により測定した平均粒子径が4μm以下かつ10μm以上の粗粒分が10%以下のものがより好適である。これらの粒子表面を耐水性を考慮し常法に従って脂肪酸、脂肪酸金属塩,シラン系カップリング剤,チタネート系カップリング剤またはアクリル樹脂、フェノール樹脂、カチオン性またはノニオン性を有する水溶性樹脂等で表面処理することも可能である。
【0040】
上記金属水酸化物の添加量は50〜300重量部が好適である。50重量部未満では十分な難燃性が得られず、300重量部より多いと伸び特性が著しく低下する。
【0041】
前記芳香族アミン系酸化防止剤のうち、キノリン系化合物、フェニレンジアミン系化合物が、ガンマ線などの放射線照射後の特性(耐放射線性)が優れるためより好適であり、このうちキノリン系化合物が最も好適である。
【0042】
前記芳香族アミン系化合物に加え、メルカプト化合物を併用した場合、ガンマ線照射後の機械特性が向上し、さらに照射後の難燃性も向上するため、より好適である。
【0043】
メルカプト化合物としては、2−メルカプトベンゾイミダゾール(商品名:アンテージMB他;JIS略号MBI)、2−メルカプトメチルベンゾイミダゾール(商品名:ノクラックMMB他)、2−メルカプトベンゾイミダゾールの亜鉛塩(商品名:ノクラックMBZ他;JIS略号ZnMBI)、2−メルカプトメチルベンゾイミダゾールの亜鉛塩
(商品名:ノクラックMMBZ他)、1,3−ビス(ジメチルアミノプロピル)−チオウレア(商品名:ノクラックNS−10他)、ジメチルチオカルバミン酸ニッケル(商品名:サンダントTT−NI他)、ジブチルチオカルバミン酸ニッケル(商品名:ノクラックNBC、サンダントNBC他;JIS略号NiBDC)が挙げられ、2−メルカプトベンゾイミダゾールが特に好適である。メルカプトベンゾイミダゾール化合物は分子内に芳香族アミンも有しており、複合系酸化防止剤といえる。
【0044】
メルカプト化合物の添加量は、エチレン系ポリマ100重量部に対し、30重量部以下が好適であり、30重量部を超えた場合、放射線の照射によりブルームする。特に芳香族アミン系化合物の添加量に対し、2〜10倍の添加量がより好適である。
【0045】
前記樹脂組成物に芳香族系プロセスオイルを添加すると、さらに耐放射線性が向上する。
この原因は明確ではないが、芳香族系プロセスオイル分子が有するナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環などの多環芳香族が、放射線エネルギーを共鳴安定化するためと推定している。添加量は特に規定しないが、エチレン系ポリマ100重量部に対し50重量部以下が好ましい。50重量部以上では難燃性試験の裕度が低下するためである。
【0046】
芳香族系プロセスオイルの構成炭素は、アロマティック環中の炭素、ナフテン環中の炭素、パラフィン鎖中の炭素に分けられ、アロマティック環中の炭素が多いほど放射線防御効果があり、好ましくは25重量%以上含有されているものである。
【0047】
市販されているプロセスオイルの中では、例えば日本サン石油製アロマ790(アロマ成分36重量%)、日本サン石油製T−DAE(アロマ成分26重量%)、新日本石油製T−DAE(アロマ成分27重量%)、スターリー石油製Tudalen65(アロマ成分45重量%)、スターリー石油製VivaTec400(アロマ成分27重量%)などが挙げられる。
【0048】
なお、これらの樹脂組成物には必要に応じて難燃助剤、酸化防止剤,滑剤,界面活性剤,軟化剤,可塑剤,無機充填剤、相溶化剤、安定剤、金属キレート剤、架橋剤、紫外線吸収剤、光安定剤、着色剤等の添加物を加えることが出来る。難燃助剤としてはリン系難燃剤、シリコーン系難燃剤、窒素系難燃剤、ホウ酸化合物、モリブデン化合物などを挙げることができる。
【実施例】
【0049】
本発明の実施例を表1および図1〜5に示す。
【0050】
図1は、複数本の銅導体1に絶縁体2を被覆した電線であり、絶縁体2を本発明の耐放射線性非ハロゲン難燃性樹脂組成物により作製する。
【0051】
図2は、複数本の銅導体1に絶縁体2を被覆し、最外層をシース3として押出被覆したケーブルを示す図であり、シース3単独、またはシース3および絶縁体2の両方を本発明の耐放射線性非ハロゲン難燃性樹脂組成物により作製する
図3は、単心の銅導体1に絶縁体2を被覆した3線心を介在4とともに撚り合わせ、押え巻きテープ5を施し、最外層をシース3として押出被覆したケーブルを示す図であり、シース3単独、またはシース3および絶縁体2の両方を本発明の耐放射線性非ハロゲン難燃性樹脂組成物により作製する。
【0052】
図4は、単心の銅導体1に絶縁体2を被覆した2線心を撚り合わせて対撚り線6とし、金属シールド層7を施し、最外層をシース3として押出被覆したケーブルを示す図であり、シース3単独、またはシース3および絶縁体2の両方を本発明の耐放射線性非ハロゲン難燃性樹脂組成物により作製する。
【0053】
図5は、単心の銅導体1に発泡樹脂絶縁体8を被覆し、その外周に金属シールド層7を施し、最外層をシース3として押出被覆したケーブルを示す図であり、シース3を本発明の耐放射線性非ハロゲン難燃性樹脂組成物により作製する。
【0054】
樹脂組成物およびケーブルは以下のように作製した。
【0055】
表1および表3の実施例1〜26および表2の比較例1〜14に示した配合割合で各種成分を配合し、25L加圧ニーダによって開始温度40℃、終了温度190℃で混練後、混練物をペレットにした。これを図2に示す14SQ架橋ポリエチレン絶縁電線(絶縁体厚さ1.0mm)のケーブルシースとして、厚さ1.5mm、設定温度190℃で押出した。
【0056】
ケーブルの評価は以下に示す方法により判定した。
(1)シースの引張試験
作製したケーブルシースを、JISC3005に準拠して引張試験を行った。引張強さ(Tb)は10MPa未満のものを×(不合格)、それ以上を○(合格)とした。
(2)耐放射線性
作製したケーブルにガンマ線を照射し、その後シースの引張試験を行った。ガンマ線照射は線量率5kGy/hで1MGyの照射を行った。伸びが50%未満のものを×(不合格)、50〜200%のものを○(合格)それ以上を◎(裕度を持って合格)とした。
(3)燃焼試験
ガンマ線照射後のケーブルをIEEE Std.383(1974)に準拠した垂直トレイ燃焼試験を行い、焼損距離が180cmを超えるのものを×(不合格)、130〜180cmのものを○(合格)、130cm未満のものを◎(裕度を持って合格)とした。
(4)外観試験
ガンマ線照射後のケーブルシース表面を目視観察し、ブリードまたはブルームが見られたものを不合格、これらが見られないものを合格とした。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
【表3】

【0060】
表1記載の実施例1〜7の芳香族アミン系酸化防止剤(ジフェニルアミン系、キノリン系、ナフチルアミン系、フェニレンジアミン系、ベンズイミダゾール系)を添加した場合、初期物性および放射線1MGy照射後の全ての特性が良好である。特に実施例2〜4のキノリン系および実施例6のフェニレンジアミン系の耐放射線性が良い結果となっている。
【0061】
一方、表2記載のフェノール系(比較例1〜5)、液状キノリン系(比較例6)、液状ジフェニルアミン系(比較例7)、ヒンダードアミン系(比較例8)、ヒドラジド系(比較例9)、チオエーテル系(比較例10)酸化防止剤を添加した樹脂組成物は、放射線照射後の伸び、難燃性のいずれかが不合格となり、液状化合物の比較例6および7では、照射後のケーブル表面にブリードが発生した。添加量が規定値以下の比較例11は、実施例3に比して耐放射線性の向上効果が小さく、照射後の伸びが不合格である。また、添加量が規定値以上の比較例12は、照射後のケーブル表面にブルームが発生する。
【0062】
芳香族アミン系酸化防止剤とメルカプト化合物を併用した実施例8〜11は、種類の異なる芳香族アミン系を併用した実施例12と比べ、耐放射線性に優れている。特にキノリン系およびフェニレンジアミン系酸化防止剤とメルカプト化合物を組合わせて添加した実施例8,9,11は、ガンマ線照射後の難燃性低下も防止されている。
【0063】
芳香族アミン系酸化防止剤と芳香族プロセス油を添加した表3の実施例15〜21は、実施例1,3,6などと比較してガンマ線照射後の伸びが大きく向上している。芳香族プロセス油の添加量を変量させた実施例18〜21において、55重量部添加した実施例21より添加量が50重量部以下の実施例18〜20の方が難燃性が高い。
【0064】
エチレン系ポリマとしてEEAとVLDPEをブレンドして使用した実施例22〜24は、EEAを単独で使用した実施例18〜20とそれぞれ比較して、シース引張強さおよび放射線照射後の伸びが向上している。
【0065】
実施例25と比較例13から、金属水酸化物添加量が規定値以下の場合、難燃性が不合格となる。また実施例25、26と比較例13、14から、金属水酸化物添加量が規定値以上の場合、機械特性が不合格となる。
【0066】
電線・ケーブルのサイズ及び構造は今回作製した14SQに限らず、あらゆるサイズ・構造の電線・ケーブルに適用可能である。必要に応じて有機化酸化物、電子線照射、その他の化学反応により絶縁体またはシースを架橋することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明が適用される、電線の例を示す断面図である。
【図2】本発明が適用される、絶縁線芯をシースで被覆したケーブルの例を示す断面図である。
【図3】本発明が適用される、絶縁線芯3条の外周を押え巻きテープおよびシースで被覆したケーブルの例を示す断面図である。
【図4】本発明が適用される、対撚り線2対の外周を金属シールド層およびシースで被覆したケーブルの例を示す断面図である。
【図5】本発明が適用される、発泡絶縁体線芯の外周を金属シールド層およびシースで被覆した同軸ケーブルの例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0068】
1 導体
2 絶縁体
3 シース
4 介在
5 押え巻き
6 対撚り線
7 金属シールド線
8 発泡樹脂絶縁体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン系ポリマ100重量部に対し、融点が40℃以上の芳香族アミン系酸化防止剤を1〜30重量部および金属水酸化物を50〜300重量部混和されたことを特徴とする耐放射線性非ハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
前記芳香族アミン系酸化防止剤が、キノリン系酸化防止剤またはフェニレンジアミン系酸化防止剤である請求項1記載の耐放射線性非ハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
前記エチレン系ポリマ100重量部に対し、30重量部以下のメルカプト化合物が混和されている請求項1又は2記載の耐放射線性非ハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
前記エチレン系ポリマ100重量部に対し、芳香族系プロセスオイルが混和されている請求項1〜3のいずれかに記載の耐放射線性非ハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項5】
前記エチレン系ポリマが、エチレン−アクリル酸エステル共重合体からなる請求項1〜4のいずれかに記載の耐放射線性非ハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の耐放射線性非ハロゲン難燃性樹脂組成物を被覆材料として適用したことを特徴とする電線。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の耐放射線性非ハロゲン難燃性樹脂組成物を被覆材料として適用したことを特徴とするケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−303307(P2008−303307A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−152341(P2007−152341)
【出願日】平成19年6月8日(2007.6.8)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】