説明

耐水性セメント系物品及びその作製方法

(a)セメント系コア、及び(b)ポリマー又はミネラル繊維を含み、かつその少なくとも1つの表面上に疎水性仕上げ塗料を含む第1繊維状マットであって、該疎水性仕上げ塗料が、セメント系コアと接触している第1繊維状マット、を含む、繊維状マット張りのセメント系物品、及び、繊維状マット張りのセメント系物品の作製方法、並びに、(a)約4重量%から約8重量%のシロキサンを含む水性シロキサン分散物を作製する工程、(b)セメント系スラリーを提供するために、シロキサン分散物をセメント系混合物と混合する工程、(c)基質の上にセメント系スラリーを堆積させる工程、及び(d)セメント系スラリーを硬化させることによって、セメント系物品を提供する工程を含む、耐水性セメント系物品の作製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本特許出願は、2007年4月20日に出願された、米国特許出願番号11/738,316、及び2007年2月12日に出願された、米国仮特許出願番号60/889,487の利益を主張するものであり、その開示全体は引用によって本明細書に援用されている。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
石膏ボード及びセメントボードなどのセメント系物品は、様々な適用において有用であり、そのうちいくつかは、ある程度の耐水性を必要とする。伝統的な紙張りのセメント系物品は、高湿度条件下、又は戸外に曝されると、必ずしも十分に機能するとは限らない。従って、このような適用のためには、紙ではなく、ガラス又はポリマーを基礎とした繊維マットで上張りされたセメント系物品を使用するのが、しばしば望ましい。コア材料そのものの耐水性を改善するような添加剤を、セメント系コアに使用することもまた有利である。
【0003】
石膏ボード及びセメントボードなどのセメント系物品の製造プロセスは、代表的には、第1の上張り材料上にセメント系スラリーを堆積させること、及び、2つの上張り材料間にセメント系スラリーがサンドイッチされるように、同じタイプの第2の上張り材料で湿ったスラリーを覆うことを含む。その後、乾燥によって、スラリーから過剰な水が除去される。セメント系スラリーは、最終的な乾燥に先立って、固体物品を製造するために硬化させる。
【0004】
従って、セメント系物品製造プロセスでは、乾燥プロセスにおいて、上張り材料は、セメント系スラリーから過剰な水が除去され得るように十分に透過可能であることが、しばしば必要である。例えば、不織布繊維ガラスマットは、しばしば上張り材料として使用されており、この場合は繊維間の間隙が透過性を提供する。しかし、繊維状マット上張り材料上に堆積したセメント系スラリーが、マットを浸透して、成型テーブル及びアセンブリーライン上にスラリーの積層を生じる傾向にあるために、繊維状上張り材料の透過性により、製造プロセスがより困難になる。スラリーの積層は、定期的に除去されなければならない。スラリーの粘性度を増加させることによって、繊維状マット上張り材料を浸透するスラリー量を低減し得るが、例えば、混合特性、凝固特性、乾燥特性又は硬化特性が変化するため、既存の工場の製造プロセスにおける使用には、必要とされる高粘性度は必ずしも最適条件ではない。
【0005】
さらに、使用中に水がマットを浸透して、セメント系コアに接触可能とすることから、繊維状マット上張り材料の透過性はまた、セメント系物品の耐水性を低減する。この問題を多少とも解決するために、疎水性樹脂の外部コーティングが時折適用される。しかし、これには一般に、用いられるべき追加の製造後の工程を必要とし、費用及び不便がかさんでしまう。
【0006】
別の手法は、セメント系スラリー中に疎水性添加剤を含ませることによって、セメント系コア材料の耐水性をさらに増大させることである。この目的のために好ましい添加剤は、シロキサンオイルである。しかし、このような添加剤を用いる方法は、それらの実行及び効率の点で、さらなる改良が必要である。
【0007】
従って、新規の耐水性セメント系物品と、このような製品の作製方法とが、依然として所望されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発明の要旨
1つの局面においては、本発明は、以下を含む、繊維状マット張りのセメント系物品を提供する:(a)セメント系コア、及び(b)ポリマー又はミネラル繊維を含み、その少なくとも1つの表面上に疎水性仕上げ塗料を含む第1繊維状マットであって、ここで疎水性仕上げ塗料が、セメント系コアと接触している第1繊維状マット。
【0009】
別の局面においては、本発明は、以下の工程を含む、繊維状マット張りのセメント系物品の作製方法を提供する:(a)ポリマー又はミネラル繊維を含み、かつその少なくとも1つの表面上に疎水性仕上げ塗料を含む第1繊維状マット上にセメント系スラリーを堆積する工程であって、ここでセメント系スラリーが、疎水性仕上げ塗料上に堆積される工程、及び(b)セメント系スラリーを硬化させることによって、繊維状マット張りのセメント系物品を提供する工程。
【0010】
別の局面においては、本発明は、以下の工程を含む、耐水性セメント系物品の作製方法を提供する:(a)水中に約4重量%から約8重量%のシロキサンを含む水性シロキサン分散物を作製する工程、(b)セメント系スラリーを提供するために、シロキサン分散物をセメント系混合物と混合する工程、(c)基質の上にセメント系スラリーを堆積させる工程、及び(d)セメント系スラリーを硬化させることによって、セメント系物品を提供する工程。
【0011】
本発明のこれら及び他の利点、並びにさらなる本発明の特徴は、本明細書中に提供する発明の説明から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明の詳細な説明
本発明の繊維状マット張りのセメント系物品の実施態様は、以下を含む:(a)セメント系コア、及び(b)ポリマー又はミネラル繊維を含み、かつその少なくとも1つの表面上に疎水性仕上げ塗料を含む第1繊維状マットであって、ここで疎水性仕上げ塗料が、セメント系コアと接触している第1繊維状マット。望ましくは、疎水性仕上げ塗料は、製造中に任意の実質的な程度にて、製品のセメント系コアが第1繊維状マットに浸透することを防ぐ。
【0013】
第1繊維状マットは、任意の適切なタイプのポリマー又はミネラル繊維、あるいはそれらの組み合わせを含む。適切な繊維の例としては、ガラス繊維、ポリアミド繊維、ポリアラミド(polyaramide)繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維(例えば、ポリエチレンテレフタレート(polyethylene teraphthalate)(PET))、ポリビニルアルコール(PVOH)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、セルロース系繊維(例えば、綿、レーヨンなど)など、並びにそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。さらに、マットの繊維は、疎水性か又は親水性かであり得、コートされているか、コートされていないかであり得る。もちろん、繊維の選択は、セメント系物品が使用されるべき適用タイプに、部分的には依存するだろう。例えば、耐熱性又は耐火性が必要な適用のためにセメント系物品が使用される場合には、適正な耐熱性又は耐火性繊維が、繊維状マットに使用されるべきである。
【0014】
第1繊維状マットは、織布又は不織布であり得る;しかし、不織布マットが好ましい。不織布マットは、結合剤によって互いに結合する繊維を含む。結合剤は、マット産業で代表的に使用される任意の結合剤であり得る。適切な結合剤としては、尿素ホルムアルデヒド、メラミンホルムアルデヒド、ステアリン酸化したメラミンホルムアルデヒド、ポリエステル、アクリル、ポリ酢酸ビニル、ポリ酢酸ビニル又はアクリルで修飾したか又はこれらを混合した尿素ホルムアルデヒド又はメラミンホルムアルデヒド、スチレンアクリルポリマーなど、並びにこれらの組み合わせが挙げられるが、限定するものではない。適切な繊維状マットとしては、セメント系物品のための上張り材料として使用される市販のマットが挙げられる。
【0015】
セメント系物品の第1繊維状マットは、その少なくとも1つの表面上に、疎水性仕上げ塗料を含んでいる(疎水性仕上げ塗料はセメント系コアと接触している)。任意の疎水性仕上げ材料が使用され得る。好ましくは、疎水性仕上げ塗料は、表面に加えた水が、接触角が約70°以上(約70°から約130°など)、又は約90°以上(約90°から約120°など)を示すような、疎水性の程度を有する表面を提供する。接触角は、任意の適切な技術によって測定され得る。
【0016】
適切な疎水性仕上げ材料の例としては、タルク、ワックス、シリコンを基礎とした合成物(例えば、シラン又はシロキサン)、疎水性樹脂、脂肪酸(例えば、オレイン酸)及び脂肪酸の塩類(例えば、多価塩類)、ポリエチレングリコール(PEG)、並びに長鎖炭化水素及びフッ化炭素界面活性剤(例えば、12以上の炭素原子を有する)、並びにそれらの組み合わせ、を含む組成物か、基本的にはそれらからなる組成物か、あるいはそれらからなる組成物が挙げられるが、限定するものではない。
【0017】
仕上げ材料は、当該分野で公知の任意の様々な方法によって、液体又は固体材料(例えば、樹脂、湿った分散状粉末剤、乾燥粉末剤、又はフィルム)として、第1繊維状マットに塗布され得る。例えば、疎水性仕上げ材料をはけで塗ること、噴霧すること、ローラーがけすること、注ぐこと、浸すこと、ふるいにかけること、又は上塗りすることによって、疎水性仕上げ材料が塗布され得る。溶媒又は分散剤が、繊維状マット材料と不利に反応しないという条件で、塗布に先立って、任意の一般的な溶媒(例えば、水、アルコールなど)又は分散剤を使用して粉末剤などの固体材料が分散され得る。繊維状マットの表面繊維を腐食することで、仕上げ材料がマットに接着する能力を増強させる溶媒もまた、使用され得る。好ましくは、使用される任意の溶媒又は分散剤は、容易に乾燥されて、仕上げ塗料が繊維状マットに接着するのを妨げるような残渣を残さない。液体又は分散状の仕上げ材料は、繊維状マットへの塗布に適切な任意の粘性度を有し得る。代表的には、液体又は分散状の仕上げ材料の粘性度は、約50〜200クレブス単位(Kreb’s units)(KU)(約300〜20,000cP)であり、例えば、約80〜150KU(約800〜8,000cP)であろう。
【0018】
繊維状マットの表面が不均一な表面であると認識のもと、仕上げ材料は、完全に連続的な仕上げを提供する必要はない。例えば、液体又は粉末状の仕上げ組成物が使用される場合には、仕上がりに間隔又は穴が残るように、仕上げ材料がマットの繊維間の隙間に入り込んでもよい。しかし、連続的であって、望ましくは、第1繊維状マットの寸法と同一の範囲を有する仕上がりを提供するのに十分な量にて、仕上げ材料が好ましくは塗布される。
【0019】
第1繊維状マットに塗布される疎水性仕上げ塗料は、層形態が好ましい。層は、望ましくは、製造中に、第1繊維状マットを通るセメント系スラリーの浸透を遅延させるか防ぐのに十分なほどに厚い。任意の特定の理論によって制限されることを望むものではないが、疎水層が存在しない場合の繊維状マットに比較して、疎水層上のセメント系スラリーの表面張力の低減によって、及び/又は繊維状マットの穴空間を物理的にブロックすることによって、スラリーの浸透を、疎水層が遅延させるか防ぐと考えられている。一般に仕上げ塗料は、マット上(及び、マットの繊維を結合するのに使用される任意の樹脂性結合剤上)に層を提供し、層の平均厚さは少なくとも約25ミクロン(例えば、少なくとも約25から約500ミクロン)か、少なくとも約100ミクロン(例えば、約100から約500ミクロン)か、又は少なくとも約200ミクロン(例えば、約200から約500ミクロンか、又は約200から約400ミクロン)か、又はさらに少なくとも約300ミクロン(例えば、約300から約500ミクロンか、又は約300から約400ミクロン)である。
【0020】
本発明の好ましい局面によれば、第1繊維状マットは、セメント系コアの中に実質的には埋め込まれていない。好ましくは、マットの厚みの約50%未満が、セメント系コアの中に埋め込まれており、より好ましくは、マットの厚みの約30%未満、約15%未満、約10%未満、又はさらに約2%未満(例えば、約1%未満)が、セメント系コアの中に埋め込まれている。任意の特定の理論によって制限されることを望むものではないが、第1繊維状マットの疎水性仕上げ塗料は、少なくともある程度は、製造中に第1繊維状マットがセメント系コア内に埋め込まれてしまうのを防いでいると考えられている。本発明の関連していて好ましい局面においては、セメント系コアは、少なくとも部分的には、疎水性仕上げ塗料と接着している。
【0021】
第1繊維状マットは、2つの仕上げ表面:外側に面する表面及びセメント系コアに面する表面、を有することが、理解されるだろう。本発明によれば、セメント系コアに面する第1繊維状マットの表面は、疎水性仕上げ塗料を含む。外側に面する表面は、疎水性仕上げ塗料を含む必要がない。しかし、本発明の1つの実施態様によれば、繊維状マットの外側に面する表面もまた、本明細書中にて説明したように、疎水性仕上げ塗料を含み得る。または、外側に面する表面は、疎水性仕上げ塗料をしなければ、当該分野で公知の任意の方法で処理され得るし、又は未処理のままであり得る。
【0022】
セメント系物品は任意で、ポリマー又はミネラル繊維を含む第2繊維状マットを含み得る(ここで、セメント系コアは、第1繊維状マットと第2繊維状マットの間に配置される)。第2繊維状マットは、第1繊維状マットと同じか、又は異なるものであり得る。さらに、第2繊維状マットは、本明細書中にて説明する疎水性仕上げ塗料を含み得るし、又はこのような仕上げ塗料を含まないものであり得る。セメント系物品が、ボード又はパネルの形態である場合には(例えば、石膏ボード、セメントボードなど)、第2繊維状マットは好ましくは、材料及びセメント系コアに対する配向性の両方が、第1繊維状マットと同様であるか、あるいは、(セメント系物品の曲げが低減されたり除去されるように)第1繊維状マットと十分同様の伸張特性及び収縮特性を有する。第2繊維状マットが第1繊維状マットと同様である場合には、第1及び第2繊維状マットは、(例えば、セメント系コアの周囲を巻くように、単一の繊維状マット片を折りまげることによって)単一の連続した材料片によって提供され得る。
【0023】
セメント系コアは、任意の適切な添加剤とともに、任意の材料、物質、あるいは水硬セメントを含む組成物か又は水硬セメント由来の組成物を含み得る。セメント系コア中で使用され得る材料の例としては、ポルトランドセメント、ソーレル(sorrel)セメント、スラグセメント、フライアッシュセメント、カルシウムアルミナセメント、水溶性硫酸カルシウム無水物、α硫酸カルシウム0.5水和物、β硫酸カルシウム0.5水和物、天然の硫酸カルシウム0.5水和物、合成の硫酸カルシウム0.5水和物、又は化学修飾した硫酸カルシウム0.5水和物、硫酸カルシウム二水和物(「石膏」、「凝固石膏」、又は「石膏水和物」)、並びにこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定しない。本明細書中にて使用するように、用語「硫酸カルシウム材料」は、上に記載した硫酸カルシウムの任意の形態を指す。
【0024】
添加剤は、石膏ボード又はセメントボードなどの、セメント系物品を製造するために一般に使用される任意の添加剤であり得る。このような添加剤としては、ミネラルウール、連続的な又は切断済のガラス繊維(繊維ガラスとも呼ぶ)、パーライト、クレイ、バーミキュライト、炭酸カルシウム、ポリエステル、及び紙繊維などの構造性添加剤、並びに、発泡体、充填剤、促進剤、糖類、増強剤(リン酸塩、ホスホン酸塩、ホウ酸塩など)、遅延剤、結合剤(例えば、デンプン及びラテックス)、着色剤、殺菌剤、殺生物剤などのような化学性添加剤が挙げられるが、限定されない。これら及び他の添加剤のうちいくつかの使用例は、例えば、米国特許第6,342,284号、同第6,632,550号、同第6,800,131号、同第5,643,510号、同第5,714,001号、及び同第6,774,146号、並びに米国特許公報2004/0231916 A1、同2002/0045074 A1、及び同2005/0019618 A1にて、説明されている。
【0025】
好ましくは、セメント系コアは、硫酸カルシウム材料、ポルトランドセメント、又はこれらの混合物を含む。有利には、セメント系コアはまた、シリコンを基礎とした材料(例えば、シラン、シロキサン、又はシリコン樹脂マトリックス)などの疎水性薬剤も、コア材料の耐水性を改善するのに適切な量にて含む。セメント系コアは、酸化マグネシウム(例えば、死焼酸化マグネシウム)、フライアッシュ(例えば、クラスCフライアッシュ)、又はそれらの混合物などの、シロキサン触媒を含むのもまた、好ましい。シロキサン及びシロキサン触媒は、任意の適切な量にて、及び本発明の耐水性セメント系物品の作製方法に関して、本明細書中に説明する任意の適切な方法か、又は例えば、米国特許公報2006/0035112 A1又は同2007/0022913 A1に説明されている任意の適切な方法によって、添加され得る。望ましくは、セメント系コアもまた、リン酸塩(例えば、米国特許第6,342,284号、同第6,632,550号、及び同第6,800,131号、並びに米国特許公報2002/0045074 A1、同2005/0019618 A1、及び同2007/0022913 A1に説明されている、ポリリン酸塩)、並びに/又は予め混合した不安定な及び安定な石鹸(例えば、米国特許第5,683,635号、及び同第5,643,510号に説明されている)などの、強度増進添加剤を含む。セメント系コアは、紙繊維又はガラス繊維を含み得るが、好ましくは実質的には、紙繊維及び/又はガラス繊維を含まない(例えば、約1重量%未満、約0.5重量%未満、約0.1重量%未満、又はさらに約0.05重量%未満の紙繊維及び/又はガラス繊維を含むか、あるいはこのような繊維を含まない)。
【0026】
セメント系物品は、所望の適用のために適切な任意のタイプ又は形状のいずれかであり得る。セメント系物品の例としては、任意のサイズ及び形状の石膏パネル及びセメントパネルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0027】
セメント系物品は、本明細書中に説明される本発明の方法を含むが、これらに限定されないような、任意の適切な方法によって作製され得る。本発明の繊維状マット張りのセメント系物品の作製方法の実施態様は、(a)ポリマー又はミネラル繊維を含む第1繊維状マット上にセメント系スラリーを堆積させる工程であって、ここで第1繊維状マットが、少なくともその1つの表面上に疎水性仕上げ塗料を含み、セメント系スラリーは疎水性仕上げ塗料上に堆積される、工程、及び(b)セメント系スラリーを硬化させて、繊維状マット張りのセメント系物品を提供する工程、を含む。
【0028】
本発明のセメント系物品の作製方法は、当該分野で公知の繊維状マット張りのセメント系物品を作り出すのに使用される既存の石膏ボード製造ラインにて行われ得る。簡単に言うと、プロセスは代表的には、コンベヤー上に、又はコンベヤー上に設置してある成型テーブル上に、繊維状マット材料を放出することを含み、これは次いで、ミキサーの放出管の下に位置付けされる(例えば、当該分野で公知のゲート−キャニスター−ブート(gate−canister−boot)配置、又は米国特許第6,494,609号及び同第6,874,930号に説明された配置)。セメント系スラリーの構成成分は、放出管を含むミキサーに供給されて、ここで激しく動かされてセメント系スラリーが形成される。発泡体が放出管に添加され得る(例えば、米国特許第5,683,635号及び同第6,494,609号に説明されているように、ゲート内において)。セメント系スラリーは、繊維状マット上張り材料上に放出される。スラリーは、必要に応じて、繊維状マット上張り材料上に広げられて、任意で第2の上張り材料(これは、繊維状マット又は他のタイプの上張り材料(例えば、紙、ホイル、プラスチックなど)であってよい)でカバーされる。これによって、提供された湿ったセメントの集合体は、製品が所望の厚みに大きさを整えられる成型区画へ、及びセメント系物品を提供するために所望の長さに切断される1以上のナイフセクションへと運搬される。セメント系物品は硬化されて、任意で過剰な水が乾燥工程(例えば、空気乾燥するか、又はキルンを通して、セメント系物品を輸送することによる)を使用して除去される。上記の各工程は、これらの工程を行うためのプロセス及び設備と同様に、当該分野で公知である。石膏及びセメントボードなどのセメント系物品の製造において、最初のスラリーを堆積させる前に、上張り材料の上に比較的高密度のスラリー層を堆積させること、並びに、堆積したスラリーから、大きな隙間やエアポケットを除去するために振動を使用することもまた、一般的である。また、当該分野で公知のハードエッジも、時々使用される。これらの工程又は要素(高密度スラリー層、振動、及び/又はハードエッジ)は、本発明と組み合わせて、任意に使用され得る。
【0029】
セメント系物品の作製方法に従って使用される第1繊維状マットの全ての局面は、本発明のセメント系物品に関して、本明細書中に説明される通りである。
【0030】
セメント系スラリーは、第1繊維状マットの疎水性仕上げ塗料と接触しているが、セメント系スラリーは好ましくは、第1繊維状マットに実質的に浸透せずそれによって、第1繊維状マットがセメント系スラリーの中に、任意の実質的な程度にて埋め込まれるのを防いでいる。好ましくは、セメント系スラリーは、マットの厚みの約50%未満、より好ましくは、マットの厚みの約30%未満、約15%未満、約10%未満、さらには約2%未満(例えば、約1%未満)浸透している。最も好ましくは、セメント系スラリーは、マット上の疎水性仕上げ塗料を越えて、全く浸透しない。本発明に関連する好ましい局面によれば、セメント系スラリーは好ましくは、少なくとも部分的には、疎水性仕上げ塗料と接着する。
【0031】
第1繊維状マットを製造ラインに運搬するに先立って、疎水性仕上げ塗料が、第1繊維状マットに塗布され得る。あるいは、疎水性仕上げ塗料は、製造ライン上の第1繊維状マットに塗布され得る。この点において、本発明の方法は、第1繊維状マット上にセメント系スラリーを堆積させる前に、第1繊維状マット上に疎水性仕上げ塗料を堆積させることをさらに含み得る。任意の適切な疎水性仕上げ材料は、本明細書中に先に説明したように使用され得る。疎水性仕上げ塗料は、(疎水性仕上げ材料をはけで塗ること、噴霧すること、ローラーがけすること、注ぐこと、浸すこと、ふるいにかけること、又は上塗りすることによるなどの)当該分野で公知の任意の様々な技術によって、第1繊維状マット上に堆積され得る。
【0032】
液体として塗布される場合には、疎水性仕上げ塗料は好ましくは、第1繊維状マット上にセメント系スラリーを堆積させる前に乾燥される。疎水性仕上げ塗料は、(仕上げ塗料又は仕上げ塗料を含むマットに熱を加えることによるなどの)任意の適切な方法によって乾燥され得る。
【0033】
任意で、繊維状マット張りのセメント系物品の作製方法は、セメント系スラリーを硬化させるのに先立って、セメント系スラリーを第2繊維状マットと接触させることをさらに含み得る(ここで、セメント系スラリーは、第1繊維状マットと第2繊維状マットとの間に配置される)。第1及び第2繊維状マットの他の全ての局面は、本発明のセメント系物品に関して説明されている通りである。
【0034】
セメント系スラリーは、適切な粘性度を提供するための十分な水と一緒に、セメント系物品のセメント系コアに関して適切又は好ましいとして先に説明している、任意のセメント材料及び添加剤を含む。スランプ試験により測定する場合には、セメント系スラリーは、代表的には、約5インチから約8インチ(又は約10cmから約20cm)(例えば、約6インチから約7インチ(又は約15cmから約18cm))の直径を有するパテを生じるであろう。スランプ試験を使用するスラリー粘性度の測定手法は、当該分野で公知である。簡単に言うと、直径2インチ(又は5cm)のチューブに、高さ4インチ(10cm)までスラリーを詰める。製造ラインからスラリーをサンプリングしてから5秒以内に、平坦で水平な表面上に、スラリーをチューブから放出し、パテ状に拡散させる。スラリーが拡散を停止したら、スラリーパテの一番幅の広い直径を測定する(円形ではない(例えば、楕円形)スラリーパテの場合には、スラリーパテの一番幅の広い直径が、一番幅の広い直径に対して垂直方向のスラリーパテの直径と平均される)。
【0035】
繊維状マット張りのセメント系物品の作製方法の他の局面は、本発明のセメント系物品に関して本明細書中に説明する通りである。本明細書中に具体的に説明されていない繊維状マット張りのセメント系物品の作製方法の局面は、従来のセメント系物品(特に、繊維状マット張りのセメント系物品)の製造において公知でありかつ使用されている技術によって提供され得る。
【0036】
関連した局面において、本発明は、以下の工程を含む耐水性セメント系物品の作製方法を提供する:(a)水中に約4重量%から約8重量%のシロキサンを含む、水性シロキサン分散物を作製する工程、(b)セメント系スラリーを提供するために、セメント系混合物とシロキサン分散物を混合する工程、(c)上張り又は他のタイプの基質上にセメント系スラリーを堆積させる工程、及び(d)セメント系スラリーを硬化させて、セメント系物品を提供する工程。
【0037】
セメント系混合物に耐水性を与えるのに適切な任意のシロキサンが使用され得る。シロキサンは、水素で修飾された環状シロキサン、又は好ましくは、水素で修飾された直鎖状シロキサンでありうる。シロキサンは、望ましくは液体(例えば、シロキサンオイル)である。代表的には、本発明の実施に有用な水素で修飾された直鎖状シロキサンは、一般式:−Si(H)(R)−O−(式中、Rは、飽和又は不飽和の1価炭化水素基を表す)の繰り返しユニットを有するものを含む。好ましい実施態様においては、Rはアルキル基を表し、最も好ましくは、Rはメチル基である。好ましいシロキサンは、高度に架橋されたシリコン樹脂を形成することが可能である。ポリマー化の間に、末端基が縮合により除去されて、シロキサン基が、シリコン樹脂を形成するために一緒になって結合される。鎖の架橋もまた、起こる。生じたシリコン樹脂は、形成するときに石膏マトリックスに耐水性を付与する。このような適切なシロキサンは市販されており、特許文献中に説明されている(例えば、Wacker−Chemie GmbH (Munich, Germany)によって、SILRES BS 94の名称で販売されている低溶媒又は無溶媒のメチル水素シロキサン液)。
【0038】
シロキサン分散物は、好ましくは、水中に約4重量%から約8重量%のシロキサン、好ましくは水中に約4重量%から約5重量%のシロキサンを含む分散物を提供するのに十分な量にて、ミキサー内にシロキサン及び水を導入し、分散物を作製するために混合物を処理することによって作製される。より好ましくは、分散物は、水中に、4重量%より多く、及び/又は8重量%未満のシロキサンを含む。例として、分散物は、水中に、約4.1重量%、4.2重量%、4.3重量%、4.4重量%又は4.5重量%から、約5重量%,6重量%、又は7重量%までのシロキサンを含み得る。好ましくは、分散物は水中にシロキサンの小滴を含み、ここで小滴は、平均粒径が約50ミクロン以下か、好ましくは約30ミクロン以下か、又はさらには約20ミクロン以下(例えば、約10ミクロン以下)である。より好ましくは、小滴は、約75%以上、80%以上、85%以上、さらには90%以上、又はさらには95%以上の小滴が、約50ミクロン以下、好ましくは約30ミクロン以下、又はさらには約20ミクロン以下(例えば、約10ミクロン以下)の粒径を有するような、粒径分布を有する。分散物中のシロキサンの小滴の、粒径及び粒径分布は、動的光散乱分析によってなどの、日常的な技術を使用して決定され得る。
【0039】
本発明の好ましい局面によれば、分散物がセメント系コアの他の構成成分と混合されるのに十分な時間の間、シロキサンの小滴が水中で分散したままでいるように(すなわち、シロキサン相は、実質的には水相から分離しない)、分散物は安定化される。例えば、本発明の好ましい局面によれば、混合後すぐに取られて、静置された分散物サンプルが、1分以内に(例えば、2分以内)サンプル表面上に、可視化可能な小滴の融合を示さないような安定性を、分散物が有するであろう。
【0040】
高剪断ミキサー又は超高剪断ミキサーが、望ましくは、シロキサンを水中に分散させるために使用される。高剪断ミキサー又は超高剪断ミキサーは、シロキサンの水中分散物(シロキサン小滴は、上に説明した粒径又は粒径分布特性を有している)を生産できる任意のミキサーであり得る。適切な高剪断ミキサーのタイプとしては、機械剪断ミキサー(ピンタイプミキサー、刃タイプミキサー、ローターステーターミキサー、及びディスクタイプミキサーなど)、並びに水圧式剪断ミキサーが挙げられる。好ましいミキサーは、約9,000から約15,000フィート毎分(FPM)(又は約40から約80メートル毎秒(mps)(例えば、約10,000から12,000FPM(又は約50から約60mps)の先端速度を出すことのできるミキサーである。使用され得る高剪断ミキサーの例としては、Silverson Machines, Inc., East Longmeadow, MAにより製造される、312/45 MS 高剪断ミキサー(20hp,3600RPM)、及び、X−Series Mixerエマルシファイア(30から75HP)(例えば、Charles Ross&Son Company,Hauppauge,NYにより製造される、ME−430XS−6、ME−440XS−9、ME−475XS−12、HSM709X−40、HMS712X−75など)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
シロキサン及び水は、別々に又は一緒に、同時に又は任意の順序にて順次、分散用ミキサー、好ましくは高剪断ミキサー内に、導入され得る。分散物がバッチ混合によって作製される場合には、水は好ましくは、シロキサンに先立って添加される。しかし、連続的な生産方法のためには、バッチ混合は一般に、不便であり経済的でもない。従って、分散物を連続的な方法で生産するために、ライン内にある分散用ミキサーが、好ましくは使用され、この場合には、シロキサン及び水が、ライン内にある分散用ミキサーに、継続的かつ同時に、適正比率にて供給され得る。水性シロキサン分散物は、好ましくは、乳化剤又は分散剤を含まない。
【0042】
水性シロキサン分散物は、セメント系スラリーを提供するために、セメント系混合物と混合される。当業者は、セメント系混合物は、固形構成成分及び液体構成成分を含むことを、理解するだろう。例として、水中で上に説明した量のシロキサンを含むシロキサン分散物は、セメント系混合物の固形構成成分及び/又は液体構成成分を含むミキサー(例えば、ボードミキサー)内に、直接導入され得る。しかし好ましくは、シロキサン分散物は、セメント系混合物の液体構成成分(例えば、水)と最初に混合され、続いてセメント系混合物の固形構成成分(例えば、続いてボードミキサーに運搬される、計量した水又は他の水に、シロキサン分散物を添加することによって)と混合される。シロキサン分散物は、好ましくは、最終的なセメント系製品(例えば、硬化して乾燥したセメント系製品)中のシロキサン含有量が、最終的なセメント系製品重量に基づき、約0.3重量%から約2重量%(例えば、約0.5重量%から約1.5重量%、又は約0.6重量%から約1重量%)を提供するために十分な量にて、セメント系混合物に添加される。例えば、1500lbs/msfのセメント系パネル(例えば、標準的な1/2インチ石膏パネル)を仮定すると、最終的なセメント系製品(例えば、硬化して乾燥したセメント系製品)中に、約5lbsシロキサン/1000平方フィートから約30lbsシロキサン/1000平方フィート(又は約20gシロキサン/mから約150gシロキサン/m)(例えば、約7lbsシロキサン/1000平方フィートから約20lbsシロキサン/1000平方フィート(又は約30gシロキサン/mから約100gシロキサン/m)、又はさらには約10lbsシロキサン/1000平方フィートから約14lbsシロキサン/1000平方フィート(又は約50gシロキサン/mから約70gシロキサン/m))を提供するのに十分な量にて、シロキサン分散物がセメント系混合物に添加され得る。
【0043】
セメント系スラリーは、シロキサン触媒(例えば、フライアッシュ(特にクラスCフライアッシュ)、酸化マグネシウム(特に死焼酸化マグネシウム)、又は最も好ましくはそれらの組み合わせ)を任意に含む。フライアッシュは好ましくは、乾燥セメント構成成分の重量(例えば、スタッコの乾燥重量)に基づき、約0.1%から約5%の量にて使用される。酸化マグネシウムは好ましくは、乾燥セメント構成成分の重量(例えば、スタッコの乾燥重量)に基づき、約0.1%から約0.5%の量にて使用される。フライアッシュ対酸化マグネシウムの比率は、望ましくは、約2:1から約3:1である。
【0044】
セメント系スラリーの他の局面は、本発明のマット張りのセメント系物品の作製方法に関して、先に説明された通りである。水性シロキサンエマルジョンの作製及び、エマルジョンのセメント系スラリーとの混合についての他の局面は、米国特許公報2007/0022913 A1に説明されている通りである。
【0045】
繊維状マット上張り材料が基質として使用される必要がないことを条件として、繊維状マット張りのセメント系物品の作製方法に関して本明細書中で説明されたように、公知の方法に従って既存の製造ラインにて、セメント系スラリーは、基質上に堆積され得る。むしろ基質は、例えば、代表的にはセメント系物品を上張りするのに使用される任意の上張り材料(例えば、紙製上張り材料)などの、任意の適切な基質であり得る。しかし好ましくは、基質は、ポリマー又はミネラル繊維を含む繊維状マット上張り材料である。
【0046】
ポリマー又はミネラル繊維を含む第1繊維状マットを基質として用いることは、特に有利である(ここで、第1繊維状マットは、その少なくとも1つの表面上に疎水性仕上げ塗料を含む)。このような基質が使用される場合には、繊維状マットの疎水性仕上げ塗料上に、スラリーを堆積させることがさらに好ましい。さらに、第1及び第2繊維状マットが有利に使用され得る(ここで、セメント系スラリーは、繊維状マットの間に配置される)。このような適切な繊維状マット、疎水性仕上げ塗料、及びセメント系物品を提供するためのこれらの使用方法は、本発明の繊維状マット張りのセメント系物品及び繊維状マット張りのセメント系物品の作製方法に関して、本明細書中に説明された通りである。
【0047】
耐水性セメント系物品の作製方法の全ての他の局面は、繊維状マット張りのセメント系物品又はマット張りのセメント系物品の作製方法に関して、本明細書中に説明された通りである。具体的に本明細書中に説明されていない耐水性セメント系物品の作製方法の局面は、従来のセメント系物品(特に、繊維状マット張りのセメント系物品)の製造において公知でありかつ使用されている技術によって、供給され得る。
【実施例1】
【0048】
以下の実施例は、本発明の繊維状マット張りのセメント系物品の作製について例示する。
【0049】
2種類の繊維状マット:ガラス繊維のみを含む第1マット、並びに85重量%のガラス繊維及び15重量%のポリエステル繊維の混合物を含む第2マット、を作製する。両マットは、不織布であり、メラミンホルムアルデヒド/アクリル結合剤を19重量%含んでいた。
【0050】
セメント系スラリーは、ボードミキサーにおいて、表1に提供される処方を使用して作製する。スラリーのシロキサン構成成分は、高剪断ミキサー(例えば、Silverson Machines,Inc.,East Longmeadow,MAにより製造された312/45 MS高剪断ミキサー(20hp,3600rpm)、及びCharles Ross&Son Company,Hauppauge,NYにより製造されたX−Series Mixerエマルシファイア(60Hz、3,600rpm))を使用して、水中(例えば、水分散物中に、4.1〜4.4重量%シロキサン)に分散して、スラリーを作製するために使用された計量した水の中に導入する。
【0051】
繊維状マットを、セメント系パネルの表面(下側に形成される)及び裏面(上側に形成される)への塗布のために配置する。マットは張力を与えて整列させるシステムを通過させて、表面マットに、所望のボード幅(例えば、48インチ)にて、所望の厚み(例えば、5/8インチ)及び所望のエッジ(例えば、正方形)を形成するために折り目をつける。好ましくは、表面マットに疎水性仕上げ塗料を塗布する。表面マットは、ボードミキサー下を通過させて、セメント系スラリーを表面マット上に堆積する。セメント系スラリーを堆積させるに先立っては、高密度層を堆積させず、マットを通したスラリー浸透を低減させるのを助けるために、いずれのスラリー振動装置の電源も切る。
【0052】
【表1】

【0053】
スラリーを配置済みの折り目をつけた表面マットを、エンベロープ状に成型して、成型プレート下を通過させる。成型された表面マットが成型プレートに入る時点で、背面マットを表面マットのエッジに接触するように置く。マットが交わる場所にて、表面ガラスマットを背面ガラスマットに接着するために、合成接着剤のビーズを使用する。この交差線において、表面及び背面のガラスマットに、スラリーは接触していない。
【0054】
スラリーで充填された、完成したガラスマットエンベロープは、成型プレートを出て、ボードベルトに移動する。ボードベルトを下って約30秒の時点で、スラリーが水和化するまで、ガイドがエッジを正しい位置に維持する(約30秒時点で、エッジは自らを支持するようになる)。自らを支持するようになるまで、ボードはさらにラインを下って動く。その後、所望の最終的な長さよりもわずかに長く、ボードナイフでボードを切断する。ボードを裏返して、過剰な水を除去するために、ボードをキルンへと移動する。
【0055】
生じた産物は、耐水性が改善された繊維状マット張りのセメント系物品である。
【実施例2】
【0056】
以下の実施例は、繊維状マットを通るセメント系スラリーの浸透を防ぐために、繊維状マット上張り材料に塗布された、疎水性仕上げ材料の効率を例示する。
【0057】
様々な固形物ロード量及び粘性度にて、0.05重量%のポリリン酸三カリウム(分散剤)を含む水中に分散したタルク粉末(Talcron 40−26、粒径5ミクロン)を、(湿ったフィルムの厚みに基づき)5ミル又は15ミルの厚みでマットをコートするために、不織布ガラス繊維マットに塗布する。固形物ロード量、粘性度、及び仕上げ塗料の厚みを、表2に提供する。仕上げ塗料5〜7はまた、ヒドロキシエチルセルロース粘性度増強剤(0.05重量%)を含む。仕上げ塗料7はさらに、1重量%のホワイトワックスを含む。その後、セメント系スラリーを仕上げ材料上に堆積させる。
【0058】
【表2】

【0059】
スラリーの浸透量を、目視検査して、コントロール(仕上げ塗料1〜7を試験するのに使用したマットと同一のガラス繊維マットであるが仕上げ材料は含んでいないマットに同様のスラリーを適用することによって提供される)と比較する。
【0060】
コントロールのマットと比較して、より少量のスラリーが、仕上げ材料を含むマットに浸透しており、これは、繊維状マット上張り材料に、疎水性仕上げ塗料を塗布すると、繊維状マットを通るスラリーの浸透が低減されるか、又は排除されることを示している。
【実施例3】
【0061】
以下の実施例は、本発明の耐水性セメント系物品の作製を例示する。
【0062】
セメント系スラリーを、ボードミキサーにて、表1に提供した処方を使用して作製する。スラリーのシロキサン構成成分を、Silverson Machines,Inc.,East Longmeadow,MAにより製造された312/45 MS高剪断ミキサー(20hp,3600RPM)を使用して、水中(例えば、水分散物中に、4.1〜4.4重量%シロキサン)に分散させて、スラリーを作製するために使用される計量した水の中に導入する。11lb.シロキサン/msfボード(約0.43%重量/重量)を含む最終的なセメント系物品を提供するために十分な量にて、シロキサン分散物をボードミキサー内に導入する。(ASTM規格試験方法C 473を使用して、ボード欠陥が10%もない被覆材料、及び耐水性石膏背面ボードでは5%のASTM C1396/C 1396M−06の2時間浸水目標を合格する)紙張りのボード製品を作製するために、標準的な製造プロセスと組み合わせて、スラリーを使用する。
【0063】
Silversonミキサーの代わりに、Charles Ross&Son Company,Hauppauge,NYにより製造されるX−Series高剪断ミキサーME−430XS−6を使用する点を除いて同様の手法にて、第2のセメント系スラリーを作製し、10lb.シロキサン/msfボード(約0.39%重量/重量)を含む最終的なセメント系物品を提供するのに十分な量にて、シロキサン分散物をボードミキサーに添加する。(ASTM規格試験方法C 473を使用して、ボード欠陥が10%もない被覆材料、及び耐水性石膏背面ボードでは5%のC1396/C 1396M−06の2時間浸水目標を合格する)紙張りのボード製品を作製するために、標準的な製造プロセスと組み合わせて、スラリーを使用する。
【0064】
従来のプロセスを使用して、ASTM C1396規格に合格するような製品を製造するためには、典型的にはより高レベルのシロキサンが必要となる(例えば、12.5lbs.シロキサン/msf又は約0.5%重量/重量のオーダーにて)。本発明の耐水性セメント系物品の作製を例示する前出の実施例は、より低いシロキサンロード量にて有利に使用され得る。
【0065】
本明細書中に引用された、出版物、特許出願、及び特許を含む全ての引用文献は、あたかも各引用文献が個々にそして具体的に引用によって援用されて、その全体が本明細書中において説明されているように示されるのと同じ程度に、引用によって、本明細書に援用される。
【0066】
本発明の好ましい実施態様が、本明細書中に記載される。それらの好ましい実施態様の変形は、前記の記載を読めば、本発明の精神及び範囲を逸脱することなしに、当業者に明らかとなり得る。従って、本発明は、適用法によって許容される限り、本明細書に添付の特許請求の範囲に列挙された対象の全ての改変及び均等物を包含する。さらに、本明細書中に特段の指示なき限り、又は文脈と明らかに矛盾していない限り、これら全ての可能な変形における、先に記載した構成要件の任意の組み合わせが、本発明に包含される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む、繊維状マット張りのセメント系物品
(a)セメント系コア、及び
(b)ポリマー又はミネラル繊維を含み、かつその少なくとも1つの表面上に疎水性仕上げ塗料を含む第1繊維状マットであって、該疎水性仕上げ塗料が、該セメント系コアと接触している、第1繊維状マット。
【請求項2】
前記疎水性仕上げ塗料が、タルク、ワックス、疎水性樹脂、シリコンを基礎とした化合物、脂肪酸又は脂肪酸の塩類、ポリエチレングリコール、12以上の炭素原子を有する炭化水素又はフッ化炭素界面活性剤、あるいはそれらの組み合わせを含む、請求項1に記載のセメント系物品。
【請求項3】
前記疎水性仕上げ塗料が、少なくとも約25ミクロンの厚みを有する層を提供する、請求項1に記載のセメント系物品。
【請求項4】
ポリマー又はミネラル繊維が、ガラス繊維、ポリエステル繊維、又はそれらの組み合わせである、請求項1に記載のセメント系物品。
【請求項5】
ポリマー又はミネラル繊維を含む第2繊維状マットをさらに含み、ここで、前記セメント系コアは、前記第1繊維状マットと該第2繊維状マットの間に配置される、請求項1に記載のセメント系物品。
【請求項6】
前記セメント系コアが、実質的にミネラル又は紙繊維を含まない、請求項1に記載のセメント系物品。
【請求項7】
前記セメント系コアが、疎水性添加剤を含む、請求項1に記載のセメント系物品。
【請求項8】
前記疎水性添加剤が、シリコンを基礎とした材料である、請求項7に記載のセメント系物品。
【請求項9】
前記セメント系コアが、不安定及び安定な石鹸を含む、請求項1に記載のセメント系物品。
【請求項10】
前記セメント系コアが、ポリリン酸塩を含む、請求項1に記載のセメント系物品。
【請求項11】
前記ポリリン酸塩が、トリメタリン酸ナトリウムである、請求項10に記載のセメント系物品。
【請求項12】
以下の工程を含む、繊維状マット張りのセメント系物品の作製方法
(a)ポリマー又はミネラル繊維を含み、かつその少なくとも1つの表面上に疎水性仕上げ塗料を含む第1繊維状マット上にセメント系スラリーを堆積させる工程であって、該セメント系スラリーが、該疎水性仕上げ塗料上に堆積される工程、及び
(b)該セメント系スラリーを硬化させることによって、繊維状マット張りのセメント系物品を提供する工程。
【請求項13】
前記疎水性仕上げ塗料が、タルク、ワックス、疎水性樹脂、シリコンを基礎とした化合物、脂肪酸又は脂肪酸の塩類、ポリエチレングリコール、12以上の炭素原子を有する炭化水素又はフッ化炭素界面活性剤、あるいはそれらの組み合わせを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記方法が、前記第1繊維状マット上に前記セメント系スラリーを堆積させる前に、該繊維状マット上に疎水性仕上げ塗料を堆積させることをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記方法が、前記第1繊維状マット上に前記セメント系スラリーを堆積させる前に、前記疎水性仕上げ塗料を乾燥することをさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記疎水性仕上げ塗料が、少なくとも約25ミクロンの厚みを有する層を提供する、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記ポリマー又はミネラル繊維が、ガラス繊維、ポリエステル繊維、又はそれらの組み合わせである、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
前記セメント系スラリーを硬化させるに先立って、該セメント系スラリーを第2繊維状マットと接触させることをさらに含み、ここで、該セメント系スラリーが、前記第1繊維状マットと該第2繊維状マットの間に配置される、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
前記セメント系スラリーが、実質的に紙又はミネラル繊維を含まない、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
前記セメント系スラリーが、疎水性添加剤を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項21】
前記疎水性添加剤が、シロキサンである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記セメント系スラリーが、放出管を含むミキサー内で混合されて、かつ、前記第1繊維状マット上に該スラリーを堆積させるに先立って、発泡体が該放出管において該セメント系スラリーに添加される、請求項12に記載の方法。
【請求項23】
前記セメント系スラリーが、予め混合した不安定及び安定な石鹸を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項24】
前記セメント系スラリーが、ポリリン酸塩を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項25】
前記ポリリン酸塩がトリメタリン酸ナトリウムである、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
以下の工程を含む、耐水性セメント系物品の作製方法
(a)水中に約4重量%から約8重量%のシロキサンを含む水性シロキサン分散物を作製する工程、
(b)セメント系スラリーを提供するために、該シロキサン分散物をセメント系混合物と混合する工程、
(c)基質の上に該セメント系スラリーを堆積させる工程、及び
(d)該セメント系スラリーを硬化させることによって、耐水性セメント系物品を提供する工程。
【請求項27】
前記水性シロキサン分散物が、約50ミクロン未満の平均粒径を有する分散したシロキサン粒子を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記シロキサン粒子が、約30ミクロン未満の平均粒径を有する、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記水性シロキサン分散物が、硬化して乾燥したセメント系スラリー重量に基づき、約0.3重量%から約2重量%のシロキサンを提供するのに十分な量にて、前記セメント系混合物中に添加される、請求項26に記載の方法。
【請求項30】
前記セメント系混合物が、固形構成成分及び液体構成成分を含み、かつ、前記シロキサン分散物が、該セメント系混合物の液体構成成分と最初に混合されて、続いて該セメント系混合物の該固形構成成分と混合される、請求項26に記載の方法。
【請求項31】
前記基質が、ポリマー又はミネラル繊維を含む第1繊維状マットである、請求項26に記載の方法。
【請求項32】
前記第1繊維状マットが疎水性仕上げ塗料を含み、かつ、前記セメント系スラリーが該疎水性仕上げ塗料上に堆積される、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記方法が、前記第1繊維状マット上に前記セメント系スラリーを堆積させる前に、該繊維状マット上に疎水性仕上げ塗料を堆積させることをさらに含む、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記方法が、前記第1繊維状マット上に前記セメント系スラリーを堆積させる前に、前記疎水性仕上げ塗料を乾燥することをさらに含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記疎水性仕上げ塗料が、タルク、ワックス、疎水性樹脂、シリコンを基礎とした化合物、脂肪酸又は脂肪酸の塩類、ポリエチレングリコール、12以上の炭素原子を有する炭化水素又はフッ化炭素界面活性剤、あるいはそれらの組み合わせを含む、請求項32に記載の方法。
【請求項36】
前記疎水性仕上げ塗料が、少なくとも約25ミクロンの厚みを有する層を提供する、請求項32に記載の方法。
【請求項37】
前記ポリマー又はミネラル繊維が、ガラス繊維、ポリエステル繊維、又はそれらの組み合わせである、請求項31に記載の方法。
【請求項38】
前記セメント系スラリーを硬化させるに先立って、該セメント系スラリーを第2繊維状マットと接触させることをさらに含み、ここで、該セメント系スラリーは、前記第1繊維状マットと該第2繊維状マットとの間に配置される、請求項31に記載の方法。
【請求項39】
前記セメント系スラリーが、実質的に紙又はミネラル繊維を含まない、請求項26に記載の方法。
【請求項40】
前記セメント系スラリーが、放出管を含むミキサー内で混合されて、かつ、前記基質上に該スラリーを堆積させるに先立って、発泡体が該放出管において該セメント系スラリーに添加される、請求項26に記載の方法。
【請求項41】
前記セメント系スラリーが、予め混合した不安定及び安定な石鹸を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項42】
前記セメント系スラリーが、ポリリン酸塩を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項43】
前記ポリリン酸塩がトリメタリン酸ナトリウムである、請求項42に記載の方法。

【公表番号】特表2010−517827(P2010−517827A)
【公表日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−549237(P2009−549237)
【出願日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際出願番号】PCT/US2008/053304
【国際公開番号】WO2008/100777
【国際公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願人】(596172325)ユナイテッド・ステイツ・ジプサム・カンパニー (100)
【Fターム(参考)】