説明

耐水性家具

【課題】ベランダ、屋外テラスのあるレストラン、屋外ステージ、プール等の屋外において用いる、少なくとも一部に天然素材を含むイスやテーブル等の家具として好適な耐水性家具を提供することを課題とする。
【解決手段】少なくとも一部に籐、木材等の天然素材部分を有するイス、テーブル等の家具であって、前記天然素材部分の表面に、アルコキシシランと、前記シラン系化合物を硬化及び/又は固化させる触媒と、前記シラン化合物及び/又は前記触媒と反応しうる置換基をその分子内に有する高分子化合物と、前記シラン系化合物、前記触媒及び前記高分子化合物を均一に溶解させる溶媒とから成る塗工液を塗布したことを特徴とする耐水性家具である。好ましくは、固形分である前記シラン化合物、前記触媒及び前記高分子化合物の合計含有量を20〜75質量%とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐水性家具、より詳細には、例えばベランダ、屋外テラスのあるレストラン、屋外ステージ、プール等の屋外において用いるイスやテーブル等の家具であって、十分な撥水性を有するために、雨ざらし状態に置かれても劣化しにくい木材、籐等の天然素材を用いた耐水性家具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記ベランダ、屋外テラスのあるレストラン、屋外ステージ、プール等の屋外において用いられるイスやテーブル等の家具としては、雨水に晒されることを前提に、全体をプラスチック成形したものが多く用いられている。また、アルミニウムやステンレス製のチューブでイス形状に形成したフレームの座面及び背もたれ面対応部に、耐水性のある合成樹脂製編成材を編成して座面及び背もたれ面を形成したものも多く用いられている。
【0003】
一方において、籐や木等の天然素材は、見る人、使う人にぬくもり感や安らぎ感を与えるものであるため、建築材料や家具等に広く利用されている。しかし、これらの天然素材製のイスやテーブル等の家具は、その表面に水がかかると、天然素材の内部に水が浸透して素材が腐るため、長期使用に耐えられなくなる。また、水が素材内部に浸透することにより、内部にカビ等が生え、素材の耐久性が低下することになる。
【0004】
従って、籐や木等の天然素材製の家具につき、ベランダ、屋外テラスのあるレストラン、屋外ステージ、プール等の屋外においても使用したいとの要望があるものの、その要望に応えることができず、屋外用としては専ら上記プラスチック製等のものしか用いられていないのが現状である。
【0005】
もちろん、上記天然素材に対しては表面処理(表面塗装)がなされている。その表面処理剤(塗料)としては従来、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等が用いられており、これらの樹脂は、有機高分子であるために十分な撥水性を示すが、有機高分子を木材の表面に塗工すると、その表面から自然の風合いが失われてしまうという問題がある。しかも、有機塗料は火が近づくと燃え(こげ)、有害なガスを発生させるおそれがあり、更に、ホルムアルデヒド発生の問題もあり、安全上問題が多い。
【0006】
このような問題を解決する塗料として天然物由来の塗料がある。それらは原料に天然の油状物性を使用しているため、自然の風合いを残すことが可能であり、ホルムアルデヒドの発生を伴わない、環境に優しい塗料であるということができる。しかし、原料の油状物質は木材等の表面で固定化されないため、屋外で長時間雨に当たると溶脱してしまい、長期の安定使用には耐えられず、また、表面が擦られると脱離してしまうので、この点からも長期安定使用は望めない。
【0007】
このように、従来の表面処理剤を塗布した天然素材性の家具は、長期間撥水性・耐水性を維持し、また、耐候性を維持しての長期間安定使用が望めないため、上記のとおり屋外においても使用したいとの要望があるものの、専ら屋内での使用に限らざるを得ないのが現状である。
【0008】
【特許文献1】特開平9−94524号公報
【特許文献2】特開平5−247347号公報
【特許文献3】特開平9−132733号公報
【特許文献4】特開平9−132756号公報
【特許文献5】特開2007−145896号公報
【特許文献6】実公平7−1012号公報
【特許文献7】実用新案登録第3078479号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、上記有機系塗料及び無機系塗料の問題点を解決することにより、撥水性・耐水性に優れ、特に長期間水と接触しても内部に水蒸気が浸透し難くて、耐久性が良好な表面塗工膜を提供することを可能にし、以て、ベランダ、屋外テラスのあるレストラン、屋外ステージ、プール等の屋外において用いる、少なくとも一部に天然素材を含むイスやテーブル等の家具として好適な耐水性家具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための請求項1に記載の発明は、少なくとも一部に籐、木材等の天然素材部分を有するイス、テーブル等の家具であって、前記天然素材部分の表面に、アルコキシシランと、前記シラン系化合物を硬化及び/又は固化させる触媒と、前記シラン化合物及び/又は前記触媒と反応しうる置換基をその分子内に有する高分子化合物と、前記シラン系化合物、前記触媒及び前記高分子化合物を均一に溶解させる溶媒とから成る塗工液を塗布したことを特徴とする耐水性家具である。好ましくは、固形分である前記シラン化合物、前記触媒及び前記高分子化合物の合計含有量を20〜75質量%とする。
【0011】
上記アルコキシシランは、下記式(1)で示されるものであることが好ましい。

(式(1)において、R、R及びRは、それぞれ同一又は異なってもよい、水素原子又は炭素数が1〜4のアルキル基であり、Rはこれらの基内にハロゲン原子又はエポキシ基を含んでもよい、炭素数が1〜10のアルキル基、アルケニル基又はフェニル基であり、nは2〜10である。)
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、天然素材の表面に、その風合いを損なうことなく良好な撥水性及び耐水性を付与することができるため、ベランダ、屋外テラスのあるレストラン、屋外ステージ、プール等の屋外において用いる、少なくとも一部に天然素材を含むイスやテーブル等の家具として好適な耐水性家具を提供しうる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、詳細に説明する。本発明において用いる天然素材としては、一般に木材、籐、竹等が考えられるが、これらに限定される訳ではない。そして、それら天然素材の表面に塗工する塗工液は、アルコキシシラン化合物(以下、シラン系化合物ということがある)及びシラン系化合物を硬化及び/又は固化させる触媒を主成分として含有し、更に、造膜性を上げる目的で、これらと反応可能な置換基を有する高分子化合物を含有し、それらを互いに溶解させる溶媒を必須とすることを特徴とするものである。
【0014】
上記シラン系化合物は、具体的には、下記式(4)で示されるシラン化合物が一般的に例示される。
Si(OR) (4)
(式(4)中、Rは、それぞれ同一又は異なってもよい、水素原子又は炭素数が1〜4のアルキル基である。)
【0015】
このシラン化合物中に含まれる置換基(アルコキシ基、OR)は、水と反応し、下記反応式1に示すように、加水分解・縮重合し、強固な3次元のシロキサン結合(≡Si−O−Si≡)のネットワークを形成する。
反応式1;
(1)≡Si−OR+HO → ≡Si−OH+ROH
(2)≡Si−OH+HO−Si≡ → ≡Si−O−Si≡+H
(3)≡Si−OH+RO−Si≡ → ≡Si−O−Si≡+ROH
【0016】
ここで得られるシロキサン結合の、結合エネルギーは106kcal/molである。一方、有機化合物の典型的な結合であるC−C結合の結合エネルギーは、82.6kcal/molである。従って、シラン化合物が加水分解・縮重合することによって生成する、シロキサン結合を有する塗工膜は、有機化合物由来の塗工膜と比べ、はるかに熱的に安定な塗工膜であることが分かる。この熱的に安定な結合によって形成される塗工膜は、耐熱性・耐摩耗性に優れたものとなり、その結果、耐熱性・耐摩耗性に優れた塗工膜の製造が可能となる。
【0017】
ところで、上記式(4)で示されるシラン化合物は強固なシロキサン結合を形成するが、その一方で、得られた結合が強固すぎる場合がある。特に、木材等(一般的な木材の他に、籐や竹等の天然素材も含むものと理解されたい。以下同様)の表面は有機性が強く、かつ温度や水分(湿度)の変化に伴い、伸び縮みを繰り返す特徴がある。このような場合、塗膜が硬すぎると、その伸び縮みを繰り返す間に、塗工膜が木材表面より剥がれ落ちる可能性がある。
【0018】
伸び縮みを繰り返す可能性のある木材等の表面に対し、その伸び縮みに伴う形状の変化に追従できる程度に柔軟性があり、かつ、得られた塗工膜を、より強固に木材表面と結合させるには、上記式(4)で示されるシラン化合物の代わりに、化学式(1)で示されるシラン化合物を用いると、より有効である。この式(1)で示される化合物は、3個の加水分解可能な置換基(RO、RO及びRO)と、1個の加水分解不可能な置換基(R)をその分子内に有していることを特徴としている。
【0019】
ここで、3個の加水分解可能な置換基(RO、RO及びRO)の役割は、式(4)のアルコキシ基(OR)と同様に、強固な3次元のシロキサン結合(≡Si−O−Si≡)のネットワークを形成することにある。
【0020】
また、1個の加水分解不可能な置換基(R)の役割は、反応が完全に終了しても生成した膜内に残り、得られた塗工膜に撥水性を与えることにある。そのためにはRは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基や、アルケニル基、フェニル基等であることが好ましく、またそれらは基内にハロゲン原子やエポキシ基等の置換基を含んでいてもよい。ハロゲン原子を含有することにより、形成された塗工膜は難燃性を示すという利点を有するが、一方では環境に対して悪影響を及ぼす可能性があるため、その使用は制限される。このように1個の加水分解不可能な置換基の役割は、得られた塗工膜に撥水性を与えることにあるが、その他に塗工膜に柔軟性を与える効果もある。
【0021】
ケイ素は4価の元素であるため、通常用いられている4個の加水分解可能な置換基を有するテトラアルコキシシラン(Si(OR))を用いると、4個のシロキサン結合が生じる。この結合は強固であるが故に柔軟性が無く、塗工後に生じる木材等の温度差等による収縮・膨張に耐えられず、塗工膜がひび割れることが多く、耐久性の低下の原因となる。
【0022】
また、このようなテトラアルコキシシランは完全な無機物であるため、有機物である木材等との相性が悪く、木材等/塗工膜間の付着強度が低く剥がれが生じ易い。このように、通常用いられている4個の加水分解可能な置換基を有するテトラアルコキシシランを用いると、塗工膜のひび割れや剥がれが生じることがあり、耐久性の高い塗工膜は得られない可能性がある。
【0023】
本発明で、より好ましく用いられる上記シラン化合物(1)は、1個の加水分解不可能な置換基(R)をその分子内に有している。即ち、重合した場合に、結合にあずからない部分が、そのネットワーク内に残存することとなる。これにより、隣接するケイ素原子との間で、強固なシロキサン結合の数が1つ足りないことになるが、その分、未反応な結合が、言わば「宙ぶらりん」の形で残るため、塗工膜の柔軟性を維持でき、それにより、得られた塗工膜が柔軟性を示すことになる。この塗工膜の柔軟性が木材等の収縮・膨張により生じる応力を緩和し、塗工膜のひび割れ防止の役割を果たす。
【0024】
従って、本発明でより好ましく用いられるシラン化合物(1)は、3個の加水分解可能な置換基と1個の加水分解不可能な置換基をその分子内に有していることを必要とするのである。このようなシラン化合物(1)の具体例としては、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、エチルトリプロポキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、γ-(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、β-(3、4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、-(メタクリロキシプロピル)トリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリス(βメトキシエトキシ)シラン等や、これらの2〜10分子程度の縮合体を挙げることができる。
【0025】
なお、シラン化合物(1)は、かかる単量体の1種類のみを縮合したものであっても、また上記例示した単量体の2種類以上を縮合したものであってもよい。このようなシラン化合物(1)は、単独で使用してもよいし、2種類以上の混合物として使用してもよい。
【0026】
ここで加水分解可能な置換基(RO、RO及びRO)は、水と反応し上記反応式1の(1)〜(3)に従い、最終的にはシロキサン結合(≡Si−O−Si≡)を生成する。これらの反応の内、式(1)の反応は最も緩やかな反応(律速段階)であり、式(1)の反応を素早く進行させることが重要である。式(1)の反応を速く進行させるには、通常酸触媒及び反応水が添加され、かつ高温で処理することが行われている。
【0027】
酸触媒を用いた場合、反応液に水と酸が添加された時点で反応が開始され、木材等の表面に塗工する時には、すでに塗工液内には微小なコロイド状シリカが生成している。このものは、コロイド状であるため、木材等の表面内部への浸透はせず、木材等の表面や表面に近い部分にのみ塗工される。従って、このようなコロイド状のシリカ溶液を用いても、十分に耐久性のある耐水性を有する塗工膜は得られない。また反応液内に含有されている酸触媒が、木材等の劣化を著しく促進するため、酸を含有した塗工液の使用は制限される。
【0028】
本発明では、木材等の表面から内部に浸透し易く、かつ内部に浸透したシラン化合物(1)が内部の水と反応し、その場で縮・重合反応を生じ、木材等の内部よりシロキサン結合のポリマーが成長することを想定している。その結果、木材等の内部の細部にまでポリマーが満たされることになり、水の浸入を十分に効果的に抑えることができる。そのため、本発明で用いられるシラン化合物(1)は、ある程度分子量の小さいものである必要がある。木材等の内部への浸透性を勘案すると、単量体(モノマー)が最適であるが、単量体は蒸気圧が高い、即ち、蒸発して飛散し易く、取り扱いが困難となるため、より好ましくはオリゴマー体、即ちn=2〜10程度のオリゴマー体を用いることが好ましい。これにより、木材等の内部への浸透性を高めるという目的を達成することができる。
【0029】
なお、このようなシラン化合物(1)は、水と反応してシロキサン結合を形成するが、木材等の処理剤として使用する本発明では、反応を促進させるための触媒として酸触媒を用いることは、上述したように、酸触媒の場合には木材等の劣化を著しく促進するという問題があるため、避けるべきである。本発明において酸触媒の代わりに用いるのに好適なのは、水と出会うと直ちにシラン化合物(1)の加水分解、及び、縮・重合反応を進行させることができる触媒である。
【0030】
このような触媒としては、加水分解可能な有機金属化合物が示される。有機金属化合物としては、例えば、金属アルコキシドが示される。このような目的で使用される金属アルコキシドとしては、アルミニウム、チタニウム、ジルコニウム等の金属のアルコキシドが挙げられる。より具体的には、テトラプロポキシチタネート、テトラブトキシチタネート、テトラプロポキシジルコネート、テトラブトキシジルコネート、トリプロポキシアルミネート、アルミニウムアセチルアセトナート等を挙げることができる。
【0031】
チタニウムのアルコキシドを例に挙げると、シラン化合物の反応は、以下のように進行する。
反応式2;
(4)≡Ti−OR+HO → ≡Ti−OH+ROH
(5)≡Ti−OH+RO−Si≡ → ≡Ti−O−Si≡+ROH
【0032】
このように、水と反応し易い金属アルコキシドとシラン化合物を含有する本発明の塗工液を木材等の表面に塗工すると、木材等の内部に両液剤が浸透し、内部に存在する水と金属アルコキシドが先ず反応し(反応式2の(4))、さらに分解した金属アルコキシドとシラン化合物とが反応し(反応式2の(5))、木材等の内部よりポリマーが生成する。これにより木材等の組織との間に強い付着力を持った膜が木材等の表面に得られる。これにより耐水性の高い塗工膜ができる。また一方で、反応にあずからない置換基(R)に由来する撥水性及び柔軟性により、塗工膜の耐久性をさらに向上させることができる。
【0033】
本発明の塗工液中における触媒の含有量は、シラン化合物中のケイ素原子及び金属アルコキシド中の金属原子(M)のモル比(M/Si)で、通常M/Si=0.001〜0.1、好ましくは0.005〜0.05である。触媒の含有量が0.001(下限値)より少ないと、短時間で反応が進行しないため、長時間未反応の状態、即ち、濡れた状態となり、作業性が悪いばかりでなく、膜の強度低下の原因となる。一方、0.1(上限値)より多いとシラン化合物と金属アルコキシド間の反応が不均一となり(金属アルコキシド同士が先に反応する)、ケイ素原子と金属原子の膜内でのバランスが悪くなり、これも膜強度の低下の原因となる。
【0034】
このようにして木材等の表面に形成された塗工膜は、木材等の表面のみに存在する高分子状のコート層ではなく、実際には表面から木材等の内部にまで入り込んで存在し、その内部で木材等の細孔を埋める役割を果たしている。従って、従来の塗工液とは異なり、木材等の表面には薄い塗工膜(コート層)が存在するのみであり、その結果、木材等の天然の風合いを損なうことなく残すことができる。即ち、木材等が本来有している湿度調整機能や風合いを損なうことなく、撥水性や耐久性を付与する表面処理が可能となる。
【0035】
このようにして得られた、シラン化合物と金属アルコキシドのみの高分子鎖は、強固であり且つ柔軟性を持つ優れた塗膜を与えるが、一方その塗膜は空隙の多いものである。そのため、この塗膜をそのまま使用すると、長時間水と接触したときに、水蒸気が塗膜内部に浸透し、内部を腐食することとなることが判明し、更なる改良に迫られた。
【0036】
そこで、本発明において用いる塗工液においては、シラン化合物及び/若しくは金属アルコキシドと反応しうる置換基をその分子内に持つ天然高分子化合物を塗工液内に共存させ、シラン化合物と金属アルコキシドが反応し、高分子鎖が成長するときに、その高分子鎖と反応し、その成長する高分子鎖内に、強固に取り込められるようにし、更にこれらの各成分を均一に溶解させる目的で、有機溶剤を共存させるようにしている。
【0037】
ここで用いられる、シラン化合物及び/若しくは金属アルコキシドと反応しうる置換基としては、アルコール性水酸基やフェノール性水酸基が上げられる。そのなかで、反応性が高いアルコール性水酸基がより好ましい。これらの置換基をその分子内に持つ天然高分子化合物としては、カイガラ虫分泌物(通称シェラック)、セルロース、キチン、キトサンや漆が挙げられる。特にカイガラ虫分泌物は使いやすい高分子であるために、より好ましく使用される。なおシェラックは、固体でもエタノールに溶解した液体状態でも販売されているが、使用し易さから液体状態のものを使用することが好ましい。
【0038】
本発明の塗工液に使用される天然高分子化合物の添加量は、特に制限はないが、その量が少なすぎると十分な効果が得られない。一方、多すぎると、天然高分子化合物が十分に塗膜内に固定化されないため、長時間水などが接触していると、剥がれ落ちるという問題がある。十分な効果が発揮される添加量は、塗工液剤の固形分換算で、少なくとも0.1質量%以上含まれることが必要である。好ましくは、1質量%〜70質量%、より好ましくは、5質量%〜60質量%が示される。
【0039】
本発明の塗工液に使用される固形分成分である、シラン化合物、金属触媒及び高分子化合物の、塗工液中での含有量は、その塗工目的や木材等の表面状態により適宜選択すべきであるが、木材等の内部への浸透し易さを考慮すると、通常、20〜75質量%、好ましくは25〜65質量%とする。これらの含有量が20質量%より少ないと、得られた塗工膜が薄くなりすぎ、撥水性や耐久性などの性能を十分に発揮することができないおそれがある。また、75質量%(上限値)より多いと、その反対に、得られた塗工膜が厚すぎ、撥水性などの性能は向上するが、ひび割れが発生するおそれがある。
【0040】
これらのシラン化合物、金属触媒及び高分子化合物を共に溶解させる目的で、溶媒を用いることが必須である。有機溶媒を使用しない場合、高分子化合物が塗工液中に溶解しにくく、また溶解しても、塗工液の粘度が高くなり、木材等の内部に液剤が浸透しにくくなる。そのため、本目的を達成するためには、有機溶剤を共存させることが必須である。この目的で用いられる有機溶剤としては、エタノール、イソプロピルアルコール、プロピルアルコール、ブタノールなどのアルコール類や、酢酸エチル、トルエンなどが示されるが、環境に配慮し、特にアルコール類、より好ましくは、エタノールやイソプロピルアルコールが用いられる。
【0041】
また、その添加量を制御することによって、塗工液の粘度や乾燥速度の調整も可能である。本発明の塗工液中における有機溶剤の含有量は、通常10〜80質量%、好ましくは15〜75質量%である。有機溶剤の含有量が10質量%(下限値)より少ないと、塗工液の粘度が高くなりすぎ、木材等の内部及び細部に十分に液剤が到達しないおそれがあり、また、均一な塗工膜が得られないおそれがある。一方、80質量%(上限値)より多いと、塗工液の固形分が低くなり(薄くなり)、十分な性能を発揮できないおそれがある。特に、籐や竹のような非木材性植物材料は、細い繊維状の束が集まった状態であるため、木材性材料と異なり水分が浸透し易い状態にある。そのため、水分の浸透を防ぐには、木材性材料よりも多くの固形分の添加が必要となる。
【0042】
なお、本発明の塗工液には、本発明の目的を損なわない範囲で、求められる特性に応じて種々の添加剤等の成分を添加することができる。任意に添加しうる成分としては、例えば、着色剤、紫外線防止剤、坑カビ剤、抗菌剤、防蟻剤、難燃剤等が挙げられる。
【0043】
アルコキシシラン及び触媒(金属アルコキシド)のみからなるポリマーは、多孔性を示す。そのため、着色剤、紫外線防止剤、抗カビ剤などの添加物を共存させた場合、水(雨)などがかかる場所に長時間放置されると、ポリマーの開放孔を通して抜け出す(抜け落ちる)ことがあり、その性能を長期に渡って保持することが難しいことが指摘された。
【0044】
一方、本発明において用いる塗工液では、上記ポリマーと化学的に結合し得る高分子化合物を共存させている。この場合、上記着色剤などの添加物が、この高分子化合物内に取り込まれ、保持されるため、水や雨などによっても脱離することが極めて少なく、それら添加物の高い保持効果が可能となる。またこれら保持効果は、水や雨などの他、手などで触った場合にも同様な効果が認められる。このため、従来のアルコキシシラン及び触媒(金属アルコキシド)のみからなる塗工膜に比べ、本発明によりなされた塗工膜は、より耐候性、耐久性の高いものとなる。
【0045】
シラン化合物および、より好ましく用いられるシラン化合物(1)は、上述したように、単一で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。また本発明では、シラン化合物として、より好ましいシラン化合物(1)を含む塗工液に、さらに下記式(2)で示されるシラン化合物(以下、シラン化合物(2)ということがある)を添加した塗工液とすることも好ましい。シラン化合物(2)を添加することにより、シラン化合物(2)が有する柔軟性等の性質を塗工膜に付与し、又は、撥水性や木材等との付着性を向上させる等の有機性の性質を高めることができる。

【0046】
シラン化合物(2)は、ケイ素の4個の置換基のうち、2個が加水分解可能な置換基(RO及びRO)であり、他の2個が加水分解不可能な置換基(R及びR)から成り立っている。式(2)において、R及びRは、それぞれ同一又は異なっていてもよい、水素若しくは炭素数1〜10のアルキル基又はアルケニル基であり、RO及びROとSiとの結合はシロキサン結合であり、R及びRは、その分子内にエポキシ基又はグリシジル基を含んでいてもよい、炭素数が1〜10のアルキル基、アルケニル基又はフェニル基である。
【0047】
シラン化合物(2)の具体例としては、例えば、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチルビニルジメトキシシラン、メチルビニルジエトキシシラン等や、これらの2〜10分子程度の縮合体を挙げることができる。なお、シラン化合物(2)は、かかる単量体の2種以上の縮合体であってもよく、また、さらに2分子以上の縮合体を使用する場合にも、かかる単量体の2種以上の縮合体であってもよい。
【0048】
上記したような、シラン化合物(2)を塗工液に添加することで、塗工膜の撥水性や柔軟性又は、木材等の有機成分との付着性をさらに高めることができ、結果的に木材等の耐久性をさらに向上させることができる。
【0049】
シラン化合物(2)は、塗工液の主たるシラン化合物成分である、前記シラン化合物(1)に対し、一般的にはその総量が50質量%を超えない範囲にて、塗工液に添加することが好ましい。添加量がこの範囲を超えると、塗工液を木材等に塗布し、加水分解・縮重合を行う過程で、主たるシラン化合物成分であるシラン化合物(1)との間でうまく結合が形成されず、塗工膜の強度が不十分となる可能性があるからである。従って、実際にシラン化合物(2)を添加する場合には、添加量に依存して塗工膜の強度が低下することを想定し、目的に応じてその添加を必要最小限に抑えるようにすることが好ましい。
【0050】
なお、シラン化合物(2)における加水分解不可能な置換基(R、R)の第一義的な役割は、塗工膜に柔軟性を与えることにあるが、これらはアルキル基等の有機性置換基であるため、同時に塗工膜に撥水性を付与する役割をも果たす。一般に有機性置換基は、炭素数が増える程、有機性、即ち撥水性が増加するが、炭素数があまり大きくなると、立体障害により塗工膜内に歪が生じて膜の強度低下の原因となる。
【0051】
ところで、耐熱性・耐摩耗性の強いシロキサン結合は、一方でいわゆる「硬い」結合でもある。この「硬さ」のため、塗工液を塗布する素材である木材等に塗布することにより、該素材に耐摩耗性を付与できる訳である。しかし、木材等の表面の塗工膜は柔軟性を有することが必要であり、時としてその素材である木材等と同様な柔軟性が求められる。
【0052】
従来から一般に用いられているゾル−ゲル塗工液には、出発原料にテトラアルコキシシラン(Si(OR))やそのオリゴマー体が用いられる。このものを完全に加水分解及び縮重合反応(前記反応式1における(1)〜(3))させて塗工膜を形成させると、ケイ素原子の4個の結合全てが硬いシロキサン結合のネットワークを形成し、セラミックと同様に硬い塗工膜が形成される。しかしながら、それは柔軟性に欠けた脆い膜となってしまうため、木材等の柔軟性を生かした木材等の表面塗工液を製造することは事実上不可能であった。
【0053】
これに対し本発明では、ケイ素原子の4個の置換基のうち、1個が加水分解されないシラン化合物(1)を木材等の表面塗工液の主たるシラン化合物成分として用いることで、この課題を解決したものである。また本発明では、加水分解されない置換基をそれぞれ2個有するシラン化合物(2)を木材等の表面塗工液に添加することにより、さらに塗工膜の柔軟性等を増すことが可能となる。
【0054】
シラン化合物(2)の含有量は、要求される特性に応じて適宜決定すべきであるが、シラン化合物(1)に対し、通常0〜50質量%、好ましくは5〜20質量%である。シラン化合物(2)の含有量が50質量%(上限値)を超えると、上記したように塗工液を木材等に塗布し、加水分解・縮重合を行う過程で、主たるシラン化合物成分であるシラン化合物(1)との間でうまく結合が形成されず、塗工膜の強度が不十分となる可能性があるからである。
【0055】
もちろん、得られる塗工膜に耐摩耗性が必要とされる場合には、シラン化合物(1)のみでは不十分な場合がある。この場合には、より無機性が高い、即ち、より硬い膜が得られる、下記式(3)で示されるシラン化合物(テトラアルコキシシラン;以下、シラン化合物(3)ということがある)や、そのオリゴマー体を、シラン化合物(1)、又はシラン化合物(1)及びシラン化合物(2)を含む塗工液に加えることにより、耐摩耗性が向上した塗工膜を与える塗工液を得ることができる。
Si(OR (3)
(式(3)中、Rは、それぞれ同一又は異なってもよい、水素原子又は炭素数が1〜4のアルキル基である。)
【0056】
シラン化合物(3)の含有量は、要求される特性に応じて適宜決定すべきであるが、通常シラン化合物(1)に対し、0〜50質量%、好ましくは5〜20質量%である。シラン化合物(3)の含有量が50質量%(上限値)を超えると、得られた塗工膜が硬くなりすぎ、すなわち柔軟性が失われ、ひび割れのおそれがある。
【0057】
このように、本発明の塗工液は、シラン化合物(1)を必須成分とし、木材等の表面塗工液に求められる撥水性や柔軟性、あるいは耐摩耗性の程度に応じ、シラン化合物(2)及び/又はシラン化合物(3)を、必要に応じて添加することにより、撥水性のみならず、耐摩耗性、柔軟性等の、木材等の表面塗工膜に求められる実用上の性能を付加・向上させることができる。
【0058】
本発明の塗工液を木材等の表面に塗布する工程を有する木材等の表面処理方法では、まず、任意の木材を、任意の寸法・形状に切断、加工し、これに前記した本発明の塗工液を塗布する。具体的な塗布の方法は、特に制限されないが、例えば、塗工液に木材等を浸漬したり、塗工液を木材等に塗りつけたり、あるいは、塗工液を木材等に吹き付けたりすることにより行い得る。
【0059】
木材等を塗工液に浸漬する場合、その浸漬条件は、常圧で行ってもよいし、減圧あるいは加圧下で行ってもよい。液剤を木材等の内部へより浸透させるためには、減圧あるいは加圧下で行うことが一般的であるが、作業性を考慮すると常圧下で行うことが好ましい。
【0060】
塗工液に浸ける時間は、塗工液の組成、濃度及び木材の種類により異なり、一義的には決められないが、一般的には、10秒〜1時間の範囲内で十分である。刷毛塗りの場合、2度塗りで十分である。これ以上塗っても、塗工量が多すぎ液剤が無駄になるだけでなく、表面の屈折率が変化し、木材等の自然な風合いが損なわれてくる。また、塗工膜の膜厚が厚くなると、それだけ塗工膜がヒビ割れる可能性が高くなる。また2度塗りの場合、同一の液剤を2度塗っても良いし、異なる液剤を塗っても良い。異なる液剤を塗る場合、先に塗る液剤(通常下塗り剤とも言う)は、より内部に浸透しやすい液剤を塗ることが、より好ましい。
【0061】
含浸法、刷毛塗り法、スプレー法いずれの方法を用いて塗布した場合でも、木材等の表面の自然な風合いを残すためには、木材等の表面に付いた余分な塗工液を、布や紙等で拭き取ることが好ましい。
【0062】
本発明の塗工液を塗布する対象である木材等には、特に制限はない。なお、本発明の塗工液の塗布後、木材等に対して後処理を施すこともできる。これにより、木材等の表面の耐久性を更に増すことができる。この後処理に用いられる薬剤としては、一般に使用されている天然オイルや樹脂が特別な制限無く使用できる。もちろんこれらの薬剤は、後処理ではなく前処理としても同様に用いることができる。
【0063】
このように本発明は、シラン化合物、より好ましくはシラン化合物(1)を必須のシラン化合物成分とし、更にシラン化合物が木材等に浸透し、その内部の水分と反応して、木材等の内部に固定化するために必要な触媒として、金属アルコキシドを共存させ、必要に応じて、木材等の塗工膜に求められる撥水性や柔軟性、あるいは耐摩耗性の程度に応じ、シラン化合物(2)及び/又はシラン化合物(3)を添加し、更に、このようにして得られる無機系ポリマーの撥水性、柔軟性、耐摩耗性等の、表面処理木材に求められる実用上の性能を付加・向上させる目的で、これらのポリマーと反応する置換基を有する天然高分子を添加し、その塗工液の溶解性及び浸透性を上げる目的で、有機溶剤を含有することを必須とする。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例に基づいて比較例との対比により更に具体的に説明するが、実施例はあくまで一例であって、本発明を何ら限定するものではない。なお、実施例及び比較例を示す表1において、固形分含有量は、固形分であるシラン化合物と、触媒と、高分子化合物の合計含有量(%)を示し、高分子化合物含有量は、固形分含有量中の高分子化合物の含有比率(%)を示す。
【0065】
[塗工液の製造]
・実施例1
メチルトリメトキシシラン縮合体(信越化学工業製、KC−89。シラン化合物(1)に相当。重合度n=2.5量体。3官能シラン)33.3g(Siとして0.307モル)をイソプロピルアルコール19.1gに溶解し、そこに触媒としてチタンテトラプロポキシド2.95g(日本曹達株式会社製、A−1)(Tiとして0.01039モル)(Ti/Si=0.034)を加え、十分に攪拌した。次に、シェラック(株式会社岐阜セラック製造所製、BS−50。約50%エタノール液)21.2gを加え、十分に攪拌し塗工液を製造した。
【0066】
・実施例2
メチルトリメトキシシラン縮合体(実施例1と同じ、シラン化合物(1)に相当)31.8g及び、ポリメチルフェニルシロキサン(信越化学工業製、KR−212。シラン化合物(2)に相当。2官能シラン)2.13gを、イソプロピルアルコール18.4gに溶解し、アセチルアセトン1.1gを加え、更に触媒としてチタンテトラプロポキシド2.95gを加え、十分に攪拌した。次にシェラック(実施例1に同じ)21.5gを加え、十分に攪拌し、塗工液を製造した。
【0067】
・実施例3
メチルトリメトキシシラン縮合体(実施例1と同じ、シラン化合物(1)に相当)23.2g(Siとして0.214モル)及び、テトラメトキシシラン縮合体(多摩化学工業株式会社製、MS−51。シラン化合物(3)に相当。平均重合度n=3.9。4官能シラン)10.8g(Siとして0.0917モル)をイソプロピルアルコール18.4gに溶解し、アセチルアセトン1.1gを加え、更に触媒としてチタンテトラプロポキシド2.95g(Tiとして0.01039モル)(Ti/Si=0.034)を加え、十分に攪拌した。次にシェラック(実施例1に同じ)21.5gを加え、十分に攪拌し、塗工液を製造した。
【0068】
・実施例4〜8
表1に示す組成で液剤を製造した。
【0069】
・比較例1
未塗工の籐をそのまま用いた。
・比較例2〜3
表1に示す組成でシェラック(実施例1に同じ)をイソプロピルアルコールに溶解し塗工液とした。
・比較例4〜6
シェラック以外の液組成は、実施例1〜3に示す塗工液に準じ、シェラックを入れない塗工液をそれぞれ比較例4〜6とした。
・比較例7
シラン化合物(1)及び(2)、触媒、シェラック及びアセチルアセトン量は実施例8と同じくし、溶媒のイソプロピルアルコールを入れず、即ち、固形分含有量が80.1%液を調合したものを比較例7とした。
・比較例8
シラン化合物(1)及び(2)、触媒、シェラック及びアセチルアセトン量は実施例8と同じくし、溶媒のイソプロピルアルコールを258g入れ、即ち、固形分含有量が15.0%液を調合したものを比較例8とした。
比較例9
シェラック以外の液組成は実施例1及び比較例4に準じ、そこに合成高分子化合物であるアクリルニトリル樹脂(互応化学工業製、NK−310。約40%液)24.2gを加え、十分に攪拌し塗工液を製造した。
・比較例10
シェラック以外の液組成は実施例2及び比較例6に準じ、そこに合成高分子化合物であるアクリルニトリル樹脂(比較例9に同じ)26.8gを加え、十分に攪拌し塗工液を製造した。
【0070】
試験例1:60℃温水処理耐水テスト
[籐サンプル]
インドネシア産籐(直径2.8cm)を、長さ10cmに裁断し、塗工用試験片とした。この籐サンプルは脱脂処理等の、特別な処理をすることなく、そのまま使用した。なお、各試験片は3本ずつ処理し、その平均を取った。
【0071】
[塗工処理方法]
100mlポリエチレン製容器(容量:約120ml、高さ:約7.5cm)に、実施例1〜8及び比較例2〜10で製造した塗工液をそれぞれ60g入れ、各試験片の裁断面を上にして浸けた。なお各サンプルは15分毎に上下を入れ替え、液剤が十分に内部まで浸透するようにし、1時間つけた。取り出し後、試験片の周囲についた余分な液剤は紙を用いてふき取った。その後試験片を立てかけ、室温で60時間放置することにより、内部の余分な液剤を抜き取った。60時間放置後、試験片の重量を測定し、塗工後重量(g)とした。
【0072】
[試験方法]
実施例1〜8及び比較例2〜10で製造した塗工液を用いて処理した各試験片、及び比較例1として未処理の籐試験片を、1000mlのポリエチレン製カップ(容量:約1200ml、高さ:約14.5cm)内に、裁断面が常に上になるように固定し、水道水を満たし、上部をポリエチレン製シートで覆い、輪ゴムを用いて密封した。この状態で室温、24時間放置した。
【0073】
水処理後、容器より籐試験片を取り出し、サンプル表面の水分を紙で軽く拭き取った。籐試験片内部の水分は、圧縮空気を吹き込みながら追い出した。直ちに籐試験片の重量を測定した。重量増加率(%)は、下記計算式(1)より算出した。なお、ここで、処理前重量(g)は、上記塗工後重量(g)と同じである。
計算式(1)
重量増加率(%)=(処理後重量(g)−処理前重量(g))/処理前重量(g)×100
得られた結果を表1に示す。
【0074】
表1



【0075】
上記試験結果において、温水処理後の重量増加率が50%以下のものは耐水性十分と評価し、50%以上のものは耐水性不十分と評価した。上記試験結果からすると、高分子化合物(シェラック)を加えない塗工液(比較例4)と比べ、これを加えた塗工液(実施例1)を塗布した木材は、水処理後の重量増加率は30.8%と、約42%低下し、高分子化合物の添加効果が示された。特に未塗工品(比較例1)と比べた場合、増加率は約半分と極めて良好な結果となった。
【0076】
更にシラン化合物(2)を加えた塗工液(実施例2)では、シラン化合物の高い撥水性のため、それを加えない塗工液(実施例1)と比べて、更に重量増加率が低下した(撥水性が向上した)。一方、撥水性を示さないシラン化合物(3)を加えた場合(実施例3)は、若干重量増加率が上昇した。
【0077】
塗工液中の固体成分が15.0%と少ない場合(比較例8)は、固体成分が55.0%液(実施例2)と比べ、約2倍も重量が増加し、耐水性不十分との結果となった。これは、塗工された膜が薄すぎたことに起因するものと思われる。一方、固体成分が80.1%液(比較例7)では、その反対に塗工膜厚が高くなりすぎ、水処理後の表面に微小なクラックが入っており、結果として耐水性が不十分であった。
【0078】
また、高分子化合物の添加量を変えた場合(実施例4−6)、その添加量が7.1%(実施例4)では耐水性がやや低下した。一方、75.0%(実施例6)では耐水性がより一層低下した。すなわち実施例6におけるように高分子化合物の含有量が多く、相対的に基本骨格であるシラン化合物の含有量が少なくなると、高分子化合物が十分に基本骨格内に固定されないために耐水性が低下するおそれがあるので、過度に高分子化合物を含有させないように留意する必要がある。
【0079】
高分子化合物として、化学合成品であり、かつ、アルコキシシラン及び/又は金属アルコキシドと反応する置換基を有していないアクリルニトリル樹脂を用いた場合(比較例9、10)、シェラックを添加した場合(実施例1、2)と比べて約2倍の重量増加がみられた。このことより、添加する高分子化合物は、主鎖であるアルコキシシラン及び/又は金属アルコキシドと化学的に反応する必要があることが示された。
【0080】
また、バインダーを使用しないでシェラックのみを塗工した場合(比較例2、3)、無塗工品(比較例1)とほとんど変わらない重量増加率であった。これはバインダーを使用していないため、セラックが水処理過程で抜け落ちたものと推測できる。
【0081】
本塗工液の作用機構は以下のようになる。シラン化合物(1)及び金属アルコキシドが木材等の表面に塗工されると、毛細管現象により木材等の内部に浸透する。その後、木材等の内部、表面もしくは空気中の水分(湿気)により、金属アルコキシドが加水分解し、更に式(1)の化合物の3個のアルコキシ基が加水分解、重縮合反応を経ることにより成長したシロキサンポリマーが、木材等の内部組織と強く結合する。
【0082】
一方、1個の加水分解不可能な置換基(R)は、有機性置換基であるため、それ自身強い撥水性を示す。また、この置換基の有機性は、塗工膜に有機性を付与することになり、木材等の内部のリグニンやセルロース等の有機成分との親和性が向上し、塗工膜の木材等の内部での付着性を向上させる効果がある。
【0083】
また、この加水分解不可能な置換基(R)が存在することにより、隣接するケイ素原子との間で、強固なシロキサン結合の数が不足する分、塗工膜の柔軟性を維持でき、そして結果的には木材等の膨張・収縮時の応力を吸収できる構造となり、塗工膜と木材等の内部との付着性向上に寄与できる。このことにより得られた塗工膜が、木材等の内部の毛細管現象を押さえ、その結果、木材等の表面よりの水の浸透を防ぐことになり、木材等の耐水性・耐久性を向上させる効果を示す。
【0084】
しかし、アルコキシシランと金属アルコキシドのみから成り立つ従来の塗工膜(比較例4−6)は、それなりの撥水性・柔軟性を示すが、実用上不十分だった。それは、生成した無機系高分子鎖が多孔性であるからであった。
【0085】
この問題を解決するため、ここに、シラン化合物及び/又は金属アルコキシドと反応する置換基をその分子内に有する天然高分子化合物を添加・反応させ、その分子鎖内に導入することにより、従来の無機系高分子鎖で問題となっていた細孔を埋め、水分の膜内部への侵入を防ぐ効果が示された。更に液剤の浸透性・固形分濃度の調整の目的で有機溶媒を加えることで、全体として、木材等の耐水性・耐久性を向上させる効果を示すことが可能となった。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の木材等の表面塗工液は、木材等の表面の耐水性、撥水性に優れ、木材等の耐久性を高めることができるため、種々の用途に用いられる木材等の長期保存性を大幅に改善することができる点で有用である。
本発明によれば、木材等の表面の自然の風合いを損なうことなく、保護被膜を形成できるため、木材等の表面の風合いを生かしたい場面において、非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部に木材、籐等の天然素材部分を有するイス、テーブル等の家具であって、前記天然素材部分の表面に、アルコキシシランと、前記シラン系化合物を硬化及び/又は固化させる触媒と、前記シラン化合物及び/又は前記触媒と反応しうる置換基をその分子内に有する高分子化合物と、前記シラン系化合物、前記触媒及び前記高分子化合物を均一に溶解させる溶媒とから成る塗工液を塗布したことを特徴とする耐水性家具。
【請求項2】
固形分である前記シラン化合物、前記触媒及び前記高分子化合物の合計含有量が、20〜75質量%である、請求項1に記載の耐水性家具。
【請求項3】
前記アルコキシシランが、下記式(1)で示される、請求項1又は2に記載の耐水性家具。

(式(1)において、R、R及びRは、それぞれ同一又は異なってもよい、水素原子又は炭素数が1〜4のアルキル基であり、Rはこれらの基内にハロゲン原子又はエポキシ基を含んでもよい、炭素数が1〜10のアルキル基、アルケニル基又はフェニル基であり、nは2〜10である。)
【請求項4】
前記シラン系化合物を硬化及び/又は固化させる触媒が、加水分解可能な有機金属化合物である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の耐水性家具。
【請求項5】
前記加水分解可能な有機金属化合物が、チタニウム、ジルコニウム及びアルミニウムから成る群から選ばれる一種以上の金属アルコキシドである、請求項4に記載の耐水性家具。
【請求項6】
さらに、下記式(2)で示されるシラン化合物を含有する請求項1乃至5のいずれか1項に記載の耐水性家具。

(式(2)中、R及びRは、それぞれ同一又は異なっていてもよい、水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基又はアルケニル基であり、RO及びROとSiとの結合はシロキサン結合であり、R及びRは、その基内にエポキシ基又はグリシジル基を含んでいてもよい、炭素数が1〜10のアルキル基、アルケニル基又はフェニル基である。)
【請求項7】
さらに、下記式(3)で示されるシラン化合物を含有する、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の耐水性家具。
Si(OR (3)
(式(3)中、Rは、それぞれ同一又は異なってもよい、水素原子又は炭素数が1〜4のアルキル基である。)
【請求項8】
前記高分子化合物が、置換基として水酸基を有していることを特徴とする、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の耐水性家具。
【請求項9】
前記高分子化合物が天然由来であり、塗工液の固形分換算で0.1質量%以上含有することを特徴とする、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の耐水性家具。
【請求項10】
前記溶媒が、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、トルエンの少なくとも一種類である、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の耐水性家具。

【公開番号】特開2009−279846(P2009−279846A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−134680(P2008−134680)
【出願日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【出願人】(508320147)株式会社エム&エムトレーディング (4)
【Fターム(参考)】