説明

耐水性積層シート

【課題】汎用インキを用いてオフセット印刷を行う際のインキセット性を改善すると共に、耐摩擦性に優れる耐水性積層シートを提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂で被覆されたシートの上に無機超微粒子と共重合体との組成から構成される塗工層、または、無機粒子と有機粒子の複合体を含有する塗工層を設け、塗工層にナノピットを有し、ナノピット径が20〜300nmであり、かつ、塗工層表面のナノピット占有率が2〜40%である耐水性積層シートである。塗工層の無機超微粒子がコロイダルシリカであり、共重合体がスチレン−アクリル系共重合体もしくはアクリル系共重合体であることが好ましく、無機超微粒子と共重合体の固形分比率は100:10〜100:100であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐水性積層シートに関するものであり、さらに詳しくは汎用のインキを用いてもインキセット性に優れ、耐摩擦性に優れる、オフセット印刷が可能な耐水性積層シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、耐水性シートとしては、ポリプロピレンやポリエチレンなどの熱可塑性樹脂に無機充填剤や発泡剤を加えたものを原料とし、延伸によりミクロボイドを発生させながらシート化して製造される合成紙と、紙やフィルムなどの支持体に無機充填剤を含有する熱可塑性樹脂をラミネートして製造される積層シートが知られている。これらはポスター、メニュー表、地図、物流管理ラベル、冷凍・冷蔵食品の包装など、耐水性が要求される各種分野で使用されている。
【0003】
合成紙はオフセット印刷に使用される汎用のインキで印刷すると、インキに含まれる鉱油のような高沸点石油系溶剤によって膨潤し、部分的に凹凸が生じる問題、印刷物全体にカールが生じる問題がある。これに関連し、合成紙基材上にポリビニルアルコール、ポリウレタン樹脂、シリカ顔料から構成される塗工層を設けた合成紙が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0004】
しかしながら、合成紙は熱可塑性樹脂をベースとしているため、紙の特徴であるしなやかさに欠ける。一方、支持体に紙を用いた積層シートは、紙のしなやかさと熱可塑性樹脂の強さが複合されている特長がある。
【0005】
積層シートでは、表面にラミネートされる熱可塑性樹脂のため、インキが殆どシートに染み込まず、インキセット性が悪く、印刷後の積層シートを重ねて保存した場合に積層シート表面のインキがその上に積み重ねられた積層シートの裏面に転写する問題がある。この問題を解決するために、無機顔料などのインキ吸収体とバインダーから構成される塗工層を設け、これにインキを吸収させる手法が考えられてきた。これに関連し、スチレン−ブタジエン系ラテックスからなる塗工層を設けた積層シート(例えば、特許文献3参照)、無機顔料とアクリル系またはスチレン−アクリル系の重合体または共重合体であるソープフリータイプのバインダーとを含有する塗工層を設けた積層シート(例えば、特許文献4参照)、一次粒子径に対する二次粒子径の比が1.5〜3.0のコロイダルシリカまたは針状コロイダルアルミナとバインダーとを主成分とする塗工層を設けた積層シート(例えば、特許文献5参照)が知られている。
【0006】
しかしながら、これらの積層シートにおいても、上質紙やコート紙などの一般紙に比べるとインキセット性が劣ることから、実質的には充分な結果が得られているとは言えない。インキセット性改良のため無機顔料の配合量を増やすと、光沢性の低下や表面強度の低下につながり好ましくない。また、オフセット印刷では版面の非画線部にインキが付着しないようにするために湿し水が用いられるが、水分の吸収容量が少ない耐水性積層シートでは上質紙やコート紙などの一般紙よりも湿し水を少なくする必要があり、印刷作業性に劣る問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−107194号公報
【特許文献2】特開2000−71596号公報
【特許文献3】特開2004−223882号公報
【特許文献4】特開2006−205543号公報
【特許文献5】特開2007−268720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、汎用のインキを用いて耐水性積層シートにオフセット印刷を行う際のインキセット性を改善すると共に、耐摩擦性に優れる耐水性シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、以下の発明により解決に至った。
(1)熱可塑性樹脂層で被覆されたシート上に、無機超微粒子と共重合体との組成から構成される塗工層を設け、塗工層にナノピットを有していることを特徴とする耐水性積層シート。
(2)ナノピット径が20〜300nmであり、かつ、塗工層表面のナノピット占有率が2〜40%である(1)記載の耐水性積層シート。
(3)塗工層の無機超微粒子がコロイダルシリカであり、共重合体がスチレン−アクリル系共重合体もしくはアクリル系共重合体である、(1)記載の耐水性積層シート。
(4)塗工層の無機超微粒子と共重合体との固形分比率が100:10〜100:100である(1)または(3)記載の耐水性積層シート。
(5)塗工層が無機粒子と有機粒子の複合体を含有する、(1)記載の耐水性積層シート。
(6)複合体の無機粒子がコロイダルシリカである(5)記載の耐水性積層シート。
(7)複合体の有機粒子が、スチレン−アクリル系共重合体もしくはアクリル系共重合体である(5)記載の耐水性積層シート。
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、汎用のインキを用いてオフセット印刷を行う際のインキセット性が優れると共に、耐摩擦性に優れる耐水性積層シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のナノピットを有する塗工層表面の電子顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において、熱可塑性樹脂の上に設けた塗工層が有するナノピットの形状は特に限定するものではない。円形、非円形、2つ以上のナノピットがつながったものなど、いずれの形状であっても構わない。理由は定かではないが、塗工層表面に形成されているナノピットは、オフセット印刷の際にインキに含まれる溶剤の吸収性に寄与し、インキセットを速くする働きをするものと考えられる。ナノピットの大きさは、径が20〜300nmであることが好ましく、より好ましくは40〜150nmである。本発明で言う径とは、ナノピットが円形の場合は直径を表し、ナノピットが非円形の場合はナノピット内側の最も長い部分を表すこととする。また、塗工層表面のナノピット占有率は2〜40%であることが好ましい。なお、ナノピットは、無機超微粒子の粒子径に対して2〜20倍、好ましくは2〜10倍であり、大きさが均一であるとさらに好ましい。無機超微粒子の粒子径と共重合体の組み合わせ、熱可塑性樹脂層表面の形状、塗工層の塗工液の乾燥条件により、ナノピットの大きさを調節することができる。
【0013】
本発明において、ナノピットを有する塗工層には、無機超微粒子、もしくは、有機粒子と無機粒子の複合体、共重合体を用いるが、塗工層の構成はナノピット形成を阻害しない限り、これに限定するものではない。
【0014】
本発明の耐水性積層シートにおける塗工層の無機超微粒子とは、一次粒子径が100nm以下で、かつ二次粒子径が500nm以下の無機微粒子を言う、例えば、特開平1−97678号公報、同2−275510号公報、同3−281383号公報、同3−285814号公報、同3−285815号公報、同4−92183号公報、同4−267180号公報、同4−275917号公報などに開示されているアルミナ水和物である擬ベーマイトゾル、特開昭60−219083号公報、同61−19389号公報、同61−188183号公報、同63−178074号公報、特開平5−51470号公報などに記載されているようなコロイダルシリカ、特公平4−19037号公報、特開昭62−286787号公報に記載されているようなシリカ/アルミナハイブリッドゾル、特開平10−119423号公報、特開平10−217601号公報に記載されているような、気相法シリカを高速ホモジナイザーで分散したようなシリカゾル、その他にもヘクタイト、モンモリロナイトなどのスメクタイト粘土(特開平7−81210号公報)、ジルコニアゾル、クロミアゾル、イットリアゾル、セリアゾル、酸化鉄ゾル、ジルコンゾル、酸化アンチモンゾルなどを代表的なものとして挙げることができる。これらの無機超微粒子の中でも特に、コロイダルシリカを好適に用いることができる。
【0015】
本発明に係わる塗工層を形成するコロイダルシリカは、従来汎用の無変性コロイダルシリカの他に、シリカ表面をカルシウムやアルミナ等のイオンや化合物で被覆してイオン性やpH変動に対する挙動を変えた変性コロイダルシリカのいずれも用いることができる。本発明に係わる市販のコロイダルシリカの例としては、日産化学工業製スノーテックス20、スノーテックス40、スノーテックスN、スノーテックスO、スノーテックスS、スノーテックス20L、スノーテックスAK、及びスノーテックスUP等、日本化学工業製シリカドール20、シリカドール20A、シリカドール20G、及びシリカドール20P等、旭電化工業製アデライトAT−20、アデライトAT−20N、アデライトAT−30A、及びアデライトAT−20Q等、デュポン社製ルドックスHS−30、ルドックスLS、ルドックスSM−30、ルドックスAS、及びルドックスAM等が挙げられる。これらのコロイダルシリカの中でも特に、スノーテックス40を好適に用いることができる。
【0016】
本発明に係わるコロイダルシリカの平均粒子径は100nm以下、より好ましくは30nm以下の範囲が良い。コロイダルシリカの平均粒子径が100nmより大きいと塗工層形成用塗液とした際の経時安定性が悪いだけでなく、塗工層表面の凹凸が大きくなって塗工層にナノピットを形成することが困難になる。コロイダルシリカの粒子径に関しては、特に限定はしないが、好ましくは10〜50nmである。
【0017】
本発明に係わる塗工層には、コロイダルシリカとともに硬化剤を併用することができる。本発明に係わる硬化剤としては、亜鉛等の金属粉末、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、及び二酸化錫等の金属酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、及び水酸化亜鉛等の金属水酸化物、NaSiF及びKSiF等の珪フッ化物、CaO・SiO、FeSi、及びAl・SiO等の珪化物、リン酸アルミニウム、リン酸二水素アルミニウム、リン酸二水素マグネシウム、亜リン酸アルミニウム、及びZnO・P等の(亜)リン酸塩、KBO及びCaB等のホウ酸塩、及びリン酸及びホウ酸等の鉱酸等の無機硬化剤、及びグリオキザール及び1,3−ジオキソラン−2−オン等の有機硬化剤が挙げられる。硬化剤を用いることで、コロイダルシリカの皮膜形成能が増大し、かつ塗工層自体、また塗工層と支持体との接着性を一層向上させることが可能となる。
【0018】
本発明に係わる上記硬化剤は、1種または2種以上を組み合わせて用いて良い。また、硬化剤はコロイダルシリカと混合した瞬間から作用するものもあるため、塗工層形成用塗液の最終調製段階に所定量を添加し、なるべく早く塗り切ることが肝要である。本発明に係わるコロイダルシリカに対する硬化剤の混合比は、コロイダルシリカ1000質量部に対し1〜1000質量部が好ましく、さらには5〜400質量部が良い。
【0019】
本発明に係わる塗工層を形成する複合体としては、結着性を有する有機微粒子の表面をコロイダルシリカで被覆した複合体エマルションが挙げられる。複合体エマルションに於ける有機微粒子の組成としては、スチレン及びその誘導体含有共重合体、アクリルエステル含有共重合体、酢酸ビニル含有共重合体、及び塩化ビニル含有共重合体等が挙げられ、これらは少なくとも加熱により結着性を示す。これら複合体エマルションの市販品としては、日本合成化学工業株式会社製モビニール8010、8020、8030、8021及び8055A等が挙げられる。これら複合体エマルションは、これ単独で優れた自己皮膜性を有するばかりか、皮膜化した際にコロイダルシリカが皮膜表面に局在するために、塗工層と樹脂被覆層との接着性にも優れる。
【0020】
本発明に用いる有機粒子と無機粒子の複合体の製造方法としては、特開昭59−71316号公報、特開昭60−127371号公報などに記載された方法を挙げることができる。前記各公報に記載された有機粒子と無機粒子の複合体を本発明に適用することができる。また、有機粒子と無機粒子の複合体としては、市販品を使用することもできる。
【0021】
本発明に係わる複合体の平均粒子径は1μm以下、より好ましくは0.2μm以下の範囲が良い。複合体の平均粒子径が1μmより大きいと塗工層形成用塗液とした際の経時安定性が悪いだけでなく、塗工層表面の凹凸が大きくなって塗工層表面のナノピット形成に悪影響を及ぼす。
【0022】
本発明の耐水性積層シートにおいて、塗工層中の複合体含有量は0.5〜9g/mが好ましく、さらには1〜6g/mの範囲が好適である。少なくとも塗工層含有量が0.5g/mより少ないと、塗工層表面に発生するナノピット、また、インキセット性、塗工層の強度、樹脂被覆層との接着性を満足することできない。逆に、複合体が9g/mより多くても、それ以上は性能が飽和して、改善されることがなくなる傾向を示し、経済的には好ましくない。
【0023】
本発明に係る共重合体とは、スチレン−アクリル共重合体、アクリル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のラテックスやエマルション類が挙げられる。本発明に用いる共重合体としては、スチレン−アクリル系共重合体、もしくは、アクリル系共重合体が好ましい。スチレン−アクリル系共重合体、アクリル系共重合体の粒子径及びガラス転移温度は特に限定するものではないが、共重合体のガラス転移温度は、ナノピット発生に関係することから、−30℃以上が好ましい。
【0024】
塗工層中の共重合体の配合量は、無機超微粒子100質量部に対して10〜100質量部であり、10質量部未満では塗工液を塗布しても塗工層が弱くなり、印刷時に塗工層剥離の問題が生じる。また、100質量部を超えるとインキ載りの悪化及びナノピットが発現し難くなり、各種オフセット印刷装置の種類及び要求される印字濃度のレベルによっては問題となる場合が生じることがある。
【0025】
本発明において、塗工層を設ける際、塗工液には必要に応じて、界面活性剤、分散剤、消泡剤、増粘剤、保水剤、耐水化剤、離型剤、活剤、硬化剤、帯電防止剤、染料などの各種助剤を使用しても構わない。但し、ナノピットの発現を抑制することがあるので、添加に関しては、充分注意する必要がある。
【0026】
本発明の塗工層の塗工方法としては、ブレードコーター、エアナイフコーター、グラビアコーター、ロールコーター、カーテンコーターなどの公知の方法を利用することができる。本発明の塗工層の乾燥方法は特に限定はしない。従来から塗工機で使用されている乾燥装置が利用でき、例えば、熱風乾燥、ガスヒーター乾燥、高周波乾燥、電気ヒーター乾燥、赤外線ヒーター乾燥、レーザー乾燥などの各種加熱乾燥方式が好ましく、適宜使用される。この中で、熱風乾燥がコストの面で有利であるため好ましく採用される。
【0027】
本発明において、塗工層を設ける樹脂被覆紙は基材の片面または両面の最外層に熱可塑性樹脂を有するものであればどのようなものであってもよい。例えば、紙やフィルムなどの基材に熱可塑性樹脂をラミネートして製造されたシート、熱可塑性樹脂もしくは無機充填剤を含有する熱可塑性樹脂を延伸することで得られるシートなどである。
【0028】
本発明の実施に好ましく用いられる樹脂被覆紙は、通常の天然パルプを主成分とする天然パルプ紙に熱可塑性樹脂をラミネートして製造されるものである。天然パルプと合成パルプ、合成繊維とからなる混抄紙でもよい。天然パルプは、塩素、次亜塩素酸塩、二酸化塩素による漂白処理、アルカリ抽出もしくはアルカリ処理、過酸化水素、酸素などによる酸化漂白処理など、及びそれらの組み合わせ処理を施した針葉樹パルプ、広葉樹パルプ、針葉樹広葉樹混合パルプの木材パルプが有利に用いられ、また、クラフトパルプ、サルファイトパルプ、ソーダパルプなどの各種のものを用いることができる。
【0029】
本発明の実施に好ましく用いられる天然パルプを主成分とする紙基材中には、紙料スラリー調製時に各種の添加剤を含有せしめることができる。サイズ剤として、脂肪酸金属塩あるいは脂肪酸、アルキルケテンダイマー乳化物、エポキシ化高級脂肪酸アミド、アルケニルまたはアルキルコハク酸無水物乳化物、ロジン誘導体など、乾燥紙力増強剤として、アニオン性、カチオン性あるいは両性のポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、カチオン化澱粉、植物性ガラクトマンナンなど、湿潤紙力増強剤として、ポリアミンポリアミドエピクロルヒドリン樹脂など、填料として、クレー、カオリン、炭酸カルシウム、酸化チタンなど、定着剤として、塩化アルミニウム、硫酸バンドなどの水溶性アルミニウム塩など、pH調節剤として、苛性ソーダ、炭酸ソーダ、硫酸など、色味調節剤として、着色顔料、着色染料、蛍光増白剤など、帯電防止剤として塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、各種アミン系やグリセリン系帯電防止剤などを適宜組み合わせて含有せしめるのが有利である。
【0030】
本発明に用いられる紙基材の厚みに関しては、特に制限はないが、その坪量は20〜250g/mのものが好ましい。また、本発明の実施に用いられる紙基材を製造する方法としては、短繊維で平滑性の出易い広葉樹パルプを30質量%以上、好ましくは50質量%以上用い、叩解機により長繊維分がなるべく少なくなるように叩解することが好ましい。具体的には、パルプの叩解は、叩解後のパルプの加重平均繊維長が0.4〜0.75mmになるようにすることが好ましい。次いで、内添薬品を添加した紙料スラリーについて、長網抄紙機、円網抄紙機、オントップ抄紙機、ツインワイヤー抄紙機など通常用いられる抄紙機により均一な地合が得られるように抄造し、さらに抄造後マシンカレンダー、スーパーカレンダー、熱カレンダーなどを用いてカレンダー処理を施し、紙基材を製造することができる。
【0031】
本発明に用いられる熱可塑性樹脂とは、熱によって溶融もしくは軟化する樹脂の総称であって、代表的なものとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン、ポリペンテンなどのホモポリマー、エチレン−ブチレン共重合体などのα−オレフィンの2つ以上からなる共重合体及びこれらの混合物である。耐ひっかき性の点からは、ポリプロピレン系樹脂が良好で、高密度ポリエチレン系樹脂がこれに続く。溶融押し出しコーティング性及び印刷時のピック剥離性の点からは、ポリエチレン系樹脂が好ましい。
【0032】
本発明における熱可塑性樹脂層中には、各種の添加剤を含有せしめることができる。酸化チタン、酸化亜鉛、タルク、炭酸カルシウムなどの白色顔料、ステアリン酸アミド、アラキジン酸アミドなどの脂肪酸アミド、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸マグネシウム、パルミチン酸亜鉛、ミリスチン酸亜鉛、パルミチン酸カルシウムなどの脂肪酸金属塩、ヒンダードフェノール、ヒンダードアミン、リン系、硫黄系などの各種酸化防止剤、帯電防止剤、顔料、染料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤などの各種の添加剤を適宜組み合わせて含有せしめることができる。それらの添加剤はマスターバッチあるいはコンパウンドとして含有せしめるのが好ましい。
【0033】
本発明において、紙基材に熱可塑性樹脂を被覆する方法としては、走行する紙基材上に樹脂組成物を、溶融押し出し機を用いてそのスリットダイからフィルム状に流延して被覆する、いわゆる溶融押し出しコーティング法がある。スリットダイとしては、T型ダイ、L型ダイ、フィッシュテイル型ダイのフラットダイが好ましい。また、樹脂組成物を紙基材にコーティングする前に、紙基材にコロナ放電処理、火炎処理などの活性化処理を施すのが好ましく、紙基材に接する側の溶融樹脂組成物にオゾン含有ガスを吹きつけた後に走行する紙基材に熱可塑性樹脂層を被覆してもよい。表、裏の熱可塑性樹脂層は、連続的に押し出しコーティングされる、いわゆるタンデム押し出しコーティング方式で紙基材に被覆されるのが好ましく、必要に応じて表または裏の熱可塑性樹脂層を二層以上の多層構成にする、多層押し出しコーティング方式で被覆してもよい。
【0034】
本発明の耐水性積層シートの熱可塑性樹脂層の表面形状は、光沢面、微粗面、マット面、絹目面などいずれの形状であっても構わない。表面と裏面の熱可塑性樹脂層の表面形状は、同一形状とする必要はなく、適宜変更して構わない。
【0035】
本発明に用いられる樹脂被覆紙の表裏の熱可塑性樹脂層の厚さとしては特に制限はないが、一般に一層または多層で7〜60μmの範囲、好ましくは10〜45μmの範囲の厚さのものが有利である。また、樹脂被覆紙の熱可塑性樹脂層面上には、コロナ放電処理、火炎処理などの活性化処理を施すのが好ましい。
【0036】
本発明の耐水性積層シートへの印刷には、オフセット、グラビア、フレキソ、凸版など、各種の汎用印刷インキが使用可能である。ポリオレフィン樹脂フィルムや合成紙用のインキを使用することも可能である。
【実施例】
【0037】
以下に、本発明の実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下特に断りがない限り、部及び%はそれぞれ質量部、質量%を示す。
【0038】
(実施例1)
紙基材に坪量103g/mの上質紙を用い、先ず紙基材の裏面をコロナ放電処理し、320℃の溶融した裏面用樹脂を下記配合で、塗布量が15g/mになるよう押し出し被覆して、粗面形状のクーリングロールで圧着した。次いで紙基材の表面をコロナ放電処理し、320℃の溶融した表面用樹脂を下記配合で、塗布量が15g/mとなるよう押し出し被覆して、鏡面形状のクーリングロールで圧着し、シートを作製した。さらに、このシートの粗面形状側、鏡面形状側にコロナ放電処理を行い、樹脂被覆紙を製造した。
【0039】
<裏面用樹脂配合>
高密度ポリエチレン(密度0.967g/cm) 80部
低密度ポリエチレン(密度0.920g/cm) 20部
【0040】
<表面用樹脂配合>
高密度ポリエチレン(密度0.967g/cm) 80部
低密度ポリエチレン(密度0.920g/cm) 20部
【0041】
<塗工液>
水で30質量%に希釈したコロイダルシリカ(商品名:スノーテックス40、日産化学工業株式会社製)100部、水で30質量%に希釈したスチレン−アクリル系共重合エマルジョン樹脂(商品名:ボンロンS−224、三井化学株式会社製)5部を混合し、界面活性剤を適宜添加して塗工液を調製した。
【0042】
得られた塗工液を、熱風乾燥機で乾燥後の塗工量が1.2g/mとなるように、樹脂被覆紙の鏡面形状側にワイヤーバーで塗工し、実施例1の耐水性積層シートを得た。
【0043】
(実施例2)
水で30質量%に希釈したコロイダルシリカ(商品名:スノーテックス40、日産化学工業株式会社製)100部、水で30質量%に希釈したスチレン−アクリル系共重合エマルジョン樹脂(商品名:ボンロンS−224、三井化学株式会社製)10部を混合し、界面活性剤を適宜添加して塗工液を調製した以外は、実施例1と同様に実施例2の耐水性積層シートを得た。
【0044】
(実施例3)
水で30質量%に希釈したコロイダルシリカ(商品名:スノーテックス40、日産化学工業株式会社製)100部、水で30質量%に希釈したスチレン−アクリル系共重合エマルジョン樹脂(商品名:ボンロンS−224、三井化学株式会社製)20部を混合し、界面活性剤を適宜添加して塗工液を調製した以外は、実施例1と同様に実施例3の耐水性積層シートを得た。
【0045】
(実施例4)
水で30質量%に希釈したコロイダルシリカ(商品名:スノーテックス40、日産化学工業株式会社製)100部、水で30質量%に希釈したスチレン−アクリル系共重合エマルジョン樹脂(商品名:ボンロンS−224、三井化学株式会社製)67部を混合し、界面活性剤を適宜添加して塗工液を調製した以外は、実施例1と同様に実施例4の耐水性積層シートを得た。
【0046】
(実施例5)
水で30質量%に希釈したコロイダルシリカ(商品名:スノーテックス40、日産化学工業株式会社製)100部、水で30質量%に希釈したスチレン−アクリル系共重合エマルジョン樹脂(商品名:ボンロンS−224、三井化学株式会社製)100部を混合し、界面活性剤を適宜添加して塗工液を調製した以外は、実施例1と同様に実施例5の耐水性積層シートを得た。
【0047】
(実施例6)
水で30質量%に希釈したコロイダルシリカ(商品名:スノーテックス40、日産化学工業株式会社製)100部、水で30質量%に希釈したスチレン−アクリル系共重合エマルジョン樹脂(商品名:ボンロンS−224、三井化学株式会社製)150部を混合し、界面活性剤を適宜添加して塗工液を調製した以外は、実施例1と同様に実施例6の耐水性積層シートを得た。
【0048】
(実施例7)
水で30質量%に希釈したコロイダルシリカ(商品名:スノーテックス40、日産化学工業株式会社製)100部、水で30質量%に希釈したアクリル系共重合エマルジョン樹脂(商品名:モビニール718A、日本合成化学工業株式会社製)20部を混合し、界面活性剤を適宜添加して塗工液を調製した以外は、実施例1と同様に実施例7の耐水性積層シートを得た。
【0049】
(実施例8)
水で30質量%に希釈したコロイダルシリカ(商品名:スノーテックス40、日産化学工業株式会社製)100部、水で30質量%に希釈したアクリル系共重合エマルジョン樹脂(商品名:モビニール718A、日本合成化学工業株式会社製)67部を混合し、界面活性剤を適宜添加して塗工液を調製した以外は、実施例1と同様に実施例8の耐水性積層シートを得た。
【0050】
(実施例9)
水で30質量%に希釈したコロイダルシリカ(商品名:スノーテックス40、日産化学工業株式会社製)100部、水で30質量%に希釈したアクリル系共重合エマルジョン樹脂(商品名:モビニール718A、日本合成化学工業株式会社製)100部を混合し、界面活性剤を適宜添加して塗工液を調製した以外は、実施例1と同様に実施例9の耐水性積層シートを得た。
【0051】
(実施例10)
水で30質量%に希釈したコロイダルシリカ(商品名:スノーテックス40、日産化学工業株式会社製)100部、水で30質量%に希釈したスチレン−アクリル系共重合エマルジョン樹脂(商品名:ボンロンS−224、三井化学株式会社製)10部を混合し、界面活性剤を適宜添加して塗工液を調製した。
【0052】
得られた塗工液を、熱風乾燥機で乾燥後の塗工量が1.2g/mとなるように、樹脂被覆紙の粗面形状側にワイヤーバーで塗工し、実施例10の耐水性積層シートを得た。
【0053】
(実施例11)
水で30質量%に希釈したコロイダルシリカ(商品名:スノーテックス40、日産化学工業株式会社製)100部、水で30質量%に希釈したスチレン−アクリル系共重合エマルジョン樹脂(商品名:ボンロンS−224、三井化学株式会社製)67部を混合し、界面活性剤を適宜添加して塗工液を調製した以外は、実施例10と同様に実施例11の耐水性積層シートを得た。
【0054】
(実施例12)
水で30質量%に希釈したスチレン−アクリル系共重合樹脂とコロイダルシリカを複合した特殊共重合樹脂(商品名:モビニール8055A、日本合成化学工業株式会社製)に界面活性剤を適宜添加して塗工液を調製した以外は、実施例1と同様に実施例12の耐水性積層シートを得た。
【0055】
(実施例13)
水で30質量%に希釈したスチレン−アクリル系共重合樹脂とコロイダルシリカを複合した特殊共重合樹脂(商品名:モビニール8055A、日本合成化学工業株式会社製)100部、水で30質量%に希釈したスチレン−アクリル系共重合エマルジョン樹脂(商品名:ボンロンS−224、三井化学株式会社製)10部を混合し、界面活性剤を適宜添加して塗工液を調製した以外は、実施例1と同様に実施例13の耐水性積層シートを得た。
【0056】
(実施例14)
水で30質量%に希釈したスチレン−アクリル系共重合樹脂とコロイダルシリカを複合した特殊共重合樹脂(商品名:モビニール8055A、日本合成化学工業株式会社製)100部、水で30質量%に希釈したスチレン−アクリル系共重合エマルジョン樹脂(商品名:ボンロンS−224、三井化学株式会社製)67部を混合し、界面活性剤を適宜添加して塗工液を調製した以外は、実施例1と同様に実施例14の耐水性積層シートを得た。
【0057】
(比較例1)
水で30質量%に希釈したコロイダルシリカ(商品名:スノーテックス40、日産化学工業株式会社製)100部、15質量%のポリビニルアルコール(商品名:PVA235、株式会社クラレ製)40部を混合し、界面活性剤を適宜添加して塗工液を調製した以外は、実施例1と同様に比較例1の耐水性積層シートを得た。
【0058】
(比較例2)
水で30質量%に希釈したコロイダルシリカ(商品名:スノーテックス40、日産化学工業株式会社製)100部、30質量%のポリエステル系ウレタン樹脂(商品名:ハイドランHW−350、DIC株式会社製)20部を混合し、界面活性剤を適宜添加して塗工液を調製した以外は、実施例1と同様に比較例2の耐水性積層シートを得た。
【0059】
(比較例3)
水で30質量%に希釈したアクリル系共重合エマルジョン樹脂(商品名:モビニール718A、日本合成化学工業株式会社製)に界面活性剤を適宜添加して塗工液を調製した以外は、実施例1と同様に比較例3の耐水性積層シートを得た。
【0060】
(比較例4)
水で30質量%に希釈したスチレン−アクリル系共重合樹脂とコロイダルシリカを複合した特殊共重合樹脂(商品名:モビニール8055A、日本合成化学工業株式会社製)100部、15質量%のポリビニルアルコール(商品名:PVA235、株式会社クラレ製)40部を混合し、界面活性剤を適宜添加して塗工液を調製した以外は、実施例1と同様に比較例4の耐水性積層シートを得た。
【0061】
(比較例5)
水で30質量%に希釈したスチレン−アクリル系共重合樹脂とコロイダルシリカを複合した特殊共重合樹脂(商品名:モビニール8055A、日本合成化学工業株式会社製)100部、30質量%のポリエステル系ウレタン樹脂(商品名:ハイドランHW−350、DIC株式会社製)25部を混合し、界面活性剤を適宜添加して塗工液を調製した以外は、実施例1と同様に比較例5の耐水性積層シートを得た。
【0062】
<ナノピット>
塗工層表面を走査型電子顕微鏡で100,000倍に拡大し、任意の10箇所からナノピットの内径及び塗工層表面のナノピット占有率を求めた。本発明では、円形、非円形の形状に関係なくナノピットとみなし、塗工層表面のナノピット占有率に含めた。非円形のナノピットに関しては、円形に近似させ面積を概算し、ナノピット占有率を求めた。
【0063】
<インキセット性>
RI印刷試験機を用い、印刷インキ藍(商品名:スペースカラーフュージョンG藍、DIC株式会社製)を0.7ccロールに展開して単色のベタ印刷を施す。15分後に白紙(坪量157g/mのA2グロス紙)と印刷面を重ねて、再度RI印刷試験機にてニップし、白紙に転写したインキ濃度を目視評価し、インキセット性を判定した。△以上の評価で、実用上問題ないレベルである。
◎:非常に速い。
○:速い。
△:中程度。
▲:遅い。
×:非常に遅い。
【0064】
<耐摩擦性>
RI印刷試験機を用い、印刷インキ藍(商品名:スペースカラーフュージョンG藍、DIC株式会社製)を0.7ccロールに展開して単色のベタ印刷を施す。インキが乾燥した後、印刷面を爪で強く擦った際のインキの残り具合を目視評価し、耐摩擦性を判定した。△以上の評価で、実用上問題ないレベルである。
○:インキの剥離がない。
△:軽微なインキの剥離がある。
×:インキの剥離がある。
【0065】
評価結果を表1にまとめる。
【0066】
【表1】

【0067】
実施例1〜14の結果から明らかなように、本発明の耐水性積層シートは、汎用のインキを用いて印刷を行う際のインキセット性が優れる特性を示した。実施例6の結果から、塗工層を形成する無機超微粒子と共重合体の固形分比率が100:100よりも、共重合体の固形分比率が大きくなると、インキセット性が低下することがわかる。実施例1の結果から、塗工層を形成する無機超微粒子と共重合体の固形分比率が100:10よりも、共重合体の固形分比率が小さくなると、耐摩擦性が低下することがわかる。
【0068】
比較例1〜2、4〜5の結果から明らかなように、共重合体にスチレン−アクリル系共重合体もしくはアクリル系共重合体以外のものを使用しても塗工層にナノピットは形成されず、インキセット性が悪いことがわかる。
【0069】
比較例3の結果から明らかなように、アクリル系共重合体のみを使用しても塗工層にナノピットは形成されず、インキセット性が悪いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の耐水性積層シートは、汎用のインキを用いてのオフセット印刷のみならず、グラビア印刷、フレキソ印刷、凸版印刷などの印刷にも使用できる。また、インクジェット記録用紙の紙基材、電子写真用紙の紙基材などにも使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂層で被覆されたシート上に、無機超微粒子と共重合体との組成から構成される塗工層を設け、塗工層にナノピットを有していることを特徴とする耐水性積層シート。
【請求項2】
ナノピット径が20〜300nmであり、かつ、塗工層表面のナノピット占有率が2〜40%である請求項1記載の耐水性積層シート。
【請求項3】
塗工層の無機超微粒子がコロイダルシリカであり、共重合体がスチレン−アクリル系共重合体もしくはアクリル系共重合体である、請求項1記載の耐水性積層シート。
【請求項4】
塗工層の無機超微粒子と共重合体との固形分比率が100:10〜100:100である請求項1または3記載の耐水性積層シート。
【請求項5】
塗工層に無機粒子と有機粒子の複合体を含有する、請求項1記載の耐水性積層シート。
【請求項6】
複合体の無機粒子がコロイダルシリカである請求項5記載の耐水性積層シート。
【請求項7】
複合体の有機粒子が、スチレン−アクリル系共重合体もしくはアクリル系共重合体である請求項5記載の耐水性積層シート。

【図1】
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【公開番号】特開2011−218780(P2011−218780A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−281849(P2010−281849)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】