説明

耐湿安定性に優れた錠剤

【課題】
製造や輸送に充分な硬度と口腔内での速やかな崩壊性を兼ね備え、かつ高湿度下でも硬度低下が小さく、良好な口腔内崩壊性が維持される口腔内速崩壊錠を提供する。
【解決手段】
本発明は、4%pHスラリーのpHが7〜13である多孔性塩基性無機物、BET比表面積が30〜500m2/g、糖類、崩壊剤、薬物からなる口腔内速崩壊錠であって、多孔性塩基性無機物と糖類の配合比が1:200〜1:5である口腔内速崩壊錠に関する。また、糖類は非晶質が1%以上含む場合より、性能を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿気下での錠剤の硬度低下や崩壊時間遅延が抑制された口腔内速崩壊錠、及びその口腔内速崩壊錠の簡便で製造に優れた製法、並びに湿気下での錠剤の硬度低下や崩壊時間増加が抑制される方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の錠剤やカプセル剤は、嚥下能力の低い高齢者や小児など服用が困難である。特に高齢者は、複数種の医薬品を摂取することが多く特に問題となっている。これまで嚥下能力の低い患者に対しては、チュワブル錠や散剤、顆粒剤などが用いられてきた。近年、これらの高齢者や小児などに適した剤形として、口腔内で速やかに崩壊又は溶解し、水なしで摂取が可能な口腔内速崩壊錠が提案(第十六改正日本薬局方)されている。また、従来の錠剤であっても、喉への貼り付いいた場合、容易に崩壊することによって改善が可能であるため、崩壊時間を短縮することが好ましい。高齢者の場合、複数種の医薬品と共に口腔内速崩壊錠がまとめて包装したり、事前にピルケースに入れておいたりする。そのため、空気中の湿気によって硬度低下による割れや欠け、崩壊時間の遅延が抑制された口腔内速崩壊錠が求められている。
【0003】
口腔内速崩壊錠は、従来の錠剤と同様の性質、則ち錠剤製造時や輸送中に錠剤の欠けや粉化がない程度の硬度を備えること、圧縮成型時に打錠障害を起こさずに製造可能であること、かつ口腔内での崩壊時間が遅くとも120秒以内、好ましくは60秒以内であることを有する必要があり、従来の錠剤よりも錠剤設計上で多くの困難を伴う。特に、錠剤の硬度と崩壊時間は、相反する要素である。
【0004】
口腔内速崩壊錠は、水に接して直ちに崩壊する必要があることから、空気中の水分(湿気)も容易に吸収し、錠剤の硬度低下や崩壊時間の増加が起こりやすい。これら錠剤物性の低下の原因は、ポリビニルピロリドン、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースなどの崩壊性に優れた崩壊剤が水分を吸収して膨潤すること、糖類が吸湿し粒子形状の変化や潮解、固化することなどが原因と考えられている。
【0005】
これまで、口腔速崩壊錠の湿度のよる錠剤低下を防ぐため、(1)製造時の錠剤の硬度を高くする方法、(2)錠剤成分を工夫する方法、(3)製造工程を工夫する方法などが行われてきた。
【0006】
錠剤の成分を工夫(選択)する方法としては、結晶セルロース、リン酸水素カルシウム類、天然デンプン類、及び滑沢剤からなる口腔内速崩壊錠(特許文献1)、水溶性結合剤を含有し崩壊剤を含有しない口腔内崩壊錠(特許文献2)、平均粒子径10〜500μmを有し、かつ糖類及びアミノ酸から選択された少なくとも一種の粒状ベース成分、吸水時の膨潤率が1.3以下の崩壊剤、水溶性結合剤及び滑沢剤からなる口腔内崩壊錠(特許文献3)が知られている。
【0007】
また、本出願人は、無機賦形剤、崩壊剤及びカルメロースが、マンニトールとキシリトールの複合粒子中に均質に分散してなる崩壊性粒子組成物を用いる口腔内速崩壊錠を提案(特許文献4)している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開2009/66773号パンフレット
【特許文献2】特開2001−342128号公報
【特許文献3】特開2010−270040号公報
【特許文献4】国際公開2011/19045号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、湿気(加湿)下で長期間保持しても、硬度の低下及び崩壊時間遅延を抑制する口腔内速崩壊錠を提供する。また、当該口腔内速崩壊錠を容易に製造可能な製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を達成するため鋭意検討した結果、非晶質を含む糖類に多孔性塩基性無機物を混合・圧縮成型することによって得られる口腔内速崩壊錠は、優れた崩壊性、製造や輸送中に問題を生じない充分な硬度を有し、湿気による硬度低下と崩壊時間増加が少なくなることを見出した。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、製造や輸送中に問題を生じない充分な硬度、良好な口腔内速崩壊時間を有し、湿気下で硬度低下と崩壊時間増加が抑制された口腔内速崩壊錠を提供する。また、当該口腔内速崩壊錠の簡便な製造方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1、比較例1の加速試験前と加速試験後のX−RDチャートである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、薬物、非晶質を含む糖類及び多孔性塩基性無機物、必要に応じて膨潤性崩壊剤を含む口腔内速崩壊剤である。
【0014】
糖類は、製剤時に流動性、成形性が優れ、また錠剤に崩壊性にも優れているため、錠剤の賦形剤として広く用いられている。中でも非晶質を含む糖類はそれらの効果が優れている。しかし、非晶質を含む糖類は、湿気下ではその糖類の安定な粒子形状へ構造変化し、錠剤の強度は増加するが、構成する粒子間の結合が強くなるため、崩壊時間は増大する。
【0015】
本発明での非晶質を含む糖類は、噴霧乾燥、流動層造粒、攪拌造粒及び転動層造粒などによる湿式造粒で、一度糖類を水に溶解させ、短時間で再乾燥させて得られる糖類である。非晶質部分は、糖類全体のうち、1〜100%であり、好ましくは10〜100%であり、より好ましくは20〜100%、さらに好ましくは30〜100%である。非晶質糖類の造粒時、崩壊剤やその他賦形剤、結合剤を含んでいてもよい。
【0016】
糖類としては、糖アルコールと糖のいずれでもよく、例えば、マンニトール、キシリトール、ソルビトール、エリスリトール、マルチトール、乳糖、ショ糖、ブドウ糖、果糖、麦芽糖、トレハロース、パラチニット及びパラチノースのであり、これらを2種以上で組み合わせることができる。成形性と崩壊性の点から、マンニトール、キシリトール、エリスリトール及び乳糖が好ましく、マンニトールが最も好ましい。また、マンニトールとキシリトールの複合粒子中に崩壊剤と無機物が均質に分散している口腔内速崩壊錠用の賦形剤であるエフメルト(富士化学工業社製)を用いてもよい。
【0017】
糖類は、多孔性塩基性無機物との混合時の被覆のしやすさ、口腔内でのざらつき感から、平均粒子径は20〜200μmであり、好ましくは50〜150μmである。
【0018】
本発明に用いる多孔性塩基性無機物は、粒子表面が水酸基であり、マグネシウムやアルミニウム、カルシウムの塩である。例えば、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、ハイドロタルサイト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及び水酸化マグネシウムであり、
好ましくはケイ酸アルミン酸マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、ハイドロタルサイト、ケイ酸カルシウムであり、より好ましくはケイ酸アルミン酸マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、塩基性のメタケイ酸アルミン酸マグネシウムである。
【0019】
塩基性無機物の塩基性とは、表面の酸性・塩基性度合が塩基性であり、水に添加した場合のpHで測定することができる。無機物を水に4%添加場合、pHが7〜13、好ましくはpHが8〜12であり、より好ましくは8〜11である。pHが高いとその他の添加物や薬剤と反応を起こすため好ましくない。構造式が同じであっても、塩基性を示す無機物を用いることができる。
【0020】
これら多孔性塩基性無機物の多孔性とは、一次粒子の粒子径が小さいこと、粒子自体が不定形であり多くの穴があることなどによって、比表面積が大きいことである。無機物の表面積が大きいほど、空気との接触面が大きく気層中の水分の調製能力が高く、また糖の表面を被覆しやすい。しかし、表面積が大きくなると、錠剤製造時に障害がでるので好ましくない。比表面積としては、30〜500m2/gであり、好ましくは50〜500m2/gであり、より好ましくは100〜400m2/g、最も好ましくは200〜400m2である。
【0021】
また、多孔性の度合い油の吸油能でも示すことができ、油の吸油量が0.2〜10ml/g、好ましくは0.5〜8ml/g、より好ましくは0.5〜6ml/gである。
【0022】
多孔性塩基性無機物は、多孔性を有することのみならず、空気中の水分子との平衡状態も重要であり、一般生活温度での水分吸着が大きいことが好ましい。温度37℃相対湿度90%の条件下での水分吸着量は、10〜70%であり、好ましくは20〜60%である。
【0023】
多孔性塩基性無機物は、水によって潮解してはならず、水に不溶性であるものが好ましい。多孔性塩基性無機物は錠剤中で構成する糖類の表面を均一に分散被覆するため、平均粒子径が小さい方が好ましく、平均粒子径は1〜30μm、好ましくは1〜20μmである。
【0024】
本発明での崩壊剤は、通常錠剤製造に用いられる崩壊剤をさす。好ましくは膨潤性崩壊剤であり、膨潤性崩壊剤は、錠剤に優れた崩壊性を付与するため、特に口腔内速崩壊錠には必須の成分となっている。膨潤性崩壊剤は、水に接すると直ちに水を吸収して膨潤し、近接する粒子を押しのけることによって錠剤を崩壊させる。しかし、水を容易に吸収するため、湿度下で長時間錠剤を放置することによっても、膨潤性崩壊剤は空気中から水を吸収してある程度は膨潤するため、錠剤の硬度低下と、崩壊時間の増加を生じる。
【0025】
本発明に用いる膨潤性崩壊剤は、クロスポビドン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロース、結晶セルロース、スターチである。特にクロスポビドン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースは、水に接した時の膨潤が高く好ましい。
【0026】
多孔性塩基性無機物と糖類の配合比は、1:400〜1:2であり、好ましくは1:200〜1:5、より好ましくは1:50〜1:7、さらに好ましくは1:30〜1:10である。多孔性塩基性無機物の割合が少ないと湿気下での安定性(硬度、崩壊時間)が好ましくなく、多いと成形性などの問題が生じる。
【0027】
崩壊剤を含む場合、多孔性塩基性無機物及び崩壊剤の配合比は、1:50〜1:1であり、好ましくは1:30〜1:1であり、より好ましくは1:20〜1:2である。多孔性塩基性無機物の割合が少ないと湿気下での安定性が十分ではなく、多いと成形性の問題が生じる。
【0028】
本発明の錠剤中では、糖類、崩壊剤の粒子の表面に多孔性塩基性無機物の微細な粒子によって覆われている。そのため、外気の水分の変化を調節するように働き、糖類の粒子構造変化(固化)、崩壊剤の膨潤などを抑制すると考えられる。
【0029】
口腔内速崩壊錠の製造工程では、短時間で加湿・加温を行い、錠剤中での糖類の固化を行って錠剤硬度を高める製造も行われている。しかし、さらに長時間にわたって湿気下で放置することにより、非晶質を含む糖類が含まれる場合、湿気により表面部分、特に他の粒子との結合部分の構造が変化することが、硬度の低下と崩壊時間遅延の原因となっている。本発明の多孔性塩基性無機物が錠剤に配合されることによって、糖類の非晶質部分の安定化結晶への結晶変化を促進する作用がある。例えば、非晶質のD−マンニトールにおいては、非晶質からβ型結晶の変化を生じている。これは、錠剤製造工程の加温加湿と同様の効果である。湿気による性能低下が結晶成長による性能向上によって抑制されていると考えられる。すなわち、多孔性塩基性無機物は糖類を含む錠剤では、湿気下で糖類の安定結晶の成長の促進剤として働く。
【0030】
薬物としては、特に限定されず、末梢神経用剤、解熱鎮痛消炎剤、催眠鎮静剤、精神神経用剤などの中枢神経用薬剤;骨格筋弛緩剤、自律神経剤などの末梢神経用薬剤;強心剤、不整脈用剤、利尿剤、血管拡張剤などの循環器用薬剤;気管支拡張剤、鎮咳剤などの呼吸器官用薬剤;消化剤、整腸剤、制酸剤などの消化管用薬剤;ホルモン剤、抗ヒスタミン剤などの代謝性薬剤;抗潰瘍剤;抗生物質;化学療法剤;生薬エキス剤;微生物類、ビタミン類などが挙げられる。
【0031】
薬物は、苦味を有するものや消化管内での放出を行わせるものは、コーティングなどの公知の方法で処理したものを用いることができる。例えば、特開平11−263723に記載の方法、すなわち有効成分とキシリトール、ソルビトール、シュクロースなどの易溶性とポリビニルピロリドン、プルラン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アラビアゴム、ゼラチンなどの水溶性結合剤、及びマンニトール、ラクトース、マンノースを噴霧乾燥、流動層造粒、攪拌造粒、混練造粒などにより有効成分を被覆することができる。
【0032】
上記、成分の他に一般の医薬品添加物を配合することができる。医薬品添加物としては、賦形剤、結合剤、界面活性剤、酸味料、甘味料、矯味剤、香料、着色剤、安定化剤などの医薬品添加物の1種以上を配合してなる。それぞれの配合割合は、非晶質を含む糖類100重量部に対して、その他の医薬品添加物の1種以上の成分を0.01〜1000重量部、必要に応じて有効成分を0.1〜250重量部配合してなる。
【0033】
本発明における「口腔内速崩壊錠」とは、口腔内で迅速に、例えば120秒以内で、好ましくは60秒以内で、より好ましくは30秒以内で崩壊し得る錠剤を意味する。ここでいう口腔内崩壊時間は、後述の口腔内崩壊性錠の条件や実施例の方法で得られる時間である。口腔内での崩壊時間は、錠剤の大きさや、錠剤形状によって異なるが、これも本願発明に含まれる。
【0034】
本発明で湿気とは空気中の水分をさす。湿気下の安定性が高い(対湿安定性が高い)とは、湿気下での硬度低下を抑制していることと湿気下での崩壊時間遅延を抑制していることの両方を満たしていることである。
【0035】
本発明における「湿気下での硬度低下を抑制している」とは、後述する加速試験の温度25℃相対湿度75%の開放下で3ヶ月後、又は温度40℃相対湿度75%の開放下で1週間後において、硬度維持率が65%以上、好ましくは70%以上、最も好ましくは80%以上であり、硬度が30N以上であることを指す。
なお、錠剤の維持率は、加速試験後の硬度を加速試験前の硬度で除して、百分率で示したものである。
【0036】
本発明における「湿気下での崩壊時間増加を抑制している」とは、後述する加速試験の温度25℃相対湿度75%の開放下で3ヶ月後、又は温度40℃相対湿度75%の開放下で1週間後において、崩壊時間が60秒以内、好ましくは50秒以内、最も好ましくは30秒以内であることを指す。
【0037】
薬物、非晶質を含む糖類、必要に応じて膨潤性崩壊剤や医薬品添加物に、多孔性塩基性無機物を混合し、圧縮成型することによって製造することができる。糖類は、必要に応じて、多孔性塩基性無機物、崩壊剤、薬物を加えて水の存在下で造粒したほうが好ましい。水の存在下での造粒方法としては、噴霧乾燥、流動層造粒、攪拌造粒及び転動層造粒などによる湿式造粒である。また、圧縮成型時に外部滑沢法を行うことができる。
【0038】
圧縮成型は、直接打錠法によるのが好ましく、その際の成形圧は、錠剤の大きさにより異なるが、通常200〜2000kgfであり、好ましくは250〜1600kgfであり、より好ましくは250〜1200kgfである。
【0039】
本発明の崩壊性圧縮成型物は、通常20〜200N、好ましくは30〜150Nの硬度を有する。本発明の崩壊性圧縮成型物は、本発明の粒子組成物を用いているため、低い成形圧で良好な硬度となる。成形圧は錠剤の大きさによって変わるが、例えば、直径8mmの杵を用い、200mgの錠剤を打錠するとき、成形圧が100〜1200kgfのときに30〜150Nの硬度を有し、成形圧が100〜1000kgfのときに30〜100Nの硬度を有する。
【0040】
本発明の口腔内崩壊性錠は、口腔内崩壊性錠を目的としたもの以外の錠剤、例えばチュアブル錠や胃での崩壊錠に成型するなど、他の固形製剤としても用いることができる。チュアブル錠剤型、一般錠剤とする場合は、前述の硬度より高い硬度として構わない。
本発明の口腔内崩壊性錠は、少量の水で直ちに崩壊することから、口腔内で崩壊する食品に用いることができる。
【実施例】
【0041】
以下に、本発明を実施例により説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
実施例で得られた各錠剤についての評価は、次の方法により行った。
[4%pHスラリー]
無機物を水に加えて4%の濃度とし、pH測定器(HM−30V、東亜ディーケーケー社製)により測定した。
[BET比表面積]
BET比表面積測定器(モノソーブ、ユアサアイオニクス社製)により測定した。
[口腔内崩壊時間]
錠剤崩壊試験器(ODT−101、富山産業社製)により、錠剤の崩壊時間を測定した。
[錠剤の硬度]
ロードセル式錠剤硬度計(PC−30、岡田精工(株)製)を用いて測定した。
[錠剤の維持率]
加速試験後の硬度を加速試験前の硬度で除して、100分率で示した。
【0042】
[参考例1] 崩壊性賦形剤の製造
マンニトール(マンニットP、東和化成工業社)65重量部、キシリトール4重量部、結晶セルロース(セオラスFD101:旭化成ケミカルズ社製)17重量部、クロスポビドン(コリドンCL−SF、BASF社製)9重量部、無水リン酸水素カルシウム(フジカリンSG、富士化学工業社製)5重量部を水に均一に分散させたのち、噴霧乾燥機(S−50N/R、ニロ社製)を用いて、出口温度90〜100℃で噴霧乾燥し、流動性の良い白色の球状の粒子組成物を得た。平均粒子径は114μmであった。D−マンニトールのα型結晶は6.4%、β型結晶は31.2%、非晶質は31.2%であった。
【0043】
[参考例2] メタケイ酸アルミン酸マグネシウムの製造
特公昭36−023163に記載の方法に従ってメタケイ酸アルミン酸マグネシウの白色粉末を製造した。4%スラリーpHは10.0、吸油能は3.5ml/g、BET比表面積は300m/g、平均粒子径は24μmであった。
【0044】
[実施例1] 塩基性無機物の口腔内速崩壊錠
参考例1の造粒物97.6重量部、ケイ酸アルミン酸マグネシウム2.0重量部、ステアリン酸マグネシウム(太平化学産業社製)0.5重量部を混合したのち、ロータリー打錠機により設定硬度50Nとして打錠し、重量200mg、直径8mm、9Rの錠剤を得た。結果を表2に示す。
【0045】
[実施例2〜4、比較例1〜3]
ケイ酸アルミン酸マグネシウムを表1の塩基性無機物に置き換えて、実施例1と同様の製法で。結果を表2に示す。
【0046】
[表1] 配合した無機物

【0047】
[加速試験]
得られた錠剤を温度25℃、相対湿度75%の開放下で3ヶ月放置した。結果を表2に示す。
【0048】
[表2] 試験結果

【0049】
実施例1〜4と比較例1から、塩基性多孔性無機物を添加混合よって崩壊時間の増加が抑制されて60秒以内になっており、併せて硬度維持率が65%以上であり硬度も30Nを維持しており加湿での安定性が高いことが分かる。比較例2〜3の酸性多孔性無機物は、崩壊時間が60秒以上あり、硬度維持率が65%であり、加湿下では口腔内速崩壊錠として用いることが困難であることが分かる。
【0050】
[結晶構造分析]
実施例1、比較例1について、錠剤をX'Pert−MPD型(スペクトリ社製)によりX線測定(X−RD)し、マンニトールのβ型結晶の変化を分析した。結果を表3、図1に示す。
【0051】
[表3]β型結晶ピーク強度

各値はマンニトールのβ型結晶の代表的なピークでのXRD強度を示す。
【0052】
D−マンニトールのβ型結晶が、比較例1に対して実施例1では増加していることが分かる。D−マンニトールの非晶質部分がβ型結晶に転移していることを示す。
【0053】
[実施例1、4−6] 塩基性無機物の口腔内速崩壊錠
表4の配合量に従って、参考例1の造粒物、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、ショ糖ステアリン酸エステル0.5重量部を混合したのち、ロータリー打錠機により設定硬度50Nとして打錠し、重量200mg、直径8mm、9Rの錠剤を得た。
【0054】
[表4] 配合量

【0055】
[加速試験]
得られた錠剤を温度25℃、相対湿度75%の開放下で3ヶ月間放置した。結果を表5に示す。
【0056】
[表5] 試験結果

【0057】
ケイ酸アルミン酸マグネシウム添加量が1〜5重量部の間では、硬度維持率が70%以上であって、崩壊時間が20秒以下と、加湿による錠剤の物性低下が抑制されていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
4%pHスラリーpHが7〜13、BET比表面積が30〜500m2/gの多孔性塩基性無機物、薬物、糖類、崩壊剤からなる口腔内速崩壊錠。
【請求項2】
糖類が非晶質糖類を含む請求項1に記載の口腔内速崩壊錠。
【請求項3】
多孔性塩基性無機物が0.2〜10ml/gである請求項1または2に記載の口腔内速崩壊錠。
【請求項4】
多孔性塩基性無機物と糖類の配合比が、1:200〜1:5である請求項1〜3のいずれか1項に記載の口腔内速崩壊錠。
【請求項5】
多孔性塩基性無機物と糖類の配合比が、1:50〜1:7である請求項1〜3のいずれか1項に記載の口腔内速崩壊錠。
【請求項6】
多孔性塩基性無機物と崩壊剤の配合比が1:50〜1:1である請求項1〜5のいずれか1項に記載の口腔内速崩壊錠。
【請求項7】
対湿安定性が、温度25℃相対湿度75%下で3ヶ月保持したときの錠剤の硬度維持率が65%以上、崩壊時間が60秒以下である請求項1〜6のいずれか1項に記載の口腔内速崩壊錠。
【請求項8】
多孔性塩基性無機物が、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、ハイドロタルサイト、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、水酸化マグネシウム及び水酸化アルミナマグネシウムから選ばれる少なくとも1種以上からなる請求項1〜7のいずれか1項に記載の口腔内速崩壊錠。
【請求項9】
糖類が、マンニトール、キシリトール、エリスリトール及び乳糖から選ばれる少なくとも1種以上からなる請求項1〜8のいずれか1項に記載の口腔内速崩壊錠。
【請求項10】
非晶質を含む糖類が、湿式造粒してなり、平均粒子径が20〜200μmである請求項2〜9のいずれか1項に記載の口腔内速崩壊錠。
【請求項11】
非晶質を含む糖類又は非晶質糖類を含む造粒物、多孔性塩基性無機物を実質的に水分を用いず混合し、圧縮成型して得られる請求項2〜10のいずれか1項に記載の口腔内速崩壊錠。
【請求項12】
非晶質を含む糖類又は非晶質糖類を含む造粒物、多孔性塩基性無機物、崩壊剤を実質的に水分を用いず混合し、圧縮成型して得られる請求項2〜10のいずれか1項に記載の口腔内速崩壊錠。
【請求項13】
4%pHスラリーのpHが7〜13、BET比表面積が30〜500m2/g、吸油能が0.2〜10ml/gである多孔性塩基性無機物、糖類、薬物、崩壊剤を、混合したのち、圧縮成型して得られる口腔内速崩壊錠の製造方法。
【請求項14】
多孔性塩基性無機物、糖類、薬物、崩壊剤の混合が、実質的に水を用いない請求項13の製造方法。
【請求項15】
糖類が、非晶質を含む糖類又は非晶質糖類を含む造粒物である請求項13または14の製造方法。
【請求項16】
糖類、必要に応じて薬物、崩壊剤、多孔性塩基性無機物を水の存在下で造粒し、当該造粒では添加しなかった薬物、崩壊剤、多孔性塩基性無機物を混合する請求項13〜15のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項17】
4%pHスラリーのpHが7〜13、BET比表面積が30〜500m2/g、吸油能が0.2〜10ml/gである多孔性塩基性無機物を、非晶質糖類を含む錠剤に配合してなる口腔内速崩壊錠の対湿安定性の改善方法。
【請求項18】
4%pHスラリーのpHが7〜13、BET比表面積が30〜500m2/g、吸油能が0.2〜10ml/gである多孔性塩基性無機物を有効成分とする湿気下での糖類の結晶成長剤。

【図1】
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【公開番号】特開2012−236823(P2012−236823A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−103965(P2012−103965)
【出願日】平成24年4月27日(2012.4.27)
【出願人】(390011877)富士化学工業株式会社 (53)
【Fターム(参考)】