説明

耐湿性に優れた被覆膜付き酸化物蛍光体粒子の製造方法

【課題】 蛍光強度を低下させず、高耐湿性及び高耐水性を有し、密着性の高い被覆膜を備えた酸化物蛍光体粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】 芯材となる酸化物蛍光体粒子の表面に、一部加水分解させたアルミニウム有機金属化合物を吸着させて下地層を形成し、その上にシラン有機金属化合物の加水分解縮合物の被覆材を用いて被膜を設け、特定のノニオン系脂肪酸族の界面活性剤を含む有機溶媒により被膜の表面改質し、更に上記被覆材で被膜を積層形成した後、加熱処理することによって、SiとAlとOを主成分とする非晶質無機化合物からなる被覆膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆膜付き蛍酸化物光体粒子の製造方法に関し、更に詳しくは、被覆膜の密着性が高く、優れた耐湿性ないし耐水性を有する被覆膜付き酸化物蛍光体粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発光材料としてよく知られている酸化物蛍光体としては、組成式:SrSiO:Eu又はSrSiO:Euで表される化合物相からなるものがある。これらは高輝度型白色LED用蛍光体に使用される蛍光体であり、青色LEDからの励起光の一部を吸収することにより黄色発光し、更に青色励起光と混ざり合うことにより白色光が得られる。また、高演色型白色LED用蛍光体に用いられる(Ba、Sr)SiO:Euは、緑に発色することで演色性を高めている。
【0003】
これらの酸化物蛍光体は、空気中の水蒸気又は水によって表面に水和物、水酸化物あるいは炭酸塩が生成して劣化することが知られている。そのため、大気中での長時間の使用や、励起光による温度の上昇によって、輝度の低下及び色調の変化が起きるという問題がある。このような酸化物蛍光体の耐湿性改善策として次の方法が提案されているが、それぞれに問題点が指摘されている。
【0004】
(1)シリコーン樹脂、テトラエトキシシラン、シリカ、ケイ酸亜鉛、シリコーンオイル、ケイ酸アルミニウム、シリコーンオイル、シリングリース等の被覆材を用いて、酸化物蛍光体粒子表面に被覆膜を設ける方法(特許文献1参照)。
【0005】
(2)シラン有機金属化合物のアルコキシシランを用い、厚さ20nm以上の非連続のガラス膜を硫化物蛍光体粒子表面に設ける方法(特許文献2参照)。
【0006】
(3)有機シラン化合物を用いて硫化物蛍光体粉末の粒子表面にシリコンが含まれた有機高分子被膜を形成し、この有機高分子被膜を熱処理してシリコン酸化膜を得る方法(特許文献3参照)。
【0007】
上記(1)の方法においては、トルエン等に酸化物蛍光体粒子体積の0.1〜50%の被覆材を溶解させた分散液に、水分量が1重量%未満となるように乾燥した酸化物蛍光体粒子を浸漬した後、真空エバポレータ等により乾燥して、粒子表面に被覆膜を形成する。得られた被覆膜付きの酸化物蛍光体は、初期発光強度の低下がなく、耐湿性が改善されるとされている。
【0008】
この方法は簡便な方法ではあるが、微細な酸化物蛍光体粒子全面を均一に被覆すること、あるいは被覆膜の厚さを制御することは容易でない。また、シリコーンオイルやシリコーン樹脂などを用いた場合、通常の乾燥機による方法では乾燥が進み難い。乾燥不十分の被覆膜を有する酸化物蛍光体粒子をLED等の発光素子に使用すると、蛍光体粒子の流動性が低下してしまい、均一な発光が可能な発光素子を得ることができない。そのため、乾燥を十分に行うべく強制乾燥すると、蛍光体粒子同士が凝集してしまい、LED樹脂中に練り混むことができないという問題がある。
【0009】
上記(2)の方法では、蛍光体粒子をエタノール中に分散させ、加熱しつつアルコキシランを添加して撹拌した後、水を添加して所定時間撹拌することにより、蛍光体粒子表面に非連続のガラス膜を形成する。しかし、この方法では、硫化物蛍光体にアルコキシシランと加水分解用の水を同時に加えるために、耐水性の低い粉末、例えば、組成式SrS:Euで表される化合物相からなる硫化物蛍光体粒子の場合、水分の影響で蛍光体粒子そのものの劣化が著しく、加熱温度を高くすると劣化が更に激しくなり、甚だしい場合には蛍光体粒子が溶解してしまうという問題がある。
【0010】
上記(3)の方法においては、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(MPTS:Si(CHO)(CH)SH)、アルキルシラン、アルコキシシラン、ヒドロキシシラン等で蛍光体粒子を表面処理した後、アンモニア含有アルコール溶液中に蛍光体粉末を浸漬させて表面にシリコンが含まれる有機高分子被膜を形成し、次いで、これを熱処理して蛍光体粉末表面にシリコン酸化膜を形成する。
【0011】
しかし、この方法では、反応触媒剤として加えられたアンモニアがアルコキシシランの加水分解反応を促進させるが、蛍光体粒子表面を被覆する前にアルコキシシラン同士が縮合反応を起こし、アルコキシシラン縮合体微粒子を生成してしまう。この微粒子が堆積した硫化物系蛍光体粉末を熱処理しても、形成される被膜は緻密なものとならない。
【0012】
加えて、反応後に得られるものは、アルコキシシラン縮合体が粒子表面に堆積した硫化物系蛍光体粉末と、アルコキシシラン縮合体の微粉末との混合物となる。従って、得られたものを用いてLED発光素子を作製しても、発光特性全体が低下するという問題がある。これを少しでも回避するために、反応速度を緩和する処置も採られるが、その場合には処理時間が長くなるために生産性が悪化するという新たな問題が生じている。
【0013】
ところで、上記した蛍光体粒子の耐湿性改善策を用いた場合、得られる被覆膜付き蛍光体粒子を成形して得られる蛍光体は、耐湿性及び耐水性が十分でないことが分った。例えば、上記蛍光体を高温加湿雰囲気中に投入すると、湿度の影響で蛍光体表面が侵され、水和物や硫酸化物又は炭酸塩が生成して発光特性が大きく低下する。これらの傾向は、特にアルカリ土類元素を含む蛍光体粒子を用いたLED発光素子で著しい。このように蛍光体の耐湿性が改善されていない場合には、その蛍光体を用いて作製したLED発光素子を屋外で使用すると、LED発光素子は直ちに劣化することになる。
【0014】
これら劣化の多くの原因は被覆膜の材質ばかりでなく、被覆膜の欠陥(ピンホール等)にもある。例えば、蛍光体粒子表面に被膜を形成し、加熱処理して被覆膜を得る場合、加熱処理により有機物を分解する際に被覆膜に欠陥が形成され、この欠陥を通して湿気や水分が内部に進入するため、蛍光体粒子そのものが劣化する。
【0015】
これを回避するため、通常は被覆膜の膜厚を厚くすることが行われている。しかしながら、一般的なアルコキシシランを加水分解して被覆する方法、即ち、水又は非水溶媒に酸アルカリ触媒を添加し、pHを制御してアルコキシシランを加水分解・縮合反応させる方法では、アルコキシシランをゆっくりと加水分解・縮合反応させて粒子表面に析出物を堆積させるため、膜厚を50nm以上に厚くするには長時間の処理を要する。また、希薄液中での処理となるため、1バッチ当たり少量の被覆しかできず、生産効率が劣るという問題もある。
【0016】
更に、最近の被覆膜の課題として、密着力の向上が挙げられる。LED発光素子の製造工程において、蛍光体はシリコーン樹脂中に練り込まれ、モールド材にキャストした後、加熱硬化される。しかし、蛍光体の粒子が粗大な粒径であったり、粒子が微細で凝集していたりすると、粒子を分散させ沈殿を回避するためにシリコーン樹脂中での練り込みを激しく行う傾向にある。そのため、粒子表面には膨大なトルクによる剪断力が生じるため、粒子表面の被覆膜に剥離又は膜割れなどが起こりやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2005−187797号公報
【特許文献2】特開2007−308537号公報
【特許文献3】特開2006−188700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑み、蛍光体粒子表面に蛍光強度を低下させることなく被覆膜を形成して、高耐湿性及び高耐水性を有し、後の加工時の負荷に耐える密着性の高い被覆膜を備えた酸化物蛍光体粒子を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するため、本発明らは鋭意検討を重ねた結果、蛍光体粒子表面に所定の重量平均分子量を有するシラン有機金属化合物の加水分解縮合物により被覆膜を形成すること、この被覆膜の形成前に一部加水分解させたアルミニウム有機金属化合物を吸着させた下地層を形成することにより、蛍光強度を低下させることなく、高耐湿性及び高耐水性を有し、密着性の高い被覆膜を備えた蛍光体粒子が得られることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0020】
即ち、本発明が提供する被覆膜付き酸化物蛍光体粒子の製造方法は、下記(1)〜(6)の各工程を含むことを特徴とするものである。
(1)酸化物蛍光体粒子表面に、下地層として一部加水分解させたアルミニウム有機金属化合物を被覆する第1工程
(2)シラン有機金属化合物、アルミニウム有機金属化合物、有機溶媒及び水から重量平均分子量5,000〜20,000の加水分解縮合物を調製し、濃縮してシラン有機金属加水分解縮合物の被覆材を得る第2工程
(3)第1工程で得られた下地層付きの酸化物蛍光体粒子に、第2工程で得た被覆材を被覆する第3工程
(4)第3工程で酸化物蛍光体粒子表面に被覆した被覆材の被膜を、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート、ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンラウレートの群から選ばれる少なくとも1種のノニオン系脂肪酸族の界面活性剤を含む有機溶媒により表面改質する第4工程
(5)第4工程で表面改質した酸化物蛍光体粒子表面の被覆材の被膜上に、第2工程で調整した被覆材を更に被覆する第5工程
(6)第5工程で得られた被覆材の積層被膜を有する酸化物蛍光体粒子を大気中で加熱処理して、酸化物蛍光体粒子表面に非晶質無機酸化物の被覆膜を形成する第6工程
【0021】
上記本発明による被覆膜付き酸化物蛍光体粒子の製造方法において、前記第1工程及び第2工程で用いるアルミニウム有機金属化合物は、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、オクチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロプレート、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)の群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0022】
上記本発明による被覆膜付き酸化物蛍光体粒子の製造方法において、前記第2工程で用いるシラン有機金属化合物は、メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランの群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、緻密且つ均一で欠陥がほとんどなく、高い被覆性と同時に優れた密着性を有し、高耐湿性及び高耐水性に優れた被覆膜を具えた酸化物蛍光体粒子を提供することができる。しかも、被覆膜は膜厚が薄く且つSiとAlとOとを主成分とする非晶質無機酸化物からなるため、被覆膜を設けることで酸化物蛍光体の蛍光強度が低下することはない。
【0024】
従って、本発明の被覆膜付き酸化物蛍光体粒子は、非晶質無機酸化物の被覆膜を有することによって、耐湿性及び耐水性が極めて高く、本来の蛍光強度を維持できると共に、被覆膜は後の加工時の負荷に耐える高い密着性を有しているため、照明や自動車などに用いるLED発光素子用の酸化物蛍光体として極めて優れている。また、本発明の被覆膜付き酸化物蛍光体粒子は、各工程の操作も特に複雑ではないため、簡単且つ効率的に製造できるという利点もあり、その工業的価値は極めて大きい。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の被覆膜付き酸化物蛍光体粒子は、芯材となる酸化物蛍光体粒子の表面に、一部加水分解させたアルミニウム有機金属化合物を吸着させて下地層を形成し、その上にシラン有機金属化合物の加水分解縮合物からなる被覆材を用いて被膜を設け、被膜の表面改質をして更に上記被覆材で被膜を積層して形成した後、加熱処理することによって、粒子表面にSiとAlとOを主成分とする非晶質無機化合物からなる被覆膜を形成したものである。
【0026】
本発明において芯材として用いる酸化物蛍光体は、例えば、SrSiO:Eu、SrSiO:Eu、(Sr、Ba)SiO:Eu、(Ba、Sr、Ca)SiO:Eu、(Ba、Sr)SiO:Euなどの組成式で表される化合物相の少なくとも1種を有するアルカリ土類シリケート蛍光体を好適に使用することができる。また、酸化物蛍光体粒子は、その平均粒子径がD50で1〜50μmの範囲であるものが好ましい。
【0027】
本発明の被覆膜付き酸化物蛍光体粒子の製造方法は以下の工程を備えている。(1)酸化物蛍光体粒子表面に、下地層として一部加水分解させたアルミニウム有機金属化合物を被覆する第1工程
(2)シラン有機金属化合物、アルミニウム有機金属化合物、有機溶媒及び水から、重量平均分子量5,000〜20,000の加水分解縮合物を調製し、濃縮してシラン有機金属加水分解縮合物の被覆材を得る第2工程
(3)第1工程で得られた下地層付きの酸化物蛍光体粒子に、第2工程で得た被覆材を被覆する第3工程
(4)第3工程で酸化物蛍光体粒子表面に被覆した被覆材の被膜を、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート、ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンラウレートの群から選ばれる少なくとも1種のノニオン系脂肪酸族の界面活性剤を含む有機溶媒により表面改質する第4工程
(5)第4工程で表面改質した酸化物蛍光体粒子表面の被覆材の被膜上に、第2工程で調整した被覆材を更に被覆する第5工程
(6)第5工程で得られた被覆材の積層被膜を有する酸化物蛍光体粒子を大気中で加熱処理して、酸化物蛍光体粒子表面に非晶質無機酸化物の被覆膜を形成する第6工程
【0028】
次に、本発明の酸化物蛍光体粒子の製造方法を各工程に従って順に説明する。
(1)第1工程は、蛍光体粒子表面に一部加水分解させたアルミニウム有機金属化合物を吸着させて、下地層を形成する工程である。この第1工程は、アルミニウム有機金属化合物の一部加水分解によって水酸基を増やし、これを下地層として粒子表面に吸着させ、その下地層に後の工程での被覆材の吸着ないし結合を促進させることで、最終的に得られる被覆膜の均一性や密着性を向上させる重要な工程である。
【0029】
具体的には、まず、アルミニウム有機金属化合物を有機溶媒に添加混合し、更に水を加えることによりアルミニウム有機金属化合物を一部加水分解させる。アルミニウム有機金属化合物が完全に加水分解されないように、加える水の量はアルミニウム有機金属化合物が一部加水分解する量であればよく、好ましくはアルミニウム有機金属化合物に対し2〜7質量%の純水を加える。
【0030】
次に、芯材となる酸化物蛍光体粒子を有機溶媒中に添加し、28〜48kHzの超音波振動を10〜30分加えて分散させる。この酸化物蛍光体粒子の分散液に、上記の一部加水分解させたアルミニウム有機金属化合物を加え、水分量を制御するため密封状態下において、温度18〜60℃、撹拌時間0.5〜24時間の条件で撹拌混合する。その後、0.05〜0.1MPaの真空度で真空濾過して有機溶媒を分離し、下地層を形成した蛍光体粒子を得る。
【0031】
一部加水分解させたアルミニウム有機金属化合物は、蛍光体粒子の表面に吸着することで下地層を形成する。この下地層は予め一部加水分解させたアルミニウム有機金属化合物からなり、多くの水酸基を有することができるため、後の工程で下地層の上に形成する被覆材の被膜の吸着及び結合が容易となり、被覆膜の均一性及び密着性を向上させることができる。尚、上記第1工程で形成する下地層の膜厚は、特に限定されるものではなく、上記処理において乾燥時に粒子間の凝集や下地層の剥離が生じなければよい。
【0032】
上記有機溶媒としては、一般式:ROH(ここで、Rは炭素原子数1〜6の一価炭化水素基を表す)で表されるアルコール溶媒が好適に用いられ、特にエタノール又はイソプロピルアルコールが好ましい。尚、後述する第2工程及び第4工程で用いる有機溶媒についても、第1工程で使用する有機溶媒と同様にアルコール溶媒を好適に使用することができる。
【0033】
上記第1工程で使用するアルミニウム有機金属化合物は、使用する有機溶媒に対して相溶性があり、酸化物蛍光体粒子表面への吸着力が高いものが望ましい。具体的には、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、オクチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロプレート、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)など、アルキル基を含有するアルミニウムキレート化合物が好ましい。特に、好ましい有機溶媒であるエタノール及びイソプロピルアルコールとの相溶性が高いもの、例えばエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレートがより好ましい。
【0034】
上記第1工程において、蛍光体粒子に下地層を形成する際の蛍光体粒子、有機溶媒及び一部加水分解させたアルミニウム有機金属化合物の配合割合は、特に限定されるものではない。好ましい配合割合としては、例えば有機溶媒は、蛍光体粒子1質量部に対して5〜50質量部の範囲である。また、一部加水分解させたアルミニウム有機金属化合物は、蛍光体粒子1質量部に対して0.1〜1質量部が好ましい。上記範囲を超えて一部加水分解させたアルミニウム有機金属化合物を多く配合すると、有機溶媒の分離時に蛍光体粒子の凝集が起こりやすくなるため好ましくない。
【0035】
上記した下地層形成の際の撹拌混合方法は、特に限定されるものではないが、有機溶媒の揮発をできるだけ防止するために密封状態下で行い、温度18〜60℃にて0.5〜24時間の撹拌混合が好ましく、温度18〜40℃にて1〜4時間の撹拌混合が更に好ましい。尚、撹拌混合は、撹拌羽やスターラ等の撹拌機による方法、あるいは超音波ホモジナイザー等を用いて行うことができる。
【0036】
また、蛍光体粒子と下地層との密着性を高めるために、下地層を形成した後、有機溶媒を真空濾過により除去することが好ましい。真空濾過に関しては、第1工程のみならず、本発明においては0.05〜0.1MPaの真空度で濾過することが好ましい。真空濾過の代わりに、加熱により有機溶媒を揮発させて除去する方法を採用することもできる。但し、この場合150℃以上の温度で加熱乾燥すると、吸着したアルミニウム有機金属化合物が変質して、後の工程でシラン有機金属加水分解縮合物との吸着性が低下するので好ましくない。
【0037】
(2)第2工程は、シラン有機金属化合物と、アルミニウム有機金属化合物と、有機溶媒及び水とから、重量平均分子量(Mw)が5,000〜20,000のシラン有機金属加水分解縮合物からなる被覆材を調製する工程である。
【0038】
即ち、有機溶媒中に、シラン有機金属化合物と、触媒として作用するアルミニウム有機金属化合物と、加水分解用の水とを配合し、撹拌混合してシラン有機金属化合物の加水分解縮合物を得る。これを更に80〜60質量%になるまで濃縮して、上記第1工程で得られた下地層を有する蛍光体粒子表面を被覆するための被覆材とする。
【0039】
シラン有機金属化合物はアルミニウム有機金属化合物と水の作用により加水分解・縮合反応を起こし、時間の経過と共に徐々に縮合が進行して分子量が次第に増加するので、この時に重量平均分子量を5,000〜20,000の範囲とすることが重要である。即ち、被覆材の重量平均分子量が5,000より小さいと、加熱処理時の飛散量が大きくなり、緻密な被覆膜が得られない。逆に重量平均分子量が20,000を超えると、蛍光体粒子表面への被覆性が低下し、耐湿性及び耐水性が向上しなくなる。
【0040】
上記シラン有機金属化合物としては、加水分解縮合物の安定性、被覆性及び膜質から、トリアルコキシシランが好ましい。具体的には、メチル−、エチル−、i−プロピル−、i−ブチル−、n−プロピル−、n−ブチル−等のトリアルコキシシランが好ましい。その中でも、メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシランが特に好ましい。
【0041】
これらのシラン有機金属化合物の中でも、メチルトリメトキシシラン又はメチルトリエトキシシランが特に好ましい。メチルトリメトキシシラン及びメチルトリエトキシシランは、適度な反応速度であるために、長時間にわたる加水分解縮合物の作製においても急激に粘度が上昇することがなく、沈殿物の生成又は白濁化といった不安定さが生じることもなく、所望の分子量に制御することが容易であるためである。
【0042】
一般的に、シリカ被覆膜の形成に使用されるシラン有機金属化合物としては、アルコキシシラン、例えば比較的安価で多用されているテトラエトキシシラン(TEOS)が使用されている。しかし、アルコキシシランを本発明に用いても、安定性や被覆性が劣り、要求される耐湿性を有する被覆膜を得難くなるため使用することはできない。尚、第2工程において用いるアルミニウム有機金属化合物としては、上記第1工程で述べたアルミニウム有機金属化合物が好ましい。また、第2工程において用いる有機溶媒としては、上記第1工程で述べた有機溶媒が好ましい。
【0043】
第2工程において、有機溶媒、シラン有機金属化合物、アルミニウム有機金属化合物、及び水の配合割合は、シラン有機金属化合物1質量部に対して、有機溶媒は0.5〜1質量部、アルミニウム有機金属化合物は0.0125〜0.05質量部、水は0.2〜0.5質量部であることが好ましい。有機溶媒量が1質量部より多いと濃縮時間が長くなり、0.5質量部より少ないと混合が不均一となる。また、アルミニウム有機金属化合物が0.0125質量部未満では触媒作用が不十分になりやすく、逆に0.05質量部を超えると反応が活発化しすぎ、シラン有機金属化合物の加水分解縮合物同士が凝集して溶媒中で粗大な沈殿を形成しやすくなるため好ましくない。
【0044】
ここで、第2工程の操作を更に詳しく説明する。まず、シラン有機金属化合物と、アルミニウム有機金属化合物と、有機溶媒及び水を配合し、密封状態下で18〜96時間撹拌して加水分解縮合物を作製する。次に、得られた溶液を開封した容器に入れ、強撹拌を加えて余分な溶媒や水分、未反応物を揮発させることにより、液量が元の質量に対して80〜60%になるまで濃縮する。このようにして被覆材(被覆液)を得ることができる。
【0045】
上記加水分解縮合の際の撹拌混合条件としては、特に限定されるものではないが、密封状態下において、温度を好ましくは18〜40℃、更に好ましくは18〜30℃、特に好ましくは20〜25℃とする。温度が18℃よりも低いと反応が不十分となり、40℃より高くなると反応が激しくなり過ぎ、白濁や沈殿が形成されるため避けるべきである。
【0046】
また、撹拌時間は好ましくは18〜96時間、更に好ましくは36〜72時間とする。撹拌時間が18時間未満では、加水分解・縮合反応が不十分であり、加水分解縮合物中に多くの低分子を含むことになる。このため、熱又は水に対する耐性が劣り、良好な被覆膜として機能しない場合がある。一方、撹拌時間が96時間を超えると、形成される被覆膜は吸着性に劣り、局部的に未被覆部が生じやすい。尚、撹拌混合の手段としては、撹拌羽、スターラ等の撹拌機による方法、あるいは超音波ホモジナイザー等を用いる方法がある。
【0047】
加水分解縮合の際には、水分量を制御するため、撹拌時の密封方法、有機溶媒中に含まれる水分量にも注意が必要である。即ち、シラン有機金属化合物は水分により加水分解・縮合反応を起こすので、その水分量制御が反応の安定性に大きく影響する。そのため、例えば、使用する容器としては、ビーカ口にシリコンゴム製のパッキンを設け、出し入れ時以外は外気の侵入を極力防いだテフロン(登録商標)製ビーカを用いるか、外気を遮断したグローブボックス内等で作業することが好ましい。また、有機溶媒中に含まれる水分量を制御するために、市販の脱水有機溶媒や蒸留直後の有機溶媒を用いることも可能である。尚、有機溶媒中に含まれる水分量は、カールフィッシャ水分計で0.4g/l以下に制御することが好ましい。
【0048】
また、上記濃縮の際には、撹拌することが好ましいが、温度を上げて揮発を促進すると揮発が活発となりすぎ、液が不均一化するので好ましくない。濃縮割合としては、液量が質量百分率で処理前の元の質量に対して80〜60%となるまで濃縮することが好ましく、75〜65%とすることが更に好ましい。揮発量が少なく、質量減少が充分ではない被覆材を用いると、被覆膜の緻密性が向上しない。一方、揮発させすぎると液粘度が急激に上昇し、被覆材として使用できなくなる。
【0049】
濃縮の終了後、0.05〜0.1MPaの真空度で真空濾過して被覆材を得る。こうしておけば、第3工程以降で使用する有機溶媒の量は最低限で済み、場合によっては有機溶媒を新規に追加しなくても、被覆材を蛍光体粒子に被覆することができる。従って、有機溶媒の使用量及び廃棄量の低減を図ることができ、生産性の改善のみならず環境的にも有利な方法といえる。
【0050】
このようにして第2工程で得られた被覆材は、重量平均分子量(Mw)が5,000〜20,000、好ましくは7,000〜12,000のシラン有機金属加水分解縮合物からなる。重量平均分子量が5,000未満では、最終工程での加熱処理時に飛散量が多くなり、緻密質の被覆膜が得られない。また、重量平均分子量が20,000を超えると、下地層への吸着性が低下するため被覆性が劣ることになる。尚、重量平均分子量の測定は、ゲル浸透クロマトグラフ分析(GPC分析)法にて行うことができる。測定試料として被覆材2ccを採取し、この中にテトラヒドロフラン18ccを加えて撹拌し、濾過して調製した後に測定する。
【0051】
(3)第3工程は、上記第2工程で得た被覆材を用いて、上記第1工程で下地層を形成した酸化物蛍光体粒子を被覆する工程である。
【0052】
即ち、上記第1工程で下地層を形成した蛍光体粒子と、上記第2工程で調製した被覆材を混合し、必要に応じて更に有機溶媒を添加して混合する。得られた混合物に超音波振動を与えて再分散させ、次に、温度18〜60℃で0.2〜5時間撹拌混合する。その後、真空濾過し、大気下にて100〜120℃で乾燥することにより、表面に被覆材の被膜を有する蛍光体粒子を得ることができる。
【0053】
蛍光体粒子と被覆材との配合割合は、蛍光体粒子1質量部に対して被覆材1〜6質量部、好ましくは3〜6質量部である。被覆材が1質量部より少ないと濾過量が多くなるだけで無駄が多くなり、6質量部よりも多くなると撹拌が不十分となり、被覆材の良好な被膜が形成でき難くなるため好ましくない。
【0054】
撹拌混合は、溶媒の揮発を防止するために密封状態下で行っても、あるいは過剰の有機溶媒を揮発させるために開放容器で行ってもよく、いずれの場合でも得られる被覆膜の膜質にほとんど差はない。撹拌時の温度は18〜60℃が好ましく、18〜30℃が更に好ましく、20〜25℃が特に好ましい。また、撹拌時間は0.2〜5時間が好ましく、0.1〜1時間が更に好ましい。撹拌時間が0.2未満では被覆が不十分となるが、5時間以上撹拌しても被覆性に更なる改善はみられない。
【0055】
上記撹拌混合の手段としては、特に限定されるものではないが、撹拌羽、スターラ等の撹拌機による方法、あるいは超音波ホモジナイザー等を用いる方法で行うことができる。尚、均一な被膜を形成するためには、蛍光体粒子が沈殿しないように撹拌を調整することが肝要である。
【0056】
その後、0.05〜0.1MPaの真空度で真空濾過し、大気下にて100〜120℃の温度で乾燥することによって、表面に被覆材の被膜を有する蛍光体粒子が得られる。尚、得られる被覆材の被膜の膜厚は、蛍光体粒子に対する被覆材の割合、撹拌混合による処理時間並びに処理温度により調整することができる。
【0057】
(4)第4工程は、上記第3工程で酸化物蛍光体粒子に設けた被覆材の被膜を、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート、ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンラウレートの群から選ばれる少なくとも1種のノニオン系脂肪酸からなる界面活性剤を含む有機溶媒により表面改質する工程である。
【0058】
即ち、有機溶媒に対して0.1〜5質量%のノニオン系脂肪酸からなる界面活性剤を加え、この有機溶媒中に上記第3工程で被膜を形成した酸化物蛍光体粒子を添加し、密封状態下で撹拌混合した後、濾過して被覆材の被膜に表面改質を施した酸化物蛍光体粒子を得る。
【0059】
上記第3工程で被覆材の被膜を形成した蛍光体粒子の表面は、その上に積層すべき被膜が付着し難い状態になっている。即ち、被覆材の被膜を形成した蛍光体粒子は乾燥により被膜表面の水酸基が減少しているため、水酸基を介しての被覆材との結合力が弱くなり、次の工程で積層する被覆材の被膜が不均一となったり、未被覆の箇所が発生したりする。
【0060】
そこで、次の第5工程で更に被覆材を積層して被覆させるために、ノニオン系界面活性剤で処理することにより被膜表面の水酸基を増やして、積層される被覆材と結合しやすい状態に改質するのである。尚、上記第1工程及び第3工程で形成した下地層及び被覆材の被膜は、乾燥(自然乾燥、必要に応じて加熱乾燥)を行わないと、膜成分の流出や脱離が生じやすく、本来の蛍光体特性が劣化する恐れがある。
【0061】
具体的には、0.1〜5質量%の界面活性剤を溶解した有機溶媒中に、下地層及び被覆材の被膜を形成した蛍光体粒子を加え、密封状態下において撹拌混合する。撹拌条件は18〜60℃で0.2〜5時間の範囲が好ましいが、この範囲外でも得られる表面改質効果はほとんど変わらない。その後真空濾過して、表面改質した下地層/被覆膜を有する蛍光体粒子を得る。
【0062】
使用するノニオン系界面活性剤としては、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート、ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンラウレートの群から選ばれる少なくとも1種であることが必要であり、その中でもポリオキシエチレンソルビタンオレエートが好ましい。尚、有機溶媒は、上記第1工程及び第2工程と同様にアルコール溶媒が好ましい。
【0063】
上記表面改質において、下地層及び被膜を形成した蛍光体粒子に対する有機溶液及び界面活性剤の割合は、特に限定されるものではないが、有機溶剤は蛍光体粒子に対して1〜50質量%の範囲が好ましく、界面活性剤は同じく蛍光体粉末に対して0.5〜5質量%の範囲が好ましい。特に界面活性剤の配合割合が蛍光体粉末に対して0.5質量部未満では、表面改質の効果が不十分となり、5質量%を超えても更なる密着性の向上は認められない。
【0064】
撹拌混合は、撹拌羽やスターラ等の撹拌機による方法、あるいは超音波ホモジナイザー等を用いる超音波振動による方法で行い、特に超音波振動を付加する方法が好ましい。また、撹拌混合の条件は、特に限定されるものではないが、密封状態下において、温度18〜60℃にて0.2〜5時間撹拌混合することが好ましい。ただし、撹拌混合が長時間になると下地層の剥離が起こる等の不都合が生じやすくなるため、例えば48kHzの超音波振動の場合は5分間程度とすることが望ましい。
【0065】
(5)第5工程は、上記第4工程で表面改質した被覆材の被膜を有する酸化物蛍光体粒子上に、第2工程で調製した被覆材を更に被覆して積層被膜を形成する工程である。
【0066】
被覆材の被膜は何層でも積層することが可能であるが、少なくとも2層の被膜を積層すれば、1層目の被膜中に僅かに残る溶媒や低分子成分、水分、あるいは欠陥などを2層目の被膜で覆うことによって、積層された各被膜の剥離や膜割れの起点を抑止することができるため、2層以上の積層により膜強度を高めることができる。
【0067】
具体的な被覆方法は、上記した第3工程における被覆材の被覆と同様である。即ち、上記第4工程により表面改質した被覆材の被膜を有する蛍光体粒子を上記第工程2で調製した被覆材中に再び分散させ、密封状態下において撹拌混合することにより、表面に被覆材の被膜を積層した蛍光体粒子を得る。尚、被覆材を3層以上積層する場合にも、その都度、下層となる被覆材の被膜を上記第4工程に従って表面改質することが好ましい。
【0068】
上記のごとく被覆材の積層被膜を形成した蛍光体粒子は、真空濾過した後、大気下において乾燥する。真空濾過並びに乾燥の条件は、上記第3工程において被覆材の被膜を形成した蛍光体粒子の場合と同様である。尚、乾燥せずに次の第6工程で高温の加熱処理を施すと、積層被膜に割れが生じることがある。
【0069】
(6)第6工程は、上記第5工程で得られた被覆材の積層被膜を有する酸化物蛍光体粒子を大気中で加熱処理することにより、酸化物蛍光体粒子表面に非晶質無機酸化物の被覆膜を形成する工程である。
【0070】
即ち、上記第5工程で得られた酸化物蛍光体粒子を大気中で加熱処理することによって、酸化物蛍光体粒子表面に積層されているアルミニウム有機金属化合物の下地層及びシラン有機金属加水分解縮合化合物の積層被膜は、その中に含まれている有機物が熱分解して無機質化することにより、Si、Al、Oを主成分とする非晶質無機酸化物の被覆膜となる。また、加熱処理には、得られる被覆膜の緻密性を高める効果もある。
【0071】
加熱処理の雰囲気としては、特に限定されるものではなく、大気中、不活性ガス中、真空中、若しくは、これらを組み合わせた雰囲気で行うことができる。加熱処理の温度としては、加熱温度が高いほど膜が強固となり且つ耐湿性が向上する傾向にあるが、蛍光体粒子の耐熱性にも依存するため、200〜400℃の範囲が好ましい。また、加熱時間としては、0.5〜2時間が好ましく、1〜2時間が更に好ましい。
【0072】
上記した加熱処理温度として200〜400℃の範囲が好ましい理由は、蛍光体粒子には大気に接触すると高温で分解しやすいものがあり、例えばEuを含む蛍光体は温度が400℃を超えると、酸素が存在する雰囲気、特に大気中において、Euが酸化して2価から3価に変化してしまうからである。一方、アルミニウム有機金属化合物又はシラン有機金属化合物を熱分解させるためには、加熱処理温度として200℃以上が必要である。
【0073】
上記した第1工程から第6工程により、本発明の被覆膜付き酸化物蛍光体粒子を製造することができる。非晶質無機酸化物からなる被覆膜の膜厚は50〜200nmであることが好ましい。被覆膜の膜厚が50nm未満では、十分な耐湿性と耐水性を得ることが難しい。また、200nmを超える膜厚とする場合、コスト的に不利であるばかりか、蛍光体粒子で作製したLED発光素子の発光にばらつきが生じやすくなる。
【0074】
即ち、200nmを超える膜厚とする場合、膜厚を厚くする方法によって異なるが、例えば被覆材の割合を多くし過ぎると濾過後の乾燥時に蛍光体粒子が凝集固化してしまい、これを用いて作製したLED発光素子は発光にばらつきが生じる。また、処理温度を上げ過ぎると急激な縮合反応が起こり、被覆膜の厚さが不均一となりやすい。更に、処理時間を長くし過ぎると、コストが上昇するため好ましくない。
【実施例】
【0075】
以下の実施例及び比較例によって本発明を更に詳しく説明する。尚、実施例及び比較例で用いた被覆膜の膜厚と密着性、及び耐水性ないし耐湿性(導電率変化及び発光強度変化率)の評価方法は、以下の通りである。
【0076】
被覆膜の膜厚の評価:蛍光体粒子をエポキシ樹脂中に埋め込み、硬化後に断面を加工して、SEM又はTEMにより観察する。得た画像から被覆膜(n=5)の寸法を測定し、平均膜厚を求めた。その際、被覆膜は組成差によるコントラストに濃淡ができるため、2次電子像及び反射電子像で鮮明に観察できる。尚、被覆膜をSEM−EDXで分析を行うとSiとOが検出されるため、濃淡によって観察される膜が被覆によるものであると確認することができる。
【0077】
被覆膜の密着性の評価:蛍光体粒子10gをシリコーン樹脂(東レダウ社製、JCR6175A/B)15gに添加し、撹拌混合機(シンキー社製、ARV310−LED)で真空脱泡を行いながら1200rpm×10分の真空撹拌を行った。得た樹脂混合試料を150℃×2時間の条件で硬化させ、硬化物の一部を断面加工してTEMでの断面観察を行い、被覆膜の膜割れ、剥離の有無を確認して密着性を評価した。
【0078】
耐水性の評価:蛍光体粒子を水中に浸漬して導電率の変化を求めた。即ち、耐水性に劣る蛍光体粒子であると、粒子表面から成分が水中に溶出されるため、導電率が浸漬時間と共に上昇する。例えば、(Ba、Sr)SiO:Eu粒子の場合は、80℃の温水100ml中に粒子0.1gを投入し、10分間撹拌後の導電率の変化を測定した。また、(Sr、Ba)SiO:Eu粒子では、25℃の温水100ml中に粒子0.1gを投入し、10分間撹拌後の導電率の変化を測定した。
【0079】
耐湿性の評価:耐湿試験の前後における発光強度を測定し、発光強度の変化(耐湿試験後の発光強度/初期の発光強度)を求めた。耐湿試験は、蛍光体粒子を85℃×85%RHの雰囲気下に500時間保持して行った。尚、上記耐水性及び耐湿性の評価において、励起光(Ex)及びピーク発光(Em)の波長は、(Ba、Sr)SiOがEx:450nm及びEm:525nm、また(Sr、Ba)SiOがEx:450nm及びEm:570nmとした。
【0080】
また、実施例及び比較例で用いた有機溶媒は、予め乾燥したモレキュラーシーブ(3A)500gを有機溶媒10リットル中に入れて水分を除去したものを使用した。尚、本発明の実施例で使用した有機溶媒であるイソプロピルアルコール中の水分量は、カールフィッシャ水分計で0.1g/lであった。
【0081】
[実施例1]
芯材となる酸化物蛍光体として、(Sr、Ba)SiO:Eu粒子(東京化学研究所製、平均粒径D50=25μm)を用いた。この酸化物蛍光体粒子の表面に、以下の第1〜第6工程に従って非晶質無機酸化物の被覆膜を形成し、本発明による試料1の被覆膜付き酸化物蛍光体粒子を製造した。
【0082】
第1工程では、まず、イソプロピルアルコール(IPA:関東化学社製、試薬1級)800gに、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート(川研ファインケミカル社製、ALCH S75P:濃度75質量%)1000gを添加して混合した。この混合液中に、イソプロピルアルコール(IPA:関東化学社製、試薬1級)150gに純水50gを混合した液を添加し、23℃で2時間の撹拌混合を行い、加水分解反応により一部加水分解させたアルミニウム有機金属化合物を得た。
【0083】
次に、イソプロピルアルコール(IPA:関東化学社製、試薬1級)500gに、上記酸化物蛍光体粒子100gを添加し、28kHzの超音波洗浄器で5分間の処理を3回行って分散させた。この酸化物蛍光体粒子の分散液に、上記のごとく予め一部加水分解させたアルミニウム有機金属化合物200gを添加し、密封状態下にて23℃で2時間撹拌混合した。その後、分散液を真空濾過し、下地層として一部加水分解させたアルミニウム有機金属化合物を吸着させた酸化物蛍光体粒子を回収した。
【0084】
第2工程では、被覆材の調製を行った。即ち、メチルトリメトキシシラン(東レダウコーニング社製、Z−6366)1000gに、エタノール(関東化学社製 試薬特級)680gと、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート(川研ファインケミカル社製、ALCH S75P:濃度75質量%)25gと、イオン交換水320gとを添加し、23℃の温度に保持しながら、スターラで強撹拌して撹拌混合した。
【0085】
72時間経過後に混合撹拌を停止し、シラン有機金属化合物の加水分解縮合物を得た。得られたシラン有機金属化合物の加水分解縮合物は、重量平均分子量(Mw)が12,000であり、粘度が6mPa・Sであった。このシラン有機金属加水分解縮合物100gを取り出し、開封状態下にスターラで強撹拌することにより、液量が元の質量に対して70%になるまで濃縮して被覆材とした。
【0086】
次の第3工程では、上記第2工程で得た被覆材80gを、上記第1工程により下地層を形成した蛍光体粒子20gと混合し、48kHzの超音波振動を与えて再分散させた。次に、密封状態下にて23℃で0.2時間撹拌混合し、0.05〜0.1MPaの真空度で真空濾過した後、110℃で0.5時間乾燥させて、被覆材の被膜を有する酸化物蛍光体粒子を得た。
【0087】
第4工程では、まず、有機溶媒のイソプロピルアルコール(IPA:関東化学社製、試薬1級)100gに、ノニオン系界面活性剤としてポリオキシエチレンソルビタンオレエート(日油製、OT221)1gを添加して混合した。この混合液中に、上記第3工程で得られた被覆材の被膜を有する蛍光体粒子20gを添加し、密封状態下において23℃で1時間撹拌混合した。その後、真空濾過を行い、表面改質した被覆膜を有する蛍光体粒子を得た。
【0088】
第5工程では、上記第4工程により表面改質した1層目の被膜を有する蛍光体粒子20gに、上記第2工程で得た被覆材80gを再度混合し、その混合物に48kHzの超音波振動を1分間与えて再分散させ、次いで密封状態下に23℃で0.2時間撹拌混合した。その後、真空濾過して、被覆材の積層被膜を有する蛍光体粒子を得た。
【0089】
最後の第6工程では、上記第5工程で得た被覆材の積層被膜を有する蛍光体粒子を110℃で1時間乾燥した後、大気雰囲気中において300℃で1時間の加熱処理を行い、被覆膜付き酸化物蛍光体粒子を得た。
【0090】
得られた試料1の被覆膜付き酸化物蛍光体粒子について、上記した評価方法に従って膜厚、耐水性、耐水性及び密着性を評価し、その結果を下記表1に示した。尚、密着性の評価については、膜割れや剥離が無いものは○、膜割れや剥離が有るものは×として表示した。
【0091】
[実施例2]
上記実施例1と同様に実施したが、使用する酸化物蛍光体粒子あるいはノニオン系脂肪族界面活性剤を代えて、本発明による試料2〜5の被覆膜付き酸化物蛍光体粒子を製造した。
【0092】
即ち、試料2では酸化物蛍光体粒子として(Sr、Ba)SiO:Eu(東京化学研究所製、平均粒径D50=25μm)を使用し、また、試料3では第4工程で使用するノニオン系界面活性剤としてポリオキシエチレンソルビタンラウレート(日油製、LT221)を使用した以外は、それぞれ上記実施例1と同様にして被覆膜付き酸化物蛍光体粒子を製造した。
【0093】
試料4では第4工程で使用するノニオン系界面活性剤としてポリオキシエチレンソルビタンオレエート(日油製、OT221)0.7gとポリオキシエチレンソルビタンラウレート(日油製、LT221)0.3gの2種を混合して使用し、また、試料5では第4工程で使用するノニオン系界面活性剤としてポリオキシエチレンソルビタンオレエート(日油製、OT221)0.7gとソルビタンオレエート(日油製、OP80R)0.3gの2種を混合して使用した以外は、それぞれ上記実施例1と同様にして被覆膜付き酸化物蛍光体粒子を製造した。
【0094】
得られた試料2〜5の各被覆膜付き酸化物蛍光体粒子についても、上記した評価方法に従って膜厚、耐水性、耐水性及び密着性を評価し、その結果を下記表1に示した。尚、密着性の評価については、膜割れや剥離が無いものは○、膜割れや剥離が有るものは×として表示した。
【0095】
[比較例]
比較例として、以下の方法により試料6〜13の被覆膜付き酸化物蛍光体粒子を製造した。まず、試料6では、第3工程を経ない以外は上記実施例1の試料1と同様にして、即ち、ノニオン系界面活性剤による1層目の被膜の表面改質を行わずに2層目の被膜を積層形成することにより被覆膜付き酸化物蛍光体を製造した。
【0096】
試料7では、第3工程を経ない以外は上記実施例2の試料2と同様にして、即ち酸化物蛍光体粒子として、(Sr、Ba)SiO:Eu(東京化学研究所製、平均粒径D50=25μm)を使用し、且つノニオン系界面活性剤による1層目の被膜の表面改質を行わずに2層目の被膜を積層形成することにより、被覆膜付き酸化物蛍光体を製造した。
【0097】
試料8では、第4工程で使用するノニオン系界面活性剤をポリオキシエチレンオレイルエーテル(日油製、E−212)とした以外は上記実施例1と同様にして、また、試料9では、第4工程で使用するノニオン系界面活性剤をポリオキシエチレンラウレート(日油製、L−4)1g」とした以外は上記実施例1と同様にして、それぞれ被覆膜付き酸化物蛍光体を製造した。
【0098】
試料10では、第2工程で調製し且つ第3工程と第5工程で使用する被覆材のシラン有機金属加水分解縮合物の重量平均分子量(Mw)を4,000とした以外は上記実施例1と同様にして、また、試料11では同じく被覆材のシラン有機金属加水分解縮合物の重量平均分子量(Mw)を22,000とした以外は上記実施例1と同様にして、それぞれ被覆膜付き酸化物蛍光体を製造した。
【0099】
上記した比較例の試料6〜11についても、上記した評価方法に従って膜厚、耐水性、耐水性及び密着性を評価し、その結果を下記表1に併せて示した。尚、密着性の評価については、膜割れや剥離が無いものは○、膜割れや剥離が有るものは×として表示した。
【0100】
更に、試料12と試料13では、芯材の酸化物蛍光体粒子を被覆することなく、そのまま評価した。即ち、試料12では(Sr、Ba)SiO:Eu(東京化学研究所製、平均粒径D50=25μm)、及び試料13では(Sr、Ba)SiO:Eu(東京化学研究所製、平均粒径D50=25μm)について、そのまま上記した評価方法に従って膜厚、耐水性及び耐水性を評価し、その結果を下記表1に併せて示した。
【0101】
【表1】

【0102】
上記表1から分かるように、本発明により製造した試料1〜5の被覆膜付き酸化物蛍光体粒子は、膜厚が50〜200nmの範囲にあり、被覆膜の形成前後で蛍光強度の低下がほとんどなく、且つ、耐水性及び耐湿性が著しく優れている。しかも、LED発光素子の製造過程において樹脂練り込み時に発生する剪断力にも耐えうる高い密着性を備えた蛍光体粒子を効率的に製造することができることが分かる。
【0103】
一方、本発明の被覆膜を設けない酸化物蛍光体粒子そのままの試料12〜13の場合は、耐水性ないし耐湿性が極めて低いことが分かる。また、比較例の試料10〜11のように、被覆材であるシラン有機金属加水分解縮合物の重量平均分子量(Mw)が5,000〜20,000の範囲から外れると、耐水性及び耐湿性が低下し、密着性について満足すべき結果が得られないことが分かる。
【0104】
また、比較例の試料6〜7のように界面活性剤による被膜の表面改質を施さない場合、あるいは試料8〜9のように特定のノニオン系界面活性剤を用いない場合にも、耐水性と耐湿性、密着性に満足すべき結果が得られないことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)〜(6)の各工程を含むことを特徴とする被覆膜付き酸化物蛍光体粒子の製造方法。
(1)酸化物蛍光体粒子表面に、下地層として一部加水分解させたアルミニウム有機金属化合物を被覆する第1工程
(2)シラン有機金属化合物、アルミニウム有機金属化合物、有機溶媒及び水から重量平均分子量5,000〜20,000の加水分解縮合物を調製し、濃縮してシラン有機金属加水分解縮合物の被覆材を得る第2工程
(3)第1工程で得られた下地層付きの酸化物蛍光体粒子に、第2工程で得た被覆材を被覆する第3工程
(4)第3工程で酸化物蛍光体粒子表面に被覆した被覆材の被膜を、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート、ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンラウレートの群から選ばれる少なくとも1種のノニオン系脂肪酸族の界面活性剤を含む有機溶媒により表面改質する第4工程
(5)第4工程で表面改質した酸化物蛍光体粒子表面の被覆材の被膜上に、第2工程で調整した被覆材を更に被覆する第5工程
(6)第5工程で得られた被覆材の積層被膜を有する酸化物蛍光体粒子を大気中で加熱処理して、酸化物蛍光体粒子表面に非晶質無機酸化物の被覆膜を形成する第6工程
【請求項2】
前記第1工程及び第2工程で用いるアルミニウム有機金属化合物は、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、オクチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロプレート、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)の群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1に記載の被覆膜付き酸化物蛍光体粒子の製造方法。
【請求項3】
前記第2工程で用いるシラン有機金属化合物は、メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランの群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の被覆膜付き酸化物蛍光体粒子の製造方法。
【請求項4】
前記第5工程の加熱処理は、200〜400℃の温度で0.5〜2.0時間行うことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の被覆膜付き酸化物蛍光体粒子の製造方法。
【請求項5】
前記非晶質無機酸化物の被覆膜はSi、Al、Oを主成分とし、膜厚が50〜200nmであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の被覆膜付き酸化物蛍光体粒子の製造方法。