説明

耐湿熱性ポリエステル複合繊維

【課題】優れた耐湿熱性能を有し、製糸性よく操業性よく生産することができ、糸質性能が良好で、表面平滑性にも優れるポリエステル複合繊維を提供しようとするものである。
【解決手段】芯成分がカルボジイミド化合物を含有するポリエステル、鞘成分がイミド基を有する熱可塑性樹脂もしくはイミド基を有する熱可塑性樹脂を含有するポリエステルである芯鞘型の複合繊維であって、繊維中の未反応カルボジイミド化合物の含有量が300ppm以上である耐湿熱性ポリエステル複合繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業資材用フィラメント、特にベルト布、フィルター等に好適な優れた耐湿熱性能を有する耐湿熱性ポリエステル複合繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィラメントは優れた物理的性質を有し、産業資材用フィラメント、特に抄紙カンバスやベルト布あるいはフィルターに好適に使用されている。しかし、産業資材用フィラメントは使用される環境が過酷であり、比較的短期間にフィラメントの劣化が起こり使用できなくなることがある。
【0003】
例えば、ポリエステルフィラメントを用いた抄紙カンバスは、抄紙プレスゾーン並びにその後の乾燥ゾーン等の工程に使用されるため、高温多湿状態にさらされる。そのため、水、熱、水蒸気の影響により、ポリエステルフィラメントが熱及び加水分解劣化を起こし、使用できなくなることが知られている。
【0004】
水、水蒸気によるポリエステルの加水分解は、水分子のエステル結合部分への攻撃によって分解し、カルボキシル基と水酸基が形成され、ポリマー鎖の分裂が起こり、加水分解劣化が進行していく。さらに、これにより形成されたカルボキシル末端基は、ポリエステルの加水分解反応の触媒的な役割を担い、カルボキシル末端基量の増加に伴い、その加水分解速度は加速される。特に、熱が加わると加水分解は促進される。
【0005】
そこで、熱加水分解に対する対応策としてカルボキシル末端基量の少ないポリエステルとすることにより、フィラメントの耐湿熱性能を改良する方法が採用されている。例えば、特許文献1、特許文献2には、カルボジイミド化合物を添加し、カルボキシル末端基の封鎖を行うことによって、耐湿熱性能が改善されたポリエステルフィラメントを得る方法が開示されている。しかしながら、ポリエステルフィラメント中のカルボキシル末端基量を低減させるだけでは、耐湿熱性能を長期間にわたって持続させることは困難であった。
【0006】
また、特許文献3には、ポリエステルにポリオレフィン及びカルボジイミドを含有させ耐湿熱性能を向上させる方法が開示されている。しかし、ポリエステルに通常のポリオレフィンを配合すると、相分離を起こしやすく、フィラメントがフィブリル化したり、糸質物性が低下したりするという問題点があった。
【0007】
そこで、上記の問題を解決するために、特許文献4には、ポリオレフィンとして、反応性の官能基であるメタクリル酸グリシジル成分を導入したものを用い、さらにポリエステル及びエチレン成分とメタクリル酸グリシジル成分との共重合体に対して相溶性を有する、エチレン成分とアクリル酸エステル成分との共重合体を相溶化剤として添加することにより、糸中の残存カルボジイミド量をアップした耐湿熱性モノフィラメントが提案されている。
【0008】
このポリオレフィンは、メタクリル酸グリシジル基がポリエステルの末端カルボキシル基と反応するため、ポリエステルとの相分離を低減させることができ、フィブリル化を抑制しながら耐湿熱性に優れたモノフィラメントが得られる。しかしながら、さらに耐湿熱性を向上させるためにメタクリル酸グリシジル成分の共重合比を高くしたポリオレフィンを用いると、ポリエステルとの反応が進行しすぎる結果、溶融粘度の上昇が顕著となり、ポリマーに溶融粘度斑が生じ、製糸性が悪くなるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公平1-15604号公報
【特許文献2】特開平4-289221号公報
【特許文献3】特開平7-258542号公報
【特許文献4】特開平11−323661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の問題点を解決するものであって、優れた耐湿熱性能を有し、製糸性よく操業性よく生産することができ、糸質性能が良好で、表面平滑性にも優れる耐湿熱性ポリエステル複合繊維を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するため検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、芯成分がカルボジイミド化合物を含有するポリエステル、鞘成分がイミド基を有する熱可塑性樹脂もしくはイミド基を有する熱可塑性樹脂を含有するポリエステルである芯鞘型の複合繊維であって、繊維中の未反応カルボジイミド化合物の含有量が300ppm以上であることを特徴とする耐湿熱性ポリエステル複合繊維を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の耐湿熱性ポリエステル複合繊維は、芯鞘構造であることにより、芯部に添加したカルボジイミド化合物の揮発を防ぐことができる。そして、鞘部にイミド基を有する熱可塑性樹脂を用いることによって、鞘成分が撥水性を有するものとなり、また、ガラス転移点が上昇することで加水分解を抑制することも可能となる。さらには、鞘部にイミド基を有する熱可塑性樹脂を含有するポリエステルを使用している際には、イミド基を有する熱可塑性樹脂が、芯部に添加したカルボジイミド化合物が芯部と鞘部の界面にある鞘部のポリエステルの末端封鎖に使用されるのを防ぐことによって、未反応カルボジイミド化合物の含有量を大幅に増やすことが可能となり、その結果、耐湿熱性能を向上させることができる。
このように、本発明の耐湿熱性ポリエステル複合繊維は、優れた耐湿熱性能を長期間にわたって保持することができ、強度、伸度等の糸質性能及び表面平滑性が良好で、かつ、製糸性よく生産することが可能であり、産業資材用フィラメント、特に工業用織物である抄紙用カンバス糸、ベルト布、フィルター等として好適に用いることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のポリエステル複合繊維は、芯鞘型の複合繊維であり、芯成分がカルボジイミド化合物を含有するポリエステル、鞘成分がイミド基を有する熱可塑性樹脂もしくはイミド基を有する熱可塑性樹脂を含有するポリエステルである。
【0014】
芯成分と鞘成分に用いられるポリエステルは、脂肪族ポリエステル、芳香族ポリエステルのいずれであってもよい。
脂肪族ポリエステルとしては、ポリ乳酸、ポリグリコール酸などのポリ−α−ヒドロキシ酸、ポリ−β−ヒドロキシ酪酸、ポリ−(β−ヒドロキシ酪酸/β−ヒドロキシ吉草酸)などのポリ−β−ヒドロキシアルカノエート、ポリ−β−プロピオラクトン、ポリ−ε−カプロラクトンなどのポリ−ω−ヒドロキシアルカノエートなどが挙げられる。
【0015】
芳香族ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなどのポリアルキレンテレフタレートを主体としたポリエステルが挙げられ、イソフタル酸、5−スルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、コハク酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸、およびエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの脂肪族ジオールや、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸などのヒドロキシカルボン酸、ε−カプロラクトンなどの脂肪族ラクトン等を共重合していてもよい。
【0016】
中でも、本発明のポリエステル複合繊維は高温での湿熱処理に対する耐久性の高いものとするため、用いるポリエステルは融点が155℃以上のものが好ましい。コスト、強伸度特性等を考慮すると、ポリエステルとしてはPETを主体とするポリエステルを用いることが好ましい。
【0017】
芯成分のポリエステル中に含有させるカルボジイミド化合物としては、N,N′−ビス(2,6−ジメチルフェニル)カルボジイミド、N,N′−ビス(2,6−ジエチルフェニル)カルボジイミド、N,N′−ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド、N,N′−ビス(2−イソプロピルフェニル)カルボジイミド等が挙げられる。
この中で、耐熱性、工業レベルでの使用が可能であるため、N,N′−ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)カルボジイミドが最も好ましい。
これらのカルボジイミド化合物はポリエステルの末端基と反応し、カルボキシル末端基量を低減させることができる。
【0018】
また、カルボジイミド化合物のポリエステル複合繊維中の含有量は、0.1〜4.0質量%とすることが好ましく、0.3〜3.0質量%とすることがより好ましい。0.1質量%未満であると、カルボキシル末端基の封鎖が不十分となり、十分な耐湿熱性能が発現されない。一方、4.0質量%を超えると、製糸性が悪化しやすくなり、それに伴う強伸度特性の低下や表面平滑性の低下が生じやすい。
【0019】
そして、鞘成分はイミド基を有する熱可塑性樹脂、あるいはイミド基を有する熱可塑性樹脂を含有するポリエステルである。
ポリエステル中にイミド基を有する熱可塑性樹脂を含有する場合は、ポリエステル中のイミド基を有する熱可塑性樹脂の含有量を3.0質量%以上とすることが好ましく、中でも5.0質量%以上とすることが好ましい。イミド基を有する熱可塑性樹脂の含有量が3.0質量%未満であると、後述するようなイミド基を有する熱可塑性樹脂を含有する効果を奏することが困難となる。
【0020】
本発明におけるイミド基を有する熱可塑性樹脂とは、分子構造中に−CO−NR’−CO−(R’は有機基)の構造を有する樹脂のことである。
具体的には熱可塑性ポリイミド(例えば、三井化学社製「オーラム」)、ポリアミドイミド(例えば、ソルベイアドバンストポリマー社製「トーロン」)、ポリエーテルイミド(例えば、GEプラスチック社製「ウルテム」)などが挙げられる。
【0021】
これらの中でも特に、ポリエステルとの相溶性、溶融成形性等の観点から、ポリエーテルイミドが好ましく、2,2−ビス[4−(2,3−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物とm−フェニレンジアミン、またはp−フェニレンジアミンとの縮合物であるポリエーテルイミドを用いることが好ましい。
【0022】
イミド基を有する熱可塑性樹脂を用いることで鞘成分に撥水性を付与することができ、また、ガラス転移点が上昇することで加水分解を抑制することが可能となる。
そして、本発明においては、芯鞘構造であることにより、芯部に添加したカルボジイミド化合物の揮発を防ぐことができるが、鞘部にイミド基を有する熱可塑性樹脂を用いることによって、鞘成分が撥水性を有するものとなり、さらにカルボジイミド化合物の揮発を防ぐことが可能となる。
【0023】
そして、本発明のポリエステル複合繊維は、単糸の長さ方向に対して垂直に切断した断面の形状(横断面形状)が芯鞘形状を呈する芯鞘型複合繊維であって、芯部は1つであっても複数であってもよい。つまり、芯部が1つである同心芯鞘型や偏心芯鞘型のものであっても、芯部が複数個である海島型等の複合形態のものであってもよい。
【0024】
上記のような芯鞘型の複合形状を呈していれば、断面形状は丸断面に限定されるものではなく、扁平断面、多角形、多葉形、ひょうたん形、アルファベット形(T型、Y型等)、井型等の各種の異形のものであってもよい。また、これらの形状において中空部を有するものでもよい。
【0025】
芯鞘比率の質量比率は、鞘成分が芯成分を十分に覆うために、80/20〜20/80とすることが好ましく、さらに好ましくは60/40〜40/60である。鞘成分にイミド基を有する熱可塑性樹脂を用いた場合、芯成分の比率を大きくすればポリエステルの比率が大きくなり、強度が向上し、鞘成分の比率を大きくすればイミド基を有する熱可塑性樹脂の比率が大きくなり、耐湿熱性が向上する。このため目的や用途に応じてこれらの範囲内で芯鞘比率を適宜選択することが好ましい。
【0026】
なお、イミド基を有する熱可塑性樹脂は、繊維総質量に対して50質量%以下の含有量であること、好ましくは35質量%以下の含有量であることが好ましい。50質量%を超えると、耐加水分解性は向上するものの、強度が低下し、操業性も悪化しやすくなる。
【0027】
また、本発明のポリエステル複合繊維において、鞘部にイミド基を有する熱可塑性樹脂を含有するポリエステルを用いる場合、イミド基を有する熱可塑性樹脂が、芯部に添加したカルボジイミド化合物が芯部と鞘部の界面にある鞘部のポリエステルの末端封鎖に使用されるのを防ぐため、未反応のカルボジイミド化合物量を大幅に増やすことが可能となり、その結果、耐湿熱性能を向上させることができるものである。
【0028】
また、本発明のポリエステル複合繊維は、モノフィラメントでもマルチフィラメントでもよいが、産業資材用途に好適に使用するためには、モノフィラメントの場合は、繊度が100〜20000dtex、マルチフィラメントの場合は単糸繊度が1.0〜40dtexとすることが好ましい。
【0029】
そして、本発明のポリエステル複合繊維は上記のような作用、効果により、繊維中の未反応カルボジイミド化合物の含有量が300ppm以上であり、中でも、2000〜35000ppmであることが好ましい。
【0030】
なお、未反応状態とは、カルボキシル基や水分子と反応可能な状態のことをいい、未反応カルボジイミド化合物の含有量が300ppm未満であると、カルボジイミド化合物の効果が発現され難く、複合繊維のカルボキシル末端基量を低くすることが困難となる。一方、35000ppmを超えるようにするには、カルボジイミド化合物の含有量を多くすることが必要となり、製糸性が悪化する。
【0031】
そして、本発明のポリエステル複合繊維は、カルボキシル末端基量が15.0eq/t以下であることが好ましく、中でも10.0eq/t以下、さらには7.0eq/t以下であることが好ましい。カルボキシル末端基量が15.0eq/tを超えると、耐湿熱性能に劣るものとなりやすい。
【0032】
さらに、本発明のポリエステル複合繊維は、耐湿熱性能を示す糸質性能として、135℃の飽和水蒸気中で50時間処理(湿熱処理)した後の強度保持率が40%以上であることが好ましく、中でも45%以上であることが好ましい。強度保持率が40%未満であると、高温で長時間の湿熱処理を受けると糸質性能が低下し、耐湿熱性能に劣るものとなり、産業資材用途に用いることが困難となりやすい。
【0033】
強度保持率は以下のようにして算出するものである。
強度保持率(%)=(湿熱処理後のポリエステル複合繊維の強度/湿熱処理前のポリエステル複合繊維の強度)×100
ポリエステル複合繊維の強度(cN/dtex)は、島津製作所社製オートグラフ AG−1型を用い、試料長25cm、引張速度30cm/分、初荷重が繊度の1/20で測定するものである。
【0034】
また、本発明のポリエステル複合繊維の湿熱処理前の強度は、5.0cN/dtex以上であることが好ましく、湿熱処理後の強度は2.4cN/dtex以上であることが好ましい。
【0035】
また、本発明のポリエステル複合繊維中には、本発明の目的を損なわない範囲であれば、必要に応じて、熱安定剤、結晶核剤、艶消剤、顔料、耐光剤、耐候剤、滑剤、酸化防止剤、抗菌剤、香料、可塑剤、染料、界面活性剤、難燃剤、表面改質剤、各種無機及び有機電解質、その他類似の添加剤を含有していてもよい。
【0036】
次に、本発明のポリエステル複合繊維(モノフィラメント)の製造方法について一例を用いて説明する。
固相重合し、ペレット状にしたポリエステルにカルボジイミド化合物を添加して、芯成分とする。同様のペレット状にしたポリエステルにイミド基を有する熱可塑性樹脂を含有させて鞘成分とする。両成分を複合紡糸装置を用いて溶融紡糸を行う。紡糸温度は380℃以下、好ましくは340℃以下とし、紡出されたフィラメントを液体又は空気中で冷却、固化させる。次に、冷却固化したフィラメントを一旦巻き取った後又は巻き取ることなく延伸する。
延伸は一段又は二段以上の多段で行うことができるが、多段で行うことが好ましい。まず、65〜95℃の液体中又は70〜200 ℃の気体中で3.0〜6.5倍の第一段延伸を行い、続いて第一段延伸よりも高温の150〜300℃の液体又は気体中で全延伸倍率が5.0〜8.0倍となるように第二段目以降の延伸を行う。
この際、全延伸倍率が第一段延伸倍率よりも高くなるように設定する。延伸温度が上記の範囲より低いと加熱不足となり、延伸斑及び糸切れが発生し、一方、延伸温度が高すぎるとフィラメントの融解及び熱劣化が起こり、好ましくない。また、全延伸倍率が5.0倍未満であると、得られるフィラメントの糸質特性、特に直線強度が低くなりやすい。一方、全延伸倍率を 8.0倍より大きくすると、繊維内での塑性変形に分子配向が対応できなくなるため、繊維中にミクロボイドが発生し、満足な性能を示すフィラメントが得られ難くなる。また、延伸後、150〜500 ℃の気体中で1.0〜15.0%の弛緩率で弛緩熱処理を行うことが好ましい。
【実施例】
【0037】
次に、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、実施例中の特性値の測定や評価は次のように行った。
〔相対粘度〕
フェノールと四塩化エタンとの等質量混合物を溶媒とし、濃度0.5g/dl、温度20℃の条件下でウベローデ型粘度計を用いて測定した。
〔未反応カルボジイミド化合物の量〕
ポリエステル複合繊維をヘキサフルオロイソプロパノールとクロロホルムの混合物に溶解させ、アセトニトリルで再沈殿を行い、 アセトニトリルで希釈したものを測定溶液とし、ヒューレットパッカード社製HPLCを用いて測定した。
〔カルボキシル末端基量〕
ポリエステル複合繊維をベンジルアルコールに溶解し、0.1規定の水酸化カリウムメタノール溶液で滴定して求めた。
〔強度、強度保持率〕
前記の方法で測定、算出した。
〔製糸性〕
300分間連続して溶融紡糸を行い、60分当たりの糸切れの回数により以下の3段階で評価した。
糸切れが1回未満であった場合・・・○
糸切れが1回〜2回であった場合・・・△
糸切れが3回以上であった場合・・・×
〔表面平滑性〕
得られたポリエステル複合繊維の繊維径をマイクロメーターで測定し、その繊維径値の変動率により以下の4段階で評価した。
変動率が4%未満のもの・・・◎
変動率が4%以上、8%未満のもの・・・○
変動率が8%以上、12%未満のもの・・・△
変動率が12%以上のもの・・・×
【0038】
実施例1
エチレングリコールとテレフタル酸を常法によって溶融重縮合して、相対粘度1.34、カルボキシル末端基量30.9eq/tのプレポリマーペレットとした後、固相重合反応を行い、相対粘度1.72、カルボキシル末端基量12.2eq/tの固相重合ペレットを得た。
このペレットを減圧乾燥した後、カルボジイミド化合物としてN,N’―ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド(松本油脂社製、「STABAXOL EN-160」)1.2質量%を添加して芯成分とした。
固相重合ペレットを減圧乾燥した後、イミド基を有する熱可塑性樹脂としてポリエーテルイミド(GEプラスチック社製、「ウルテム1010」)5.0質量%を添加して鞘成分とした。
両成分を同心芯鞘型複合溶融紡糸装置に供給して溶融紡糸を行った。このとき、複合比(芯鞘質量比:芯/鞘)を50/50とし、紡糸温度 320℃で溶融紡糸した。紡出糸条を冷却した後、引取速度500m/分で引き取って未延伸糸条を得た。得られた未延伸糸糸条に、150℃、延伸倍率3.0倍で第一段延伸を行い、続いて200 ℃で第二段延伸を行い、全延伸倍率が 5.0 倍となるように延伸を施した。
得られたポリエステル複合繊維は、繊度160dtex、カルボキシル末端基量6.5eq/tのものであった。
【0039】
実施例2〜5
鞘成分中のポリエーテルイミドの含有量を表1に示す値に変更した以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル複合繊維を得た。
【0040】
実施例6〜8
芯成分中のカルボジイミド化合物の含有量を表1に示す値に変更した以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル複合繊維を得た。
【0041】
実施例9〜16
鞘成分中のポリエーテルイミドの含有量、芯鞘比率を表1に示す値に変更した以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル複合繊維を得た。
【0042】
実施例17
カルボジイミド化合物として、N,N’―ジイソプロピルカルボジイミドを用いた以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル複合繊維を得た。
【0043】
実施例18
イミド基を有する熱可塑性樹脂として、熱可塑性ポリイミド(三井化学社製、「オーラムPL450C」)を用いた以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル複合繊維を得た。
【0044】
実施例19
イミド基を有する熱可塑性樹脂として、熱可塑性ポリアミドイミド(ソルベイアドバンストポリマー社製、「トーロン4301」)を用いた以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル複合繊維を得た。
【0045】
比較例1
実施例1と同様にして得た固相重合ペレットをエクストルーダー型紡糸装置を使用し、紡糸温度320℃で溶融紡糸し、単一型の繊維を得た。紡出糸条を冷却した後、引取速度500m/分で引き取って未延伸糸条を得た。得られた未延伸糸条に、150℃、延伸倍率3.0倍で第一段延伸を行い、続いて200 ℃で第二段延伸を行い、全延伸倍率が 5.0倍となるように延伸を施した。
得られたポリエステル繊維は、繊度160dtex、カルボキシル末端基量18.0eq/tのものであった。
【0046】
比較例2
実施例1と同様にして得た固相重合ペレットに、実施例1と同様のカルボジイミド化合物を1.2質量%添加した以外は、比較例1と同様の方法でポリエステル繊維を得た。
得られたポリエステル繊維は、繊度160dtex、カルボキシル末端基量0.5eq/tのものであった。
【0047】
比較例3
実施例1と同様にして得た固相重合ペレットに、実施例1と同様のポリエーテルイミドを25質量%添加した以外は、比較例1と同様の方法でポリエステル繊維を得た。
得られたポリエステル繊維は、繊度160dtex、カルボキシル末端基量13.8eq/tのものであった。
【0048】
比較例4
ポリエーテルイミドに代えてポリプロピレンを用いた以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル複合繊維を得た。
得られたポリエステル複合繊維は、繊度160dtex、カルボキシル末端基量11.4eq/tのものであった。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
表1より明らかなように、実施例1〜19で得られたポリエステル複合繊維は、強度保持率が高く、耐湿熱性能、強伸度等の糸質物性に優れ、繊維表面にざらつきや糸斑もない品位の高いものであり、製糸性にも優れていた。
一方、比較例1、3のポリエステル繊維は、カルボジイミド化合物を含有しないものであり、耐湿熱性能を有していないものであった。比較例2のポリエステル繊維は、芯鞘形状のものではなかったため、芯部に添加したカルボジイミド化合物の揮発を防ぐことができず、耐湿熱性能に劣るものであった。また、溶融紡糸時に紡糸口金直下で発煙が生じた。比較例4のポリエステル複合繊維は、鞘成分にイミド基を有しない熱可塑性樹脂を含有させたものであるため、製糸性が悪く、表面平滑性にも劣るものであった。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯成分がカルボジイミド化合物を含有するポリエステル、鞘成分がイミド基を有する熱可塑性樹脂もしくはイミド基を有する熱可塑性樹脂を含有するポリエステルである芯鞘型の複合繊維であって、繊維中の未反応カルボジイミド化合物の含有量が300ppm以上であることを特徴とする耐湿熱性ポリエステル複合繊維。
【請求項2】
イミド基を有する熱可塑性樹脂がポリエーテルイミドである請求項1記載の耐湿熱性ポリエステル複合繊維。
【請求項3】
カルボジイミド化合物がN,N’―ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)カルボジイミドである請求項1又は2記載の耐湿熱性ポリエステル複合繊維。



【公開番号】特開2010−285701(P2010−285701A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−138292(P2009−138292)
【出願日】平成21年6月9日(2009.6.9)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】