説明

耐火ゴム組成物、該耐火ゴム組成物からなる耐火被覆材、及び該耐火被覆材を用いた耐火被覆処理方法

【課題】炎熱に曝された場合にも、発泡体が十分な形状安定性を保持する耐火ゴム組成物であって、これを成形して得た耐火被覆材に対して優れた作業効率を付与し得る耐火ゴム組成物の提供。
【解決手段】液状ゴム30〜50質量部、ブチルゴム50〜70質量部からなるベースゴム成分100質量部に対して、粘着剤を10〜60質量部、熱膨張性黒鉛を10〜100質量部、亜リン酸アルミニウムを50〜170質量部、無機充填剤を50〜170質量部、加硫剤を0.1〜10質量部、加硫促進剤を0.1〜10質量部を含有し、60〜100℃にて混錬するための未加硫の耐火ゴム組成物を提供する。また、該耐火ゴム組成物から成形した耐火被覆材、及び該耐火被覆材を用いた耐火被覆処理方法などを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄骨の耐火被覆材や区画体貫通部の目地材等に使用される耐火ゴム組成物、該耐火ゴム組成物からなる耐火被覆材、及び該耐火被覆材を用いた耐火被覆処理方法などに関する。より詳しくは、炎熱に曝された場合にも、発泡体が十分な形状安定性を保持し、かつ、施工作業性に優れる耐火ゴム組成物、該耐火ゴム組成物からなる耐火被覆材、及び該耐火被覆材を用いた耐火被覆処理方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄骨は通常その温度が約550℃以上になると強度が急激に低下するため、集合住宅や立体駐車場等の鉄骨造の建築物で火災が発生すると倒壊の危険が生じる。そのため、火災時には鉄骨の表面を保護して、温度を上記550℃より低く保つ必要があり、これを目的として種々の耐火被覆処理法が考案されている。
【0003】
従来用いられてきた耐火被覆処理法としては、鉄骨表面をケイ酸カルシウム板や石膏ボード等の無機系耐火材料で被覆する方法や、ロックウールなどの無機系繊維を鉄骨に吹き付ける方法がある。しかし、ケイ酸カルシウム板や石膏ボード等による被覆では、被覆部分の厚みが大きくなるため、被覆された鉄骨全体の体積が大きくなってしまい、施工上効率的でない。また、ロックウール等を吹き付ける方法では厚みにムラが生じやすく、鉄骨各所の耐火性にバラつきが生じ易い。さらに、施工時にミストが飛散したり、養生に長時間必要であったりと、効率の良い方法ではなかった。
【0004】
また、近年の耐火被覆処理においては、単に材料自体が燃えにくいという耐火性能ばかりでなく、火炎の延焼を防ぐ機能、すなわち防火性能も要求されるようになっている。そこで、防火用膨張材料を用いた耐火被覆処理法が採用されるようになっている。防火用膨張材料とは、火災が発生した時に炎熱に曝されると瞬時に膨張(熱膨張)し、発泡断熱層(発泡体)を形成する材料である。この発泡体により、防火壁と電源ケーブル等の隙間を閉塞させて延焼しようとする火炎を遮断したり、鉄骨等の表面を高温から保護する断熱効果を発揮するのである。
【0005】
このような防火用膨張材料として、従来、ゴム成分に熱膨張性黒鉛や無機物等を配合した耐火性組成物が用いられている。しかし、ゴム成分や熱膨張性黒鉛は、本質的にそれ自体が燃焼したり熱溶融する性質を有するので、いかに長時間、熱膨張した発泡体の熱溶解を防止できるか、あるいは、無機成分を脱落させずに保持させることができるか、が耐火性組成物の性能を決する上で重要な要素となる。
【0006】
そこで、出願人は特許文献1に、熱膨張した後も熱融解を起こさずに所定の形状を長時間保持することができる防火用膨張材料として、ゴム成分に熱可塑性エラストマーを配合し、膨張性黒鉛、ホウ酸及び無機充填材を添加した防火用目地材を開示している。しかし、この防火用目地材は、炎熱に曝された場合の形状安定性に優れるものの、防火用目地材自体は粘着性を有しないため、耐火被覆材として用いる際には、接着剤により鉄骨等に貼り付ける必要があった。
【0007】
一方、粘着性を有する耐火性組成物として、特許文献2には、粘着性を有するゴム組成物、リン化合物、中和処理された熱膨張性黒鉛、含水無機物及び金属炭酸塩を混成した耐火性樹脂組成物が開示されている。この耐火性樹脂組成物は、成形性に優れると共に十分な耐火性能を発揮するものである。
【特許文献1】特開2006−87819号公報
【特許文献2】特開2000−34365号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2に開示される耐火性樹脂組成物は粘着性を有するため、耐火被覆材として鉄骨や壁に貼り付ける際に接着剤を必要としない。しかし、耐火性樹脂組成物の有する粘着力だけでは、接着性が不十分であるため、耐火被覆材を鉄骨や壁に貼り付けた後に、外側から不織布、金網、セラミック材料等の面材を釘やピン、ネジ等によって固定し、補強される場合が多かった(特許文献2段落0051参照)。このような補強固定は、施工後に炎熱に曝された場合の耐火被覆材の剥離、脱落を防止するためにも必要な工程であるが、大変手間のかかる作業であるため、作業効率を大きく低下させる要因となっていた。
【0009】
そこで、本発明は、炎熱に曝された場合にも、発泡体が十分な形状安定性を保持する耐火ゴム組成物であって、これを成形して得た耐火被覆材に対して優れた作業効率を付与し得る耐火ゴム組成物を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、十分な形状安定性を保持する耐火ゴム組成物であって、これを成形して得られる耐火被覆材に、施工時の優れた「粘着性」と、施工後の強固な「固着性」を付与し得る耐火ゴム組成物として、以下の耐火ゴム組成物を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本願発明は、まず、液状ゴム30〜50質量部、ブチルゴム50〜70質量部からなるベースゴム成分100質量部に対して、粘着剤を10〜60質量部、熱膨張性黒鉛を10〜100質量部、亜リン酸アルミニウムを50〜170質量部、無機充填剤を50〜170質量部、加硫剤を0.1〜10質量部、加硫促進剤を0.1〜10質量部を含有し、60〜100℃にて混錬するための未加硫の耐火ゴム組成物を提供するものである。
【0012】
ここで、本発明において、耐火被覆材の「粘着性」とは、鉄骨等の基材の表面へ耐火被覆材を施工する際に、耐火被覆材が自身の有する粘着力に基づいて基材表面へ接着し、保持される性質をいうものとする。また、この接着状態を、単に「粘着」又は「粘着状態」というものとする。
粘着状態の耐火被覆処理材は、柔軟性を維持しているため、一旦基材表面へ貼り付けた後も再度剥すことが可能である。
これに対し、耐火被覆材の「固着性」とは、後述する「自然加硫性」によって耐火被覆処理材が硬度を増し、基材表面へ強固に固着化する性質をいうものとする。また、この接着状態を、単に「固着」又は「固着状態」というものとする。
固着状態の耐火被覆処理材は、硬度を増し柔軟性を喪失しているため、もはや基材表面から容易に剥離することはできない。
なお、「接着」は、上記の「粘着」及び「固着」を包含する概念として用いるものとする。
【0013】
以下、液状ゴム、ブチルゴム、粘着剤、熱膨張性黒鉛、亜リン酸アルミニウム、無機充填剤、加硫剤、加硫促進剤の各成分の含有比率を上記範囲に特定した意義について、主として、この耐火ゴム組成物を成形して得られる耐火被覆材への施工時の優れた粘着性と、施工後の強固な固着性の付与の観点から、以下にそれぞれ説明を加える。
【0014】
ベースゴム成分は、液状ゴム30〜50質量部に、ブチルゴム50〜70質量部を混合してなる。液状ゴムが30質量部未満の場合、ベースゴム成分は硬く(針入度は小さく)なりすぎ、耐火ゴム組成物の加工性が低下し、また得られる耐火被覆材の粘着性が不十分となる。また、液状ゴムが50質量部を超えると、ベースゴム成分は柔らかく(針入度が大きく)なりすぎ、得られる耐火被覆材が取り扱いづらくなり、操作性が低下する。従って、液状ゴム及びブチルゴムを上記特定質量比で配合してベースゴム成分とすることにより、好適な加工性を供えた耐火ゴム組成物が得られ、さらに操作性と、特に粘着性に優れた耐火被覆材を得ることができる。
【0015】
さらに、粘着剤をベースゴム成分に配合することにより、得られる耐火被覆材の粘着性を一層向上させることが可能である。粘着剤の含有量は、ベースゴム成分100質量部に対して10〜60質量部であり、好ましくは15〜40質量部である。10質量部より少ないと耐火被覆材の粘着性が不十分となり、60質量部を超えて使用すると耐火被覆材の強度が低くなるためである。
【0016】
熱膨張性黒鉛の含有量は、ベースゴム成分100質量部に対して10〜100質量部であり、好ましくは20〜70質量部である。熱膨張性黒鉛の含有量が10質量部より少ないと、耐火ゴム組成物(又は耐火被覆材)が充分熱膨張しない(熱膨張倍率が小さい)場合があり、100質量部を超えると耐火ゴム組成物(又は耐火被覆材)の熱膨張倍率は大きくなるものの、熱膨張後の発泡体の形状安定性が低下するためである。
【0017】
また、亜リン酸アルミニウムの含有量は、ベースゴム成分100質量部に対して50〜170質量部であり、好ましくは50〜130質量部である。50質量部より少ないと耐火ゴム組成物(又は耐火被覆材)の形状安定性が不十分となり、170質量部を超えると耐火ゴム組成物の加工性が低下するためである。
【0018】
無機充填材の含有量は、ベースゴム成分100質量部に対して50〜170質量部であり、好ましくは70〜160質量部である。50質量部より少ないと耐火ゴム組成物(又は耐火被覆材)の発泡体の強度が不足し、耐熱性、難燃性が発揮されず、170質量部を超えると耐火ゴム組成物の加工性が低下するためである。
【0019】
ベースゴム成分に、熱膨張性黒鉛及び亜リン酸アルミニウム、無機充填剤を上記の特定質量比で配合することにより、好適な熱膨張倍率と加工性を備え、長時間高温に曝され熱膨張してもその発泡体が脆弱化し難く十分な形状安定性を有する耐火ゴム組成物(又はこれを成形した耐火被覆材)を得ることができる。
【0020】
ここで、本件発明者は、各成分を60〜100℃にて混錬処理し、耐火ゴム組成物の加硫反応の進行を抑制することで、環境下で太陽光の輻射熱等により自然に加硫(自然加硫)し、次第に強度を増す特性を備えた未加硫の耐火ゴム組成物が得られることを見出した。
本発明では、この太陽光の輻射熱等による環境下での耐火ゴム組成物(又は耐火被覆材)の加硫を「自然加硫」というものとする。この自然加硫により、耐火ゴム組成物は、次第に硬度を増すこととなる。
【0021】
従って、上記混練処理後の耐火ゴム組成物から成型した耐火処理材は、当初は優れた柔軟性と粘着性を有し、施工時における優れた粘着性を発揮する。そして、施工後は環境下で太陽光の輻射熱等により自然加硫して次第に強度を増し、固着化することとなる。
【0022】
本件発明者は、このような自然加硫性に基づく耐火ゴム組成物(又は耐火被覆材)の特性を最適化するため、加硫剤及び加硫促進剤の含有比率を、それぞれベースゴム成分100質量部に対して0.1〜10質量部の範囲に特定した。これは、さらに好ましくは1〜5質量部範囲である。加硫剤及び加硫促進剤がそれぞれベースゴム成分100質量部に対して0.1質量部より少ないと、自然加硫性が発揮されなかったり、自然加硫の進行(自然加硫速度)が遅すぎたりして耐火ゴム組成物(又は耐火被覆材)の強度が不十分となり、10質量部を超えて使用すると、自然加硫速度が速くなりすぎて保管時の安定性が劣ることが判明したためである。
【0023】
液状ゴム、ブチルゴム、粘着剤、熱膨張性黒鉛、亜リン酸アルミニウム、無機充填剤の各成分と、加硫剤、加硫促進剤を上記の特定比率で含有する耐火ゴム組成物は、60〜100℃にて混錬することにより、上述の通り好適な柔軟性と粘着性を有する耐火被覆材を成形し得るものとなる。さらに、得られる耐火被覆材は好適な自然加硫性を備え、適切な加硫速度と十分な加硫後の強度を発揮するものとなる。
【0024】
より具体的には、例えば、ツーローター式混錬装置を用いて80℃にて40回転/分の回転速度で5分間混練し、加硫剤および加硫促進剤を添加し、更に100℃にて前記回転数で5分間混練する混錬処理工程を行なったのちの、耐火ゴム組成物の針入度は30〜65であり、好適な柔軟性を具備するものとなる。
さらに、同様の条件で混練処理を行ったのちの耐火ゴム組成物の加硫度は5%以下となる。
ここで、仮に100℃を超えた温度で混練処理を行った場合には、混練中に加硫反応が進行してしまい、得られる耐火ゴム組成物の柔軟性に支障をきたしたり、以下に示す適切な自然加硫性が発揮されない可能性が生じる。
【0025】
すなわち、上記混練処理ののちの耐火ゴム組成物は、50℃雰囲気下120日後において70%以上にまで加硫し、好適な自然加硫性を発揮するものとなっている。
【0026】
なお、上記混錬処理工程に用いることができるツーローター式混錬装置は、例えば、80℃ないしは100℃において回転速度40回転/分での混錬を可能とする装置であれば特に限定されず用いることができるが、本発明においては、現在広く普及している株式会社モリヤマ製の混合容量3リットルの加圧ニーダー(機器名:DS3−10MWB−S型)を用いた。
【0027】
以上に説明した耐火ゴム組成物から耐火被覆材を製造する場合には、該耐火ゴム組成物を60〜100℃にて混錬処理したのち、成形処理を行なう。この際、成形処理温度を60〜100℃に保つことにより、上記混錬処理後の耐火ゴム組成物の加硫度(5%以下)が維持されるようにする。成形処理温度が100℃を超えると、耐火ゴム組成物の加硫反応が進行してしまい、得られる耐火被覆材の粘着性及び柔軟性が低下したり、適切な自然加硫性が発揮されない可能性が生じるためである。さらに、成形処理温度は、混錬処理の温度よりも低く保つことがより望ましい。
【0028】
このようにして成形された耐火被覆材は、成形後は優れた粘着性を有するので、基材の表面に耐火被覆材を施工する際、耐火被覆材は自身の有する粘着力に基づいて基材表面へ接着し、保持される。従って、従来の防火用膨張材料と異なり、鉄骨や壁等へ貼り付ける際に、不織布、金網、セラミック材料等の面材を釘やピン、ネジ等によって補強固定する必要がない。また、粘着状態の耐火被覆材は、柔軟性を維持しているので、一旦基材表面へ貼り付けて位置決めを行なった後にも、再度剥がして貼り替えることが可能である。
【0029】
さらに、鉄骨や壁等に貼り付けられた耐火被覆材は、自然加硫により次第に硬度を増して、貼り付け当初の粘着状態から、次第に固着状態へと変化し、鉄骨や壁等の表面に強固な被覆を形成する。このように強固な被覆を形成するに至った耐火被覆材は、もはや容易に剥離、脱落することがないので、従来の防火用膨張材料のように、鉄骨や壁等へ貼り付けた後、外側から不織布、金網、セラミック材料等の面材を釘やピン、ネジ等によって補強固定する必要がなく、炎熱に曝された場合にも剥離、脱落しにくい。
【0030】
本発明に係る耐火被覆処理方法は、このような耐火被覆材の特性を利用したものであり、施工時には、耐火被覆材自身が有する粘着力によって基材表面へ貼り付けて粘着させ、その後は、耐火被覆材の自然加硫によって基材表面に固着化させることにより、強固な被膜を得ることを特徴とする。
この耐火被覆処理方法では、上述のように、従来必要であった不織布、金網、セラミック材料等の面材を釘やピン、ネジ等によって補強固定の必要がないため、作業効率を格段に向上させることが可能となる。
【0031】
また、この際、耐火被覆材を、テープ状あるいはシート状に成形することにより、鉄骨や壁等により簡便に貼り付けることができ、さらに作業効率を高めることが可能となる。
【発明の効果】
【0032】
本発明に係る耐火ゴム組成物は、炎熱に曝された場合も十分な形状安定性を保持するため、火災時の延焼を効果的に抑止することができるとともに、この耐火ゴム組成物から成形した耐火処理材は、施工時の優れた粘着性と、施工後の強固な固着性を発揮するため、鉄骨や壁等へ貼り付ける際に補強固定が不要となり、耐火被覆処理作業の効率を飛躍的に高めることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0034】
本発明で用いられる液状ゴムとしては、例えば、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリブテンを用いることができ、耐火ゴム組成物(又は耐火被覆材)に粘着性を付与できる液状ゴムであれば、これらに限定されず採用が可能である。これらの液状ゴムを1種又は2種以上を、ブチルゴムと混合しベースゴム成分とする。
【0035】
粘着剤は、耐火ゴム組成物(又は耐火被覆材)の粘着性をより向上させるために用いる。粘着剤としては、例えば、クマロン−インデン樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、テルペン−フェノール樹脂、ポリテルペン樹脂、石油系炭化水素樹脂等が挙げられる。粘着剤は1種類又は2種類以上を組み合わせて用いることが出来る。
【0036】
熱膨張性黒鉛は、220℃程度以上の温度に曝されると100倍以上に熱膨張し、火災発生時には鉄骨等の被覆表面に強固な発泡断熱層を形成して鉄骨等の温度上昇を防止し、また、防火壁と電源ケーブル等の隙間を閉塞させて火炎の流入を防止する機能を発揮する。熱膨張性黒鉛には、天然グラファイト、熱分解グラファイト等の粉末を、硫酸や硝酸等の無機酸と、濃硝酸や過マンガン酸塩等の強酸化剤とで処理したもので、グラファイト層状構造を維持した結晶化合物が用いられる。なお、天然グラファイト、熱分解グラファイト等の粉末には、脱酸処理や中和処理等を行なった各種品種があるが、いずれを使用してもよい。熱膨張性黒鉛の粒度は、20〜400メッシュ程度が好ましい。400メッシュより粒度が小さくなると熱膨張性黒鉛の膨張度が小さく、得られた耐火ゴム組成物(又は耐火被覆材)が火災時に充分熱膨張しない場合があり、また20メッシュより粒度が大きくなると分散性が悪くなり耐火ゴム組成物の弾性が低下するためである。
【0037】
亜リン酸アルミニウムは、熱膨張後の発泡体の型崩れ防止のための形状安定化剤として用いる。亜リン酸アルミニウムの平均粒径は、分散性の観点からレーザー回折法の測定値で1〜100μmが好ましい。
【0038】
無機充填剤は、無機充填剤は、耐火ゴム組成物(又は耐火被覆材)中で骨材的な働きをし、耐火ゴム組成物(又は耐火被覆材)が火災で熱膨張した後は、その発泡体の強度を向上したり、熱容量の増大に寄与し耐熱性を増強する。無機充填剤としては、限定はされないが、例えば、赤リン、リン酸金属塩、ポリリン酸アンモニウム類(ポリリン酸アンモニウム、メラミン変性ポリリン酸アンモニウム等)等の無機リン化合物;アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化錫、酸化アンチモン、フェライト類等の金属酸化物;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ハイドロタルサイト等の含水無機物;塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム等の金属炭酸塩;硫酸カルシウム、石膏繊維、ケイ酸カルシウム等のカルシウム塩;シリカ、珪藻土、ドーソナイト、硫酸バリウム、タルク、クレー、マイカ、モンモリロナイト、ベントナイト、活性白土、セピオライト、イモゴライト、セリサイト、ガラス繊維、ガラスビーズ、シリカ系バルン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、炭素バルン、木炭粉末、各種金属粉、チタン酸カリウム、硫酸マグネシウム、チタン酸ジルコン酸鉛、アルミニウムボレート、硫化モリブデン、炭化ケイ素、ステンレス繊維、ホウ酸亜鉛、各種磁性粉、スラグ繊維、フライアッシュ等が挙げられる。これらは、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0039】
加硫剤及び加硫促進剤は、耐火ゴム組成物(又は耐火被覆材)に自然加硫性を付与するため配合される。加硫剤は、加硫ゴムを架橋できれば特に制限されるものではないが、例えば、硫黄、ポリスルフィド等の硫黄系化合物、p−キノンジオキシム、p−p−ジベンゾイルキノンオキシム等のオキシム系化合物、t−ブチルハイドロパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物系化合物等がある。加硫剤は硫黄系化合物が好ましく、その硫黄系化合物と、それ以外のものを組み合せて使用してもよい。加硫促進剤は、加硫ゴムの加硫の促進を目的に使用されるものであって、特に制限されるものではないが、例えば、テトラメチルチウラムジスルフィドやテトラブチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド等のチウラム系化合物、2−メルカプトベンゾチアゾールやジベンゾチアゾールジスルフィド等のチアゾール系化合物、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛ジ−n−ブチルジチオカルバミン酸亜鉛等のジチオカルバミン酸塩系化合物、n−ブチルアルデヒドアニリン等のアルデヒドアミン系化合物、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド等のスルフェンアミド系化合物、ジオルソトリルグアニジンやジオルソニトリルグアニジン等のグアニジン系化合物、チオカルバニリドやジエチルチオユリア、トリメチルチオユリア等のチオユリア系化合物、亜鉛華などの化合物が挙げられる。加硫促進剤は、これらの単体だけでなく、2種以上のものを組合せて使用してもよい。
【0040】
液状ゴム、ブチルゴム、粘着剤、熱膨張性黒鉛、亜リン酸アルミニウム、無機充填剤、加硫剤、加硫促進剤の上記各成分を、請求の範囲記載の特定含有比率で混成した本発明にかかる未加硫の耐火ゴム組成物は、好適な熱膨張倍率と加工性を備え、高温に曝されてもその発泡体は十分な形状安定性を発揮する。さらに、60〜100℃にて混錬したのちの針入度は30〜65であって、好適な柔軟性をも具備するものとなっている。また、該耐火ゴム組成物は好適な自然加硫性をも備え、適切な自然加硫速度と、十分な自然加硫後の強度を発揮する。より具体的には、60〜100℃にて混錬したのちの加硫度は5%以下であり、その後50℃雰囲気下120日ののち、70%以上にまで加硫する。ここで、自然加硫速度を、異なる温度及び期間において評価することも当然に可能である。
【0041】
耐火ゴム組成物にはその効果を阻害しない範囲で、可塑剤、軟化剤、老化防止剤、加工助剤、滑剤等を併用して用いてもよい。加工性の調整に有効な軟化剤や可塑剤の例としては、パラフィン系やナフテン系等のプロセスオイル、流動パラフィンやその他のパラフィン類、ワックス類、フタル酸やアジピン酸系、セバシン酸系やリン酸系等のエステル系可塑剤類、ステアリン酸やそのエステル類などがあげられる。
【0042】
耐火ゴム組成物を混練する装置としては、従来公知のツーローター式混錬装置、例えば、バンバリーミキサー、ニーダーミキサー等がある。耐火ゴム組成物から耐火被覆材を成形する際には、従来のプレス成形、押出成形、カレンダー成形等の方法がある。ここで、混錬工程及び成形工程における温度が100℃を超えると、耐火ゴム組成物の加硫が進行してしまい、得られた耐火被覆材の粘着性及び柔軟性が低下してしまう可能性がある。従って、混錬・成形工程の温度は100℃以下に保つ必要があり、これにより加硫度を5%以下に維持して、粘着性と柔軟性を備え、好適な自然加硫性を発揮する耐火被覆材を得ることが可能となる。なお、混練・成形温度の下限は、混練装置の運転可能な温度や成形工程の成形可能の温度であるが、例えば、それぞれ60℃である。また、加硫を進行させないために成形工程の成形温度は、混練温度より低いことが好ましい。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものでない。なお、以下の説明における部は質量基準に基づく。実施例において使用した材料は、それぞれ以下に示したものである。
(1)液状ゴム:ポリブテン;BP Japan(株)製、「H−300」
(2)ブチルゴム:JSR(株)製、「ブチル268」
(3)粘着剤:テルペン系樹脂;ヤスハラケミカル(株)製、「YSレジンPX−100」)、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂:日立化成工業(株)製、「ヒタノール#1501」
(4)熱膨張性黒鉛:エア・ウォーター・ケミカル(株)製、「SS−3」(膨張開始温度220℃)
(5)亜リン酸アルミニウム:太平化学産業(株)、「APA―100」
(6)無機充填剤:クレー;(株)群馬長石御座入鉱山製、「FA−80」、カーボンブラック;旭カーボン(株)製、「#80」、水酸化アルミニウム;昭和電工(株)製、「ハイジライトH31」
(7)加硫剤:粉末硫黄;細井化学工業(株)製
(8)加硫促進剤:ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛;大内新興(株)製、「ノクセラーPZ」、ジ−n−ブチルジチオカルバミン酸亜鉛;大内新興(株)製、「ノクセラーBZ」、n−ブチルアルデヒドアニリン;大内新興(株)製、「ノクセラー8N」
実施例1〜6及び比較例1〜9において、下記の特性を評価した。各特性の測定方法を以下に示す。なお、試験片には耐火ゴム組成物を縦25mm×横100mm×厚み2mmのテープ状に加工した耐火被覆材を用いた。
(1)熱膨張倍率:試験片を300℃で保持された雰囲気内に0.5時間放置した後の膨張倍率を測定した。
(2)加工性:カレンダー成形機で試験片を成形する際に、問題なく成形できたものを「良」、外観不良発生あるいは安定した成形が出来なかったものを「不可」と評価した。
(3)形状安定性:熱膨張倍率測定後の試験片の形状を目視と指触で評価した。型崩れせず指で触っても崩れないものを「良」、指触ですぐ崩れるか、あるいは既に崩れてしまったものを「不可」と評価した。
(4)針入度:JIS−K2207に準拠し荷重100g、温度25℃において測定を行なった。
(5)加硫度:JIS−K6300記載の方法で、キュラストメーターIII型(JSRトレーディング社製)でトルクを測定。加硫度(%)=(MX−ML)/(MM−ML)×100(MXはある期間を経た材料のトルク値、MLは測定曲線におけるトルクの最小値、MMは測定曲線におけるトルクの最大値)
(6)T型剥離接着強さ:JIS K6854の剥離接着強さ試験方法に準拠して接着強度を測定した。大きさが縦25mm×横150mm×厚み2mmのSUS板に試験片を挟んでハンドローラーで圧着した。貼り付け直後及び50℃オーブン中に4ヶ月放置後において、剥離速度を50mm/minとし、T型剥離接着強さ試験を行なった。
【0044】
表1及び表2は、液状ゴム、ブチルゴム、粘着剤、熱膨張性黒鉛、亜リン酸アルミニウム、無機充填剤、加硫剤、加硫促進剤の配合比率を変化させて成形した試験片の各特性を示す。試験片は、液状ゴム、ブチルゴム、粘着剤、熱膨張性黒鉛、亜リン酸アルミニウム、無機充填剤を、株式会社モリヤマ製の混合容量3リットルの加圧ニーダー(機器名:DS3−10MWB−S型)を用いて80℃にて40回転/分の回転速度で5分間混練し、加硫剤および加硫促進剤を添加し更に100℃にて同じ回転数で5分間混練した後、カレンダー成形機を用い80℃にて試験片を成形した。
【0045】
表1に示す通り、本発明の実施例1〜6は、十分な熱膨張倍率と良好な加工性を保持しながら、優れた形状安定性をも具備するものとなっている。また、針入度が30〜65、貼り付け直後のT型剥離接着強さが5N/25mm以上であって、好適な柔軟性と十分な粘着性を備えるものとなっている。
【0046】
さらに、自然加硫性の評価においては、実施例1〜6とも、50℃雰囲気下4ヶ月後における加硫度が70%以上となり、針入度が10%以上低下している。具体的な針入度の低下率は、実施例1〜3及び6では13〜17%、実施例4及び5では25%程度となっている。これにより、実施例1〜6においてT型剥離接着強さは、貼り付け直後の5N/25mm程度から39〜55N/25mmへ8倍程度増加している。これらの数値は、実施例1〜6にかかる耐火被覆材が、好適な加硫速度と加硫後の固着性を具備することを示すものである。
【0047】
次に表2に掲げる比較例について説明する。
【0048】
比較例1は、粘着剤、熱膨張性黒鉛、亜リン酸アルミニウム、無機充填剤が配合されないため、接着性が不十分(T型剥離接着強さ 貼り付け直後参照)で、熱膨張性を欠き、形状安定性も不良となる。
【0049】
比較例2は、粘着剤が配合されないため、接着性が不十分となる。
【0050】
比較例3は、膨張製黒鉛が配合されないため、熱膨張性を欠く。
【0051】
比較例4は、ベースゴム成分100質量部に対して、亜リン酸アルミニウムを20質量部とした。この場合、形状安定性が不良となった。
【0052】
比較例5は、加硫剤、加硫促進剤が配合されないため、自然加硫性を欠く。具体的な自然加硫性の評価としては、50℃雰囲気下4ヵ月後においても、加硫せず、接着強度の上昇がみられない(T型剥離接着強さ 貼り付け直後及び50℃4ヵ月後参照)。
【0053】
比較例6は、ベースゴム成分100質量部に対して、熱膨張性黒鉛を110質量部にまで配合した。この場合、熱膨張倍率は向上するものの、形状安定性が不良となる。
【0054】
比較例7は、液状ゴムを60質量部、ブチルゴムを40質量部としたベースゴム成分100質量部に対して、亜リン酸アルミニウムを190質量部まで、また無機充填剤を180質量部(水酸化アルミニウム、カーボンブラックの合計)まで配合した。この場合、加工性が不良となり、針入度は80と柔軟性が過度となった。
【0055】
比較例8は、ベースゴム成分100質量部に対して加硫剤を7質量部配合し、さらに加硫促進剤を10.5質量部(ノクセラーPZ,BZ,8Nの合計)にまで配合した。この場合、加工性が不良となる。これは自然加硫速度が速くなりすぎて、混錬・成形工程中に加硫反応が進み、柔軟性が失われたためである。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
表3は、加硫剤および加硫促進剤を添加した後の混練工程(5分間)及びカレンダー成形機にて成形する際の温度を変化させて得た試験片の各特性を示す。実施例1及び比較例9は、液状ゴム、ブチルゴム、粘着剤、熱膨張性黒鉛、亜リン酸アルミニウム、無機充填剤、加硫剤、加硫促進剤の配合比率は同じであるが、実施例1においては混練工程及び成形工程の温度がそれぞれ100℃,80℃であるのに対して、比較例9においてはともに130℃に設定されている。
【0059】
比較例1では、混練・成形工程の温度を100℃以下に維持することで、試験片の加硫度は3%に抑制されるのに対して、比較例9では混練・成形工程の温度を130℃と高く設定したことにより、試験片の加硫が12%にまで進んでいる。比較例9では、このように加硫が進行してしまうことにより、針入度が58にまで低下して柔軟性が失われ、接着性の低下が引き起こされている。
【0060】
【表3】

【0061】
最後に、実施例1〜6と同様の配合比率とした試験片を用いて、角柱型鉄骨へ耐火被覆処理を行った際の施工作業成績について説明する。
【0062】
試験片は縦1000mm×横1500mm×厚み2mmのテープ状に加工し、片面をアルミ箔で被覆し、反対面(接着面)を角柱型鉄骨(幅300mm×奥行き300mm×高さ1500mm、鉄板厚み6mm)に貼り付けた。
【0063】
いずれの配合比率の試験片においても、他の補強固定を要することなく、試験片は鉄骨表面に粘着、保持され、剥れ落ちることはなかった。
【0064】
これにより、従来の防火用膨張材料とは異なり、本発明に係る耐火被覆材では、貼り付け後に外側から不織布、金網、セラミック材料等の面材を釘やピン、ネジ等によって補強固定する必要がないことが確認でき、施工時間を大幅に短縮できることが明らかとなった。また、接着剤を用いる必要がないため、接着剤に起因した臭気がなく、補強固定に必要な工具類を運搬する必要がないため、施工者の負担を軽減できることも明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明に係る耐火ゴム組成物、該耐火ゴム組成物からなる耐火被覆材、及び該耐火被覆材を用いた耐火被覆処理方法は、鉄骨等の耐火被覆処理に用いることができる。さらに、防火壁と電源ケーブル間等の間隙の防火用目地材として電源ケーブルに巻きつけ開口部に挿入することで、火災時の延焼防止や建造物の倒壊防止に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状ゴム30〜50質量部、ブチルゴム50〜70質量部からなるベースゴム成分100質量部に対して、粘着剤を10〜60質量部、熱膨張性黒鉛を10〜100質量部、亜リン酸アルミニウムを50〜170質量部、無機充填剤を50〜170質量部、加硫剤を0.1〜10質量部、加硫促進剤を0.1〜10質量部を含有し、60〜100℃にて混錬されるための未加硫の耐火ゴム組成物。
【請求項2】
ツーローター式混錬装置を用い80℃にて40回転/分の回転速度で5分間混錬し、前記加硫剤及び前記加硫促進剤を添加し、さらに100℃にて前記回転数で5分間混錬する混錬処理工程ののち、針入度が30〜65であり、かつ、加硫度が5%以下であることを特徴とする請求項1記載の耐火ゴム組成物。
【請求項3】
前記混錬処理工程後、50℃雰囲気下で120日ののち、加硫度が70%以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の耐火ゴム組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の耐火ゴム組成物から成形した耐火被覆材。
【請求項5】
テープ状又はシート状の形状を有することを特徴とする請求項4記載の耐火被覆材。
【請求項6】
請求項1から3のいずれか一項に記載の耐火ゴム組成物を、60〜100℃にて混練したのち成形する耐火被覆材の製造方法。
【請求項7】
成形温度が混練温度よりも低いことを特徴とする請求項6記載の耐火被覆材の製造方法。
【請求項8】
請求項4又は5記載の耐火被覆材を用いた耐火被覆処理方法。
【請求項9】
前記耐火被覆材を、
該耐火被覆材の粘着力によって基材表面へ粘着させた後、
さらに、該耐火被覆材の自然加硫によって基材表面へ固着化させることを特徴とする請求項8記載の耐火被覆処理方法。



【公開番号】特開2008−115359(P2008−115359A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−184139(P2007−184139)
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【特許番号】特許第4021934号(P4021934)
【特許公報発行日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【出願人】(591129771)シー・アール・ケイ株式会社 (31)
【Fターム(参考)】