説明

耐火セグメントおよびトンネル

【課題】トンネル内火災が生じた場合でも、周方向に隣接するセグメント間の継ぎ手部の変形および相互の押圧作用を抑止することができ、もってセグメントの損傷を回避できる耐火セグメントと、この耐火セグメントから構築される耐火性能に優れたトンネルを提供する。
【解決手段】耐火セグメント10は、これが周方向に組み付けられる際に隣接する他の耐火セグメントと接続される2つの端部領域のうちの少なくとも一方の端部領域TR1であって、トンネルの内空側に臨む一側面IPに、耐火樹脂層2を備えている。他の実施の形態では、両側の端部領域TR1,TR2の一側面IPにそれぞれ耐火樹脂層2を備えたもの、一側面IPからセグメント継ぎ手面TP1,TP4に連続する耐火樹脂層2Aを備えたもの、などがある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐火セグメントと、この耐火セグメントによってできるトンネルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
地盤内にトンネルを施工するに際し、開削工法による地上占有の問題を解消し、対象地盤が軟弱な場合でも可及的に短工期で効率的な施工を可能とし、さらには、大断面や大深度のトンネル施工を可能とした施工技術として、シールド工法は一般に知られるところである。このシールド工法では、断面が円形、楕円形、正方形、矩形等、多様な断面形状のトンネルが施工されており、シールド掘進機内のエレメント装置にて複数のセグメントが周方向あるいはトンネル断面の輪郭方向に無端状に組み付けられ、これがトンネル軸方向に順次組み付けられることで所望の断面形状および延長のシールドトンネルが構築されている。また、このセグメントは、鉄筋コンクリート製のもの、鋼殻とコンクリートの複合構造からなるもの、鋼製のものなど、コストや設計条件等からその仕様は適宜選定されている。
【0003】
ところで、少なくともコンクリートをその構成材料とするセグメントを使用してトンネルを施工している途中で、あるいはトンネルの供用中において該トンネル内に火災が生じると、セグメントを構成するコンクリート内の水分が膨張してひび割れを生じ、コンクリートが剥落する虞がある。また、コンクリート内で急激に高い水蒸気圧が生じた場合には、コンクリートの微細孔からこの水蒸気が抜けきれずに爆裂に至る虞もある。
【0004】
上記するトンネル内火災で齎されるトンネルの損傷や劣化を防止するための方策として、一般のコンクリートからなるセグメントでトンネルの一次覆工を施工している場合においては、たとえば特許文献1に開示された技術のごとく、一次覆工のトンネル内空側の全面に耐火シートを施工する方法がある。また、その他にも耐火パネルを全面に貼り付けたり、耐火材を吹き付け施工するといった方法もある。
【0005】
一方、新設トンネルを施工する場合においては、たとえば有機繊維を混入してなるコンクリートで耐火セグメントを製造し、これを使用してトンネルを構築する技術がある。この有機繊維は、オレフィン繊維やポリプロピレン繊維などの合成繊維やパルプ繊維などを含むものであるが、たとえば、300℃以下で溶融する合成繊維を混入してなるコンクリートでできた耐火セグメントが特許文献2に開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2001−336399号公報
【特許文献2】特開2006−291597号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献2のごとく、有機繊維を含有してなるコンクリートからできたセグメントを使用してトンネルを構築することにより、耐火シートや耐火パネル等をセグメント内面に施工することなく、トンネルの耐火性能を向上させることができる。一般コンクリートに比して耐火コンクリートを使用することでその工費はアップするものの、耐火シート等をトンネルの内周全面に施工する方法に比してその全体工費を節減できることから、耐火セグメントを使用してトンネルを施工する方法は耐火性能を有する新設トンネル構築技術の主流となってきている。
【0008】
しかし、単に耐火セグメントを使用してトンネルを構築したとしても、実際のトンネル内火災の際には、次の問題が生じ得る。すなわち、実際のトンネルでは、土圧の作用により、たとえば周方向のリング断面には図15で示すような曲げモーメントが発生している。より詳細に言えば、図15で示す曲げモーメント分布はセグメント同士が剛結合であるという前提に基づいた場合の曲げモーメント分布であり、たとえばセグメント同士が回転を許容され、設計上はピン結合と評価される場合には、セグメントの継ぎ手部で曲げモーメントは生じないという解析結果となる。しかし、実際には、セグメント同士はボルト等にて強固に接続されているのが一般的であることからすれば、このセグメント継ぎ手部では少なからず曲げモーメントが生じていると考えてよい。
【0009】
トンネルのリング断面の設計においては、上載土圧P1と下方からの地盤反力P2、側方土圧P3をリング断面に載荷することで、図中の点線ラインのような曲げモーメントが生じ、この曲げモーメントはトンネルに常に生じていると考えられる。ここで、リングの外側に突出したモーメント領域を負曲げ領域(図中の−領域)、リング内のモーメント領域を正曲げ領域(図中の+領域)とすることができる。
【0010】
図示のごとく、この負曲げ領域にセグメント継ぎ手部が存在する場合は往々にしてあり得るが、仮に上記のごとくトンネル内火災が発生した場合には、この負曲げ領域にあるセグメント継ぎ手部が図16のごとく変形することが本発明者の実験によって特定されている。同図において、各セグメントS,Sの外側領域Q1(地盤側領域)では双方が外側に反ってしまい、セグメント継ぎ手部の内側領域Q2(トンネル内空側領域)では、逆にセグメントS,S同士が押圧(圧縮)し合うような回転が促される。この回転作用により、内側領域Q2のセグメントは場合によっては圧壊に至る危険性があり、これに外側領域Q1に生じた空隙も加わって、トンネルの止水性も損なわれることとなる。上記する特許文献2をはじめとする従来の耐火セグメントに関して言えば、これらの課題を取上げ、該課題を解消するための方策を講じたものは存在しない。
【0011】
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、少なくともコンクリート製の耐火セグメントに関し、トンネル内火災が生じた場合でも、周方向に隣接するセグメント間の継ぎ手部の変形および相互の押圧作用を抑止することができ、もってセグメントの損傷を回避できる耐火セグメントと、この耐火セグメントから構築される耐火性能に優れたトンネルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成すべく、本発明による耐火セグメントは、掘削孔内の周方向および軸方向に複数接続されることによってトンネルを構成する、耐火性能を有するコンクリートから形成された耐火セグメントにおいて、前記耐火セグメントのうち、該耐火セグメントが前記周方向に組み付けられた際に隣接する他の耐火セグメントと接続される2つの端部領域の少なくとも一方の端部領域であって、かつ、トンネルの内空側に臨む一側面において、耐火樹脂層が具備されていることを特徴とするものである。
【0013】
本発明の耐火セグメントは、少なくともコンクリートからなるもの、すなわち、鉄筋コンクリート製のセグメントや、鋼殻とコンクリートの複合構造のセグメントなど、少なくともコンクリートをその構成材料としたものであり、加えて、このコンクリートが耐火性能を有するものである。ここで、耐火性能を有するとは、一般のコンクリートにオレフィン繊維、ポリプロピレン繊維などの有機繊維が混入されているセグメントや、アルミナセメント等の高耐熱性のセメントと塊状スラグなどの高断熱性骨材からなるコンクリートでできたセグメントのことである。なお、セグメントの剛性を高め、火災時の表面剥離を防止するために、さらに、鋼繊維や炭素繊維などが混入されていてもよい。
【0014】
本発明の耐火セグメントでできるトンネル(シールドトンネル)は、その断面が円形または略楕円形のトンネルのほか、断面が正方形や横長もしくは縦長の矩形など、多様な断面形状を有するものである。たとえば、トンネル断面が円形もしくは楕円形のトンネルの場合には、所定の曲率を有し、広幅な面を平面的に見た際に周方向に長い矩形状を呈した形状の耐火セグメントを使用できる。また、矩形断面のトンネルの場合には、その角部では断面コの字状の耐火セグメントが使用され、他の一般部位では断面矩形の耐火セグメントが使用される。
【0015】
本発明の耐火セグメントは、セグメントが周方向に組み付けられた際に隣接するセグメントと接続される端部領域であって、トンネル内空側の側面に部分的に耐火樹脂層が形成されている。なお、この端部領域はセグメントの両側に形成されるものであるが、本発明の耐火セグメントは、そのいずれか一方の端部領域にのみ耐火樹脂層を具備するもの、その両側の端部領域にそれぞれ耐火樹脂層を具備するもの、のいずれであってもよい。たとえば、一方の端部領域にのみ耐火樹脂層を具備する耐火セグメントを使用して周方向にセグメントを組み付ける場合には、注目する耐火セグメントの耐火樹脂層を具備する端部領域と、これに隣接する耐火セグメントの耐火樹脂層を具備してない端部領域とをそれぞれ当接させ、各耐火セグメントを周方向に組み付けるのがよい。このように組み付けることですべてのセグメント継ぎ手部に耐火樹脂層を設けることができる。
【0016】
ここで、耐火樹脂層は、たとえば石油樹脂と耐火性付与粉末(油樹脂などと反応して炭化断熱層を形成するためのものであり、難燃剤や発泡剤、炭化層形成剤などがその主成分)、靭性付与剤などからなる材料を溶融してできた溶剤をセグメントに塗布して形成したり、これらの材料を溶融成形してシート材とし、このシート材をセグメントに接着することで形成することができる。また、ブチルゴムを樹脂成分とした熱膨張性シートとポリエチレンフィルム等の熱溶融性フィルムがラミネートされたシート材などであってもよい。さらには、現在市販されている耐火樹脂シート製品として、発泡性耐火シートである、SKタイカシート(エスケー化研株式会社製)を使用することもできる。尤も、耐火樹脂層厚の精度管理や施工の効率性を勘案すれば、耐火樹脂層を定型のシート材から形成するのが好ましい。
【0017】
既述するように、常時に負の曲げモーメントを生じているセグメント継ぎ手部において、トンネル内火災の際には、上記する端部領域のトンネル内空側の側面が外側に反り返ろうとして圧縮力が作用する。しかし、この端部領域のトンネル内空側の側面に上記耐火樹脂層が存在することにより、この領域は該耐火樹脂層にて断熱されていることから反り返りによる変形が抑止される。この結果、かかる領域でのセグメント同士の押圧作用も可及的に少なくなり、セグメント端部における剥離や圧壊等を効果的に防止することに繋がる。さらに、耐火樹脂層の適用範囲が可及的に狭い範囲に設定されており、セグメントの製造コストを大きく高騰させるものとはならない。
【0018】
また、本発明による耐火セグメントの他の実施の形態として、前記耐火セグメントが前記周方向に組み付けられる際に隣接する他の耐火セグメントと接続される2つの端部領域のうちの少なくとも一方の端部領域であって、かつ、トンネルの内空側に臨む一側面から他の耐火セグメントと当接する端面の途中にかけて、耐火樹脂層を具備した形態であってもよい。
【0019】
本実施の形態は、端部領域の角部(コーナー部)を耐火樹脂層で包囲するものであり、より具体的には、端部領域のうち、トンネル内空側の側面の一部から隣接する耐火セグメントとの当接端面(セグメント継ぎ手面)の一部にかけて連続して耐火樹脂層を具備するものである。
【0020】
端部領域のトンネル内空側の側面にのみ耐火樹脂層を具備する形態に比して、角部の2面に亘って耐火樹脂層を形成することにより、トンネル内火災の際に破損等が問題となる負曲げ領域における該角部の高温雰囲気からの防護をより確実に実施できる。
【0021】
さらに、セグメント同士の組み付けの際に生じ得る競り合いや衝突、シールド掘進機推進時の推進ジャッキの片当たり等の際に、耐火セグメントに想定外の押圧荷重が作用して該耐火セグメントが大きく損傷する部位、もしくは損傷し易い部位であるセグメントの角部に対し、これらの損傷を効果的に抑止することができる。
【0022】
また、本発明による耐火セグメントの他の実施の形態は、前記耐火セグメントが、前記軸方向に隣接する他の耐火セグメントと当接する端面において、線状に延びる他の耐火樹脂層をさらに備えていることを特徴とするものである。
【0023】
本実施の形態の耐火セグメントは、既述のごとく、耐火セグメントの周方向の端部領域の一部に耐火樹脂層を具備することに加えて、トンネル軸方向に隣接する耐火セグメントと隣接する当接端面(リング継ぎ手面)においても同様の耐火樹脂層を具備した耐火セグメントに関するものである。この当接端面にも耐火樹脂層を設けることにより、軸方向に隣接するセグメントとの当接端面を介してトンネル内火災の際の温度が耐火セグメントに伝熱されることを効果的に抑止することが可能となる。
【0024】
この当接端面(リング継ぎ手面)は周方向に平行に延びる面であり、したがって、この面に耐火樹脂層を形成する場合には、該耐火樹脂層の延長が既述する周方向の隣接セグメントと当接する端部領域の端面に比して長くなる。そこで、このリング継ぎ手面に形成される耐火樹脂層は面状ではなく、細長の線状としてこれをリング継ぎ手面の延長に亘って設けることにより、可及的に少ない耐火樹脂層材料にて耐火樹脂層を形成することが可能となる。
【0025】
上記する耐火セグメントを備えたトンネルを構築することにより、トンネルの施工途中〜トンネルの供用期間中のすべての期間に亘り、該トンネル内に火災が生じた場合でも、特に常時の土圧荷重によって形成される負曲げ領域に存在するセグメント継ぎ手部において、火災時の高温からセグメント端部を確実に防護することができる。これにより、セグメント端部の外側への反り返りに起因する端部領域のトンネル内空側部分の圧縮作用と、これに起因する損傷(圧壊など)を効果的に防止することができる。
以上より、トンネル内火災等に対する耐火性能に優れたトンネル(シールドトンネル)を構築することが可能となる。
【発明の効果】
【0026】
以上の説明から理解できるように、本発明の耐火セグメントとこれを使用してなるトンネルによれば、従来注目されてこなかった破壊、具体的には、常時の土圧荷重によって負の曲げモーメントが生じている領域に存在するセグメント継ぎ手部において、トンネル内火災の高温雰囲気にてセグメント端部が圧壊等することを効果的に抑止することができる。よって、極めて高い耐火性および安全性を有するトンネルが得られるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は本発明の耐火セグメントから構成されるトンネルを示した斜視図であり、図2〜図5は本発明の耐火セグメントの実施の形態をトンネル内空側から見た斜視図である。なお、図示する実施の形態は、円形断面のトンネルとこの構築に使用される複数の耐火セグメントを示しているが、楕円形断面や正方形断面、矩形断面のトンネルとこれらの構築に適応した形状の耐火セグメントであってもよいことは勿論のことである。
【0028】
図1は、所定幅を有し、所定曲率に形成された複数の耐火セグメント10を周方向(図中のR方向)に組み付け、かつこれをトンネルの軸方向(図中のA方向)に組みつけて構築されたシールドトンネルTを示している。なお、トンネル内空側Iには、地下道や地下鉄路線、電気やガスなどの各種パイプライン用の構造体が構築される。このトンネルTを構成する耐火セグメントの形態を図2〜図5に示している。
【0029】
図2で示す耐火セグメント10は、オレフィン繊維、ポリプロピレン繊維などの有機繊維がコンクリート中に混入されてなる材料や、アルミナセメント等の高耐熱性のセメントと塊状スラグなどの高断熱性骨材からなるコンクリートを材料としてできたセグメント1からなる。
【0030】
このセグメント1のトンネル内空側側面IPのうち、周方向に隣接する他の耐火セグメント10と当接する端面TP1(一般にセグメント継ぎ手と称される継ぎ手面)側の端部領域TR1において、たとえばその厚みが数mm程度の耐火樹脂シート2が接着されている。この耐火樹脂シート2としては、たとえば、ブチルゴムを樹脂成分とした熱膨張性シートとポリエチレンフィルム等の熱溶融性フィルムがラミネートされたシートや、市販されている耐火樹脂シート製品であるSKタイカシート(エスケー化研株式会社製)などを使用することができる。
【0031】
図3で示す耐火セグメント10Aは、端部領域TR1の角部を構成する側面IPからセグメント継ぎ手面TP1にかけて耐火樹脂シート2Aが接着されるものである。この耐火セグメント10Aの耐火樹脂シート2Aを具備するセグメント継ぎ手面TP1と隣接する耐火セグメントの耐火樹脂シート2Aを具備しないセグメント継ぎ手面TP4を繋ぎ、これを周方向に同様に繰り返して各耐火セグメント10Aを接続することにより、各セグメント間の端部領域にて耐火樹脂シート2Aが形成されたトンネルを構成することができる。
【0032】
このセグメントリングによれば、トンネル内火災の際に耐火樹脂シート2Aにてセグメント継ぎ手部が防護され、特に、図15で示す負曲げ領域に存在するセグメント接続部の温度上昇を抑止することができ、図16のようなセグメント同士の反り返りとトンネル内空側の圧縮作用の抑止を図ることができる。
【0033】
図4で示す耐火セグメント10Bは、セグメント1の両側の端部領域TR1,TR2の角部に耐火樹脂シート2Aが設けられたものである。
【0034】
また、図5で示す耐火セグメント10Cは、図4で示す耐火セグメント10Bの構成に、トンネル軸方向に隣接する他の耐火セグメントとの接続面TP2(一般にリング継ぎ手と称される継ぎ手面)において細長形状の耐火樹脂層3が追加された耐火セグメントである。なお、接続面TP2のみに耐火樹脂層3が設けられる形態のほかに、2つの接続面TP2,TP3の双方に耐火樹脂層3が設けられる形態もある。
【0035】
この耐火樹脂層3も耐火樹脂層2,2Aと同素材のシート材からなり、耐火樹脂層3がリング継ぎ手面に形成されていることで、この継ぎ手面を介してトンネル内火災の際の熱が耐火セグメントに伝熱されることを防止できる。
【0036】
[セグメント継ぎ手部の載荷加熱実験の概要と実験結果]
本発明者等は、図6の側面図と図7の平面図で示す実験加熱炉100を製作し、これに2つの耐火セグメントの試験体M1,M2を繋いだ姿勢で設置し、この試験体M1,M2の一方側から加熱することにより、試験体M1,M2の各部位の水平変位を計測した。
【0037】
ここで、ジャッキ反力架台101に1000kN性能のジャッキ102を取り付け、このジャッキにより、2つの試験体M1,M2のセグメント継ぎ手面Maを裏面から押圧するようにした。この試験体M1,M2はその側方で継ぎ手金物107にて接続して立設し、上方からは炉蓋104から突出した試験体M1の上方を20MN性能の載荷装置103にて下方へ押圧するものとした。この載荷装置103による押圧は、耐火セグメントに作用している土圧によって生じる軸圧縮力を再現するものであり、ジャッキ102による裏面からの押圧は、耐火セグメントに作用する土圧を再現するものである。ここで、試験体M1,M2は、その長さが2mであり、厚みが40cmとして製作されている。
【0038】
試験体M1,M2の正面側には加熱装置106が設けられており、これによってトンネル内火災を再現するものである。なお、試験体M2の正面下方には耐火断熱材M6を設けてある。このセグメント継ぎ手部の正面側には、複数の熱電対105を設けておき、セグメント継ぎ手部が所定の温度雰囲気であることを確認しながら実験をおこなった。
【0039】
実験の手順は、まず、試験体M1,M2の中心線から加熱装置106側に80mm偏心させた位置で載荷装置103にて4800kNまで荷重を漸増しながらホールドし、次いで、ジャッキ102にて試験体M1,M2の裏面から水平方向に100kNまで載荷した。この状態で、試験体M1,M2に作用する断面平均圧縮力は10N/mm、曲げモーメントはおよそ−290kN・mであり、試験体M1,M2の加熱装置側の圧縮応力はおよそ19N/mmと試算される。
【0040】
図8のRABT曲線(60分)に準拠してこの試験体M1,M2を加熱した。試験体M1,M2の加熱範囲は幅が1.2mで高さが継ぎ手面Maの上下1mmの計2mの範囲である。また、加熱中は載荷装置103によって4800kNの圧縮力を作用させ、継ぎ手部の変位が増減しないようにジャッキ102からの水平荷重を適宜調整した。
【0041】
さらに、試験体M1,M2が加熱後170分まで破壊しなかった場合には、ジャッキ102の水平荷重を除荷し、次いで、載荷装置103の荷重を耐火セグメントM1,M2が破壊するまで増加させる手順にて残存耐力を把握することとした。
【0042】
図9は、載荷加熱実験結果のうち、載荷装置103による鉛直荷重の漸増載荷ステップにおける変位計測結果を示したグラフである。本実験のステップNo.1〜ステップNo.37においては4800kNまで除々に荷重を増加させた。図9では、このうち、ステップNo.10までの漸増載荷時の試験体の各部位の水平変位を示している。ここで、最大変位を示す高さ:2000mmのラインが試験体M1,M2の継ぎ手面Maのラインである。
【0043】
図10は、載荷加熱実験結果のうち、載荷装置103による荷重を一定値である4800kNに保った状態で、ジャッキ102による水平荷重の漸増載荷ステップにおける変位計測結果を示したグラフである。本実験のステップNo.38以降のステップでは、載荷装置103からの荷重を4800kNに保った状態でジャッキ102にて100kNまで水平荷重を除々に増加させ、特にステップNo.49〜ステップNo.59では試験体の馴染みを確認した。図10では、このうち、ステップNo.41〜50までの試験体の各部位における水平変位を示している。
【0044】
図11は、実験加熱炉内(6つの熱電対105の各部位)の温度と時間の関係を計測した結果をRABT曲線とともに示したものである。
【0045】
図12は、試験体に発生している曲げモーメントを時系列で示したものであり、図13は、試験体の各部位の温度を時系列で示したものである。
【0046】
さらに、図14は、時間:170分〜210分までの試験体各部位の水平変位を示している。
【0047】
加熱後の試験体に関し、載荷装置103の荷重を4800kNとした状態でジャッキ102による荷重を低減したことにより、試験体M1,M2は破壊に至った。破壊後の試験体M1、M2を観察すると、試験体の継ぎ手部の加熱側のコンクリートが圧壊していた。実験加熱炉100から取り出した試験体の側面には、加熱面に平行なひび割れが見られた。さらに、この継ぎ手部では、PC鋼棒を設置するための孔を連結するようにひび割れが生じていた。さらに、図13より、190分前後で帯筋と主筋の温度が再上昇しており、これは、加熱側のコンクリートが圧壊したことによってコンクリートにひび割れが生じ、このことで帯筋や主筋の被りが薄くなったり、一部が炉内に露出したことによるものである。なお、この試験体が破壊したと考えられる190分前後の曲げモーメントは、図12より−348kN・mと特定される。
【0048】
上記実験結果より、試験体に負の曲げモーメントが作用している状態でこれが加熱されると、加熱面側には裏面側(非加熱面側)よりも大きな圧縮応力が作用することで圧壊し、試験体が軸力を保持できなくなることで破壊に至ることが実証された。
【0049】
よって、耐火セグメントからなるシールドトンネルに関し、常時の土圧作用時に負の曲げモーメントが作用している領域に耐火セグメントのセグメント継ぎ手がある場合において、この継ぎ手部が高温に曝されることを防止することにより、継ぎ手部を中心としたセグメントの圧壊を防止することができ、シールドトンネルの耐火性能の向上を高めることができる。既述する本発明の耐火セグメントを使用することにより、可及的に安価な工費にて、このシールドトンネルの耐火性能の向上を実現することが可能となる。
【0050】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の耐火セグメントから構成されるトンネルを示した斜視図である。
【図2】本発明の耐火セグメントの一実施の形態をトンネル内空側から見た斜視図である。
【図3】本発明の耐火セグメントの他の実施の形態をトンネル内空側から見た斜視図である。
【図4】本発明の耐火セグメントのさらに他の実施の形態をトンネル内空側から見た斜視図である。
【図5】本発明の耐火セグメントのさらに他の実施の形態をトンネル内空側から見た斜視図である。
【図6】セグメント継ぎ手部の載荷加熱実験装置の側面図である。
【図7】図6のVII−VII矢視図であって、セグメント継ぎ手部の載荷加熱実験装置の平面図である。
【図8】載荷加熱実験におけるRABT曲線である。
【図9】載荷加熱実験結果のうち、載荷装置による鉛直荷重の漸増載荷ステップにおける変位計測結果を示したグラフである。
【図10】載荷加熱実験結果のうち、載荷装置による荷重を一定値とした状態でジャッキによる水平荷重の漸増載荷ステップにおける変位計測結果を示したグラフである。
【図11】実験加熱炉内の温度と時間の関係を示したグラフである。
【図12】試験体に発生する曲げモーメントと時間の関係を示したグラフである。
【図13】試験体温度と時間の関係を示したグラフである。
【図14】170〜210分における試験体の各部位の水平変位を示したグラフである。
【図15】円形断面のトンネルに作用する土圧と発生する曲げモーメント分布を示した図である。
【図16】トンネル内火災の際の図11のXVI部を拡大した図である。
【符号の説明】
【0052】
1…セグメント、2,2A…耐火樹脂層、3…耐火樹脂層、10,10A,10B,10C…耐火セグメント、T…トンネル、TR1、TR2…端部領域、TP1、TP2,TP3,TP4…端面、IP…トンネル内空側側面、R…周方向、A…軸方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘削孔内の周方向および軸方向に複数接続されることによってトンネルを構成する、耐火性能を有するコンクリートから形成された耐火セグメントにおいて、
前記耐火セグメントのうち、該耐火セグメントが前記周方向に組み付けられた際に隣接する他の耐火セグメントと接続される2つの端部領域の少なくとも一方の端部領域であって、かつ、トンネルの内空側に臨む一側面において、耐火樹脂層が具備されていることを特徴とする耐火セグメント。
【請求項2】
掘削孔内の周方向および軸方向に複数接続されることによってトンネルを構成する、耐火性能を有するコンクリートから形成された耐火セグメントにおいて、
前記耐火セグメントのうち、該耐火セグメントが前記周方向に組み付けられた際に隣接する他の耐火セグメントと接続される2つの端部領域の少なくとも一方の端部領域であって、かつ、トンネルの内空側に臨む一側面から他の耐火セグメントと当接する端面の途中にかけて、耐火樹脂層が具備されていることを特徴とする耐火セグメント。
【請求項3】
前記耐火セグメントが、前記軸方向に隣接する他の耐火セグメントと当接する端面において、線状に延びる他の耐火樹脂層をさらに具備することを特徴とする、請求項1または2に記載の耐火セグメント。
【請求項4】
前記耐火樹脂層が耐火樹脂シートである、請求項1〜3のいずれかに記載の耐火セグメント。
【請求項5】
掘削孔内の周方向および軸方向に請求項1〜4のいずれかに記載の耐火セグメントが複数接続されることによって形成される、トンネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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