説明

耐火セグメント

【課題】 材料費を低減させ、トンネル築造における耐火対策費の削減を図った。
【解決手段】 耐火セグメント1は円弧板形状をなしており、この円弧板形状をなす内外周面の各四辺に鋼材を配置して枠状に結合した鋼殻体2と、鋼殻体2の内側空間部に充填された耐火コンクリート3と、鋼殻体2の内周面2a側に露出する部分を被覆する加熱発泡性を有した耐火薄膜部材4とから構成されている。耐火コンクリート3には熱溶融性の合成樹脂繊維が混入されている。耐火薄膜部材4は加熱発泡性を有した耐火シート又は耐火塗料からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にトンネル覆工に使用される耐火構造を備えた耐火セグメントに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高速道路などの大断面シールドトンネルにおける覆工には、トンネル外径やシールド機外径を小さくできるという経済的理由からコンクリート製のセグメントに比べて厚さを薄くできる合成セグメントが望まれている。そして、合成セグメントのさらに内側にコンクリートを打設する二次覆工を行わずに合成セグメントを最終形状とすることが考えられている。
合成セグメントは、鋼材で枠組みされた鋼殻体の内側空間部にコンクリートが充填された構造をなし、この鋼殻体によりセグメントが補強されるためセグメント厚を小さくすることができる。そして、合成セグメントが組み立てられたシールド内面は、コンクリート部分と鋼殻体の鋼製部分が露出しているため、トンネル内空で火災が発生した場合、高温の熱により鋼製部分の強度低下やコンクリート部分の爆裂などが起きる可能性があった。このように合成セグメントが損傷するとき、例えばトンネルが崩落し、負傷者の増大、救助活動への支障、またトンネル復旧に多大な工期や工費がかかるなどの問題があった。
このような問題を解決するための耐火対策として、セグメントの内周全面に例えばセラミック材などの耐火パネルで耐火被覆を行うものがある(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1は、セグメントなどの覆工内周面に配置されるブロック状の断熱材と、この断熱材の内周面側から挟持させる多数の孔が形成された金属薄板とを備え、金属薄板と断熱材とをアンカーピンでセグメントに固定させた耐火パネルである。これにより、セグメントと耐火パネルとの間に高熱空気が入らないように密着性を向上させたものである。
また、耐火パネルを使用したほかの技術として、予めセグメントに耐火パネルを装着したものが、例えば特許文献2に提案されている。
特許文献2は、セグメントの内周全面に、製造段階で耐火パネルを貼り付けて一体化させたものである。これによると、トンネル内にセグメントを組立てると同時に耐火パネルも施工されることになり、後施工で耐火パネルを施工する必要がなく工期を短縮することができる。
【特許文献1】特開2003−129797号公報
【特許文献2】特開2002−371797号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記のような特許文献1及び特許文献2によれば、以下のような問題があった。
耐火対策に耐火パネルを使用する場合には、隣接する耐火パネル同士やその裏面に隙間が無いように、トンネル内周全面にわたって耐火パネルが配置されることになる。このため、大量の耐火パネルが必要となり、材料コストが増大して、耐火シールドトンネルの築造における耐火対策費が高くなるという問題があった。
【0004】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、材料費を低減させ、トンネル築造における耐火対策費の削減を図った耐火セグメントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明に係る耐火セグメントでは、鋼材を配置して枠状に結合した鋼殻体と、鋼殻体の内側空間部に充填された耐火コンクリートと、鋼殻体の熱源側となる部分を被覆した耐火被覆材とを備えていることを特徴としている。
本発明では、耐火セグメントが組み立てられたシールド内全面にわたって耐火被覆材と耐火コンクリートとで被覆されていることになる。このため、火災時に高熱により耐火セグメントにおける鋼製部分の強度低下やコンクリート部分の劣化を防止することができる。また、耐火被覆材は、耐火セグメントの熱源側となる鋼殻体の内周面に被覆されるため、従来のようにシールド内周面全体にわたって被覆する場合と比較して被覆面積を小さくすることができる。したがって、材料費を低減させることができる。
【0006】
また、本発明に係る耐火セグメントでは、耐火被覆材は、加熱発泡性を有する耐火シート又は耐火塗料からなる耐火薄膜部材であることが好ましい。
本発明では、火災時などでトンネル内が例えば200度以上の高熱になったときに、耐火被覆材が発泡することによって膨張して厚さを増大させて断熱効果を得ることができる。これにより耐火被覆材の裏面側の鋼殻体が保護される。また、例えば1〜7mm程度の厚さの耐火被覆材を使用することができ、トンネルの掘削径を大きくしないことが可能となり、さらに経済性を向上できる。
【0007】
また、本発明に係る耐火セグメントでは、耐火被覆材は、耐火パネルであることが好ましい。
本発明では、鋼殻体の熱源側に耐熱繊維材料などから形成される耐火パネルで覆うことで、トンネル内の高熱時に鋼殻体を保護することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の耐火セグメントによれば、耐火被覆材は、セグメントの熱源側となる鋼殻体の内周面側に被覆されるため、従来のようにシールド内周面全体にわたって被覆する場合と比較して被覆面積を小さくすることができる。したがって、材料費を低減させることができる。
また、トンネル内の火災時に高熱を受ける耐火セグメントの内周面において、鋼製部分に備えた耐火被覆材とコンクリート部分に使用された耐火コンクリートとを組み合わせることで、従来の合成セグメントとほぼ同等の厚さの耐火セグメントを実現でき、耐火シールドトンネル築造における耐火対策費の削減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の耐火セグメントの第一の実施の形態について、図1乃至図4に基づいて説明する。
図1は本発明の第一の実施の形態による耐火セグメントを示す一部破断斜視図、図2は図1に示す耐火セグメントのA−A線断面図、図3は同じくB−B線断面図、図4は本発明の第二の実施の形態による耐火セグメントを示す図である。
【0010】
本第一の実施の形態による耐火セグメント1は、耐火構造を有した合成セグメントであり、掘削したシールドトンネルの内側で周方向及び軸方向に組み立てられている。
図1乃至図3に示すように、この耐火セグメント1は矩形で円弧板形状をなしており、この各四辺に鋼材を配置して枠状に結合した鋼殻体2と、鋼殻体2の内側空間部に充填された耐火コンクリート3と、鋼殻体2の火災時などで火炎側(熱源側)となる内周面2a側に露出する部分を被覆する加熱発泡性を有した耐火薄膜部材4(耐火被覆材)とから概略構成されている。
【0011】
図2及び図3に示すように、鋼殻体2の各側面は、断面H型状をなし、中央リブ2bを耐火セグメント1の厚さ方向に配置させている。そして、鋼殻体2の地山側に配されることになる外周面2cには、鋼殻体2に囲まれた開口を塞ぐようにトンネル周方向に湾曲した薄板状のスキンプレート5が設けられている。このスキンプレート5は、その周部5aが鋼殻体2の外周面2cに溶接などの固着手段によって水密に固定されている。
【0012】
図1乃至図3に示す耐火コンクリート3は、例えばコンクリート内に火災時の熱で溶融又は消失するポリアセタール系繊維やポリプロピレン系繊維などの熱溶融性の合成樹脂繊維を混入した耐爆裂性のコンクリートを使用する(例えば、特開2004−323330号公報の特許文献に記載されている耐火コンクリート)。このような材料を使用した耐火コンクリート3によると、火災時の高熱でコンクリート内に微細な空洞をつくり、この空洞が表層の熱膨張や内部で膨張した気体の圧力を緩和する役割を果たし、表層の剥離、飛散を防止させることができる。
なお、耐火コンクリート3は、工場のコンクリートプラントなどで合成樹脂繊維を混入することができる。
【0013】
図1乃至図3に示すように、耐火薄膜部材4は、層の厚さが例えば1〜7mm程度(この厚さ葉、構造物毎あるいは構造物の発注者毎に要求する耐火性能が異なるので、一義的には決められないが、ほぼこの範囲内に収まる。)の薄膜状をなしている。その材料には、シート状に形成された耐火シート又は耐火性を有する耐火塗料などが使用されている。前者の耐火シートには例えばアクリル樹脂系の材料(例えば、SKタイカシート(登録商標)、エスケー化研社製が使用できる)が使用され、後者の塗布させるものには例えばエポキシ樹脂系の材料(例えば、ナリファイア・システムE、ナリファイア社製が使用できる)やポリ燐酸アンモニウムを主成分とした材料(例えば、タイカリット(登録商標)、日本ペイント社製が使用できる)が使用されている。
また、耐火薄膜部材4は、耐火セグメント1の製造時に予め工場などで貼り付け又は塗布させておく。
【0014】
図1に示す耐火薄膜部材4は、火災時などでトンネル内が例えば200度以上の高熱になったときに、発泡することによって膨張して厚さを増大させて断熱効果が得られるという特徴がある。これにより耐火薄膜部材4の裏面側の鋼殻体2が保護される。
また、耐火薄膜部材4は、トンネルでは厚さが3〜5mm程度と見込まれることから、規定された内部空間の許容値を超えるようなことはほとんどなく誤差の範囲として取り扱うことが可能である。
さらに、耐火薄膜部材4は、トンネル内で組み立てられる隣接する耐火セグメント1同士の間に少々の隙間(目地)があっても、高熱時に耐火薄膜部材4の発泡によりこの隙間が塞がれるため、耐火機能としての目地処理を不要とすることができる。
【0015】
上述した本第一の実施の形態による耐火セグメントでは、耐火薄膜部材4は、シールド内周面に露出する鋼殻体2の火炎側の内周面2aのみに被覆するため、従来のようにシールド内周面全体にわたって被覆する場合と比較して被覆面積を小さくすることができる。したがって、材料費を低減させることができる。
なお、耐火薄膜部材4の被覆範囲であるが、図2及び図3に示すように鋼殻体2の内周面2aだけでなく、耐火コンクリート3部分にまで張り出して被覆するのがよい。鋼殻体2の内周面上だけであると、その内側の耐火コンクリート3部分から火災による熱が鋼殻体2のフランジ部分に伝わり鋼殻体2の耐力低下を起こすおそれがある。例えば、RABT曲線による加熱をコンクリート表面に与えた場合のコンクリート内部の温度が鋼材の耐力低下を起こす温度として300℃〜350℃程度になる厚さは6cm程度であるので、この厚さ程度の長さ分耐火コンクリート3に張り出して被覆すればよい。
この場合、耐火薄膜部材4とコンクリートとの付着性が悪ければ、図2及び図3のように双方の部材に付着性のよい例えば鉄板7等の介在部材を鋼殻体2のフランジから張り出して取り付け、この鉄板7上に被覆すればよい。
また、耐爆裂性のコンクリートをなす耐火コンクリート3に混入されている熱溶融性の合成樹脂繊維は材料費が安く、またコンクリートへの混入作業も安価であることから、経済性を向上させることができる。
このように、トンネル内の火災時に高熱を受ける耐火セグメント1の内周面1aにおいて、鋼製部分に備えた耐火薄膜部材4とコンクリート部分に使用された耐火コンクリート3とを組み合わせることで、従来の合成セグメントとほぼ同等の厚さの耐火セグメント1を実現でき、耐火シールドトンネル築造における耐火対策費の削減を図ることができる。
【0016】
また、本第一の実施の形態による耐火セグメントでは、耐火セグメント1を予め工場で製造して、トンネル内では耐火セグメント1を組み立てるだけで耐火シールドトンネルを築造できる。このため、従来のように後施工で行っていた耐火パネルの設置作業が不要となり、工事全体の工期短縮を図ることができる。
さらに、本第一の実施の形態による耐火セグメントでは、厚さの薄い耐火薄膜部材4を使用することで、トンネルの掘削径を大きくしないですむので経済的である。
ところで、前記の実施の形態では、耐火コンクリート3の厚さを変えないことで説明したが、トンネルで規定された内部空間の許容値を超えない範囲で熱源側に耐火コンクリート3の厚さを増すことができる。そうすれば、合成セグメントの構造として、高熱を受けた後でもより安全側となる。
【0017】
次に、本発明の第二の実施の形態について、図4に基づいて説明するが、上述の第一の実施の形態と同一又は同様な部材、部分には同一の符号を用いて説明を省略し、第一の実施の形態と異なる構成について説明する。
図4は本発明の第二の実施の形態による耐火セグメントを示す図であって、(a)は第一の実施の形態における図2と同様な図、(b)は同じく図3と同様な図である。
第二の実施の形態は、図4に示すように第一の実施の形態の耐火薄膜部材4(図1参照)に代えて耐火パネル6を使用したものである。
【0018】
図4に示す耐火パネル6も、耐火薄膜部材4(図1参照)と同様に鋼殻体2の内周面2aに被覆させるものである。この耐火パネル6には、例えば、特開2002−371797号公報の特許文献に記載されている耐火材、即ち厚さが略2〜3cm程度で、セラミックス、ファイバー繊維などの耐熱繊維からなる耐火パネル6を使用する。
この耐火パネル6は、耐火薄膜部材4(図1乃至図3参照)と比較して厚さがあるため、耐火セグメント1の内周面1aに段差ができないように、この耐火パネル6の内面6aと同一面まで耐火コンクリート3が充填されている。このようにすることで、美観に配慮することができる他、合成セグメントの構造として安全側になる。なお、耐火コンクリート3を鋼殻体2の内周面2aの同一面として、耐火パネル6を突出した状態としておいてもよい。
この場合、鋼殻体2の耐力低下の問題が出てくるが、前記第一の実施の形態と同様に、耐火パネル6を耐火コンクリート3部分にまで張り出して被覆すればよい。
【0019】
以上、本発明による耐火セグメントの第一及び第二の実施の形態について説明したが、本発明は上記の第一及び第二の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、第一及び第二の実施の形態では耐火薄膜部材4及び耐火パネル6を予め工場で貼り付け又は塗布しておき、一体化した耐火セグメント1をトンネル内で組み立てているが、必ずしもこのような方法に限定されることない。例えば、第一の実施の形態で示した耐火シートや耐火塗料などの耐火薄膜部材4のように、シールド施工の後施工としても工期への影響が少なければ現場で行ってもかまわない。
また、第一及び第二の実施の形態では耐火セグメント1の内側空間部全域に耐火コンクリート3を充填させているが、少なくとも耐火セグメント1の内周面1aから所定の厚さの領域が耐火コンクリート3であればよく、例えば、耐火セグメント1の外周側は普通コンクリートを使用してもよい。これにより、耐火コンクリート3に混入する合成樹脂繊維の使用量を削減できさらなるコストの低減が図れる。
また、第一及び第二の実施の形態では耐火セグメント1の形状を円弧板としているが、この形状に限られることはなく、平板状等その形状は構築する構造体の形状に合わせたものにすればよい。そして、用途にしてもトンネル覆工に限られるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の本発明の第一の実施の形態による耐火セグメントを示す一部破断斜視図である。
【図2】図1に示す耐火セグメントのA−A線断面図である。
【図3】図1に示す耐火セグメントのB−B線断面図である。
【図4】本発明の第二の実施の形態による耐火セグメントを示す図であって、(a)は第一の実施の形態における図2と同様な図、(b)は同じく図3と同様な図である。
【符号の説明】
【0021】
1 耐火セグメント
1a 内周面
2 鋼殻体
2a 内周面
3 耐火コンクリート
4 耐火薄膜部材(耐火被覆材)
5 スキンプレート
6 耐火パネル(耐火被覆材)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材を配置して枠状に結合した鋼殻体と、
該鋼殻体の内側空間部に充填された耐火コンクリートと、
前記鋼殻体の熱源側となる部分を被覆した耐火被覆材と、
を備えていることを特徴とする耐火セグメント。
【請求項2】
前記耐火被覆材は、加熱発泡性を有する耐火シート又は耐火塗料からなる耐火薄膜部材であることを特徴とする請求項1に記載の耐火セグメント。
【請求項3】
前記耐火被覆材は、耐火パネルであることを特徴とする請求項1に記載の耐火セグメント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−32215(P2007−32215A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−221053(P2005−221053)
【出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】