説明

耐火セグメント

【課題】爆裂防止性能のみならず曲げ靱性にも優れる耐火セグメントを実現する。
【解決手段】本発明の耐火セグメントは、ポリアセタール繊維(PA繊維)と、ポリエチレンテレフタレート繊維(PET繊維)とを配合したことを特徴とする。PET繊維としては、ペットボトル等のPET製品の廃材から再生した再生PET繊維を用いることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシールドトンネルにおける覆工体としてのコンクリート製のセグメント、特に優れた爆裂防止性能を有する耐火セグメントに関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、シールドトンネルの構築に際して使用するコンクリート製のセグメントには充分な耐火機能が要求され、特に火災時に爆裂を生じることのないように優れた爆裂防止性能を有するものであることが必要である。
そのような耐火性能を有するコンクリート製のセグメントを一般に耐火セグメントというが、コンクリートの爆裂を防止してその耐火性能を向上させるためにはたとえば特許文献1〜3に示されるように各種の合成繊維を配合することが有効であることが知られており、したがって耐火セグメントにそのような繊維を配合すれば火災時の爆裂防止性能を充分に向上させることができると考えられる。
【0003】
一方、昨今においては施工性や経済性の追求からコンクリート製のセグメントの大型化や薄肉化、軽量化が進められているが、従来のセグメントを単に薄肉化し軽量化することでは施工時に受ける様々な施工荷重によってクラックや割れ、欠けが生じる懸念があることから、セグメントの大型化や薄肉化、軽量化に当たってはそのための対策が不可欠である。
コンクリートのクラックや割れ、欠けを防止するためには曲げ靱性を高めることが必要であり、そのためにはたとえば特許文献4〜5に示されるように各種の補強繊維を配合することが有効であることが知られており、したがってそれらの繊維をコンクリート製のセグメントに配合すれば曲げ靱性を向上させて薄肉化や軽量化に伴う損傷を防止できると考えられる。
【特許文献1】特開平6−321606号公報
【特許文献2】特開2003−112954号公報
【特許文献3】特開2003−160366号公報
【特許文献4】特開平3−228858号公報
【特許文献5】特開2001−302297号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようにコンクリートの爆裂性能および曲げ靱性を向上させるための技術として各種の繊維を配合することは提案されてはいるものの、現時点ではそれらの技術を耐火セグメントに適用することまでは考えられておらず、そのための具体的かつ有効適切な手法は確立されていないのが実状である。
【0005】
上記事情に鑑み、本発明は爆裂防止性能のみならず曲げ靱性にも優れる耐火セグメントを実現することを目的として、爆裂防止性能を犠牲にすることなく曲げ靱性をも向上させることのできる繊維の最適な組合せを提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の耐火セグメントは、ポリアセタール繊維(PA繊維)と、ポリエチレンテレフタレート繊維(PET繊維)とを配合したことを特徴とするものである。
PET繊維としては、ペットボトル等のPET製品の廃材から再生した再生PET繊維を用いることが可能であり、本発明においてはそのような再生PET繊維を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明の耐火セグメントによれば、PA繊維が主として爆裂防止機能を発揮し、PET繊維が主として曲げ靱性を向上させる機能を発揮するが、PET樹脂はPA繊維による爆裂防止機能を補完する機能も有し、したがってそれらPA繊維とPET繊維との相乗作用により全体として優れた爆裂防止性能と曲げ靱性向上効果が得られる。特に、PET繊維がPA繊維の機能を補完することから、相対的に高価なPA繊維の一部をより安価なPET繊維に置換することが可能であり、したがってそれら繊維の組合せにより耐火セグメントのコスト増を軽減することができる。
また、PET繊維として再生PET繊維を使用すれば大量の廃ペットボトルのリサイクルを促進できる点でも合理的であり有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明において用いるPET繊維としては従来一般の特性のものを任意に採用可能であるが、特に表1に示すものが好適に採用可能である。また、PA繊維としては、チョップドストランド製品であり、化学式[-CH2O-]n[-CH2CH2O-]m、比重1.41、引張強度0.068KN/mm2、弾性係数2.74KN/mm2、融点165℃のものを用いている。
【表1】

【0009】
本発明において使用するPET繊維は、比重が1.32であることからフレッシュコンクリート中での分散性に優れるものであり、また引張強度や弾性係数も優れていてコンクリートに対する付着も良好であり、耐薬品性にも優れているので万一表面に露出しても特に支障はなく、コンクリートへの配合材料として好適な基本特性を有するものである。
特に融点が253℃であるので火災時には比較的早期に溶融してしまい、したがってPA繊維とともに爆裂防止機能を発揮し得るものである。
勿論、PET繊維として廃PETボトルからの再生繊維を使用することにより、環境負荷低減にも寄与し得るものである。一試算によれば、例えば10km程度の延長の道路トンネルの構築に本発明の耐火セグメントを適用する場合には再生PET繊維の所要量は約600tonにもなり、これは500mlペットボトル約2,100万本に相当する量となるので、そのような大量の廃ペットボトルのリサイクルに寄与できることになる。
【0010】
本発明の耐火セグメントの配合例を表2に示す。
No.1(C-0-0)は比較例であってこれにはPET繊維もPA繊維も配合していない。No.2(C-3-1)はPET繊維を0.3vol%、PA繊維を0.1vol%配合したものであり、No.3(C-5-1)はPET繊維を0.5vol%、PA繊維を0.1vol%配合したものである。
なお、本発明において用いるPA繊維は従来より爆裂防止性能確保のためにコンクリート部材に配合されることがあるが、その場合の配合量は0.2%vol程度とすることが従来一般的であってそれ以下では充分な爆裂防止効果が得られないとされているが、本実施形態ではPA繊維の配合量を0.1vol%と従来の半分程度にしている点が特徴的である。
【表2】

【0011】
上記配合による各サンプルに対する練り混ぜ試験によりワーカビリティと分散性の確認をしたところ、No.3(C-5-1)のものにおいてわずかにボール状に固まる場合があるものの、No.2(C-3-1)およびNo.3(C-5-1)のいずれもワーカビリティと分散性は良好であることが確認できた。
【0012】
PA繊維およびPET繊維の配合による曲げ靱性向上効果を確認するべく、各サンプルに対する曲げ靱性試験(曲げタフネス試験)を行った結果を図1に示す。
この試験は「繊維補強覆工コンクリートの曲げ靱性試験方法 JHS 730-2003」に基づくもので、JSCE-F552の規定に基づいて作成したサンプル(寸法150×150×530mm)に対して載荷して載荷点変位が3mmまでの荷重−たわみ曲線より曲げ靱性係数を求めるものであり、品質管理基準としてはたわみ3mmまでの荷重が4.1kNを下回らないこと、および曲げ靱性係数が1.40N/mm2を下回らないことの2点を満足する必要がある。
その結果から、No.2(C-3-1)およびNo.3(C-5-1)のいずれにおいても上記の品質管理基準を充分に満足し、施工時に様々な荷重を受けることによるクラックや欠け、割れの発生を防止するに充分な曲げ靱性が得られ、さらには地震後の不測の荷重状態における安全性をも確保し得る性能を有することが確認できた。
【0013】
なお、PA繊維およびPET繊維配合によるひび割れ幅抑制効果も確認するべく、実大サンプルに対する曲げ実験を行った結果を図2に示す。これにより、同一荷重におけるひび割れ幅はPET繊維が多いほど小さくなる傾向が見られ、PET繊維の配合によるひび割れ幅抑制効果が確認できた。
【0014】
さらに、各サンプルに対する耐火実験を行い、その表面の剥離の状態から爆裂発生の有無を観察したところ、繊維を配合していない比較例No.1(C-0-0)では全面的に激しく爆裂が起こり表面全体が剥落したのに対し、No.2(C-3-1)では直径約150mm、深さ約5mmのわずかな剥落が生じた程度であり、No.3(C-5-1)では剥落は生じなかった。
このことから、PA繊維の配合量が従来の半分程度のわずか0.1vol%であっても、PET繊維を配合することで充分なる爆裂防止性能が得られることが確認でき、その結果からPET繊維も爆裂防止機能を発揮してPA繊維の爆裂防止性能を補完することが裏付けられ、しかもそのために必要なPET繊維の配合量はわずか0.3vol%程度で充分であることが確認できた。
【0015】
以上のように、本発明の耐火セグメントは0.1vol%程度のPA繊維と、0.3〜0.5vol%程度のPET繊維を配合することにより、優れた爆裂防止性能と曲げ靱性を有するものであり、したがって施工時のクラックや欠け、割れの発生を防止しつつ薄肉化と軽量化を実現でき、その結果としてトンネル施工に関わる作業効率向上とコスト削減に寄与し得るものである。
特に、PET繊維の配合により曲げ靱性を向上させることができるばかりでなく、それがPA繊維を補完して爆裂防止性能向上にも寄与することから、爆裂防止性能を犠牲にすることなくPA繊維の配合量を削減することが可能であり、しかも高価なPA繊維に代えて安価な再生PET繊維を用いることが可能であるから、この点においても充分なるコスト削減効果が得られる。
勿論、上記の効果はPET繊維とPA繊維とを組合せて用いることで初めて得られる本発明に特有の効果である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態である耐火セグメントの曲げ靱性向上効果を確認するための試験結果を示す図である。
【図2】同、ひび割れ幅抑制効果を確認するための試験結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアセタール繊維とポリエチレンテレフタレート繊維とを配合したコンクリートにより形成されてなることを特徴とする耐火セグメント。
【請求項2】
請求項1記載の耐火セグメントであって、コンクリートに配合されるポリエチレンテレフタレート繊維は、ペットボトル等のポリエチレンテレフタレート樹脂成型品の廃材から再生された再生ポリエチレンテレフタレート繊維であることを特徴とする耐火セグメント。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−221753(P2009−221753A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−67689(P2008−67689)
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【出願人】(390022747)株式会社サンゴ (5)
【Fターム(参考)】