説明

耐火パネル、およびこれを用いたトンネル用耐火セグメントと高耐火性トンネル

【課題】複雑な構造を必要とせず、設置精度が低くても優れた耐火性を有する耐火パネルと、これを用いたトンネル用耐火セグメントおよび高耐火性トンネルを提供する。
【解決手段】 耐火性基板の側面にリン酸化合物を主成分とする耐火性の高温膨張層を有することを特徴とする耐火パネルであって、好ましくは、高温膨張層が200〜400℃の高温下で2〜30倍の発泡倍率を有し、また、該耐火パネルを、耐火パネル側面相互の間隙が高温膨張後に3mm未満になるように、セグメント表面に設置したことを特徴とするトンネル用耐火セグメント、および該セグメントによってトンネル内表面を形成した高耐火性トンネル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐火性に優れた耐火パネルと、これを用いたトンネル用耐火セグメントと高耐火性トンネルに関する。より詳しくは、本発明は、複雑な構造を必要とせずに、設置精度が低くても優れた耐火性を有する耐火パネルと、これを用いたトンネル用耐火セグメントおよび高耐火性トンネルに関する。
【背景技術】
【0002】
道路トンネル、鉄道トンネル等のトンネルの主な材質は、コンクリート、鋳鉄、鋼材又はこれらの2種以上を組み合わせたものである。特に、都市部においては、セグメントを組立て、リング構造体としてトンネルを支保するシールド工法により構築されるシールドトンネルが多く採用されている。トンネル内で火災が発生すると、火災により発生する熱によりトンネル構造体の強度が低下する虞があり、場合によっては長期間トンネルの使用ができなくなる虞もある。このため、トンネル内表面に多数の耐火パネルを設置することが提案されている。
【0003】
しかし、耐火パネルを相互に突き合わせた隙間が3mm以上であると、この隙間から火炎が侵入して耐火性が大幅に低下するため、耐火パネル相互の隙間が3mm未満となる高い精度で設置することが求められる。ところが、トンネル内表面は一般に平面のみからなることは少なく湾曲面が多いために、このような精度で耐火パネルを設置するには手間がかかり、施工効率が大幅に低下する。
【0004】
そこで、耐火パネル相互の隙間を耐火性目地材で閉塞ないし覆う方法が知られている(特許文献1、2)。しかし、耐火板相互の隙間を目地材で覆う方法も手間がかかり、施工効率が低く経済性も悪い。一方、耐火パネルの側面に段差を形成して、耐火パネルの側面が相互に重なるようにして隙間ができないようにする方法もあるが、耐火パネル側面の加工が面倒であり、コスト高になる。
【0005】
また、パネルや管などの端面に、未焼成バーミキュライト、ホウ酸塩類、およびケイ酸塩類の一種または二種以上からなる熱膨張耐熱材を設けた耐熱建材が知られている(特許文献3)。しかし、200〜350℃程度の加熱下では未焼成バーミキュライトの膨張は小さく耐火性は乏しい。また、未焼成バーミキュライトなどは水ガラスや酢酸ビニル樹脂などの結着剤によって付着されるが、高温下で結着性が失われて未焼成バーミキュライトなどが脱落するなどの致命的な問題を生じる場合がある。
【特許文献1】特開2002−349196号公報
【特許文献2】特開2002−309897号公報
【特許文献3】特公昭56−40225号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来のトンネルなどに用いる耐火パネルおよびその施工方法における上記問題を解決したものであり、複雑な構造を必要とせずに、設置精度が低くても優れた耐火性を有する耐火パネルと、これを用いたトンネル耐火性セグメントおよび耐火性トンネルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の構成を有する耐火パネルおよびこれを用いたトンネル用耐火セグメントおよび高耐火性トンネルに関する。
(1)耐火性基板の側面にリン酸化合物を主成分とする耐火性の高温膨張層を有することを特徴とする耐火パネル。
(2)耐火性の高温膨張層が200〜400℃の高温下で2〜30倍に膨張する上記(1)の耐火パネル。
(3)耐火性の高温膨張層がリン酸化合物を主成分とする耐火塗料および/または耐火シートによって形成されている上記(1)または(2)の耐火パネル。
(4)上記(1)〜(3)の何れかに記載する耐火パネルを、耐火パネル側面相互の間隙が高温膨張後に3mm未満になるように、セグメント表面に設置したことを特徴とするトンネル用耐火セグメント。
(5)上記(4)のトンネル用耐火セグメントにおいて、耐火パネル側面相互の設置間隙が30mm以内であり、高温膨張後の耐火パネル側面相互の間隙が3mm未満になる耐火性の高温膨張層を有する耐火パネルを用いたトンネル用耐火セグメント。
(6)上記(1)〜(3)の何れかに記載する耐火パネルをトンネル内表面に設けたことを特徴とする高耐火性トンネル。
(7)上記(4)または(5)のトンネル用耐火セグメントによってトンネル内表面を形成した高耐火性トンネル。
【発明の効果】
【0008】
本発明の耐火パネルは、耐火性基板の側面に耐火性の高温膨張層を有するので、高温下で耐火パネルの側面が膨張して耐火パネル相互の側面の隙間を3mm未満に閉塞し、耐火性を高める。また、この高温膨張層はリン酸化合物を主成分とし、耐火性基板の側面に設けられているので、高温下で脱落するトラブルを生じる虞がなく、安定かつ効果的に膨張するので、信頼性の高い耐火効果を得ることができる。
【0009】
さらに、本発明の耐火パネルは耐火性基板の側面に高温膨張層を有するので、施工時の耐火パネル相互の隙間が大きくても、基板側面部が高温膨張して耐火パネル相互の側面の間隙を3mm未満に閉塞することができるので、耐火パネルの施工精度を緩和することができ、施工が容易である。
【0010】
本発明の耐火パネルは、複雑な構造を必要とせず、かつ耐火パネル相互の側面の隙間が3mm以上の低い施工精度で設置しても高い耐火性能を発揮するので、トンネル用の耐火パネルとして好適である。具体的には、本発明の耐火パネルはトンネル内表面を形成するセグメント表面に設置して用いればよい。本発明の耐火パネルを用いた耐火セグメントおよび高耐火性トンネルは、施工および構築が容易かつ安価であり、またトンネル内で火災が発生しても高い耐火性能を有するので、早期に復旧可能である。
【0011】
さらに、本発明の耐火パネルはパネル相互間に隙間を有しているので、地震等によりトンネルが多少変形しても耐火パネル相互間に応力が負荷し難く、耐火パネルが損傷し難い。このため、耐震性も高い高耐火性トンネルを構築することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施例と共に具体的に説明する。
本発明の耐火パネルは、耐火性基板の側面にリン酸化合物を主成分とする耐火性の高温膨張層を有することを特徴とする。この耐火パネルの模式的な断面図を図1に示す。図中、1は耐火性基板、2は高温膨張層、3は取付金具、4はトンネル構造体(セグメント)、5はセグメント内表面(トンネル内表面)、6はセグメントの地山側表面、7は耐火パネル側面相互の隙間(目地の開き)、10は耐火パネルである。
【0013】
耐火パネル10の高温膨張層2はリン酸化合物を主成分として含む。リン酸化合物は火炎に曝されたときなどの高温下で発泡膨張し、この発泡により形成される耐火層が強固であり、火炎による損傷を受け難く、耐火性を長時間保持できる。リン酸化合物としては、例えば、第一リン酸アンモニウム、第二リン酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸アミド、リン酸メラミンなどを用いることができる。上記高温膨張層は、リン酸化合物以外に、エポキシ樹脂,アクリル樹脂,メラミン樹脂や酢酸ビニル樹脂等のビヒクル、アクリル,メラミン,尿素,酢酸ビニル等のビヒクルの原材料、炭水化物、多価アルコール、顔料、染料、消泡剤、増粘剤、繊維等から選ばれる一種又は二種以上を、本発明の効果を損なわない範囲で含有することができる。
【0014】
本発明の耐火パネル10について、火災などによる高温下でパネル側面の上記高温膨張層2が膨張した態様を図2に示す。図示するように、本発明の耐火パネル10は、パネル側面の耐火性高温膨張層2が高温下で膨張し、耐火パネル相互の側面の隙間7を3mm未満に閉塞することができるので、火炎が耐火パネル10の裏側に入り込まず、従って、優れた耐火性を発揮する。
【0015】
リン酸化合物を主成分とする上記高温膨張層2は、200〜400℃の高温下で、加熱前の体積に対する加熱後の体積比率(以下「発泡倍率」と云う)が、2〜30倍となるものが好ましく、5〜20倍となるものがより好ましい。発泡倍率が2倍未満では耐火パネルの設置精度を高くする必要があり、発泡倍率が30倍より大きいと発泡後の内部空隙の割合が過剰になるので、火炎によって損傷を受け易くなり、耐火性を長時間保持するのが難しくなる。
【0016】
上記耐火性高温膨張層2は耐火塗料および/または耐火シートによって形成することができる。具体的には、例えば、リン酸化合物を含む耐火塗料を耐火パネルの側面に所定の層厚になるように塗布し、あるいはリン酸化合物を含む所定厚さの耐火シートを耐火パネルの側面に貼り付けて上記高温膨張層2を形成する。
【0017】
上記高温膨張層2の厚みは、その発泡倍率、耐火パネルの設置精度などに応じて定めれば良い。また、上記高温膨張層2は必ずしも耐火パネル側面の全面に設けなくても良く、発泡膨張の程度に応じて耐火パネルの側面の一部に設けても良い。
【0018】
本発明の耐火パネル10の基板1は、耐火性を有するものであれば良く、組成、形状、大きさなどは限定されない。例えば、珪酸カルシウム板、セラミックス製耐火板、不燃性石膏ボード、耐火繊維成形板、無定形耐火材成形板、これら二種以上からなる板材などを用いることができる。また、これらに金属板や仕上げ材を積層したものでも良い。上記無定形耐火材の成形板としては、例えば、太平洋マテリアル社製「フェンドライト」(商品名)等の無定形の耐火被覆材に鉄筋や金属性網等を内在させた板を用いることができる。
【0019】
上記耐火パネル10を、耐火パネル側面相互の間隙7が高温膨張後に3mm未満になるように、セグメント内表面5に設置することによって、耐火性に優れたトンネル用耐火セグメントを形成することができる。具体的には、高温膨張層2の発泡倍率に従って、高温膨張後の耐火パネル側面相互の間隙7が3mm未満になるように、耐火パネル側面相互の設置間隙を定めれば良い。例えば、高温膨張層2の発泡倍率が2〜30倍であるとき、耐火パネル10を30mm以内の設置間隔で耐火セグメント10に取り付ければ良い。
【0020】
本発明の耐火パネル10を、耐火パネル側面相互の間隙7が高温膨張後に3mm未満になるように、トンネル内表面に設けることによって高耐火性のトンネルを構築することができる。トンネル内表面に耐火パネルを設置する手段としては、トンネル内表面を形成するコンクリート表面に耐火パネルをセメントやモルタル、その他の耐熱性接着剤によって貼り付けても良く、または取付金具やセラミックス製取付具を用いてコンクリート面に固定しても良い。あるいは、セグメント表面に本発明の耐火パネルを設置した上記トンネル用耐火セグメント4を用いてトンネル内表面を形成しても良い。耐火パネル10をセグメント4に取り付ける手段は限定されない。取付金具3やセラミックス製取付具を用いても良く、耐熱性接着剤で貼り付けても良い。また、トンネル内表面に設置する時期も特に限定されない。トンネル構築後にトンネル内表面に設置しても良く、セグメントの内表面側に予め耐火パネルを装着しておいても良い。
【0021】
耐火パネル側面相互の間隙が高温膨張後に3mm未満になるように本発明の耐火パネルを内表面に設けたトンネルは、火災などの高温下において、耐火パネル側面が膨張して耐火パネル相互の間隙を閉塞するので、火炎が耐火パネルの裏側に入り込まず、従って、優れた耐火性を発揮する。
【実施例】
【0022】
以下、本発明の実施例を比較例と共に示す。
〔実施例〕
耐火性基板の側面に、リン酸化合物を主成分とする組成物を塗布して耐火性の高温膨張層を有する耐火パネルを製造した。この耐火パネルをコンクリート製模擬セグメント接合部の内表面側に設置した試験体を作製した。作製した試験体を、加熱曲線としてトンネル内火災を想定したRABT加熱曲線(最高温度までの到達時間;発火5分後,最高温度1200℃で60分間保持)に基づいて耐火試験を行い、火炎に曝して耐火性を調べた。この結果を耐火パネルの製造条件、設置条件と共に表1に示した。このとき用いた高温膨張層は、ポリリン酸アンモニウム、多価アルコール及びアニリンを含有し、400℃における発泡倍率が20倍の耐火塗料を塗布することにより形成した。なお、表1中の「フェンドライト+セメント板」、「フェンドライト+石膏ボード」と記載したA5およびA6は、それぞれ耐火性基板として、無定形の耐火被覆材(太平洋マテリアル社製品、商品名フェンドライト)と、セメント板または石膏ボードとを積層した板を用いた。
【0023】
〔比較例〕
高温膨張層の材料として、未焼成バーミキュライト、ホウ酸塩、ケイ酸塩を用いた以外は実施例と同様の条件下で耐火パネルを製造し、コンクリート製セグメント模擬接合部の内表面側に設置し、その耐火性を調べた。この結果を表1に示した。このとき用いた高温膨張層は、以下のものを塗布することにより形成した。
B1:未焼成バーミュキライトとエポキシ樹脂の混合物。
B2:四ホウ酸ナトリウムとエポキシ樹脂の混合物。
B3:水ガラス(珪酸ナトリウム水溶液)と普通ポルトランドセメント(主成分;珪酸カルシウム)の混合物。
B4:高温膨張層は無し。
【0024】
表1に示すように、ポリリン酸アンモニウム、多価アルコール及びアニリンを含有し、400℃における発泡倍率が20倍の耐火塗料を塗布することにより形成した高温膨張層を耐火性基板の側面に有する耐火パネルを用いた本発明の実施例A1〜A6は何れも耐火パネル側面部分が火炎高温下において膨張し、耐火パネル側面相互の間隙が閉塞された。この結果、模擬セグメント接合部の内表面側の表面温度は350℃未満であり、優れた耐火性を示した。一方、従来の耐火パネルを用いた比較例は何れもパネル側面相互の隙間が閉塞されず、従って、模擬セグメント接合部付近の内表面側の表面に火炎が入り込み、表面温度が350℃以上になり、耐火性が不充分であった。
【0025】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の耐火パネルの設置状態を示す模式断面図(火災前)
【図2】本発明の耐火パネルの設置状態を示す模式断面図(火災後)
【符号の説明】
【0027】
1−耐火性基板、2−高温膨張層、3−取付金具、4−トンネル構造体(セグメント)、5−セグメント内表面(トンネル内表面)、6−セグメントの地山側表面、7−耐火パネル側面相互の隙間(目地の開き)、10−耐火パネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火性基板の側面にリン酸化合物を主成分とする耐火性の高温膨張層を有することを特徴とする耐火パネル。
【請求項2】
耐火性の高温膨張層が200〜400℃の高温下で2〜30倍に膨張する請求項1の耐火パネル。
【請求項3】
耐火性の高温膨張層がリン酸化合物を主成分とする耐火塗料および/または耐火シートによって形成されている請求項1または2の耐火パネル。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載する耐火パネルを、耐火パネル側面相互の間隙が高温膨張後に3mm未満になるように、セグメント表面に設置したことを特徴とするトンネル用耐火セグメント。
【請求項5】
請求項4のトンネル用耐火セグメントにおいて、耐火パネル側面相互の設置間隙が30mm以内であり、高温膨張後の耐火パネル側面相互の間隙が3mm未満になる耐火性の高温膨張層を有する耐火パネルを用いたトンネル用耐火セグメント。
【請求項6】
請求項1〜3の何れかに記載する耐火パネルをトンネル内表面に設けたことを特徴とする高耐火性トンネル。
【請求項7】
請求項4または5のトンネル用耐火セグメントによってトンネル内表面を形成した高耐火性トンネル。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−207302(P2006−207302A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−22353(P2005−22353)
【出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【出願人】(501173461)太平洋マテリアル株式会社 (307)
【Fターム(参考)】