説明

耐火保護のための自己セラミック化組成物

本発明は、火災状況において耐火セラミックを生成するための自己セラミック化組成物であって、
(i)ミネラルシリケートを少なくとも10重量%と;
(ii)800℃以下の温度で液相を生成する少なくとも一種の無機ホスフェートを8重量%〜40重量%と;
(iii)有機ポリマーを少なくとも50重量%含むポリマーベース組成物を、自己セラミック化組成物の総重量に対して少なくとも15重量%とを含む組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火災状況下で遭遇される上昇した温度でセラミックを生成することにより機能する耐火組成物(fire barrier composition)に関する。本発明はまた、そのような組成物の調製、並びにこれら組成物を成形し耐火性が要求される物品を形成すること等における使用に関する。本発明は、本発明の特に好ましい実施形態であるケーブル用途に関し記載されるが、本発明組成物はまた、種々の物品に耐火性を付与するために用いることができることが理解されよう。
【背景技術】
【0002】
火災状況における建築材料の耐火性や電力及び通信の維持は、住人の安全と効果的な消火活動に極めて重要である。よって、多くの国々が火災状況における建築物の性能について基準を定めている。例えば、極めて重要な用途のケーブルは、火災状況においても作動し続け電力及び通信を確実に維持することが要求される。これら基準のいくつかを満たすため、ケーブルは、所定時間、所定温度(例えば650、750、950又は1000℃)にまで加熱されたときに、回路完全性を維持している必要がある。また、ケーブルが有効に機能するためには、防火材(fire insulation)は、火災時に遭遇される水ジェットスプレーやガス乱流の影響からの保護をも提供する必要があることも考慮しなくてはならない。
【0003】
また、耐火性付与材料は、火災状況において遭遇する可能性のある上昇した温度に曝露された後、目的の用途に耐えることができる妥当な機械的強度を有し、これによって、火災における一連の事象に伴う機械的衝撃及び/又は力(例えば強いガス流に起因するもの等)が加わったときにも脱落しないことも望まれる。
【0004】
絶縁ケーブルの高温での性能を向上させる一方法は、グラスファイバーで作製しマイカ被覆したテープをケーブルの導電部に巻くことである。製造時にそのようなテープが導電部の周りに巻付けられ、次に、少なくとも一層の絶縁層が適用される。上昇温度への曝露に際して、(一層以上の)外層は分解し脱落するが、グラスファイバーによりマイカは脱落せずに留まる。これらのテープは、火災において回路完全性を維持するために有効であることが判明しているがかなり高価である。更に、導電部の周囲にテープを巻き付けるプロセスは、他のケーブル製造工程に比べ比較的時間がかかる。導電体の周りにテープを巻き付けることでケーブル製造の総工程が伸び更にコストが増大する。よって、ケーブル製造中に(例えば、押出しにより)適用可能な耐火コーティングが、テープの使用を回避できるので望ましい。
【0005】
電気ケーブル等の構造物や要素に耐火性を付与するため、様々な材料が使用されている。シリコーンエラストマーをベースとした組成物の使用が報告されている。しかしながら、シリコーンエラストマーは高価であり比較的機械的性質に劣り、押出し技法等による加工が困難となることもある。更にこれらの組成物は、火への曝露に際してシリコーンエラストマーの有機成分が熱分解又は燃焼された結果、粉末状物質に変わるという問題を伴いがちである。熱分解物又は燃焼によって生成する物質は蒸発し、本来強度が殆どない無機残渣や灰(二酸化ケイ素)が残る。一般に、この残渣は凝集性がない(not coherent)ばかりか自己支持性(self-supporting)もなく、実際に多くの場合、壊れ易く、剥れ易く又は崩れ易いものである。こうした挙動は、受動的耐火保護におけるシリコーンエラストマーの使用に影響を与える。即ち、例えば、電気ケーブルの絶縁材として使用されるシリコーンポリマーは、無機テープや編組体等の物理的支持体又は金属ジャケットで保護され、あるべき位置に保持されなければならない。
【0006】
本発明者らは、各種無機添加剤と組合わされたシリコーンポリマー又は他のポリマーをベースとする材料の中には、火への曝露に際して自身の原形を保持すると共に自己支持性のセラミックを生成するものがあり、更にそれらの内の或るものは、物理的支持体を有しない電気ケーブル絶縁層としての使用が提案されていることを見出した。
【0007】
特許文献1は、シリコーンポリマー−マイカとガラス添加剤とを、組成物の総重量に対してそれぞれ5重量%〜30重量%及び0.3〜8重量%含む耐火組成物を開示している。
【0008】
特許文献2(これらの開示内容を本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する)は、有機ポリマーと、シリケートミネラルフィラーと、媒溶剤(fluxing agent)(または、媒溶剤の前駆体)とを含み、媒溶剤が火災状況から生じる残渣の1〜15重量%となる組成物を開示している。
【0009】
火災中に化学膨張剤の影響下で発泡する無機材料を使用することにより火災等級要件を満たそうとする試みが他の耐火組成物によってもなされている。例えば、ホラセク(Horacek)(特許文献3及び特許文献4)は、火災状況において耐火性ガラスフォームを生成する、ワイヤー及びケーブル用の膨張性ストリップ及びシースを開示している。この膨張性成分は、組成物全体の20〜35重量%を構成する混合物、例えば所定割合のジペンタエリスリトール、メラミン及びポリリン酸アンモニウムの混合物である。ケオフ(Keogh)(特許文献5)は、リン酸アンモニウムとメラミンの50:50混合物によって膨張が提供される、ケーブル等のための膨張性外被を開示している。シュース(Thewes)(特許文献6)とローデンベルク(Rodenberg)ら(特許文献7)は、いずれも発泡剤としてのメラミンの存在により火災状況で起泡する耐火保護材料を開示している。メラミンやペンタエリスリトール等の膨張剤はポリリン酸と反応し、脱水して有機発泡体を提供する過渡的なリン酸エステル種を生成する。
【特許文献1】国際出願PCT/AU03/00968
【特許文献2】国際出願PCT/AU03/01383
【特許文献3】米国特許出願公開第2003/0031818号
【特許文献4】米国特許出願公開第2003/0035912号
【特許文献5】米国特許出願公開第2002/0098357号
【特許文献6】米国特許出願公開第2004/0051087号
【特許文献7】ドイツ出願公開第10302198号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
市販の難燃剤には、リン酸発生剤と、ペンタエリスリトールや炭水化物等の炭化剤(charring agent)と、発泡を促進するメラミン等の剤との混合物が含有されている。所定の割合で混合すると、この組成物は膨張性を提供する。気泡生成により向上した絶縁性と熱バリアとが提供されるが、本発明者らは、一般に膨張が起きると、残渣が機械的に非常に脆弱となり自己支持性を失うことを見出した。非自己支持性の残渣となった結果、絶縁体が脱落するか或いは破壊されることにより、絶縁されていた材料が曝露される。またこの組成物は、水及び/又は火災中に頻繁に遭遇される激しい空気流の存在下で絶縁性をより低下させやすい。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで本発明者らは、無機ホスフェートとシリケートミネラルフィラーを一定の組合せで含む組成物を用いることによって、セラミック生成組成物の原形を保持できることを見出した。
【0012】
本発明の第一の態様によれば、本発明者らは、火災状況において耐火セラミックを生成するための自己セラミック化組成物であって、
(i)ミネラルシリケートを少なくとも10重量%(好ましくは、少なくとも15重量%)と;
(ii)800℃以下の温度で液相を生成する少なくとも一種の無機ホスフェートを8重量%〜40重量%と;
(iii)有機ポリマーを少なくとも50重量%含むポリマーベース組成物を、自己セラミック化組成物の総重量に対して少なくとも15重量%とを含む組成物を提供する。
【0013】
本発明組成物は、火災状況において経験される上昇した温度への曝露に際し、自己支持性を有するセラミックを提供するように配合されることが好ましい。
【0014】
本明細書においては、「火災状況において経験される上昇した温度への曝露」という表現は、1000℃で30分間加熱することによってシミュレーションされるような激しい火災状況を指すものとして使用する。
【0015】
本発明者らは、無機ホスフェートと、シリケートミネラルフィラーと、好ましくは他の無機フィラーとを用いることによって、火災状況において経験される上昇した温度への曝露に際し、組成物がセラミックに転換される間、燃焼ガスを捕捉することにより材料の形状及び寸法を保持できることを見出した。通常、本発明組成物の矩形試験試料において、この試料の長さ方向に沿った長さ寸法の変化は、20%未満であり、好ましくは10%未満、より好ましくは5%未満、更により好ましくは3%未満、最も好ましくは1%未満である。場合によっては、正味の形状保持(net shape retention)が最も好ましい特性である。この形状保持においては、先行技術の膨張性組成物に使用される発泡剤を必要としない。実際、本発明組成物は、火災において遭遇される様々な条件で気泡の膨張制御を困難にさせると本発明者らが見出したメラミンやペンタエリスリトール等の付加的な膨張剤を本質的に含まないことが好ましい。本発明者らは、火災時に生成物の形状及び寸法を維持させることができるポリリン酸アンモニウムを、燃焼中に発生する他のガスと共に使用することにより、制御された膨張を達成できることを見出した。
【0016】
火災状況において経験される上昇した温度への曝露に際して本発明組成物から生成したセラミックは、少なくとも0.3MPa、より好ましくは少なくとも1MPa、最も好ましくは少なくとも2MPaの曲げ強度を有することが好ましい。
【0017】
本発明組成物は、アルミニウム、バリウム、カルシウム及びマグネシウムから選択される少なくとも一種の、水酸化物、酸化物及び炭酸塩の少なくとも一種を、30重量%まで(好ましくは、20重量%まで)含むことができ、また含むことが好ましい。また、本発明組成物は、水酸化アルミニウム(アルミナ三水和物)、炭酸マグネシウム及び炭酸カルシウムから成る群から選択される少なくとも一種の化合物から成る成分を10〜20重量%含むことがより好ましい。
【0018】
別の態様においては、本発明は、少なくとも一個の細長い機能的要素(導電体等)と、前述の自己セラミック化組成物を含む少なくとも一層のコーティング層とを含むケーブルを提供する。好ましくは、本発明のケーブルは単層の絶縁コーティングを含み、この単層の絶縁コーティングは、前述の自己セラミック化可能組成物から形成される。セラミック化可能層の内面は、機能的要素(例えば、一以上の銅線)と当接させることができる。また、該層の外面には他のコーティングや層がないことが好ましい。セラミック化可能層は、押出しによって少なくとも一以上の機能的要素に適用されるのが好ましい。本発明組成物の顕著な一利点は、該組成物が、火災状況において経験される上昇した温度への曝露に際して、耐火保護性と、本発明組成物の単層の絶縁層を用いてケーブルを調製可能ならしめるのに十分な強度との組合せを提供することである。一般にこれは先行技術の組成物においては可能ではなかった。それは一般に、絶縁性組成物の強度が自己支持性を示すには不十分であるばかりか、導電体の重量を支え且つ火災時に遭遇される水スプレーやガス乱流という条件に耐えるのにも不十分であるからである。結果として、耐火等級の高い市販ケーブルは、一般に、絶縁層の原形を維持するために物理的な支持シール層を必要とする。本発明組成物をそのような層と共に使用することができるが、一般に、高い耐火等級を提供するのにそれらは必要ではない。
【0019】
また、火災状況において経験される上昇した温度への曝露に際して本発明組成物から生成される無機残渣は、高い電気抵抗性を有することが分かった。これは、機能的要素の電気的完全性の維持にとって特に重要である。
【0020】
一般に本発明組成物は、火災状況において経験される上昇した温度に曝露されたときに自己支持性を有する多孔質セラミックを生成し、通常、組成物全体の少なくとも40%は無機化合物である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の自己セラミック化組成物は、火災状況において経験される上昇した温度への曝露に際して耐火性を提供する。該自己セラミック化組成物は、ミネラルシリケート(任意的に他の無機フィラーと共に)と、火災状況において経験される上昇した温度への曝露に際しこのミネラルシリケートと共に凝集性(coherent)のセラミックを生成する無機ホスフェートとを含む。火災状況において経験される上昇した温度への曝露に際し、最初ホスフェート成分は液相を生成し、好ましくは、他のガス発生成分の内の少なくとも一成分の分解温度より低い温度で液相を生成する。また、有機ポリマーと他の成分(ポリリン酸アンモニウム等)の分解の結果、気相が分散して生成する。組成物の温度が約800℃超まで上昇すると、該組成物は、無機ホスフェート成分とミネラルシリケートとを含有するセラミックを生成する。無機ホスフェート及びシリケートの各成分(シリケート成分中に存在する場合は、特にマグネシウムシリケート)は高温で反応して、気相が捕捉されて生ずる気孔の周りの壁を固化すると共に強化する。
【0022】
有機材料、更にまた、数種の任意的無機成分の分解に伴う収縮は、過渡的な液相に均一に分散された微細気孔の形成により補償される。
【0023】
無機ホスフェート成分の分解により生成される過渡的な液相に捕捉された分散微細気孔により、本発明組成物は、セラミックへの転換に際し、ほぼ元のサイズと形状とを保持することができる。放出されたガスは、粘性の液相(無機ホスフェートの分解に際し生成される)の制御された膨張を提供し、この液相は、火災状況におけるセラミックへの転換の全ステージで、燃焼残渣と無機フィラー粒子とによって補強される。制御された膨張は燃焼による体積損失に相当し、強度が少なくとも0.3MPa、好ましくは少なくとも1MPa、より好ましくは少なくとも2MPaで、元の物品と同様なサイズと形状とを有する比較的強いセラミックを生成する。
【0024】
無機ホスフェート成分の分解(他の膨張剤の非存在下)により生成される微細気孔の制御された分散と、無機ホスフェートとミネラルシリケートフィラーの相互作用とにより、本発明組成物は、1000℃で30分間加熱された場合でも、自己支持性を有するセラミックを生成することがきる。
【0025】
本発明者らは、著しい膨張が本発明組成物の各成分間の相互作用の強化を妨げることを見出した。従って、メラミン及び/又はペンタエリスリトール等の付加的な膨張剤を大量に含有する組成物は、一般に、火災状況において自己支持性を有するセラミックを生成しない。
【0026】
本発明組成物は、火災状況下で経験される上昇した温度に曝されてとき、セラミック(好ましくは自己支持性を有するセラミック)となる。火災時には各種の異なる条件に遭遇し得る。実験的に本発明者らは、1000℃×30分間の曝露を行う二通りの極端な条件について検討した。これらのシミュレートされた条件は、火災状況において経験される温度への曝露について検討するための試験例であり、高速焼熱(fast firing)条件と低速(slow firing)焼熱条件として実施例に記載する。
【0027】
組成物が自己支持性を有するかどうかを検討するために、本発明者らは次の試験を標準試験として使用する。試験は、組成物から作製される公称寸法30mm×13mm×2mm(概数)の試料に関し、この試料は、矩形耐火物片上に、試料の長軸がこの支持耐火ブロックの一辺に対して垂直に且つ支持耐火ブロックのこの辺から各試料が13mmだけ突出するように載置される。次に、試料を12℃/分で1000℃まで加熱し、この温度で30分間大気中に維持する。いずれの温度でも組成物試料は、支持ブロックの前記辺から大きく下方に屈曲することなく(即ち、元の位置からの曲がり角は15度未満)、剛性で凝集性(coherent)を有するままである。得られるセラミックは、上昇した温度への曝露前の試料の形状を好ましく保持していることであろう。
【0028】
本発明組成物は、800℃以下(好ましくは、500℃以下)で液相を生成する少なくとも一種の無機ホスフェート化合物を含む。自己支持性、形状保持性及び強度を付与するのに適切な無機ホスフェートの量は、任意的に含有されうるフィラー等、他の成分の性質及び割合に応じて変わるが、自己セラミック化組成物の全重量に対して8重量%〜40重量%である。二種以上のホスフェートが存在する場合、800℃未満(好ましくは、500℃未満)で液相を生成するホスフェートの総量は特定の範囲内である(例えば、8%〜40%)。このタイプの無機ホスフェートの具体例としては、リン酸アンモニウムやポリリン酸アンモニウム、ピロリン酸アンモニウムを挙げることができる。これら無機ホスフェートは、約200〜800℃で分解し液相(五酸化リンを含む)を生成する。
【0029】
比較的高融点であると共に800℃以下(好ましくは、500℃以下)で液相を生成しないリン酸ホウ素(MPt>1200℃)等のホスフェートは、本発明が要求する無機ホスフェート成分の一部を形成するものではなく、それらは付加的なフィラーとして存在することができるが、一般に、ミネラルシリケートと反応する過渡的な液相に寄与しない。ポリリン酸アンモニウムは本発明組成物に大きな利益をもたらし、最も好ましい無機ホスフェートである。従って、特に好ましい実施形態においては、本発明組成物は、自己セラミック化組成物の総重量に対しポリリン酸アンモニウムを8重量%〜40重量%含む。
【0030】
火災状況下、比較的低温で液相を生成する無機ホスフェートにより大きな利益がもたらされる。本発明者らは、本発明組成物中の無機ホスフェート成分から生成される液相は、ごく過渡的な液相であることを見出した。本発明組成物の他の成分と液相との相互作用の結果、結晶相が形成され、高温で該組成物は固体セラミックへと転換する。無機ホスフェート、特にポリリン酸アンモニウムに基づいた系は、本発明組成物の他の成分との組合せにより、該組成物の原形維持性という顕著な利点を有する。本発明の特に好ましい実施形態においては、液体生成成分としての無機ホスフェートは、他の成分との組合せにおいて、十分な量のガス気孔を捕捉すると共に生成物の形状及び寸法を維持する性質(特に、比較的高い粘度)が得られるように選択される。これらの条件で生成される過渡的な液相の粘度が比較的低い場合、生成したガスが全て失われることがあり、収縮と、場合によっては液状成分の損失とにより破損の可能性が高まることになる。
【0031】
火災状況において経験される上昇した温度への曝露に際し、本発明組成物中の無機ホスフェートは、他の各種成分の少なくとも一部の分解温度以下で分解すると考えられる。ポリリン酸アンモニウムの場合、分解産物としてアンモニアとリン酸を挙げることができる。アンモニアは、過渡的な液相が固化して生成されるセラミックの気孔率に寄与することができる。リン酸はその近傍の任意的に含有されうる有機材料と反応し、組成物が更に加熱されてセラミックを生成するにつれて酸化的に消費される炭素質のチャー(炭)を最初に生成する。
【0032】
ガスを捕捉するのに最適な過渡的液相の粘度は、当然の事ながら、発生ガスの種類と体積、有機成分の割合、プロセス助剤等の任意成分に応じて変わる。
【0033】
無機ホスフェートとしてはポリリン酸アンモニウムが最も好ましく、組成物全体の8〜40重量%存在する。
【0034】
本発明の一実施形態においては、無機ホスフェートは、組成物全体の15〜40重量%存在するのが好ましく、20〜40重量%存在するのが更に好ましい。そのような組成物は、得られるセラミックの高強度を優先する場合に好ましい。
【0035】
別のより好ましい実施形態においては、無機ホスフェートは、組成物全体の8〜20重量%存在し、組成物全体の10〜20重量%存在するのがより好ましく、組成物全体の10〜15重量%存在するのが更により好ましい。本実施形態に係る組成物は、火災状況において(上昇した温度で)良好な電気的絶縁性が要求される用途に特に適している。例えば、本実施形態は、火災時に基本的サービスを維持するために用いられるケーブルに特に好ましく、実際、単層の絶縁層の使用で済ませることもできる。
【0036】
一般に、無機ホスフェート成分は450℃未満の温度で液状となる。ガスは、本発明組成物の各成分(有機成分等)の熱分解により生成される。ガス生成無機物の例としては、水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウム等の水和物、炭酸マグネシウムや炭酸カルシウム等の炭酸塩、ポリリン酸アンモニウムを挙げることができる。ガス生成有機物の例としては、有機ポリマーや任意のプロセス用有機添加剤を挙げることができる。ガス発生成分は細粒化され、セラミック形成成分全体に亘って分布していることが特に好ましい。
【0037】
ガス発生成分は、上昇した温度でガスを発生する化合物の混合物を含むことができる。ガス発生成分は、液体生成無機成分が液状となる温度以上でガスの少なくとも一部を発生するのが好ましい。気相は、本発明組成物がセラミックに変化していく間、火災状況において過渡的に生成される液相によって捕捉される。気相はセラミック中に微細気孔として出現する。更に本発明者らは、シリケート成分が液相と相互作用し、得られるセラミックの気孔を画定する壁構造の一部を提供することを見出した。
【0038】
本発明組成物は通常、火災時に遭遇する温度で自己支持性を有するセラミックを生成する。得られるセラミックの気孔率は、20体積%〜80体積%であることが好ましい。また、組成物全体の少なくとも40%は無機フィラーであることが好ましい。
【0039】
本発明に係る組成物はまた、シリケートミネラルフィラーを含む。そのようなフィラーとしては通常、アルミノ−シリケート類(例えば、カオリナイトやモンモリロナイト、パイロフィライト。これらは通常、粘土として知られている)やアルカリアルミノ−シリケート類(例えば、マイカ、長石、スポジューメン、ペタライト)、マグネシウムシリケート類(例えば、タルク)、カルシウムシリケート類(例えば、ウォラストナイト)等を挙げることができる。二種以上の異なるシリケートミネラルフィラーの混合物を使用してもよい。そのようなフィラーは市販されている。二酸化ケイ素(シリカ)は、本発明においてはシリケートミネラルフィラーではない。
【0040】
本発明組成物は通常、シリケートミネラルフィラーを少なくとも10重量%、好ましくは少なくとも15重量%、最も好ましくは少なくとも25重量%含む。この成分の最大量は、生成物の性質と、該組成物の加工を不当に妨げないシリケート含有量とで決まる傾向がある。
【0041】
1000℃で融解しない無機ファイバー(酸化アルミニウムファイバー等)を本発明組成物に配合することができる。
【0042】
ミネラルシリケートフィラーの他、様々な他の無機フィラーを添加することができる。本発明組成物は、金属水酸化物、金属酸化物及び金属炭酸塩の少なくとも一種である付加的な無機フィラーを、組成物全体の30重量%まで(好ましくは20重量%まで)含むことができ、また含むことが好ましい。そのような無機フィラーにおける金属イオンの例としては、カルシウムやアルミニウム、マグネシウム、バリウム、セシウム、コバルト、鉄、鉛、マンガン、ニッケル、ルビジウム、ストロンチウム、亜鉛等を挙げることができる。好ましい付加的な無機フィラーは、アルミニウム、バリウム、カルシウム及びマグネシウムの少なくとも一種の水酸化物、酸化物及び炭酸塩から選択される少なくとも一種である。アルミニウム、カルシウム及びマグネシウムの酸化物、水酸化物及び炭酸塩がより好ましく、アルミナ三水和物、炭酸マグネシウム及び炭酸カルシウムが更により好ましい。付加的な無機フィラーの量は、組成物全体の5重量%〜20重量%であることが好ましい。
【0043】
本発明組成物は、好ましくはメラミンやメラミンホスフェート、メラミンピロホスフェート、ペンタエリスリトール等の膨張剤を本質的に含まない。
【0044】
本発明組成物は、火災状況において経験される温度に曝露されることでセラミックを形成する。本発明者らは、本発明組成物が加熱されていくと過渡的な相を経ることを見出した。このセラミックは、無機ホスフェートや分散ミネラルシリケート、更に任意的に含有される他のフィラー粒子から生成される相と、分解産物から生じ材料の形状及び寸法を維持する気相と、を含む。
【0045】
本発明組成物の自己支持性、寸法安定性及び強度は、そのような膨張剤の大量存在下で弱められることもある。上述の範囲内における各成分(特に、無機ホスフェートとミネラルシリケート)の最適な割合は、本明細書に記載される、組成物の性能特性に対するこれら成分の寄与を考慮して当業者により決定することができる。本発明組成物は通常、メラミンとペンタエリスリトールを該組成物の1重量%未満含むが、これらの許容量は、火災状況における自己支持性、及び火災状況における強度と寸法変化を検討するための前述の試験に基づいて決定することができる。
【0046】
本発明の一実施形態においては、セラミック生成組成物は基本的に次のi)〜iv):
i)有機ポリマーを少なくとも50重量%含むポリマーベース組成物を、セラミック生成組成物の総重量に対して少なくとも15重量%;
ii)800℃以下(好ましくは、500℃以下)の温度で液相を生成する少なくとも一種の無機ホスフェートを、セラミック生成組成物の総重量に対して8重量%〜40重量%;
iii)シリケートミネラルフィラーを、セラミック生成組成物の総重量に対して少なくとも10重量%;
iv)30%までの量の任意的な付加的無機フィラー
から構成されるものであって、該組成物は、火災状況において経験される上昇した温度に曝露されることにより自己支持性を有するセラミックを生成する。
【0047】
本発明組成物は有機ポリマーを含む。有機ポリマーとは、有機ポリマーをポリマーの主鎖として有するものである。シリコーンポリマーは有機ポリマーとみなされないが、有用な副成分として有機ポリマーと混合することができ、また、熱分解時に粒径が微細な二酸化ケイ素(セラミック生成を促進する)源を与えることができる点で有益である。有機ポリマーは、例えば、熱可塑性ポリマー、熱可塑性エラストマー、架橋エラストマー或いはゴム、及び熱硬化性ポリマーのいずれのタイプであってもよい。有機ポリマーは、相互反応により、上述のタイプの有機ポリマーの少なくとも一種を生成できる、試薬、プレポリマー及び/又はオリゴマーを含む前駆体組成物の形態として存在させることができる。
【0048】
有機ポリマーは、良好な加工特性と機械特性とを保持しながらも、セラミック生成に要求される無機成分を高レベルに取込むことができるものであることが好ましい。本発明によれば、耐火組成物中に無機成分を高レベルに含むことが望まれる。これは、そのような組成物は、無機成分をより低レベルにしか含有しない組成物と比べて、火への曝露に際し重量損失が小さくなる傾向があるからである。従って、無機成分が比較的高濃度で充填された組成物は、熱によるセラミック化の際に収縮したり亀裂を生じたりする可能性がより低い。
【0049】
また、火災状況において遭遇される上昇した温度に曝露されたときに、選択した有機ポリマーが分解温度前に流出したり融解したりしないのが有利である。最も好ましいポリマーは、耐火組成物が生成された後に架橋するポリマー、或いは熱可塑性であるが高融点を有する及び/又は融点の近くで分解してチャー(炭)を生成するポリマーである。しかしながら、これらの性質を有さないポリマーも使用することができる。適切な有機ポリマーは市販のものを用いるか、或いは公知の技法を適用を利用し或いはこれに準じて製造してもよい。次に、使用できる適切な有機ポリマーの例を示すが、特定の有機ポリマーの選択は、耐火組成物に含まれるべき付加的成分や、該組成物が調製及び適用される方法、該組成物の使用目的といったことによっても影響されることが理解されよう。
【0050】
本発明における使用に適した有機ポリマーとしては、熱可塑性ポリマーや熱硬化性ポリマー、(熱可塑性)エラストマー等を挙げることができる。そのようなポリマーは、ホモポリマーポリオレフィン、コポリマーポリオレフィン、ポリ塩化ビニル等のビニルポリマー、アクリル及びメタクリルポリマー、スチレンポリマー、ポリアミド、ポリイミド、エポキシ、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリエステル、フェノール樹脂及びメラミン−ホルムアルデヒド樹脂から成る群から選択される少なくとも一種のポリマーを含むことができる。
【0051】
ケーブル用のコーティングを作製する上で、特に好適に使用される有機ポリマーは、密度が890〜960g/リットルの市販の熱可塑性架橋ポリエチレン、このクラスのエチレンとアクリル及び他のビニルオレフィンモノマーとのコポリマー、エチレン、プロピレン及びジエンモノマーのターポリマー、一成分が架橋しており一方で連続相が熱可塑性である所謂熱可塑性加硫物、及びポリマー全部が熱可塑性であるか、或いは過酸化物、照射及び所謂シランプロセスのいずれかによって架橋する該加硫物の変種である。
【0052】
本発明組成物は、押出し(他の成分との共押出し等)や一層以上のコーティングを適用することによって、一以上の導電体要素の周囲に形成することができる。
【0053】
尚、選択される有機ポリマーは、組成物の使用目的に一部依存する。例えば、或る用途においては、組成物に或る程度の可撓性が要求され(例えば、電気ケーブルのコーティングにおいて)、従って有機ポリマーは、添加剤と共に充填されたときの特性に基づいて選択される必要がある。ポリエチレンとエチレンプロピレンエラストマーは、ケーブルのコーティングのための組成物に特に有用であることが分かった。また、有機ポリマーの選択においては、ポリマーの分解によって生成され得る有害或いは有毒なガスについても考慮する必要がある。そのようなガスの発生は、ある用途においては他の場合よりも許容度が高いこともある。使用される有機ポリマーはハロゲンフリーであることが好ましい。
【0054】
尚、このポリマーベース組成物はシリコーンポリマーを含むことができる。しかしながらこの場合、有機ポリマーは通常、シリコーンポリマーに比べ極めて過剰にポリマーベース組成物に存在することになろう。よって、ポリマーベース組成物において、有機ポリマーのシリコーンポリマーに対する重量比は5:1〜2:1であることができ、例えば、4:1〜3:1である。重量パーセントでは、シリコーンポリマーが存在する場合は、シリコーンポリマーは一般に、配合された耐火組成物の総重量に対して2〜15重量%存在することができる。有機ポリマーとシリコーンポリマーを組合わせて使用する場合、シリコーンポリマーが高濃度であると加工上問題が生じることがあり、本発明に係る組成物を配合する場合にはこの点を考慮する必要がある。
【0055】
本発明組成物は通常、有機ポリマーを少なくとも50重量%含むポリマーベース組成物を、組成物の総重量に対し少なくとも15重量%含む。
【0056】
耐火組成物中のポリマー成分の量の上限は、配合組成物に期待される性質によって変わる。ポリマー成分の量が組成物全体の約60重量%を超える場合、火災状況においてコヒーシブ(凝集性)強度の高い残渣が生成されないであろう。従って、一般にこのベース組成物は、配合された耐火組成物の15〜60重量%を形成し、20〜50重量%を形成するのが好ましい。
【0057】
有機ポリマーは、ポリマーベース組成物中に少なくとも50重量%存在する。これにより、組成物全体の加工性が損なわれることなしに、ポリマーベース組成物が付加的成分と充填されやすくなる。尚、ポリマーベース組成物はシリコーンポリマーを含んでもよい。しかしながらこの場合、通常有機ポリマーはシリコーンポリマーに比べ極めて過剰にこのベース組成物に存在する。
【0058】
火災状況において経験される上昇した温度(1000℃まで)への本発明組成物の曝露に際して、残存する残渣は一般に、熱分解前の組成物の少なくとも40重量%、好ましくは少なくとも55重量%、更に好ましくは少なくとも70重量%を構成する。全ての温度において残渣はセラミック強度を向上させることができるため残渣の量はより多いことが好ましい。
【0059】
本発明組成物は各種様々な形態で提供することができ、次の例を挙げることができる。
1.シート、異形(profile)又は複合(complex)形状。本組成物は、標準的なポリマー加工操作(例えば、押出しや成形(ホットプレスや射出成形等))を用いて、これらの製品に作製することができる。形成された製品は受動的耐火保護システムに使用できる。本組成物はそのまま使用することができるし、また、別の材料(例えば、合板やバーミキュライトボード等)とのラミネート或いはコンポジットとして使用することができる。一用途においては、本組成物を押出しして防火扉用シールを作製するための形状とすることができる。火災時には、本組成物はセラミックに変わり、火や煙の広がりに対して効果的な機械的シールを形成する。
2.予め膨張させたシート又はプロファイル。この形態は前記形態に比べて、重量減少や、通常の使用条件でより大きな防音性能や絶縁性能等、更なる利点を有する。
3.窓やその他の物品のシールとして適用できるマスチック材料(例えば、従来のシリコーンシーラントのようにチューブから適用する)。
4.スプレー又はブラシで適用できるペイント又はエアロゾル系材料。
【0060】
本発明を適用できる受動的耐火保護用途の具体例としては、フェリーや列車、その他の乗り物に用いる防火壁ライニング、防火パーティション、防火スクリーン、防火天井、ビルのダクトに用いるライニング被覆、ギャップフィラー(即ち、貫通のためのマスチック用途)、構造的耐火保護[ビルの構造的金属フレームを絶縁して、要求される耐荷強度を一定期間維持する(或いは、コア温度を制限する)]、防火扉インサート、窓や扉のシール、膨張シール、及び室内ケーブル等の用途に取付けられたり使用される電気ボックスやフィッティング、ストラップ、トレー等に使用されるコンパウンド等を挙げることができるがこれらに限定されない。
【0061】
別の用途領域は汎用エンジニアリングにある。受動的耐火保護性が要求される汎用エンジニアリングの具体的な領域としては、輸送(自動車、航空、船舶)や防衛、機械を挙げることができる。これら用途における成分はその全体又は部分が火を受ける可能性がある。
【0062】
この材料全体が火を受けた場合、セラミックに転換することにより、該材料に取り囲まれた領域或いは該材料で隔離された領域を保護する。また、部分的に火を受ける場合には、この材料の一部がセラミックに転換するが、セラミックに転換しなかった周囲の材料により原位置に保持されることが好ましい。輸送領域における用途としては、パネル用材(例えば、グラスファイバーで補強された熱可塑性又は熱硬化性コンポジットにおける)、排気系、ブレーキ、ステアリング、安全装置、エアコンディショナー、燃料貯蔵、ハウジング、その他多くの用途を挙げることができる。防衛における用途としては、移動兵器及び非移動兵器や車両、設備、構造物、その他の領域における用途を挙げることができるであろう。機械領域における用途としては、ベアリングやハウジングバリア、その他多くの用途を挙げることができる。
【0063】
本発明組成物は、特にケーブル製造のためのコーティングとして有用であり、例えば、絶縁又はシース層に使用できる。従って該組成物は、火災時に回路完全性を提供できる電気ケーブルの製造に好適である。
【0064】
図1と図2はそれぞれ、単導電体ケーブル1と多導電体ケーブル10を示し、絶縁層2又は絶縁層12を有し、また本発明に係る組成物の付加的な自己セラミック生成層(ceramifying layer)4又は14を有する。これらケーブルの設計のいずれにおいても、絶縁層と本発明に係る自己セラミック生成層との位置は、付加的な層の役割に応じて交換することができる。
【0065】
そのようなケーブルの設計において、セラミック生成絶縁層は導電体の上に直接押出しすることができ、また自己セラミック生成層は一層以上の絶縁層の上に押出しすることができる。また、マルチコアケーブルの間隙のフィラーとして使用でき、またアッセンブリに丸みをつけるために該アッセンブリに添加される、それぞれ押出しされるフィラーとしても使用でき、更にワイヤー又はテープアーマー(tape armour)の適用前に内層としても使用できる。
【0066】
図3は、本発明の、特にポリリン酸アンモニウムを8〜20重量%含む実施形態の組成物を使用することができる簡単なケーブル設計を示す。本発明組成物は、導電体(1)の周りに押出しされた絶縁層2を生成する。この絶縁層の内面2Aは導電体に当接し外面2Bには別の被覆が施されていない。
【0067】
図4は耐火性能物品1の可能な設計を示し、図5は図4の位置IIにおける断面を示す。金属基板12は、少なくとも一層の自己セラミック生成層(17〜20)を含む保護コーティング16を有し、また、グレージング層18や他のセラミック生成層(19)等の一層以上の他の層を含むことができる。
【0068】
例えば、図1に示すような本発明のケーブルの第一の実施形態においては、銅製導電体等の機能的要素は、比較的弱いセラミックを生成する自己セラミック生成絶縁組成物によって覆われ、続いて火災状況において耐火セラミックを生成する、本発明に係る自己セラミック化組成物によって覆われており、該組成物は、
(i)ミネラルシリケートを少なくとも10重量%と;
(ii)800℃以下の温度で液相を生成する少なくとも一種の無機ホスフェートを8重量%〜40重量%と;
(iii)自己セラミック化組成物の総重量に対して少なくとも15重量%の、少なくとも50重量%の有機ポリマーを含有するポリマーベース組成物と、を含み、火災状況において、該自己セラミック化組成物の矩形の試験試料は、長さ方向に沿った長さ寸法の変化が10%未満である。
【0069】
本発明に係る組成物は、構造物や要素に耐火性を付与する使用に極めて好適である。本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、1000℃より低い温度で融解して液相を生成する成分は、強く安定したセラミックの生成に有益となり得るが、生成したセラミックの電気伝道度は常に高いことを見出した。この結果、試験ケーブル、特にマルチコアケーブルは、絶縁層を介しての電流のリークによってフューズや他のサーキット保護材の性能を達成することができない。多数の先行技術例において、セラミックの強度がより重要視され抵抗率が無視されている。本発明者らは、ごく過渡的な液層(この液相は、より高い温度で結晶性固体に転換される(ミネラルシリケートの存在下))を提供する溶融成分を有し、結果として、これらの条件で存在する液相を依然として有する組成物よりも極めて低い電気伝道度を高温において有する材料を提供することによりこの問題を解決した。
【0070】
組成物は、適切な高電気抵抗度を上昇した温度で示す場合には特に、電気ケーブル上の単層の絶縁層として好適に使用することができる。この態様において、本発明者らは、APPを8〜20重量%含む組成物が特に有利であることを見出した。この条件を満たさない組成物の場合、高温において電気的に絶縁性である付加的な層を組入れて回路完全性を確保することが望ましい。
【0071】
例えば、上昇した温度で耐熱性を付与する及び/又は物理的バリアを提供するが導電性を示すようになる組成物を、電気絶縁性を提供するようにされた層の周りに設けることができる。
【0072】
本発明に係るケーブルの特に好ましい実施形態においては、本発明組成物に関する強い自己セラミック生成材料から軸方向内側に自己セラミック生成材料の別の層が存在する。軸方向内側の層は、様々なタイプの層でよく、本発明組成物に関する第二の層であることができる。しかしながら、本実施形態におけるケーブルにおいて、本発明組成物に関する層の軸方向内部の層は、本出願人らによる同時係属中の国際特許出願PCT/AU03/01383(この開示内容を本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する)に記載されたタイプの層であることが特に好ましい。
【0073】
火への曝露に際し自己支持性を有するセラミックを生成するこのタイプの絶縁層を、本発明組成物から作製される層(好ましくは、外層)と組合わせて使用することは、通常、火へ曝露された後、機械的により強いコーティングを導電体に提供するという利点を有する。
【0074】
得られるケーブルは、火災において、及び火災における一連の事象に伴う機械的衝撃及び/又は力(例えば、強いガス流及び/又は水スプレーに起因する)に付されたときに機能性を維持する可能性がより高い。
【0075】
しかしながら本発明組成物はまた、火災状況において遭遇される温度で機械的強度がより劣る自己セラミック化組成物と組合わせて用いることができる。従って、上昇した温度への曝露に際して、本発明組成物は物理的に強い凝集性(coherent)の層を導電体の周りの絶縁層(この層は、分解されて非凝集性の無機残渣となる)に形成することができ、これにより、物理的支持体を使用する必要性を排除することができる。
【0076】
自己セラミック生成絶縁層と本発明組成物による層は、押出し等の従来の手段によって適用することができる。この本発明組成物の押出しは、従来の装置を用いて従来法により行うことができる。絶縁層の厚さは、導電体のサイズと作動電圧に関する特定基準の要件に応じて変わる。通常絶縁層は全体の厚さが0.6〜3mmとなる。例えば、オーストラリア基準で0.6/1kVで評価される35mm2の導電体は、約1.2mmの絶縁層の厚さを必要とする。このケーブルは、耐切断性層及び/又はシース層等の他の層を含むことができる。
【0077】
本発明のケーブルの他の実施形態においては、銅製導電体はフィラー含有有機ポリマー層によって覆われており、このポリマー層は火災状況において遭遇される温度に曝露されると分解して、導電体と本発明組成物の自己セラミック化層との間に生じる間隙に軽度に電気絶縁性無機粉体(例えば、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム)を堆積充填させる。
【0078】
無機ホスフェート成分は、火災状況において過渡的な液相を提供すると共に火災状況において経験される上昇した温度への曝露に際して自己セラミック化組成物の分解の結果生成される気相の気孔を捕捉する。800℃超の温度で、無機ホスフェートはセラミック材料の一部を形成する。
【0079】
更に組成物はまた、火災状況において経験される上昇した温度に曝露されると、凝集性(coherent)で良好な機械的強度を有する残渣を生じることができ、冷却後においても同様な残渣を生じることができる。この残渣は自己支持性を有し、機械的衝撃等によって壊れて脱落することがなく所望の位置に保持される。以下、本発明において「残渣」という用語は、組成物が火災状況において経験される上昇した温度に曝露されたときの生成物を表すものとする。一般に、30分間で1000℃という上昇した温度は、本発明の耐火組成物を残渣へと変えるのに十分である。本発明に係る組成物はまた、断熱性及び/又は凝集性(coherent)の物理的バリア或いはコーティングを提供すると共に上昇した温度で要求される電気的絶縁性を示すことが望ましい。
【0080】
本発明は、火災状況において経験される上昇した温度への曝露に際して実質的形状変化を伴わず且つ自立支持性があり許容され得る機械的強度を有するセラミックを生成するという要件を典型的に満たしている材料を記載する。
【0081】
本発明に係る組成物は、上昇した温度に曝露されたときに凝集性(coherent)のセラミックを生成することができ、この産物は、望ましい物理的機械的性質を示すことが分かった。火災状況において経験される上昇した温度への本発明組成物の曝露に際して生成されるセラミックは、曲げ強度が少なくとも0.3MPaであり、少なくとも1MPaであることが好ましく、少なくとも2MPaであることがより好ましい。本発明組成物が自己支持性を有する、即ち、剛性の状態を維持し且つ熱により誘起される変形又はフローがないことは際立った利点である。この組成物はまた、火災状況において経験される上昇した温度への曝露に際して、経験される加熱速度が比較的速い又は遅いに関わらず、仮に収縮したとしても殆ど収縮しない。通常、矩形の試験試料の長さ方向に沿った長さ寸法の変化は20%未満であり、10%未満であることが好ましい。一般的に言えば、収縮を制限することはより重要であり、これは5%未満が好ましく、1%未満であることがより好ましく、本質的に0%であることが最も好ましい。膨張の場合、如何なる膨張も20%未満であり、10%未満であることが好ましく、5%未満であることがより好ましく、3%未満であることが最も好ましい。寸法変化はまた、組成物の熱分解における挙動(特に、各有機成分の異なる挙動)等の付加的要因によって影響され、収縮から膨張(組成物中の成分が分解して生じたガスが出て行くことによって引起される)まで様々となり、膨張は、試料の厚さ(高さ)等の最も制約の小さい寸法において最も顕著な作用(パーセンテージ変化ベース)を有する。従って当業者は、予想される加熱条件において、例えば、長さ寸法の実質的変化がない、3次元全てにおいて実質的変化がない(正味の形状保持)、長さ寸法の増加が5%未満である等の、種々の結果を達成するために組成物の成分を選択することができる。
【0082】
本発明組成物の別の利点は、望ましい物理的機械的性質を有するこのタイプの凝集性(coherent)の産物が1000℃より十分低い温度で生成されることができる点である。本発明組成物は、構造物や要素に耐火性を付与することが望ましい各種用途に用いることができる。従って、組成物は受動的耐火保護システムに有用である。
【0083】
説明したように組成物は、火災において遭遇される可能性のある、ある種の温度に曝露された後、長さ寸法の変化が最小であることが好ましい。これは、本発明に係る組成物から形成される産物の最大の長さ寸法の変化は20%未満であり、10%未満であることが好ましく、5%未満であることがより好ましく、1%未満であることが最も好ましいことを意味する。ある場合には、正味の形状変化がより好ましい。
【実施例】
【0084】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、これら実施例は本発明を限定するものではない。
【0085】
次に、明細書及び請求の範囲に記載の用語を試験方法と共に定義する。これらの性質を判定する試験は、理想的には30mm×13mm×2mm(概数)の試料を用いて行うものであるが、一部の実施例では若干寸法の異なる試料を使用した。性質と条件は次の通りである。
【0086】
−低速焼熱条件。12℃/分の温度上昇速度で試験試料を室温から1000℃まで加熱し、続いて1000℃で30分間維持する。これらの条件は、「火災状況において経験される上昇した温度への曝露」の典型である。
【0087】
−高速焼熱条件。1000℃で予熱炉内に試験試料を載置し、該炉を同温で30分間維持する。実施例においては、一部の組成物をこれらの焼熱条件に曝露させて、測定されたいくつかの性質に対する各焼熱条件の影響について説明する。これらの条件は、極めて急速な加熱の一連の事象において達成される曝露の典型である。
【0088】
−長さ寸法の変化。試料の長さ方向に沿った長さ寸法の変化。長さ寸法の変化の決定方法は、焼熱前の試料の長さと、高速焼熱条件と低速焼熱条件のいずれかの条件に付した後、冷却してすぐの試料の長さとを測定する方法である。焼熱によって引起される試料の膨張は長さ寸法の正の変化として、収縮(contraction(shrinkage))は長さ寸法の負の変化として記載する。それぞれパーセント変化として示す。
【0089】
−曲げ強度。セラミックの曲げ強度は、試験試料を低速焼熱条件で加熱し、冷却してすぐに、ローディングクロスヘッド速度0.2mm/分として、スパン長18mmの3点曲げによる測定を行うことにより決定される。
【0090】
−残渣。組成物を火災において経験される上昇した温度に付した後に残存する材料。本発明においては、それらの条件は、組成物を室温から1000℃まで加熱し、続いて1000℃で30分間維持することによりシミュレートされる。
【0091】
−自己支持性。剛性の状態を維持しており熱により誘起される重大な変形やフローがない組成物。これは、矩形耐火物片上に、試料の長軸が耐火ブロックの一辺に対して垂直に且つこのブロックの上記辺からその一部(13mm)が突出するように試料を載置し、次いで低速焼熱条件で加熱して、冷却後の試料を調べることにより判定される。自己支持性を有する試料は剛性の状態を維持し、支持体の前記辺から下方に大きく屈曲することなく自身の重量を支えることができる。通常、ブロックの縁からの屈曲はいずれも元の位置から15度未満の角度である。
【0092】
−正味の形状保持。加熱されたときに実質的な形状変化を伴わない組成物。これは、試験されるべき試料の形状及び寸法と、使用される焼熱条件とに一部依存する。
【0093】
本発明に係る実施例においては、自己支持性を有することと、上昇した温度への曝露前の試料形状が保持されていることとが分かった。
【0094】
実施例1
表1にA、B、C及びDとして示す組成物を、二軸ロールミルを用いて調製した。各場合において、エチレン−プロピレン(EP)ポリマーのバンドをミル(10〜20℃)に入れ他の成分を加えた。二本のロールのニップに通す直前にバンド状材料をきり返しまた折りたたむことによって分散させた。これらが均一に分散したときに過酸化物を加え同様に分散させた。
【0095】
約7MPaの圧力で170℃で30分間硬化及び成形することにより、粉砕組成物から厚さ約1.7mmの平らな矩形シートを作製した。
【0096】
成形されたシート状物から、寸法が30mm×13mm×1.7mm(概数)の矩形のシート状試料を切取り、低速焼熱条件(12℃/分の温度上昇速度で室温から1000℃まで加熱し、続いて1000℃で30分間維持する)又は高速焼熱条件(1000℃で予熱炉内にシートを載置し、同温で30分間維持する)で焼熱した。焼熱後、各試料はセラミックとなった。焼熱に起因する長さ寸法の変化を、焼熱前後の試料の長さを測定することによって決定した。焼熱によって引起された試料の膨張は長さ寸法の正の変化として、収縮は長さ寸法の負の変化として記載する。
【0097】
【表1】

【0098】
1000℃での焼熱に際し、組成物A、B、C及びDは、最小限の寸法変化で最初の形状を保持する硬く強いセラミックに転換される。
【0099】
実施例2
組成物A、B、C及びDから作製した試料を試験したところ自己支持性を有することが分かった。これら試料は融解せずに、上昇した温度への曝露前の試料形状を保持した凝集性(coherent)の自己支持性を有する多孔質セラミックを生成した。目視検査により、各試料の支持されていない範囲は、自身の重量によって耐火ブロックの縁から下方に屈曲することなくその場に留まっていることが分かった。
【0100】
実施例3
断面1.5mm2の銅製導電体を、自己セラミック化可能組成物E(表2)の層(壁厚0.5mm)で絶縁した。組成物A(表1)の第二の層を組成物Eの層上に直接押出し、壁厚1.0mmの複合絶縁層を設けた。この絶縁された導電体を、同様にして作製した他の絶縁された導電体3本と共に縒り合わせて、4本の絶縁された導電体のアッセンブリを形成した。
【0101】
次に、縒り合わされた絶縁された導電体のアッセンブリを市販のハロゲンフリーで低発煙且つ毒性の低い熱可塑性コンパウンドで被覆し完成したケーブルを形成した。次いで、このケーブルの3セグメントに対し回路完全性試験AS/NZS3013:1995を行った。
【0102】
この試験は、240ボルトで印加されるべきケーブルセグメントを必要とし、次いで、最終温度が1050℃に達する炉試験に2時間付し、続いて3分間水ジェットスプレーに付した。
【0103】
前述のように作製・試験されたケーブルの3セグメントは、回路完全性を維持することができ、従って回路完全性試験AS/NZS3013:1995の要求性能を満たす。絶縁材料として組成物Eのみを用いて比較用ケーブルを作製し同一の試験を行ったところ性能が不十分であることが分かった。
【0104】
【表2】

【0105】
実施例4
実施例1の前半部分に記載したように二軸ロールミルを用いて、各ポリマーと、フィラー及び添加剤の各組合せとを混合することにより、表3に示した組成物を調製した。組成物F〜Nは本発明の実際の実施形態である。組成物O及びPは比較例である。約7MPaの圧力で170℃で30分間硬化及び成形することにより、これらの組成物から公称寸法30mm×13mm×1.7mmの試料を作製した。試料一組を実施例1に記載の低速焼熱条件で焼熱した。各組成物の場合において、焼熱により引起された、試料の長さ方向に沿った長さ寸法の変化を、焼熱前後の試料の長さを測定することによって決定し、また、得られたセラミックの曲げ強度は、ローディングクロスヘッド速度0.2mm/分として、スパン長18mmの3点曲げによって決定した。別の試料一組は、実施例2の記載と同様にして耐火ブロックの縁に沿って載置した状態で焼熱し、焼熱後検査して、支持耐火ブロックの縁から下方に屈曲することなく留まることにより焼熱中に自己支持できたか否かを判定した。全ての試験の結果を表3に示す。
【0106】
【表3】

【0107】
組成物F〜Nの結果から、1000℃まで加熱したときに本発明組成物は長さ寸法の変化が10%未満であり、形成されたセラミック残渣は2MPa超の曲げ強度を有することが分かる。比較例Oと組成物A(表1)との比較から、組成物Aの低融点無機ホスフェート(ポリリン酸アンモニウム)をホウ酸亜鉛(これも同程度の低温で液相を生成する)に代えたことにより、収縮が10%を大きく超え、形成されたセラミック残渣は自己支持能を失うことになる。ミネラルシリケートを一切含有しない比較例Pは、曲げ強度が、少なくとも1MPaという好ましい値より遥かに小さく且つ自己支持性を有さないセラミック残渣になる。
【0108】
実施例5
この実施例では、本発明組成物の性能を米国特許第2003/0031818号(ホラセク(Horacek))の組成物と比較する。
【0109】
二軸ロールミルを用いて、表4の「Q」で示す米国特許第2003/0031818号の第一の組成物と、また表4の「R」で示す本出願の組成物とを調製した。各場合において、EPポリマーのバンドをミル(40〜50℃)に入れ、他の成分を加えた。二本のロールのニップに通す直前にバンド状材料をきり返しまた折りたたむことによって分散させた。これらが均一に分散したときに過酸化物を加え同様に分散させた。
【0110】
約7MPaの圧力で170℃で30分間硬化及び成形することにより、粉砕組成物から厚さ約1.7mmの平らな矩形シートを作製した。
【0111】
成形されたシートから、寸法が30mm×13mm×1.7mm(概数)の矩形のシート状試料を切取り、高速焼熱条件(1000℃に維持した炉に入れ、続いて1000℃で30分間維持する)で焼熱した。焼熱後、各試料はセラミックとなった。目視検査により、組成物「R」は元の寸法を維持したセラミック残渣を形成していたのに対し、組成物「Q」はその形状を維持しておらず+20%超と大きく変化したことが確認された。低速焼熱条件で行った試験から、組成物「R」は自己支持性を有し組成物「Q」は自己支持性を有さないことが分かった。組成物「Q」は自己支持性を有さず且つ形状及び寸法を維持しなかったため、いかなる耐火試験においても不合格となる可能性があり、従って組成物「Q」の性能は、ケーブルの絶縁材料としての使用には不十分と考えられた。これに対し、組成物「R」は正味の形状保持(優れた寸法安定性)を示した。
【0112】
【表4】

【0113】
実施例6
この実施例は、本発明に係る熱可塑性組成物の調製に関する。表5に示す組成物を調製した。
【0114】
【表5】

【0115】
表5の組成物S〜Wは、各ポリマーと、フィラー及び添加剤の各組合せとを、Haake Reocord Batch Mixerを用いて混合することにより調製した。組成物Sは、PVCパウダー(オーストラリアンビニルズ(Australian Vinyls)K62R2)をベースとし、170℃、30rpmで約10分間混合した。組成物Tは、粉末状ポリスチレン(PS、オーストレックス(Austrex)103)をベースとし、180℃、40rpmでトルクが安定するまで1〜2分間混合し、続いて更に5分間混合した。組成物Uは、熱可塑性加硫物(TPV、サントプレン(Santoprene)591−73)をベースとし(プロセス助剤として使用されるステアリン酸カルシウムとパラフィンがTPVペレットとフィラーのそれぞれと予め混合されている)、ポリスチレン組成物の調製と同様にして混合した。例Vは、ポリクロロプレン(ネオプレン(Neoprene)TRT)をベースとした。この組成物は架橋しなかった。この組成物を180℃で混合し、その他は組成物Uの調製と同様にした。例Wは、エチレンプロピレンジエンポリマー(ノーデル(Nordel)3745)をベースとした。この組成物は架橋しなかった。この組成物を170℃で混合し、その他は組成物Uの調製と同様にした。
【0116】
厚さ3mmの板状体を、155〜180℃で約10分間、約10MPaの圧力でこれらの組成物から圧縮成形した。次に、板状体から試料を切取った。試料一組を低速焼熱条件で焼熱し、上述のように試験した。熱可塑性物をベースとしたこれら組成物はいずれも、低速焼熱後、長さ寸法の変化が10%未満で且つ曲げ強度が0.3MPa超の自己支持性を有するセラミックを生成した。
【0117】
実施例7
この実施例は、本発明に係る架橋ゴムの調製に関する。表6の組成物を調製した。
【0118】
【表6】

【0119】
表6のゴム組成物は次のようにして調製した。
組成物Xは、スチレンとブタジエンをベースとする明らかな直鎖状のブロックコポリマー(結合スチレン29.5質量%、密度0.94g/cm3)であるSBSゴム(クラトン(Kraton)D1102CS)をベースとする。約50℃に加熱した二軸ロールミルでSBSを軟化させ、全ての添加剤を均一な混合物が得られるまで徐々に添加した。続いて、ジクミルパーオキシド(DCP)を二軸ロールミルのこの混合物に添加した。
【0120】
組成物Yは、41%がアクリロニトリルのブロックコポリマーである日本ゼオンのNBRゴムをベースとする。この組成物は、このポリマーと、各フィラー及び添加剤の組合せとを内部ミキサー内で40℃で混合することにより調製した。
【0121】
これらの組成物から、175℃で約25分間、約7MPaの圧力で板状体を圧縮成形した。次に、板状体から試料を切取り、低速焼熱条件で焼熱し上述のように試験した。
【0122】
架橋ゴムをベースとしたこれら組成物は、低速焼熱後、長さ寸法の変化が10%未満で且つ曲げ強度が2MPa超の自己支持性を有するセラミックを生成した。
【0123】
実施例8
この実施例は、本発明に係るポリマーエマルジョン/ディスパージョン組成物の調製に関する。表7の組成物を調製した。
【0124】
【表7】

【0125】
表7の水性分散配合物を次のようにして調製した。
組成物AAは、固体含有量55%、粘度2500cPのビニルアセテートホモポリマーエマルジョンであるアクロポール(Acropol)63−075(ニュープレックスレジンズ(Nuplex Resins))をベースとした。組成物ABは、エチルアクリレートとアクリロニトリルの各モノマーから形成されるプライマル(Primal)NWB−56(ロームアンドハース(Rohm and Haas))をベースとした。組成物ACは、固体含有量50%、粘度500cPのスチレンブチルアクリレート(コポリマー)ディスパージョンであるテキシクリル(Texicryl)13−092(ニュープレックスレジンズ(Nuplex Resins))をベースとした。いずれの場合も配合物中のポリマー含有量は、各エマルジョン/ディスパージョンの固体含有量に基づく。
【0126】
無機成分(APP、タルク及びATH)をまず手で混合し適切に混合した後、プロセスオイルを添加した。次に、エマルジョン/ディスパージョンをこの混合物に添加し、オーバーヘッドミキサーを用いて中程度の速度でディスパージョンヘッドアタッチメントを用いて約5分間よく混合し、ペースト状材料を生成した。このペーストをPETシートに塗布し室温で3日間空気乾燥させた。次に、得られた板状体から試料を切取り、実施例1の記載に従って低速条件で焼熱して実施例4の記載に従って試験した。
【0127】
ポリマーのエマルジョン/ディスパージョンをベースとしたこれら組成物はいずれも、低速焼熱後、長さ寸法の変化が10%未満で且つ曲げ強度が2MPa超の自己支持性を有するセラミックを生成した。
【0128】
実施例9
この実施例は、本発明に係るポリイミド(PI)組成物の調製に関する。表8の組成物を調製した。
【0129】
【表8】

【0130】
ポリイミドは次の方法によって調製した。
1.オキシジアナリン(oxydianaline)ビス(4−アミノフェニル)エーテルポリマー(ODA)0.04モル(8.01g)を、N,N−ジメチルアセタミド(DMAc)25gに溶解させ1時間攪拌した(透明な溶液が得られた)。
2.ピロメリト酸二無水物(PMDA)0.04モル(8.72g)を上述の溶液に添加し、この混合物を30分間攪拌した。DMAcを更に20gこの混合物に添加し混合を促進させた。均一で粘性のある混合物(ポリ(アミック酸)プレポリマー)が得られるまで、混合物を攪拌した。
3.無機成分を適切に混合し、この混合物をDMAc25gで湿らせた。
【0131】
次に、プレポリマーに無機成分を徐々に添加し表8の組成物ADを得、続いて45分間攪拌した。この混合物は均一で、ペイントのようなコンシステンシーの粘性があった。
【0132】
プレポリマーをベースとする組成物をペトリ皿に入れた後、次の熱プログラム:100℃で1時間、次に150℃で1時間、次に200℃で45分間、次に250℃で1時間、次にオーブン内で一晩徐冷、に従って試料を硬化させた。
【0133】
加熱中、ポリイミド溶液は混合物の表面に移動し薄く脆いポリマー層を形成した。このPIコンポジットは脆弱であった。
【0134】
2片のPI試料を実施例1の記載に従って低速焼熱条件で焼熱した。得られたセラミックは推定で15%収縮した。また、このセラミックは自己支持性を有し強いものであった。
【0135】
実施例10
この実施例は、本発明に係る熱硬化性樹脂の調製に関する。表9の熱硬化性樹脂を調製した。
【0136】
【表9】

【0137】
組成物AEは、まずエポキシモノマー(ハンツマンアラルダイト(Huntsman Araldite)CY179)をシクロアリファティック無水物(ハンツマンアラルダイト(Huntsman Araldite)HY906)と混合することによって調製した。この混合物を80℃で予熱し、次にタルク、アルミニウムトリハイドレート及びポリリン酸アンモニウムを連続的攪拌状態で添加した。このペースト状の未硬化混合物をアルミニウムプレートモールド(3mm(厚さ)×100mm×100mm)中に圧縮して、120℃で3時間硬化させ、続いて160℃で16時間あと硬化した。
【0138】
組成物AFは、ポリエステル樹脂(ハンツマンエスタレツ(Huntsman Estarez)1030 PALSE)と、ベンゾイルパーオキシド、タルク、アルミナ三水和物及びポリリン酸アンモニウムとを混合することにより調製した。この混合物を攪拌してむらのないペーストを生成し、このペーストをアルミニウムモールド(100×100×3mm(厚さ))中に圧縮して、50℃で12時間硬化させた。
【0139】
組成物AGは、ビニルエステル樹脂(ハンツマンエスタレツ(Huntsman Estarez)7222 PAS)と、ベンゾイルパーオキシド、タルク、アルミナ三水和物及びポリリン酸アンモニウムとを混合することにより調製した。この混合物を攪拌してむらのないペーストを生成し、このペーストをアルミニウムモールド(100×100×3mm(厚さ))中に圧縮して、35℃で18時間硬化させた。
【0140】
硬化された配合物から試験試料を切取り、次に低速焼熱条件で焼熱して上述のように試験した。これら組成物は、線収縮が10%未満で且つ曲げ強度が2MPa超の自己支持性を有するセラミックを生成した。
【0141】
実施例11
この実施例は、本発明に係る発泡ポリウレタン(PU)組成物の調製に関する。この発泡組成物は表10の組成物とした。
【0142】
【表10】

【0143】
表10の発泡組成物は、高速トルクミキサーを用いて500rpmで、1リットルビーカー中に無機成分とポリオール成分とを合一することにより調製した。次に、イソシアネート成分を添加し組成物が発泡し始めるまで攪拌し続けた。帯鋸を用いて約30×15×15mmの試料にカットする前に、この試料を少なくとも72時間室温で硬化させた。試料一組を低速焼熱条件で焼熱し上述のように試験した。これら材料の低密度の発泡した性質によって、セラミックの強度は比較的低かった。いずれの場合においても、長さ寸法の変化は30%未満でありセラミックは自己支持性を有した。
【0144】
実施例12
断面1.5mm2の銅製導電体を、自己セラミック化可能組成物R(表4)を単層(壁厚0.8mm)で絶縁した。この絶縁された導電体を、同様にして作製した他の絶縁された導電体3本と共に縒り合わせて、4本の絶縁された導電体のアッセンブリを形成した。
【0145】
次に、縒り合わされた絶縁導電体のアッセンブリを、市販のハロゲンフリーで低発煙且つ毒性の低い熱可塑性コンパウンドで被覆し完成したケーブルを形成した。次いで、このケーブルの3セグメントについて次の回路完全性試験を行った。
AS/NZS3013:1995
IEC60331 2002
BS6387 CatC、W、Z
【0146】
AS/NZS3013試験は、240ボルトで印加されるべきケーブルセグメントを必要とし、次いで、最終温度が1050℃に達する炉試験に2時間連続で付し、続いて3分間水ジェットスプレーに付した。
【0147】
前述のように作製・試験されたケーブルの3セグメントは、回路完全性を維持することができ、従って回路完全性試験AS/NZS3013:1995の要求性能を満たす。上述の組成物Rから作製したケーブルは、この試験の要求性能に十分合格した。
【0148】
IEC60331試験は、接地された金属リング上のリボンバーナーの上方に、ある長さのケーブルを支持することに関する。バーナーの温度を950℃に調整してから印加されたケーブルをバーナー上方の適切な位置に置く。そして、このケーブルはこの曝露に3時間耐えなくてはならない。上述の組成物Rから作製したケーブルは、この試験の要求性能に十分合格した。
【0149】
BS6387試験は3パートから成り、catCは、IEC60331試験とほぼ同一であり、catZは、30秒毎に機械的衝撃を与えながら950℃で15分間バーナーに曝露し、catWは、650℃で15分間バーナーに曝露した後、水スプレーとバーナーへの曝露とを同時に15分間行う。上述の組成物Rから作製したケーブルは、この試験の要求性能に十分合格した。
【図面の簡単な説明】
【0150】
【図1】本発明に係るセラミックを形成する絶縁層を有するケーブルの斜視図である。
【図2】本発明組成物がシースとして使用される多導電体ケーブルの斜視図である。
【図3】導電体要素の周りに本発明組成物が単層の絶縁層を形成する、本発明のケーブルの特に好ましい実施形態の斜視図である。
【図4】耐火性能物品の斜視図である。
【図5】図4の位置IIにおける断面である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
火災状況において耐火セラミックを生成するための自己セラミック化組成物であって、
(i)ミネラルシリケートを少なくとも10重量%と;
(ii)800℃以下の温度で液相を生成する少なくとも一種の無機ホスフェートを8重量%〜40重量%と;
(iii)自己セラミック化組成物の総重量に対して少なくとも15重量%の、有機ポリマーを少なくとも50重量%含むポリマーベース組成物と、を含む組成物。
【請求項2】
火災状況において経験される上昇した温度への曝露に際して自己支持性セラミックを生成する、請求項1に記載の自己セラミック化組成物。
【請求項3】
火災状況において耐火セラミックを生成するための自己セラミック化組成物であって、
i)有機ポリマーを少なくとも50重量%含むポリマーベース組成物を、自己セラミック化組成物の総重量に対して少なくとも15重量%と;
ii)800℃以下(好ましくは、500℃以下)の温度で液相を生成する少なくとも一種の無機ホスフェートを、自己セラミック化組成物の総重量に対して8重量%〜40重量%と;
iii)シリケートミネラルを、自己セラミック化組成物の総重量に対して少なくとも10重量%と;
iv)30%までの量の任意的な付加的無機フィラーとから基本的に構成され、火災状況において経験される上昇した温度への曝露に際して自己支持性を有するセラミックを生成する組成物。
【請求項4】
火災状況において経験される上昇した温度への曝露に際して、自己セラミック化組成物の矩形の試験試料の長さ方向に沿った長さ寸法の変化が20%未満である、請求項1又は請求項3に記載の自己セラミック化組成物。
【請求項5】
火災状況において経験される上昇した温度への曝露に際して、組成物の矩形の前記試験試料の長さ方向に沿った長さ寸法の変化が10%未満である、請求項1又は請求項3に記載の自己セラミック化組成物。
【請求項6】
火災状況において経験される上昇した温度への曝露に際して、自己セラミック化組成物の矩形の試験試料の長さ方向に沿った長さ寸法の変化が5%未満である、請求項1又は請求項3に記載の自己セラミック化組成物。
【請求項7】
火災状況において経験される上昇した温度への曝露に際して、組成物の矩形の試験試料の長さ方向に沿った長さ寸法の変化が1%未満である、請求項1又は請求項4に記載の自己セラミック化組成物。
【請求項8】
無機成分は組成物の総重量に対して少なくとも40重量%存在する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の自己セラミック化組成物。
【請求項9】
無機成分は組成物の総重量に対して少なくとも60重量%存在する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の自己セラミック化組成物。
【請求項10】
無機成分は組成物の総重量に対して少なくとも70重量%存在する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の自己セラミック化組成物。
【請求項11】
ポリリン酸アンモニウムは、組成物全体の20〜40重量%存在する、請求項1に記載の自己セラミック化組成物。
【請求項12】
ミネラルシリケートは組成物全体の少なくとも15重量%存在する、請求項1又は請求項3に記載の自己セラミック化組成物。
【請求項13】
アルミニウム、マグネシウム及びカルシウムの酸化物、水酸化物及び炭酸塩から成る群から選択される少なくとも一種の化合物を含む付加的な無機フィラー成分を更に含み、前記の付加的な無機フィラーの全体は自己セラミック化組成物全体の20重量%までを構成する、請求項1又は請求項3に記載の自己セラミック化組成物。
【請求項14】
付加的な無機フィラーは、水酸化マグネシウム、アルミナ三水和物、炭酸マグネシウム及び炭酸カルシウムから成る群から選択される少なくとも一種の化合物を含み且つ自己セラミック化組成物全体の5〜20重量%存在する、請求項13に記載の自己セラミック化組成物。
【請求項15】
炭酸カルシウムを組成物全体の5〜20重量%含む、請求項1又は請求項3に記載の自己セラミック化組成物。
【請求項16】
有機ポリマーは、熱可塑性ポリマー、熱硬化性ポリマー、熱可塑性エラストマー、架橋エラストマー及びゴムから成る群から選択される少なくとも一種のポリマーを含む、請求項1又は請求項3に記載の自己セラミック化組成物。
【請求項17】
有機ポリマーは、熱可塑性架橋ポリエチレン、そのコポリマー及びそれらの混合物から成る群から選択される少なくとも一種のポリマーを含み、該ポリマーは密度が890〜960g/リットルである、請求項16に記載の自己セラミック化組成物。
【請求項18】
無機フォーム膨張用膨張剤を本質的に含まない、請求項1又は請求項3に記載の自己セラミック化組成物。
【請求項19】
少なくとも一種の細長い機能的要素と、請求項1又は請求項3の自己セラミック化組成物を含む少なくとも一層の絶縁層とを含むケーブル。
【請求項20】
細長い機能的要素の周りに単層の絶縁層を含み、前記絶縁層は請求項1又は請求項3に記載の自己セラミック化組成物を含む、請求項19に記載のケーブル。
【請求項21】
単層の自己セラミック生成絶縁層は、機能的要素に当接する内面と開放された外面を有する、請求項20に記載のケーブル。
【請求項22】
単層の絶縁層はコーティングされていない外面を有する、請求項21に記載のケーブル。
【請求項23】
火災状況において経験される上昇した温度への曝露に際して、単層の絶縁層が自己支持性を有するセラミックを生成する、請求項19に記載のケーブル。
【請求項24】
単層の絶縁層の組成物は矩形の試験試料とした場合、火災状況において経験される上昇した温度への曝露に際して、その長さ方向に沿った長さ寸法の変化が20%未満である、請求項19に記載のケーブル。
【請求項25】
ポリリン酸アンモニウムは自己セラミック化組成物全体の8〜20重量%存在する、請求項19に記載のケーブル。
【請求項26】
自己セラミック化組成物は、水酸化マグネシウム、アルミナ三水和物、炭酸マグネシウム及び炭酸カルシウムから成る群から選択される少なくとも一種の化合物を含む5〜20%の付加的な無機フィラーを含む、請求項19に記載のケーブル。
【請求項27】
火災状況において経験される上昇した温度への曝露に際して、自己セラミック化組成物の矩形の試験試料の曲げ強度は少なくとも0.3MPaである、請求項1又は請求項3に記載の自己セラミック化組成物。
【請求項28】
火災状況において経験される上昇した温度への曝露に際して、曲げ強度は少なくとも1MPaである、請求項27に記載の自己セラミック化組成物。
【請求項29】
火災状況において経験される上昇した温度への曝露に際して、曲げ強度は少なくとも2MPaである、請求項27に記載の自己セラミック化組成物。
【請求項30】
請求項1又は請求項3の組成物から形成されるか或いは該組成物を含む耐火製品。
【請求項31】
受動的な耐火保護用途と、受動的な耐火保護性が要求される汎用エンジニアリング用途とに使用される、請求項30に記載の耐火製品。
【請求項32】
有機ポリマーが、ホモポリマーポリオレフィン、コポリマーポリオレフィン、ポリオレフィンエラストマー、ポリオレフィン樹脂、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレンターポリマーゴム(EPDM)、クロロスルホン化ポリエチレン及び塩素化ポリエチレン、ビニルポリマー、アクリル及びメタクリルポリマー、ポリアミド、ポリエステル、ポリイミド、ポリオキシメチレンアセタール、ポリカーボネート、ポリウレタン、天然ゴム、ブチルゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、エピクロロヒドリンゴム、ポリクロロプレン、スチレンポリマー、スチレン−ブタジエン、スチレン−イソプレン−スチレン、スチレン−ブタジエン−スチレン、スチレン−エチレン−ブタジエン−スチレン、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂及びメラミンホルムアルデヒドのうちの少なくとも一種を含むものである、請求項1に記載の自己セラミック化組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2007−530745(P2007−530745A)
【公表日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−505334(P2007−505334)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【国際出願番号】PCT/AU2005/000465
【国際公開番号】WO2005/095545
【国際公開日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(506317222)セラム ポリメリク ピーティーワイ エルティーディー (1)
【氏名又は名称原語表記】Ceram Polymerik Pty Ltd
【Fターム(参考)】