説明

耐火性潤滑グリース組成物

900℃以下の温度を有する表面と接触させた際に自己発火に対して抵抗性を有するか、及び/又は自己消火することができる耐火性潤滑グリース組成物を開示する。本発明は、主成分として、(1)基油(鉱油、植物油、合成油、又はこれらの組み合わせであってよい);(2)少なくとも1種類のグリース増稠剤(スルホン酸カルシウム又はリチウムベースの石鹸から選択される);及び(3)水;を含むグリース組成物を提供する。本発明はまた、グリース組成物の製造方法、並びに、本発明のグリース組成物を用いることを含む、ベアリング、ギヤ、表面、及び他の潤滑部品の潤滑方法も提供する。本発明のグリース組成物は優れた耐火特性を示し、温度及び負荷が高く、衝撃負荷が大きく、相当量の水の存在下の用途のための非常に優れた物理的特性及び性能特性をなお有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2008年6月2日出願の米国仮特許出願61/057,981、及び2008年6月13日出願のヨーロッパ特許出願08252046.1の利益を主張する。
[001]本発明は、概して、耐火性潤滑グリース組成物、グリース組成物の製造方法、並びに、ベアリング、ギヤ、表面、又は任意の他の潤滑部品における組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
[002]製鉄所においては、熱い溶鋼を熱鋼スラブ鋳造器セクションでスラブに形成する。連続スラブ鋳造器において、溶鋼を形成室に導入する。形成室から1以上の鋼スラブが現れ、固化した鋼の薄皮がそれらを一緒に保持する。これらの新しく形成される鋼スラブは、好適な材料移動手段上で形成室から運び出される。製鉄所のこのセクションにおけるこれらのスラブの温度は、通常は900℃の範囲内である。石油、植物油、又は合成油ベースの非耐火性グリースは、スラブと接触すると発火する。而して、製鉄所用途においては、特に連続鋳造セクションにおいては、耐火性グリースは非耐火性グリースよりも好ましい。
【0003】
[003]上述したように、非耐火性製鉄用グリースに関連する問題は、グリースが発火する可能性である。グリースの発火は、加熱溶融金属、定期的メンテナンス中のアセチレントーチ、並びに他の発火源から起こる可能性がある。グリースの発火の発生も減少させる高性能製鉄用グリースを有することが非常に望ましい。
【0004】
[004]グリース組成物がより耐火性である能力は、グリース組成物が意図する必要な潤滑特性を劣化させることなくグリース組成物中に導入しなければならない。
[005]Hackh's CHEMICAL DICTIONARY, 第4版, p.307によると、グリースは石鹸で増稠されている油であると定義されている。本明細書の目的のためには、従来のグリースは、必ずしも向上した耐火性のために変性されていないグリースであり、基油及び少なくとも1種類のグリース増稠剤を含むグリースとして定義される。従来のグリースはまた、更なる成分及び添加剤を含んでいてもよい。本明細書の目的のためには、耐火性又は改良された耐火性を有するものとして示されるグリース組成物は、以下の2つの品質:(1)グリース組成物は所期の周囲使用温度において自発的に発火(炎を発生して燃焼)せず、則ちグリース組成物は例えば900℃以下の温度を有する表面と接触しても発火しない;(2)グリース組成物が発火する場合には、炎が所定の時間内に自然消火する;の少なくとも1つを有するグリース組成物として定義される。他に示さない限りにおいて、本発明の目的のためには、所定の時間は5分間である。
【0005】
[006]改良された耐火性潤滑グリース組成物、特に従来技術よりも高い温度において耐火性であるものに対する必要性は、長年にわたる研究及び特許活動の課題であり、かかる活動は今日でも継続している。Dodsonらの米国特許4,206,061及びDouglas G. Placekの米国特許5,128,067は、耐火性ホスフェートエステルベースのグリースに関する。これらの特許において記載されているように、このグリースは、基油の粘度がベアリングの速度及び寸法によって必要とされるように制限される。また、適用条件下においては、ホスフェートエステルは水の存在下で加水分解を受けてグリースの早期分解を引き起こす可能性があり、このために劣った潤滑が与えられてベアリングの使用寿命の短縮を引き起こす。Dodsonらの米国特許4,206,061の1つのグリース組成物は、650℃に保持したホットプレート上に配置した際に自然発火しなかった(4欄31〜34行)。
【0006】
[007]文献番号JP−2004067843及びJP−2006225597を有する公開日本特許出願は、最低で270℃の高い基油の引火点(JP−2004067843の英文抄録、JP−2006225597に関する機械翻訳の3頁)及び高い粘度(40℃において最低で300cSt)を有する従来のグリース組成物に関する。これらの特許出願のグリースは、自己消火性又は難燃性のグリースとして記載されている。これらの出願は、発火する可能性があるが、これらの2つの公報において記載されている耐火性試験によると5分より長い時間炎を維持しないグリース組成物に関する。
【0007】
[008]文献番号JP−2002146376を有する公開日本特許出願は、水吸収性ポリマー及び水を更に含む従来のグリースに関する。この公報においては更に、これらの更なる成分によってグリースに対して耐火特性が与えられることが報告されている。この公報においては更に、この発明のグリースは500〜600℃の高さの温度において発火しないことが報告されている(英文抄録を参照)。しかしながら、この公開出願では、次に、グリースの通常の使用寿命中に吸収性ポリマーから水が放出されるのでグリースの潤滑性が損なわれることが示されている。
【0008】
[009]文献番号JP−2007277459を有する公開日本特許出願においては、ホスフェートエステル、鉱油、ポリα−オレフィン(PAO)、或いはこれらの組み合わせ、並びにスルホン酸カルシウムを含む種々の増稠系をベースとするグリースが開示されている。この公開出願においては、グリースが少なくとも71重量%のホスフェートエステルを含むならば、修正耐火性試験法によって950℃までの温度において発火しないことが報告されている(機械翻訳の0015及び0040段落)。
【0009】
[0010]Richard L. McMillenの米国特許3,242,079によれば、必要な成分の中でとりわけスルホン酸カルシウムを含むグリース組成物の製造において、相当量の水(又は水/アルコール混合物)を用いる。しかしながら、6欄の実施例Iにおいては、グリースを加熱し、吹き付け乾燥していて、最終グリース組成物中には水は残留していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許4,206,061
【特許文献2】米国特許5,128,067
【特許文献3】特開2004−067843号公報
【特許文献4】特開2006−225597号公報
【特許文献5】特開2002−14376号公報
【特許文献6】特開2007−277459号公報
【特許文献7】米国特許3,242,079
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Hackh's CHEMICAL DICTIONARY, 第4版, p.307
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
[0011]耐火性グリース組成物の課題について上記に参照した文献は、この技術分野における研究及び特許活動が未だ活発な研究領域であることを示している。より高い性能を有し及び/又はより経済的な耐火性グリース組成物が必要であり、需要がある。本発明は、高い性能を有し、安全で、低コストの耐火性グリース組成物の開発における更なる努力及び前進を示す。
【課題を解決するための手段】
【0013】
[0012]900℃以下の温度を有する表面と接触させた際に、自己発火に対して抵抗性か及び/又は自己消化することができる耐火性潤滑グリース組成物を開示する。本発明は、主成分として、(1)基油(鉱油、植物油、合成油、又はこれらの組み合わせであってよい);(2)少なくとも1種類のグリース増稠剤(スルホン酸カルシウム及びリチウムベースの石鹸からなる群から選択される);及び(3)水;を含むグリース組成物を提供する。本発明はまた、(a)基油及び少なくとも1種類のグリース増稠剤を提供し、これらの成分を、混合及び粉砕を含むブレンド処理にかけ;(b)水を少しずつ加え、水を既に存在している成分と共に混合及び場合によっては粉砕し;(c)場合によっては、更なる水を少しずつ加え、水を既に存在している成分と共に混合及び場合によっては粉砕し;(d)場合によっては、固体潤滑剤、水結合剤、更なるグリース添加剤、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1種類の更なる成分を添加し、これらの更なる成分を既に存在している成分と共に混合及び場合によっては粉砕し;そして(e)先行する工程からの生成物組成物中の全ての成分をホモジナイズする;ことを含む、グリース組成物の製造方法も提供する。本発明はまた、本発明のグリース組成物を用いることを含む、ベアリング、ギヤ、表面、及び他の潤滑部品の潤滑方法も提供する。本発明のグリース組成物は、優れた耐火特性を示し、温度及び負荷が高く、衝撃負荷が大きく、相当量の水の存在下の用途のための非常に優れた物理的特性及び性能特性をなお有している。本発明の耐火性潤滑グリースは、非耐火性グリースよりも安全で毒性でない。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[0013]本発明の記載全体にわたって及び特許請求の範囲において、「含む」という用語を頻繁に用いていることに留意すべきである。本明細書及び特許請求の範囲において用いる「含む」は、「示されている提示された特徴、整数値、工程、又は成分の存在を規定するが、1以上の他の工程、成分、又はそれらの群の存在又は付加を排除しない」ものとして定義される。「含む」は、1以上の他の工程、成分、又はそれらの群の存在又は付加を排除する「から構成される」とは異なる。
【0015】
[0014]900℃以下の温度を有する表面と接触させた際に自己消化を行うことができるか及び/又は発火に対して抵抗性の耐火性潤滑グリース組成物を開示する。本発明は、主たる必須成分として、(1)基油(鉱油、植物油、合成油、又はこれらの組み合わせであってよい);(2)スルホン酸カルシウム又はリチウムベースの石鹸から選択される少なくとも1種類のグリース増稠剤;及び(3)水;を含むグリース組成物を提供する。本発明のグリース組成物は優れた耐火特性を示し、温度及び負荷が高く、衝撃負荷が大きく、相当量の水の存在下の用途のための非常に優れた物理的特性及び性能特性をなお有している。本発明の耐火性潤滑グリースは、非耐火性グリースよりも安全で毒性が少ない。
【0016】
[0015]スルホン酸カルシウム増稠剤を含むグリース組成物は、本発明の一態様を示す。スルホン酸カルシウムグリースは、それらの優れた耐熱酸化性、負荷容量、剪断安定性、耐水性、及び腐食抑制特性に関して知られている。これらの特徴によって、このタイプのグリースは、製鉄所及び製紙工場、ガラス及びセラミックプラント、並びに周囲条件の要求が厳しく、潤滑システムの作動区域雰囲気中に高温装置を存在させることを伴う食品産業用途に良く適している。
【0017】
[0016]一態様においては、本発明は、
(1)20〜80重量%の範囲の基油;
(2)20〜80重量%の範囲の合計量の、スルホン酸カルシウム及びリチウムベースの石鹸からなる群から選択される少なくとも1種類のグリース増稠剤;及び
(3)スルホン酸カルシウムから選択されるグリース増稠剤を含む組成物に関しては5〜75重量%の範囲、リチウムベースの石鹸から選択されるグリース増稠剤を含む組成物に関しては5〜50重量%の範囲の濃度の水;
を含む耐火性潤滑グリース組成物を開示する。
【0018】
[0017]グリース組成物には、0重量%より多く30重量%まで、例えば0.2〜30重量%の範囲の合計量の少なくとも1種類の固体潤滑剤を更に含ませることができる。
[0018]グリース組成物には、0重量%より多く15重量%まで、例えば0.2〜15重量%の合計量の少なくとも1種類の水結合剤を更に含ませることができる。
【0019】
[0019]グリース組成物には、0重量%より多く15重量%まで、例えば0.2〜15重量%の合計量の少なくとも1種類の更なるグリース添加剤を更に含ませることができる。
[0020]基油は、鉱油、植物油、合成油、及び前記の組み合わせから選択される任意の好適な油であってよい。グリースの製造において用いる鉱油は、パラフィン油、ナフテン油、及び混合基原油から誘導される任意の精製基材料であってよい。用いることのできる合成油としては、合成炭化水素、例えばポリα−オレフィン、エステル、ポリオールエステル、ポリグリコール、アルキル芳香族物質、並びに炭化水素ベースのポリマー、例えばポリブテン、ポリイソブテン、ポリスチレン、オリゴマーオレフィン、ポリメタクリレート、ポリアクリレートなどが挙げられる。基油は、製鉄所、製紙工場などにおいて遭遇する潜在的に厳しい環境において使用するために必要な粘度及び他の必要条件を満足しなければならない。好適な基油としては、40℃において20cSt乃至40℃において20,000cStの範囲の粘度を有するものが挙げられる。好適な基油は商業的に入手することができ、570及び600のニュートラル油、150のブライトストック、シリンダーオイル、750のナフテン油、ナフテンブライトストックなどが挙げられる。
【0020】
[0021]スルホン酸カルシウムで増稠したグリースは、それらの優れた耐熱酸化性、負荷容量、剪断安定性、耐水性、及び腐食抑制特性に関して当該技術において公知である。これらの特徴によって、このタイプのグリース及びグリース増稠剤は、製鉄所及び製紙工場、ガラス及びセラミックプラント、及び周囲条件の要求が厳しい食品産業用途に良く適している。スルホン酸カルシウム増稠剤は、非常に極性であり、グリース中の水に対して強い親和性を示す。
【0021】
[0022]スルホン酸カルシウム増稠剤は、アルキルアリールスルホン酸又はアルケニルアリールスルホン酸の中和によって製造することができる。アルキル及びアルケニル基は線状又は分岐であってよい。アルキル及びアルケニル基は12〜24個の炭素原子を有していてよい。アリール基はベンジル又はナフチルであってよい。ナフチル基は、通常は2つの環を有する。最も通常的なスルホン酸カルシウムは、線状アルキルベンジルスルホネートをベースとするものである。
【0022】
[0023]スルホン酸カルシウム増稠剤は、リチウム石鹸増稠剤、リチウムコンプレックス石鹸増稠剤、カルシウム石鹸増稠剤、カルシウムコンプレックス石鹸増稠剤、アルミニウムコンプレックス石鹸増稠剤、ナトリウム石鹸増稠剤、ナトリウムテレフタラメート石鹸増稠剤、バリウム石鹸増稠剤、バリウムコンプレックス増稠剤、有機増稠剤、無機増稠剤、及びこれらの組み合わせの群から選択される少なくとも1種類の更なる増稠剤と組み合わせて存在させることができる。
【0023】
[0024]リチウムベース石鹸増稠剤は、スルホン酸カルシウム増稠剤、カルシウム石鹸増稠剤、カルシウムコンプレックス石鹸増稠剤、アルミニウムコンプレックス石鹸増稠剤、ナトリウム石鹸増稠剤、ナトリウムテレフタラメート石鹸増稠剤、バリウム石鹸増稠剤、バリウムコンプレックス石鹸増稠剤、有機増稠剤、無機増稠剤、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1種類の更なる増稠剤と組み合わせて存在させることができる。
【0024】
[0025]好適な有機増稠剤は、ポリ尿素、ポリテトラフルオロエチレン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択することができる。
[0026]好適な無機増稠剤は、ベントナイト、及びシリカ、並びにこれらの組み合わせからなる群から選択することができる。
【0025】
[0027]リチウムベース石鹸増稠剤は、脂肪酸、通常は12−ヒドロキシステアリン酸又はステアリン酸、及びグリース増稠剤として作用する単純な石鹸を生成するリチウム基剤から製造することができる。リチウムベースコンプレックス増稠剤は、同様の方法で、脂肪酸の一部を他の酸(通常は二酸)で置き換えることによって製造することができる。
【0026】
[0028]基油及び増稠剤によって別々に出発してグリース組成物を製造する方法に代わるものとして、基油及び少なくとも1種類のグリース増稠剤を含む従来のグリースを出発成分として用いることができることが見出された。かかる従来のグリースを用いると、基油及びグリース増稠剤を別々に測定及び提供する工程を不要にすることができる。かかる従来のグリースは商業的に入手することができる。商業的に入手でき、既に好適な基油及びグリース増稠剤を満足できる重量比で含んでいるこれらの従来のグリースの例としては、Chemtura、Chemtool、ExxonMobil、及びAtofinaから入手できるものが挙げられる。
【0027】
[0029]グリース組成物中において用いる水に関する重要な必要条件は、水中の不要の不純物がグリースの潤滑性を妨げず、かつグリース中の水が難燃剤として働く能力を減少させないような十分な量でなければならないということである。グリース組成物中において安価で容易に入手できる都市水道水を用いることで完全に満足できることが分かった。更に、脱イオン水、脱塩水、蒸留水、或いは電場又は磁場処理にかけた水のようなより高価な水を用いても有利性は得られないことが分かった。グリースの含水量が5重量%未満であるとグリースはその難燃性の大部分を失うので、グリース組成物中の含水量に関する下限範囲が定められる。グリースの含水量が増加すると4球試験(ASTM−D2596)によって測定される負荷容量の低下がもたらされるので、含水量に関する上限範囲が定められる。
【0028】
[0030]水の濃度は、スルホン酸カルシウムから選択されるグリース増稠剤を含む組成物に関しては5〜75重量%の範囲、リチウムベースの石鹸から選択されるグリース増稠剤を含む組成物に関しては5〜50重量%の範囲である。しかしながら通常の実施においては、グリース組成物の含水量に関する操作限界は5〜50重量%の範囲である。耐火性グリースの含水量に関する好ましい範囲は、5〜20重量%の範囲である。含水量に関する更により好ましい範囲は5〜10重量%であり、含水量に関する特に好ましい範囲は6〜9重量%である。
【0029】
[0031]グリース組成物中に固体潤滑剤を含ませると負荷容量の低下を軽減するように働くが、これは一般にグリースの含水量がグリース組成物の50重量%を超えないグリース組成物に限られる。しかしながら、スルホン酸カルシウムから選択される増稠剤を含むグリース組成物は、50重量%より多く75重量%以下の含水量を許容することができる。
【0030】
[0032]スルホン酸カルシウム増稠剤を含むグリース組成物は、少なくとも260℃の滴点を有することができる。リチウムベース石鹸増稠剤を含むグリース組成物は、少なくとも149℃の滴点を有することができる。しかしながら、基油の粘度、NLGI(National Lubricating Grease Institute)のグレード、及び添加剤の量が滴点に影響を与える可能性がある。
【0031】
[0033]本発明の耐火性で水を含むグリース組成物の少なくとも2つの一般的な製造方法が存在する。
[0034]一態様においては、本発明のグリース組成物は、基油、増稠剤、及び水を別々に供給することによって製造することができる。代表的な製造においては、基油及び増稠剤を混合及び粉砕にかける。この時点又はそれよりも後の工程中のいずれかにおいて、場合によっては固体潤滑剤、水結合剤、及び更なるグリース添加剤を、基油及び増稠剤の混合物に加えることができる。水は以下に記載するように少しずつ加える。しかしながら、プロセスの順番は重要ではなく、水を混合及び随意の粉砕の前に加えても満足できる結果を得ることができる。水は、90℃未満の温度、例えば20℃乃至90℃未満の温度において基油及び増稠剤の混合物に加えなければならない。水の1回の添加量は、グリース組成物の重量の5重量%以下であってよい。最終グリース組成物に関する所期含水量が5重量%よりも多い場合には、水は、組成物中の水の所期量が達成されるまで、例えば5.0重量%以下で少しずつ添加しなければならない。水の初めの1回又は複数回の添加分を、既に存在している成分(基油及び増稠剤)と共に、低速で、全ての水の完全な吸着が達成されるまで混合及び場合によっては粉砕する。次に、必要な場合には、例えばグリース組成物の重量の5.0重量%以下の水の更なる1回又は複数回の添加分を加える。再び、水を、既に存在している成分(基油、増稠剤、及び水の最初の添加分)と共に、低速で、全ての水の完全な吸着が達成されるまで混合及び場合によっては粉砕する。この水の漸次添加並びに混合及び場合によっては粉砕を、所望量の水が他の成分に加えられるまで繰り返す。水を加えた後に粉砕を行う場合には、粉砕操作中の過度の温度上昇を避けるように特別な注意を払わなければならない。耐火性グリース組成物の温度は、製造プロセス中において90℃より低く保持しなければならない。随意工程として、所望の場合に、且つ既に以前に加えていない場合には、他の場合によって用いる更なるグリース添加剤を混合物に加えることができ、この場合には次に水を含むグリースをホモジナイズしなければならない。ブレンド、水の添加、混合、粉砕、及びホモジナイズ中の成分の温度は、90℃未満の温度、例えば20℃乃至90℃未満の温度に保持しなければならない。
【0032】
[0035]或いは、本発明のグリース組成物は、既に基油及び少なくとも1種類のグリース増稠剤を好適な割合で含む従来のグリースを提供することによって製造することができる。かかる場合においては、本発明の水を含むグリースの製造は、1つ又は複数の水添加工程に直接進むことができる他は、上記に示す手順と同様である。水添加の前か又はその後の工程中において、場合によって用いる固体潤滑剤、水結合剤、更なるグリース添加剤、及びこれらの組み合わせを従来のグリースに加えることができる。上記のプロセスと同様に、水は、90℃未満の温度、例えば20℃乃至90℃未満の温度において基油及び少なくとも1種類のグリース増稠剤を含む従来のグリースに加えなければならない。最終グリース組成物に関する所期含水量が5重量%よりも多い場合には、水は、例えばグリース組成物の重量の5.0重量%以下で少しずつ加えなければならない。全ての水が完全に吸着するまで、従来のグリース及び水を低速で混合及び場合によっては粉砕する。次に、必要な場合には、例えばグリース組成物の重量の5.0重量%以下の水の更なる添加分を加える。ここでも、全ての水が完全に吸着するまで、水を既に存在する成分(従来のグリース及び水)と共に低速で混合及び場合によっては粉砕する。所望量の水が他の成分に加えられるまで、水の漸次添加、混合、及び場合によっては粉砕を繰り返す。水を加えた後に粉砕を行う場合には、粉砕操作中の過度の温度上昇を避けるように特別な注意を払わなければならない。耐火性グリースの温度は、製造プロセス中において90℃より低く保持しなければならない。随意工程として、所望の場合に、且つ既に以前に加えていない場合には、他の場合によって用いる更なるグリース添加剤を混合物に加えることができ、この場合には次に水を含むグリースをホモジナイズしなければならない。ブレンド、水の添加、混合、粉砕、及びホモジナイズ中の成分の温度は、90℃未満、例えば20℃乃至90℃未満の温度に保持しなければならない。
【0033】
[0036]上述したように、高含水量のグリース組成物は、負荷容量の減少を起こしやすい。必要な場合にはグリース組成物中に場合によって固体潤滑剤を加えると、高含水量のグリース組成物に関する負荷容量の損失を軽減するように働く。この目的のために好適な固体潤滑剤の非網羅的なリストとしては、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、硫化ビスマス、硫化スズ、硫化亜鉛、ピロリン酸亜鉛、酸化亜鉛、酸化チタン、亜硝酸ホウ素、炭酸カルシウム、天然又は合成グラファイト、及びこれらの組み合わせが挙げられる。固体潤滑剤は、一般に水を加える前の耐火性グリース組成物の製造中に加えるが、成分の添加順序は水含有グリース組成物の製造において重要なファクターではない。
【0034】
[0037]スルホン酸カルシウムで増稠したグリースは、非常に極性であり、水をグリース組成物中に受容するための強い親和性を示す。必要な場合には、特に高含水量のグリース組成物中においては、少なくとも1種類の水結合剤を加えることによって、スルホン酸カルシウムのこの極性を強化するか、或いはリチウムベースの増稠剤を用いる場合には水に対する親和性を増加させることが有用であることが分かった。かかる水結合剤としては界面活性剤が挙げられる。好適な水結合剤の非限定的なリストとしては、ポリグリコール、ポリグリコールエーテル、エステル、ポリオールエステル、及び石油又は合成スルホネートが挙げられる。これらの水結合剤は、個々か又は組み合わせて耐火性グリース組成物中に含ませることができる。水結合剤は、一般に水を加える前の耐火性グリース組成物の製造中に加えるが、成分の添加順序は、本発明の水含有グリース組成物の製造において重要なファクターではない。
【0035】
[0038]場合によっては、1以上の更なるグリース添加剤を本発明のグリース組成物中に含ませることができる。数多くのグリース添加剤が当該技術において公知であり、これらをグリース組成物中に含ませて、最終グリース組成物に対して所望の特性を与える。中でも、これらの更なるグリース添加剤としては、上述の固体潤滑添加剤に加えて、極圧添加剤、耐摩耗添加剤、構造修正剤、分散剤、酸化防止添加剤、防錆剤、粘着性付与剤、滴点降下剤、及び粘度指数改良剤が挙げられる。これらの他のグリース添加剤は、一般に水を加える前の耐火性グリース組成物の製造中に加えるが、成分の添加順序は水含有グリース組成物の製造において重要なファクターではない。
【0036】
[0039]固体潤滑剤、水結合剤、更なるグリース添加剤、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される場合によって用いる更なる成分は、水を加える前、水の添加と一緒、水を加えた後、及びこれらの組み合わせから選択される工程中に混合することができる。
【0037】
[0040]本発明の製造方法において出発成分として用いることができる基油及び少なくとも1種類以上のグリース増稠剤を含む従来のグリース中に1種類の更なるグリース添加剤を存在させることができる。
【0038】
[0041]本発明の又は本発明方法によって製造されるグリース組成物は、ベアリング、ギヤ、表面、及び他の潤滑部品の潤滑方法において用いることができる。2008年6月2日出願の米国仮特許出願61/057,981、及び2008年6月13日出願のヨーロッパ特許出願08252046.1は、その全部を参照として本明細書中に包含する。
【0039】
[0042]ここで、本発明を、例示のみの目的で、以下の実施例を参照して説明する。
【実施例】
【0040】
実施例I:
[0043]以下のようにして耐火性グリース組成物(1600g)を調製した。商業的に入手できる従来のスルホン酸カルシウムグリース(1416g)を雰囲気温度においてグリースミキサーに充填し、続いてミキサーを低速で始動させた。40.0gの量の超微粒二硫化モリブデンをグリースに加え、高速で30分間混合した。24.0gの量の天然グラファイトを加え、高速で更に30分間混合した。混合速度を低下させて水吸着を行わせながら、水道水の80.0gの添加分(最終耐火性グリース組成物の重量の5重量%である)を加え、その後水道水の40.0gの第2の添加分(最終耐火性グリース組成物の2.5重量%である)をミキサーに加えた。以下においてAB08−112と示す最終の完全に配合されたグリース組成物は以下の通りであった。
【0041】
基油及びスルホン酸カルシウム増稠剤:88.5重量%;
二硫化モリブデン:2.5重量%;
天然グラファイト:1.5重量%;
水道水:7.5重量%;
合計:100.0重量%。
【0042】
グリース組成物試料AB08−112を、耐火性グリースのために必要な所定の仕様をどのくらい良好に満足しているかを確認するために一連の試験にかけた。これらの試験の結果を表1に示す。グリースの耐火性を確実に測定するための試験は、日本特許文献JP2004067843及びJP2006225597において報告されている。組成物AB08−112のグリース耐火性を測定するために、この報告されている試験の修正バージョンを用いた。試験手順の完全な説明を以下に示す。
【0043】
グリース耐火性試験手順:
(1)直径19.05mmの鋼球を、900℃のマッフル炉内で少なくとも15分間加熱する。
【0044】
(2)67.5mmの円形の孔及び5.00mmの深さを有する円筒形の金属容器に、試験するグリースを充填する。グリースの頂面をスパチュラによって可能な限り平坦にならす。
【0045】
(3)グリース試料を含む金属容器を、マッフル炉に非常に近接近させたドラフト内の平坦な耐熱表面上に配置する。
(4)マッフル炉を開放する。加熱された鋼球を炉から素早く取り出し、直ちに試料グリース表面上の試料の中央に注意深く落下させる。
【0046】
(5)グリース試料中に炎が発生したら直ぐにストップウォッチを始動させる。炎が完全に自己消化するのに要する時間を記録する。炎が5分以内に消火しなかった場合には、試験を終了する。
【0047】
(6)新しいグリース試料及び新しい加熱球を用いて、上記の工程を更に2回繰り返す。3回の試験運転の平均時間を記録する。
【0048】
【表1】

【0049】
実施例II:
[0044]実施例Iに関するものと同様の方法で第2の耐火性グリース組成物(これも1600g)を調製した。この試料は、1520gの従来のスルホン酸カルシウムグリース、及び80.0gの水道水から構成されていた。固体潤滑剤は加えなかった。以下においてAB08−112aと示す最終の完全に配合されているグリース組成物は以下の通りであった。
【0050】
基油及びスルホン酸カルシウム増稠剤:95.0重量%;
水道水:5.0重量%;
合計:100.0重量%。
グリースAB08−112aを、実施例Iに関して記載した耐火性試験にかけた。結果を表2に示す。
【0051】
実施例III:
[0045]実施例Iに関するものと同様の方法で第3の耐火性グリース組成物(これも1600g)を調製した。この試料は、800gの従来のスルホン酸カルシウムグリース、及び800.0gの水道水から構成されていた。800.0gの水道水を、それぞれ80.0gの10回の別々の添加分で加えてグリースと共に混合した。固体潤滑剤は加えなかった。以下においてAB08−112bと示す最終の完全に配合されているグリース組成物は以下の通りであった。
【0052】
基油及びスルホン酸カルシウム増稠剤:50.0重量%;
水道水:50.0重量%;
合計:100.0重量%。
グリースAB08−112bを、実施例Iに関して記載した耐火性試験にかけた。結果を表3に示す。
【0053】
実施例IV:
[0046]実施例Iに関するものと同様の方法で、リチウムコンプレックス増稠剤をベースとする他の5種類の耐火性グリース組成物を調製した。この試料は、基油、及び二硫化モリブデン及びグラファイトを含む2.65重量%の固体潤滑剤を含む1480gの従来のリチウムコンプレックスグリースから構成されていた。リチウムコンプレックスグリースをミキサーに充填し、続いてこれを低速で始動させた。80gの添加分の水道水をミキサーに加え、水が吸収されるまで混合を低速で継続した。次に40gの更なる添加分の水道水をミキサーに加えた。全ての水が吸収されるまで最終混合を低速で継続し、これには更に60分間の混合を要した。更なる固体潤滑剤は加えなかった。上述の実施例と同じように、水を含むグリースを実験用石製Morehouse粉砕器内でホモジナイズにかけた。以下においてAB08−113と示す最終の完全に配合されているグリース組成物は以下の通りであった。
【0054】
固体物質を含むリチウムコンプレックスグリース:92.50重量%;
水道水:7.50重量%;
合計:100.0重量%。
【0055】
グリースAB08−113を、実施例II及びIIIに関して記載した試験にかけた。結果を表4に示す。
[0047]表1〜4におけるデータは、完全に配合されたグリース組成物AB08−112、AB08−112a、AB08−112b、及びAB08−113は、耐火性グリースに関する仕様を満足しており、特に耐火性に関しては、試験手順中に炎は観察されなかった。上記のグリース組成物は本発明の好ましい態様を示すが、本発明はこれらの細かな態様には限定されず、特許請求の範囲において規定する本発明の範囲から逸脱することなくそれらにおいて変更を行うことができることを理解すべきである。
【0056】
【表2】

【0057】
【表3】

【0058】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)20〜80重量%の範囲の基油;
(2)20〜80重量%の範囲の合計量の、スルホン酸カルシウム及びリチウムベースの石鹸からなる群から選択される少なくとも1種類のグリース増稠剤;及び
(3)スルホン酸カルシウムから選択されるグリース増稠剤を含む組成物に関しては5〜75重量%の範囲、リチウムベースの石鹸から選択されるグリース増稠剤を含む組成物に関しては5〜50重量%の範囲の濃度の水;
を含む耐火性潤滑グリース組成物。
【請求項2】
0重量%より多く30重量%までの範囲の合計量の少なくとも1種類の固体潤滑剤を更に含む、請求項1に記載の耐火性潤滑グリース組成物。
【請求項3】
0重量%より多く15重量%までの範囲の合計量の少なくとも1種類の水結合剤を更に含む、請求項1又は2に記載の耐火性潤滑グリース組成物。
【請求項4】
0重量%より多く15重量%までの範囲の合計量の少なくとも1種類の更なるグリース添加剤を更に含む、請求項1〜3のいずれかに記載の耐火性潤滑グリース組成物。
【請求項5】
基油が、鉱油、植物油、合成油、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1〜4のいずれかに記載の耐火性潤滑グリース組成物。
【請求項6】
基油が40℃において20〜20,000cStの範囲の粘度を有する、請求項1〜5のいずれかに記載の耐火性潤滑グリース組成物。
【請求項7】
スルホン酸カルシウム増稠剤が、リチウム石鹸増稠剤、リチウムコンプレックス石鹸増稠剤、カルシウム石鹸増稠剤、カルシウムコンプレックス石鹸増稠剤、アルミニウムコンプレックス石鹸増稠剤、ナトリウム石鹸増稠剤、ナトリウムテレフタラメート石鹸増稠剤、バリウム石鹸増稠剤、バリウムコンプレックス増稠剤、有機増稠剤、無機増稠剤、及びこれらの組み合わせの群から選択される少なくとも1種類の更なる増稠剤と組み合わさって存在している、請求項1〜6のいずれかに記載の耐火性潤滑グリース組成物。
【請求項8】
リチウムベース石鹸増稠剤が、スルホン酸カルシウム増稠剤、カルシウム石鹸増稠剤、カルシウムコンプレックス石鹸増稠剤、アルミニウムコンプレックス石鹸増稠剤、ナトリウム石鹸増稠剤、ナトリウムテレフタラメート石鹸増稠剤、バリウム石鹸増稠剤、バリウムコンプレックス石鹸増稠剤、有機増稠剤、無機増稠剤、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1種類の更なる増稠剤と組み合わさって存在している、請求項1〜6のいずれかに記載の耐火性潤滑グリース組成物。
【請求項9】
有機増稠剤が、ポリ尿素、ポリテトラフルオロエチレン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択され、及び/又は、無機増稠剤が、ベントナイト、及びシリカ、並びにこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項7又は8に記載の耐火性潤滑グリース組成物。
【請求項10】
水が、5〜50重量%の範囲、好ましくは5〜20重量%の範囲、より好ましくは5〜10重量%の範囲で存在している、請求項1〜9のいずれかに記載の耐火性潤滑グリース組成物。
【請求項11】
以下の
(a)基油及び少なくとも1種類のグリース増稠剤を提供し、これらの成分を、混合及び粉砕を含むブレンド処理にかけ;
(b)水を少しずつ加え、水を既に存在している成分と共に混合及び場合によっては粉砕し;
(c)場合によっては、更なる水を少しずつ加え、水を既に存在している成分と共に混合及び場合によっては粉砕し;
(d)場合によっては、固体潤滑剤、水結合剤、更なるグリース添加剤、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1種類の更なる成分を加え、これらの更なる成分を既に存在している成分と共に混合及び場合によっては粉砕し;そして
(e)先行する工程からの生成物組成物中の全ての成分をホモジナイズする;
工程を含む、請求項1〜10のいずれかに記載の耐火性潤滑グリース組成物の製造方法。
【請求項12】
工程(a)の代わりに、基油及び少なくとも1種類のグリース増稠剤を含む従来のグリースを出発成分として提供する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
工程(d)の場合によって用いる更なる成分を、水を加える前、水の添加と一緒、水を加えた後、及びこれらの組み合わせから選択される段階において混合する、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
成分を、ブレンド中、水の添加中、混合中、粉砕中、及びホモジナイズ中において、90℃未満の温度に保持する、請求項11〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
請求項1〜10のいずれかに記載か、或いは請求項11〜14のいずれかに記載の方法によって製造されるグリース組成物を用いることを含む、ベアリング、ギヤ、表面、及び他の潤滑部品の潤滑方法。

【公表番号】特表2011−522109(P2011−522109A)
【公表日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−512557(P2011−512557)
【出願日】平成21年6月1日(2009.6.1)
【国際出願番号】PCT/US2009/045789
【国際公開番号】WO2009/148993
【国際公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(593136890)カストロール・リミテッド (4)
【氏名又は名称原語表記】CASTROL LIMITED
【Fターム(参考)】