説明

耐火物の接合部構造

【課題】上下の耐火物の接合部に水平方向に貫通する隙間が発生することを防止できる耐火物の接合部構造を提供すること
【解決手段】円形の内孔を有する耐火物どうしを内孔の中心が一致するように上下に接合した耐火物の接合部構造であって、上下の耐火物うち一方の耐火物30の接合面に内孔31と同心円状の環状凸部32を有すると共に、上下の耐火物うち他方の耐火物20の接合面に環状凸部32と嵌り合う環状凹部22を有し、環状凸部32と環状凹部22との嵌り合い部が接合面に対して70〜90°の角度θを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐火物の接合部構造に関し、とくに、スライディングノズル装置(以下「SN装置」という。)における上ノズルと上プレートの接合部のように、円形の内孔を有する耐火物どうしを内孔の中心が一致するように上下に接合した耐火物の接合部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
耐火物は、一般的に温度変化のある環境下で繰り返し使用される。このように温度変化のある環境下で使用されると、耐火物を上下に接合した接合部は、上下の耐火物の熱膨張・熱収縮により、その上下方向の間隔が変化する。すなわち、耐火物の使用時の高温下では接合部の間隔は縮小するが、使用後に温度が下がると接合部の間隔は拡大する。
【0003】
耐火物の接合部には一般的に目地材(モルタル)が施工されるが、耐火物の繰り返し使用により、上述のように接合部の間隔が拡大・縮小を繰り返すと目地材に亀裂が生じて水平方向に貫通する隙間が生じる。耐火物の接合部に隙間が生じると、例えばSN装置における上ノズルと上プレートの接合部のように内孔面が溶鋼と接する場合、接合部に溶鋼が進入し(以下、接合部に溶鋼が進入することを「地金が差す」ともいう。)、過度な場合には接合部からの溶鋼漏れトラブルにつながる。
【0004】
従来、耐火物の接合部に隙間が発生するのを防止する対策として、特許文献1ではSN装置における上ノズルと上プレートの接合部において、上ノズルの下部を拘束して上ノズルが上方へ移動しないようにする構造が開示されている。しかし、特許文献1の構造では、熱膨張・熱収縮による隙間の発生を接合部で防止できても、上ノズルと羽口との間で隙間が発生する恐れがある。
【0005】
一方、特許文献2には、上下の耐火物の接合面に複数の凹凸を設けて凹凸嵌合させることで、目地部(接合面)の占有面積又は距離を大きくし、これによって接合部の固定を強化する構造が開示されている。しかし、単に凹凸嵌合させるだけでは熱膨張・熱収縮による隙間の発生を防止することはできない。また、複数の凹凸を嵌合させるという複雑な接合になるので施工時の作業性が悪く、その施工が適切に行われなかった場合、接合部からの溶鋼漏れトラブルにつながる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−35926号公報
【特許文献2】実開平1−118856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、上下の耐火物の接合部に貫通する隙間が発生することを防止できる耐火物の接合部構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、円形の内孔を有する耐火物どうしを内孔の中心が一致するように上下に接合した耐火物の接合部構造であって、上下の耐火物うち一方の耐火物の接合面に内孔と同心円状の環状凸部を有すると共に、上下の耐火物うち他方の耐火物の接合面に前記環状凸部と嵌り合う環状凹部を有し、前記環状凸部と環状凹部との嵌り合い部が接合面に対して70〜90°の角度を有するものである。
【0009】
このように本発明の接合部構造では、耐火物の内孔と同心円状の環状凸部と環状凹部とを嵌め合わせている。同心円状の嵌り合い部では、円周方向の熱膨張・熱収縮は、いずれも同心円の範囲で行われる。したがって、この嵌り合い部を垂直に設ける、すなわち嵌り合い部が接合面に対して90°の角度をなすようにすれば、耐火物及び目地部(目地材)が熱膨張・熱収縮したとしても嵌り合い部(縦目地部)の目地厚みは変化しない。
【0010】
本発明はこのことに着目したもので、嵌り合い部の角度は理想的には90°であるが、実用上は70°以上であれば、溶鋼漏れにつながるような隙間は発生しないとの知見に基づき、嵌り合い部の角度を70〜90°としたものである。すなわち、嵌り合い部の角度を70〜90°とすれば、地金が差して問題となるような隙間がその嵌り合い部に発生することを防止でき、これによって上下の耐火物の接合部に貫通する隙間が発生することを防止できる。
【0011】
本発明において、環状凸部及び環状凹部の高さは6mm以上とすることが好ましい。これにより、垂直方向の熱膨張・熱収縮に対して、十分な取り合いを確保でき、隙間の発生をより確実に防止できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、上下の耐火物の接合部に貫通する隙間が発生することを防止できる。したがって、接合部への溶鋼の進入、つまり地金差しを軽減でき、接合部からの溶鋼漏れを回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の接合部構造を適用したSN装置における上ノズルと上プレートの接 合部を示し、(a)はその全体図、(b)は接合部の拡大図である。
【図2】嵌り合い部の角度θと目地厚みの変化量との関係を計算した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0015】
図1は、本発明の接合部構造を適用したSN装置における上ノズルと上プレートの接合部を示し、(a)はその全体図、(b)は接合部の拡大図である。
【0016】
タンディッシュや取鍋等の溶融金属容器10の底部の羽口11に上ノズル20の上部が挿入され、この上ノズル20の下方に上プレート30が配置されており、上ノズル20と上プレート30が目地部40を介して上下に接合されている。上ノズル20及び上プレート30は、溶融金属の通路としてそれぞれ円形の内孔21及び31を有し、この内孔21及び31が一致するように上下に接合される。
【0017】
上プレート30の下面側には下プレート50が配置されており、この下プレート50をスライドさせることで、溶融金属の流量を制御する。下プレート50の下面には、下ノズル60が接合されている。
【0018】
以下、上ノズル20と上プレート30の接合部構造を具体的に説明する。
【0019】
上プレート30の接合面(上面)には、その内孔31側の端部に内孔31と同心円状の環状凸部32が形成され、上ノズル20の接合面(下面)には環状凸部32と嵌り合う環状凹部22が形成されている。そして、環状凸部32と環状凹部22が嵌り合うようにして、上ノズル20と上プレート30が目地部40を介して上下に接合されている。
【0020】
本発明では、上述した環状凸部32と環状凹部22との嵌り合い部が接合面に対して70〜90°の角度θを有するようにする。
【0021】
本発明において角度θを70〜90°とする理由を以下に説明する。
【0022】
耐火物の内孔と同心円状の環状凸部と環状凹部とを嵌め合わせる接合部構造の場合、上述のとおり、嵌り合い部が接合面に対して90°の角度θをなすようにすれば、耐火物及び目地部(目地材)が熱膨張・熱収縮したとしても嵌り合い部(縦目地部)の目地厚みは変化しない。一方、角度θが90°未満になると、耐火物及び目地部(目地材)の熱膨張・熱収縮に伴い、嵌り合い部の目地厚みが変化するようになり、角度θが緩やかになるほど、その目地厚みの変化が大となる。
【0023】
具体的な目地厚みの変化量は、耐火物及び目地部(目地材)の熱膨張・熱収縮による目地部の垂直方向の寸法変化量に依存するが、本発明者が、上ノズル20、上プレート30及び目地部40に一般的に使用される耐火物や目地材の線熱膨張率、並びに上ノズル20や上プレート30の寸法等を考慮して計算したところ、熱膨張・熱収縮による目地部の垂直方向の寸法変化量は最大で約1.5mmであるとの結果が得られた。過去、目地部に進入していた地金の厚さは、0.5〜1.5mm程度であり、耐火物の熱膨張・熱収縮による寸法変化に伴って生じるであろう隙間のサイズ(最大1.5mm)と地金差しの最大厚みが経験的にも一致する。
【0024】
そこで、目地部の垂直方向の寸法変化量が0.5mm、1mm及び1.5mmの場合において、嵌り合い部の目地厚みの変化量と角度θとの関係を計算したところ、図2のようになった。ここで、溶鋼漏れが懸念されるような目地部の寸法変化量は、経験的に0.5mm以上であることが分かっているので、目地部の垂直方向の寸法変化量を0.5mm未満にすれば、実用上問題はないと言える。図2の計算結果より、角度θを70°以上にすれば、目地部の隙間が最大1.5mmの高さで開いても、嵌り合い部ではそれを0.5mm未満に抑えることができることから、本発明では、角度θの下限を70°とした。
【0025】
また、嵌り合い部を構成する環状凸部32及び環状凹部22の高さhは6mm以上であることが好ましい。目地材の厚みは、一般的に2〜3mmであり、嵌り合い部の高さを6mm以上とすることで、上ノズルと上プレートが重なり合う領域(図1(b)のA部分)を3〜4mm以上確保することができる。熱膨張・熱収縮による目地部の垂直方向の寸法変化量が最大で約1.5mmであることから、この寸法変化量に対して十分な取り合いを確保するには、環状凸部32及び環状凹部22の高さは6mm以上であることが好ましい。
【0026】
なお、図1では、2枚式のSN装置が記載されているが、本発明を適用可能なSN装置は、2枚式のSN装置に限られるものではなく、例えば、3枚式のSN装置の上プレートに本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0027】
10 溶融金属容器
11 羽口
20 上ノズル
21 内孔
22 環状凹部
30 上プレート
31 内孔
32 環状凸部
40 目地部
50 下プレート
60 下ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円形の内孔を有する耐火物どうしを内孔の中心が一致するように上下に接合した耐火物の接合部構造であって、上下の耐火物うち一方の耐火物の接合面に内孔と同心円状の環状凸部を有すると共に、上下の耐火物うち他方の耐火物の接合面に前記環状凸部と嵌り合う環状凹部を有し、前記環状凸部と環状凹部との嵌り合い部が接合面に対して70〜90°の角度を有する耐火物の接合部構造。
【請求項2】
前記環状凸部及び環状凹部の高さが6mm以上である請求項1に記載の耐火物の接合部構造。
【請求項3】
接合した耐火物が、スライディングノズル装置における上ノズルと上プレートである請求項1又は2に記載の耐火物の接合部構造。

【図1】
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【図2】
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