説明

耐火物用バインダーピッチの製造方法

【課題】ベンツピレン含有量の少ない耐火物用バインダーピッチを製造する方法を提供する。
【解決手段】軟化点が110〜120℃であるコールタールピッチ6を加熱器3に装入して360℃以上に加熱しつつ、予め加熱した不活性ガス8をコールタールピッチ1kgあたり0.05Nm3/hr以上の割合で加熱器内に吹き込み、500〜1500分間保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐火物を所定の形状に成形する際に用いる接合剤(いわゆるバインダー)の原料となるバインダーピッチ(以下、耐火物用バインダーピッチという)の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コールタールから抽出したタールピッチは様々な用途に使用されるが、種々の多環芳香族化合物の混合物であるからタールピッチを構成する個々の成分の分析は困難である。そのため、溶剤に対する不溶分量,軟化点の温度,一定の加熱条件で得られる炭素収率等によって、タールピッチの性状が評価される。
耐火物用バインダーピッチもタールピッチから製造され、軟化点が250〜350℃の範囲内であれば好適に使用できる。そのような耐火物用バインダーピッチを製造するための技術が種々検討されている。
【0003】
たとえば特許文献1には、耐火物用バインダーピッチをタールピッチから製造するにあたって、コールタールを蒸留して沸点の低い油分を除去し、さらに不活性ガス雰囲気で加熱して耐火物用バインダーピッチを得る技術が開示されている。ところがタールピッチには、接合剤として有効な成分のみならず、使用者の健康を損なう惧れのある有害物質も含まれている。たとえば、タールピッチに含まれる3,4−ベンツピレン(以下、ベンツピレンという)は発癌性物質であるから、耐火物用バインダーピッチを製造する過程で低減する必要がある。しかし特許文献1では、ベンツピレンの低減は考慮されていない。つまり耐火物用バインダーピッチの安全性向上の観点から、特許文献1の技術は改善の余地が残されていた。
【特許文献1】特開平8-218078号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ベンツピレン含有量の少ない耐火物用バインダーピッチを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、軟化点が110〜120℃であるコールタールピッチを加熱器に装入して360℃以上に加熱しつつ、予め加熱した不活性ガスをコールタールピッチ1kgあたり0.05Nm3/hr以上の割合で加熱器内に吹き込み、500〜1500分間保持する耐火物用バインダーピッチの製造方法である。
本発明の耐火物用バインダーピッチの製造方法においては、コールタールピッチを加熱器に装入して360〜400℃に加熱しつつ、予め加熱した不活性ガスをコールタールピッチ1kgあたり0.1〜0.2Nm3/hrの割合で加熱器内に吹き込み、500〜1500分間保持することが好ましい。また、不活性ガスの温度は360℃以上であることが好ましく、不活性ガスは窒素ガスであることが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ベンツピレン含有量の少ない耐火物用バインダーピッチを製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
図1は、耐火物用バインダーピッチの製造工程に本発明を適用する例を示すフロー図である。
コールタール4を常圧蒸留器1で蒸留し、底部から軟ピッチ5を抽出する。この軟ピッチ5を減圧蒸留器2へ供給して蒸留し、底部からコールタールピッチ6(軟化点110〜120℃)を抽出する。
【0008】
得られたコールタールピッチ6を加熱器3へ供給して加熱する。このとき、加熱温度が360℃未満では、ベンツピレンを加熱低減するのに必要な熱量が不足する。したがって、加熱器3におけるコールタールピッチ6の加熱温度は360℃以上とする。一方、400℃を超えると、加熱器の内壁に炭素の析出(いわゆるコーキング)が発生し易くなり、進行すると加熱器内で閉塞が生じ、運転不能となる。したがって、コールタールピッチ6の加熱温度は360〜400℃の範囲内が好ましい。
【0009】
さらに、コールタールピッチ6を加熱しつつ不活性ガス8を加熱器3内に吹き込む。不活性ガス8の吹き込み量が1kgのコールタールピッチ6あたり0.05Nm3/hr未満では、不活性ガスとの飛沫同伴効果が不足し、ベンツピレンが低減できない。したがって、不活性ガス8の吹き込み量は1kgのコールタールピッチ6あたり0.1Nm3/hr以上とする。一方、0.2Nm3/hrを超えると、それ以上にベンツピレン濃度は低下せず、製造方法として不経済である。したがって、不活性ガス8の吹き込み量は1kgのコールタールピッチ6あたり0.1〜0.2Nm3/hrの範囲内が好ましい。
【0010】
加熱器3にて加熱し、かつ不活性ガス8を吹き込みながらコールタールピッチ6を保持する時間が500分未満では、ベンツピレンを低減するのに必要な保持時間が不足する。一方、1500分を超えると、ベンツピレン濃度は低下せず、製造方法として不経済である。したがって、加熱器3におけるコールタールピッチ6の保持時間は500〜1500分の範囲内が好ましい。
【0011】
加熱器3内に予熱して吹き込む不活性ガス8は、特に規定するものではないが、窒素,ヘリウム,アルゴン等が挙げられ、とりわけ窒素ガスを用いることが好ましい。これらの不活性ガスは、各々単独で使用しても良いし、あるいは2種以上を混合して使用しても良い。
以上に説明した通り本発明を適用すれば、ベンツピレンの含有量を低減した耐火物用バインダーピッチ7(軟化点250〜350℃)を製造できる。
【実施例】
【0012】
図1に示すように、軟化点110℃のコールタールピッチ6(630kg)を加熱器3(容量2.4m3)に供給して加熱しつつ不活性ガス8を吹き込んだ。コールタールピッチ6のベンツピレン含有量は11000質量ppmであった。加熱器3内のコールタールピッチ6の加熱温度は360〜440℃,保持時間は380〜1220分とし、不活性ガス8は予め400℃に昇温した窒素ガスを使用した。不活性ガス8の吹き込み量は1kgのコールタールピッチ6あたり0.03〜0.13Nm3/hr(すなわち不活性ガス8の総流量0.13×630=82Nm3/hr)とした。
【0013】
このようにして加熱器3でコールタールピッチ6を加熱し、耐火物用バインダーピッチ7を製造し、得られた耐火物用バインダーピッチ7のベンツピレン含有量および軟化点を測定した。その結果は表1に示す通りである。
【0014】
【表1】

【0015】
表1から明らかなように、発明例の耐火物用バインダーピッチのベンツピレン含有量は280〜624質量ppmであったのに対して、比較例では1400質量ppmであった。つまり発明例ではベンツピレン含有量を大幅に低減した耐火物用バインダーピッチが得られた。しかも発明例の耐火物用バインダーピッチの軟化点は330℃であり、接合剤の原料として好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】耐火物用バインダーピッチの製造工程に本発明を適用する例を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0017】
1 常圧蒸留塔
2 減圧蒸留塔
3 加熱器
4 コールタール
5 軟ピッチ
6 コールタールピッチ
7 耐火物用バインダーピッチ
8 不活性ガス
9 予熱装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟化点が110〜120℃であるコールタールピッチを加熱器に装入して360℃以上に加熱しつつ、予め加熱した不活性ガスを前記コールタールピッチ1kgあたり0.05Nm3/hr以上の割合で前記加熱器内に吹き込み、500〜1500分間保持することを特徴とする耐火物用バインダーピッチの製造方法。
【請求項2】
前記コールタールピッチを前記加熱器に装入して360〜400℃に加熱しつつ、予め加熱した不活性ガスを前記コールタールピッチ1kgあたり0.1〜0.2Nm3/hrの割合で前記加熱器内に吹き込み、500〜1500分間保持することを特徴とする請求項1に記載の耐火物用バインダーピッチの製造方法。


【図1】
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