説明

耐火被覆された建築物の構造部材

【課題】火災時の燃焼熱によって、該燃焼熱から建築物の構造部材を保護する発泡形耐火被覆によって被覆された建築物の構造部材において、所定の耐火性能を得るための発泡形耐火被覆の被覆厚を薄くする。
【解決手段】建築物の構造部材を火災時の燃焼熱から保護する耐火被覆材によって被覆された構造部材において、前記耐火被覆材層が複数の発泡倍率の異なる2以上の発泡形耐火被覆層を積層されたものであり、該複数の発泡形耐火被覆層の発泡倍率が基層よりも表層の方が大きい。このように構成された耐火被覆された角形鋼管が火災時の燃焼熱にさらされると、該燃焼熱によって表層側の発泡形耐火被覆層が発泡し、発泡倍率が高い断熱層を形成する。続いて基層側の発泡形耐火被覆層が発泡し、発泡倍率が低い断熱層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の構造部材を火災時の燃焼熱から保護する耐火被覆材のうち、該燃焼熱により発泡し、断熱層を形成することによって建築物の構造部材への熱伝導を抑制する発泡形耐火被覆層によって被覆された建築物の構造部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、発泡形耐火被覆としては、合成樹脂、リン系難燃剤、メラミン系化合物、多価アルコール系炭化層形成剤を含有し、火災時の燃焼熱により発泡、断熱層を形成する耐火塗料と呼ばれる耐火被覆材がある(例えば、特許文献1参照。)。これらの耐火被覆材は2時間の火災から鉄骨構造体を保護するために必要な被覆厚が3.7〜10mmと薄膜であるが、単一の発泡倍率からなる発泡形耐火被覆を単独で構造部材に被覆しているため、その性能を十分に発揮していない。
【特許文献1】特開平9−71752号公報(第2〜3頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
解決しようとする問題点は、火災時の燃焼熱によって、該燃焼熱から建築物の構造部材を保護する発泡形耐火被覆によって被覆された建築物の構造部材において、所定の耐火性能を得るための発泡形耐火被覆の被覆厚が厚い点である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
請求項1に記載の発明は、建築物の構造部材を火災時の燃焼熱から保護する耐火被覆材によって被覆された構造部材において、前記耐火被覆材層が複数の発泡倍率の異なる2以上の発泡形耐火被覆層を積層されたものであり、該複数の発泡形耐火被覆層の発泡倍率が基層よりも表層の方が大きいことを最も主要な特徴とする。
【0005】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記積層された複数の発泡形耐火被覆層の合計した発泡高さが5〜300mmであることを最も主要な特徴とする。
【0006】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記積層された複数の発泡形耐火被覆層における表層側の発泡形耐火被覆の発泡高さが限界発泡高さ以下であることを最も主要な特徴とする。
【0007】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の発明において、前記積層された複数の発泡形耐火被覆の色彩が各々異なることを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、単一の発泡形耐火被覆で構造部材を被覆した場合に比べて耐火性能に優れるという利点がある。
【0009】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の効果に加え、発泡層の脱落を抑制することができるという利点がある。
【0010】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は請求項2に記載の発明の効果に加え、表層側の発泡形耐火被覆層が火災時の燃焼熱により発泡した際に、発泡層の脱落を抑制することができるという利点がある。
【0011】
請求項4に記載の発明によれば、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の発明の効果に加え、発泡形耐火被覆を積層する際に基層側に被覆した発泡形耐火被覆と表層側に被覆する発泡形耐火被覆の区別を容易にすることができ、積層順序の間違いを防止することができるという利点がある
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を具体化した実施形態を説明する。
建築物の構造部材としての四角筒状をなす角形鋼管の表面には、防錆塗料としてのJIS K5621に規定されている一般用さび止めペイント1種の塗膜が被覆厚75μmで塗装されている。該一般用さび止めペイント1種の塗膜の外表面には、火災時に発生する燃焼熱から角形鋼管を保護するために、耐火被覆材としての発泡倍率10倍の発泡形耐火被覆が被覆厚3mmで被覆されており、さらにその外表面には、発泡倍率20倍の発泡形耐火被覆が被覆厚2mmで被覆されている。また、最外層の発泡形耐火被覆の外表面には保護層としてのアクリル樹脂塗料が塗装されている。
【0013】
前記構造部材は角形鋼管に限らず、実際の建築物に用いられるものを任意に設定することができる。例えば、H形鋼、丸形鋼管等の鉄鋼材、鉄筋コンクリート、鉄骨鉄筋コンクリート、コンクリート充填鋼管等のコンクリート、アルミニウム材、ステンレス鋼材、耐火(FR)鋼材、木材等が挙げられる。構造部材の長さ、形状、使用部位は特に限定されず、任意に設定することができる。
【0014】
前記防錆塗料は鉄鋼材の防錆を目的として用いられる。従って、鉄鋼材以外の構造部材が使用されている場合には必要がない。前記防錆塗料は一般用さび止めペイント1種に限らず、任意に設定することができる。例えば、JIS K5621に規定されている一般用さび止めペイント2種、JIS K5622に規定されている鉛丹さび止めペイント2種、JIS K5623に規定されている亜酸化鉛さび止めペイント1種、JIS K5623に規定されている亜酸化鉛さび止めペイント2種、JIS K5625に規定されているシアナミド鉛さび止めペイント 1種、JIS K5625に規定されているシアナミド鉛さび止めペイント2種、JIS K5627に規定されているジンククロメートさび止め塗料、JIS K5628に規定されている鉛丹ジンククロメートさび止めペイント、JIS K5551に規定されているエポキシ樹脂塗料1種、JIS K5552に規定されているジンクリッチプライマー1種(無機ジンクリッチプライマー)、JIS K5552に規定されているジンクリッチプライマー2種(有機ジンクリッチプライマー)、JIS K5639に規定されている塩化ゴム系さび止め塗料、一液変成エポキシ樹脂塗料、一液湿気硬化型ウレタン樹脂さび止め塗料(MCU塗料)等が挙げられる。また、溶融亜鉛メッキを施しても良い。
【0015】
前記耐火被覆材は発泡倍率の異なる2以上の発泡形耐火被覆を積層して形成されており、該発泡形耐火被覆の発泡倍率は構造部材に近い層(基層)に比べて構造部材から遠い層(表層)の方が大きいことが必要である。耐火被覆材が発泡倍率の異なる2以上の発泡形耐火被覆を積層して形成されており、該発泡形耐火被覆の発泡倍率は構造部材に近い層(基層)に比べて構造部材から遠い層(表層)の方が大きいことにより、単一の発泡形耐火被覆で構造部材を被覆した場合に比べ、耐火性能に優れるとともに、発泡層の脱落を抑制することができる。発泡倍率が小さな単一の発泡形耐火被覆で構造部材を被覆した場合には、発泡層の脱落は生じにくいが耐火性能が十分でない。逆に発泡倍率が大きな単一の発泡形耐火被覆で構造部材を被覆した場合には、発泡層の脱落が生じやすい。
【0016】
前記発泡形耐火被覆とは、火災時の燃焼熱により発泡し、断熱層を形成することによって建築物の構造部材を保護する耐火被覆材をいい、その組成は、例えば以下のようなものである。
発泡形耐火被覆の組成例:合成樹脂としての酢酸ビニル・アクリル共重合樹脂100重量部、吸熱剤としてのポリリン酸アンモニウム100重量部、炭化剤としてのペンタエリスリトール100重量部、白色顔料としての酸化チタン100重量部、発泡剤としてのメラミン50重量部。
【0017】
前記合成樹脂は発泡形耐火被覆を構造部材に保持するために用いられる。例えば、酢酸ビニル樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、プロピオン酸ビニル樹脂、バーサティック酸ビニル樹脂等のカルボン酸ビニル樹脂、(メタ)アクリル酸メチル樹脂、(メタ)アクリル酸エチル樹脂、(メタ)アクリル酸メチル樹脂、(メタ)アクリル酸エチル樹脂、(メタ)アクリル酸ブチル樹脂、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル樹脂、アクリロニトリル樹脂、メタクリロニトリル樹脂等のアクリル酸樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、フェノール樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂等、またはそれらの変性樹脂等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、これらの樹脂を形成する単量体の2以上を共重合させて用いても良い。またエマルジョンとして用いても良い。
【0018】
前記吸熱剤は火災時の燃焼熱を受けて分解するとともに吸熱反応を生じて構造部材への熱伝導を抑制させるために用いられる。例えば、リン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム等のリン酸塩等が挙げられる。これらのうち、ポリリン酸アンモニウムを用いることにより、発泡形耐火被覆の耐水性を向上させることができる。
【0019】
前記炭化剤は火災時の燃焼熱により吸熱剤と脱水縮合し、吸熱剤又は発泡剤から発生するガスによって膨張して発泡断熱層を形成するために用いられる。例えば、モノペンタエリスリトール、ジペンタエリスルトール、トリペンタエリスリトール、ポリペンタエリスリトール、トリエチレングリコール、トリメチロールプロパン、プロピレングリコール等の多価アルコール、デンプン、蔗糖等の炭水化物等が挙げられる。これらのうち、ペンタエリスリトールを用いることにより発泡層を緻密にすることができるため、火災時の燃焼熱による上昇気流や家財の倒壊等の外力に対する形状保持性が向上する。
【0020】
前記発泡剤は火災時の燃焼熱により分解してガスを発生させるために用いられる。例えば、メラミン、メラミン−ホルムアルデヒド等のメラミン誘導体、尿素、尿素−ホルムアルデヒド樹脂等の尿素誘導体、ジシアンジアミド、グアニジン等の窒素含有化合物等が挙げられる。発泡剤を添加することにより、火災時の燃焼熱による発泡の倍率を大きくすることができる。
【0021】
前記白色顔料は発泡形耐火被覆を白色化し、輻射熱の吸熱を抑制するために用いられる。例えば、酸化チタン、酸化鉛、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム等の金属酸化物、カオリン、炭酸カルシウム、リトポン(硫化亜鉛と硫酸バリウムとの混合物)、硫化亜鉛等が挙げられる。これらのうち、酸化チタン若しくは酸化亜鉛を用いることが好ましい。酸化チタン若しくは酸化亜鉛を用いることにより、発泡層の脱落を抑制することができる。
【0022】
前記発泡倍率とは、火災時の燃焼熱によって発泡形耐火被覆層が発泡し、さらに雰囲気温度が上昇して完全に発泡を終了したときの発泡層の高さ(以下、「発泡高さ」という。)と、火災時の燃焼熱にさらされる前の発泡形耐火被覆層の被覆厚さ(以下、「被覆厚」という。)との比をいう。例えば、被覆厚が2mmで、発泡層の高さが25mmである場合には、発泡倍率は12.5倍である。
【0023】
一方、前記発泡倍率は被覆される構造部材の熱容量により異なったものとなる。熱容量を構造部材の表面積(S)と体積(V)の比で表せば、S/Vの大きな構造部材に被覆した場合には発泡倍率は大きくなり、S/Vの小さな構造部材に被覆した場合には発泡倍率は大きくなる。従って、発泡倍率の異なる複数の耐火被覆材を比較する際は、発泡倍率の測定を行う試験条件、下地となる構造部材の大きさ、被覆厚を揃えたものにより比較する。
【0024】
また、前記発泡倍率は、合成樹脂、吸熱剤、炭化剤、白色顔料及び発泡剤の種類又は混合割合を変化させることによって増減させることができる。
【0025】
前記積層された複数の発泡形耐火被覆層の合計した発泡高さは好ましくは5〜300mm、より好ましくは10〜250mm、最も好ましくは15〜200mmである。この範囲にあるとき、耐火性能に優れるとともに、発泡層の脱落を抑制することができる。前記積層された発泡形耐火被覆の発泡高さが5mm未満の場合には、十分な耐火性能を得ることができない。逆に発泡高さが300mm以上の場合には、発泡層が自重に耐え切れずに脱落を生ずるおそれがある。
【0026】
前記表層側の発泡形耐火被覆層の発泡高さは限界発泡高さ以下であることが好ましい。表層側の発泡形耐火被覆層の発泡高さが限界発泡高さ以下であることにより、表層側の発泡形耐火被覆層が火災時の燃焼熱により発泡した際に、発泡層の脱落を抑制することができる。前記限界発泡高さとは、発泡形耐火被覆を積層させずに単独で平板に被覆して加熱したときに、それ以上の発泡高さになると発泡層が脱落してしまう限界の高さをいう。
【0027】
前記表層側の発泡形耐火被覆層の発泡高さは限界発泡高さ以下であり、該限界発泡高さから50mm以内であることが好ましく、30mm以内であることがより好ましく、20mm以内であることが最も好ましい。この範囲にあるとき、表層側の発泡形耐火被覆層の耐火性能を最大限に引き出すことができるとともに、発泡層の脱落を抑制することができる。表層側の発泡形耐火被覆層の発泡高さが限界発泡高さを超える場合には発泡層の脱落が生じてしまう。また、表層側の発泡形耐火被覆層の発泡高さが限界発泡高さから50mm以上小さい場合には、表層側の発泡形耐火被覆層の耐火性能を十分に引き出すことができない。
【0028】
前記積層された複数の発泡形耐火被覆の色彩は各々異なる色彩であることが好ましい。発泡形耐火被覆の色彩が各々異なることにより、発泡形耐火被覆を積層する際に基層側に被覆した発泡形耐火被覆と表層側に被覆する発泡形耐火被覆の区別を容易にすることができ、積層順序の間違いを防止することができる。
【0029】
前記積層された複数の発泡形耐火被覆の色彩は、基層側が淡彩色で表層になるにつれ濃色となることが好ましい。基層側が淡彩色で表層側になるにつれ濃色となることにより、隠蔽性の低い発泡形耐火被覆を薄く積層した場合に下層の色が透けて見えることによる変色を抑制することができるため、複数の同系統色の発泡形耐火被覆を積層させた場合でも、積層順序の間違いを防止することができる。
【0030】
前記積層された複数の発泡形耐火被覆の基層側と表層側の色差は、L*a*b*表色系で表した場合、好ましくはΔE*ab=1.5以上、より好ましくは2.0以上、最も好ましくは3.0以上である。この範囲にあるとき、視覚によって基層側と表層側の発泡形耐火被覆の区別が容易になる。逆にΔE*ab=1.5未満の場合には、発泡形耐火被覆の基層側と表層側の色差が十分に大きくないため、積層順序の間違いを防止する効果が小さい。ここで、ΔE*abはΔE*ab=(ΔL*)+(Δa*)+(Δb*)1/2で表される。また、ΔL*、Δa*、Δb*はそれぞれ、L*a*b*表色系における二つの物体色のCIE1976明度L*の差及び色座標Δa*、Δb*の差である。
【0031】
前記保護層は発泡形耐火被覆層を紫外線や風雨、物理的な衝撃から保護するために設けられている。前記保護層はアクリル樹脂塗料に限らず、任意に設定することができる。例えば、酢酸ビニル樹脂塗料、エポキシ樹脂塗料、スチレン−アクリル共重合樹脂塗料等の合成樹脂塗料、木、紙、布、皮革、プラスチック板等が挙げられる。
【0032】
前記保護層は火災時の燃焼熱にさらされたとき、発泡形耐火被覆層よりも早く燃焼することが好ましい。前記保護層が発泡形耐火被覆層よりも早く燃焼することにより、発泡形耐火被覆層が発泡温度(約200〜250℃)に達したとき既に、燃焼し、消失若しくは一体性を保持していない状態になるため、発泡形耐火被覆の発泡を阻害せず、耐火性能の低下を抑制することができる。前記保護層が発泡形耐火被覆層よりも遅く燃焼する場合には、該発泡形耐火被覆層が発泡を開始した段階でも保護層としての一体性を保持したままであるため、発泡形耐火被覆層の発泡を阻害してしまうおそれがある。
【0033】
前記保護層の色彩は発泡形耐火被覆の最も表面側の色彩と比較した場合、L*a*b*表色系で好ましくはΔE*ab=1.5以上、より好ましくは2.0以上、最も好ましくは3.0以上である。この範囲にあるとき、発泡形耐火被覆の色彩が保護層によって十分に隠蔽されるまで塗装することによって、保護層の十分な被覆厚さを確保することが容易になる。逆にΔE*ab=1.5未満の場合には、保護層の色彩は発泡形耐火被覆の最も表面側の色彩との色差が十分に大きくないため、人間の視覚によっては保護層が十分な被覆厚さで塗布されているかどうかを判断することが困難であるため、保護層の塗り残しや不十分な被覆厚さを生ずるおそれがある。
【0034】
以上のように構成された耐火被覆された角形鋼管が火災時の燃焼熱にさらされると、該燃焼熱によって表層側の発泡形耐火被覆層が発泡し、発泡倍率が高い断熱層を形成する。続いて基層側の発泡形耐火被覆層が発泡し、発泡倍率が低い断熱層を形成する。
【0035】
前記表層側の発泡形耐火被覆層は発泡倍率が大きいため、十分な耐火性能を有するとともに、発泡倍率が高いことにより発泡層自体の密度が低くなり、発泡層の一体性が低下するため、発泡のし過ぎによって脱落した場合でも、基層側の発泡層を引き起こして表層側とともに脱落してしまうことを抑制することができる。
【0036】
前記基層側の発泡形耐火被覆層は発泡倍率が小さいため、発泡層の密度が高く脱落を生じにくい。また、ある程度の耐火性能を有するため、表層側の発泡形耐火被覆層が脱落してしまった場合でもその形状を保持し続け、構造部材を保持することができる。
【0037】
このようにして発泡層が形成された角形鋼管は、火災時の燃焼熱による熱伝導が緩和され、火災が消化されずに継続した場合でも崩壊するまでの時間を延長することができる。従って、建築物の構造が保持され、建築物の利用者が避難をするための時間を確保することができる。
【0038】
本実施形態は以下に示す効果を発揮することができる。
・前記耐火被覆材が発泡倍率の異なる2以上の発泡形耐火被覆層を積層して形成されており、該発泡形耐火被覆の発泡倍率は構造部材に近い層(基層)に比べて構造部材から遠い層(表層)の方が大きいことにより、単一の発泡形耐火被覆で構造部材を被覆した場合に比べ、耐火性能に優れるとともに、発泡層の脱落を抑制することができる。
【0039】
・前記積層された発泡形耐火被覆層の発泡高さの合計が5〜300mmであることにより、耐火性能に優れるとともに発泡層の脱落を抑制することができる。
【0040】
・前記保護層が火災時の燃焼熱にさらされたとき、発泡形耐火被覆層よりも早く燃焼することにより、発泡形耐火被覆層が発泡温度(約200〜250℃)に達したとき既に、燃焼し、消失若しくは一体性を保持していない状態になるため、発泡形耐火被覆の発泡を阻害せず、耐火性能の低下を抑制することができる。
【0041】
・前記表層側の発泡形耐火被覆層の発泡高さが限界発泡高さ以下であり、該限界発泡高さから50mm以内であることにより、表層側の発泡形耐火被覆層の耐火性能を最大限に引き出すことができるとともに、発泡層の脱落を抑制することができる。
【0042】
なお、本発明の前記実施形態を次のように変更して構成することもできる。
・前記実施形態においては、発泡倍率の異なる2の発泡形耐火被覆を積層させたが、発泡倍率の異なる3以上の発泡形耐火被覆層を積層させても良い。
このように構成した場合、隣接する発泡形耐火被覆の発泡倍率の変化をより滑らかにすることができるため、より効果的に耐火性能を向上させることができる。
【0043】
次に、前記実施形態から把握される請求項に記載した発明以外の技術的思想について、それらの効果と共に記載する。
・建築物の構造部材を火災時の燃焼熱から保護する耐火被覆材によって被覆された構造部材において、前記耐火被覆材が発泡倍率の異なる2の発泡形耐火被覆を積層して形成されており、基層側の発泡形耐火被覆層の発泡倍率が5〜15倍であり、表層側の発泡形耐火被覆層の発泡倍率が15〜50倍であることを特徴とする耐火被覆された建築物の構造部材。
【0044】
このように構成した場合、表層側の発泡形耐火被覆層は発泡倍率が大きいため、十分な耐火性能を有するとともに、前記基層側の発泡形耐火被覆層は発泡倍率が小さいため、発泡層の密度が高く脱落を生じにくい。
【0045】
・建築物の構造部材を火災時の燃焼熱から保護する耐火被覆材によって被覆された構造部材において、前記耐火被覆材が発泡倍率の異なる2の発泡形耐火被覆を積層して形成されており、前記表層側の発泡形耐火被覆層の発泡高さが限界発泡高さ以下であり、該限界発泡高さから50mm以内であることを特徴とする耐火被覆された建築物の構造部材。
【0046】
このように構成した場合、表層側の発泡形耐火被覆層の耐火性能を最大限に引き出すことができるとともに、発泡層の脱落を抑制することができる。
【0047】
・前記保護層の色彩が発泡形耐火被覆の最も表面側の色彩と比較した場合において、L*a*b*表色系で好ましくはΔE*ab=1.5以上であることを特徴とする耐火被覆された建築物の構造部材。
【0048】
このように構成した場合、発泡形耐火被覆の色彩が保護層によって十分に隠蔽されるまで塗装することによって、保護層の十分な被覆厚さを確保することが容易になる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例についての比較試験により、従来の技術に比べた本発明の顕著な効果を説明する。
試験は次のように行った。まず初めに、JIS K5621に規定されている一般用さび止めペイント2種が平均厚さ75μmで塗装された300mm×300mm×9mm、長さ1000mmの角形鋼管に実施例及び比較例の発泡形耐火被覆をローラーよって施工して乾燥させ、続いて保護層としてのアクリル樹脂エマルション塗料を塗装した後、室温で1ヶ月間養生して試験体とした。その後、試験体をJIS A1304−1994に規定されている標準加熱曲線により加熱して、2時間加熱後の試験体の平均裏面温度をK型熱電対によって測定した。
【0050】
(実施例1)
実施例1の表層側の発泡形耐火被覆の組成は、合成樹脂としての酢酸ビニル樹脂100重量部、吸熱剤としてのポリリン酸アンモニウム100重量部、炭化剤としてのペンタエリスリトール100重量部、白色顔料としての酸化チタン100重量部、発泡剤としてのメラミン50重量部である。この発泡形耐火被覆の300mm×300mm×9mm角形鋼管における発泡倍率は35倍であり、限界発泡高さは103mmである。
【0051】
実施例1の基層側の発泡形耐火被覆の組成は、合成樹脂としての酢酸ビニル・アクリル共重合樹脂100重量部、吸熱剤としてのポリリン酸アンモニウム100重量部、炭化剤としてのペンタエリスリトール100重量部、白色顔料としての酸化チタン100重量部、発泡剤としてのメラミン50重量部である。この発泡形耐火被覆の300mm×300mm×9mm角形鋼管における発泡倍率は15倍であり、限界発泡高さは217mmである。
【0052】
試験体は基層側の発泡形耐火被覆を厚さ2mm、表層側の発泡形耐火被覆を厚さ2.5mmで積層した。
【0053】
試験の結果、2時間加熱後の試験体の平均裏面温度は472℃であり、発泡層の脱落は生じなかった。
【0054】
(実施例2)
実施例2の表層側の発泡形耐火被覆の組成は、合成樹脂としての酢酸ビニル・バーサチック酸ビニル共重合樹脂200重量部、吸熱剤としてのポリリン酸アンモニウム100重量部、炭化剤としてのペンタエリスリトール100重量部、白色顔料としての酸化チタン100重量部、発泡剤としてのメラミン50重量部である。この発泡形耐火被覆の300mm×300mm×9mm角形鋼管における発泡倍率は21倍であり、限界発泡高さは89mmである。
【0055】
実施例2の基層側の発泡形耐火被覆の組成は、合成樹脂としてのアクリル樹脂100重量部、吸熱剤としてのポリリン酸アンモニウム100重量部、炭化剤としてのペンタエリスリトール100重量部、白色顔料としての酸化チタン100重量部、発泡剤としてのメラミン50重量部である。この発泡形耐火被覆の300mm×300mm×9mm角形鋼管における発泡倍率は10倍であり、限界発泡高さは124mmである。
【0056】
試験体は基層側の発泡形耐火被覆を厚さ5mm、表層側の発泡形耐火被覆を厚さ2mmで積層した。
【0057】
試験の結果、2時間加熱後の試験体の平均裏面温度は504℃であり、発泡層の脱落は生じなかった。
【0058】
(実施例3)
実施例3の表層側の発泡形耐火被覆は、実施例2の表層側の発泡形耐火被覆を用いた。
【0059】
実施例3の中間層の発泡形耐火被覆の組成は、合成樹脂としての酢酸ビニル・バーサチック酸ビニル共重合樹脂100重量部、吸熱剤としてのポリリン酸アンモニウム100重量部、炭化剤としてのペンタエリスリトール50重量部、白色顔料としての酸化チタン100重量部、発泡剤としてのメラミン10重量部である。この発泡形耐火被覆の300mm×300mm×9mm角形鋼管における発泡倍率は17倍であり、限界発泡高さは150mmである。
【0060】
実施例3の基層側の発泡形耐火被覆は、実施例2の基層側の発泡形耐火被覆を用いた。
【0061】
試験体は基層側の発泡形耐火被覆を厚さ3mm、中間層の発泡形耐火被覆を厚さ2mm、表層側の発泡形耐火被覆を厚さ2mmで積層した。
【0062】
試験の結果、2時間加熱後の試験体の平均裏面温度は340℃であり、発泡層の脱落は生じなかった。
【0063】
(比較例1)
比較例1の発泡形耐火被覆は実施例1の表層側の発泡形耐火被覆のみを用いた。試験体は発泡形耐火被覆を厚さ4.5mmで施工した。
【0064】
試験の結果、2時間加熱後の試験体の平均裏面温度は728℃であり、発泡層の脱落が生じていた。
【0065】
(比較例2)
比較例2の発泡形耐火被覆は実施例1の基層側の発泡形耐火被覆のみを用いた。試験体は発泡形耐火被覆を厚さ4.5mmで施工した。
【0066】
試験の結果、2時間加熱後の試験体の平均裏面温度は649℃であり、発泡層の脱落は生じなかった。
【0067】
(比較例3)
比較例3の発泡形耐火被覆は実施例2の表層側の発泡形耐火被覆のみを用いた。試験体は発泡形耐火被覆を厚さ7mmで施工した。
【0068】
試験の結果、2時間加熱後の試験体の平均裏面温度は794℃であり、発泡層の脱落が生じていた。
【0069】
(比較例4)
比較例4の発泡形耐火被覆は実施例2の基層側の発泡形耐火被覆のみを用いた。試験体は発泡形耐火被覆を厚さ7mmで施工した。
【0070】
試験の結果、2時間加熱後の試験体の平均裏面温度は603℃であり、発泡層の脱落は生じなかった。
【0071】
なお、段落番号[0001]〜[0026]及び[0029]〜[0070]に記載されている技術的思想は加藤圭一により創作され、段落番号[0028]に記載されている技術的思想は倉知和紀により創作された。また、願書に添付した特許請求の範囲、明細書の段落番号[0001]〜[0021]及び[0024]〜[0071]の著作者は加藤圭一であり、段落番号[0023]は加藤圭一と倉知和紀の共同著作である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物の構造部材を火災時の燃焼熱から保護する耐火被覆材によって被覆された構造部材において、前記耐火被覆材層が複数の発泡倍率の異なる2以上の発泡形耐火被覆層を積層されたものであり、該複数の発泡形耐火被覆層の発泡倍率が基層よりも表層の方が大きいことを特徴とする耐火被覆された建築物の構造部材。
【請求項2】
前記積層された複数の発泡形耐火被覆層の合計した発泡高さが5〜300mmであることを特徴とする請求項1に記載の耐火被覆された建築物の構造部材。
【請求項3】
前記積層された複数の発泡形耐火被覆層において、表層側の発泡形耐火被覆の発泡高さが限界発泡高さ以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の耐火被覆された建築物の構造部材。
【請求項4】
前記積層された複数の発泡形耐火被覆の色彩が各々異なることを特徴とする請求項1〜請求項3に記載の耐火被覆された建築物の構造部材。