説明

耐火被覆層

【課題】
発泡耐火塗料によって形成された発泡耐火層の表面に保護層を備える耐火被覆層であって、保護層が膨れたり、剥がれたりといった不具合を起し難い耐火被覆層を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明は、合成樹脂エマルション、多価アルコール、含窒素発泡剤、及び難燃性発泡剤を含有する発泡耐火塗料によって形成された発泡耐火層の表面に、エポキシ樹脂を水分散させたエポキシ樹脂エマルションを含有する塗料による中塗り塗料層と仕上げ塗料層とを順に積層した保護層を有することを特徴とする耐火被覆層である。なお、前記エポキシ樹脂のエポキシ当量は100〜1000であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、合成樹脂エマルションを結合材とする発泡耐火塗料による発泡耐火層を含む耐火被覆層に関する。
【背景技術】
【0002】
建築基準法では、耐火構造とすべき建築物について、その主要構造部である壁、柱、床、梁、屋根、階段、や階数に応じて耐火性能の基準を定めている。その基準を満たすために、壁あるいは床に用いられる建築材料は所定の耐火性能を有するものが用いられる。そして、鉄骨造においては、ロックウール、耐火モルタル、耐火塗料等によって鉄骨に耐火被覆をする必要がある。
【0003】
これらの耐火被覆のうち、発泡耐火塗料による発泡耐火層をする際には、発泡耐火塗料が水可溶性の成分をかなりの割合で含んでいるため、発泡耐火層塗料によって形成された発泡耐火層からその成分が溶解して、流失してしまうのを防止する必要があった。
【0004】
この問題を解決すること、および、発泡耐火層の耐久性を向上させることを目的として、発泡耐火層の表面に保護層を設けた耐火被覆層を形成することが行なわれていた。
例えば、特許文献1には、耐火塗料層に上塗り塗料層を塗り重ねた耐火塗料の構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−231234号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように発泡耐火層の表面に保護層を設ける場合、発泡耐火塗料として、合成樹脂エマルションを結合材として、多価アルコール、含窒素発泡剤、及び難燃性発泡剤を含有するものを用いたときには、耐火塗料を十分に乾燥させる必要があり、発泡耐火塗料を塗装してから保護層を施工するまでに時間を要した。
【0007】
もし、発泡耐火塗料の乾燥が十分でなく、耐火塗料層に発泡耐火塗料中の水が残存している状態で保護層を施工してしまうと、保護層が膨れたり、剥がれたりといった不具合を起こす危険があった。
【0008】
発泡耐火塗料を塗装してから保護層を施工するまでの時間を短縮することができれば、耐火被覆層の施工期間を短縮することができるため、保護層を施工するまでの時間を短縮できるような耐火被覆層の仕様や形成方法が求められていた。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、合成樹脂エマルションを結合材として、多価アルコール、含窒素発泡剤、及び難燃性発泡剤を含有する発泡耐火塗料を用いた耐火被覆層を形成する際に、発泡耐火塗料を塗装してから保護層を施工するまでの時間を短縮するものである。
【0010】
本発明は、保護層が膨れたり、剥がれたりといった不具合を起し難い耐火被覆層を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、発泡耐火層の表面に、エポキシ樹脂を水分散させたエポキシ樹脂エマルションを含有する塗料による中塗り塗料層、及び水性塗料による仕上げ塗料層を順に積層することによって、保護層が膨れたり、剥がれたりといった不具合を起し難い耐火被覆層を短時間で形成することができることを見出し、本発明に至った。
【0012】
請求項1に記載の発明は、合成樹脂エマルション、多価アルコール、含窒素発泡剤、及び難燃性発泡剤を含有する発泡耐火塗料によって形成された発泡耐火層の表面に、エポキシ樹脂を水分散させたエポキシ樹脂エマルションを含有する塗料による中塗り塗料層と、仕上げ塗料層とを順に積層した保護層を有することを特徴とする耐火被覆層である。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の耐火被覆層において、エポキシ樹脂のエポキシ当量が100〜1000であることを特徴とする。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の耐火被覆層において、中塗り塗料層が充填材を含有することを特徴とする。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の耐火被覆層において、充填材の一部又は全部が中空樹脂ビーズであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載の発明によれば、保護層が膨れたり、剥がれたりといった不具合を起し難い耐火被覆層を短時間で得ることができる。
【0017】
請求項2に記載の発明によれば、耐火被覆層の保護層がより不具合を生じ難くなる。
【0018】
請求項3に記載の発明によれば、耐火被覆層の保護層が特に不具合を生じ難くなる。
【0019】
請求項4に記載の発明によれば、保護層の表面を平滑に仕上げ易くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の耐火被覆層は、合成樹脂エマルション、多価アルコール、含窒素発泡剤、及び難燃性発泡剤を含有する発泡耐火塗料によって形成された発泡耐火層の表面に、エポキシ樹脂を水分散させたエポキシ樹脂エマルションを含有する塗料による中塗り塗料層と、仕上げ塗料層とを順に積層した保護層を形成したことを特徴とする。
【0021】
前記発泡形耐火塗料による塗膜(発泡耐火層)は、火災にさらされたときに発泡して断熱層を形成する。この発泡形耐火塗料が含有する成分の詳細を以下に記す。
【0022】
本発明の耐火被覆層の層構成を図1に示す。図1に示す耐火被覆層は、被塗装物である鉄骨31の表面に発泡耐火層22、中塗り塗料層23、仕上げ塗料層24を順に積層したものである。なお、耐火被覆層を形成する前に、鉄骨の表面には、防錆材や錆止め塗料や、耐火被覆層用の下塗り材が塗装される場合もあるが、図1においてはそれらの図示は省略している。
【0023】
前記合成樹脂エマルションは、発泡形耐火塗料が塗膜を形成する際の結合材(塗膜形成成分)となるものであって、常温時おいては、塗膜に付着性、耐候性を与える役目をする。前記合成樹脂エマルションに用いられる合成樹脂としては、例えば、メラミン樹脂、アクリル樹脂、アルキッド樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、エチレン−酢酸ビニル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂などが挙げられる。これらの合成樹脂は単独で用いても良く、あるいは複数の合成樹脂を共重合したものであってもよい。また複数の合成樹脂エマルションを混合して用いることもできる。これらの合成樹脂のうち、酢酸ビニル樹脂あるいはアクリル樹脂をモノマー成分の主成分にして重合されたもの、エチレン−酢ビ樹脂、酢ビ−アクリル樹脂、バーサチック酸ビニル樹脂は、樹脂骨格側鎖にC−O結合を有し、断熱層の形成を他の合成樹脂に比べ容易にすることができる。
【0024】
前記多価アルコールは、後述する難燃性発泡剤と脱水縮合し、難燃性発泡剤及び含窒素発泡剤の分解ガスによって発泡した炭化層を形成し、該炭化層が断熱性を有する断熱層となる。前記多価アルコールとしては、例えば、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、ポリペンタエリスリトール、トリエチレングリコール、ソルビトール、レゾルシノール、グリセリン、トリメチロールメタン、トリメチロールプロパン、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキサメチレングリコールなどが使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種類以上を適宜選択して用いてもよい。これらの多価アルコールうち、後述の難燃性発泡剤とほぼ同一温度において分解して、発泡層を形成させるためには、分解温度が260℃前後の温度であるペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、ポリペンタエリスリトールを用いることが好ましい。
【0025】
前記含窒素発泡剤は、火災の熱で加熱された際に分解されて分解ガスを発生して断熱層を発泡させる。前記含窒素発泡剤としては、例えば、ジシアンジアミド、アゾジカルボンアミド、メラミンおよびその誘導体、尿素、グアニジン、トリメチロールメラミン、ヘキサメチロールメラミンなどが使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種類以上を適宜選択して用いてもよい。これらの含窒素発泡剤うち、分解温度が370℃にあるメラミンおよびその誘導体を用いれば、後述の難燃性発泡剤の分解温度と異なる温度にて再び発泡倍率を増加させることができ、発泡形耐火塗料を二段階で発泡させることができる。
【0026】
前記難燃性発泡剤は、前記多価アルコールと脱水縮合して、編み目構造の断熱層を形成する。難燃性発泡剤としては、分解温度が250℃〜300℃の範囲である多価アルコールとの脱水縮合反応を効率的に行うために、分解温度が多価アルコールの分解温度の範囲内にあるリン酸アンモニウム及び/又はポリリン酸アンモニウムを用いることが好ましい。なお、リン酸アンモニウム及び/又はポリリン酸アンモニウムの表面をメラミンなどでマイクロカプセル被覆した物は、耐水性向上の点からより好ましい。リン酸アンモニウム及び/又はポリリン酸アンモニウムは、加熱によって275℃前後の温度において分解し、アンモニアガスを発生させると同時に、吸熱反応によって材料温度を引き下げる機能がある。また、多価アルコールや合成樹脂との結合により難燃効果をもたらし、編み目構造の断熱層を形成する。
【0027】
なお、発泡形耐火塗料は、前記成分以外にも、通常の耐火塗料に含有される成分を含んでいてもよい。例えば、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、アルミナ、シリカなどの充填材、ハロゲン系、リン系、三酸化アンチモン系などの難燃剤、及び消泡剤、分散剤、湿潤剤などの界面活性剤、造膜助剤、防凍剤などの溶剤、着色顔料、金属石鹸、安定剤、増粘剤、防腐剤、防黴剤、無機繊維、有機繊維などを含有させることができる。
【0028】
なお、発泡形耐火塗料における、合成樹脂、多価アルコール、含窒素発泡剤、及び難燃性発泡剤の配合割合は、多価アルコールの配合量を100質量部としたときに、合成樹脂エマルションの不揮発分が200〜500質量部、含窒素発泡剤が80〜150質量部、難燃性発泡剤が280〜450質量部であることが好ましい。各成分の配合割合が上記の範囲であるとき、耐火性能に優れた発泡性耐火塗料を得ることができる。
【0029】
以上の発泡耐火塗料は、乾燥厚み(発泡耐火層の厚み)が0.3〜10mmの範囲となるように施工することが好ましい。この範囲であれば優れた発泡耐火層を得ることができる。
【0030】
以上の組成の発泡耐火層は、水可溶性の成分をかなりの割合で含んでいる。この水可溶性の成分が、結露水などによって施工後に塗膜に付いた水に溶けて流失してしまうのを防止するために、発泡耐火層の表面には保護層を設けることが好ましい。保護層を設けると発泡耐火層の劣化を防止し、発泡耐火層の耐久性を向上させることもできる。
【0031】
ただし、発泡耐火塗料の乾燥が十分でなく、耐火塗料層に発泡耐火塗料中の水が残存している状態で保護層を施工してしまうと、その水が蒸発する際の蒸気圧によって、保護層が膨れたり、剥がれたりといった不具合を起こす危険性がある。
【0032】
そのため、前記保護層は、エポキシ樹脂を水分散させたエポキシ樹脂エマルションを含有する塗料による中塗り塗料層、及び水性塗料による仕上げ塗料層を順に積層したものとすることが好ましい。このような保護層は、仮に発泡耐火塗料中の水が残存している状態で保護層を施工しても、膨れたり、剥がれたりといった不具合を起し難い。
【0033】
そのため、発泡耐火塗料を塗装する工程から、保護層を施工する工程までの工程間の時間を短縮することもでき、より短時間で、保護層を備えた耐火被覆層を得ることができる。
【0034】
前期中塗り塗料層は、エポキシ樹脂を水分散させたエポキシ樹脂エマルションを含有する主材塗料と、エポキシ樹脂硬化剤を含有する硬化剤とを混合した中塗り塗料を塗装して乾燥、硬化させたものである。なお、水分散とは、水を溶媒として、樹脂が溶媒である水の中に分散している状態をいう。
このようなエポキシ樹脂エマルションを皮膜形成成分として含有する塗料を用いて中塗り塗料を形成することによって、保護層は、膨れたり、剥がれたりといった不具合を起し難くなる。
【0035】
このエポキシ樹脂エマルションに用いるエポキシ樹脂は特に限定されず、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂以外にも、脂肪族エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂の公知の各種エポキシ樹脂、並びに変性エポキシ樹脂等を使用できる。
【0036】
エポキシ樹脂のエポキシ当量は100〜1000(より好ましくは120〜500、特に好ましくは150〜350)であることが好ましい。エポキシ当量がこの範囲のものを用いれば、中塗り塗料が硬化性に優れると共に、その中塗り塗料を用いて形成される保護層は、膨れたり、剥がれたりといった不具合を特に起し難くなる。
なお、エポキシ当量とは、1当量のエポキシ基を含む樹脂の質量であって、JIS K7236(2001)に示される方法に準じて求められる。
【0037】
なお、主材塗料はエポキシ樹脂硬化剤を含有する硬化剤と混合して塗装する。主材塗料と硬化剤は、中塗り塗料を塗装する直前に混合する。
エポキシ樹脂硬化剤としては、従来エポキシ樹脂の硬化剤として利用されるものを使用すればよく、好ましくは、アミン系化合物を用いればよい。例えば、脂肪族アミン類、芳香族アミン類などのアミン類、脂肪族ポリアミン、脂肪族ポリアミン、芳香族ポリアミンなどのポリアミン類、脂肪族ポリアミド樹脂、脂肪族ポリアミド樹脂、芳香族ポリアミド樹脂等の各種ポリアミド樹脂、並びに変性アミン類、変性ポリアミン類等を挙げることができる。
【0038】
主材塗料と硬化剤との混合比率は、利用するエポキシ樹脂エマルションの組成、エポキシ樹脂硬化剤の組成、主材塗料と硬化剤におけるエポキシ樹脂やエポキシ樹脂硬化剤の含有率、中塗り塗料を施工する際の環境条件などによって適宜決定すればよい。
【0039】
中塗り塗料を施工する際の環境条件では、施工する際の気温や中塗り塗料の温度は、エポキシ樹脂とエポキシ樹脂硬化剤との硬化反応への影響が大きいため、注意が必要である。気温や塗料温度が低いことによって、エポキシ樹脂とエポキシ樹脂硬化剤との硬化反応が十分に進行しない場合がある。このようなときには、施工する際に、施工時の温度を高く保ったり、塗料を温めて塗料温度を高くして施工したりするといった対策を行なうことが有効である。
【0040】
中塗り塗料は、エポキシ樹脂エマルションと硬化剤以外にも、通常、合成樹脂エマルション塗料に用いられる成分を含有していてもよい。例えば、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、アルミナ、シリカ、カオリン、合成樹脂粉末、合成樹脂ビーズ、合成樹脂中空体などの充填材、ハロゲン系、リン系、三酸化アンチモン系などの難燃剤、及び消泡剤、分散剤、湿潤剤などの界面活性剤、造膜助剤、防凍剤などの溶剤、着色顔料、金属石鹸、安定剤、増粘剤、防腐剤、防黴剤などを含有させることができる。
【0041】
これらの中でも、充填材を含有させると、中塗り塗料層を厚く施工することができる。耐火被覆層は平滑な仕上げを要求されることが多いが、中塗り塗料層を厚塗り可能とすることで耐火塗料層の表面に凹凸があっても、中塗り塗料層によって平滑な仕上げとすることができるようになる。また、中塗り塗料層が充填材を含有させて厚く施工することによって、保護層の膨れや、剥がれなどの不具合が生じ難くなる。
【0042】
充填材としては、合成樹脂中空体を用いることが特に好ましい。合成樹脂中空体を含有する中塗り塗料層は磨耗し易いため、研磨によって表面を容易に平滑にすることができる。なお、合成樹脂中空体と他の充填材を混合して用いてもよい。
【0043】
なお、中塗り塗料層は、例えば図2のように、充填材の含有量の異なる2種類以上の中塗り塗料を重ね塗りしたものであってもよい。
【0044】
図2に示す耐火被覆層は、被塗装物である鉄骨31の表面に発泡耐火層22(表面に凹凸あり。)、中塗り塗料層23´、中塗り塗料層23、仕上げ塗料層24を順に積層したものである。
【0045】
この図2の中塗り塗料層は、以下の手順で形成したものである。
まず、充填材を多く含む中塗り塗料(A)を発泡耐火層22の表面の凹部に充填して平滑に仕上げ、中塗り塗料層23´を形成する。平滑にするために、中塗り塗料(A)を塗装し、乾燥、硬化させた後に表面を研磨してもよい。このとき、発泡耐火層22に凸部の先端も研磨してもかまわない。
次に、中塗り塗料(A)より充填材の含有量が少ない(充填材を含有しなくてもよい。)中塗り塗料(B)を発泡耐火層22及び中塗り塗料層23´の表面に塗装して中塗り塗料層23を形成する。
【0046】
このようにすることで、凹凸のある耐火塗料層の表面を平滑にしつつも、最低限の膜厚を確保することができる。中塗り塗料の表面を研磨した場合には、膜厚が薄い箇所がある可能性があるため、中塗り塗料をこのように2層以上の塗膜構造にすることが好ましい。
【0047】
前記仕上げ塗料層を形成する塗料は、有機溶剤を溶媒とする溶剤系塗料、又は水を溶媒とする水系塗料などから適宜選択すればよいが、水系塗料を用いることが好ましい。溶剤系塗料を用いた場合には、ごく稀に、塗料中の有機溶剤によって、乾燥硬化した発泡耐火層や中塗り塗料層が軟化することがあるが、水系塗料を用いればそのようなことが起こる心配がない。
【実施例】
【0048】
(実施例1)
下記の各材料を用いて試験体を作製した。
【0049】
基材として、ブラスト処理したJIS G 3466:2006に規定するSTKR400正方形一般構造用角形鋼管(縦300mm横300mm厚み9mm)を、長さ1000mmに切断したものを用いた。なお、基材には、予め市販の錆止め塗料を塗装しておいた。
【0050】
発泡耐火層を形成する発泡耐火塗料として、合成樹脂エマルション、多価アルコール、含窒素発泡剤、及び難燃性発泡剤を含有する発泡耐火塗料(菊水化学工業株式会社製、商品名:「ウェスタ」)を用いた。
【0051】
中塗り塗料として、下記の配合の塗料を用いた。
なお、エポキシ樹脂を水分散させたエポキシ樹脂エマルションは、エポキシ当量が230、固形分が70%であるものを使用した。
主材:エポキシ樹脂エマルション 100質量部、酸化チタン 50質量部、界面活性剤 5質量部、増粘剤 2質量部、水 30質量部。
硬化剤:変性脂肪族アミンの水溶液(固形分50%)
主材と硬化剤は使用する直前に、主材60質量部:硬化剤40質量部の比率で混合して塗装した。
【0052】
仕上げ塗料として、アクリル樹脂系の水系塗料を用いた。
【0053】
前記基材に、これらの材料を以下の手順で塗装して耐火被覆層を形成した。
まず、温度10℃、湿度50%の環境化に静止した基材の外側の表面全面に前記発泡耐火塗料をスプレー塗装で乾燥厚みが4mmになるように塗装した。なお、塗装は4工程に分けて塗装し、各工程で1mmずつ塗装した。
【0054】
次に、発泡耐火塗料が指触乾燥したのを確認できた段階で、完全乾燥する前に、前記の中塗り塗料を塗布量200g/mでスプレー塗装して、16時間静置して塗料を乾燥・硬化させて中塗り塗料層を形成した。
【0055】
次に、仕上げ塗料を塗布量200g/mでスプレー塗装して、24時間静置して塗料を乾燥させて仕上げ塗料層を形成した。
【0056】
その後、塗装を行なった温度10℃、湿度50%の環境化で試験体を1週間静置した。
【0057】
(実施例2)
実施例2でも、基材、発泡耐火塗料、中塗り塗料、仕上げ塗料は、実施例1で用いたものと同じものを使用した。
【0058】
発泡耐火塗料が完全乾燥した後に中塗り塗料を塗装した以外は、実施例1と全く同じ施工条件、及び施工方法によって比較例1の試験体を作製した。
【0059】
試験体の仕上げ塗料が乾燥した後、実施例1と同様に、塗装を行なった温度10℃、湿度50%の環境化で試験体を1週間静置した。
【0060】
(比較例1)
比較例1でも、基材、発泡耐火塗料、仕上げ塗料は、実施例1で用いたものと同じものを使用した。そして、実施例1で用いた中塗り塗料の代わりには、有機溶剤を溶媒とする下記の溶剤系二液形エポキシ樹脂塗料を用いた。
二液形エポキシ樹脂塗料(主材と硬化剤の混合後の配合):着色顔料 40質量部、エポキシ樹脂(固形分) 30質量部、ポリアミド樹脂 25質量部、有機溶剤 40質量部。
【0061】
二液形エポキシ樹脂塗料を用いた以外は、実施例1と全く同じ施工条件、及び施工方法によって比較例1の試験体を作製した。なお、溶剤系二液形エポキシ樹脂塗料の塗布量は200g/mとした。
【0062】
試験体の仕上げ塗料が乾燥した後、実施例1と同様に、塗装を行なった温度10℃、湿度50%の環境化で試験体を1週間静置した。
【0063】
(比較例2)
比較例2でも、基材、発泡耐火塗料、溶剤系二液形エポキシ樹脂塗料、仕上げ塗料は、比較例1で用いたものと同じものを使用した。
【0064】
発泡耐火塗料が完全乾燥した後に溶剤系二液形エポキシ樹脂塗料を塗装した以外は、比較例1と全く同じ施工条件、及び施工方法によって比較例2の試験体を作製した。
【0065】
試験体の仕上げ塗料が乾燥した後、比較例1と同様に、塗装を行なった温度10℃、湿度50%の環境化で試験体を1週間静置した。
【0066】
(試験)
1週間静置した実施例1及び比較例1の試験体を、雨掛かりがなく、日当たりのよい屋外に移して1ヶ月放置し、1ヵ月後に試験体を目視によって観察した。なお、試験は、7月中旬から8月中旬にかけて行い、2つの試験体は2m離して並べて設置したため、試験体周辺の気温と湿度や、試験体への日照などの環境条件にはほとんど差はなかった。
【0067】
1ヵ月放置した後に試験体を目視によって観察した結果、実施例1、実施例2、及び比較例2で作製した試験体には特に異常は見られなかったが、比較例1で作製した試験体には、数箇所で保護層の膨れが発生していた。
【0068】
この結果より、実施例1の中塗り塗料を用いた場合には、発泡耐火塗料が完全乾燥する前に塗装しても耐火被覆層に不具合は発生しないが、比較例1の溶剤系二液形エポキシ樹脂塗料を用いた場合には、発泡耐火塗料が完全乾燥する前に塗装すると保護層に不具合が発生することがわかる。
【0069】
実施例1の中塗り塗料を用いた耐火被覆層は、発泡耐火塗料が完全に乾燥する前に、次工程である中塗り塗料の塗装を行なうことも可能であって、それによって保護層が膨れたり、剥がれたりといった不具合を起すこともないため、耐火被覆層を短時間で得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】被塗装物表面に形成された耐火被覆層の断面図
【図2】被塗装物表面に形成された耐火被覆層の断面図
【符号の説明】
【0071】
11 耐火被覆層
12 保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂エマルション、多価アルコール、含窒素発泡剤、及び難燃性発泡剤を含有する発泡耐火塗料によって形成された発泡耐火層の表面に、
エポキシ樹脂を水分散させたエポキシ樹脂エマルションを含有する塗料による中塗り塗料層と、仕上げ塗料層とを順に積層した保護層を有することを特徴とする耐火被覆層。
【請求項2】
前記エポキシ樹脂のエポキシ当量が100〜1000であることを特徴とする請求項1に記載の耐火被覆層。
【請求項3】
前記中塗り塗料層が充填材を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の耐火被覆層。
【請求項4】
前記充填材の一部又は全部が中空樹脂ビーズであることを特徴とする請求項3に記載の耐火被覆層。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−206317(P2012−206317A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72373(P2011−72373)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000159032)菊水化学工業株式会社 (121)
【Fターム(参考)】