説明

耐火被覆材の厚さ設定方法、及び好ましい厚さの耐火被覆材を備えた耐火被覆部材

【課題】模擬試験体が耐火試験に供された場合において、所望の特性が満足されるように耐火被覆材の厚さが求められる技術を提供しようとすることである。
【解決手段】金属材およびコンクリート材を具備する合成部材に耐火被覆材が設けられた耐火被覆部材における耐火被覆材の厚さ設定方法であって、耐火被覆部材の耐火被覆材が所定温度に加熱された際でも該耐火被覆部材の金属材が該金属材の許容温度以下であるよう、該耐火被覆部材の耐火被覆材が所定温度に加熱された際に該耐火被覆部材の金属材とコンクリート材との界面に発生する空隙部の厚さが考慮されて該耐火被覆部材の耐火被覆材の厚さが設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば耐火性能やコストの関係から好ましい厚さの耐火被覆材を備えた耐火被覆部材に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材(例えば、鋼材や鋳鉄材など)とコンクリート材とを備えた合成部材(複合部材)を用いた構造物がある。斯かる合成部材に耐火被覆材が設けられた(施された)耐火被覆部材が提案(特開2009−235890号公報)されている。
【0003】
斯かる耐火被覆部材における耐火被覆材の厚さは、コストが低く抑えられ、かつ、耐火被覆材が剥落する虞が小さい等の観点から、薄い方が好ましい。しかしながら、薄すぎた場合には、耐火性能が満たされなくなる。従って、両者の調和が取れたものでなければならない。
【0004】
ところで、耐火被覆材の厚さは次のようにして決められている。耐火性能を確認する為に、耐火被覆部材を模した試験体を用いて耐火試験が行われる。しかし、耐火試験は、試験体の作製から耐火試験を行うまで日数が掛かる。労力やコストが掛かる。従って、少ない耐火試験回数で耐火被覆材の厚さが設定(決定)されることが望まれる。このようなことから、熱伝導解析の技術が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−235890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
耐火被覆部材における耐火被覆材の厚さは、熱伝導解析によって、決定されている。
【0007】
しかしながら、これまでの熱伝導解析の手法によって決められた厚さの耐火被覆材が設けられた耐火被覆部材でも、問題が有ることが判って来た。すなわち、これまでの熱伝導解析の結果によって求められた厚さの耐火被覆材を有する耐火被覆部材は、本来なら、問題なかった筈である。にも拘わらず、そのような特徴を有するように作製された模擬試験体を耐火試験に供すると、所定の耐火特性が満足されていない場合が有った。すなわち、理論(予想)と現実との間で乖離が生じていた。
【0008】
従って、本発明が解決しようとする課題は、耐火試験に供された場合において、所望の耐火特性が満足される耐火被覆部材(模擬試験体)が簡単に得られる技術を提供しようとすることである。特に、所望の耐火特性が満足される耐火被覆材の厚さが簡単に求められる技術を提供しようとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記問題点に対する検討が、本発明者によって、鋭意、推し進められて行った。その結果、次のことが判明して来た。すなわち、耐火被覆部材の耐火被覆材が所定温度に加熱された場合、耐火被覆部材の金属材とコンクリート材との界面において、剥離が起きていることが判って来た。つまり、界面には空隙部が出来ていた。この空隙部が出来た場合、空隙部が無い場合に比べて、空隙部が断熱材の作用を果たす為、耐火被覆部材の金属材は高温下に曝されていることが判った。にも拘わらず、斯かる現象が、これまでにあっては、全く、考慮されてなかった。この為、理論(予想)と現実との間で乖離が生じていたことに気付くに至った。
【0010】
従って、前記空隙部が考慮されて熱伝導解析が行われたならば、理論(予想)と現実との間での大きな乖離は起きないであろうとの啓示が得られるに至った。
【0011】
前記知見を基にして本発明が達成された。
【0012】
すなわち、前記の課題は、
金属材およびコンクリート材を具備する合成部材に耐火被覆材が設けられた耐火被覆部材における耐火被覆材の厚さ設定方法であって、
耐火被覆部材の耐火被覆材が所定温度に加熱された際でも該耐火被覆部材の金属材が該金属材の許容温度以下であるよう、該耐火被覆部材の耐火被覆材が所定温度に加熱された際に該耐火被覆部材の金属材とコンクリート材との界面に発生する空隙部の厚さが考慮されて該耐火被覆部材の耐火被覆材の厚さが設定される
ことを特徴とする耐火被覆材の厚さ設定方法によって解決される。
【0013】
前記の課題は、
金属材およびコンクリート材を具備する合成部材に耐火被覆材が設けられた耐火被覆部材における耐火被覆材の厚さ設定方法であって、
耐火被覆部材の耐火被覆材が所定温度に加熱された際に該耐火被覆部材の金属材とコンクリート材との界面に発生する空隙部の厚さが測定される測定工程と、
前記測定工程で測定された空隙部厚が導入されて耐火被覆部材についての熱伝導解析が行われ、耐火被覆部材の耐火被覆材の厚さが求められる解析工程
とを具備することを特徴とする耐火被覆材の厚さ設定方法によって解決される。
【0014】
前記耐火被覆材の厚さ設定方法であって、好ましくは、解析工程は、耐火被覆部材の金属材とコンクリート材との界面に発生する空隙部厚および耐火被覆部材の耐火被覆材の厚さが導入され、熱伝導解析が行われ、耐火被覆部材の金属材が該金属材の許容温度以下であるよう耐火被覆部材の耐火被覆材の厚さが求められる工程であることを特徴とする耐火被覆材の厚さ設定方法によって解決される。
【0015】
前記耐火被覆材の厚さ設定方法であって、好ましくは、耐火被覆部材の耐火被覆材が所定温度に加熱された際に該耐火被覆部材の金属材とコンクリート材との界面に発生する空隙部の厚さが考慮されて求められた厚さの耐火被覆材が前記合成部材に設けられた耐火被覆部材を用いた耐火性能の確認試験が行われる確認試験工程を更に具備することを特徴とする耐火被覆材の厚さ設定方法によって解決される。
【0016】
前記の課題は、
金属材およびコンクリート材を具備する合成部材と、
前記合成部材に設けられた前記耐火被覆材の厚さ設定方法により求められた厚さの耐火被覆材
とを備えたことを特徴とする耐火被覆部材によって解決される。
【発明の効果】
【0017】
耐火性能やコストの関係から好ましい厚さの耐火被覆材を備えた耐火被覆部材が、簡単、かつ、低コストで得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】耐火被覆部材の断面図および平面図
【図2】耐火被覆部材の温度変化および空隙部の厚さを示すグラフ
【図3】熱伝導解析の解析結果を示すグラフ
【図4】本発明のフロー図
【発明を実施するための形態】
【0019】
第1の発明は耐火被覆材の厚さ設定方法である。本方法は、金属材およびコンクリート材を具備する合成部材に耐火被覆材が設けられた耐火被覆部材における耐火被覆材の厚さ設定方法である。特に、耐火被覆部材(金属材の一面側にコンクリート材が設けられ、金属材の他面側に耐火被覆材が設けられた耐火被覆部材)における耐火被覆材の厚さ設定方法である。
【0020】
前記方法は、耐火被覆部材の耐火被覆材が所定温度に加熱された際でも該耐火被覆部材の金属材が該金属材の許容温度以下であるよう、該耐火被覆部材の耐火被覆材が所定温度に加熱された際に該耐火被覆部材の金属材とコンクリート材との界面に発生する空隙部の厚さが考慮されて該耐火被覆部材の耐火被覆材の厚さが設定される。
【0021】
或いは、前記方法は、測定工程と解析工程とを具備する。前記測定工程は、空隙部の厚さが測定される工程である。前記厚さが測定される空隙部は、耐火被覆部材の耐火被覆材が所定温度に加熱された際に、該耐火被覆部材の金属材とコンクリート材との界面に発生する空隙部である。前記解析工程は、前記測定工程で測定された空隙部厚が導入されて耐火被覆部材についての熱伝導解析が行われ、耐火被覆部材の耐火被覆材の厚さが求められる工程である。前記解析工程は、好ましくは、耐火被覆部材の金属材とコンクリート材との界面に発生する空隙部厚および耐火被覆部材の耐火被覆材の厚さが導入される工程を具備する。熱伝導解析が行われる工程を具備する。耐火被覆部材の金属材が該金属材の許容温度以下であるよう耐火被覆部材の耐火被覆材の厚さが求められる工程を具備する。
【0022】
これまでにおいては、熱伝導解析に際して、空隙部厚が全く考慮されてなかった。これに対して、熱伝導解析に際して、空隙部厚の導入が、初めて、提唱されたのである。そして、これによって、理論(予想)と現実との間での一致がより近いものとなり、耐火被覆材の厚さを出来るだけ薄いものと出来るようになった。所望の耐火特性が満たされていることを前提としていることは勿論である。
【0023】
そして、好ましくは、耐火被覆部材の耐火被覆材が所定温度に加熱された際に該耐火被覆部材の金属材とコンクリート材との界面に発生する空隙部の厚さが考慮されて求められた厚さの耐火被覆材が前記合成部材に設けられた耐火被覆部材を用いた耐火性能の確認試験が行われる。
【0024】
第2の発明は耐火被覆部材である。本耐火被覆部材は、金属材と、コンクリート材と、耐火被覆材とを具備する。耐火被覆部材は、特に、金属材の一面側にコンクリート材が設けられ、金属材の他面側に耐火被覆材が設けられたものである。前記耐火被覆材は、その厚さが、前記耐火被覆材の厚さ設定方法により求められた厚さである。
【0025】
以下、更に詳しく説明される。
【0026】
本発明において、耐火被覆部材の耐火被覆材が所定温度に加熱された際に、該耐火被覆部材の金属材とコンクリート材との界面に発生する空隙部の厚さは、次のようにして求められる。例えば、前記測定工程において、前記耐火被覆部材の金属材とコンクリート材との界面に発生する空隙部の厚さは、次のようにして求められる。例えば、界面における金属材の変位を変位計によって測定する方法である。この時、好ましくは、コンクリート材との界面における金属材と、変位計との間に、棒、板又は線(変位伝達具)が挟まれる。この変位伝達具の材質は、好ましくは、硬質で、加熱により破損が無く、かつ、熱膨張係数が小さいものが好ましい。例えば、鋼材、ガラス、セラミックス等が挙げられる。特に、石英ガラスは、熱膨張係数が1×10−7/℃と小さく、かつ、硬質であり、更には熱損傷が起き難く、しかも所望の形状への成形が容易である。従って、石英ガラス製の変位伝達具は、特に、好ましい。前記変位伝達具は次のように配設される。先ず、コンクリート材に孔(穴)が形成される。この孔(穴)は、コンクリート材が設けられている金属材との界面にまで達する深さの孔(穴)である。この孔(穴)に、前記変位伝達具が金属材表面に達するまで挿入される。そして、所定温度への加熱前・後における変位伝達具により伝えられる前記界面における金属材とコンクリート材との間隙量(間隙(空隙)の厚み)が、変位計で測定される。コンクリート材に前記孔(穴)を形成するには、ドリル等で穿孔することが考えられる。容易に孔が形成できることから、断面内形が前記変位伝達具の断面外形と略同じ大きさの(当接する)管を、予め、設置した上でコンクリートを打ち込む方法、又は変位伝達具と同じ形状のジグを予め設置した上でコンクリートを打ち込み、その後に当該ジグを引抜く方法などが用いられる。
【0027】
前記空隙部の厚さの測定方法としては、次のような手法も有る。コンクリート材に金属材との界面にまで達する孔(穴)が形成される。そして、加熱前・後で、この孔にレーザー変位計のレーザー光線が照射される。これによっても測定が出来る。
【0028】
本発明において、耐火被覆材の厚さは次のようにして決められる。耐火被覆部材の耐火被覆材が所定温度に加熱された際に、該耐火被覆部材の金属材とコンクリート材との界面に発生する空隙部の厚さが考慮されて該耐火被覆部材の耐火被覆材の厚さが設定される。例えば、耐火被覆部材についての熱伝導解析が行われ、耐火被覆部材の耐火被覆材の厚さが求められる。この熱伝導解析は、好ましくは、非定常熱伝導による解析である。この解析には、熱伝導解析ソフトウェアが用いられる。この熱伝導解析ソフトウェアは市販されているものを用いることが出来る。熱伝導解析ソフトウェアとしては、特に、有限要素法による熱伝導解析ソフトウェアが好ましい。そして、情報処理装置による熱伝導解析において、加熱条件、構造条件、材料の熱特性等の材料条件などが設定(入力)され、更に前記空隙部の厚さ(耐火被覆部材の耐火被覆材が所定温度に加熱された際に、該耐火被覆部材の金属材とコンクリート材との界面に発生する空隙部の厚さ)が導入され、熱伝導解析が行われる。その結果、金属材と耐火被覆材との界面における温度(t)が求められる。この温度(t)は金属材の最高温度である。従って、この温度(t)が金属材の許容温度(t)以下となる時の耐火被覆材の厚さが目的(求めよう)とする厚さである。
【0029】
上記手法で求められた厚さの耐火被覆材が設けられた耐火被覆部材の試験体に対して、耐火性能の確認試験が行われる。この耐火性能の確認試験により、設定通りの厚さの耐火被覆材の耐火性が確保できておれば、即ち、金属材と耐火被覆材との界面における最高温度が金属材の許容温度(t)以下となっていることが確認されれば、これで、終了する。尚、仮に、確認できなかった場合には、再度の遣り直しが行われる。
【0030】
本発明で用いられる耐火被覆材としては、例えば珪酸カルシウム板やセラミックス製耐火板等の耐火板、耐火塗料や耐火モルタル等の不定形耐火被覆材、ブランケット等が挙げられる。不定形耐火材は耐火被覆材として好ましい例である。なぜならば、合成部材の形状が複雑な場合でも、不定形耐火材による被覆が容易であるからによる。合成部材表面に耐火被覆材で被覆する方法は限定されない。耐火被覆材の種類により、適宜、選定される。例えば、耐火板の場合は、接着剤による貼付や、取り付け金具による取り付け等が挙げられる。不定形耐火被覆材の場合は、型枠を設置した打ち込み、ローラー塗り、塗装、吹付け、コテ塗り等が挙げられる。ブランケットの場合には、金具による取り付け、巻き付け、接着剤による貼付等が挙げられる。
【0031】
本発明における金属材とコンクリート材からなる合成部材としては、鋼管充填コンクリートからなる部材、コンクリートを充填した鋼殻セグメント、コンクリートを充填した鋳鉄製セグメント、コンクリートと鋼板からなる合成床版、コンクリートと鋼板からなる合成スラブ、鋼板巻きたてコンクリート等が例示される。本発明におけるコンクリートは、コンクリートに粗骨材が含まれないモルタルをも含む意味で用いられている。本発明における合成部材には、金属材およびコンクリート材以外の材を有していても良い。例えば、タイル等のセラミックス、ガラス、エポキシ系防食塗料やアクリル樹脂などの樹脂、石板等の石材、木材、石膏ボード等が挙げられる。金属材およびコンクリート材以外の材は、1種類に限られない。2種類以上の材が用いられていても良い。すなわち、本発明における合成部材とは、金属材とコンクリート材とを主材とする合成部材である。
【0032】
以下、具体的な実施例によって本発明が説明される。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものでないことは当然である。
【0033】
[実施例]
図1(a)(b)に示される予備的加熱試験用の試験体(供試体)が作製された。尚、同図中、1は試験体(供試体)である。2は鋼製函である。3は鋼製パイプである。4は石英ガラス製丸棒である。5はズレ止め用形鋼である。6は耐火被覆材である。7はコンクリート材である。8は異形鉄筋(D10)である。この試験体(供試体)1は、実際の目的箇所に実装される耐火被覆部材と同じ大きさ・形をしたものである。本例では厚み9mmの鋼板が用いられた。そして、内形(縦×横×深さ)が1100mm×1100mm×200mmの鋼板製の函2が作製された。この函2内にコンクリート7が充填された。このコンクリート7充填鋼板製函2(本発明で言う合成部材:複合部材)の底面(外面:下面)の中央部に、900mm×900mm×25mm(縦×横×厚さ)の耐火被覆材6が設けられた。すなわち、コンクリート7充填鋼板製函2の底面(外面:下面)の中央部に、軽量モルタルが吹き付けられ、この後で鏝均しが行われることによって、耐火被覆材6が設けられた。尚、鋼製函2の内側(底部)には、2個の断面L字のズレ止め用の形鋼(150mm×90mm×9mm×1100mm)5が溶接によって取り付けられている。試験体1の中央部には、内側の大きさが18.6mm×18.6mmの正方形状で長さ280mmの鋼製パイプ3がコンクリート打ち込み前に設置されていたので、この鋼製パイプ3により鋼製函2の内側(底部)まで達する貫通孔が形成されている。そして、鋼製パイプ3内にφ18mm×300mm(直径×長さ)の石英ガラス製丸棒(変位伝達具)4が当接するように挿入された。
【0034】
図1(a)(b)に示される試験体(供試体)1が、この試験体(供試体)1と同等の耐火被覆部材が実装される箇所で要求される所定の温度に加熱された。本例での加熱条件は、例えば加熱開始から5分間で1200℃に達し、25分間に亘って1200℃が維持され、その後110分で室温まで戻すRABT加熱曲線による30分加熱(RABT30分加熱)である。合計加熱時間は140分である。加熱は耐火被覆材6に対して行われた。すなわち、図1(a)の下方側から加熱が行われた。
【0035】
試験体(供試体)1には熱電対が埋め込まれているので、所定箇所の温度が測定された。すなわち、鋼製函2の外側中央部の鋼板と耐火被覆材6との界面における温度(鋼材表面温度:t)と、その略裏に当たる部分の鋼板とコンクリート7との界面から20mm上側の位置における温度(コンクリート7の所定位置における温度:t)が測定された。
【0036】
又、鋼製函2中央部の鋼板の撓み量(δ)と、貫通孔(鋼製パイプ)近傍のコンクリート裏面(試験体1の加熱側に対し背面)の撓み量(δ)とが測定された。この撓み量(δ,δ)の測定は、石英ガラス製丸棒(変位伝達具)4の上端面およびコンクリート材7の上端面に先端が当接するように配置された変位計(図示せず)によって測定されたものである。これによって、鋼製函2の内底面とコンクリート材7下面との間の界面において、加熱によって生じた空隙部の厚さG(δ−δ)が求められた。
【0037】
上記測定で得られた空隙部の厚さ(G:δ−δ)、鋼材表面温度(t)、コンクリート7における所定箇所での温度(t)の計時変化が図2に示される。
【0038】
空隙部の厚さ(G:δ−δ)の最大値は2.13mmであった。しかし、本発明では、この最大値を空隙部の厚さとするよりも、空隙部の厚さの平均値(加熱開始から140分間における空隙部の厚さの平均値)を空隙部の厚さとした方が合理的と考えられたので、最大値では無く、平均値を空隙部の厚さとした。具体的には、加熱開始から140分の間において測定で得られた空隙部の厚さ(G)の和を測定回数で除した値である。本例では、その結果は0.99mmであった。尚、市販の熱伝導解析ソフトウェアでは空隙部の厚さの連続的変化量を用いることが出来ないのも有る。従って、このような場合には、熱伝導解析に際して、前記平均値を空隙部の厚さとして用いるようにすれば良い。この場合、最大値を用いるよりも、耐火被覆材の厚みが必要以上に厚くならずに済む。
【0039】
そして、耐火被覆材(軽量モルタル)の厚さが25mm、鋼板の厚さが9mm、コンクリートの厚さが200mmで、鋼板とコンクリートとの界面に生じた空隙部の厚さが1.0mmであると仮定した場合、更に表1の解析条件で、市販の有限要素法熱伝導解析ソフトウェア(非定常熱伝導のもの)が用いられて、鋼材表面温度(t)の最高値が求められた。又、鋼板とコンクリートとの界面に生じた空隙部の厚さが0.5mmであると仮定した場合についても、又、前記空隙部の厚さが0mmであると仮定した場合についても、市販の有限要素法熱伝導解析ソフトウェア(非定常熱伝導のもの)が用いられて、鋼材表面温度(t)の最高値が求められた。この結果が図3に示される。
【0040】
【表1】

【0041】
そして、図4における前記空隙部の厚さが1.0mmであると仮定された時のグラフ、及び鋼材の許容温度(t)が250℃(この温度は、耐火被覆部材が実装される条件によって一義的に決まる。)の条件から、鋼材表面温度(t)の最高値が金属材料の許容温度(t)以下となる場合の耐火被覆材の厚みの最小値を求めると、27.8mmであった。すなわち、上記構造の耐火被覆部材における耐火被覆材は、その厚さが27.8mmの場合に、この耐火被覆部材が実装される箇所での耐火性が満足されるものである。因みに、耐火被覆材の厚みを28mmとし、上記図1に示される構造の耐火被覆部材を作製(但し、この試験体(供試体)にあっては、鋼製パイプによる貫通孔や石英ガラス製丸棒(変位伝達具)は備わってない。)した。そして、前記と同様な加熱条件で加熱が行われた。この結果、鋼材表面温度(t)の最高値は195℃であった。これは、鋼材の許容温度(t:250℃)を下回っていた。従って、耐火被覆材の厚みを28mmとした場合、所定の耐火性能を備えていることが確認された。
【符号の説明】
【0042】
1 試験体(供試体)
2 鋼製函
3 鋼製パイプ
4 石英ガラス製丸棒
5 ズレ止め用形鋼
6 耐火被覆材
7 コンクリート材
8 異形鉄筋(D10)



【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材およびコンクリート材を具備する合成部材に耐火被覆材が設けられた耐火被覆部材における耐火被覆材の厚さ設定方法であって、
耐火被覆部材の耐火被覆材が所定温度に加熱された際でも該耐火被覆部材の金属材が該金属材の許容温度以下であるよう、該耐火被覆部材の耐火被覆材が所定温度に加熱された際に該耐火被覆部材の金属材とコンクリート材との界面に発生する空隙部の厚さが考慮されて該耐火被覆部材の耐火被覆材の厚さが設定される
ことを特徴とする耐火被覆材の厚さ設定方法。
【請求項2】
金属材およびコンクリート材を具備する合成部材に耐火被覆材が設けられた耐火被覆部材における耐火被覆材の厚さ設定方法であって、
耐火被覆部材の耐火被覆材が所定温度に加熱された際に該耐火被覆部材の金属材とコンクリート材との界面に発生する空隙部の厚さが測定される測定工程と、
前記測定工程で測定された空隙部厚が導入されて耐火被覆部材についての熱伝導解析が行われ、耐火被覆部材の耐火被覆材の厚さが求められる解析工程
とを具備することを特徴とする耐火被覆材の厚さ設定方法。
【請求項3】
解析工程は、耐火被覆部材の金属材とコンクリート材との界面に発生する空隙部厚および耐火被覆部材の耐火被覆材の厚さが導入され、熱伝導解析が行われ、耐火被覆部材の金属材が該金属材の許容温度以下であるよう耐火被覆部材の耐火被覆材の厚さが求められる工程である
ことを特徴とする請求項2の耐火被覆材の厚さ設定方法。
【請求項4】
耐火被覆部材の耐火被覆材が所定温度に加熱された際に該耐火被覆部材の金属材とコンクリート材との界面に発生する空隙部の厚さが考慮されて求められた厚さの耐火被覆材が前記合成部材に設けられた耐火被覆部材を用いた耐火性能の確認試験が行われる確認試験工程を更に具備する
ことを特徴とする請求項1〜請求項3いずれかの耐火被覆材の厚さ設定方法。
【請求項5】
金属材およびコンクリート材を具備する合成部材と、
前記合成部材に設けられた請求項1〜請求項4いずれかの耐火被覆材の厚さ設定方法により求められた厚さの耐火被覆材
とを備えたことを特徴とする耐火被覆部材。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−251956(P2012−251956A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−126778(P2011−126778)
【出願日】平成23年6月6日(2011.6.6)
【出願人】(501173461)太平洋マテリアル株式会社 (307)
【Fターム(参考)】