説明

耐火被覆構造およびその形成方法

【課題】形成が容易で、加熱条件が厳しい場合においても、構造部材の温度上昇を充分抑制された耐火被覆構造を提供すること。また、形成が容易で、加熱条件が厳しい場合においても、構造部材の温度上昇を充分抑制できる耐火被覆構造の形成方法を提供すること。
【手段】特定の位置に反射・遮蔽板を備える。即ち、耐火被覆材層を表面に有する構造部材の耐火被覆材層表面と離れた位置に反射・遮蔽板を備える。また、構造部材表面に耐火被覆材層を形成し、該耐火被覆材層表面と離れた位置に反射・遮蔽板を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐火被覆構造に関し、特に、形成が容易であり且つ火災時の高温下においても優れた耐力を有する耐火被覆構造に関する。また、本発明は、耐火被覆構造の形成方法に関し、特に、形成が容易であり且つ火災時の高温下においても優れた耐力を有する耐火被覆構造を得られる耐火被覆構造の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トンネル、地下空間、橋梁、ビル、タンク等の建築土木構造物内の鋼材や鋳鉄材等からなる構造部材は、その温度が火災等により耐火温度を超えると、強度が低下し構造耐力を維持できなくなるという問題がある。そこで、現在では、火災時に鋼材や鋳鉄材等からなる構造部材の温度を耐火温度以下に抑制するため、建築土木構造物の表面に耐火被覆材を設置することが必須となっている。
【0003】
また、これまでコンクリート自体は耐火性能に優れる材料であると言われてきたが、近年 多用されつつある高強度コンクリートでは、特にマトリックス相が緻密なため、火災時には加熱による熱応力とコンクリート内部の水の蒸発による水蒸気圧が相俟ってコンクリートの爆裂現象を引き起こし易く、構造耐力を保持できない虞がある。また、火災等により高温に長時間曝されたコンクリートは強度低下が著しい場合があり、この場合も構造耐力を保持できない虞がある。爆裂現象の防止やコンクリートの強度低下の防止等の目的で、コンクリートにおいても耐火対策を施すことも必要になってきている。
【0004】
鋼材、鋳鉄材、コンクリート又はこれらの2種以上を組み合わせたものからなる構造部材に耐火性能を付与するために、構造部材の表面に耐火パネル又は耐火マットを設置する方法、或いは構造部材の表面に発泡性断熱層を形成する塗膜を塗布する方法等が提案されている(例えば特許文献1、特許文献2及び特許文献3参照)。しかし、耐火パネルを用いたものは、設置精度を落とし各耐火パネルを離して設置することはできないので、施工効率が悪かった。また、耐火マットを用いる方法は、広い面積に設置することや風雨に曝される構造部材には使用し難いという問題があった。また、構造部材の表面に発泡性断熱層を形成する塗膜を塗布する方法は、構造部材の熱容量が小さい場合や加熱条件がより厳しい場合は、発泡性断熱層の形成が間に合わずに、構造部材の温度が耐火温度を超えてしまう虞があった。
【特許文献1】特開2002−349196号公報
【特許文献2】特開平6−136852号公報
【特許文献2】特開平8−74497号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記問題の解決、即ち、形成が容易で、加熱条件が厳しい場合においても、構造部材の温度上昇が充分抑制された耐火被覆構造を提供することを目的とする。また、本発明は、形成が容易で、加熱条件が厳しい場合においても、構造部材の温度上昇を充分抑制できる耐火被覆構造の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記課題解決のため鋭意検討した結果、特定の位置に反射・遮蔽板を備えることにより、前記課題を克服することができることを見出し、本発明を完成させた。即ち、本発明は、以下の(1)〜(5)の耐火被覆構造及び(6)で表す耐火被覆構造の形成方法である。
(1)構造部材の表面に耐火被覆材層を有する耐火被覆構造であって、該耐火被覆材層表面と離れた位置に反射・遮蔽板を備える耐火被覆構造。
(2)上記反射・遮蔽板のJIS D 5705に規定される熱反射率が50%以上である上記(1)の耐火被覆構造。
(3)上記反射・遮蔽板のJIS R 3106に規定される放射率が0.5以下である上記(1)又は(2)の耐火被覆構造。
(4)上記反射・遮蔽板の投影面積S2が、構造部材の投影面積S1の1.1倍以上である上記(1)〜上記(3)の何れかの耐火被覆構造。
(5)上記耐火被覆材層が、発泡性耐火被覆材からなる層である記(1)〜上記(4)の何れかの記載の耐火被覆構造。
(6)構造部材表面に耐火被覆材層を形成し、該耐火被覆材層表面と離れた位置に反射・遮蔽板を設けることを特徴とする耐火被覆構造の形成方法。

【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、形成が容易で、加熱条件が厳しい場合においても、構造部材の温度上昇が充分抑制された耐火被覆構造が得られる。また、本発明は、形成が容易で、加熱条件が厳しい場合においても、構造部材の温度上昇を充分抑制できる耐火被覆構造の形成方法が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の耐火被覆構造は、構造部材の表面に耐火被覆材層を有する耐火被覆構造であって、該耐火被覆材層表面と離れた位置に反射・遮蔽板を備えることを特徴とする。反射・遮蔽板が耐火被覆材層表面に接していると、放射熱以外に伝熱によっても火災による熱が耐火被覆材層に伝わり、最終的には構造部材の温度が高くなる。これに対し、本発明の耐火被覆構造は、耐火被覆材層表面と反射・遮蔽板とが離れた位置にあるので、火災の熱が反射・遮蔽板の火炎側の面で反射され、反射・遮蔽板の裏面、即ち耐火被覆材層表面側の面から耐火被覆材層表面に放射される放射熱が主に耐火被覆材層に伝わり、最終的には構造部材の温度が抑制される。
【0009】
また、本発明において使用する反射・遮蔽板は、火災時の火炎の放射熱の一部分を反射することで、反射・遮蔽板の裏面から耐火被覆材層表面に放射される放射熱が抑制される。上記反射・遮蔽板のJIS D 5705に規定される熱反射率が50%以上であるものが好ましい。熱反射率が50%以上の場合は、耐火被覆材層の温度上昇がより緩やかになので好ましい。反射・遮蔽板のJIS D 5705に規定される熱反射率が55%以上のものがより好ましく、60%以上のものが最も好ましい。
【0010】
上記反射・遮蔽板のJIS R 3106に規定される放射率が0.5以下であるものが好ましい。放射率が0.5以下の場合は、耐火被覆材層の温度上昇がより緩やかになので好ましい。反射・遮蔽板のJIS R 3106に規定される放射率0.4以下のものがより好ましく、0.3以下のものが最も好ましい。
【0011】
本発明において使用する上記反射・遮蔽板としては、耐火性が高いことから、無機材料を主体とすることが好ましく、熱反射率が高いことから金属を反射・遮蔽板の火炎側の面に用いることがより好ましい。用いる金属がステンレス鋼等の耐食性の高い場合は金属表面にコーティング材を用いる必要は無いことから好ましい。ステンレス鋼以外の鋼材やアルミニウム等のように耐食性の低い金属は、空気中の酸素や結露等により表面が腐食すると熱反射率が低下するので、耐食性の低い金属を反射・遮蔽板の火炎側の面に用いる場合は、耐食性の低い金属の表面を樹脂や油脂等のコーティング材で被覆することにより長期間反射・遮蔽板の熱反射率が高く維持できることから好ましい。
【0012】
耐火被覆材層表面と反射・遮蔽板との距離は、5mm〜2000mmとすることが好ましい。5mm未満では火災時に反射・遮蔽板が熱膨張により耐火被覆材層表面と接する虞がある。また、2000mmを超えると構造物の大きさを大きくする必要があることから不経済となる。より好ましい耐火被覆材層表面と反射・遮蔽板との距離は、10mm〜1000mmとし、最も好ましくは20mm〜500mmとする。また、反射・遮蔽板と構造部材との間に耐火被覆材層があると、火災時の構造部材の温度上昇が抑制されることから好ましい。
【0013】
反射・遮蔽板の投影面積S2が、構造部材の投影面積S1の1.1倍以上であると、耐火被覆材層の温度上昇、最終的には構造部材の温度上昇をより抑制することができることから好ましい。また、構造部材の投影面が、反射・遮蔽板の投影面に80%以上の面積が重なっていることが、耐火被覆材層の温度上昇、最終的には構造部材の温度上昇をより抑制することができることから好ましい。構造部材の温度上昇をより抑制することができることから、構造部材の投影面が、反射・遮蔽板の投影面に90%以上の面積が重なっていることがより好ましく、100%重なっていることが最も好ましい。本発明において、反射・遮蔽板の投影面及び構造部材の投影面とは、火災時に火炎が起こると考えられる側の無限大の距離から、光を当てたときの反射・遮蔽板及び構造部材の投影面をいい、そのときの面積をそれぞれ反射・遮蔽板の投影面積S及び構造部材の投影面積S1とする。
【0014】
本発明において耐火被覆材層を形成する材料は、発泡性耐火塗料等の発泡性耐火被覆材、耐火パネル、耐火マット、特許第3223255号の特許請求の範囲に記載の発明や太平洋マテリアル社製湿式耐火被覆材「太平洋フェンドライト」(商品名)等のセメントを結合材として含有するセメント系湿式耐火被覆材等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。耐火被覆材層を形成する材料が、発泡性耐火塗料等の発泡性耐火被覆材であると構造部材の表面が複雑な形状であっても、耐火被覆材層を形成し易いことから好ましい。耐火被覆材層の形成に比較的装置や道具が小さく軽量であることから、耐火被覆材層を形成する材料が発泡性耐火塗料であるとより好ましい。
【実施例】
【0015】
[実施例1]
鋼製セグメントからなるトンネルを想定して、構造部材として鋼製平板(寸法:400×400×30mm)の1面に、膨張バーミュキライト及びポルトランドセメントを主要成分とする湿式耐火被覆材(製品名「太平洋フェンドライトMII」、太平洋マテリアル社製品)を水と練り混ぜ吹付けた後に鏝押さえを行い、鋼製平板上に厚みが30mmの耐火被覆材(寸法:400×400×30mm)を設けた。その後、鋼製平板に、耐火被覆材と反射・遮蔽板との距離が500mmとなるようにボルト及びナットにより厚み6mmのステンレス製鋼板(寸法:450×450×6mm、JIS D 5705に規定される熱反射率:60%、JIS R 3106に規定される放射率:0.3)を取り付け耐火試験体1とした。試験体1の模式的な背面図を図1に、試験体1の模式的なA−A断面図を図2に示す。このときの反射・遮蔽板の投影面積S2(20.3×10mm)は、構造部材(鋼製平板)の投影面積S1(16.0×10mm)の1.27倍である。
【0016】
[耐火試験]
耐火試験は、耐火炉によって、耐火試験体1のステンレス製鋼板側から火炎により加熱し、耐火被覆材と鋼との界面中央部分の温度を測定した。このとき用いた加熱曲線は、トンネル内の火災を想定して、RABT加熱曲線(加熱開始5分後に1200℃になるように昇温、1200℃を55分間保持した後、110分間掛けて常温まで徐冷)を用いた。また、耐火被覆材と鋼との界面の最高温度、及び耐火構造体としての評価を表1に示す。耐火構造体としての評価は、構造体下地と耐火材との界面温度の最高温度が、建築構造部材の耐火試験における平均鋼材温度の判定温度およびコンクリートを爆裂の発生させない目安である350℃以下であった場合を耐火性有り、350℃を超えた場合を耐火性無しと判断した。
【0017】
【表1】

【0018】
[実施例2]
鋼製セグメントからなるトンネルを想定して、構造部材として鋼製平板(寸法:400×400×30mm)の1面に、発泡性耐火塗料(製品名「スプレーフィルム」、太平洋マテリアル社販売)を吹き付け、鋼製平板上に厚みが4mmの発泡性耐火塗料からなる耐火被覆材(寸法:400×400×4mm)を設けた。その後、鋼製平板に、耐火被覆材と反射・遮蔽板との距離が10mmとなるようにボルト及びナットにより厚み6mmのステンレス製鋼板(寸法:450×450×6mm、JIS D 5705に規定される熱反射率:60%、JIS R 3106に規定される放射率:0.3)を取り付け耐火試験体2とした。試験体2の模式的な背面図を図3に、試験体2の模式的なB−B断面図を図4に示す。このときの反射・遮蔽板の投影面積S2(20.3×10mm)は、構造部材(鋼製平板)の投影面積S1(16.0×10mm)の1.27倍である。
【0019】
[耐火試験]
試験体1と同様に耐火試験を行い、その結果を表1に合わせて示す。耐火構造体としての評価基準は実施例1と同じとした。
【0020】
[比較例1]
鋼製セグメントからなるトンネルを想定して、構造部材として鋼製平板(寸法:400×400×30mm)の1面に、発泡性耐火塗料(製品名「スプレーフィルム」、太平洋マテリアル社販売)を吹き付け、鋼製平板上に厚みが4mmの発泡性耐火塗料からなる耐火被覆材(寸法:400×400×4mm)を設けた。その後、鋼製平板に、耐火被覆材と反射・遮蔽板との距離が0mm、即ち耐火被覆材と反射・遮蔽板とが接するようにボルトにより厚み6mmのステンレス製鋼板(寸法:450×450×6mm、JIS D 5705に規定される熱反射率:60%、JIS R 3106に規定される放射率:0.3)を取り付け耐火試験体3とした。試験体3の模式的な背面図を図5に、試験体3の模式的なC−C断面図を図6に示す。このときの反射・遮蔽板の投影面積S2(20.3×10mm)は、構造部材(鋼製平板)の投影面積S1(16.0×10mm)の1.27倍である。
【0021】
[耐火試験]
試験体1と同様に耐火試験を行い、その結果を表1に合わせて示す。耐火構造体としての評価基準は実施例1と同じとした。
【0022】
[比較例2]
鋼製セグメントからなるトンネルを想定して、構造部材として鋼製平板(寸法:400×400×30mm)の1面に、発泡性耐火塗料(製品名「スプレーフィルム」、太平洋マテリアル社販売)を吹き付け、鋼製平板上に厚みが4mmの発泡性耐火塗料からなる耐火被覆材(寸法:400×400×4mm)を設け、耐火試験体4とした。即ち、反射・遮蔽板は用いなかった。試験体4の模式的な背面図を図7に、試験体4の模式的なD−D断面図を図7に示す。
【0023】
[耐火試験]
試験体1と同様に耐火試験を行い、その結果を表1に合わせて示す。耐火構造体としての評価基準は実施例1と同じとした。
【0024】
本発明の実施例に当たる試験体1及び試験体2は、耐火被覆構造として高い耐火性能を備え、RABT加熱曲線を用いるという加熱条件が厳しい耐火試験においても、耐火温度(350℃)を超える温度には達しなかったので、構造部材としての性能を維持できた。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の耐火被覆構造は、トンネル、地下空間、橋梁、ビル、タンク等の建築土木構造物に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】試験体1の模式的な背面図である。
【図2】試験体1の模式的なA−A断面図である。
【図3】試験体2の模式的な背面図である。
【図4】試験体2の模式的なB−B断面図である。
【図5】試験体3の模式的な背面図である。
【図6】試験体3の模式的なC−C断面図である。
【図7】試験体4の模式的な背面図である。
【図8】試験体4の模式的なD−D断面図である。
【符号の説明】
【0027】
1 耐火被覆材層
2 反射・遮蔽板
3 ボルト
4 ナット
5 耐火被覆材層表面と反射・遮蔽板との距離
6 試験体
7 鋼製平板
8 耐火被覆材と鋼との界面
9 熱電対

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造部材の表面に耐火被覆材層を有する耐火被覆構造であって、該耐火被覆材層表面と離れた位置に反射・遮蔽板を備える耐火被覆構造。
【請求項2】
上記反射・遮蔽板のJIS D 5705に規定される熱反射率が50%以上である請求項1記載の耐火被覆構造。
【請求項3】
上記反射・遮蔽板のJIS R 3106に規定される放射率が0.5以下である請求項1又は2記載の耐火被覆構造。
【請求項4】
上記反射・遮蔽板の投影面積S2が、構造部材の投影面積S1の1.1倍以上である請求項1〜3の何れかに記載の耐火被覆構造。
【請求項5】
上記耐火被覆材層が、発泡性耐火被覆材からなる層である請求項1〜4の何れかに記載の耐火被覆構造。
【請求項6】
構造部材表面に耐火被覆材層を形成し、該耐火被覆材層表面と離れた位置に反射・遮蔽板を設けることを特徴とする耐火被覆構造の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−156156(P2010−156156A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−335371(P2008−335371)
【出願日】平成20年12月27日(2008.12.27)
【出願人】(501173461)太平洋マテリアル株式会社 (307)
【Fターム(参考)】