説明

耐火試験体構造および耐火試験方法

【課題】 耐火壁に沿って設けられる鉄骨梁の耐火認定試験において、「座屈試験」を実施できるような耐火試験体構造および耐火試験方法を提供することにある。
【解決手段】 試験体は、鉄骨梁10を、耐火壁51と、鉄骨梁10の上フランジ11上部へ設けられたフロア板62と、鉄骨梁の反耐火壁側および鉄骨梁の下フランジ14側を被覆する耐火被覆材20とによって囲繞させている。そして、フロア板62は、反耐火壁側へ延伸している。これにより、試験体の重心位置を鉄骨梁10に、詳しくは鉄骨梁10のウエブ16の中心を通る略垂直線上に位置させている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐火壁に沿って設けられる鉄骨梁の耐火試験体構造および耐火試験方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図1は、壁に沿って設けられる鉄骨梁の耐火構造を示す斜視図(a)および断面図(b)である。図示するように、H形鋼からなる鉄骨梁10が、隣り合う壁(以下、「耐火壁」という)50と、鉄骨梁10の上フランジ11上部に設けられたフロア板60と、鉄骨梁10の反耐火壁側および鉄骨梁10の下フランジ14側を被覆する耐火被覆材20とによって囲繞される。なお、耐火被覆材20は、固定ピン(スタッドピン)70やビス71によって鉄骨梁10または耐火壁50に確実に固定されている。
【0003】
本来であれば、鉄骨梁10は耐火被覆材20によって被覆されるのが原則である。
しかし、耐火壁50に沿って設けられる鉄骨梁10では、この被覆作業が非常に困難である。そのため、耐火壁50の一部も耐火被覆とみなして、耐火壁50と耐火被覆材20とによって鉄骨梁10を被覆することとしたのが、図1に示す耐火構造である。
【0004】
現在、この耐火壁に沿って設けられる鉄骨梁の耐火構造は、次の2試験方法(耐火認定試験)の何れかにより評価し合格することが義務付けられている。
第一の試験方法は、試験体(鉄骨梁と耐火壁を一体化させたもの)の上部から荷重を掛けながら規定温度に加熱し、更に規定時間内で鉄骨梁が座屈しないことを試験するものである(以下、「座屈試験」という)。
第二の試験方法は、試験体には荷重を掛けずに加熱し、鉄骨梁の表面温度が規定温度を超えないことを試験するものである(以下、「加熱試験」という)。
【0005】
実際に、図2に示す従来の試験体(鉄骨梁10と耐火壁50に見立てた耐火壁51とを接合させ、耐火梁10の上フランジ上部12へフロア板60に見立てたフロア板61を設けるとともに、耐火被覆材20を取り付けたもの)で前記「座屈試験」を実施した場合、試験体のバランスが崩れ易く(重心が耐火壁51側にあるため)、図3に示すような試験設備35を破損する可能性があった。そのため、耐火壁に沿って設けられる鉄骨梁の耐火認定試験で「座屈試験」を実施することは困難であるとして、従来は専ら「加熱試験」により評価を行っていた。特許文献1で説明されている合成耐火はり(耐火壁に沿って設けられる鉄骨梁)の耐火性能試験も、この「加熱試験」を指している(特許文献1の段落[0004]及び[0005]参照)。
【0006】
ここで、「加熱試験」の場合、鉄骨梁の構造にもよるが、耐火被覆された鉄骨梁の表面温度は約350℃以下となることが規定されている。
一方で、「座屈試験」の場合、経験上耐火被覆された鉄骨梁の表面温度は500〜600℃まで加熱することが可能となる。
従って、「加熱試験」に合格するためには、「座屈試験」に比べて耐火被覆材の厚さを厚くしなければならないことになる。逆に言えば、「座屈試験」に合格するためには、「加熱試験」に比べて耐火被覆材の厚さが薄くてもよいことになる。
【0007】
【特許文献1】特開2003−20741号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記のように「座屈試験」については、鉄骨梁と耐火壁の一部を接合させた試験体のバランスをとることが困難であった。そのため、耐火壁に沿って設けられる鉄骨梁の耐火認定試験において「座屈試験」は実施されていなかった。
そこで、本発明は、耐火壁に沿って設けられる鉄骨梁の耐火認定試験において、「座屈試験」を実施できるような耐火試験体構造および耐火試験方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、第一の発明は、耐火壁に沿って設けられる鉄骨梁の耐火試験体構造にあって、該鉄骨梁が、該耐火壁と、該鉄骨梁の上部に設けられたフロア板と、該鉄骨梁の反耐火壁側および該鉄骨梁の下部を被覆する耐火被覆材とによって囲繞されると共に、該耐火試験体構造の重心位置を鉄骨梁の重心を通る略垂直線上に位置させたことを特徴とするものである。
第二の発明は、前記鉄骨梁の上部に設けられたフロア板に、該耐火試験体構造の重心位置を調整する調整用のバランサーを設けたことを特徴とするものである。
【0010】
第三の発明は、耐火壁に沿って設けられる鉄骨梁の耐火試験体構造の耐火試験方法にあって、該鉄骨梁が、該耐火壁と、該鉄骨梁の上部に設けられたフロア板と、該鉄骨梁の反耐火壁側および該鉄骨梁の下部を被覆する耐火被覆材とによって囲繞されると共に、該耐火試験体構造の重心位置を鉄骨梁の重心を通る略垂直線上に位置させたことを特徴とするものである。
第四の発明は、前記鉄骨梁の上部に設けられたフロア板に、該耐火試験体構造の重心位置を調整する調整用のバランサーを設けたことを特徴とするものである。
第五の発明は、両端を支持させた耐火試験体構造の長手方向を略等分に3分割する位置で且つ、該耐火試験体構造の重心位置に対して垂直荷重を掛けた状態で加熱させることを特徴とするものである。
第六の発明は、少なくとも前記耐火試験体構造の長手方向中央に、前記鉄骨梁のたわみ量を測定する変位計を取り付けると共に、該鉄骨梁の表面の複数箇所に温度測定装置を取り付けたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、以下のような効果を有する。
(1)耐火試験体構造の重心位置を鉄骨梁の重心を通る略垂直線上に位置させたことで耐火試験体構造のバランスが良くなり、試験炉における試験体の設置や耐火試験中にバランスを崩して、試験炉を破壊することを防止できる。このため、従来実施されていなかった「座屈試験」が可能となる(かりに試験体の座屈変形時においても、試験炉を破損する可能性が無くなる)。
(2)「座屈試験」が可能となることにより、耐火被覆材の厚さを適正化することが出来るため、従来の「加熱試験」による耐火被覆材の厚さに比べて薄くすることが可能となる。これにより、まず、材料のコストダウン及び施工作業の改善が図れる。
(3)また、耐火被覆材の厚さを薄くすることにより、鉄骨梁の位置する空間のスペースが広くなり、有効活用することが出来る。
(4)耐火試験体構造のバランスが良くなることで、試験時の作業(クレーン吊下げ、試験体セット等)が改善される(例えば、効率よく・安全に実施される等)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
まず、本発明の耐火試験体(以下、「試験体」という)の構造を図面に基づいて説明する。なお、図2に示す従来例と同じものについては、同一の符号を付すこととする。
図4は、本発明の試験体を示す断面図である。この試験体は、鉄骨梁10を、耐火壁51と、鉄骨梁10の上フランジ11上部へ設けられたフロア板62と、鉄骨梁の反耐火壁側および鉄骨梁の下フランジ14側を被覆する耐火被覆材20とによって囲繞させている。ここで、本実施形態では、鉄骨梁としてH形鋼を使用しているが、これに限るものではない。図5(a)に示す角形鋼18,同(b)に示す溝形鋼19など広く鉄骨梁に使用されるものであれば、これに含まれる。
【0013】
この試験体は、鉄骨梁10とフロア板62を連結ボルト66によって連結し、鉄骨梁10と耐火壁51を連結具53によって連結している。なお、符号54は、この連結具53を耐火壁51へ固定するための固定ボルトである。また、フロア板62と耐火壁51の間には不燃性断熱材79を、耐火壁51の目地部分には目地材80をそれぞれ用いている。
【0014】
フロア板60に見立てたフロア板62は、反耐火壁側へ延伸している。これにより、試験体の重心位置を鉄骨梁10に、詳しくは鉄骨梁10のウエブ16の略中心線上に位置させている。そして、この試験体の移動が安全かつ容易になり、試験設備にこの試験体を効率良く設置できるようになる。また、「座屈試験」を実施し、万一鉄骨梁10が座屈した場合でも、試験体が耐火壁51側に横倒することがなくなるので、試験設備(試験炉)の破壊を防止でき、安全に「座屈試験」を実施できる。
【0015】
この試験体の重心位置を鉄骨梁10のウエブ16の中心を通る略垂直線上に位置させるために、微妙な調整が必要になることがある。そのために、フロア板62へ試験体の重心位置を調整する調整用のバランサー65を設けると良い。なお、図示では、バランサー65は、フロア板62の先端部分に取り付けられているが、これに限らず、例えば、フロア板62の表面側や裏面側などに取り付けても良く、また、耐火壁51側へ取り付ける場合も考えられる。
【0016】
符号81は、「座屈試験」において荷重を掛けるための加力点である。図4に示す試験体をX−X方向から図示した図6およびY−Y方向から図示した図7に示すように、この加力点81は、試験体の長手方向を略等分に3分割する位置(2箇所)に設けられている。
なお、符号Aは、この試験体を支持する支持点、符号Bは、この試験体を移動させる場合の吊り用フックである。
【0017】
また、符号82は、「座屈試験」において、鉄骨梁10のたわみ量を測定するための巻き取り式変位形(図示省略)を取り付けるためのフックである。このフック82は、少なくとも試験体の長手方向中央に設けられるが(1箇所)、その他に参考値を得るために、同長手方向の略等分に3分割する位置(2箇所)および同長手方向の両端部にある支持点上(2箇所)にそれぞれ設けてもよい(計5箇所)。
【0018】
さらに、図4に示す符号83は、「座屈試験」において鉄骨梁10の温度を測定するための温度測定装置(熱電対)である。熱電対83は、鉄骨梁10の表面の複数箇所、具体的には、上フランジ11の下面先端部分,ウエブ16の中心,下フランジ14の下面先端付近及び中央などに取り付けられる。
【実施例】
【0019】
次に本発明の実施例(座屈試験)を比較例(加熱試験)と比較して説明する。
まず、試験の内容・条件は、以下の通りである。
[試験体と試験荷重について](長期許容応力度→下フランジに鋼材基準強度(平成12年建設省告示第2464号)の2/3がかかる荷重)
□鉄骨:H-400×200×8×13
断面係数:Z=1170cm3=1170000mm3
単位質量:w=65.4kg/m=0.641574N/mm
□鋼種:SS400
鋼材基準強度:F=235N/mm2
長期許容応力度:σ=2/3F=156.67N/mm2
□試験装置
支点間距離:4200mm
□片側加力点の荷重
3σZ/L−3wL/8=129.9kN
L:支点間距離(mm)
□両側の荷重
129.9×2=259.8kN
[載荷位置とたわみ測定位置について]
□載荷位置:支点間を3等分した位置(1400mm)
□たわみ測定位置:中央
[合格基準値について]
□載荷加熱試験の場合:たわみ量、たわみ速度が下記を越えないこと。
・最大たわみ量(mm):L/400d2=110mm
・最大たわみ速度(mm/min):L/9000d2=4.9mm/min
L:支点間距離(mm)
d:梁高さ(mm)
□非載荷加熱試験の場合:温度が下記を超えないこと。
・最高温度:450℃
・平均温度:350℃
[加熱温度と加熱時間(図12を参照)について]
・加熱温度:ISO834に規定されている加熱温度:T=345log10(8t+1)+20
T:加熱温度(℃)
t:加熱時間(min)
・加熱時間:2時間(建築基準法施行令第107条に規定されている梁耐火2時間)
【0020】
上記の内容に基づく試験の結果は、以下のようなものであった。
まず、本実施例(座屈試験)で判定した場合、下記により合格となった(図9,10を参照)。
・たわみ量の最高値:17.2mm(規定110mm以下) → 合格
・たわみ速度の最高値:0.4mm/min(規定4.9mm/min以下) → 合格
次に、比較例(加熱試験)で判定した場合、下記により不合格となった(図11を参照)。
・最高温度のピーク:480℃(規定450℃以下) → 不合格
・平均温度のピーク:436℃(規定350℃以下) → 不合格
【0021】
以上のことから、本実施例では、本発明に基づく試験体が座屈試験に十分に耐え得るものであることを証明している。また、本発明に基づく試験体が加熱試験で不合格になるもの、すなわち、耐火被覆材が従来よりも薄い場合であっても、座屈試験に合格でき、実際に現場で施工できる耐火構造であることを証明している。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、耐火壁に沿って設けられる鉄骨梁が、該耐火壁と、該鉄骨梁の上部に設けられたフロア板と、該鉄骨梁の反耐火壁側および該鉄骨梁の下部を被覆する耐火被覆材とによって囲繞される場合の耐火認定試験における耐火試験体構造および耐火試験方法に広く利用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】耐火壁に沿って設けられる鉄骨梁の耐火構造を示す斜視図(a)および断面図(b)。
【図2】従来の試験体を示す断面図。
【図3】耐火試験体の試験設備を示す参考図。
【図4】本発明の試験体を示す断面図。
【図5】その他の鉄骨梁を示す断面図。
【図6】図4に示す試験体をX−X方向から図示した側面図。
【図7】図4に示す試験体をY−Y方向から図示した側面図。
【図8】座屈試験におけるたわみ量を示すグラフ。
【図9】座屈試験におけるたわみ速度を示すグラフ。
【図10】加熱試験における最高温度と平均温度を示すグラフ。
【図11】加熱温度を示すグラフ。
【符号の説明】
【0024】
10 鉄骨梁 11 上フランジ 14 下フランジ 16 ウエブ
18 角形鋼 19 溝形鋼
20 耐火被覆材 35 試験設備
50 耐火壁 51 耐火壁 53 連結具 54 固定ボルト
60,61,62 フロア板 65 バランサー 66 連結ボルト
70 固定ピン 71 ビス
79 不燃性断熱材 80 目地材 81 加力点 82 フック
83 温度測定装置
A 支持点 B 吊り用フック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火壁に沿って設けられる鉄骨梁の耐火試験体構造であって、
該鉄骨梁が、該耐火壁と、該鉄骨梁の上部に設けられたフロア板と、該鉄骨梁の反耐火壁側および該鉄骨梁の下部を被覆する耐火被覆材とによって囲繞されると共に、
該耐火試験体構造の重心位置を鉄骨梁の重心を通る略垂直線上に位置させたことを特徴とする耐火試験体構造。
【請求項2】
前記鉄骨梁の上部に設けられたフロア板に、該耐火試験体構造の重心位置を調整する調整用のバランサーを設けたことを特徴とする請求項1記載の耐火試験体構造。
【請求項3】
耐火壁に沿って設けられる鉄骨梁の耐火試験体構造の耐火試験方法であって、
該鉄骨梁が、該耐火壁と、該鉄骨梁の上部に設けられたフロア板と、該鉄骨梁の反耐火壁側および該鉄骨梁の下部を被覆する耐火被覆材とによって囲繞されると共に、
該耐火試験体構造の重心位置を鉄骨梁の重心を通る略垂直線上に位置させたことを特徴とする耐火試験方法。
【請求項4】
前記鉄骨梁の上部に設けられたフロア板に、該耐火試験体構造の重心位置を調整する調整用のバランサーを設けたことを特徴とする請求項3記載の耐火試験方法。
【請求項5】
両端を支持させた耐火試験体構造の長手方向を略等分に3分割する位置で且つ、該耐火試験体構造の重心位置に対して垂直荷重を掛けた状態で加熱させることを特徴とした請求項3又は4記載の耐火試験方法。
【請求項6】
少なくとも前記耐火試験体構造の長手方向中央に、前記鉄骨梁のたわみ量を測定する変位計を取り付けると共に、該鉄骨梁の表面の複数箇所に温度測定装置を取り付けたことを特徴とする請求項3ないし5いずれかに記載の耐火試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−226849(P2006−226849A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−41399(P2005−41399)
【出願日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(000110804)ニチアス株式会社 (432)
【Fターム(参考)】