説明

耐火電線

【課題】導体部の耐火絶縁層に用いられる耐電圧特性の向上した集成マイカテープを使用した耐火電線を提供する。
【解決手段】耐火電線において集成マイカを複数層貼り合わせ集成マイカテープとすることにより、従来よりも耐電圧特性の向上が達成できた。これにより導体部へのテーピング回数の削減、耐火絶縁層部の耐熱性の向上につながった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線上導体の外周に、天然マイカ及び合成マイカを粉砕して得たマイカリン片を、抄造して形成した集成マイカ部に、接着剤で補強材を貼り合せて成る集成マイカテープを巻き回した耐火絶縁層を設け、この耐火絶縁層の外周に一般絶縁層と、シース層とを設けてなる耐火電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
耐火電線は建築物等の消防用非常電源設備に使用され、消防庁告示第7号等で定めるところにより、低圧ケーブルでは4回屈曲した後に直線状にもどしたものを所定の荷重下で、加熱炉でAC600Vを印加しながら、JISA1304(建築物の不燃構造部分の防火試験方法)に定める屋内火災温度曲線に従い、30分間に常温から840℃まで昇温し、この間に0.4MΩ以上の絶縁抵抗を保持し、更に加熱後においてAC1500Vで1分間の耐電圧を保持しなければならないことを要求されている。
【0003】
従来は上記の要求を満足させるために図1(b)に示すような集成マイカと補強材を貼り合せた集成マイカテープが耐火絶縁層として使用されていた。
【0004】
即ち図1において2は天然マイカ又は合成マイカを粉砕して得たマイカリン片を抄造して形成した集成マイカでこの集成マイカの下面には、シリコーン樹脂の接着剤によりガラスクロス又はポリエチレンフィルムの補強材3が貼り合せた構成となっている。
【0005】
集成マイカテープは集成マイカと補強材により形成される。集成マイカは硬質マイカ、軟質マイカ、又は合成マイカを用い細かく粉砕し、その水とマイカの混合水を連続的にろ過及び乾燥したものを言う。補強材はガラスクロス、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエステル不織布、ポリイミドフィルム、又はポリエチレンナフタレートフィルム(以下、「補強材」と略す。)よりなる。集成マイカ及び補強材はシリコーン樹脂またはエポキシ樹脂により接着する。
【0006】
集成マイカテープは耐熱性及び電気絶縁性という優れた特徴を有する。集成マイカテープを導体部に巻き付け又は被覆すること(以下、「テーピング」と略す。)により耐熱性及び電気絶縁性を付与することができる。
【0007】
従来は要求される電気絶縁性及び耐電圧特性を満たすように集成マイカテープを多数回テーピングする必要があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
耐火電線の耐火絶縁層を形成する集成マイカテープにおいて電気絶縁を担う構成要素は集成マイカと補強材である。耐火電線では840℃での耐電圧特性が必要となり、この温度雰囲気下では補強材は分解、焼失により電気絶縁性を保持することはできない。このことから、導体部に対する電気絶縁は集成マイカの性能に依るところが大きい。そこで、集成マイカ層を2層以上の複数層貼り合せ単位厚さ当りの耐電圧特性を向上させた集成マイカテープを耐火絶縁層に使用した耐火電線の提供を目的とする。
【0009】
導体部の電気絶縁は、各製品の要求される耐電圧を満たすように設計される。つまり、要求される耐電圧を満たすまで導体部に集成マイカテープを幾層にも重ねてテーピングする。よってテーピング回数が増えることにより作業時間の増加につながる。また840℃の温度雰囲気で要求される電気絶縁性に寄与できない補強材も複数回巻くことになり、余分な絶縁厚さを形成しなければならない。また、高温では補強材は焼失し、電気的に有害なカーボンを発生させる。
耐電圧特性を向上させた集成マイカテープを用いることにより、要求される導体部絶縁に必要な厚さ及びテーピング回数を削減するとともに、高温時の電気絶縁特性を向上させる集成マイカテープを耐火絶縁層とする耐火電線を提供することを目的とする。
【0010】
導体部の耐火絶縁層は、集成マイカ、補強材及び樹脂で構成される。導体部は製品使用環境下において高温下にあるため、その電気絶縁性能を供与している主たる構成要素は集成マイカである。耐電圧特性を向上させた集成マイカテープで導体部へのテーピング回数を低減することにより、電気絶縁層内の補強材量を低減することができる。つまり、導体部の耐火絶縁層の補強材量を低減することにより薄い厚さの耐火絶縁層で耐熱特性を向上させる集成マイカテープを使用した耐火電線の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
電気絶縁を目的として導体部に巻き付ける又は被覆される絶縁材料で、耐電圧及び耐熱性に優れる集成マイカテープを用いる。
【0012】
請求項1に用いられる集成マイカテープの集成マイカは高い耐電圧特性を付与させるために、2層以上の複数の集成マイカ層より構成されていることを特徴とする。
【0013】
請求項1に用いられる集成マイカテープは導体部に巻き付ける又は被覆される工程において、その高い耐電圧特性により巻き回数または/及び被覆数を低減することができることを特徴とする。
【0014】
請求項1において絶縁付与導体の耐火絶縁層に占める補強材の比率を低減することができ耐熱特性の向上を特徴とする。
【0015】
請求項1の集成マイカテープの集成マイカとして硬質無焼成集成マイカ、硬質焼成集成マイカ、軟質集成マイカ、合成集成マイカを用いた集成マイカテープを耐火絶縁層としたことを特徴とした耐火電線。
【0016】
請求項1の集成マイカテープの補強材としてガラスクロス、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエステル不織布、ポリイミドフィルム、又はポリエチレンナフタレートフィルムを用いた集成マイカテープを耐火絶縁層としたことを特徴とした耐火電線。
【発明の効果】
【0017】
図3は集成マイカ1層の絶縁破壊電圧を測定し、0.1mm当りの絶縁破壊電圧に換算した集成マイカの厚さに対する相関図である。マイカ原鉱は硬質マイカ及び軟質マイカを用いた。図3より集成マイカの厚さが薄いほど0.1mm当りの絶縁破壊電圧は高くなる傾向にあることがわかる。つまり0.1mmの集成マイカ1枚と0.05mmの集成マイカ2枚では同じ0.1mmの厚さではあるが、絶縁破壊電圧において後者のほうが優位であるということを示唆する。
【0018】
図4は厚さ0.025mmのポリエチレンフィルムを補強材とし、厚さ0.155mmの集成マイカを貼りあわせた集成マイカテープの室温及び840℃での絶縁破壊電圧を示したものである。集成マイカ1層の絶縁破壊電圧を100%とし、集成マイカ2層の絶縁破壊電圧と比較した。図4より集成マイカ2層の集成マイカテープは集成マイカ1層のものと比較して、室温において10%、840℃において25%の絶縁破壊電圧、つまり耐電圧特性の向上が見られた。
【0019】
耐火電線の導体部の絶縁で集成マイカ1層の集成マイカテープを例えば5層テーピングする必要がある場合には、上記の840℃で25%の耐電圧特性の向上が見られた集成マイカ2層の集成マイカテープを用いて4層テーピングすれば要求される導体部の電気絶縁を確保することができる。つまり集成マイカを複数層貼り合わせた集成マイカテープは優れた耐電圧特性を有し、テーピング回数を低減することができる。また絶縁厚さを20%薄くすることができる。
【0020】
集成マイカを複数層貼り合せる事により、導体部へのテーピング回数を低減することができ、耐火絶縁層内の補強材量を低減することができる。つまり、耐火絶縁層の補強材量を低減することにより耐熱特性を向上させることができる。
【0021】
この複数層貼り合せた集成マイカの厚さとしては0.01mm以上であればよく、導体の径、集成マイカテープの巻き回数により厚さを厚くしてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態である集成マイカテープの導体部への巻きつけ方法について説明する。集成マイカテープの構成を図1に示す。集成マイカ1は2層以上の複数層からなり、補強材と接着剤により貼り合わされている。集成マイカ内は接着剤により含浸されている。マイカ原鉱は硬質マイカ、軟質マイカ、又は合成マイカより、補強材はガラスクロス、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエステル不織布、ポリイミドフィルム、又はポリエチレンナフタレートフィルムよりなる。接着剤はシリコーン樹脂またはエポキシ樹脂よりなる。
【0023】
この集成マイカテープを、導体部の耐火絶縁層として用いる。導体部は銅材質のような電気抵抗が極めて低い金属素材が好ましい。この導体部に集成マイカテープをテーピングする形式として図2に示すような巻き付け方式と被覆方式がある。巻き付け方式は導体に対して集成マイカテープをテープ幅に対して例えば約1/2重なるようにしてテーピングするものである。被覆方式は導体部を集成マイカテープの幅方向で覆い被せるようにテーピングするものである。両者とも要求される耐電圧特性を満たすようになるまで、テーピングした外層にさらに集成マイカテープを巻き付ける。
【実施例】
【0024】
上記本発明の図5の耐火電線を製造するには、図1の集成マイカテープを導体部4へ図2に示す巻き付け方式で1/2ラップでテーピングを1回行い、耐火絶縁層5を形成し、その外周にポリエチレンの一般絶縁層6を設けて、さらにその外周にシース層7を設ける。
【0025】
しかして、以上のように構成した上記実施例の耐火電線は、加熱炉でAC600Vを印加しながら、JISA1304(建築物の不燃構造部分の防火試験方法)に定める屋内火災温度曲線に従い、30分間に常温から840℃まで昇温し、この間に0.4MΩ以上の絶縁抵抗を保持し、更に加熱後においてAC1500Vで1分間の耐電圧に耐えることを確認できた。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明実施形態の集成マイカテープを示し、集成マイカを2層貼り合わせた例である。
【図2】同実施形態の導体部への集成マイカテープのテーピング形式を示し、(a)は巻き付け方式、(b)は被覆方式である。
【図3】集成マイカ厚さと単位厚さ当りの絶縁破壊電圧の関係についてのグラフである。
【図4】同一厚さにおける集成マイカ層数と絶縁破壊電圧比率の関係についてのグラフである。
【図5】本発明実施例による耐火電線の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
1集成マイカ
2補強材
3集成マイカテープ
4導体
5耐火絶縁層
6一般絶縁層
7シーズ層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線上導体の外周に、天然マイカ及び合成マイカを粉砕して得たマイカリン片を、抄造して形成した集成マイカ部に、接着剤で補強材を貼り合せて成る集成マイカテープを巻き回した耐火絶縁層を設け、この耐火絶縁層の外周に一般絶縁層と、シース層とを設けてなる耐火電線において、
前記耐火絶縁層の集成マイカテープの集成マイカ部が2層以上の複数の集成マイカ層より構成されていることを特徴とする耐火電線。
【請求項2】
請求項1の集成マイカ部の厚さが0.01mm以上の集成マイカテープを耐火絶縁層として用いた耐火電線。
【請求項3】
請求項1の天然マイカとして硬質無焼成集成マイカ、硬質焼成集成マイカ、軟質集成マイカ、合成マイカとして合成集成マイカを用いた集成マイカテープを耐火絶縁層として用いた耐火電線。
【請求項4】
請求項1の接着剤としてシリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリイミド樹脂を用いた集成マイカテープを耐火絶縁層として用いた耐火電線。
【請求項5】
請求項1の補強材としてガラスクロス、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエステル不織布、ポリイミドフィルム、又はポリエチレンナフタレートフィルムを用いた集成マイカテープを耐火絶縁層として用いた耐火電線。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate