説明

耐熱アクリル系樹脂組成物、及びその成形体

【課題】アクリル樹脂本来の高い透明性、耐候安定性を損ねることなく耐熱性と成形加工性を付与したアクリル系樹脂組成物、及びその成形体を提供する。
【解決手段】下記共重合体(a)99〜1重量部と共重合体(b)1〜99重量部からなるアクリル系樹脂組成物、及びその成形体。
共重合体(a):(i)メタクリレート単量体由来の繰り返し単位、(ii)ビニル芳香族単量体由来の繰り返し単位、及び(iii)酸無水物繰り返し単位からなる共重合体。
共重合体(b):メタクリル酸エステル単量体、他の共重合性のビニル単量体からなる共重合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル樹脂本来の透明、耐候性を損ねることなく耐熱性と成形加工性を付与したアクリル系樹脂組成物、及びその成形体を提供する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、2種類のアクリル系共重合体からなる、耐熱性樹脂組成物が記載されている。共重合体(I)は、メタクリル酸メチル:50〜98質量%、スチレン:1〜25質量%および無水マレイン酸:1〜25質量%からなり、共重合体(II)は、メタクリル酸メチル:80〜100質量%および他の共重合可能なエチレン系モノマー:0〜20質量%からなる。特に、共重合体(I)において、そのスチレン/無水マレイン酸重量比≧1である。共重合体(I)と共重合体(II)の組成比を種々検討し、樹脂組成物が、高い透明性、成形加工時の低着色性、及び耐候安定性に優れることを開示している。しかしながら、該樹脂組成物の耐熱性は満足しうるものではない。
【0003】
特許文献2には、メタクリル酸メチル:70〜80重量%、スチレン:12〜18重量%、無水マレイン酸:8〜12重量%からなる共重合体であって、その重量平均分子量:12〜16万、スチレン/無水マレイン酸重量比=1.4〜1.8である共重合体(I)40〜80重量部と、メタクリル酸メチル:85〜95重量%、アクリル酸メチル:5〜15重量%からなる共重合体であって、その重量平均分子量:8〜16万の共重合体(II)60〜20重量部からなる樹脂組成物が開示されている。しかしながら、該樹脂組成物の耐熱性は満足しうるものではない。
【0004】
特許文献3には、メタクリル酸メチル:50〜90重量%、スチレン:10〜20重量%、無水マレイン酸:5〜15重量%からなる共重合体(I)95〜5重量部と、メタクリル酸メチル:95〜99.5重量%、アクリル酸メチル:0.5〜5重量%からなる共重合体(II)からなる樹脂組成物が開示されている。共重合体(I)は、明細書中、重量平均分子量で95000付近のものが望ましいと記載され、及び実施例には、スチレン/無水マレイン酸重量比=1.5の共重合体が記載されるのみである。該樹脂組成物も耐熱性を満足しうるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0113105号公報
【特許文献2】特開2003−292714
【特許文献3】特開2007−536417
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アクリル樹脂本来の高い透明性、耐候安定性を損ねることなく耐熱性と成形加工性を付
与した樹脂組成物、及びその成形体(例えば、射出成形体)が産業的応用上強く望まれていた。
【0007】
本発明は、アクリル樹脂本来の高い透明性、耐候安定性を損ねることなく、耐熱性と成形加工性に優れたアクリル系樹脂組成物、及びその成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、特定のアクリル系共重合体からなる樹脂組成物が、高い透明性、耐候安定性を損ねることなく、耐熱性と成形加工性を有することを見出し、なされたものである。
【0009】
すなわち本発明は、
[1] 下記式(1)で表されるメタクリレート単量体由来の繰り返し単位:10〜70重量%、下記式(2)で表されるビニル芳香族単量体由来の繰り返し単位:5〜40重量%、及び下記式(3)又は下記式(4)で表される環状酸無水物繰り返し単位:20〜50重量%を含有する共重合体であって、ビニル芳香族単量体由来の繰り返し単位の含有量(A)と環状酸無水物繰り返し単位の含有量(B)のモル比(B/A)が、1より大きく、10以下の範囲にあり、且つ、該共重合体100重量部に対して残存する単量体の合計が0.5重量部以下である共重合体(a):99〜1重量部と、
メタクリル酸エステル単量体:50〜99.9重量%、他の共重合性のビニル系単量体:0.1〜50重量%を含有する共重合体(b):1〜99重量部
とからなる耐熱アクリル系樹脂組成物。
【0010】
【化1】

【0011】
(式中:Rは、水素原子、直鎖状または分岐状の炭素数1〜12のアルキル基、炭素数5〜12のシクロアルキル基を表す。)
【0012】
【化2】

【0013】
(式中:R、Rは、それぞれ同一でも、異なっていても良く、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基、ニトロ基、直鎖状または分岐状の炭素数1〜12のアルキル基を表す。lは1〜3の整数を示す。)
【0014】
【化3】

【0015】
【化4】

【0016】
(式中:R〜Rは、それぞれ同一でも、異なっていても良く、水素原子、直鎖状または分岐状の炭素数1〜12のアルキル基を表す。)
【0017】
[2] 共重合体(a)が、さらに、下記式(5)で表される芳香族基を有するメタクリレート単量体由来の繰り返し単位:0.1〜5重量%を含有する共重合体(a)である[1]記載の耐熱アクリル系樹脂組成物。
【0018】
【化5】

【0019】
(式中:Rは、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基、ニトロ基、直鎖状または分岐状の炭素数1〜12のアルキル基を表す。mは1〜3の整数、nは0〜2の整数を示す。)
【0020】
[3] 共重合体(a)が、GPC測定法による重量平均分子量で10,000〜400,000、分子量分布で1.8〜3.0の範囲にあることを特徴とする[1]又は[2]に記載の耐熱アクリル系樹脂組成物。
[4] 共重合体(a)が、メタクリレート単量体由来の繰り返し単位がメタクリル酸メチル、ビニル芳香族単量体由来の繰り返し単位がスチレン、環状酸無水物繰り返し単位が無水マレイン酸、芳香族基を有するメタクリレート単量体由来の繰り返し単位がメタクリル酸ベンジルからそれぞれ誘導される共重合体よりなることを特徴とする[1]〜[3]のいずれか1項に記載の耐熱アクリル系樹脂組成物。
[5] [1]〜[4]のいずれか1項に記載の耐熱アクリル系樹脂組成物からなる成形体。
[6] 成形体が車両用ランプレンズ、メーターパネル、バイザー及び照明カバーから選ばれるいずれか1つである[5]記載の成形体。
に関する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によって、アクリル樹脂の透明性と耐候安定性を維持しつつ、高い耐熱性と成形加工性を同時に発現するアクリル系樹脂組成物、及びその成形体を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の好ましい樹脂組成物は、共重合体(a)が、下記式(1)で表されるメタクリレート単量体由来の繰り返し単位:10〜70重量%、下記式(2)で表されるビニル芳香族単量体由来の繰り返し単位:5〜40重量%、及び下記式(3)又は下記式(4)で表される環状酸無水物繰り返し単位:20〜50重量%を含有する共重合体であって、ビニル芳香族単量体由来の繰り返し単位の含有量(A)と環状酸無水物繰り返し単位の含有量(B)のモル比(B/A)が、1より大きく、10以下の範囲にあり、且つ、該共重合体100重量部に対して残存する単量体の合計が0.5重量部以下である共重合体(a):99〜1重量部と、
【0023】
【化6】

【0024】
(式中:Rは、水素原子、直鎖状または分岐状の炭素数1〜12のアルキル基、炭素数5〜12のシクロアルキル基を表す。)
【0025】
【化7】

【0026】
(式中:R、Rは、それぞれ同一でも、異なっていても良く、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基、ニトロ基、直鎖状または分岐状の炭素数1〜12のアルキル基を表す。lは1〜3の整数を示す。)
【0027】
【化8】

【0028】
【化9】

【0029】
(式中:R〜Rは、それぞれ同一でも、異なっていても良く、水素原子、直鎖状または分岐状の炭素数1〜12のアルキル基を表す。)
【0030】
共重合体(b)が、アルキル基の炭素数が1〜8のアクリル酸アルキルエステル単量体:50〜99.9重量%、他の共重合性のビニル系単量体:0.1〜50重量%を含有する共重合体(b):1〜99重量部、
とからなる樹脂組成物である。
【0031】
さらに好ましい樹脂組成物は、共重合体(a)が、さらに、下記式(5)で表される芳香族基を有するメタクリレート単量体由来の繰り返し単位:0.1〜5重量%を含有する共重合体(a)である樹脂組成物である。
【0032】
【化10】

【0033】
(式中:Rは、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基、ニトロ基、直鎖状または分岐状の炭素数1〜12のアルキル基を表す。mは1〜3の整数、nは0〜2の整数を示す。)
【0034】
該共重合体(a)において、式(1)で表される繰り返し単位は、メタクリル酸、及びメタクリル酸エステル単量体から誘導される。使用されるメタクリル酸エステルとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル;などが挙げられる。メタクリル酸、及びメタクリル酸エステルは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0035】
これらメタクリル酸エステルのうち、アルキル基の炭素数が1〜7であるメタクリル酸アルキルエステルが好ましく、得られた共重合体の耐熱性や透明性が優れることから、メタクリル酸メチルが特に好ましい。
【0036】
式(1)で表される繰り返し単位の含有割合は、透明性の観点から10〜70質量%、好ましくは25〜70質量%、より好ましくは40〜70質量%である。
【0037】
式(2)で表される繰り返し単位は、芳香族ビニル単量体から誘導される。使用される単量体としては、例えば、スチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,5−ジメチルスチレン、2−メチル−4−クロロスチレン、2,4,6−トリメチルスチレン、α―メチルスチレン、cis−β−メチルスチレン、trans−β−メチルスチレン、4−メチル−α−メチルスチレン、4−フルオロ−α−メチルスチレン、4−クロロ−α−メチルスチレン、4−ブロモ−α−メチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、2−フルオロスチレン、3−フルオロスチレン、4−フルオロスチレン、2,4−ジフルオロスチレン、2−クロロスチレン、3−クロロスチレン、4−クロロスチレン、2,4−ジクロロスチレン、2,6−ジクロロスチレン、2−ブロモスチレン、3−ブロモスチレン、4−ブロモスチレン、2,4−ジブロモスチレン、α−ブロモスチレン、β−ブロモスチレン、2−ヒドロキシスチレン、4−ヒドロキシスチレンなどが挙げられる。これらの芳香族ビニル単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0038】
これらの単量体のうち、共重合が容易なことから、スチレン、α−メチルスチレンが好ましい。
【0039】
式(2)で表される繰り返し単位の含有割合は、透明性、耐熱性の観点から5〜40質量%、好ましくは5〜30質量%、より好ましくは5〜20質量%である。
【0040】
式(3)で表される環状酸無水物繰り返し単位は、無置換及び/又は置換無水マレイン酸から誘導される。使用される単量体としては、例えば、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、ジメチル無水マレイン酸、ジクロロ無水マレイン酸、ブロモ無水マレイン酸、ジブロモ無水マレイン酸、フェニル無水マレイン酸、ジフェニル無水マレイン酸などが挙げられる。これらの単量体のうち、共重合が容易なことから、無水マレイン酸が好ましい。
また、式(4)で表される環状酸無水物繰り返し単位は、後述する繰り返し単位間での縮合環化反応により誘導され、例えば、無水グルタル酸などが挙げられる。
【0041】
本発明の共重合体(a)において、式(3)又は式(4)であらわされる環状酸無水物繰り返し単位は、空気中の湿気など外的環境により一部加水分解を受け開環する可能性がある。本発明の共重合体(a)では、光学的特性や耐熱性の観点から、その加水分解率は10モル%未満であることが望ましい。さらに5モル%未満であることが好ましく、1モル%未満であることがより好ましい。
【0042】
ここで、加水分解率(モル%)は、{1−(加水分解後の環状酸無水物量(モル))/加水分解前の環状酸無水物量(モル)}×100で求められる。
【0043】
式(3)又は式(4)で示される環状酸無水物繰り返し単位の含有割合は、本発明の効果である高い耐熱性と、光学特性(特に、後述する位相差の制御)をより高度に達成するために、20〜50質量%、好ましくは20〜45質量%である。但し、本発明のアクリル系熱可塑性樹脂中、式(2)で表されるビニル芳香族単量体由来の繰り返し単位の含有量(A)と式(3)又は式(4)で表される環状酸無水物繰り返し単位の含有量(B)のモル比(B/A)は、1より大きく、10以下であり、好ましくは1より大きく、5以下である。
【0044】
式(5)で表される繰り返し単位は、芳香族基を有するメタクリレート単量体から誘導される。使用される単量体としては、例えば、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸1−フェニルエチルなどが挙げられる。これらの単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの単量体のうち、メタクリル酸ベンジルが特に好ましい。
【0045】
式(5)で示される繰り返し単位の含有割合は、光学的特性(特に、光弾性係数を極小化する)を発現させる上で、好ましくは0.1〜5質量%、より好ましくは0.1〜4質量%、さらに好ましくは0.1〜3質量%である。
【0046】
本発明の共重合体(a)は、残存する(共重合体の繰り返し単位を構成する)単量体の合計が、共重合体100重量部に対して0.5重量部以下であり、好ましくは0.4重量部以下、より好ましくは0.3重量部以下である。残存単量体の合計が、0.5重量部を超えると、成形加工時に熱時着色したり、成形品の耐熱・耐候性が低下するなど実用に適さない成形体が得られ問題である。本発明でいう残存揮発分量とは、先述した重合反応時に反応しなかった残存単量体、重合溶媒、副生水、及び副生アルコールの合計量をいう。
本発明の共重合体(a)のGPC測定法によるPMMA換算の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは10,000〜400,000、より好ましくは40,000〜300,000、さらに好ましくは70,000〜200,000である。その分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは1.8〜3.0、より好ましくは1.8〜2.7、さらに好ましくは1.8〜2.5の範囲である。
【0047】
本発明の共重合体(a)のガラス転移温度(Tg)は、樹脂組成で任意に制御できるが、産業上の応用性の観点から、好ましくは120℃以上に制御される。より好ましくは130℃以上、さらに好ましくは135℃以上に制御される。
【0048】
本発明で用いられる共重合体(b)とは、メタクリル酸エステル単量体:50〜99.9重量%、他の共重合性のビニル系単量体:0.1〜50重量%を含有するアクリル系2元共重合体である。メタクリル酸エステル単量体としては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル;などが挙げられる。メタクリル酸エステル単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらメタクリル酸エステル単量体のうち、アルキル基の炭素数が1〜8であるメタクリル酸アルキルエステルが好ましく、得られた共重合体の耐熱性や透明性が優れることから、メタクリル酸メチルが特に好ましい。
【0049】
他の共重合性のビニル系単量体としては、アクリル酸エステル単量体、例えば、アクリル酸メチル;芳香族ビニル単量体、例えば、スチレン、α−メチルスチレン;アクリロニトリル;アクリル酸;メタクリル酸;マレイン酸、フマル酸;などが挙げられる。これらの単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらのビニル系単量体のうち、アクリル酸エステルが好ましく、耐熱性や耐候性に優れることからアクリル酸メチルがより好ましい。
【0050】
該共重合体(b)の重量平均分子量は、好ましくは8〜16万の範囲である。8万未満では過度に脆弱化して機械的強度に劣り、16万を超える場合には成形流動性に劣り本発明課題の達成は実質困難になる。より好ましい範囲は11万〜15万である。
本発明の共重合体(A)、(B)の製造法は公知の懸濁重合、溶液重合、塊状重合等の重合方法を適用して製造でき、特に限定されない。
【0051】
本発明の樹脂組成物は上記の共重合体(a)と共重合体(b)を通常法で溶融混合した樹脂組成物である。
【0052】
樹脂組成物中での使用量は、共重合体(a):99〜1重量部と共重合体(b):1〜99重量部である(a+bの合計は100重量部)。好ましい樹脂組成物中での使用量は、共重合体(a):20〜60重量部、共重合体(b):80〜40重量部である。
共重合体(a)の使用量を20〜60重量部とする理由は、耐溶剤性、耐熱性を付与する為である。使用量が20重量部未満では、耐溶剤性改善効果が小さく、60重量部を超える場合には流動性・機械的強度特性に劣る。
【0053】
共重合体(b)の使用量を80〜40重量部とする理由は、成形流動性、耐候性を付与する為である。使用量が40重量部未満では成形流動性は実質向上せず、又更に機械的強度特性にも劣り、80重量部を超える場合には耐熱変形性に劣る。
【0054】
本発明の樹脂組成物は、必要に応じて公知の色剤、紫外線吸収剤・酸化防止剤等の安定剤、各種添加剤を使用してもよい。例えば、無機充填剤、酸化鉄等の顔料、ステアリン酸、ベヘニン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、エチレンビスステアロアミド等の滑剤、離型剤、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル、パラフィン、有機ポリシロキサン、ミネラルオイル等の軟化剤・可塑剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、りん系熱安定剤等の酸化防止剤、ヒンダードアミン系光安定剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、難燃剤、帯電防止剤、有機繊維、ガラス繊維、炭素繊維、金属ウィスカ等の補強剤、着色剤、その他添加剤或いはこれらの混合物等が挙げられる。
【0055】
添加剤の含有割合は、好ましくは0〜5質量%、より好ましくは0〜2質量%、さらに好ましくは0〜1質量%である。
【0056】
また、本発明の樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン、スチレン/アクリロニトリル共重合体、スチレン/無水マレイン酸共重合体、スチレン/メタアクリル酸共重合体等のスチレン系樹脂、ポリメタアクリル酸エステル系樹脂、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアセタール、環状オレフィン系樹脂、ノルボルネン系樹脂等の熱可塑性樹脂、およびフェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂などの少なくとも1種以上を混合することができる。
【0057】
[成形体、成形体の使用]
本発明の成形体は、全部または部分的に熱可塑的加工、例えば、射出成形または押出、同時押出、積層または塗布によって製造することができる。好ましくは、射出成形することにより得られる。射出成形法については特に限定されず公知のものが使用でき、射出成形温度は200〜260℃の範囲である。
【0058】
射出成形された成形体は、例えば、車両用ランプレンズ、メーターパネル、バイザー、照明カバーなどに好適である。また、例えば、家庭用器具、コミュニケーション用器具、ホビー用器具またはスポーツ用器具の部材、車体部材または自動車産業、船舶産業または航空機産業における車体部材の一部分、などに用いることができる。
家庭用器具としては、例えば、筆記具の軸、印鑑、定規、仕切り板、照明器具カバー、ブラインドまたは飾り縁などが挙げられ。
【0059】
コミュニケーション用器具としては、例えば、携帯電話の窓、電話機のボタン、家電・OA機器の表示窓などが挙げられる。
【0060】
自動車の車体部材または車体部材の一部分としては、例えば、照明器具カバー、インストルメントカバー、タコメーターカバー、ブラインド、飾り縁、スポイラ、屋根モジュールまたは外側ミラーケーシングなどが挙げられる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
実施例に使用される部はすべて重量部であり、%はすべて重量%である。
以下の実施例において物性測定は以下の方法で行った。
本願発明に用いられる各測定値の測定方法は次のとおりである。
【0062】
(a)共重合体の解析
(1)繰り返し単位
H−NMR測定より、(i)メタクリレート単量体由来の繰り返し単位、(iii)ビニル芳香族単量体由来の繰り返し単位、(iii)芳香族基を有するメタクリレート単量体由来の繰り返し単位、及び(iv)酸無水物繰り返し単位を同定し、その存在量を算出した。
測定機器:ブルーカー株式会社製 DPX−400
測定溶媒:CDCl、又はd−DMSO
測定温度:40℃
【0063】
(2)ガラス転移温度
ガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量計(パーキンエルマージャパン(株)製 Diamond DSC)を用いて、窒素ガス雰囲気下、α−アルミナをリファレンスとし、JIS−K−7121に準拠して、試料約10mgを常温から200℃まで昇温速度10℃/minで昇温して得られたDSC曲線から中点法で算出した。
【0064】
(3)分子量
重量平均分子量、及び数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ(東ソー(株)製 HLC−8220)を用いて、溶媒はテトラヒドロフラン、設定温度40℃で、市販標準PMMA換算により求めた。
【0065】
(b)物性評価
(1)耐溶剤性
射出成形板から12.7*127*3mmの試験片を切り出し、80℃で30分アニールしデシケーター中で放置冷却した、片持ち梁法を適用し、試験片の一端を固定し、そこから5cmはなれた位置を支点とし、さらに支点から5cmはなれた他端へ荷重を加え、該支点上の試験片上面中央に縦5mm横5mmの濾紙をのせ、濾紙上へエタノールをマイクロシリンジで滴下塗布し、温度25℃、相対湿度50%で、負荷曲げ応力40メガパスカルでの破断時間(秒)を測定し耐溶剤性の指標(K)とした。
【0066】
(2)メルトマスフローレイト(以下MFRと略記する)
JIS規格K7210に準拠、試験条件N
(3)引張り強度
ASTM規格D638に準拠、試験片厚さ1/8インチ
(3)黄変度
JIS規格K7105に準拠、測色条件(b)、試験片厚さ3mm
【0067】
(4)耐候性
サンシヤインウェザーメーター法で下記条件で求めた。
試験装置は、スガ試験機(株)製WE−SUN−DC、BP温度63℃、水12分/乾燥60分サイクルで1000時間連続照射(アークカーボンは50時間で交換)した。
この試料を暗デシケーター保管のブランク試料と比較観察し黄変度差の絶対値を耐候性指標とした。
【0068】
(5)熱変形温度(以下HDTと略記する)
ASTM規格D648に準拠
【0069】
[共重合体(a)の製造]
メタクリル酸メチル/スチレン/無水マレイン酸
[合成例1]
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素ガス導入ノズル、原料溶液導入ノズル、開始剤溶液導入ノズル、及び重合溶液排出ノズルとを備えたジャケット付ガラス反応器(容量1L)を用いた。重合反応器の圧力は、微加圧、反応温度は100℃に制御した。
【0070】
メタクリル酸メチル(MMA)518g、スチレン(St)48g、無水マレイン酸(MAH)384g、メチルイソブチルケトン240g、n−オクチルメルカプタン1.2gを混合した後、窒素ガスで置換して原料溶液を調製した。2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)を0.364gをメチルイソブチルケトン12.96gに溶解した後、窒素ガスで置換して開始剤溶液を調整した。
【0071】
原料溶液はポンプを用いて6.98ml/minで原料溶液導入ノズルから導入した。また、開始剤溶液はポンプを用いて0.08ml/minで開始剤溶液導入ノズルから導入した。30分後、重合溶液排出ノズルから抜き出しポンプを用いて425ml/hrの一定流量でポリマー溶液を排出した。
【0072】
ポリマー溶液は、排出から1.5時間分は初流タンクに分別回収した。排出開始から、1.5時間後から2.5時間のポリマー溶液を本回収した。得られたポリマー溶液を、貧溶媒であるメタノールに滴下し、沈殿、精製した。真空下、130℃で2時間乾燥して目的とする透明な共重合体を得た。
【0073】
組成:MMA/St/MAH=61/11/27wt%(B/Aモル比>1)
分子量:Mw=19.5×10;Mw/Mn=2.23
Tg:141℃
【0074】
メタクリル酸メチル/スチレン/無水マレイン酸/メタクリル酸ベンジル
[合成例2]
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素ガス導入ノズル、原料溶液導入ノズル、開始剤溶液導入ノズル、及び重合溶液排出ノズルとを備えたジャケット付ガラス反応器(容量1L)を用いた。重合反応器の圧力は、微加圧、反応温度は100℃に制御した。
【0075】
メタクリル酸メチル(MMA)518g、スチレン(St)48g、メタクリル酸ベンジル(BzMA)9.6g、無水マレイン酸(MAH)384g、メチルイソブチルケトン240g、n−オクチルメルカプタン1.2gを混合した後、窒素ガスで置換して原料溶液を調製した。2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)を0.364gをメチルイソブチルケトン12.96gに溶解した後、窒素ガスで置換して開始剤溶液を調整した。
【0076】
原料溶液はポンプを用いて6.98ml/minで原料溶液導入ノズルから導入した。また、開始剤溶液はポンプを用いて0.08ml/minで開始剤溶液導入ノズルから導入した。30分後、重合溶液排出ノズルから抜き出しポンプを用いて425ml/hrの一定流量でポリマー溶液を排出した。
【0077】
ポリマー溶液は、排出から1.5時間分は初流タンクに分別回収した。排出開始から、1.5時間後から2.5時間のポリマー溶液を本回収した。得られたポリマー溶液を、貧溶媒であるメタノールに滴下し、沈殿、精製した。真空下、130℃で2時間乾燥して目的とする透明な共重合体を得た。
【0078】
組成:MMA/St/BzMA/MAH=61/12/1/27wt%
(B/Aモル比>1)
分子量:Mw=18.8×10;Mw/Mn=2.08
Tg:142℃
【0079】
[合成例3]
合成例2において、メタクリル酸メチル499g、スチレン42g、メタクリル酸ベンジル48g、無水マレイン酸371gに変更した以外は、合成例2と同様の操作を行って透明な共重合体を得た。
組成:MMA/St/BzMA/MAH=60/11/5/24wt%
(B/Aモル比>1)
分子量:Mw=20.2×10;Mw/Mn=2.36
Tg:138℃
【0080】
メタクリル酸メチル/スチレン/メタクリル酸/無水グルタル酸
[合成例4]
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素ガス導入ノズル、原料溶液導入ノズル、開始剤溶液導入ノズル、及び重合溶液排出ノズルとを備えたジャケット付ガラス反応器(容量1L)を用いた。重合反応器の圧力は、微加圧、反応温度は100℃に制御した。
【0081】
メタクリル酸メチル900g、スチレン36g、メタクリル酸ベンジル48g、メタクリル酸(MAA)216g、メチルイソブチルケトン240g、n−オクチルメルカプタン1.2gを混合した後、窒素ガスで置換して原料溶液を調製した。2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)を0.364gをメチルイソブチルケトン12.96gに溶解した後、窒素ガスで置換して開始剤溶液を調整した。
【0082】
原料溶液はポンプを用いて6.98ml/minで原料溶液導入ノズルから導入した。また、開始剤溶液はポンプを用いて0.08ml/minで開始剤溶液導入ノズルから導入した。30分後、重合溶液排出ノズルから抜き出しポンプを用いて425ml/hrの一定流量でポリマー溶液を排出した。
【0083】
ポリマー溶液は、排出から1.5時間分は初流タンクに分別回収した。排出開始から、1.5時間後から2.5時間のポリマー溶液を本回収した。得られたポリマー溶液を、貧溶媒であるメタノールに滴下し、沈殿、精製した。真空下、130℃で2時間乾燥して前駆体を得た。該前駆体を脱揮装置を附帯したラボプラストミルで加熱処理(処理温度:250℃、真空度:133hPa(100mmHg))して目的とする透明な共重合体を得た。
【0084】
組成:MMA/St/BzMA/MAA/無水グルタル酸(B/Aモル比>1)
=70/5/4/4/21wt%
分子量:Mw=11.4×10;Mw/Mn=2.40
Tg:128℃
これらの重合結果を表1に示す。
【0085】
[共重合体(b)の製造]
メタクリル酸メチル/アクリル酸メチル
[合成例5]
メタクリル酸メチル864g、アクリル酸メチル(MA)96gを用いた以外は合成例1と同様にして目的とする透明な共重合体を得た。
組成:MMA/MA=90.2/9.8wt%
分子量:Mw=13.0×10;Mw/Mn=1.98
Tg:107℃
【0086】
[比較合成例1]
合成例1において、メタクリル酸メチル960gを用いた以外は、合成例1と同様の操作を行って透明な単独重合体を得た。
組成:MMA=100wt%
分子量:Mw=10×10;Mw/Mn=1.89
Tg:121℃
【0087】
[比較合成例2]
合成例1において、メタクリル酸ベンジルを用いることなく、メタクリル酸メチル768g、スチレン144g、無水マレイン酸48gに変更した以外は、合成例1と同様の操作を行って透明な共重合体を得た。
組成:MMA/St/MAH=76/17/7wt%(B/Aモル比<1)
分子量:Mw=13.4×10;Mw/Mn=2.01
Tg:128℃
これらの重合結果を表1に示す。
【0088】
[樹脂組成物]
[実施例1〜4、比較例1〜3]
上記、共重合体(a)として実施例1〜4及び比較例2:40部と共重合体(b)として実施例5:60部をヘンセルミキサーで混合し、ベント付2軸押出機へ供給して温度240〜250℃ベント真空圧力700〜750mmHgで造粒した、このペレットを名機製作所製M−70で射出成形し成形温度250℃で200*200*3mmの透明な平板成形品を得た。
評価結果を表2に示す。
本発明の樹脂組成物は、透明性、耐熱性、耐候性、成形加工性に優れることが判る。
【0089】
【表1】

【0090】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0091】
成形体は、例えば、車両用ランプレンズ、メーターパネル、バイザー、照明カバーなどに好適である。また、例えば、家庭用器具、コミュニケーション用器具、ホビー用器具またはスポーツ用器具の部材、車体部材または自動車産業、船舶産業または航空機産業における車体部材の一部分、などに用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるメタクリレート単量体由来の繰り返し単位:10〜70重量%、下記式(2)で表されるビニル芳香族単量体由来の繰り返し単位:5〜40重量%、及び下記式(3)又は下記式(4)で表される環状酸無水物繰り返し単位:20〜50重量%を含有する共重合体であって、ビニル芳香族単量体由来の繰り返し単位の含有量(A)と環状酸無水物繰り返し単位の含有量(B)のモル比(B/A)が、1より大きく、10以下の範囲にあり、且つ、該共重合体100重量部に対して残存する単量体の合計が0.5重量部以下である共重合体(a):99〜1重量部と、
メタクリル酸エステル単量体:50〜99.9重量%、他の共重合性のビニル系単量体:0.1〜50重量%を含有する共重合体(b):1〜99重量部
とからなる耐熱アクリル系樹脂組成物。
【化1】

(式中:Rは、水素原子、直鎖状または分岐状の炭素数1〜12のアルキル基、炭素数5〜12のシクロアルキル基を表す。)
【化2】

(式中:R、Rは、それぞれ同一でも、異なっていても良く、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基、ニトロ基、直鎖状または分岐状の炭素数1〜12のアルキル基を表す。lは1〜3の整数を示す。)
【化3】

【化4】

(式中:R〜Rは、それぞれ同一でも、異なっていても良く、水素原子、直鎖状または分岐状の炭素数1〜12のアルキル基を表す。)
【請求項2】
共重合体(a)が、さらに、下記式(5)で表される芳香族基を有するメタクリレート単量体由来の繰り返し単位:0.1〜5重量%を含有する共重合体(a)である請求項1記載の耐熱アクリル系樹脂組成物。
【化5】

(式中:Rは、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基、ニトロ基、直鎖状または分岐状の炭素数1〜12のアルキル基を表す。mは1〜3の整数、nは0〜2の整数を示す。)
【請求項3】
共重合体(a)が、GPC測定法による重量平均分子量で10,000〜400,000、分子量分布で1.8〜3.0の範囲にあることを特徴とする請求項1又は2に記載の耐熱アクリル系樹脂組成物。
【請求項4】
共重合体(a)が、メタクリレート単量体由来の繰り返し単位がメタクリル酸メチル、ビニル芳香族単量体由来の繰り返し単位がスチレン、環状酸無水物繰り返し単位が無水マレイン酸、芳香族基を有するメタクリレート単量体由来の繰り返し単位がメタクリル酸ベンジルからそれぞれ誘導される共重合体よりなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の耐熱アクリル系樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の耐熱アクリル系樹脂組成物からなる成形体。
【請求項6】
成形体が車両用ランプレンズ、メーターパネル、バイザー及び照明カバーから選ばれるいずれか1つである請求項5記載の成形体。

【公開番号】特開2011−26563(P2011−26563A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−140266(P2010−140266)
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】