説明

耐熱コンベヤベルト用ゴム組成物および耐熱コンベヤベルト

【課題】優れた耐熱老化性を維持し、切断時伸びも良好な耐熱コンベヤベルト用ゴム組成物を提供する。
【解決手段】融点40℃以下のエチレン・α−オレフィン共重合体を含有する、耐熱コンベヤベルト用ゴム組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱コンベヤベルト用ゴム組成物および耐熱コンベヤベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
耐熱コンベヤベルト用ゴム組成物として、特許文献1には、「エチレン・1−オクテン共重合体とエチレン・プロピレン共重合体とを含有するゴム組成物」が記載されている(請求項1等を参照)。
このようなゴム組成物を用いた耐熱コンベヤベルトは、エチレン・プロピレン共重合体のみをゴム成分とするゴム組成物を用いた従来の耐熱コンベヤベルトと比べて、耐熱老化性等の諸性能に優れるとされている(段落0004,0041,0042,0044等を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−246017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、特許文献1に記載されたゴム組成物について検討を行ったところ、耐熱老化性には優れるものの、切断時伸びが劣ることを明らかにした。
【0005】
そこで、本発明は、優れた耐熱老化性を維持し、切断時伸びも良好な耐熱コンベヤベルト用ゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、融点が40℃以下のエチレン・α−オレフィン共重合体を用いることにより、意外にもエチレン・プロピレン共重合体を用いなくても、耐熱コンベヤベルト用ゴム組成物が、優れた耐熱老化性を維持しつつ、切断時伸びに優れることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(4)を提供する。
【0007】
(1)融点40℃以下のエチレン・α−オレフィン共重合体を含有する、耐熱コンベヤベルト用ゴム組成物。
【0008】
(2)エチレン含有量60〜80質量%のエチレン・プロピレン共重合体をさらに含有し、上記エチレン・α−オレフィン共重合体と上記エチレン・プロピレン共重合体との質量比(エチレン・α−オレフィン共重合体/エチレン・プロピレン共重合体)が、10/90〜90/10である、上記(1)に記載の耐熱コンベヤベルト用ゴム組成物。
【0009】
(3)上記エチレン・α−オレフィン共重合体が、融点40℃以下のエチレン・1−ブテン共重合体である、上記(1)または(2)に記載の耐熱コンベヤベルト用ゴム組成物。
【0010】
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の耐熱コンベヤベルト用ゴム組成物を用いる耐熱コンベヤベルト。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、優れた耐熱老化性を維持し切断時伸びも良好な耐熱コンベヤベルト用ゴム組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の耐熱コンベヤベルトの一実施形態の断面図である。
【図2】本発明の耐熱コンベヤベルトの他の一実施形態の断面図である。
【図3】エチレン・α−オレフィン共重合体の融点と切断時伸び(EB)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の耐熱コンベヤベルト用ゴム組成物(以下、「本発明のゴム組成物」ともいう。)は、融点40℃以下のエチレン・α−オレフィン共重合体を含有する耐熱コンベヤベルト用ゴム組成物である。以下、本発明のゴム組成物に含有される各成分について説明する。
【0014】
<エチレン・α−オレフィン共重合体>
本発明のゴム組成物が含有するエチレン・α−オレフィン共重合体は、その融点が40℃以下であり、35℃以下であることが好ましい。融点がこの範囲であるエチレン・α−オレフィン共重合体を含有するゴム組成物は、耐熱老化性を維持しつつ、切断時伸びにも優れる。これは、融点が40℃超であると伸長時の結晶化が速く進行するのに対して、融点が40℃以下であれば伸長時に結晶化しにくくなるからであると考えられる。
また、上記エチレン・α−オレフィン共重合体の融点は、分子間の凝集エネルギーが小さくなりすぎず、本発明のゴム組成物の常態物性(引張強さ(TB))が優れるという理由から、20℃以上であることが好ましく、25℃以上であることがより好ましい。
【0015】
上記エチレン・α−オレフィン共重合体としては、そのエチレン含有量や分子量等を調整することにより融点が40℃以下になるものであれば、特に限定されず、例えば、共重合体中のα−オレフィンが、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン等であるものが挙げれ、中でも、共重合体中のα−オレフィンが1−ブテンであるものが好ましい。
【0016】
なお、特許文献1の段落0034に開示されているエチレン・1−オクテン共重合体(商品名「Engage 8180」)の融点は、47℃である。
【0017】
このような融点が40℃以下のエチレン・α−オレフィン共重合体の市販品としては、例えば、エチレン・1−ブテン共重合体であるダウケミカル社製の「Engage 7467」等が挙げられる。
【0018】
<エチレン・プロピレン共重合体>
本発明のゴム組成物は、引張強さをより良好にできるという理由から、さらに、エチレン含有量60〜80質量%以上のエチレン・プロピレン共重合体を含有してもよい。
【0019】
上記エチレン・α−オレフィン共重合体と上記エチレン・プロピレン共重合体との質量比(エチレン・α−オレフィン共重合体/エチレン・プロピレン共重合体)は、引張強さと切断時伸びとのバランスという観点から、10/90〜90/10であることが好ましく、特に、ゴム組成物が加工性に優れるという理由から、40/60〜90/10であることがより好ましい。
【0020】
上記エチレン・プロピレン共重合体におけるエチレン含有量は、加工性の観点から、60〜75質量%であることが好ましく、60〜70質量%であることがより好ましい。
【0021】
本発明のゴム組成物は、上記各成分のほかに、本発明の目的を損なわない範囲で、一般的に用いられるカーボンブラック、亜鉛華、ステアリン酸、老化防止剤、オイル、可塑剤、架橋剤等の添加剤を含有することができる。これらの添加剤の含有量は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜決めることができる。
【0022】
本発明のゴム組成物の製造は、公知の条件・方法により行うことができる。例えば、本発明のゴム組成物は、上記エチレン・α−オレフィン共重合体、上記エチレン・プロピレン共重合体、および、必要に応じて含有する添加剤を、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等を用いて混合し、製造することができる。
【0023】
次に、本発明の耐熱コンベヤベルトについて説明する。
本発明の耐熱コンベヤベルトは、本発明のゴム組成物を用いた耐熱コンベヤベルトである。その形状、製造方法等は公知の耐熱コンベヤベルトと同様である。
本発明の耐熱コンベヤベルトの具体的な構成としては、例えば、下記に示すようなものが挙げられる。
【0024】
本発明の耐熱コンベヤベルトの第1の実施形態を図1を用いて説明する。
図1は、本発明の耐熱コンベヤベルトの一実施形態の断面図である。図1に示すように、本発明の耐熱コンベヤベルトの第1の実施形態は、帆布1をコートゴム(接着ゴム)2で被覆して芯材層とし、その外周を上述した本発明のゴム組成物からなるカバーゴム3でカバーした耐熱コンベヤベルト4である。
図1の耐熱コンベヤベルト4は、ナイロン、ビニロン、ポリエステル等の合成繊維の織布よりなる帆布1を芯材とするものであり、帆布1の積層枚数、カバーゴム3の厚さやベルト幅等は使用目的に応じて適宜決定されるが、カバーゴム3の厚さT、Tは通常の場合、1.5〜20mm程度とされる。
【0025】
また、コートゴム2は、公知の耐熱コンベヤベルトに用いられているコートゴムを使用でき、例えば、天然ゴム(NR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)等をゴム成分とするゴム組成物が使用できる。
【0026】
次に、本発明の耐熱コンベヤベルトの第2の実施形態を図2を用いて説明する。
図2は、本発明の耐熱コンベヤベルトの他の一実施形態の断面図である。
図2に示すように、本発明の耐熱コンベヤベルトの第2の実施形態は、スチールコード5をクッションゴム(接着ゴム)6で被覆して芯材層とし、その外周を上述した本発明のゴム組成物からなるカバーゴム7でカバーした耐熱コンベヤベルト8である。
図2の耐熱コンベヤベルト8は、直径0.2〜0.4mm程度の素線を複数本撚り合わせて直径2.0〜9.5mm程度のワイヤロープとしたスチールコード5を50〜230本程度並列させて芯材とするものであり、一般に、耐熱コンベヤベルト8の総厚みTは10〜50mm程度とされる。
また、クッションゴム6は、例えば、公知のスチールコンベヤベルトに用いられている亜鉛メッキスチールコードに接着可能な接着ゴムを使用することができ、具体的には、天然ゴム(NR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)等をゴム成分とするゴム組成物が使用できる。
【0027】
このような耐熱コンベヤベルトは、常法に従って、芯材となる帆布やスチールコードを本発明のゴム組成物で成形した未加硫のゴムシート間に介在させ、加熱加圧して加硫することにより容易に製造することができる。なお、加硫条件は、通常120〜180℃前後、0.1〜4.9MPa程度で10〜90分程度である。
【0028】
本発明の耐熱コンベヤベルトは、上述した本発明のゴム組成物を用いているので、耐熱老化性等に優れる。
【実施例】
【0029】
以下に実施例を挙げ、本発明のゴム組成物についてさらに説明する。なお、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0030】
(実施例1〜5、比較例1〜9)
下記第1表に示す各成分を、第1表に示す組成(質量部)で、バンバリーミキサーを用いて混合して分散させ、各組成物を得た。
得られた組成物を用いて、下記の試験方法により、未加硫物性、常態物性、老化物性、耐摩耗性、加工性を評価した。結果を第1表に示す。
【0031】
<未加硫物性>
各例に係る未加硫のゴム組成物について、ムーニー粘度、スコーチタイム、T95を下記に示す方法で測定した。結果を第1表に示す。
・ムーニー粘度[ML(1+4)100℃]:JIS K6300−1:2001に準拠して、L形ロータを使用し、予熱時間1分、試験温度100℃の条件で、測定した。
・スコーチタイム[min]:JIS K6300−1:2001に準拠して、温度125℃にて粘度が5ムーニー単位上昇する時間を測定した。
・T95[min]:JIS K6300−2:2001に準拠して、温度160℃にて95%加硫度に到達する時間を測定し、T95とした。
【0032】
<常態物性>
各例に係る加硫ゴムについて、硬度(Hs)、引張強さ(TB)、切断時伸び(EB)、引裂強さ(TR)を下記に示す方法で測定した。結果を第1表に示す。
・硬度(Hs):JIS K6253:1997に準拠して、スプリング式A型硬さ試験機を用いて、23℃での硬度を測定した。
・引張強さ(TB)[MPa]:JIS K6251:2004に準拠して、3号ダンベルにて2mmシートを打抜いてサンプルとし、500mm/分の引張速度にて測定した。
・切断時伸び(EB)[%]:JIS K6251:2004に準拠して、3号ダンベルにて2mmシートを打抜いてサンプルとし、500mm/分の引張速度にて測定した。
・引裂強さ(TR)[N/mm]:JIS K6252:2007に準拠し、クレセント形試験片にて測定した。
【0033】
<老化物性>
各例に係るゴム組成物について、180℃×168時間の耐熱老化試験を行った後、硬度(Hs)、引張強さ(TB)、切断時伸び(EB)を測定した。結果を第1表に示す。
また、180℃×168時間の耐熱老化試験の前後における、硬度変化率(ΔHs)、引張強さ変化率(ΔTB)、切断時伸び変化率(ΔEB)を求めた。結果を第1表に示す。
【0034】
<耐摩耗性(DIN摩耗)>
各例に係るゴム組成物について、180℃×168時間の耐熱老化試験前後で、JIS K6264:2005に準拠して、DIN摩耗試験機を用いて室温下で摩耗試験を行い、摩耗量[mm]を測定した。摩耗量が少ないほど耐摩耗性に優れる。結果を第1表に示す。
【0035】
<加工性>
各例に係るゴム組成物について、ロール出し後のシート肌を観察し、シート肌の表面が平滑でつやのあるものを、加工性に優れるものとして「○」と評価し、シートにやや凸凹があるため表面につやがないものを加工性がわずかに劣るものの実施に影響を与えないものとして「△」と評価し、シート全体が波打つ状態で凸凹があるものを加工性に劣るものとして「×」と評価した。結果を第1表に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
第1表中の各成分は、以下のものを使用した。
・EBM1:融点34℃のエチレン・1−ブテン共重合体、商品名「Engage 7467」(ダウケミカル社製)
・EBM2:融点50℃のエチレン・1−ブテン共重合体、商品名「Engage 7380」(ダウケミカル社製)
・EOM:融点55℃のエチレン・1−オクテン共重合体、商品名「Engage 8150」(ダウケミカル社製)
・EPM1:エチレン含有量51.0質量%のエチレン・プロピレン共重合体、商品名「EPT0045」(三井化学社製)
・EPM2:エチレン含有量54.5質量%のエチレン・プロピレン共重合体、商品名「VISTALON 503」(Exxon Mobil Chemical社製)
・EPM3:エチレン含有量65.0質量%のエチレン・プロピレン共重合体、商品名「VISTALON 706」(Exxon Mobil Chemical社製)
・カーボンブラック:商品名「ニテロン#300」(新日化カーボン社製)
・亜鉛華:商品名「酸化亜鉛3種」(正同化学工業社製)
・ステアリン酸:商品名「ステアリン酸50S」(千葉脂肪酸社製)
・老化防止剤1:商品名「ノクラックMMB」(大内新興化学工業社製)
・老化防止剤2:商品名「ノンフレックスLAS−P」(精工化学社製)
・オイル:商品名「SUNPAR 2280」(日本サン石油社製)
・可塑剤:商品名「ルーカント HC−3000X」(三井化学社製)
・架橋剤1:商品名「パーカドックス14−40」(化薬アクゾ社製)
・架橋剤2:商品名「ハイクロスGT」(精工化学社製)
【0039】
第1表に示す結果から、融点が34℃であるEBM1を含有する実施例1〜5は、引張強さ(TB)および切断時伸び(EB)がともに良好(TB≧14、EB≧600)であり、優れた耐熱老化性も有することが分かった。
また、実施例2〜5を見ると、エチレン含有量が65.0質量%であるEPM3との併用系にすることで、良好な切断時伸びを維持しつつ、引張強さをより良好にできることが分かった。
さらに、実施例2〜5のような併用系においては、EPM3の質量比が相対的に低いほど、加工性が良好になることが分かった。
【0040】
これに対して、比較例1〜6では、切断時伸び(EB)が劣る(EB<600)ことが分かった。
また、比較例7,8では、切断時伸びは比較的良好であるものの、引張強さ(TB)に劣る(TB<14)ことが分かった。
さらに、比較例9では、引張強さおよび切断時伸びは比較的良好であるものの、加工性に劣ることが分かった。
【0041】
ここで、図2は、実施例1〜5と比較例1〜6とについて、エチレン・α−オレフィン共重合体の融点と切断時伸び(EB)との関係を示すグラフである。
図2のグラフからは、エチレン・α−オレフィン共重合体の融点が40℃を超える範囲においては、融点が55℃から50℃に下降したとしても、EBの値が上昇するという傾向は見られない。
しかしながら、図2のグラフからは、エチレン・α−オレフィン共重合体の融点を40℃以下(34℃)にすると、EBの値が顕著に上昇することが分かる。
【符号の説明】
【0042】
1 帆布
2 コートゴム
3,7 カバーゴム
4,8 耐熱コンベヤベルト
5 スチールコード
6 クッションゴム


【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点40℃以下のエチレン・α−オレフィン共重合体を含有する、耐熱コンベヤベルト用ゴム組成物。
【請求項2】
エチレン含有量60〜80質量%のエチレン・プロピレン共重合体をさらに含有し、
前記エチレン・α−オレフィン共重合体と前記エチレン・プロピレン共重合体との質量比(エチレン・α−オレフィン共重合体/エチレン・プロピレン共重合体)が、10/90〜90/10である、請求項1に記載の耐熱コンベヤベルト用ゴム組成物。
【請求項3】
前記エチレン・α−オレフィン共重合体が、融点40℃以下のエチレン・1−ブテン共重合体である、請求項1または2に記載の耐熱コンベヤベルト用ゴム組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の耐熱コンベヤベルト用ゴム組成物を用いる耐熱コンベヤベルト。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−178917(P2011−178917A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45365(P2010−45365)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】