説明

耐熱ノンハロゲンアルミニウム電線

【課題】本発明は、耐摩耗性と柔軟性が両立した軽量細径のハロゲンフリーアルミニウム電線を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金を含む導体と、該導体を被覆する絶縁体とを具備する耐熱ノンハロゲンアルミニウム電線であって、前記絶縁体が、(A)ポリオレフィン樹脂と(B)硬度(ショアD)が40以上であるエチレン共重合体樹脂とを重量比で1:9〜3:7の配合比率で含むベース樹脂、(C)金属水和物を該ベース樹脂100重量部に対して40〜100重量部、及び(D)シリコーンポリマーを含む樹脂組成物により形成される耐熱ノンハロゲンアルミニウム電線に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱ノンハロゲンアルミニウム電線に関し、特に、耐熱性、柔軟性、難燃性、耐摩耗性、電気絶縁性に優れた自動車用薄肉ノンハロゲンアルミニウム電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、自動車内に配線される絶縁電線1は、導体2とこれを被覆する絶縁体3とを具備している(図1)。アルミニウム等の導体を、ポリ塩化ビニル樹脂を主成分とした樹脂組成物で被覆したものが多く用いられてきた。ポリ塩化ビニル樹脂は自己消火性材料であるため難燃性が高く、可塑剤の添加によって硬度を自由に調節可能であり、耐摩耗性にも優れているが、焼却処分や車両火災等の燃焼時にハロゲン系ガス等の有害ガスが発生するので環境汚染が問題となっていた。
このような問題を解決するために、近年、ポリオレフィン系樹脂をベースとしたノンハロゲン樹脂組成物が開発されている。ノンハロゲン樹脂組成物は、ポリオレフィン系樹脂に難燃剤として金属水和物等の無機系難燃剤を添加することによって、ノンハロゲン性を維持したまま難燃性を向上させている。
例えば、「特許文献1」には、ポリエチレンおよび/またはエチレン系共重合体を主成分とするベース樹脂に、イオウ系酸化防止剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、金属水和物および酸化亜鉛を含有する樹脂組成物を、導体上に被覆し、さらに該ベース樹脂が架橋されているノンハロゲン絶縁電線が記載されている。しかし、金属水和物を多量に添加する必要があり、これによってポリオレフィン系樹脂の特性が低下して機械特性や柔軟性が著しく低下する。
【0003】
又、上記「特許文献1」に記載された絶縁電線のように断面積が8mmあるいは20mmで絶縁体3の厚さが1.0mm程度の、一般的に太物と呼ばれる従来の電線1においては、柔軟性を備えるエチレン系共重合体樹脂をベース樹脂とし、難燃剤として金属水和物などが配合された電線が一般的となっている(図1)。このような絶縁体の樹脂組成は太物サイズの電線に柔軟性を付与し、かつハロゲン系難燃剤を含まない環境に優しいノンハロゲン電線を提供することを可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−207642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、一般的に細物と呼ばれる電線においては絶縁体の厚さは0.5mm以下となり、断面積が2mm以下となるため、エチレン共重合体を単純にベースとした樹脂組成では柔軟すぎてしまい、絶縁体のスクレープ摩耗性を満足することは不可能である。更に、絶縁体に金属水和物を配合した電線ではサイズが小さくなるにつれて難燃性を確保することが困難となる傾向にあるために、難燃剤の添加量を増やさなければならず、引っ張り伸びなどの樹脂本来が持つ特性を低下させてしまう結果となる。
【0006】
また、吸熱効果が低くなるアルミニウム導体電線では銅導体電線に比べて更に難燃剤の添加量を増やす必要があり、従来のポリエチレン系樹脂組成物を被覆材に使用すると、ますます特性を発現させる事が困難になる。
従って、薄肉・細物の電線においては柔軟目的のエチレン共重合体樹脂を添加し、他の金属水和物よりも分解点(脱水反応開始温度)が低い水酸化アルミニウムを使用することは困難であった。
【0007】
従って、本発明の目的は、絶縁体の伸び率、引張強さ等の機械的特性の低下を抑えつつ、高い難燃性と絶縁性を有するノンハロゲン耐熱性電線を提供することにあり、特に、絶縁層が薄肉な電線において柔軟な樹脂であるエチレン共重合体樹脂をベース樹脂としても基本的な電線特性を損なうことなく、耐摩耗性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記のように従来はエチレン共重合体樹脂をベースとした配合組成では柔軟性が付与されるが故に厚肉(絶縁体の厚さ1.0mm前後)の太物の電線サイズに使用が限定されていた。
本発明者は、鋭意検討した結果、以下の構成により上記の目的を達成することを見出した。
(1) アルミニウム又はアルミニウム合金を含む導体と、該導体を被覆する絶縁体とを具備する耐熱ノンハロゲンアルミニウム電線であって、
前記絶縁体が、(A)ポリオレフィン樹脂と(B)硬度(ショアD)が40以上であるエチレン共重合体樹脂とを重量比で1:9〜3:7の配合比率で含むベース樹脂、(C)金属水和物を該ベース樹脂100重量部に対して40〜100重量部、及び(D)シリコーンポリマーを含む樹脂組成物により形成される耐熱ノンハロゲンアルミニウム電線。
(2) 前記金属水和物が水酸化アルミニウムである上記(1)に記載の耐熱ノンハロゲンアルミニウム電線。
(3) 前記金属水和物は、平均粒子径が0.5〜30μmであり、低ソーダ処理又は表面処理がされている上記(1)又は(2)に記載の耐熱ノンハロゲンアルミニウム電線。
(4) 前記樹脂組成物における前記(D)シリコーンポリマーの含有量がベース樹脂100重量部に対して1.0〜5.0重量部である上記(1)〜(3)のいずれか一に記載の耐熱ノンハロゲンアルミニウム電線。
(5) 前記絶縁体の厚さが0.5mm以下である上記(1)〜(4)のいずれか一に記載の耐熱ノンハロゲンアルミニウム電線。
(6) 前記樹脂組成物が、さらに(E)酸化防止剤及び重金属不活性化剤の少なくとも一方を、前記ベース樹脂100重量部に対して0.1重量部以上含む上記(1)〜(5)のいずれか一に記載の耐熱ノンハロゲンアルミニウム電線。
(7) (A)ポリオレフィン樹脂と(B)硬度(ショアD)が40以上であるエチレン共重合体樹脂とを重量比で1:9〜3:7の配合比率で含むベース樹脂、(C)金属水和物を該ベース樹脂100重量部に対して40〜100重量部、及び(D)シリコーンポリマーを含む電線被覆用樹脂組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、薄肉細物サイズ電線でのベース樹脂としての展開が可能となり、樹脂本来の特性の低下を抑えつつ摩耗性・難燃性・耐熱性の向上が可能な、薄肉のノンハロゲンアルミニウム電線を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】従来の電線の断面図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の電線被覆用樹脂組成物および耐熱ノンハロゲンアルミニウム電線について詳細に説明する。
本発明において、ハロゲンフリーまたはノンハロゲンとは、ハロゲン化合物を、樹脂組成物における難燃性などの各種機能を発現させるための有効成分としては含有しないことを言い、不可避的にわずかに含まれる不純物等としてのハロゲンをも含まないことを意味するものではない。
また、本明細書において“重量%”及び“重量部”は、それぞれ“質量%”及び“質量部”と同義である。
【0012】
本発明の電線被覆用樹脂組成物(以下、単に「本発明の樹脂組成物」とも称する。)に用いられる(A)ポリオレフィン樹脂としては、各種ポリオレフィンを適宜選択して用いることができ、その中でも80〜250℃の範囲の融点のものが好ましい。例えば、炭素数2〜8のオレフィンの単独重合体や共重合体及び、炭素数2〜8のオレフィンと酢酸ビニルとの共重合体、炭素数2〜8のオレフィンとアクリル酸或いはそのエステルとの共重合体、炭素数2〜8のオレフィンとメタアクリル酸或いはそのエステルとの共重合体、及び炭素数2〜8のオレフィンとビニルシラン化合物との共重合体が好ましく用いられるものとして挙げられる。
【0013】
上記のポリオレフィンとしては、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン・プロピレンブロック共重合体(EPBC)等が挙げられ、本発明のベース樹脂である(A)ポリオレフィン系樹脂としてはポリエチレン樹脂が選択でき、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖上低密度ポリエチレンなどが挙げられる。これらは1種のみ用いてもよく、2種以上を組合せてもよい。中でも高密度ポリエチレン(HDPE)が最も好ましい。
【0014】
本発明の樹脂組成物に配合される(B)エチレン共重合体樹脂とは、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸アルキル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン・α−オレフィン共重合体、エチレン−プロピレンゴムなどを挙げることが出来る。本発明においては、エチレン−(メタ)アクリル酸アルキル(炭素数1〜12のアルキル基)共重合体を好適に用いることが出来る。(B)エチレン共重合体樹脂の好ましい具体例としては、エチレン−メチルアクリレート共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−メチルメタクリレート共重合体、エチレン−ブチルアクリレート共重合体等を挙げることが出来る。これらは1種のみ用いてもよく、2種以上を組合せてもよい。
【0015】
(B)エチレン共重合体樹脂の硬度(ショアD)は40以上であり、好ましくは40〜47である(硬度は2000年度 JIS K7215に準拠する)。硬度が40以上であれば磨耗性の点で好ましい。
【0016】
また、(A)ポリオレフィン系樹脂と(B)エチレン共重合体樹脂の一部は、不飽和重合性カルボン酸や不飽和カルボン酸の誘導体等により酸変性処理されていることが望ましい。
この不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性した樹脂を加えることにより、得られる樹脂組成物の耐摩耗性や力学的強度が向上する。またシランカップリング剤処理水酸化アルミニウムと結合することでPVC樹脂と接着させても高い耐熱性を維持することが可能となる。
【0017】
上記樹脂の酸変性に用いられる不飽和重合性カルボン酸としては、例えば、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等が挙げられ、不飽和カルボン酸の誘導体としては、マレイン酸モノエステル、マレイン酸ジエステル、無水マレイン酸、イタコン酸モノエステル、イタコン酸ジエステル、無水イタコン酸、フマル酸モノエステル、フマル酸ジエステル、無水フマル酸等を挙げることができる。
【0018】
樹脂の酸変性は、例えば、ポリオレフィンと不飽和カルボン酸等を有機パーオキサイドの存在下に加熱、混練することにより行うことができる。酸による変性量は好ましくは10〜20%である。又、重合法によって酸性基を導入することも可能である。
【0019】
上記(A)ポリオレフィン系樹脂及び(B)エチレン共重合体樹脂は本発明の樹脂組成物においてベース樹脂となる成分である。ここで、ベース樹脂の比率としては、難燃性・難燃剤の種類の観点から、重量比で(A)ポリオレフィン系樹脂:(B)エチレン共重合体樹脂=1:9〜3:7である。
【0020】
本発明の樹脂組成物においては、難燃剤として(C)金属水和物を用いる。金属水和物は、結晶水として水分子を含む金属化合物であり、水和酸化物を形成する金属水酸化物も含む概念である。金属水和物に含まれる水分子の数(水和数)は、特に限定されず、金属化合物の種類に応じて適宜選択することができる。これらの金属水和物は、複数種を組み合わせて使用してもよい。好ましい金属水和物としては、水酸化アルミニウム(Al(OH)またはAl・nHO)、水酸化マグネシウム(Mg(OH)またはMgO・nHO)等が挙げられる。
【0021】
金属水和物は、低ソーダ処理により耐熱性を高めたグレードや、ステアリン酸やシランカップリング剤等により表面処理されたグレードであることがより好ましい。水酸化アルミニウムは他の一般的な難燃剤である水酸化マグネシウム等に比べて分解温度(脱水開始温度)が200℃前後と低く、加工性の低下が懸念されていることから、このような処理がなされていることが好ましい。
【0022】
金属水和物の配合量は、ベース樹脂100重量部に対して、40〜100重量部、好ましくは60〜80重量部である。上記範囲であれば、組成物に難燃性が付与され、また、低比重を維持できるため低コストとすることができる。また、金属水和物の平均粒子径は0.5〜30μm、好ましくは、1〜5μm、特に好ましくは1μmである。平均粒子径が上記範囲であれば、難燃性の点で好ましい。
【0023】
本発明の樹脂組成物では、難燃助剤として、(D)シリコーンポリマー(ポリシリコーン化合物)を配合する。本発明で使用するシリコーンポリマーはオルガノシロキサン構造の繰り返し単位からなる重合体であって、ケイ素原子に置換する有機基は、例えば、炭素原子数1〜12のアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、芳香族炭化水素基等であり、これらは置換基を有していてもよい。好ましい有機基としては炭素数1〜4の低級アルキル基、フェニル基、ハロゲン置換アルキル基などが挙げられる。従って、ポリオルガノシロキサンはこのような有機基の組み合わせによってホモポリマー、コポリマー等の構造をとり得る。例えば、ジメチルシロキシユニットとフェニルメチルシロキシユニットを含む樹脂、ジメチルシロキシユニットとジフェニルシロキシユニットを含む樹脂、ジメチルシロキシユニット、ジフェニルシロキシユニットとフェニルメチルシロキシユニットを含む樹脂を等を挙げることができる。更に、環状のポリシロキサン、両末端がビニル基、又は主鎖に沿って少なくとも一つのビニル基を含有するポリジメチルシロキサン等が好ましい。最も好ましい化合物はオクタメチルシクロテトラシロキサンである。
本発明の樹脂組成物におけるシリコーンポリマーの配合量は、ベース樹脂100重量部に対し1.0〜5.0重量部が好ましく、3重量部が更に好ましい。配合量が上記範囲であれば、難燃性の点で好ましい。
【0024】
本発明の樹脂組成物には酸化防止剤を配合することが好ましい。酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン酸系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤及びヒドロキノン誘導体等から選ばれる。
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ブチル化ヒドロキシアニソール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−sec−ブチルフェノール、2−(1−メチルシクロヘキシル)−4,6−ジメチルフェノール、2,2′−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2−メチレン−ビス−(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、4,4′−メチレン−ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、2,2′−メチレン−ビス(6−α−メチル−ベンジル−p−クレゾール)、2,2′−エチリデン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェノール)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ヒンダートフェノール系の化合物としては、例えば、4,4′−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,4−ビス[(オクチルチオ)メチル]−o−クレゾール、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホネート−ジエチルエステル、ヒンダート・ビスフェノール等が挙げられる。
【0025】
リン酸系酸化防止剤としては、例えば、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルイソデシルホスファイト、4,4′−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニルジトリデシル)ホスファイト、オクタデシルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(モノ及び/あるいはジノニルフェニル)ホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジブチルハイドロゲンホスファイト、ジステアリル・ペンタエリスリトール・ジホスファイト、亜リン酸エステル系化合物等が挙げられる。
【0026】
硫黄系酸化防止剤としては、例えば、ジラウリル・チオジプロピオネート、ジステアリル・チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオネート、ジトリデシル−3,3’−チオジプロピオネート、ペンタエリスリトール−テトラキス(β−ラウリル−チオプロピオネート)、チオジプロピオン酸ジラウリル、β−アルキルチオエステル・プロピオネート、2−メルカプトベンズイミダゾール、ジオクタデシルスルフィド等が挙げられる。
【0027】
アミン系酸化防止剤は、例えば、フェニル−α−ナフチルアミン、フェニル−β−ナフチルアミン、p−(p−トルエン・スルホニルアミド)ジフェニルアミン、4,4’−(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、4,4’−ジオクチル・ジフェニルアミン、オクチル化ジフェニルアミン、ジオクチル化ジフェニルアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン等が挙げられる。
他に、例えば、2,5−ジ−(t−アミル)ヒドロキノン、2,5−ジ−t−ブチルヒドロキノン、ヒドロキノン−モノメチルエーテル等が挙げられる。
上記の酸化防止剤は二種以上を併用してもよい。
【0028】
酸化防止剤の好ましい配合量は、好ましくはベース樹脂100重量部に対して0.1〜5重量部である。配合量が上記範囲であれば、酸化による劣化を十分に防止でき、導体を被覆した際に表面にブリードが生じる恐れがなく、好ましい。
【0029】
本発明では、更に、重金属不活性化剤を配合することが好ましい。重金属不活性化剤は、樹脂組成物中に存在する銅イオン等の重金属イオンと反応して、キレート化合物を形成し、樹脂の酸化劣化を防ぐものである。本発明に使用される重金属不活性化剤としては、例えば、2,4,6−トリアミノトリアジン、エチレンジアミン四酢酸及びその金属塩、1,2,3−ベンゾトリアゾール、3−(N−サリチロイル)アミノ−1, 2, 4−トリアゾール、3−(N−サリチロイル)アミノ−1,2,4−トリアゾール、デカメチレンジカルボン酸ジサリチロイルヒドラジド等のヒドラジド誘導体、N, N’−ビス(3−(3, 5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル)ヒドラジン、シュウ酸誘導体、サルチル酸誘導体等が好適なものとして挙げられる。
これらの重金属不活性化剤は、単独で添加しても2種以上添加してもよく、特に限定されるものではない。
【0030】
本発明の樹脂組成物において、重金属不活性化剤は0.1〜5重量部を配合すればよいが、0.5〜3重量部を配合するほうがより好ましい。配合量が上記範囲であれば、PVC絶縁電線等と混在した状態で使用しても優れた耐熱老化性能をより長く維持することができるからであるである。
【0031】
上記の各種原料の配合は、一般的な電線絶縁体用組成物を製造するのと同様の混合手段、バンバリーミキサー、ロールミル、加圧ニーダー等を用いて混合・混練し、本発明の電線絶縁体用樹脂組成物を得る。このとき、通常は、まずベース樹脂を作製した後、これに他の成分を配合、混練するが、本発明の効果を損なわない場合には、この限りではない。
【0032】
上述した構成で配合したノンハロ樹脂組成物は、高密度ポリエチレンと、特に硬度(ショアD)40以上エチレン共重合体を特定の比率で配合することにより耐摩耗性が向上し、金属水和物を含有することによって難燃性が向上するとともに、酸化防止剤及び重金属不活性化剤を含有せしめることによって、特にPVC樹脂組成物との混在時に起こりやすい長期耐熱性の低下が低減される。長期耐熱性の低下の一因としては、可塑剤がPVC樹脂組成物からノンハロゲン樹脂組成物に移行するためと考えられるが、本発明においては、ノンハロゲン樹脂組成物内に可塑剤が移行しても、前述した酸化防止剤、重金属不活性化剤等によって長期耐熱性の低下が抑制されると考えられる。
【0033】
本発明の樹脂組成物には、さらに着色剤、滑剤、帯電防止剤、発砲剤、充填材、加工助剤等の各種添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲で添加してもよい。
【0034】
上記の特徴をもった本発明の樹脂組成物を絶縁体として導体を被覆した、本発明の耐熱ノンハロゲンアルミニウム電線(以下、単に「本発明の電線」とも称する。)は各特性を満足する。
次に、本発明の電線とその製法について説明する。電線の種類、構造には制限がなく、例えば、単線、フラット線、シールド線等が挙げられる。電線は、導体と、該導体を被覆する絶縁体層とを備え、絶縁体が本発明のノンハロゲン樹脂組成物により形成される。導体は、長尺線状に設けられ、アルミニウムまたはアルミニウム合金を含む金属から構成されている。アルミニウム合金としては、アルミニウムに鉄等の他金属を含む。導体は、一本でもよく、また複数本でもよい。なお、導体と、本発明の樹脂組成物による絶縁体との間に、例えば他の絶縁体等が介在されていてもよい。
【0035】
本発明の電線の導体径などは特に制限はなく、用途に応じて適宜定められる。導体の周りに形成される樹脂組成物の絶縁体による被覆層の肉厚も特に制限はないが、ISOの薄肉電線仕様規格(ISO6722(2006年度))を満足する、0.5mm以下が好ましく、0.2〜0.35mmがより好ましい。また、絶縁体層が多層構造であってもよく、本発明の絶縁樹脂組成物で形成した絶縁体層のほかに中間層などを有するものでもよい。
【0036】
本発明の電線を製造する方法は、特に限定されず、公知の種々の手段を用いることができ、導体を本発明の樹脂組成物で被覆した後、樹脂組成物を架橋処理して絶縁体層を形成して製造することができる。
前述した電線において、導体を樹脂組成物で被覆する方法は、公知の種々の手段を用いることができる。例えば、一般的な押出成形法を用いることができる。押出し機は二軸押出機等を使用し、スクリュー、ブレーカープレート、クロスヘッド、ディストリュビューター、ニップル及びダイスを有するものを使用する。そして、樹脂組成物が十分に溶融する温度に設定された二軸押出機に樹脂組成物を投入する。樹脂組成物はスクリューにより溶融及び混練され、一定量がブレーカープレートを経由してクロスヘッドに供給される。溶融した樹脂組成物は、ディストリュビューターによりニップルの円周上へ流れ込み、ダイスにより導体の円周上に被覆された状態で押出され、電線が得られる。
【0037】
被覆後の架橋の方法も特に制限はなく、電子線架橋法や化学架橋法で行うことができる。電子線架橋法で行う場合、電子線の線量は1〜30Mradが適当であり、効率よく架橋をおこなうために、トリメチロールプロパントリアクリレートなどのメタクリレート系化合物、トリアリルシアヌレートなどのアリル系化合物、マレイミド系化合物、ジビニル系化合物などの多官能性化合物を架橋助剤として配合しておいてもよい。
化学架橋法の場合は樹脂組成物に、ヒドロペルオキシド、ジアルキルペルオキシド、ジアシルペルオキシド、ペルオキシエステル、ケトンペルオキシエステル、ケトンペルオキシドなどの有機過酸化物を架橋剤として配合し、押出成形被覆後に加熱処理により架橋を行う方法を採用することができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1〜14及び比較例1〜9)
使用した原料は次のとおりである。
<ポリオレフィン樹脂>
・ポリエチレン樹脂(HDPE):日本ポリエチレン(株)製「ノバテックHE122R(登録商標)」
・変性ポリエチレン樹脂:三井化学(株)製「ミラソン3530(登録商標)」(低密度ポリエチレン)
<エチレン共重合体樹脂>
・変性エチレン共重合体(1):住友化学(株)製「ボンダインLX4110(登録商標)」(エチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸三元共重合体) (ショアD=42)
・エチレン共重合体(2)(エチレン−エチルアクリレート共重合体):日本ユニカー(株)製「DPDJ−6169EK」 (ショアD=31)
・エチレン共重合体(3)(エチレン−メタクリル酸共重合体):三井・デュポンポリケミカル(株)製「N0903HC」 (ショアD=54)
<難燃剤>
・水酸化マグネシウム(ステアリン酸処理水酸化マグネシウム):協和化学工業(株)製「キスマ5A(登録商標)」(平均粒子径1.0μm)
・水酸化アルミニウム(1):昭和電工(株)製「ハイジライトH−42M(登録商標)」(平均粒子径1.0μm)
・水酸化アルミニウム(2)(表面処理品):昭和電工(株)製「ハイジライトH−42S(登録商標)」(平均粒子径1.1μm)
<難燃助剤>
・シリコーンポリマー:東レ・ダウコーニング(株)製「BY27−001」
<添加剤>
・酸化防止剤:「Irganox1010(登録商標)」(ヒンダードフェノール系酸化防止剤)
・重金属不活性化剤:旭電化工業(株)製「CDA−6」
【0039】
表1〜表3中の成分欄に示す配合量(単位:重量部)にしたがって、HDPEポリエチレン樹脂、変性ポリエチレン樹脂、エチレン共重合体樹脂、難燃剤として水酸化マグネシウム又は水酸化アルミニウム、難燃助剤としてシリコーンポリマー、酸化防止剤及び重金属不活性化剤を配合してノンハロゲン樹脂組成物を調製した。これを容量7リットルのヘンシェルミキサーで混合した後、Φ37mm同方向二軸押出機を使用してダイス温度150℃設定で混練した。その後、電線押出し機(Φ40mm、L/D=25、FFスクリュー)に投入し、押出スピード600mm/min、押出温度150℃にて、導体面積1.04mm(素線構成0.225mm×1本撚り)の導体上に押出して、仕上がり外径1.75mmの電線を作製した。電子線照射架橋は、2MeV、150kGyで行った。得られた絶縁電線について以下の評価試験を行い、結果を表1〜表3にまとめた。表1〜表3中、「アルミ電線0.75f(0.3mm)」の「0.75f」は公称断面積を、「0.3mm」は絶縁体厚さを表す。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
【表3】

【0043】
<電線の評価方法>
(PVC移行性の評価)
PVC電線と、各配合例の絶縁体を絶縁被覆とする電線をPVCテープにハーフラップ巻きし、130℃で1200時間後に自己径巻き付けにて割れ導体露出のないものを良好(◎)、130℃で1000時間後に自己径巻き付けにて割れ導体露出のないものを合格(○)、亀裂が生じるものを不合格(×)とした。
【0044】
(絶縁体伸び率の測定方法)
JIS B7721(2009年度)に準拠して行った。絶縁電線を150mmの長さに切り出し、導体を取り除いて被覆層のみの管状試験片とした後、その中央部に50mmの間隔で標線を記した。次いで、室温下にて試験片の両端を引張試験機のチャックに取り付けた後、引張速度25〜500mm/分で引っ張り、標線間の距離を測定した。伸びが200%以上のものを合格(○)とし、それより低いものを不合格(×)とした。
【0045】
(耐摩耗性試験(荷重7N)方法)
スクレープ摩耗試験装置を用いて行った。すなわち、長さ約1mの絶縁電線をサンプルホルダーに載置し、クランプで固定した。そして、絶縁電線の先端に直径0.45mmのピアノ線を備えるプランジを、押圧を用いて総荷重7Nで絶縁電線に押し当てて往復させ(往復距離14mm)、絶縁電線の被覆層が摩耗してプランジのピアノ線が絶縁電線の導体に接するまでの往復回数を測定し、400回以上のものを合格(○)とし、400回未満のものを不合格(×)とした。
【0046】
(難燃性の評価方法)
長さ600mm以上の絶縁電線サンプルを用意し、傾き45度傾斜に固定して上端から500mm±5mmの部分にプンゼンバーナーにて15秒間元炎を当てた後に消炎するまでの時間が70秒以内のものを合格(○)、それ以上を不合格(×)とした。
【0047】
(比重の評価基準)
1.4以下のものを合格(○)、1.4を超えるものを不合格(×)とした。
【0048】
表1〜表3に示された結果から、本発明における各構成材料の作用としては、ベース樹脂である(B)エチレン共重合体樹脂のグレード選定が重要であり、硬度(ショアD)が40以上であることによって薄肉電線において添加量を多くしても(70〜90重量部)、摩耗性を満足することが分かった。更に添加量が多くなる事で無機フィラーの樹脂中への取り込み・分散性を助けてくれるために難燃剤の添加量を難燃助剤の効果と併せて低下する事が可能となる。更には分解温度の低い水酸化アルミニウムを難燃剤として使用することが可能となり、水酸化マグネシウムと比較しても耐熱性やPVC協調性といった樹脂劣化性を軽減することが明らかとなった。
このように、本発明ではエチレン共重合体樹脂の硬度を選定することで薄肉細物サイズ電線でのベース樹脂としての展開が可能となった。更に水酸化アルミニウムの採用、難燃助剤による難燃剤添加量の低減が可能となり、樹脂本来の特性の低下を抑えつつ摩耗性・難燃性・耐熱性の向上が可能な、薄肉のノンハロゲンアルミニウム電線を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のポリオレフィン樹脂とエチレン共重合体樹脂を配合した樹脂組成物を被覆した細径電線はハロゲンフリー材料を使用しているため、環境負荷の低減を可能にし、しかも、耐熱及び耐磨耗性が向上しているので、自動車の部品用の耐熱細径電線としての利用が期待される。
【符号の説明】
【0050】
1 電線
2 導体
3 絶縁体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム又はアルミニウム合金を含む導体と、該導体を被覆する絶縁体とを具備する耐熱ノンハロゲンアルミニウム電線であって、
前記絶縁体が、(A)ポリオレフィン樹脂と(B)硬度(ショアD)が40以上であるエチレン共重合体樹脂とを重量比で1:9〜3:7の配合比率で含むベース樹脂、(C)金属水和物を該ベース樹脂100重量部に対して40〜100重量部、及び(D)シリコーンポリマーを含む樹脂組成物により形成される耐熱ノンハロゲンアルミニウム電線。
【請求項2】
前記金属水和物が水酸化アルミニウムである請求項1に記載の耐熱ノンハロゲンアルミニウム電線。
【請求項3】
前記金属水和物は、平均粒子径が0.5〜30μmであり、低ソーダ処理又は表面処理がされている請求項1又は請求項2に記載の耐熱ノンハロゲンアルミニウム電線。
【請求項4】
前記樹脂組成物における前記(D)シリコーンポリマーの含有量がベース樹脂100重量部に対して1.0〜5.0重量部である請求項1〜3のいずれか一項に記載の耐熱ノンハロゲンアルミニウム電線。
【請求項5】
前記絶縁体の厚さが0.5mm以下である請求項1〜4のいずれか一項に記載の耐熱ノンハロゲンアルミニウム電線。
【請求項6】
前記樹脂組成物が、さらに(E)酸化防止剤及び重金属不活性化剤の少なくとも一方を、前記ベース樹脂100重量部に対して0.1重量部以上含む請求項1〜5のいずれか一項に記載の耐熱ノンハロゲンアルミニウム電線。
【請求項7】
(A)ポリオレフィン樹脂と(B)硬度(ショアD)が40以上であるエチレン共重合体樹脂とを重量比で1:9〜3:7の配合比率で含むベース樹脂、(C)金属水和物を該ベース樹脂100重量部に対して40〜100重量部、及び(D)シリコーンポリマーを含む電線被覆用樹脂組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2012−104227(P2012−104227A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−248833(P2010−248833)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】