説明

耐熱合金皮膜の形成方法、それに用いる複合粉末

【課題】ニッケル、及び、コバルト基の耐熱合金をコールドスプレーによって高効率,低コストで成膜することを可能とし、低入熱,低コストの耐熱部材の製造及び補修方法を提供する。
【解決手段】耐熱合金を構成する元素の内から選択された組成を有し、かつ、その総和が前記耐熱合金の組成となるよう選択された、複数種類の金属粉末を選択する工程と、前記複数種類の金属粉末粒子が溶融しない温度に保たれた超音速ガス流を形成し、この超音速ガス流中に前記複数種類の金属粉末を投入し、粉末粒子を基体に超音速で衝突させて、金属基体上に前記複数種類の金属粉末の混合皮膜を形成する工程と、前記複数種類の金属粉末の混合皮膜を形成した金属基体に熱処理を施し、堆積層を均質化,合金化して、目的の耐熱合金の堆積層を得ると共に、金属基体と皮膜との間で拡散を生じさせて両者の密着を強固にする、熱処理の工程とを有する方法で、耐熱合金皮膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱部材の製造,補修のために、金属基体の表面上に耐熱合金皮膜を形成する方法と、それに用いる複合粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
高温の燃焼ガスに曝されるガスタービンの耐熱部材(動翼,静翼,燃焼器等)には、主に高温強度に優れたニッケル基やコバルト基の各種耐熱合金が材料として用いられている。さらに、これら耐熱部材の表面には、高温での耐酸化性,耐食性を付与する目的から、MCrAlX合金(Mはニッケル,コバルト,鉄の何れか、及びその組合せ。XはM,Cr,Al以外の元素)がコーティングとして用いられている。中でも、ニッケル,コバルトのいずれか、または、両方を含むMCrAlX合金が多用されている。このMCrAlX合金のコーティング製造方法としては、主に減圧プラズマ溶射法(LPPS),大気プラズマ溶射法(APS),高速フレーム溶射法(HVOF)が用いられている。
【0003】
これら溶射法では、プラズマジェット(LPPS,APS),燃焼ガス(HVOF)といった非常に高温の熱源に粉末材料を投入して加熱し、溶融、または半溶融状態にして基材に吹き付け、堆積させることでコーティングを形成する。このため、基材の溶融や過熱を避けるために、熱源である溶射ガンと基材の距離をある程度離す必要があり、粉末の付着効率が低いという課題がある。
【0004】
一方、これらガスタービンの耐熱部材は、運転中において、高温高圧の燃焼ガスへの曝露と、高い熱応力や遠心応力が作用するため、運転時間の経過に伴い劣化・損傷が避けられない。従って、これらの耐熱部材は点検と補修を繰り返しながら使用される。この中で、亀裂,摩耗,酸化腐食減肉等の補修には、母材と同系の合金を肉盛溶接する方法が用いられている。
【0005】
しかし、ガスタービンの耐熱部材に用いられるニッケル基,コバルト基の耐熱合金は難溶接性であり、溶接肉盛補修では、溶接入熱の影響による、溶接金属や母材熱影響部の高温割れ,部材の熱変形等が問題となりやすい。このため、ティグ溶接法,プラズマ粉体溶接法,レーザー溶接法等の比較的低入熱の溶接方法が用いられるが、より低入熱で高信頼,低コストの肉盛補修技術の開発が望まれている。
【0006】
このように、ガスタービンの耐熱部材を製造,補修する際にはニッケル基やコバルト基の合金を、溶射や溶接といった高温熱源を利用して堆積させる方法が多く用いられているが、いずれも入熱の大きいことが問題となっている。これを改善する方法として、コールドスプレー法を用いてMCrAlX合金をコーティングする方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0007】
コールドスプレー法は、合金粒子の融点より低い温度に粒子温度を保つことが可能なガス流温度を有する超音速ガス流を用い、粒子を超音速に加速して基材に衝突させ付着させる方法である。このため、基材への入熱が溶射法に比べて非常に低く、基材との距離を溶射法に比べ大幅に短縮することが可能で、一般に粉末の付着効率が高い。
【0008】
例えば、非特許文献1には、純銅,純ニッケルでは約80%という非常に高い付着効率が得られることが示されている。一方で、非特許文献1には、純ニッケルで約80%の付着効率が得られる成膜条件で、MCrAlX合金やニッケル基合金では約20%の付着効率しか得られず、気孔率も増加して膜質も低下することが示されている。
【0009】
コールドスプレー法の成膜原理については未解明の部分も多く、現時点でこの原因を特定することは困難であるが、コールドスプレー法では粒子を高速で基材に衝突させた際の塑性流動が成膜に寄与するため、塑性流動を生じやすい純ニッケルに対し、ニッケル基合金では合金化による固溶強化や析出強化が図られることで塑性流動が生じ難くなり、成膜に必要な粒子速度が上昇したと考えられる。
【0010】
従って、ニッケル基やコバルト基合金を効率良くコールドスプレーするためには、より高い粒子速度が必要となり、コールドスプレーの作動ガスとして最も高速が得られるヘリウムガスを用いることが必要となる。
【0011】
しかし、ヘリウムガスは高価であり、大量の作動ガスを消費するコールドスプレー法ではコストが非常に高くなってしまうという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2004−76157号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】F.Raletz他、「Characterization of cold-sprayed nickel-base coatings」、Proceedings of the International Thermal Spray Conference、2004、pp323−328.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、ニッケル、およびコバルト基の耐熱合金をコールドスプレーによって高効率,低コストで成膜でき、低入熱,低コストの耐熱部材の製造及び補修が可能な耐熱合金皮膜の形成方法と、それに用いる複合粉末を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の耐熱合金皮膜の形成方法は、ニッケル、または、コバルト基の耐熱合金皮膜を金属基体の表面上に形成する方法であって、(a)前記耐熱合金を構成する元素の内から選択された組成を有し、かつ、その総和が前記耐熱合金の組成となるよう選択された、複数種類の金属粉末を選択する工程と、(b)前記複数種類の金属粉末粒子が溶融しない温度に保たれた超音速ガス流を形成し、この超音速ガス流中に前記複数種類の金属粉末を投入し、粉末粒子を基体に超音速で衝突させて、金属基体上に、前記複数種類の金属粉末からなる混合皮膜を形成する工程と、(c)前記複数種類の金属粉末からなる混合皮膜を形成した金属基体に熱処理を施し、混合皮膜を均質化,合金化して、前記耐熱合金の皮膜を得ると共に、金属基体と耐熱合金の皮膜との間で拡散を生じさせて、両者の密着を強固にする工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の耐熱合金皮膜の形成方法によれば、目的の耐熱合金を構成する元素の内から選択された組成を有する、複数の金属粉末を選択する工程で、コールドスプレーにおける成膜の容易な組成の粉末と、その他の合金組成を有する粉末に分離することが可能となる。
【0017】
そして、これらの粉末を同時にコールドスプレーで成膜することで、成膜が容易な粉末が結合材として機能し、成膜が困難な粉末粒子の堆積を支援する。このため、従来の均一な耐熱合金粉末を単独でコールドスプレーにて成膜する場合に比べて成膜が容易となり、高価なヘリウムガスを使用せずに、安価な窒素ガスや空気でも耐熱合金の成膜が可能となるという利点がある。コールドスプレーのままの皮膜は、複数種類の粉末粒子の混合皮膜であるが、これを熱処理によって、均質化,合金化することで、実質的に目的の耐熱合金の皮膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の被覆による耐熱合金複合粉末の断面模式図である。
【図2】本発明の造粒による耐熱合金複合粉末の断面模式図である。
【図3】本発明の方法による耐熱合金堆積物の熱処理前の断面模式図である。
【図4】本発明の方法による耐熱合金堆積物の熱処理後の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0020】
本発明の耐熱合金皮膜の形成方法は、目的の耐熱合金を構成する元素の内から選択された組成を有し、かつ、その総和が目的の耐熱合金の組成となるよう選択された、複数種類の金属粉末を選択する工程と、前記複数種類の金属粉末粒子が溶融しない温度に保たれた超音速ガス流を形成し、このガス流中に前記複数種類の金属粉末を投入し、粉末粒子を基体に超音速で衝突させて、金属基体上に、前記複数種類の金属粉末からなる混合皮膜を形成する、いわゆるコールドスプレーの工程と、前記複数種類の金属粉末からなる混合皮膜を形成した金属基体に熱処理を施し、混合皮膜を均質化,合金化して、実質的に目的の耐熱合金皮膜を得ると共に、金属基体と耐熱合金皮膜との間で拡散を生じさせて、両者の密着を強固にする、熱処理の工程とを有することを最も主要な特徴とする。
【0021】
すなわち、本発明は、ニッケル、または、コバルト基の耐熱合金皮膜を金属基体の表面上に形成する方法であって、
(a)前記耐熱合金を構成する元素の内から選択された組成を有し、かつ、その総和が前記耐熱合金の組成となるよう選択された、複数種類の金属粉末を選択する工程と、
(b)前記複数種類の金属粉末粒子が溶融しない温度に保たれた超音速ガス流を形成し、この超音速ガス流中に前記複数種類の金属粉末を投入し、粉末粒子を基体に超音速で衝突させて、金属基体上に、前記複数種類の金属粉末からなる混合皮膜を形成する工程と、
(c)前記複数種類の金属粉末からなる混合皮膜を形成した金属基体に熱処理を施し、混合皮膜を均質化,合金化して、前記耐熱合金皮膜を得ると共に、金属基体と耐熱合金の皮膜との間で拡散を生じさせて、両者の密着を強固にする工程と、を有する。
【0022】
本発明に用いる、複数種類の金属粉末の少なくとも一つは、純金属のニッケルまたはコバルトであることが好ましい。純金属では、合金に比べ強化機構が作用しないため、比較的コールドスプレーによる成膜が容易な場合が多いためである。ニッケル基またはコバルト基の耐熱合金の場合は、母相であるニッケルまたはコバルトが50%以上を占めることが多く、純金属として純ニッケル、または、純コバルトを選択することが好ましい。これら母相以外の元素を純金属として選択した場合、その含有率が小さいため、ほとんどの合金では堆積物の組成を目的の合金組成となるように、粉末の比率を調整することが困難になる。
【0023】
また、これら金属,合金粉末の平均粒径は30μm以下であることが好ましい。平均粒径が30μmを超えると、コールドスプレーの際に超音速ガス流中における粉末の粒子速度が十分に得られず、成膜が困難になるためである。
【0024】
本発明で、コールドスプレーの際に用いる超音速ガス流を形成するガスには、窒素または空気を用いることができる。ただし、目的の合金組成や成膜条件によっては、窒素ガスまたは空気では十分な粒子速度が得られない場合が生じる場合がある。このような場合は、窒素または空気にヘリウムを必要量加えた混合ガスを用いることも可能である。
【0025】
なお、超音速ガス流を形成するガス温度は300℃〜600℃の範囲が好ましい。この範囲より低い温度では、ガスの膨張によるガス流速度の上昇が不十分となり、成膜に必要な粒子速度が得られない。また、この範囲より高い温度では、粒子温度が上昇することで成膜は容易になるが、600℃を超える高温を実現するためには非常に強力なヒーターを準備するか、ガスの圧力を下げてガス流量を下げなければならず、効率的には不利となる。また、粉末粒子の酸化による、皮膜内への酸化物の混入も生じやすくなる。
【0026】
さらに本発明では、コールドスプレーの際に超音速ガス流中に投入する金属粉末粒子の比率を、金属基体に超音速で衝突させて形成される混合皮膜の組成が所定の合金組成となるように選択することを特徴とする。この比率は、目的とする合金組成、選択した金属粉末組成のみならず、粉末の粒径分布、成膜条件等に依存するため予備成膜試験を行い決定することが好ましい。なお、超音速ガス流中に投入する複数の金属粉末は、混合皮膜中に偏在を生じないように十分に混合して投入することが好ましい。さらに、この目的には、予め、被覆,造粒等の方法によって、複合化された粉末粒子を用いることが最も好ましい。
【0027】
図1に本発明の被覆による耐熱合金複合粉末の断面模式図を示す。これは、合金粉末粒子1の表面に、純金属被覆層2が形成された複合粉末で、純金属被覆層2は、めっき,蒸着等の適当な方法によって形成することが可能である。
【0028】
図2に本発明の造粒による耐熱合金複合粉末の断面模式図を示す。これは、合金粉末粒子1の表面に、純金属粒子2を付着させた形態の複合粉末である。複合化の形態については、ここに示した形態以外の複合粉末を用いることも可能である。
【0029】
図3に本発明の方法に従って形成された、コールドスプレー法による耐熱合金皮膜の熱処理前の断面模式図を示す。耐熱合金基体11上に、コールドスプレー法による皮膜12が形成されている。熱処理前の段階において、皮膜12は純金属粉末粒子13と合金粉末粒子14の混合皮膜であり、比較的、コールドスプレーにおける付着性が良い純金属粉末粒子13がマトリックス(母相)となり、このマトリックス中に合金粉末粒子14が分散した組織を呈する。単独でコールドスプレーした場合には付着性が悪い合金粉末粒子14も、本発明の方法においては、純金属粉末粒子13によるマトリックスが結合材として機能するため付着性が向上する。このようにして得られた皮膜12は、この状態では未だ、純金属13と合金14の混合皮膜であるので、これを熱処理によって均質化,合金化する。
【0030】
この結果、図4に示すように、基体11上に目的の耐熱合金組成を有する皮膜15を形成することができる。この熱処理は、純金属13と合金14間の固相拡散が十分に進行し、均質化,合金化が達成される条件で行う。望ましくは、真空中、1000℃以上の温度で1h以上、熱処理を行うことが好ましい。また、基体耐熱合金の溶体化熱処理,時効熱処理と合わせて行うことも可能である。
【0031】
以下、本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0032】
原料粉末として、平均粒径15μmの、純ニッケル粉末と合金粉末(42%Cr−22%Co−9%Ti−9%Al−7%W−4.5%Mo−4.5%Ta−2.3%Nb−0.3%C−0.1%Zr−0.03%B、重量%)を準備した。これらの粉末を、重量比で純ニッケル粉末7に対し、合金粉末3の割合で配合し、Vミキサーを用いて十分混合した。この混合粉末を、コールドスプレー装置を用い、ニッケル耐熱合金IN738(16%Cr−8.5%Co−3.4%Ti−3.4%Al−2.6%W−1.7%Mo−1.7%Ta−0.9%Nb−0.1%C−0.05%Zr−0.01%B−残部Ni、重量%)製の基体上に成膜した。成膜条件は、作動ガスに窒素ガスを用い、ガス圧力が2MPa、ガス温度が5
00℃、粉末供給量が10g/min、成膜距離が20mmを用いた。堆積層の厚さが約1mm
まで成膜を実施した。
【0033】
コールドスプレーにて堆積層を形成した後、試験片を真空中で、1120℃×2hの熱処理を実施した。熱処理後、堆積層は強固に基体と密着し、緻密な堆積層が得られた。堆積層の成分を分析したところ、ほぼニッケル基耐熱合金IN738と同等の組成が得られた。また、大気中1000℃にて1000hの酸化試験を実施したところ、基体とほぼ同等の耐酸化性を示した。このように、作動ガスに窒素ガスを用いたコールドスプレー法で、実質的にニッケル基耐熱合金IN738に相当する堆積層が得られた。
【実施例2】
【0034】
原料粉末として、平均粒径15μmの、純コバルト粉末と合金粉末(53%Ni−35%Cr−13%Al−0.8%Y、重量%)を準備した。これらの粉末を、重量比で純コバルト粉末4に対し、合金粉末6の割合で配合し、Vミキサーを用いて十分混合した。この混合粉末を、コールドスプレー装置を用い、ニッケル耐熱合金IN738(16%Cr−8.5%Co−3.4%Ti−3.4%Al−2.6%W−1.7%Mo−1.7%Ta−0.9%Nb−0.1%C−0.05%Zr−0.01%B−残部Ni、重量%)製の基体上に成膜した。成膜条件は、作動ガスに窒素ガスを用い、ガス圧力が2MPa、ガス温度が3
00℃、粉末供給量が10g/min、成膜距離が20mmを用いた。堆積層の厚さが0.3mm
まで成膜を実施した。
【0035】
コールドスプレーにて堆積層を形成した後、試験片を真空中で、1120℃×2hの熱処理を実施した。熱処理後、堆積層は強固に基体と密着し、緻密な堆積層が得られた。また、堆積層の成分を分析したところ、ほぼCoNiCrAlY合金(32%Ni−21%Cr−8%Al−0.5%Y―残部Co、重量%)の組成が得られた。また、大気中1000℃にて1000hの酸化試験を実施したところ、HVOF溶射法にて成膜した試験片とほぼ同等の耐酸化性を示した。このように、作動ガスに窒素ガスを用いたコールドスプレー法で、実質的にCoNiCrAlY合金に相当する堆積層が得られた。
【実施例3】
【0036】
原料粉末として、平均粒径15μmの合金粉末(42%Cr−22%Co−9%Ti−9%Al−7%W−4.5%Mo−4.5%Ta−2.3%Nb−0.3%C−0.1%Zr−0.03%B、重量%)に、ニッケル被覆層を厚さ約5μm形成した複合粉末を準備し
た。コールドスプレー装置を用いて、この複合粉末をニッケル耐熱合金IN738(16%Cr−8.5%Co−3.4%Ti−3.4%Al−2.6%W−1.7%Mo−1.7%Ta−0.9%Nb−0.1%C−0.05%Zr−0.01%B−残部Ni、重量%)製の基
体上に成膜した。成膜条件は、作動ガスに窒素ガスを用い、ガス圧力が2.5MPa、ガス温度が400℃、粉末供給量が10g/min、成膜距離が20mmを用いた。皮膜の厚さが約1mmまで成膜を実施した。
【0037】
コールドスプレーにて皮膜を形成した後、試験片を真空中で、1120℃×2hの熱処理を実施した。熱処理後、皮膜は強固に基体と密着し、緻密な皮膜が得られた。皮膜の成分を分析したところ、ほぼニッケル基耐熱合金IN738と同等の組成が得られた。また、大気中1000℃にて1000hの酸化試験を実施したところ、基体とほぼ同等の耐酸化性を示した。このように、作動ガスに窒素ガスを用いたコールドスプレー法で、実質的にニッケル基耐熱合金IN738に相当する皮膜が得られた。
【実施例4】
【0038】
原料粉末として、平均粒径15μmの合金粉末(53%Ni−35%Cr−13%Al−0.8%Y、重量%)の表面に平均粒径3μmのコバルト粉末を、重量比でコバルト粉末4に対し、合金粉末6の割合で、造粒して付着させた複合粉末を準備した。この複合粉末を、コールドスプレー装置を用い、ニッケル耐熱合金IN738(16%Cr−8.5%Co−3.4%Ti−3.4%Al−2.6%W−1.7%Mo−1.7%Ta−0.9%Nb−0.1%C−0.05%Zr−0.01%B−残部Ni、重量%)製の基体上に成膜し
た。成膜条件は、作動ガスに窒素ガスを用い、ガス圧力が3MPa、ガス温度が400℃、粉末供給量が10g/min、成膜距離が20mmを用いた。皮膜の厚さが0.3mmまで成膜
を実施した。
【0039】
コールドスプレーにて皮膜を形成した後、試験片を真空中で、1120℃×2hの熱処理を実施した。熱処理後、皮膜は強固に基体と密着し、緻密な皮膜が得られた。また、皮膜の成分を分析したところ、ほぼCoNiCrAlY合金(32%Ni−21%Cr−8%Al−0.5%Y―残部Co、重量%)の組成が得られた。また、大気中1000℃にて1000hの酸化試験を実施したところ、HVOF溶射法にて成膜した試験片とほぼ同等の耐酸化性を示した。このように、作動ガスに窒素ガスを用いたコールドスプレー法で、実質的にCoNiCrAlY合金に相当する皮膜が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、ガスタービン耐熱部材へのMCrAlX合金のコーティング、あるいは、ニッケル基,コバルト基耐熱合金の肉盛補修に応用可能である。また、これら合金系に限らず、熱処理による合金化が可能な合金系にも適用可能で、ガスタービン以外にも、蒸気タービン,ボイラ,自動車エンジン等の耐熱部材に利用可能である。
【0041】
また、本発明は、コールドスプレー法を用いるため、施工時の入熱が従来の溶射法,溶接法に比べ極めて小さく、作業性,信頼性に優れる。また、粉末の付着効率が高いため、経済性にも優れる。
【符号の説明】
【0042】
1 合金粒子
2 純金属被覆層
3 純金属粒子
11 基体
12 混合皮膜
13 純金属
14 合金
15 耐熱合金皮膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル、または、コバルト基の耐熱合金皮膜を金属基体の表面上に形成する方法であって、
(a)前記耐熱合金を構成する元素の内から選択された組成を有し、かつ、その総和が前記耐熱合金の組成となるよう選択された、複数種類の金属粉末を選択する工程と、
(b)前記複数種類の金属粉末粒子が溶融しない温度に保たれた超音速ガス流を形成し、この超音速ガス流中に前記複数種類の金属粉末を投入し、粉末粒子を基体に超音速で衝突させて、金属基体上に、前記複数種類の金属粉末からなる混合皮膜を形成する工程と、
(c)前記複数種類の金属粉末からなる混合皮膜を形成した金属基体に熱処理を施し、混合皮膜を均質化,合金化して、前記耐熱合金の皮膜を得ると共に、金属基体と耐熱合金の皮膜との間で拡散を生じさせて、両者の密着を強固にする工程と、
を有することを特徴とする耐熱合金皮膜の形成方法。
【請求項2】
前記複数種類の金属粉末粒子の少なくとも一つが、ニッケル、または、コバルトであることを特徴とする請求項1記載の耐熱合金皮膜の形成方法。
【請求項3】
前記金属粉末の平均粒径が30μm以下であることを特徴とする請求項1記載の耐熱合金皮膜の形成方法。
【請求項4】
前記超音速ガス流を形成するガスが窒素または空気であることを特徴とする請求項1記載の耐熱合金皮膜の形成方法。
【請求項5】
前記超音速ガス流を形成するガス温度が300℃〜600℃であることを特徴とする請求項1記載の耐熱合金皮膜の形成方法。
【請求項6】
前記金属粉末粒子を金属基体に超音速で衝突させて形成される堆積物の組成が所定の合金組成となるように、超音速ガス流中に投入する複数の金属粉末の混合比を選択することを特徴とする請求項1記載の耐熱合金皮膜の形成方法。
【請求項7】
前記超音速ガス流中に投入する複数種類の金属粉末が、造粒または被覆によって複合化された複合粉末であることを特徴とする請求項1記載の耐熱合金皮膜の形成方法。
【請求項8】
混合皮膜の組成がニッケル基耐熱合金であることを特徴とする請求項1記載の耐熱合金皮膜の形成方法。
【請求項9】
混合皮膜の組成がコバルト基耐熱合金であることを特徴とする請求項1記載の耐熱合金皮膜の形成方法。
【請求項10】
混合皮膜の組成がMCrAlX合金(Mはニッケル,コバルト,鉄の何れか、及びその組合せであり、XはM,Cr,Al以外の元素)であることを特徴とする請求項1記載の耐熱合金皮膜の形成方法。
【請求項11】
金属粉末粒子が溶融しない温度に保たれた超音速ガス流を形成し、この超音速ガス流中に前記金属粉末粒子を投入し、粉末粒子を基体に超音速で衝突させて、基体表面に堆積させる成膜方法に用いる合金粉末において、
少なくともニッケル,コバルト,クロム,アルミニウムのいずれかを含む合金粉末の表面に、ニッケルまたはコバルトが被覆、あるいは、造粒によって複合化されたことを特徴とする耐熱合金皮膜形成用複合粉末。
【請求項12】
複合粉末の平均粒径が30μm以下であることを特徴とする請求項11記載の耐熱合金皮膜形成用複合粉末。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−132565(P2011−132565A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291701(P2009−291701)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】