説明

耐熱型熱伝導性グリース

【課題】 高温における耐熱性に優れる熱伝導性グリースを提供する。
【解決手段】(A)無機粉末充填剤を80〜97質量%、(B)基油を2〜19質量%、(C)2価以上の金属イオンと有機酸とからなる金属せっけんを0.001質量%〜3質量%、及び(D)アミン系酸化防止剤を0.03質量%〜0.75質量%をそれぞれ含有し、液体成分の含有量に対する(C)成分の含有割合が0.01質量%〜15質量%であることを特徴とする熱伝導性グリース。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い熱伝導率を有する熱伝導性グリースに関し、熱酸化安定性に優れた耐熱型熱伝導性グリースに関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器に使用されている半導体部品の中には、コンピューターのCPU、ペルチェ素子、LED、インバーター等の電源制御用パワー半導体など使用中に発熱をともなう部品がある。
これらの半導体部品を熱から保護し、正常に機能させるためには、発生した熱をヒートスプレッダーやヒートシンク等の放熱部品へ伝導させ放熱する方法がある。熱伝導性グリースは、これら半導体部品と放熱部品を密着させるように両者の間に塗布され、半導体部品の熱を放熱部品に効率よく伝導させるために用いられる。
近年、これら半導体部品を用いる電子機器の性能向上や小型・高密度実装化が急速に進んでおり、半導体の発熱量が増大しているため、このような放熱対策に用いられる熱伝導性グリースには高い熱伝導性が求められるとともにグリース自身の耐熱性も求められている。
【0003】
熱伝導性グリースは、液状炭化水素やシリコーン油やフッ素油等の基油に、酸化亜鉛、酸化アルミニウムなどの金属酸化物や、窒化ホウ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウムなどの無機窒化物や、アルミニウムや銅などの金属粉末等、熱伝導率の高い充填剤が多量に分散されたグリース状組成物である。例えば、増ちょう剤を含有する潤滑油に熱伝導性充填剤を配合したもの(特許文献1等参照。)、炭化水素油やフッ素油に特定の熱伝導性無機充填剤を配合したもの(特許文献2等参照。)、特定のオルガノシランで表面処理された窒化アルミニウムをシリコーン油等の基油に配合したもの(特許文献3等参照。)、特定の表面改質剤を配合したもの(特許文献4、5等参照。)等が開示されている。
【特許文献1】特開平3−106996号公報
【特許文献2】特許第2938428号公報
【特許文献3】特許第2930298号公報
【特許文献4】特開2006−210437号公報
【特許文献5】特開2006− 96973号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
熱伝導性グリースは、コンピューターのCPU等の冷却装置や、ハイブリッド自動車や電気自動車等に搭載される高出力のインバーターに使用されるパワー半導体等の冷却装置における熱接触界面に使用されている。近年、これらのエレクトロニクス機器における半導体素子は、小型化・高性能化に伴い、発熱密度及び発熱量が増大しており、熱伝導性グリースは以前にも増して高温に曝される環境にある。
このような高温の環境で長期に渡り熱伝導性グリースを使用する場合には、熱伝導性グリースの種類によっては大きくちょう度が低下する場合がある。このように、放熱材料として実装使用時にちょう度が大きく低下したり、硬化したりした場合にはクラックやボイドの発生等が起こり、放熱性能が低下する可能性がある。
したがって、半導体ユニットの発熱温度や周囲の環境温度が高温に至る使用状況で長期間に渡り使用されるケースでは、熱伝導性グリースの性能としては、高温下でのちょう度変化率が少ない、耐熱性に優れることが求められている。
本発明の目的は、高温における耐熱性に優れる熱伝導性グリースを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意検討した結果、無機粉末充填剤の分散性を向上するための特定の表面改質剤を特定量配合し、さらに特定の酸化防止剤を特定量配合することで、無機粉末充填剤を高充填して熱伝導率を高めながら高いちょう度を持ち、なおかつ耐熱性を格段に向上させることができることを見出し、本発明の完成に至った。
【0006】
すなわち、本発明は、(A)無機粉末充填剤を80〜97質量%、
(B)基油を2〜19質量%、(C)2価以上の金属イオンと有機酸とからなる金属せっけんを0.001質量%〜3質量%、及び(D)アミン系酸化防止剤を0.03質量%〜0.75質量%をそれぞれ含有し、液体成分の含有量に対する(C)成分の含有割合が0.01質量%〜15質量%であることを特徴とする熱伝導性グリースを提供するものである。
【0007】
また、本発明は、上記熱伝導性グリースにおいて、(C)成分の金属せっけんが亜鉛せっけん、マグネシウムせっけん、アルミニウムせっけんからなる群より選ばれる少なくとも1種である熱伝導性グリースを提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の熱伝導性グリースは、特定の表面改質剤と特定の酸化防止剤を特定量配合する事により格段に優れた耐熱性を実現するものである。本発明の熱伝導性グリースを使用することで、高熱を発する電子部品の放熱性を向上でき、特に高温環境に曝される自動車用パワー半導体やLEDの放熱材料として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に用いられる無機粉末充填剤(A)は、基油より高い熱伝導率を有するものであれば特に限定されないが、金属酸化物、無機窒化物、金属、ケイ素化合物、カーボン材料などの粉末が好適に用いられる。本発明の無機粉末充填剤の種類は1種類であってもよいし、また2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0010】
上記の無機粉末充填剤は、電気絶縁性を求める場合には、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化チタン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、炭化ケイ素、シリカ、ダイヤモンドなどの、半導体やセラミックなどの非導電性物質の粉末が好適に使用でき、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、炭化ケイ素の粉末がより好ましく、酸化亜鉛、酸化アルミニウムの粉末が特に好ましい。これらの無機粉末充填剤をそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。また、電気絶縁性を求めず、より高い熱伝導性を求める場合には、アルミニウム、金、銀、銅などの金属粉末や、グラファイト、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーンなどの炭素材料粉末が好適に使用でき、金属粉末がより好ましく、アルミニウムの粉末が特に好ましい。また、金属粉末や炭素材料粉末を上記の非導電性物質の粉末と組み合わせて用いることもできる。
【0011】
また、上記無機粉末充填剤は、細粒のみを用いる場合は平均粒径0.15〜3μmの無機粉末を用いることが好ましい。平均粒径を0.15μm以上とすることで、無機粉末充填剤の表面を親油化する金属せっけんの量と液体成分の量との割合のバランスがよく、高充填したときにより高いちょう度を得ることができる。一方、平均粒径を3μm以下とすることで、最密充填をしやすくなり、より高い熱伝導率とすることができ、また離油もしづらくなる。また、細粒と粗粒を組み合わせる場合には、上記の細粒と、平均粒径5〜50μmの粗粒の無機粉末を組み合わせることができる。この場合には、粗粒の平均粒径を5μm以上とすることでより高い熱伝導率を得やすくでき、粗粒の平均粒径を50μm以下とすることで塗膜を薄くし、実装時の放熱性能を一層高めることができる。
【0012】
無機粉末充填剤を細粒と粗粒の組み合わせとする場合、粗粒としては、平均粒径の異なる2種類以上の粉末の組み合わせとすることもできる。この場合にも、熱伝導率と実装時の放熱性能の観点から、それぞれの粗粒の平均粒径は5〜50μmであることが好ましい。
【0013】
また、細粒と粗粒の無機粉末充填剤を組み合わせる場合の質量比は、20:80〜85:15の範囲で混合するのが好ましい。粗粒を2種類以上組み合わせる場合には粗粒同士の質量比は特に限定されないが、この場合にも細粒の質量比を無機粉末充填剤のうち20%〜85%の範囲にするのが好ましい。細粒と粗粒の配合比を上記範囲とすることで、無機粉末充填剤の表面を親油化する金属せっけんの量と液体成分の量とのバランスから、高いちょう度を得ることができる。また、粗粒と細粒のバランスが最密充填に適しており、離油もしづらくなる。
【0014】
無機粉末充填剤の含有率は80〜97質量%であるが、含有率が高いほど熱伝導性に優れ、好ましくは85〜96質量%である。80質量%未満では熱伝導性が低くなったり、離油しやすくなることがある。一方、97質量%を越えるとちょう度が低くなり十分な塗布性を保てなくなるか、熱伝導性グリースが調製できなくなる。
【0015】
基油(B)としては、種々の基油が使用でき、例えば、鉱油、合成炭化水素油などの炭化水素系基油、エステル系基油、エーテル系基油、リン酸エステル、シリコーン油及びフッ素油などが挙げられ、炭化水素系基油、エステル系基油、エーテル基油が好ましい。基油の分離を防止する点においては、表面張力の低いシリコーン油及びフッ素油は、あまり好ましくない。基油は1種単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用しても良い。
鉱油としては、例えば、鉱油系潤滑油留分を溶剤抽出、溶剤脱ロウ、水素化精製、水素化分解、ワックス異性化などの精製手法を適宜組み合わせて精製したもので、150ニュートラル油、500ニュートラル油、ブライトストック、高粘度指数基油などが挙げられる。鉱油は、高度に水素化精製された高粘度指数基油が好ましい。
合成炭化水素油としては、例えば、エチレンやプロピレン、ブテン、及びこれらの誘導体などを原料として製造されたアルファオレフィンを、単独または2種以上混合して重合したものが挙げられる。アルファオレフィンとしては、炭素数6〜14のものが好ましく挙げられる。
具体的には、1−デセンや1−ドデセンのオリゴマーであるポリアルファオレフィン(PAO)や、1−ブテンやイソブチレンのオリゴマーであるポリブテン、エチレンやプロピレンとアルファオレフィンのコオリゴマー等が挙げられる。また、アルキルベンゼンやアルキルナフタレン等を用いることもできる。
【0016】
エステル系基油としては、ジエステルやポリオールエステルが挙げられる。
ジエステルとしては、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の二塩基酸のエステルが挙げられる。二塩基酸としては、炭素数4〜36の脂肪族二塩基酸が好ましい。エステル部を構成するアルコール残基は、炭素数4〜26の一価アルコール残基が好ましい。
ポリオールエステルとしては、β位の炭素上に水素原子が存在していないネオペンチルポリオールのエステルで、具体的にはネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等のカルボン酸エステルが挙げられる。エステル部を構成するカルボン酸残基は、炭素数4〜26のモノカルボン酸残基が好ましい。
また、上記以外にも、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、2−ブチル−2−エチルプロパンジオール、2,4−ジエチル−ペンタンジオール等の脂肪族二価アルコールと、直鎖または分岐鎖の飽和脂肪酸とのエステルも用いることができる。直鎖または分岐鎖の飽和脂肪酸としては、炭素数4〜30の一価の直鎖または分岐鎖の飽和脂肪酸が好ましい。
【0017】
エーテル系基油としては、ポリグリコールや(ポリ)フェニルエーテルなどが挙げられる。
ポリグリコールとしては、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコール、及びこれらの誘導体などが挙げられる。
(ポリ)フェニルエーテルとしては、アルキル化ジフェニルエーテルや、モノアルキル化テトラフェニルエーテル、ジアルキル化テトラフェニルエーテル、ペンタフェニルエーテルなどが挙げられる。
【0018】
リン酸エステルとしては、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート等が挙げられる。
【0019】
熱伝導性グリースは発熱部に塗布されるため、長時間高温にさらされる。このため、基油としては熱酸化安定性に優れることが望ましい。上記基油の中では、合成系基油が好ましく、合成炭化水素油、エステル系基油、エーテル系基油が好ましい。これらの基油のうち、特に熱酸化安定性に優れるものとして、合成炭化水素油では、ポリαオレフィン、エステル系基油では、ポリオールエステル、エーテル系基油では(ポリ)フェニルエーテルが好ましい基油として用いられる。さらにこれらの基油のうち、比較的粘度指数が高く、グリースを調製したときにちょう度が高く塗布性に優れるグリースが調製できるポリαオレフィンやポリオールエステルが好ましい基油として用いられる。また、特に優れた塗布性を求めない場合は粘度の高い(ポリ)フェニルエーテルを用いることもできる。
【0020】
基油の動粘度は、40℃で10mm/s〜600mm/sであることが好ましい。40℃における動粘度を10mm/s以上とすることで、高温下での基油の蒸発や離油などが抑制される傾向にあるため好ましい。また、40℃における動粘度を600mm/s以下とすることで高いちょう度を得やすくなるため好ましい。
【0021】
基油の含有量としては2〜19質量%であり、2.5〜15質量%が好ましく、3〜10質量%が特に好ましい。含有量が19質量%を超える場合には、ちょう度が高くなりすぎ、高温環境に置かれた場合に熱伝導性グリースが流れ出てしまう場合がある。さらに離油を生じたり、熱伝導性が低下する場合がある。
【0022】
本発明に用いられる金属せっけん(C)は、無機粉末充填剤の表面に吸着し、基油との親和性を向上させる表面改質剤としての働きを持ち、従来用いられている表面改質剤に比べて耐熱性が非常に高いため、金属せっけん(C)を表面改質剤として用いることで熱伝導性グリースの耐熱性を格段に向上させることができる。
【0023】
本発明に用いられる金属せっけん(C)は、2価以上の金属イオンと有機酸とからなる金属せっけんである。金属せっけん(C)の具体例としては、例えば、単一金属せっけんとしてはカルシウムせっけん、マグネシウムせっけん、アルミニウムせっけん、亜鉛せっけんなどが挙げられ、マグネシウムせっけん、アルミニウムせっけん、亜鉛せっけんが好ましく、亜鉛せっけんが特に好ましい。また、コンプレックス型金属せっけんとしては、カルシウムコンプレックスせっけん、バリウムコンプレックスせっけん、アルミニウムコンプレックスせっけんなどが挙げられる。これらの金属せっけんのうち、ケン化反応を用いることなく、プレソープの混合法によるグリースへの添加が可能な単一金属せっけんが好ましい。また金属せっけんの有機酸の部分は直鎖またはヒドロキシ基を有する脂肪酸が好ましく、直鎖の飽和脂肪酸がより好ましい。この場合、脂肪酸の炭素数は12〜28が好ましく、より耐熱性を向上させる場合には14〜24が特に好ましい。このような脂肪酸金属せっけんとしてはステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウム、ラウリン酸亜鉛などが挙げられ、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウムが特に好ましい。
【0024】
本発明に用いられる金属せっけん(C)は、0.001質量%〜3質量%含有するが、好ましくは0.005質量%〜2質量%であり、特に好ましくは0.01質量%〜1質量%である。含有量が0.001質量%より少ない場合、無機粉末充填剤の表面を親油化するのに不充分な含有量であるため高いちょう度が得られず、充填率を高くすることが難しい傾向にあり、また高温高湿度の環境に置かれた場合にはちょう度低下が起こったり、凝集して硬化しやすくなる傾向にある。また、含有量が3質量%より多い場合には、金属せっけんが基油中で増ちょう剤としての働きを持つため、グリースが硬くなるか、無機粉末充填剤の充填率を高めた場合にはグリース化できなくなる傾向にある。
【0025】
また、金属せっけん(C)の含有量は、液体成分の含有量に対して0.01質量%〜15質量%の割合であり、0.05質量%〜12質量%がより好ましい。金属せっけん(C)の液体成分に対する含有量が0.01質量%より少ないと、液体成分に対して無機粉末充填剤(A)の含有量が少ない場合は、離油を生じやすいため好ましくなく、また液体成分に対して無機粉末充填剤(A)の含有量が多い場合は表面改質効果が乏しくなりちょう度が低くなるかグリースが調製できなくなるため好ましくない。また、金属せっけん(C)の液体成分に対する含有量が15質量%を超えると、液体成分に対して無機粉末充填剤(A)の含有量が少ない場合は、液体成分が多い割にちょう度を高めることができなくなり好ましくなく、また液体成分に対して無機粉末充填剤(A)の含有量が多い場合はちょう度が低くなるかグリースが調製できなくなるため好ましくない。
金属せっけん(C)が亜鉛せっけんである場合、(C)の液体成分に対する含有量は、0.08〜5質量%が好ましく、0.3〜2.5質量%であることがさらに好ましい。
【0026】
本発明に用いられるアミン系酸化防止剤(D)としては、フェニル−α−ナフチルアミン、フェニル−β−ナフチルアミン等のナフチルアミン類、p,p’−ジアルキルジフェニルアミン等の(アルキル化)ジフェニルアミン類、ジフェニル-p-フェニレンジアミン、ジピリジルアミン類、フェノチアジン類等が好適に用いられる。これらのうち油溶性が高くスラッジを生成しにくいナフチルアミン類とアルキル化ジフェニルアミン類が好ましく、アルキル化ジフェニルアミン類が特に好ましい。
ナフチルアミン類は、アルキル基を有しなくてもよいし、アルキル基を有してもよい。ナフチルアミン類がアルキル基を有する場合は、フェニル基にアルキル基を有するものが好ましい。この場合、アルキル基の炭素数は、4〜20が好ましく、6〜18がより好ましい。
アルキル化ジフェニルアミン類は、モノアルキル化ジフェニルアミン類、ジアルキル化ジフェニルアミン類、トリアルキル化ジフェニルアミン類、テトラアルキル化ジフェニルアミン類などが挙げられるが、ジアルキル化ジフェニルアミン類が好ましい。
また、アルキル化ジフェニルアミン類におけるアルキル基は、炭素数1〜20のアルキル基が好ましく、炭素数3〜14のアルキル基がより好ましく、炭素数4〜12のアルキル基が特に好ましい。
アミン系酸化防止剤は高温におけるラジカル連鎖反応を防止する効果を有し、それ自身の昇華性が低いため、他の酸化防止剤を使用した場合に比較して耐熱性を向上する効果がある。
これらのアミン系酸化防止剤は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせても良い。アミン系酸化防止剤の含有量は0.03〜0.75質量%であり、0.1〜0.5質量%が好ましい。アミン系酸化防止剤の含有量が0.03質量%未満では効果が小さく、0.75質量%より大きくても効果の向上は期待できないばかりか、長期間高温に曝された場合には酸化防止剤自身の劣化物の影響によりグリースが硬くなる傾向にある。
【0027】
また、本発明の熱伝導性グリースには必要に応じて、公知の添加剤を適宜配合することができる。これらとしては、例えば、2次酸化防止剤としてはサルファイド、ジサルファイド、トリサルファイド、チオビスフェノールなどのイオウ系酸化防止剤や、アルキルフォスファイト、ZnDTPなどのリン系酸化防止剤等、さび止め剤としてはスルホン酸塩、カルボン酸、カルボン酸塩、コハク酸エステル等、腐食防止剤としてはベンゾトリアゾールおよびその誘導体等の化合物、チアジアゾール系化合物が、増粘剤としてはポリブテン、ポリメタクリレート、オレフィンコポリマー、高粘度のポリアルファオレフィン等、増ちょう剤としてはウレア化合物、ナトリウムテレフタラメート、ポリテトラフルオロエチレン、有機化ベントナイト、シリカゲル、石油ワックス、ポリエチレンワックス等が挙げられる。これらの添加剤の配合量は、通常の配合量であればよい。
【0028】
本発明の熱伝導性グリースの製造に関しては、金属せっけんの種類によって2通りの方法がある。金属せっけんを粉末状のプレソープとして用いる場合には、粉末状の金属せっけんを融解させ、無機粉末充填剤の表面に吸着して親油化処理するのに十分な熱を加えながら、(A)〜(D)の全ての成分を均一に混合してグリースを製造する。このような方法として、乳鉢、プラネタリーミキサーなどにより加熱しながら混練りを行い、グリース状にした後、さらに三本ロールにて均一に混練りする方法がある。また金属せっけんは基油中でのケン化反応により合成する事もでき、この場合には金属せっけんが基油中に分散したグリースをまず調製し、その後、無機粉末充填剤(A)とともに乳鉢、プラネタリーミキサーなどにより加熱しながら混練りを行い、さらに三本ロールにて均一に混練りする方法がある。
【実施例】
【0029】
以下、実施例及び比較例により本発明を詳述するが、本発明はこれによって何等限定されるものではない。
実施例及び比較例に用いた充填剤、基油、表面改質剤、酸化防止剤について以下に示す。
【0030】
無機粉末充填剤
酸化亜鉛1: 平均粒径 0.6μm
酸化亜鉛2: 平均粒径 11μm
【0031】
基油
PAO:ポリ−α−オレフィン(1−デセン−オリゴマー)、40℃動粘度が47mm/sのもの。
POE:ペンタエリスリトールC8,C10エステル、40℃動粘度が32mm/sのもの。
【0032】
表面改質剤
ステアリン酸亜鉛(金属せっけん、室温で固体)
ステアリン酸マグネシウム(金属せっけん、室温で固体)
ステアリン酸アルミニウム(金属せっけん、室温で固体)
ステアリン酸リチウム(アルカリ金属せっけん、室温で固体)
【0033】
酸化防止剤
アミン系酸化防止剤:ジオクチルジフェニルアミン、室温で液体
フェノール系酸化防止剤:2−tert−ブチル−6−(3−tert−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、室温で固体
【0034】
(実施例1〜11)
下記表1及び2に実施例1〜11の組成と熱伝導性グリースの性能・性状を示す。表1の組成の成分を配合して、熱伝導性グリースを以下の方法で調整した。なお、表1及び表2における無機粉末充填材のカッコ内の数値は、平均粒径である。
基油に酸化防止剤等の油溶性添加剤を溶解し、無機粉末充填剤、金属せっけんとともにプラネタリーミキサーまたは自動乳鉢に入れた。120℃〜150℃程度に加熱しながら30分混練りを行いよく混合し、グリース状とした。その後、三本ロールによる混練りを1〜2回実施して熱伝導性グリースを調製した。
【0035】
得られた熱伝導性グリースを用いて、以下に示す性能を評価した。不混和ちょう度は、JIS−K2220に準拠して1/4不混和ちょう度を測定した。ちょう度の値が大きいほど熱伝導性グリースが軟らかくなり、逆に小さいほど硬くなる。熱伝導率は、京都電子工業(株)製迅速熱伝導率計QTM−500により室温にて測定した。高温放置試験は、熱伝導性グリース0.25mlを鉄板に挟み、厚さ200μmに薄膜化し、180℃で240時間加熱し、試験前後のちょう度を簡易的に測定した。ここで、高温放置試験におけるちょう度変化率は以下の式により算出した。
【0036】
【数1】

【0037】
ちょう度変化率の絶対値が小さい程、耐熱性が優れている。ちょう度変化率の絶対値が20以下であると、耐熱性が優れているといえ、ちょう度変化率の絶対値が15以下であると、耐熱性がさらに優れているといえ、ちょう度変化率の絶対値が10以下であると、耐熱性が特に優れているといえ、ちょう度変化率の絶対値が5以下であると、耐熱性が最も優れているといえる。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
(比較例1〜5)
下記表3に比較例1〜5の組成と熱伝導性グリースの性能・性状を示す。表3の組成の成分を、実施例と同様の方法で配合して熱伝導性グリースを調整し、実施例と同様の方法で1/4不混和ちょう度と熱伝導率の測定及び高温放置試験を実施した。
【0041】
【表3】

【0042】
表1から分かるように、脂肪酸の亜鉛せっけんであるステアリン酸亜鉛を0.001質量%〜3質量%の割合で配合し、アミン系酸化防止剤を0.03質量%〜0.75質量%の割合で配合し、さらに液体成分に対する(C)成分の割合を0.05質量%〜15質量%にした実施例1〜9は、3.0W/m・K以上の高い熱伝導率と200以上の高いちょう度を持ちながら、180℃×240時間の高温放置試験後もちょう度変化が非常に少なく、耐熱性が格段に優れていることがわかる。
【0043】
また、表2から分かるように、ステアリン酸亜鉛に替えてステアリン酸マグネシウムまたはステアリン酸アルミニウムを0.001質量%〜3質量%の割合で配合し、アミン系酸化防止剤を0.03質量%〜0.75質量%の割合で配合し、さらに液体成分に対する(C)成分の割合を0.05質量%〜15質量%にした実施例10及び11も、3.0W/m・K以上の高い熱伝導率と200以上の高いちょう度を持ち、180℃×240時間の高温放置試験後もちょう度変化が少なく、耐熱性が格段に優れていることがわかる。
【0044】
一方、表3から分かるように、ステアリン酸亜鉛を0.001質量%〜3質量%の割合で配合し、液体成分に対する(C)成分の割合が15質量%を超えている比較例1はグリース化することができなかった。また、金属せっけんに替えてアルカリ金属のせっけんであるステアリン酸リチウムを0.001質量%〜3質量%の割合で配合し、液体成分に対する(C)成分の割合を0.05質量%〜15質量%にした比較例2及び3は、高い熱伝導率とちょう度を持っているものの、高温放置試験後のちょう度低下率が大きいか、硬化してしまいちょう度が測定できなかった。
【0045】
また、ステアリン酸亜鉛を0.001質量%〜3質量%の割合で配合し、酸化防止剤を一切配合しない比較例4は、高温放置試験後にはやはり硬化してしまった。さらに、ステアリン酸亜鉛を0.001質量%〜3質量%の割合で配合し、酸化防止剤をフェノール系酸化防止剤に変えた比較例5も、高温放置試験後に硬化してしまった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の耐熱型熱伝導性グリースは、熱対策の必要な電子部品の放熱性を向上でき、特にCPU、パワー半導体、LEDの放熱材料として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)無機粉末充填剤を80〜97質量%、
(B)基油を2〜19質量%、
(C)2価以上の金属イオンと有機酸とからなる金属せっけんを0.001質量%〜3質量%、及び
(D)アミン系酸化防止剤を0.03質量%〜0.75質量%
をそれぞれ含有し、液体成分の含有量に対する(C)成分の含有割合が0.01質量%〜15質量%であることを特徴とする熱伝導性グリース。
【請求項2】
(C)成分の金属せっけんが亜鉛せっけん、マグネシウムせっけん、アルミニウムせっけんからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の熱伝導性グリース。

【公開番号】特開2009−46639(P2009−46639A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−216288(P2007−216288)
【出願日】平成19年8月22日(2007.8.22)
【出願人】(398053147)コスモ石油ルブリカンツ株式会社 (123)
【Fターム(参考)】