説明

耐熱変色性防錆処理アルミニウム系めっき鋼材、及びその表面処理液

【課題】クロメートやふっ素化合物などの環境負荷物質、生体負荷物質を含まず、かつクロメート皮膜レベルの優れた防錆性、耐熱変色性、加熱後の防錆性を有する耐熱変色性防錆皮膜で表面処理した、金属外観表面を有するアルミニウム系めっき鋼材、及び、そのような皮膜をアルミニウム系めっき鋼材表面に形成できる水性表面処理液を提供する。
【解決手段】(A)ジルコニル基(>Zr=O、−Zr−O−またはジルコニルイオンZrO2+)の1種または2種以上と(B)硫酸イオン、亜硫酸イオン、二亜硫酸イオン、よう素酸イオン、よう化物イオンまたは臭素酸イオンの1種または2種以上を構成主成分とし、(A)と(B)の質量比A:Bが60:40〜99:1で、かつ、付着量が0.05〜2g/m2 の範囲である耐熱変色性防錆皮膜で被覆されたアルミニウム系めっき鋼材、及び、そのようなめっき鋼材を得るための水性表面処理液である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロメートやふっ素化合物などの環境負荷物質を含まず、かつ、加熱使用した際に金属外観表面の変色をもたらす可能性がある有機化合物やバナジウム化合物なども含まない、低環境負荷性の耐熱変色性防錆薄膜で表面を被覆した、金属外観表面を有するアルミニウム系めっき鋼材、及び、これらの耐熱変色性防錆薄膜被覆処理に用いる水性処理液に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、トースター、オーブントースター、炊飯器などの熱が加わる環境で使用される調理家電製品にはアルミニウム系めっき鋼材が広く用いられてきたが、これは、アルミニウム系めっき鋼材が美麗な金属外観を有し、かつ、優れた耐熱性を有し加熱しても色調が変化しないためである。また、これらのアルミニウム系めっき鋼材には、仕掛かり錆の発生防止や、使用時の耐食性確保の目的で、その表面の金属外観を損なわない範囲でクロメート処理が施されているのが一般的であった。ところが、近年の環境規制強化でクロメートの使用が制限され、クロメートフリーの新たな耐熱変色性防錆皮膜の開発が強く要望され、多くの取組みがなされてきた。
【0003】
アルミニウム系めっき鋼材の耐食性を改良するため、無機系、有機系、又は両者を組み合せた防錆皮膜が試されてきたが、300℃程度の高温環境下でも長時間使用できる皮膜は、耐熱性の観点から、無機系皮膜、または耐熱有機成分からなる皮膜である。これらのうち、耐熱有機成分(例えば、芳香族系耐熱樹脂やシリコーン樹脂等)を含む皮膜は、皮膜形成材料となる処理液(塗料)や貼付用樹脂フィルムなどが高価であったり、高温または長時間加熱しないとめっき面への成膜(処理液の乾燥、焼付けやフィルム融着など)が不十分であるものが殆どであり、製造コストなどの観点から、アルミニウム系めっき鋼材の金属外観を活かす薄膜化成処理用途には用いられていない。耐熱有機成分を含む皮膜は、寧ろ、アルミニウム系めっき鋼材に金属光沢以外の外観や意匠性を施すための耐熱塗装皮膜(耐熱プレコート鋼板の被覆皮膜など)として用いられることが多い。例えば、Al−Si合金めっき鋼板上に金属酸化物を主成分とする化成処理皮膜を設け、更にその上に無機系鱗片状粉末を含むシリコーン樹脂皮膜を設けた耐熱プレコート鋼板が開示されている(特許文献1参照)。
【0004】
アルミニウム系めっき鋼材に以前から工業的に活用されている無機系クロメートフリー防錆皮膜の代表例は、めっき面をエッチングするためのふっ素化合物を含むりん酸亜鉛処理皮膜やりん酸ジルコニウム系皮膜などである(非特許文献1及び2参照)。また、Ti系の無機系皮膜技術として、例えば、アルミニウム含有金属材料に耐食性のTi含有皮膜を形成するための、りん酸イオン、Ti化合物とふっ素化合物を含む表面処理液(特許文献2参照)、金属素地に耐熱耐食皮膜を形成するための、けい酸カリウムと微細な酸化チタンを含む水性組成物(特許文献3参照)、TiとVの複合化合物を含む耐食性化成処理皮膜を表面に持つアルミニウム系めっき鋼板(特許文献4参照)などが提案されている。また、Zn、Zr、Ti系以外の皮膜技術としては、例えば、クロメートの自己修復作用を代替するために、4価と6価のMoが共存する皮膜を形成した耐食性の表面処理金属材(特許文献5参照)なども提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-52000号公報
【特許文献2】特開平9−20984号公報
【特許文献3】特開2007−16112号公報
【特許文献4】特開2003−213458号公報
【特許文献5】特開平6−146003号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】宮本智志、日本接着学会誌、36(7)、38(2000)
【非特許文献2】表面処理技術ハンドブック(初版)、p.212、(株)エヌ・ティー・エス(2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記特許文献1の皮膜では、耐熱性、耐食性は十分であるが、皮膜が不透明で、かつ処理液コストや製造コストが高く、アルミニウム系めっき鋼材の金属外観を活かす被覆用途としては実用性がない。そのため、本発明の用途に用いることができる耐熱皮膜は、工業的には、処理液コストや製造コストが有機系より遥かに安価な無機系皮膜に限定される。
【0008】
そこで、前項で述べたこれまでの無機系皮膜技術について考察する。前記非特許文献1及び2のりん酸亜鉛処理皮膜やりん酸ジルコニウム系皮膜は、アルミニウム系めっき鋼材に古くから用いられている代表的な無機系クロメートフリー皮膜であるが、りん酸塩系皮膜は結晶性でポ−ラスなため腐食因子に対するバリア性に劣り、防錆力はクロメート皮膜のそれに全く及ばない。また、これらの皮膜を形成するための処理液が環境負荷を伴うふっ素化合物を含むため、使用済の残液処理コストが高く、クロメート皮膜の代替として本発明の用途に用いることは困難だった。前記特許文献2の処理液もふっ素化合物を含むため、非特許文献1及び2の場合と同様に、本発明の目的には活用困難である。
【0009】
また、前記特許文献3の水性組成物で成膜しても、皮膜中に耐水性が不十分なけい酸カリウムを含み、かつ、有効な防錆成分を含まないため、クロメート皮膜に比べ防錆性に劣っていた。前記特許文献4、及び5の表面処理皮膜には、V化合物、Mo化合物がそれぞれ含まれ、加熱によりこれらの化合物が変色するため、加熱環境下で使用される本発明の用途には適さない。
【0010】
以上、アルミニウム系めっき鋼材表面の耐熱性防錆皮膜について、これまでに提案されている種々の技術の特徴を説明したが、皮膜を形成するための処理液が低環境負荷性で、かつ、クロメート皮膜並みの優れた防錆性と耐熱変色性を持ち、アルミニウム系めっき鋼材の美麗な金属外観を長期間活かせる皮膜は得られていない。しかるに、トースター、オーブントースター、炊飯器などの熱が加わる環境で繰返し使用される調理家電製品へのアルミニウム系めっき鋼材の使用が増えるに伴い、アルミニウム系めっき鋼材の美麗な金属外観を長期間活かすため防錆性と耐熱変色性に優れ、かつ、塗工後に残る処理液を処分する際の環境負荷が小さい皮膜がほしいとの要望が強まってきた。本発明は、このような従来の無機系耐熱防錆皮膜の問題点を解決するためになされたものであり、表面処理液にクロメートやふっ素化合物などの環境負荷物質を含まず、かつ、加熱使用した際に金属外観表面の変色をもたらす可能性がある有機化合物やバナジウム化合物なども含まない、低環境負荷性の耐熱変色性防錆皮膜で表面を被覆したアルミニウム系めっき鋼材、及び、これらの耐熱変色性防錆皮膜形成に用いる水性処理液を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決するために種々の検討を行った結果、ジルコニル基と、硫酸イオン、亜硫酸イオン、二亜硫酸イオン、よう素酸イオン、よう化物イオンまたは臭素酸イオンからなる無機系皮膜をアルミニウム系めっき面に形成すれば、耐熱変色性、防錆性の両方に優れるアルミニウム系めっき鋼材が得られ、更に、このような皮膜を形成するための水性表面処理液は、アルミニウム系めっき面への高い反応性と密着性を持つ無機ジルコニル塩と、アルミニウム系めっきの防錆性に優れる硫酸イオン、亜硫酸イオン、二亜硫酸イオン、よう素酸イオン、よう化物イオンまたは臭素酸イオンを含む特定の無機化合物とを含んで入ればよく、環境負荷の高いふっ素化合物などを添加しなくても十分に目的を達成できることを見出した。
【0012】
本発明は、以上のような知見を基にして完成されたものであり、具体的には、以下の通りである。
(1) (A)ジルコニル基(>Zr=O、−Zr−O−またはジルコニルイオンZrO2+)の1種または2種以上と(B)硫酸イオン(SO2−)、亜硫酸イオン(SO2−)、二亜硫酸イオン(S2−)、よう素酸イオン(IO)、よう化物イオン(I)または臭素酸イオン(BrO)の1種または2種以上を構成主成分とし、(A)と(B)の質量比A:Bが60:40〜99:1で、かつ、付着量が0.05〜2g/m2 の範囲である耐熱変色性防錆皮膜で被覆されたアルミニウム系めっき鋼材。
(2) 前記皮膜中に更に、(C)オルトりん酸イオン(PO3−)、亜りん酸イオン(PHO2−)、次亜りん酸イオン(PH)、ポリりん酸イオン(オルトりん酸の直鎖状重合体Hx+23x+1(xは2〜6の整数)から全てのHイオンを除いたP3x+1(x+2)−)またはメタりん酸イオン(オルトりん酸の環状重合体(HPO)(yは3〜6の整数)から全てのHイオンを除いた(PO)y−)から選ばれる1種または2種以上を含み、前記(A)と(C)の質量比A:Cが60:40〜99:1である前記(1)記載の耐熱変色性防錆皮膜で被覆されたアルミニウム系めっき鋼材。
(3) 前記皮膜中で、前記(B)成分を含む化合物が、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム、遷移金属またはNHの硫酸塩、硫酸水素塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、二亜硫酸塩、二亜硫酸水素塩、よう素酸塩、よう化物、臭素酸塩またはこれらの複塩から選ばれる1種または2種以上である前記(1)または(2)記載の耐熱変色性防錆皮膜で被覆されたアルミニウム系めっき鋼材。
(4) 前記皮膜中で、前記(B)成分を含む化合物が、Li、Na、K、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Y3+、La3+、Ce3+、Ce4+、Pr3+、Nd3+、Ti4+、Zr4+、Mo6+、W6+、Mn2+、Fe2+、Fe3+、Co2+、Ni2+、Cu2+、Ag、Zn2+、Al3+、NHの硫酸塩、硫酸水素塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、二亜硫酸塩、二亜硫酸水素塩、よう素酸塩、よう化物、臭素酸塩またはこれらの複塩から選ばれる1種または2種以上である前記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の耐熱変色性防錆皮膜で被覆されたアルミニウム系めっき鋼材。
(5) 前記皮膜中で、前記(B)成分を含む化合物が、Na、K、Mg2+、Ca2+、Mn2+、Fe2+、Fe3+、Cu2+、Zn2+、Al3+、NHの硫酸塩、硫酸水素塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、二亜硫酸塩、二亜硫酸水素塩、よう素酸塩、よう化物、臭素酸塩またはこれらの複塩から選ばれる1種または2種以上である前記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の耐熱変色性防錆皮膜で被覆されたアルミニウム系めっき鋼材。
(6) 前記皮膜中で、前記(B)成分を含む化合物が、硫酸ナトリウム(NaSO)、硫酸カリウム(KSO)、硫酸アルミニウム(Al(SO))、硫酸アンモニウム((NH)SO)、硫酸ナトリウムアルミニウム(AlNa(SO);NaとAl3+の硫酸塩の複塩)、硫酸カリウムアルミニウム(AlK(SO);KとAl3+の硫酸塩の複塩)、硫酸アンモニウムアルミニウム(Al(NH)(SO);NHとAl3+の硫酸塩の複塩)、硫酸亜鉛(ZnSO)、硫酸カルシウム(CaSO)、硫酸銅(CuSO)、硫酸第一鉄(FeSO)、硫酸第二鉄(Fe(SO))、硫酸マグネシウム(MgSO)、硫酸マンガン(MnSO)、亜硫酸ナトリウム(NaSO)、亜硫酸水素ナトリウム(NaHSO)、亜硫酸水素カリウム(KHSO)、二亜硫酸ナトリウム(Na)、二亜硫酸カリウム(K)、よう素酸カリウム(KIO)、よう素酸カルシウム(Ca(IO))、よう化カリウム(KI)、よう化銅(I)(CuI)、臭素酸カリウム(KBrO)から選ばれる1種または2種以上である前記(1)〜(5)のいずれか一つに記載の耐熱変色性防錆皮膜で被覆されたアルミニウム系めっき鋼材。
(7) 前記皮膜中で、前記(C)成分を含む化合物が、りん酸二水素カルシウム(Ca(HPO)、りん酸水素カルシウム(CaHPO)、りん酸三カルシウム(Ca(PO))、りん酸二水素ナトリウム(NaHPO)、りん酸水素二ナトリウム(NaHPO)、りん酸三ナトリウム(NaPO)、りん酸ナトリウムアルミニウム(NaAl14(PO))、りん酸水素二カリウム(KHPO)、りん酸二水素アンモニウム(NHPO)、りん酸水素二アンモニウム((NH)HPO)、りん酸第一鉄(FePO)、りん酸水素マグネシウム(MgHPO)、りん酸三マグネシウム(Mg(PO))、次亜りん酸ナトリウム(NaPH)から選ばれる1種または2種以上である前記(2)〜(6)のいずれか一つに記載の耐熱変色性防錆皮膜で被覆されたアルミニウム系めっき鋼材。
(8) (a)ジルコニル基(>Zr=O、−Zr−O−またはジルコニルイオンZrO2+)のZrに炭素数が0〜4個の配位子が配位したジルコニル化合物から選ばれる1種または2種以上と、(b)硫酸イオン(SO2−)、亜硫酸イオン(SO2−)、二亜硫酸イオン(S2−)、よう素酸イオン(IO)、よう化物イオン(I)または臭素酸イオン(BrO)を分子中に有するS、IまたはBr含有無機塩から選ばれる1種または2種以上を不揮発分の主成分とする水性表面処理液であって、前記処理液に含まれる不揮発分質量のうち、前記(a)と前記(b)の質量比a:bが60:40〜99:1であることを特徴とする水性表面処理液。
(9) 前記処理液中に更に、(c)オルトりん酸イオン(PO3−)、亜りん酸イオン(PHO2−)、次亜りん酸イオン(PH)、ポリりん酸イオン(オルトりん酸の直鎖状重合体Hx+23x+1(xは2〜6の整数)から全てのHイオンを除いたP3x+1(x+2)−)またはメタりん酸イオン(オルトりん酸の環状重合体(HPO)(yは3〜6の整数)から全てのHイオンを除いた(PO)y−)を分子中に有するP含有無機塩から選ばれる1種または2種以上を含み、前記(a)と前記(c)の質量比a:cが60:40〜99:1であることを特徴とする前記(8)記載の水性表面処理液。
(10) 前記(a)が、炭酸ジルコニウムアンモニウム((NH)ZrO(CO))、炭酸ジルコニウムナトリウム(NaZrO(CO))、炭酸ジルコニウムカリウム(KZrO(CO))、炭酸ジルコニル(ZrOCO)、硫酸ジルコニル(ZrOSO)、硝酸ジルコニル(ZrO(NO))、りん酸二水素ジルコニル(ZrO(HPO))、塩化ジルコニル(ZrOCl)、塩基性塩化ジルコニル(ZrO(OH)Cl)、水酸化ジルコニウム(ZrO(OH))、蟻酸ジルコニル(ZrO(HCOO))、酢酸ジルコニル(ZrO(CHCOO))、プロピオン酸ジルコニル(ZrO(CCOO))、n-酪酸ジルコニル(ZrO(CCOO))、イソ酪酸ジルコニル(ZrO((CH)CHCOO))、蓚酸(HOOC-COOH)とジルコニルイオンの塩、または、これらの塩から少なくとも一部のアニオンが解離したカチオン、または、前記の塩やカチオンに水(HO)やヒドロキシル基(OH)が配位した水和錯体、水和錯イオン、ヒドロキシル錯体またはヒドロキシル錯イオンから選ばれる1種または2種以上である前記(8)または(9)に記載の水性表面処理液。
(11) 前記(b)が、硫酸ナトリウム(NaSO)、硫酸カリウム(KSO)、硫酸アルミニウム(Al(SO))、硫酸アンモニウム((NH)SO)、硫酸ナトリウムアルミニウム(AlNa(SO);NaとAl3+の硫酸塩の複塩)、硫酸カリウムアルミニウム(AlK(SO);KとAl3+の硫酸塩の複塩)、硫酸アンモニウムアルミニウム(Al(NH)(SO);NHとAl3+の硫酸塩の複塩)、硫酸亜鉛(ZnSO)、硫酸カルシウム(CaSO)、硫酸銅(CuSO)、硫酸第一鉄(FeSO)、硫酸第二鉄(Fe(SO))、硫酸マグネシウム(MgSO)、硫酸マンガン(MnSO)、亜硫酸ナトリウム(NaSO)、亜硫酸水素ナトリウム(NaHSO)、亜硫酸水素カリウム(KHSO)、二亜硫酸ナトリウム(Na)、二亜硫酸カリウム(K)、よう素酸カリウム(KIO)、よう素酸カルシウム(Ca(IO))、よう化カリウム(KI)、よう化銅(I)(CuI)、臭素酸カリウム(KBrO)から選ばれる1種または2種以上である前記(8)〜(10)のいずれか一つに記載の水性表面処理液。
(12) 前記(c)が、りん酸二水素カルシウム(Ca(HPO)、りん酸水素カルシウム(CaHPO)、りん酸三カルシウム(Ca(PO))、りん酸二水素ナトリウム(NaHPO)、りん酸水素二ナトリウム(NaHPO)、りん酸三ナトリウム(NaPO)、りん酸ナトリウムアルミニウム(NaAl14(PO))、りん酸水素二カリウム(KHPO)、りん酸二水素アンモニウム(NHPO)、りん酸水素二アンモニウム((NH)HPO)、りん酸第一鉄(FePO)、りん酸水素マグネシウム(MgHPO)、りん酸三マグネシウム(Mg(PO))、次亜りん酸ナトリウム(NaPH)から選ばれる1種または2種以上である前記(9)に記載の水性表面処理液。
(13) アルミニウム系めっき鋼材表面の少なくとも一部に、前記(8)〜(12)のいずれかに記載の水性表面処理液を塗布した後、前記めっき鋼材の表面温度を常温〜250℃として乾燥してなる耐熱変色性防錆皮膜を有することを特徴とする耐熱変色性防錆処理アルミニウム系めっき鋼材。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、トースター、オーブントースター、炊飯器などの熱が繰返し加わる環境で使用される調理家電製品に好適に使用される、耐熱変色性防錆皮膜で被覆された、長期間にわたり美麗な金属光沢を保持するアルミニウム系めっき鋼材を提供することができる。また、水性処理液でアルミニウム系めっき鋼材表面を処理する方法で本発明の耐熱変色性防錆皮膜を形成する場合、クロメートやふっ素化合物などの高環境負荷物質を含まない処理液を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0015】
<アルミニウム系めっき鋼材>
本発明において、アルミニウム系めっき鋼材のめっき層のAl含有量は70質量%以上で、好ましくは、Al含有量が70〜97質量%、Si含有量が3〜15質量%の2成分系または多成分系のめっきである。本発明の耐熱変色性防錆皮膜は、Alの腐食反応であるAl溶解(アノード)反応とカソード反応を効果的に抑制するため、Al含有量が70質量%未満のAl分の少ないめっきでは、十分な耐食性を発現できない。また、Si添加の目的は、アルミニウム系めっき層と母材鋼との界面に生成するFe-Al合金層をFe-Al-Si合金層に改質、薄層化して過大な成長を抑制するためであるが、めっきのSi含有量が3質量%未満ではFe-Al合金層が成長しすぎて加工後の耐食性が低下し、一方、Si含有量が15質量%を超えると、粗大なSi初晶が晶出して加工後の耐食性が低下する。
【0016】
めっき中の不純物元素として、微量のFe、Ni、Co等が介在することがある。また、必要に応じ、Mg、Sn、ミッシュメタル、Sb、Zn、Cr、W、V、Mo、等を添加してもよい。アルミニウム系めっき鋼材の製造法について特に制限はないが、溶融フラックスめっきや、ゼンジマー法、オールラジアント法等による溶融めっき、電気めっき、蒸着めっきが好ましい。
【0017】
本発明において、アルミニウム系めっき鋼材に使用する母材鋼の成分については限定しないが、鋼種としては、例えば、Ti、Nb、B等を添加したIF鋼、Al−k鋼、Cr添加鋼、ステンレス鋼、ハイテン等が挙げられる。これらのうち、耐熱調理家電用途にはAl−k鋼の適用が好ましい。
【0018】
<ジルコニル基>
本発明におけるジルコニル基(A)とは、ZrとOが結合した+2価の原子団のことであり、他の原子または原子団と共有結合性の>Zr=O、−Zr−O−、及びイオン結合性のジルコニルイオンZrO2+が含まれる。また、ジルコニル化合物とは、これらのジルコニル基の少なくとも1種を含む化合物のことである。本発明の耐熱変色性防錆皮膜中には、ジルコニル基(A)が、皮膜形成時にめっき面や共存する化合物と反応して生成した種々のジルコニル化合物の一部や、皮膜形成時に未反応のままで残るジルコニル化合物(表面処理液の塗装で成膜する場合は、反応出発物質として塗装前の処理液に含まれていたジルコニル化合物)の一部を構成する形態で含まれている。これらのジルコニル化合物は、具体的には、(1)めっき面近傍のAlやAl酸化生成物、Al表面の不動態皮膜などと前記ジルコニル基(A)との共有結合性、イオン結合性または配位結合性化合物またはこれらが相互に架橋して重合した無機系高分子の1種または2種以上、(2)皮膜中に共存する硫酸イオン(SO2−)、亜硫酸イオン(SO2−)、二亜硫酸イオン(S2−)、よう素酸イオン(IO)、よう化物イオン(I)または臭素酸イオン(BrO)などと前記ジルコニル基(A)とのイオン結合性または配位結合性化合物またはこれらが相互に架橋して重合した無機系高分子の1種または2種以上、(3)皮膜に共存する種々の化合物の結晶水、水和水またはヒドロキシル基と前記ジルコニル基(A)とのイオン結合性または配位結合性化合物またはこれらが相互に架橋して重合した無機系高分子の1種または2種以上、(4)皮膜中にオルトりん酸イオン(PO3−)、亜りん酸イオン(PHO2−)、次亜りん酸イオン(PH)、ポリりん酸イオン(P3x+1(x+2)−(xは2〜6の整数))またはメタりん酸イオン((PO)y−(yは3〜6の整数))が共存する場合には、これらと前記ジルコニル基(A)とのイオン結合性または配位結合性化合物またはこれらが相互に架橋して重合した無機系高分子の1種または2種以上、(5)皮膜形成時に未反応のままで残るジルコニル化合物(表面処理液の塗装で成膜する場合は、反応出発物質として塗装前の処理液に含まれていたジルコニル化合物の一部)、(6)前記(1)〜(5)の種々のジルコニル化合物の少なくとも一部が相互に架橋した複合化合物、などである。
【0019】
前記の共有結合性化合物では、>Zr=Oまたは−Zr−O−がめっき面近傍のAlやAl酸化生成物、Al表面の不動態皮膜などと共有結合し、>Zr=Oまたは−Zr−O−の一部または全部が、めっき面近傍のAlやAl酸化生成物などを相互に架橋したり、これらと他化合物とを架橋している。前記のイオン結合性化合物では、ジルコニルイオンZrO2+がめっき面近傍のAlや他の化合物のアニオン性官能基やアニオン性サイトとイオン結合し、ZrO2+の一部または全部が、化合物どうしをイオン架橋し連結している。前記の配位結合性化合物では、水、ヒドロキシル基やよう素酸イオンや臭素酸イオンの酸素原子、アンモニウム塩の窒素原子、硫酸塩、亜硫酸塩などの硫黄原子、りん酸塩、亜りん酸塩などのりん原子など、孤立電子対を持ち電気陰性度の高い原子が>Zr=O、−Zr−O−またはジルコニルイオンZrO2+のZr原子に配位し、これらの配位結合性化合物の一部または全部が、他の化合物を配位結合で連結した無機系高分子錯体を形成している。
【0020】
また、皮膜形成時に未反応のままで残るジルコニル化合物(表面処理液の塗装で成膜する場合は、反応出発物質として塗装前の処理液に含まれていたジルコニル化合物の一部)は、本発明の耐熱変色性防錆皮膜に含まれるジルコニル化合物のうち、成膜時にめっき面近傍のAlや皮膜中に存在する他の化合物のいずれとも結合していないものを指すが、本発明の目的を損なわなければ、どのようなジルコニル化合物であっても特に制限はない。これらのうち少なくとも一部は、本発明のアルミニウム系めっき鋼材を加熱使用する際に、めっき面近傍のAlやAl酸化生成物、Al表面の不動態皮膜、他の共存化合物と結合し、皮膜中で徐々に架橋ネットワークに組み込まれ、皮膜とめっき面との密着性や防錆性の更なる向上に寄与すると考えられる。
【0021】
本発明の皮膜において、めっき面近傍のAl、Al酸化生成物、Al表面の不動態皮膜、硫酸塩や亜硫酸塩などの共存化合物を取込んだ架橋重合体や無機系高分子、無機系高分子錯体は、めっき面と皮膜を強固に密着させ、かつ、皮膜バルクを緻密化するため、皮膜の防錆性を高める一因となっている。
【0022】
これらのジルコニル基を本発明の皮膜中に導入するための反応出発物質としては特に限定しないが、ジルコニル基(>Zr=O、−Zr−O−またはジルコニルイオンZrO2+)のZrに炭素数が0〜4個のアニオン(または配位子)が結合(または配位)したジルコニル化合物が好ましい。その理由は、これらのジルコニル化合物は、分子中に炭素数が4個までの有機アニオン(または配位子)があってもそれがあまり嵩高くなく、同じ分子中のジルコニル基がめっき面近傍のAl、Al酸化生成物、Al表面の不動態皮膜、他の共存化合物に接近する際の邪魔にならず、ジルコニル基がこれらと反応し結合する過程を殆ど阻害しないからである。また、これらのジルコニル化合物は、AlやAl酸化生成物、Al表面の不動態皮膜との反応性が高いものが多く、めっき面や不動態皮膜面などと本発明の皮膜との界面反応により、高い皮膜密着性とそれによる高い防錆性が得られるだけでなく、本発明の皮膜を形成する際や鋼材使用時の加熱により、炭素数が4個以下の有機アニオン(または配位子)の少なくとも一部が揮発または分解するため、皮膜中の有機成分含量が0または僅少となり、皮膜の耐熱変色性が高まるからである。このような、Zrに炭素数が0〜4個のアニオン(または配位子)が結合(または配位)したジルコニル化合物のうち、炭酸ジルコニウムアンモニウム((NH)ZrO(CO))、炭酸ジルコニウムナトリウム(NaZrO(CO))、炭酸ジルコニウムカリウム(KZrO(CO))、炭酸ジルコニル(ZrOCO)、硫酸ジルコニル(ZrOSO)、硝酸ジルコニル(ZrO(NO))、りん酸二水素ジルコニル(ZrO(HPO))、塩化ジルコニル(ZrOCl)、塩基性塩化ジルコニル(ZrO(OH)Cl)、水酸化ジルコニウム(ZrO(OH))、蟻酸ジルコニル(ZrO(HCOO))、酢酸ジルコニル(ZrO(CHCOO))、プロピオン酸ジルコニル(ZrO(CCOO))、n-酪酸ジルコニル(ZrO(CCOO))、イソ酪酸ジルコニル(ZrO((CH)CHCOO))、蓚酸(HOOC-COOH)とジルコニルイオンの塩、または、これらの塩から少なくとも一部のアニオンが解離したカチオン、または、前記の塩やカチオンに水(HO)やヒドロキシル基(OH)が配位した水和錯体、水和錯イオン、ヒドロキシル錯体またはヒドロキシル錯イオン、がより好ましい。
【0023】
更に、前記ジルコニル化合物のうち、皮膜形成時の乾燥や加温により、ジルコニル基のZrに結合(または配位)したアニオン(または配位子)が比較的容易に揮発散逸したり、または、皮膜形成時や鋼材使用時の水分や湿気でアニオン(または配位子)が比較的容易に解離しジルコニル基が活性化しやすいという特徴を持つ、炭酸ジルコニウムアンモニウム((NH)ZrO(CO))、炭酸ジルコニウムナトリウム(NaZrO(CO))、炭酸ジルコニウムカリウム(KZrO(CO))、炭酸ジルコニル(ZrOCO)、硫酸ジルコニル(ZrOSO)、硝酸ジルコニル(ZrO(NO))、りん酸二水素ジルコニル(ZrO(HPO))、塩化ジルコニル(ZrOCl)、塩基性塩化ジルコニル(ZrO(OH)Cl)、蟻酸ジルコニル(ZrO(HCOO))、酢酸ジルコニル(ZrO(CHCOO))、または、これらの塩から少なくとも一部のアニオンが解離したカチオン、または、前記の塩やカチオンに更に水(HO)やヒドロキシル基(OH)が配位した水和錯体、水和錯イオン、ヒドロキシル錯体またはヒドロキシル錯イオン、が特に好ましい。
【0024】
ジルコニル基(>Zr=O、−Zr−O−またはジルコニルイオンZrO2+)の1種または2種以上(A)を本発明の皮膜中に導入する方法も特に限定しないが、ジルコニル基のZrに炭素数が0〜4個のアニオン(または配位子)が結合(または配位)したジルコニル化合物(a)を、(b)成分などの他の成分と共に水に溶解または水分散して水性処理液とし、めっき鋼材に塗装、乾燥する方法が好ましい。そのようなジルコニル化合物が好ましい理由は、前記の、ジルコニル基(A)を本発明の皮膜中に導入するための反応出発物質について述べた理由と同様に、これらのジルコニル化合物はAlや他の共存化合物との反応性が高いものが多く、皮膜密着性や防錆性が高まるだけでなく、表面処理液乾燥時や鋼材使用時の加熱により、炭素数が4個以下の有機アニオン(または配位子)の少なくとも一部が揮発または分解し、皮膜中の有機成分含量が0または僅少となって耐熱変色性が高まるからである。また、これらのジルコニル化合物を含む水性処理液を塗装するのが好ましい理由は、容易に水に溶解または水分散でき、得られた水性表面処理液を、工業的に容易にめっき鋼材に塗装、成膜できるからである。
【0025】
本発明の水性表面処理液の調製に用いるジルコニル化合物(a)の中で、より好ましいものとしては、炭酸ジルコニウムアンモニウム((NH)ZrO(CO))、炭酸ジルコニウムナトリウム(NaZrO(CO))、炭酸ジルコニウムカリウム(KZrO(CO))、炭酸ジルコニル(ZrOCO)、硫酸ジルコニル(ZrOSO)、硝酸ジルコニル(ZrO(NO))、りん酸二水素ジルコニル(ZrO(HPO))、塩化ジルコニル(ZrOCl)、塩基性塩化ジルコニル(ZrO(OH)Cl)、水酸化ジルコニウム(ZrO(OH))、蟻酸ジルコニル(ZrO(HCOO))、酢酸ジルコニル(ZrO(CHCOO))、プロピオン酸ジルコニル(ZrO(CCOO))、n-酪酸ジルコニル(ZrO(CCOO))、イソ酪酸ジルコニル(ZrO((CH)CHCOO))、蓚酸(HOOC-COOH)とジルコニルイオンの塩、または、これらの塩から少なくとも一部のアニオンが解離したカチオン、または、前記の塩やカチオンに更に水(HO)やヒドロキシル基(OH)が配位した水和錯体、水和錯イオン、ヒドロキシル錯体またはヒドロキシル錯イオン、である。これらの化合物を用いて水性表面処理液を調製し、それを塗装する方法がより好ましい理由は、これらの化合物は、いずれも環境や生体への負荷が殆どなく、かつ、容易に水に溶解または水分散でき、得られた水性処理液を、工業的に容易にめっき鋼材に塗装、成膜できるからである。
【0026】
本発明のジルコニル化合物(a)のうち、特に好ましいものとしては、皮膜形成時の乾燥や加温により配位子が比較的容易に揮発散逸したり、または、表面処理液の水分で配位子が比較的容易に解離するためジルコニル基が活性化しやすい、炭酸ジルコニウムアンモニウム((NH)ZrO(CO))、炭酸ジルコニウムナトリウム(NaZrO(CO))、炭酸ジルコニウムカリウム(KZrO(CO))、炭酸ジルコニル(ZrOCO)、硫酸ジルコニル(ZrOSO)、硝酸ジルコニル(ZrO(NO))、りん酸二水素ジルコニル(ZrO(HPO))、塩化ジルコニル(ZrOCl)、塩基性塩化ジルコニル(ZrO(OH)Cl)、蟻酸ジルコニル(ZrO(HCOO))、酢酸ジルコニル(ZrO(CHCOO))、または、これらの塩から少なくとも一部のアニオンが解離したカチオン、または、前記の塩やカチオンに更に水(HO)やヒドロキシル基(OH)が配位した水和錯体、水和錯イオン、ヒドロキシル錯体またはヒドロキシル錯イオン、である。
【0027】
<硫酸イオン(SO2−)、亜硫酸イオン(SO2−)、二亜硫酸イオン(S2−)、よう素酸イオン(IO)、よう化物イオン(I)または臭素酸イオン(BrO)>
本発明において、「硫酸イオン(SO2−)を含む化合物」とは、硫酸イオン(SO2−)または硫酸水素イオン(HSO)の少なくとも一方を含む化合物のことである。「亜硫酸イオン(SO2−)を含む化合物」とは、亜硫酸イオン(SO2−)または亜硫酸水素イオン(HSO)の少なくとも一方を含む化合物のことである。「二亜硫酸イオン(S2−)を含む化合物」とは、二亜硫酸イオン(S2−)または二亜硫酸水素イオン(HS)の少なくとも一方を含む化合物のことである。
【0028】
本発明の皮膜中の硫酸イオン(SO2−)、亜硫酸イオン(SO2−)、二亜硫酸イオン(S2−)、よう素酸イオン(IO)、よう化物イオン(I)または臭素酸イオン(BrO)(B)の大部分は、皮膜中で、皮膜形成時に皮膜に導入された硫酸塩、硫酸水素塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、二亜硫酸塩、二亜硫酸水素塩、よう素酸塩、よう化物、臭素酸塩またはこれらの複塩の形態で存在する。即ち、皮膜形成時に用いる(B)含有物質の大部分は皮膜形成時に未反応で残るため、本発明のめっき鋼材の皮膜中にある硫酸イオン(SO2−)、亜硫酸イオン(SO2−)または二亜硫酸イオン(S2−)、よう素酸イオン(IO)、よう化物イオン(I)または臭素酸イオン(BrO)(B)を含む化合物のうち、大部分の化合物の種類と含有量は、実質上、皮膜形成時に皮膜に導入された(B)含有化合物と同じで、それらは、皮膜形成時に皮膜に導入された硫酸塩、硫酸水素塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、二亜硫酸塩、二亜硫酸水素塩、よう素酸塩、よう化物、臭素酸塩またはこれらの複塩の形態で存在する。ここで、複塩(double salt)とは、主に無機化合物の酸と塩基のうち、本明細書に記載の硫酸ナトリウムアルミニウム(AlNa(SO))等のように、陽イオン、陰イオンまたはそれらの両方を2種類以上含む塩のことである。複塩に対し、陽イオンと陰イオンのそれぞれ1種類ずつから成る塩、例えば、本明細書に記載の硫酸ナトリウム(NaSO)や硫酸アルミニウム(Al(SO))は、単塩である。
【0029】
皮膜形成時に皮膜に導入された(B)含有化合物は、本発明のめっき鋼材の長い使用期間中に、めっき面上のバリア層形成や皮膜損傷部の修復などに少しずつ消費され、他の化合物に変わってゆく。その反応速度は、めっき鋼材の使用環境(水分量、乾湿環境、腐食因子の種類や数量、温度など)により異なる。皮膜形成時やめっき鋼材使用時の湿潤環境下にて、まず、皮膜形成時に皮膜に導入された硫酸塩、硫酸水素塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、二亜硫酸塩、二亜硫酸水素塩、よう素酸塩、よう化物、臭素酸塩またはこれらの複塩の一部から、硫酸イオン(SO2−)、硫酸水素イオン(HSO)、亜硫酸イオン(SO2−)、亜硫酸水素イオン(HSO)、二亜硫酸イオン(S2−)、二亜硫酸水素イオン(HS)、よう素酸イオン(IO)、よう化物イオン(I)または臭素酸イオン(BrO)が解離する。次に、これらのイオンがめっき面近傍のAl、Al酸化生成物、Al表面の不動態皮膜の一部を溶解(エッチング)し、溶解後の新しい表面にこれらのイオン自体がイオン結合または配位結合し、優れためっき密着性と防錆性を有するバリア性の薄層を生成する。また、同時に、これらのイオンの少なくとも一部が、めっき面近傍のAl、Al酸化生成物、Al表面の不動態皮膜や前記ジルコニル化合物などの共存化合物とイオン結合または配位結合し、優れた防錆性を有するバリア化合物の薄層を形成する。
【0030】
繰返しになるが、本発明のめっき鋼材では、非常に長い間使用しない限り、皮膜形成時に皮膜に導入された(B)含有化合物(硫酸塩、硫酸水素塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、二亜硫酸塩、二亜硫酸水素塩、よう素酸塩、よう化物、臭素酸塩またはこれらの複塩)の殆どが皮膜中に未反応のまま残存する。(B)成分を含む皮膜構成化合物のうち、前記の塩の形態を取っていないものは極少量で、これらは、皮膜形成時に皮膜に導入された前記の塩がめっき面近傍のAlや共存化合物と反応して生成する。生成物としては、例えば、(B)とめっき面近傍のAlとのイオン結合性化合物(硫酸アルミニウム系化合物、亜硫酸アルミニウム系化合物、二亜硫酸アルミニウム系化合物、よう素酸アルミニウム系化合物、よう化アルミニウム系化合物または臭素酸アルミニウム系化合物)、(B)と他の共存カチオンとのイオン結合性化合物、孤立電子対を持つ(B)の硫黄原子や酸素原子が他の共存化合物に配位した配位結合性化合物、などである。
【0031】
前記のバリア性薄層形成化合物の中では、硫酸イオン(SO2−)、硫酸水素イオン(HSO)、亜硫酸イオン(SO2−)、亜硫酸水素イオン(HSO)、二亜硫酸イオン(S2−)、二亜硫酸水素イオン(HS)、よう素酸イオン(IO)、よう化物イオン(I)または臭素酸イオン(BrO)とめっき面近傍のAlとが結合した硫酸アルミニウム系化合物、亜硫酸アルミニウム系化合物、二亜硫酸アルミニウム系化合物、よう素酸アルミニウム系化合物、よう化アルミニウム系化合物または臭素酸アルミニウム系化合物の防錆効果が高い。めっき鋼材の加工や使用により皮膜が損傷し、その下のめっきAlが露出した場合、前記イオンが露出Alと反応し、硫酸アルミニウム系化合物、亜硫酸アルミニウム系化合物、二亜硫酸アルミニウム系化合物、よう素酸アルミニウム系化合物、よう化アルミニウム系化合物または臭素酸アルミニウム系化合物が皮膜損傷部位(Al露出部位)に徐々に生成してめっき面を保護する。即ち、本発明の皮膜は、クロメート皮膜のように、皮膜損傷部位への優れた自己修復機能も有する。
【0032】
硫酸イオン(SO2−)、亜硫酸イオン(SO2−)、二亜硫酸イオン(S2−)、よう素酸イオン(IO)、よう化物イオン(I)または臭素酸イオン(BrO)の1種または2種以上(B)を含む化合物を本発明の皮膜中に導入するための出発物質(皮膜形成時に用いる(B)含有物質)としては特に限定しないが、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム、遷移金属またはNHの硫酸塩、硫酸水素塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、二亜硫酸塩、二亜硫酸水素塩、よう素酸塩、よう化物、臭素酸塩またはこれらの複塩から選ばれる1種または2種以上が好ましい。その理由は、これらの塩の多くは、皮膜形成時やめっき鋼材使用中に、皮膜中の水分や湿気により容易に解離して硫酸イオン(SO2−)、硫酸水素イオン(HSO)、亜硫酸イオン(SO2−)、亜硫酸水素イオン(HSO)、二亜硫酸イオン(S2−)、二亜硫酸水素イオン(HS)、よう素酸イオン(IO)、よう化物イオン(I)または臭素酸イオン(BrO)を生成し、前記のバリア性薄層の生成に寄与しやすいからである。本発明の皮膜形成時に用いる(B)含有物質の一部が、本発明の皮膜形成時や、本発明のめっき鋼材使用時の湿潤環境下で、他の共存カチオンとのイオン結合や、他の原子または原子団との配位結合を経て前記バリア層となるが、本発明の皮膜形成時に用いる(B)含有物質の大部分は皮膜形成時に反応せず、形態を変えずにそのまま皮膜中に残る。上記の好ましい塩(アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム、遷移金属またはNHの硫酸塩、硫酸水素塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、二亜硫酸塩、二亜硫酸水素塩、よう素酸塩、よう化物、臭素酸塩またはこれらの複塩から選ばれる1種または2種以上)を用いた場合は、これらの塩の殆どがそのままの形態で皮膜に残る。このように、皮膜形成時に用いる(B)含有物質の大部分は皮膜形成時に未反応で残るため、本発明の皮膜中にある上記の好ましい(B)成分(アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム、遷移金属またはNHの硫酸塩、硫酸水素塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、二亜硫酸塩、二亜硫酸水素塩、よう素酸塩、よう化物、臭素酸塩またはこれらの複塩から選ばれる1種または2種以上)のうち、大部分の化合物の種類と含有量は、実質上、皮膜形成時に皮膜に導入された(B)含有化合物と同じである。
【0033】
本発明において、(B)成分を含む化合物を本発明の皮膜中に導入するための出発物質(実質的に、皮膜形成後に皮膜に残る(B)含有物質と同じ)は、Li、Na、K、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Y3+、La3+、Ce3+、Ce4+、Pr3+、Nd3+、Ti4+、Zr4+、Mo6+、W6+、Mn2+、Fe2+、Fe3+、Co2+、Ni2+、Cu2+、Ag、Zn2+、Al3+、NHの硫酸塩、硫酸水素塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、二亜硫酸塩、二亜硫酸水素塩、よう素酸塩、よう化物、臭素酸塩またはこれらの複塩から選ばれる1種または2種以上がより好ましい。また、前記の塩の中で、Na、K、Mg2+、Ca2+、Mn2+、Fe2+、Fe3+、Cu2+、Zn2+、Al3+、NHの硫酸塩、硫酸水素塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、二亜硫酸塩、二亜硫酸水素塩、よう素酸塩、よう化物、臭素酸塩またはこれらの複塩から選ばれる1種または2種以上が、化合物を工業的に入手しやすく、かつ価格が高くないため更に好ましい。また、これらの塩の中で、硫酸ナトリウム(NaSO)、硫酸カリウム(KSO)、硫酸アルミニウム(Al(SO))、硫酸アンモニウム((NH)SO)、硫酸ナトリウムアルミニウム(AlNa(SO);NaとAl3+の硫酸塩の複塩)、硫酸カリウムアルミニウム(AlK(SO);KとAl3+の硫酸塩の複塩)、硫酸アンモニウムアルミニウム(Al(NH)(SO);NHとAl3+の硫酸塩の複塩)、硫酸亜鉛(ZnSO)、硫酸カルシウム(CaSO)、硫酸銅(CuSO)、硫酸第一鉄(FeSO)、硫酸第二鉄(Fe(SO))、硫酸マグネシウム(MgSO)、硫酸マンガン(MnSO)、亜硫酸ナトリウム(NaSO)、亜硫酸水素ナトリウム(NaHSO)、亜硫酸水素カリウム(KHSO)、二亜硫酸ナトリウム(Na)、二亜硫酸カリウム(K)、よう素酸カリウム(KIO)、よう素酸カルシウム(Ca(IO))、よう化カリウム(KI)、よう化銅(I)(CuI)、臭素酸カリウム(KBrO)から選ばれる1種または2種以上が、前記の利点に加え、更に環境や生体への負荷が殆どないという観点から、特に好ましい。
【0034】
(B)成分を本発明の皮膜中に導入する方法も特に限定しないが、硫酸イオン(SO2−)、亜硫酸イオン(SO2−)、二亜硫酸イオン(S2−)、よう素酸イオン(IO)、よう化物イオン(I)または臭素酸イオン(BrO)を分子中に有するS、IまたはBr含有無機塩の1種または2種以上(b)を、(a)成分などの他の成分と共に水に溶解または水分散して水性処理液とし、めっき鋼材に塗装、乾燥する方法が好ましい。本発明の水性表面処理液の調製に用いる(b)の中で、より好ましいものとしては、硫酸ナトリウム(NaSO)、硫酸カリウム(KSO)、硫酸アルミニウム(Al(SO))、硫酸アンモニウム((NH)SO)、硫酸ナトリウムアルミニウム(AlNa(SO);NaとAl3+の硫酸塩の複塩)、硫酸カリウムアルミニウム(AlK(SO);KとAl3+の硫酸塩の複塩)、硫酸アンモニウムアルミニウム(Al(NH)(SO);NHとAl3+の硫酸塩の複塩)、硫酸亜鉛(ZnSO)、硫酸カルシウム(CaSO)、硫酸銅(CuSO)、硫酸第一鉄(FeSO)、硫酸第二鉄(Fe(SO))、硫酸マグネシウム(MgSO)、硫酸マンガン(MnSO)、亜硫酸ナトリウム(NaSO)、亜硫酸水素ナトリウム(NaHSO)、亜硫酸水素カリウム(KHSO)、二亜硫酸ナトリウム(Na)、二亜硫酸カリウム(K)、よう素酸カリウム(KIO)、よう素酸カルシウム(Ca(IO))、よう化カリウム(KI)、よう化銅(I)(CuI)、臭素酸カリウム(KBrO)から選ばれる1種または2種以上である。これらの化合物を用いて水性表面処理液を調製し、それを塗装する方法が好ましい理由は、これらの化合物は、いずれも環境や生体への負荷が殆どなく、かつ、容易に水に溶解または水分散でき、得られた水性処理液を工業的に容易にめっき鋼材に塗装、成膜できるからである。
【0035】
<オルトりん酸イオン(PO3−)、亜りん酸イオン(PHO2−)、次亜りん酸イオン(PH)、ポリりん酸イオン(P3x+1(x+2)−(xは2〜6の整数))、メタりん酸イオン( (PO)y−(yは3〜6の整数))>
本発明において、「オルトりん酸イオン(PO3−)を含む化合物」とは、りん酸イオン(PO3−)、りん酸一水素イオン(HPO2−)またはりん酸二水素イオン(HPO)の少なくとも一つを含む化合物のことである。「亜りん酸イオン(PHO2−)を含む化合物」とは、亜りん酸イオン(PHO2−)または亜りん酸水素イオン(HPHO)の少なくとも一方を含む化合物のことである。「次亜りん酸イオン(PH)を含む化合物」とは、次亜りん酸イオン(PH)を含む化合物のことである。また、「ポリりん酸イオン(P3x+1(x+2)−(xは2〜6の整数))」とは、オルトりん酸の直鎖状重合体Hx+23x+1(xは2〜6の整数)から全てのHイオンを除いたP3x+1(x+2)−(xは2〜6の整数)のことである。「ポリりん酸イオン(P3x+1(x+2)−(xは2〜6の整数))を含む化合物」とは、a個の水素原子を含むポリりん酸イオン(H3x+1(x+2−a)−(xは2〜6の整数、aは0〜(x+2)の整数))のうちの少なくとも1つを含む化合物のことである。また、「メタりん酸イオン( (PO)y−(yは3〜6の整数))」とは、オルトりん酸の環状重合体(HPO)(yは3〜6の整数)から全てのHイオンを除いた(PO)y−(yは3〜6の整数)のことである。「メタりん酸イオン( (PO)y−(yは3〜6の整数))を含む化合物」とは、b個の水素原子を含むメタりん酸イオン(H(PO)(y−b)−(yは3〜6の整数、bは0〜yの整数))のうちの少なくとも1つを含む化合物のことである。
【0036】
本発明の皮膜には、(C)成分であるオルトりん酸イオン(PO3−)、亜りん酸イオン(PHO2−)、次亜りん酸イオン(PH)、ポリりん酸イオン(P3x+1(x+2)−(xは2〜6の整数))またはメタりん酸イオン( (PO)y−(yは3〜6の整数))から選ばれる1種または2種以上を含む方が好ましい。これらの大部分は、皮膜中で、皮膜形成時に皮膜に導入されたオルトりん酸塩、りん酸一水素塩、りん酸二水素塩、亜りん酸塩、亜りん酸水素塩、次亜りん酸塩、ポリりん酸塩、ポリりん酸水素塩、メタりん酸塩、メタりん酸水素塩またはこれらの複塩の形態で存在する。(C)成分を含む化合物のうち、前記の塩の形態でないものは極少量で、例えば、(C)成分とめっき面近傍のAlとのイオン結合性化合物、(C)と他の共存カチオンとのイオン結合性化合物、あるいは、孤立電子対を持つ(C)のりん原子や酸素原子を介し、他の原子または原子団と配位結合した化合物として存在する。そのような化合物は、本発明の皮膜形成時や、本発明のめっき鋼材使用時の湿潤環境下で、以下のようにして形成される。まず、皮膜形成時やめっき鋼材使用時の湿潤環境下にて、皮膜形成時に皮膜に導入されたオルトりん酸塩、りん酸一水素塩、りん酸二水素塩、亜りん酸塩、亜りん酸水素塩、次亜りん酸塩、ポリりん酸塩、ポリりん酸水素塩、メタりん酸塩、メタりん酸水素塩またはこれらの複塩の一部から、りん酸イオン(PO3−)、りん酸一水素イオン(HPO2−)、りん酸二水素イオン(HPO)、亜りん酸イオン(PHO2−)、亜りん酸水素イオン(HPHO)、次亜りん酸イオン(PH)、a個の水素原子を含むポリりん酸イオン(H3x+1(x+2−a)−(xは2〜6の整数、aは0〜(x+2)の整数))またはb個の水素原子を含むメタりん酸イオン(H(PO)(y−b)−(yは3〜6の整数、bは0〜yの整数))が解離する。次に、これらのイオンはめっき面近傍のAl、Al酸化生成物、Al表面の不動態皮膜の一部を溶解(エッチング)し、溶解後の新しい表面にこれらのイオン自体がイオン結合または配位結合し、優れためっき密着性と防錆性を有するバリア性の薄層を形成する。また、同時に、これらのイオンの少なくとも一部が、めっき面近傍のAl、Al酸化生成物、Al表面の不動態皮膜や前記ジルコニル化合物などの共存化合物とイオン結合または配位結合し、優れたバリア性を有する化合物層を形成する。
【0037】
(C)成分を含む化合物を本発明の皮膜中に導入するための反応出発物質としては特に限定しないが、りん酸二水素カルシウム(Ca(HPO)、りん酸水素カルシウム(CaHPO)、りん酸三カルシウム(Ca(PO))、りん酸二水素ナトリウム(NaHPO)、りん酸水素二ナトリウム(NaHPO)、りん酸三ナトリウム(NaPO)、りん酸ナトリウムアルミニウム(NaAl14(PO))、りん酸水素二カリウム(KHPO)、りん酸二水素アンモニウム(NHPO)、りん酸水素二アンモニウム((NH)HPO)、りん酸第一鉄(FePO)、りん酸水素マグネシウム(MgHPO)、りん酸三マグネシウム(Mg(PO))、次亜りん酸ナトリウム(NaPH)から選ばれる1種または2種以上が好ましい。その理由は、これらの塩の多くは、皮膜中の水分や湿気により容易に解離するか、そうでなくても、無機酸や無機アルカリと水分が共存する環境下で溶解して、りん酸イオン(PO3−)、りん酸一水素イオン(HPO2−)、りん酸二水素イオン(HPO)または次亜りん酸イオン(PH)を生成し、前記のバリア層生成に寄与しやすいからである。前記の反応出発物質の一部は、本発明の皮膜形成時や、本発明のめっき鋼材使用時の湿潤環境下で、他の共存カチオンとのイオン結合や、他の原子または原子団との配位結合を経て別の化合物の一部となる。皮膜形成時に用いる(C)含有物質の大部分は皮膜形成時に未反応で残るため、本発明の皮膜中にある上記の好ましい(C)成分(りん酸二水素カルシウム(Ca(HPO)、りん酸水素カルシウム(CaHPO)、りん酸三カルシウム(Ca(PO))、りん酸二水素ナトリウム(NaHPO)、りん酸水素二ナトリウム(NaHPO)、りん酸三ナトリウム(NaPO)、りん酸ナトリウムアルミニウム(NaAl14(PO))、りん酸水素二カリウム(KHPO)、りん酸二水素アンモニウム(NHPO)、りん酸水素二アンモニウム((NH)HPO)、りん酸第一鉄(FePO)、りん酸水素マグネシウム(MgHPO)、りん酸三マグネシウム(Mg(PO))、次亜りん酸ナトリウム(NaPH)から選ばれる1種または2種以上)のうち、大部分の化合物の種類と含有量は、実質上、皮膜形成時に皮膜に導入された(C)含有化合物と同じである。
【0038】
(C)成分を本発明の皮膜中に導入する方法も特に限定しないが、オルトりん酸イオン(PO3−)、亜りん酸イオン(PHO2−)、次亜りん酸イオン(PH)、ポリりん酸イオン(P3x+1(x+2)−(xは2〜6の整数))またはメタりん酸イオン((PO)y−(yは3〜6の整数))を分子中に有するP含有無機塩の1種または2種以上(c)を、前記(a)成分、(b)成分などと共に水に溶解または水分散して水性処理液とし、めっき鋼材に塗装、乾燥する方法が好ましい。本発明の水性表面処理液の調製に用いる(c)の中で、より好ましいものとしては、りん酸二水素カルシウム(Ca(HPO)、りん酸水素カルシウム(CaHPO)、りん酸三カルシウム(Ca(PO))、りん酸二水素ナトリウム(NaHPO)、りん酸水素二ナトリウム(NaHPO)、りん酸三ナトリウム(NaPO)、りん酸ナトリウムアルミニウム(NaAl14(PO))、りん酸水素二カリウム(KHPO)、りん酸二水素アンモニウム(NHPO)、りん酸水素二アンモニウム((NH)HPO)、りん酸第一鉄(FePO)、りん酸水素マグネシウム(MgHPO)、りん酸三マグネシウム(Mg(PO))、次亜りん酸ナトリウム(NaPH)から選ばれる1種または2種以上である。これらの化合物を用いて水性表面処理液を調製し、それを塗装する方法が好ましい理由は、これらの化合物は、いずれも環境や生体に与える負荷が殆どなく、かつ、容易に水に溶解できるか、または少量の分散剤(界面活性剤)、水和剤、無機酸、錯体形成剤等を用いて水分散でき、得られた水性処理液を工業的に容易にめっき鋼材に塗装、成膜できるからである。
【0039】
<皮膜中の各成分比率、皮膜付着量>
本発明の耐熱変色性防錆皮膜では、(A)ジルコニル基(>Zr=O、−Zr−O−またはジルコニルイオンZrO2+)の1種または2種以上と(B)硫酸イオン(SO2−)、亜硫酸イオン(SO2−)、二亜硫酸イオン(S2−)、よう素酸イオン(IO)、よう化物イオン(I)または臭素酸イオン(BrO)の1種または2種以上を構成主成分とし、(A)と(B)の質量比A:Bが60:40〜99:1で、好ましくは、質量比A:Bが75:25〜98:2である。(A)と(B)の合計質量に対する(B)成分の相対質量比が1質量%未満の場合、アルミニウム系めっき面の防錆効果が高い硫酸アルミニウム系化合物、亜硫酸アルミニウム系化合物、二亜硫酸アルミニウム系化合物、よう素酸アルミニウム系化合物、よう化アルミニウム系化合物または臭素酸アルミニウム系化合物がめっき面に極僅少量しか生成しないため、防錆性が不足する。また、(A)と(B)の合計質量に対する(B)成分の相対質量比が40質量%を超える場合、皮膜中にて、(A)成分を含む高分子量の架橋重合体やそれに付随する架橋ネットワークの生成量が少なくなるため、湿潤環境下で(B)成分を皮膜中に保持できず、鋼材使用中に皮膜中の(B)成分の多くが流出して防錆性が不足したり、(B)流出部位の皮膜の緻密性が損なわれたりする。
【0040】
また、本発明の耐熱変色性防錆皮膜の付着量は、0.05〜2g/m2 の範囲であり、好ましくは0.1〜1g/m2 である。0.05g/m2 未満では、皮膜が薄すぎて(A)成分の腐食因子のバリア効果が小さく、かつ、(B)成分が少なすぎて自己修復効果が小さく、十分な防錆性が得られない。2g/m2 を超えると、腐食因子のバリア効果は優れるが、皮膜外観が損なわれ、かつ加工性も劣るため実用的でない。
【0041】
また、本発明の耐熱変色性防錆皮膜が、更に、オルトりん酸イオン、亜りん酸イオン、次亜りん酸イオン、ポリりん酸イオンまたはメタりん酸イオンの1種または2種以上(C)を含む場合、皮膜に含まれる前記(A)と(C)の質量比A:Cを60:40〜99:1とするのが好ましい。皮膜中の(A)と(C)の合計質量に対する(C)成分の相対質量比が1質量%未満の場合、(C)成分による防錆効果が十分に発揮されない。また、(A)と(C)の合計質量に対する(C)成分の相対質量比が40質量%を超える場合、皮膜中にて、(A)成分を含む高分子量の架橋重合体やそれに付随する架橋ネットワークの生成量が少なくなるため、湿潤環境下で(C)成分を皮膜中に保持できず、鋼材使用中に皮膜中の(C)成分の多くが流出して防錆性が不足したり、(C)流出部位の皮膜の緻密性が損なわれたりする。
【0042】
<水性表面処理液中の各成分比率、皮膜付着量>
本発明の水性表面処理液は、前記のジルコニル化合物の1種または2種以上(a)と、前記のS、IまたはBr含有無機塩の1種または2種以上(b)を主成分とする水性表面処理液であって、前記処理液に含まれる不揮発分質量のうち、前記(a)と前記(b)の質量比a:bが60:40〜99:1で、好ましくは、質量比a:bが75:25〜98:2である。表面処理液中の(a)と(b)の合計質量に対する(b)成分の相対質量比が1質量%未満の場合、このような表面処理液を塗布して表面被覆しためっき鋼材を使用中に、アルミニウム系めっき面の防錆効果が高い硫酸アルミニウム系化合物、亜硫酸アルミニウム系化合物、二亜硫酸アルミニウム系化合物、よう素酸アルミニウム系化合物、よう化アルミニウム系化合物または臭素酸アルミニウム系化合物がめっき面に極僅少量しか生成しないため、防錆性が不足する。また、表面処理液中の(a)と(b)の合計質量に対する(b)成分の相対質量比が40質量%を超える場合、このような処理液を塗布して形成した皮膜中にて、前記(A)成分を含む高分子量の架橋重合体やそれに付随する架橋ネットワークの生成量が少なくなるため、湿潤環境下で(B)成分を皮膜中に保持できず、鋼材使用中に皮膜中の(B)成分の多くが流出して防錆性が不足したり、(B)流出部位の皮膜の緻密性が損なわれたりする。
【0043】
前記表面処理液中に更に、前記のP含有無機塩から選ばれる1種または2種以上(c)を含む場合、表面処理液中の前記処理液に含まれる不揮発分質量のうち、前記(a)と前記(c)の質量比a:cが60:40〜99:1で、好ましくは、質量比a:cが75:25〜98:2である。表面処理液中の(a)と(c)の合計質量に対する(c)成分の相対質量比が1質量%未満の場合、このような処理液を塗布して形成した皮膜中にて、(C)成分による防錆効果が十分に発揮されない。また、表面処理液中の(a)と(c)の合計質量に対する(c)成分の相対質量比が40質量%を超える場合、このような処理液を塗布して形成した皮膜中にて、(A)成分を含む高分子量の架橋重合体やそれに付随する架橋ネットワークの生成量が少なくなるため、湿潤環境下で(C)成分を皮膜中に保持できず、鋼材使用中に皮膜中の(C)成分の多くが流出して防錆性が不足したり、(C)流出部位の皮膜の緻密性が損なわれたりする。
【0044】
<(A)(B)(C)以外の皮膜構成化合物>
本発明の耐熱変色性防錆処理アルミニウム系めっき鋼材には、前記(A)成分、(B)成分、(C)成分以外に、その目的を損なわない範囲で、各種の化合物を含んでいても差し支えない。このような化合物の例としては、各種の無機系または有機系コロイド粒子(コロイド粒子とは、分散媒に分散している大きさ1〜1000nmの微粒子)、コロイド粒子より小さな、または大きな粒子、無機系または有機系防錆剤、シロキサン結合を有する化合物、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、各種の無機酸や有機酸、無機系または有機系潤滑剤、無機系または有機系顔料、有機樹脂等が挙げられる。これらのうち、有機系化合物は、加熱により劣化する場合が多いため、必要な最少の使用量に抑え、めっき上の皮膜が長時間加熱後も劣化せずに、耐熱変色性、防錆性を保持するよう留意する必要がある。
【0045】
本発明にて、水性表面処理液をめっき面に塗布する成膜方法を用いる場合、前記コロイド粒子などの微粒子状の添加剤は、表面処理液に直接添加しても、予め水に溶解、分散あるいは懸濁させてから表面処理液に添加してもよい。しかしながら、微粒子状の添加剤と水との濡れ性を高めるため湿潤剤を用いたり、表面処理液中での微粒子の分散性を高めるため分散剤(界面活性剤)を用いたり、湿潤剤と分散剤を併用したり、微粒子の沈降を防ぐため増粘剤を添加したりする場合は、これらの薬剤が、加熱により劣化する有機化合物である場合が多いため、必要な最少の使用量に抑え、形成皮膜が長時間加熱後も劣化せずに、優れた耐熱変色性や防錆性を保持するよう留意する必要がある。
【0046】
<めっき鋼材の表面処理方法>
本発明の耐熱変色性防錆処理アルミニウム系めっき鋼材において、めっき表面への皮膜形成方法は、前記(A)成分と前記(B)成分を所定量含む耐熱変色性防錆皮膜を形成する方法であれば、特に限定しない。このような方法としては、例えば、前記(a)成分と前記(b)成分の所定量を水や極性有機溶媒中に溶解あるいは微細分散した表面処理液をめっき鋼材に塗布し、加熱乾燥する方法、前記(a)成分と前記(b)成分の所定量を主成分とするフィルムをめっき面に貼付する方法、また、めっき面上での気相反応により、前記(a)成分と前記(b)成分の所定量を含む架橋高分子をめっき表面に成長させる方法などがあるが、他の方法で皮膜形成させてもよく、ここで掲げた方法に限定しない。しかしながら、これらの方法の中で、表面処理液を塗布する方法が好ましい。この方法では、皮膜を被覆するめっきの表面形状や粗度などに関わらず、また容易にかつ安価に皮膜を形成できる。その際に用いる溶媒は、本発明のめっき鋼材を製造する際の現場環境や大気汚染への配慮から、有機溶媒でなく水を用い、水性表面処理液とするのが好ましい。
【0047】
水性表面処理液の具体的な塗布方法としては、例えば、表面処理液へのめっき鋼材のディップ、表面処理液のロ−ルコ−ト、バ−コ−ト、刷毛塗り、あるいはスプレ−等の後、熱風等で加熱乾燥すればよいが、他の方法で塗布、皮膜形成させてもよく、ここで掲げた方法に限定しない。しかしながら、安定製造の観点から、塗布後、めっき鋼材の表面到達温度が常温〜250℃の範囲になるようにして加熱乾燥し、成膜することが好ましく、50℃〜200℃の範囲とすることがより好ましい。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例及び比較例によって具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例により限定されるものではない。
【0049】
1.アルミニウム系めっき鋼材の作製
厚さ0.8mmの冷延鋼板を溶融めっきラインに通板し、組成を振ったAl-Siめっきを実施した。いずれの鋼板も、めっき付着量を約40g/mに調整した。こうして製造しためっき鋼板をアルミニウム系めっき鋼材の被験材として使用した。
【0050】
2.脱脂処理
上記の被験材をアルカリ脱脂剤ファインクリーナー4336(日本パーカライジング(株)製)で脱脂処理(濃度20g/l、温度60℃、20秒間スプレー)した後、蒸留水で洗浄した。
【0051】
3.水性表面処理液の調製
ジルコニル化合物(a)、S、IまたはBr含有無機塩(b)、P含有無機塩(c)を表1〜9に示す質量比で蒸留水に添加し、本発明の水性表面処理液を調製した。比較液として、本発明に定める(a)と(b)、(a)と(c)の質量比を逸脱した水性表面処理液や、Cr付着量約15mg/m2 の塗布型クロメ−ト(主成分はクロム酸)処理液も調製した。
【0052】
4.水性表面処理液による成膜
前記3.の水性表面処理液を、バーコーターにて前記2.で脱脂処理した直後の被験材上に塗布し、到達板温80℃で乾燥した。皮膜付着量(g/m )は、水性表面処理液中の不揮発分濃度またはバーコーター番手を変えることにより適宜調整した。
【0053】
5.性能評価
(1)表面外観
前記4.にて水性表面処理液を塗布、加熱乾燥した被験材の表面外観を、以下の基準で目視評価した。
◎: 前記1.のアルミニウム系めっき鋼材と同程度の光沢があり、美麗な金属外観を有している
○: 前記1.のアルミニウム系めっき鋼材よりやや光沢が少ないが、比較的良好な金属外観を有する
△: 光沢が少ないが、金属性の外観を有する
×: 光沢が殆どなく、金属性の外観でない
(2)平板耐食性
前記4.にて水性表面処理液を塗布、加熱乾燥した被験材を、加工しない状態で塩水噴霧試験(JIS−Z2371)に供し、72時間後の白錆発生面積率を測定し、以下の基準で評価した。
◎: 白錆発生なし
○: 白錆発生面積率2%未満
△: 2%以上、5%未満
×: 5%以上
(3)加工部耐食性
前記4.にて水性表面処理液を塗布、加熱乾燥した被験材を、エリクセン試験機を用いて6mm高さに張出加工した後、塩水噴霧試験(JIS−Z2371)に供し、72時間後の加工部の白錆発生面積率を測定し、以下の基準で評価した。
◎: 白錆発生面積率2%未満
○: 2%以上、5%未満
△: 5%以上、30%未満
×: 30%以上
(4)加熱時の耐熱変色性
前記4.にて水性表面処理液を塗布、加熱乾燥した被験材を、大気下にて、300℃で10分間、あるいは300℃で200時間加熱処理した。これらの被験材について、加熱前の表面色を基準とした加熱後の表面変色を、色彩色差計にて測定した。表面色の数値化はL表色系で行い、加熱前後の色差は、ΔE=((ΔL)+(Δa)+(Δb)1/2により計算した。ここで、L(明度)は白黒の程度を表す指標で、正の数値で大きいほど際立った鮮やかな白を表す。また、a、b(色度)は、それぞれ、赤(正の数値)と緑(負の数値)、黄(正の数値)と青(負の数値)の色相バランスを表す指標で、絶対値が大きいほど色鮮やかで、絶対値が小さいほどくすんだ色であることを表す。また、ΔL=(加熱後のL)−(加熱前のL)、Δa=(加熱後のa)−(加熱前のa)、Δb=(加熱後のb)−(加熱前のb) を示す。ここでは、得られたΔEを用い、以下の基準で評価した。
◎: ΔEが2未満
○: 2以上、3未満
△: 3以上、4未満
×: 4以上
(5)加熱後の耐食性
前記(4)にて300℃で200時間加熱処理した被験材を加工せずに塩水噴霧試験(JIS−Z2371) に供し、72時間後の加工部の白錆発生面積率を測定し、以下の基準で評価した。
◎: 白錆発生面積率2%未満
○: 2%以上、5%未満
△: 5%以上、30%未満
×: 30%以上
【0054】
以上の評価結果をまとめて表1〜9に示す。表に示したNo.104、127、No.140、No.153は、それぞれ、めっき組成がAl-10%Si、Al-8%Si、Al-6%Si、Al-14%Siのめっき鋼板のクロメート処理材である。
【0055】
本発明の要件を満たす耐熱変色性防錆処理アルミニウム系めっき鋼材は、同じ組成のめっき鋼板にクロメート処理した比較材のレベルに概ね匹敵する良好な耐食性、耐熱変色性、加熱処理後の耐食性を発現することがわかる。また、本発明の要件を満たす範囲内で(a)、(b)成分だけでなく更に(c)成分を水性表面処理液に添加すると、300℃加熱処理後の耐食性が更に良好となる傾向がある。
【0056】
一方、本発明の水性表面処理液の主たる構成成分である(a)成分及び(b)成分の質量比が本発明で許容される範囲を逸脱している場合、皮膜を形成した被験材の耐食性は、同じ組成のめっき鋼板にクロメート処理した比較材のレベルに全く及ばない。また、皮膜付着量が本発明で許容される範囲を逸脱している場合、耐熱変色性または耐食性が劣る。特に、皮膜付着量が本発明の許容範囲を超えている場合は表面外観も劣る。
【0057】
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【表5】

【表6】

【表7】

【表8】

【表9】

【産業上の利用可能性】
【0058】
以上述べてきたように、本発明によれば、クロメートやふっ素化合物などの環境負荷物質、生体負荷物質を含まず、かつクロメート皮膜レベルの優れた防錆性、耐熱変色性、加熱後の防錆性を有する耐熱変色性防錆皮膜で表面処理した、金属外観表面を有するアルミニウム系めっき鋼材を提供することができる。そのため、本発明によるアルミニウム系めっき鋼材は、トースター、オーブントースター、炊飯器など加熱環境で繰返し使用される調理家電製品などの、熱変色せず錆びにくい構造部材として、特に、それらの構造部材のうち、食品が直接接触する部材用途に対しても、安心して用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ジルコニル基(>Zr=O、−Zr−O−またはジルコニルイオンZrO2+)の1種または2種以上と(B)硫酸イオン(SO2−)、亜硫酸イオン(SO2−)、二亜硫酸イオン(S2−)、よう素酸イオン(IO)、よう化物イオン(I)または臭素酸イオン(BrO)の1種または2種以上を構成主成分とし、(A)と(B)の質量比A:Bが60:40〜99:1で、かつ、付着量が0.05〜2g/m2 の範囲である耐熱変色性防錆皮膜で被覆されたアルミニウム系めっき鋼材。
【請求項2】
前記皮膜中に更に、(C)オルトりん酸イオン(PO3−)、亜りん酸イオン(PHO2−)、次亜りん酸イオン(PH)、ポリりん酸イオン(オルトりん酸の直鎖状重合体Hx+23x+1(xは2〜6の整数)から全てのHイオンを除いたP3x+1(x+2)−)またはメタりん酸イオン(オルトりん酸の環状重合体(HPO)(yは3〜6の整数)から全てのHイオンを除いた(PO)y−)から選ばれる1種または2種以上を含み、前記(A)と(C)の質量比A:Cが60:40〜99:1である請求項1記載の耐熱変色性防錆皮膜で被覆されたアルミニウム系めっき鋼材。
【請求項3】
前記皮膜中で、前記(B)成分を含む化合物が、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム、遷移金属またはNHの硫酸塩、硫酸水素塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、二亜硫酸塩、二亜硫酸水素塩、よう素酸塩、よう化物、臭素酸塩またはこれらの複塩から選ばれる1種または2種以上である請求項1または2記載の耐熱変色性防錆皮膜で被覆されたアルミニウム系めっき鋼材。
【請求項4】
前記皮膜中で、前記(B)成分を含む化合物が、Li、Na、K、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Y3+、La3+、Ce3+、Ce4+、Pr3+、Nd3+、Ti4+、Zr4+、Mo6+、W6+、Mn2+、Fe2+、Fe3+、Co2+、Ni2+、Cu2+、Ag、Zn2+、Al3+、NHの硫酸塩、硫酸水素塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、二亜硫酸塩、二亜硫酸水素塩、よう素酸塩、よう化物、臭素酸塩またはこれらの複塩から選ばれる1種または2種以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の耐熱変色性防錆皮膜で被覆されたアルミニウム系めっき鋼材。
【請求項5】
前記皮膜中で、前記(B)成分を含む化合物が、Na、K、Mg2+、Ca2+、Mn2+、Fe2+、Fe3+、Cu2+、Zn2+、Al3+、NHの硫酸塩、硫酸水素塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、二亜硫酸塩、二亜硫酸水素塩、よう素酸塩、よう化物、臭素酸塩またはこれらの複塩から選ばれる1種または2種以上である請求項1〜4のいずれか1項に記載の耐熱変色性防錆皮膜で被覆されたアルミニウム系めっき鋼材。
【請求項6】
前記皮膜中で、前記(B)成分を含む化合物が、硫酸ナトリウム(NaSO)、硫酸カリウム(KSO)、硫酸アルミニウム(Al(SO))、硫酸アンモニウム((NH)SO)、硫酸ナトリウムアルミニウム(AlNa(SO);NaとAl3+の硫酸塩の複塩)、硫酸カリウムアルミニウム(AlK(SO);KとAl3+の硫酸塩の複塩)、硫酸アンモニウムアルミニウム(Al(NH)(SO);NHとAl3+の硫酸塩の複塩)、硫酸亜鉛(ZnSO)、硫酸カルシウム(CaSO)、硫酸銅(CuSO)、硫酸第一鉄(FeSO)、硫酸第二鉄(Fe(SO))、硫酸マグネシウム(MgSO)、硫酸マンガン(MnSO)、亜硫酸ナトリウム(NaSO)、亜硫酸水素ナトリウム(NaHSO)、亜硫酸水素カリウム(KHSO)、二亜硫酸ナトリウム(Na)、二亜硫酸カリウム(K)、よう素酸カリウム(KIO)、よう素酸カルシウム(Ca(IO))、よう化カリウム(KI)、よう化銅(I)(CuI)、臭素酸カリウム(KBrO)から選ばれる1種または2種以上である請求項1〜5のいずれか1項に記載の耐熱変色性防錆皮膜で被覆されたアルミニウム系めっき鋼材。
【請求項7】
前記皮膜中で、前記(C)成分を含む化合物が、りん酸二水素カルシウム(Ca(HPO)、りん酸水素カルシウム(CaHPO)、りん酸三カルシウム(Ca(PO))、りん酸二水素ナトリウム(NaHPO)、りん酸水素二ナトリウム(NaHPO)、りん酸三ナトリウム(NaPO)、りん酸ナトリウムアルミニウム(NaAl14(PO))、りん酸水素二カリウム(KHPO)、りん酸二水素アンモニウム(NHPO)、りん酸水素二アンモニウム((NH)HPO)、りん酸第一鉄(FePO)、りん酸水素マグネシウム(MgHPO)、りん酸三マグネシウム(Mg(PO))、次亜りん酸ナトリウム(NaPH)から選ばれる1種または2種以上である請求項2〜6のいずれか1項に記載の耐熱変色性防錆皮膜で被覆されたアルミニウム系めっき鋼材。
【請求項8】
(a)ジルコニル基(>Zr=O、−Zr−O−またはジルコニルイオンZrO2+)のZrに炭素数が0〜4個の配位子が配位したジルコニル化合物から選ばれる1種または2種以上と、(b)硫酸イオン(SO2−)、亜硫酸イオン(SO2−)、二亜硫酸イオン(S2−)、よう素酸イオン(IO)、よう化物イオン(I)または臭素酸イオン(BrO)を分子中に有するS、IまたはBr含有無機塩から選ばれる1種または2種以上を不揮発分の主成分とする水性表面処理液であって、前記処理液に含まれる不揮発分質量のうち、前記(a)と前記(b)の質量比a:bが60:40〜99:1であることを特徴とする水性表面処理液。
【請求項9】
前記処理液中に更に、(c)オルトりん酸イオン(PO3−)、亜りん酸イオン(PHO2−)、次亜りん酸イオン(PH)、ポリりん酸イオン(オルトりん酸の直鎖状重合体Hx+23x+1(xは2〜6の整数)から全てのHイオンを除いたP3x+1(x+2)−)またはメタりん酸イオン(オルトりん酸の環状重合体(HPO)(yは3〜6の整数)から全てのHイオンを除いた(PO)y−)を分子中に有するP含有無機塩から選ばれる1種または2種以上を含み、前記(a)と前記(c)の質量比a:cが60:40〜99:1であることを特徴とする請求項8記載の水性表面処理液。
【請求項10】
前記(a)が、炭酸ジルコニウムアンモニウム((NH)ZrO(CO))、炭酸ジルコニウムナトリウム(NaZrO(CO))、炭酸ジルコニウムカリウム(KZrO(CO))、炭酸ジルコニル(ZrOCO)、硫酸ジルコニル(ZrOSO)、硝酸ジルコニル(ZrO(NO))、りん酸二水素ジルコニル(ZrO(HPO))、塩化ジルコニル(ZrOCl)、塩基性塩化ジルコニル(ZrO(OH)Cl)、水酸化ジルコニウム(ZrO(OH))、蟻酸ジルコニル(ZrO(HCOO))、酢酸ジルコニル(ZrO(CHCOO))、プロピオン酸ジルコニル(ZrO(CCOO))、n-酪酸ジルコニル(ZrO(CCOO))、イソ酪酸ジルコニル(ZrO((CH)CHCOO))、蓚酸(HOOC-COOH)とジルコニルイオンの塩、または、これらの塩から少なくとも一部のアニオンが解離したカチオン、または、前記の塩やカチオンに水(HO)やヒドロキシル基(OH)が配位した水和錯体、水和錯イオン、ヒドロキシル錯体またはヒドロキシル錯イオンから選ばれる1種または2種以上である請求項8または9に記載の水性表面処理液。
【請求項11】
前記(b)が、硫酸ナトリウム(NaSO)、硫酸カリウム(KSO)、硫酸アルミニウム(Al(SO))、硫酸アンモニウム((NH)SO)、硫酸ナトリウムアルミニウム(AlNa(SO);NaとAl3+の硫酸塩の複塩)、硫酸カリウムアルミニウム(AlK(SO);KとAl3+の硫酸塩の複塩)、硫酸アンモニウムアルミニウム(Al(NH)(SO);NHとAl3+の硫酸塩の複塩)、硫酸亜鉛(ZnSO)、硫酸カルシウム(CaSO)、硫酸銅(CuSO)、硫酸第一鉄(FeSO)、硫酸第二鉄(Fe(SO))、硫酸マグネシウム(MgSO)、硫酸マンガン(MnSO)、亜硫酸ナトリウム(NaSO)、亜硫酸水素ナトリウム(NaHSO)、亜硫酸水素カリウム(KHSO)、二亜硫酸ナトリウム(Na)、二亜硫酸カリウム(K)、よう素酸カリウム(KIO)、よう素酸カルシウム(Ca(IO))、よう化カリウム(KI)、よう化銅(I)(CuI)、臭素酸カリウム(KBrO)から選ばれる1種または2種以上である請求項8〜10のいずれか1項に記載の水性表面処理液。
【請求項12】
前記(c)が、りん酸二水素カルシウム(Ca(HPO)、りん酸水素カルシウム(CaHPO)、りん酸三カルシウム(Ca(PO))、りん酸二水素ナトリウム(NaHPO)、りん酸水素二ナトリウム(NaHPO)、りん酸三ナトリウム(NaPO)、りん酸ナトリウムアルミニウム(NaAl14(PO))、りん酸水素二カリウム(KHPO)、りん酸二水素アンモニウム(NHPO)、りん酸水素二アンモニウム((NH)HPO)、りん酸第一鉄(FePO)、りん酸水素マグネシウム(MgHPO)、りん酸三マグネシウム(Mg(PO))、次亜りん酸ナトリウム(NaPH)から選ばれる1種または2種以上である請求項9に記載の水性表面処理液。
【請求項13】
アルミニウム系めっき鋼材表面の少なくとも一部に、請求項8〜12のいずれかに記載の水性表面処理液を塗布した後、前記めっき鋼材の表面温度を常温〜250℃として乾燥してなる耐熱変色性防錆皮膜を有することを特徴とする耐熱変色性防錆処理アルミニウム系めっき鋼材。

【公開番号】特開2011−1629(P2011−1629A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110334(P2010−110334)
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】