説明

耐熱射出成形品

【課題】溶融重合にて得られたポリトリメチレンテレフタレート(PTT)樹脂を用いて、外観及び高温時の白化防止に優れる無塗装耐熱射出成形品を提供すること。
【解決手段】環状ダイマーの含有量が2〜5質量%のポリトリメチレンテレフタレート樹脂(A)20〜90質量%、不飽和ニトリル単量体とスチレン系単量体及びこれらと共重合可能な一種又は二種以上の単量体からなるスチレン系樹脂(B)10〜80質量%を含むポリトリメチレンテレフタレート樹脂組成物を含む耐熱射出成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外観及び高温時の白化防止に優れる溶融重合にて得られたポリトリメチレンテレフタレート(PTT)樹脂を用いた耐熱射出成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年ポリトリメチレンテレフタレート短繊維(PTT短繊維)は新たな素材として着目されている(特許文献1参照)。PTT短繊維は、テレフタル酸と1.3プロパンジオール(PDC)とのエステル単位を質量比で85%以上含む長鎖状合成高分子からなる繊維である。PTTはポリエチレンテレフタレート(PET)に比べて分子構造が緻密で滑らかなためソフトな肌触りであり、かつ、延伸性、復元性、柔軟性、形状安定性、かさ高性、染色性、防汚性に優れている。このため、PTTから作られた製品は優れた耐久性を有する。PTTの原料たるテレフタル酸とプロパンジオールは本来石油由来であるが、近年のバイオテクノロジーの発達によって、プロパンジオールについてはこれをトウモロコシから製造することが可能となった。このような特性を生かし、PTTは繊維用としては、カーペット、防しわ性の背広等に採用され近年生産量も増加している。
【0003】
しかし、PTT短繊維はPET繊維に比較してオリゴマの析出量が多いという問題点を持っている。チップを溶融、製糸する工程で発生し製糸工程を汚染し、生産性を低下させるばかりでなく、先染め糸として染色加工を実施した場合や、仮撚加工、織編物製造工程などの後工程における熱付与時にオリゴマが析出し粉が吹くという欠点があった(特許文献2)。このオリゴマ(主に環状ダイマー)の問題を解決するためPTT繊維では溶融重合にて得られたPTT(melt-PTT)を、さらに固層重合(solid-PTT)しなければならなかった(特許文献3)。
【0004】
一方、固層重合を行った射出成形用のPTTとしては、ポリカーボネート(PC)とのアロイの繊維強化品や、スチレン系樹脂とのアロイ(特許文献4,5)等いろいろな組成物が検討され、車の内装材等に採用されている。
【0005】
しかし、PTT短繊維と同様に樹脂成形品においても熱エージング等の試験を行うと環状ダイマーが析出するという問題点があり、通常の溶融重合後さらに固層重合を行った固層重合PTT(Solid-PTT)を用いなければならなかった。Solid-PTTを用いたアロイは、melt-PTTを用いたアロイに比べ耐熱性環境試験において白い粉が吹く問題を解決する為に使用されているものだが、コストが高い為採用が進まずmelt-PTTを用いたアロイの開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−288660号公報
【特許文献2】特開2009−150023号広報
【特許文献3】特開8−311177号広報
【特許文献4】特開2008−156507広報
【特許文献5】特開2003−20389広報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の通り、溶融重合にて得られたPTTを用いたPTT樹脂組成物では耐熱性環境試験において白い粉を吹くという問題を解決する事が困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上述の問題を解決するために鋭意検討した結果、上記耐熱環境試験においての粉吹き現象の原因である環状ダイマーの析出を、melt-PTTにスチレン系樹脂を添加する事によってその粉吹きを抑制する事が可能である事を発見した。また、驚くべき事にその無機充填剤強化品は、Solid−PTT単体や、Solid−PTTとPCアロイの無機充填組成物より成形品外観に優れている事が解った。
【0009】
即ち、本発明は、
(1)環状ダイマーの含有量が2〜5質量%のポリトリメチレンテレフタレート樹脂(A)20〜90質量%、不飽和ニトリル単量体とスチレン系単量体及びこれらと共重合可能な一種又は二種以上の単量体からなるスチレン系樹脂(B)10〜80質量%を含むポリトリメチレンテレフタレート樹脂組成物を含む耐熱射出成形品。
(2)環状ダイマーの含有量が2〜5質量%のポリトリメチレンテレフタレート樹脂(A)20〜90質量%、シアン化ビニル系単量体とスチレン系単量体及びこれらと共重合可能な一種又は二種以上の単量体からなるスチレン系樹脂(B)10〜75質量%、並びに無機充填材(C)5〜70質量%を含むポリトリメチレンテレフタレート樹脂組成物を含む耐熱射出成形品。
(3)(1)又は(2)記載のポリトリメチレンテレフタレート樹脂(A)が繊維のリサイクル品である耐熱射出成形品。
(4)(1)〜(3)のいずれか一つに記載の耐熱射出成形品が自動車内装品である、耐熱射出成形品。
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、溶融重合にて得られたPTTを用いて外観及び高温時の白化防止に優れる耐熱射出成形品を得る事が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明における環状ダイマーの含有量が2〜5質量%のポリトリメチレンテレフタレート(PTT)樹脂(A)について具体的に説明する。
まず、本発明におけるポリトリメチレンテレフタレートとは、酸成分としてテレフタル酸を用い、グリコール成分としてトリメチレングリコールを用いたポリエステルポリマーである。ここで、トリメチレングリコールとしては、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,1−プロパンジオール、2,2−プロパンジオール又はこれらの混合物の中から選ばれるが、優れた外観を得るためには結晶化速度の観点から1,3−プロパンジオールが特に好ましい。
【0012】
なお、本発明の目的を損なわない範囲で、酸成分として、テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸、例えばフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルメタンジカルボン酸、ジフェニルケトンジカルボン酸、ジフェニルスルフォンジカルボン酸等;コハク酸、アジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸;ε−オキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシエトキシ安息香酸等のオキシジカルボン酸を、また、グリコール成分として、エチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、オクタメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロ
ヘキサンジメタノール、キシリレングリコール、ジエチレングリコール、ポリオキシアルキレングリコール、ハイドロキノン等を用いて共重合したものも、本発明におけるPTTに含まれる。
【0013】
共重合する場合、共重合成分の量は、それぞれ通常、全酸成分の20モル%以下、或いは全グリコール成分の20モル%以下とすることが好ましい。
また、上述のポリエステル成分(酸成分、グリコール成分)に分岐成分、例えばトリカルバリル酸、トリメシン酸、トリメリット酸等の三官能又は四官能のエステル形成能を持つ酸、又はグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリット等の三官能又は四官能のエステル形成能を持つアルコールを共重合してもよい。その場合、これらの分岐成分の量は、好ましくは全酸成分又は全グリコール成分の1.0モル%以下、より好ましくは0.5モル%以下、さらに好ましくは0.3モル%以下である。更に、PTTはこれらの分岐成分を2種類以上組み合わせて使用しても構わない。
【0014】
ポリトリメチレンテレフタレート樹脂組成物中におけるポリトリメチレンテレフタレート樹脂(A)の量は、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂組成物の総質量に対して20〜90質量%とすることが好ましい。
【0015】
本発明で使用されるPTTの製造方法は、例えば、特開昭51−140992号公報、特開平5−262862号公報、特開平8−311177号公報等に記載されている方法に従えば良い。
【0016】
例えば、テレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体(例えばジメチルエステル、モノメチルエステル等の低級アルキルエステル)とトリメチレングリコール又はそのエステル形成性誘導体とを、触媒の存在下、好適な温度・時間で加熱反応させ、更に、得られたテレフタル酸のグリコールエステルを触媒の存在下、好適な温度・時間で所望の重合度まで重縮合反応させる方法が挙げられる。重合は、溶融重合により行い、これに界面重合、溶液重合、塊状重合を組み合わせて行うことができる。
【0017】
本発明におけるPTT樹脂組成物に用いられるPTT樹脂(A)の製造方法においては、固層重合は排除される。PTT樹脂は固層重合を行わないと、PTT樹脂中の環状ダイマー量が2〜5質量%になる。この環状ダイマー量は少ないほど良く、より好ましくは2〜3質量%である。環状ダイマーの量が5質量%を越えるとアロイ化による粉吹き低減の効果が充分ではなくなる。
【0018】
本発明におけるPTT樹脂組成物に用いられるPTT樹脂(A)の極限粘度については、機械特性、疲労特性の面から0.50以上であることが好ましく、0.60以上がより好ましく、0.70以上が最も好ましい。
また、本発明におけるPTTは、繊維用のPTTを用いたほうがコスト的にも環境的にも好ましい。繊維の生産においてはロット毎に溶融粘度が大きく変化したり、異物が混入していると繊維の生産時に連続生産ができなかったりするが、本発明における組成物は、例えその繊維の生産に不向きなアウトロット品や、製品からの回収で得られたリサイクル品のPTTの繊維を用いてもその性能が低下しない。
【0019】
melt-PTT(A)のPTT樹脂組成物全体に対する含有量は、20〜90質量%であり、好ましくは30〜70質量%だが、以下に述べるスチレン系樹脂(B)との比率が
スチレン系樹脂(B)/melt-PTT(A)=1/4〜2/3
である事が好ましい。より好ましくは1/4〜1/2である。比率を、1/4以上とすることで、熱エージング試験においての粉吹きの低減効果が高くなる。
Melt-PTT(A)の含有量は、PTT樹脂組成物とスチレン系樹脂のIRピークの差から求める事もできるし、アセトン等スチレン系樹脂が可溶でPTT樹脂組成物が不溶の溶媒を用いて分離し、重量を測定の上、含有量を求める事ができる。
【0020】
つぎに、不飽和ニトリル単量体とスチレン系単量体及びこれらと共重合可能な一種又は二種以上の単量体からなるスチレン系樹脂(B)について具体的に説明する。
【0021】
不飽和ニトリル単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。好ましくは、アクリロニトリルである。(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、ブチルアクリレート、エチルアクリレート等が挙げられる。
【0022】
共重合可能な他の単量体としてはスチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、クロルスチレン、アクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、クロロ無水マレイン酸、無水シトラコン酸が挙げられる。
【0023】
スチレン系樹脂(B)にはゴム質重合体を含むことができる。
【0024】
ゴム質重合体(b1)としては、具体的にはポリブタジエン(BR)、スチレン−ブタジエン共重合ゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム(NBR)等のジエン系ゴム、ポリアクリル酸ブチル等のアクリル系ゴム(AR)、ポリイソプレン(IR)、ポリクロロプレン(CR)、エチレン−プロピレンゴム(EPM)、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合ゴム(EPDM)、スチレン−ブタジエンブロック共重合ゴム、スチレン−イソプレンブロック共重合ゴム、等のブロック共重合体及びそれらの水素添加物等を使用することができる。
【0025】
これらの重合体の中で、好ましくは、BR、SBR、NBR、AR等が挙げられる。
【0026】
スチレン系樹脂(B)としては、ゴム質重合体(b1)に芳香族ビニル単量体及び不飽和ニトリル単量体を含む単量体混合物をグラフト重合させて得られるグラフト重合体、芳香族ビニル単量体及び不飽和ニトリル単量体を含む単量体混合物を共重合させて得られる重合体、ゴム質重合体(b1)に芳香族ビニル単量体、(メタ)アクリル酸エステル単量体及び不飽和ニトリル単量体を含む単量体混合物をグラフト重合させて得られるグラフト重合体、芳香族ビニル単量体、(メタ)アクリル酸エステル単量体及び不飽和ニトリル単量体を含む単量体混合物を共重合させて得られるグラフト重合体等、或いはこれらの混合物が挙げられる。
【0027】
より具体的には、スチレン系樹脂(B)としては、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体(ABS)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS)、(メタ)アクリル酸メチル−アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体(MABS)、アクリロニトリル−スチレン−アクリルゴム共重合体(ASA)、アクリロニトリル−スチレン−EPDM共重合体(AES)等が好ましい。
スチレン系樹脂(B)のPTT樹脂組成物全体に対する含有量は、10〜80質量%であり、より好ましくは30〜70質量%である。
スチレン系樹脂(B)の含有量は、PTT樹脂組成物とスチレン系樹脂のIRピークの差から求める事もできるし、アセトン等スチレン系樹脂が可溶でPTT樹脂組成物が不溶の溶媒を用いて分離し、重量を測定の上、含有量を求める事ができる。
【0028】
スチレン系樹脂(B)に含まれる不飽和ニトリル単量体単位の含有量は2〜40質量%であることが好ましい。これらのスチレン系樹脂のうち、アクリロニトリルを10〜40質量%含有しかつブタジエンゴムを10〜50質量%含有するABS、アクリロニトリルを20〜40質量%含有するAS、アクリロニトリルを2〜10質量%含有しかつブタジエンゴムを10〜50質量%含有するMABSがより好ましい。
【0029】
スチレン系樹脂(B)の製造方法としては、乳化重合、懸濁重合、塊状重合、溶液重合、及びこれら重合法の組み合わせ等の方法がある。
スチレン系樹脂のメルトフローレート(MFR:ISO1133)は、PTTとの相容性の観点から8〜50g/10分であることが望ましく、より好ましくは20〜50g/10分である。
【0030】
次に、本発明で用いられる無機充填材(C)について説明する。本発明における無機充填材としては、目的に応じて、繊維状無機充填材、粉粒状無機充填材及び板状無機充填材からなる群から選ばれる少なくとも1種の無機充填材が用いられる。
【0031】
繊維状無機充填材としては、ガラス繊維、炭素繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化硅素繊維、硼素繊維、チタン酸カリウムウィスカー、ウォラストナイト、さらにステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等の金属の繊維状物等の繊維状無機充填材が挙げられる。なお、無機充填材と併用して、ポリアミド、フッ素樹脂、アクリル樹脂等の高融点有機質繊維状物質も使用することができる。
【0032】
ここで、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂組成物中のガラス繊維の平均繊維長(以下、「L」ともいう)、平均繊維径(以下、「D」ともいう)、及びアスペクト比(以下、「L/D」ともいう)については、平均繊維長は、機械特性及び疲労特性の点から50μm以上であることが好ましく、100μm以上であることがさらに好ましく、150μm以上であることが最も好ましい。また、平均繊維径は、機械特性及び疲労特性の点から5μm以上であることが好ましく、さらにアスペクト比は10以上であることが好ましい。
【0033】
また、炭素繊維については、平均繊維長(L)が100〜750μm、平均繊維径(D)が3〜30μm、アスペクト比(L/D)が10〜100であるものが好ましく用いられる。さらに、ウォラストナイトは、平均繊維長が10〜500μm、平均繊維径が3〜30μm、アスペクト比(L/D)が3〜100のものが好ましく用いられる。
【0034】
粉粒状無機充填材としてはカーボンブラック、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、硅酸カルシウム、硅酸アルミニウム、カオリン、クレー、硅藻土のごとき硅酸塩、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナのごとき金属の酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムのごとき金属の炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムのごとき金属の硫酸塩、その他、炭化硅素、窒化硅素、窒化硼素等の各種金属粉末が挙げられる。なお、タルク、マイカ、カオリン、炭酸カルシウム、チタン酸カリウムについては、平均粒径が0.1〜100μmのものが最も好ましく用いられる。板状無機充填材としては、タルク、マイカ、ガラスフレーク、各種の金属箔等が挙げられる。
【0035】
無機充填材の中では、成形品の機械特性及び疲労特性の面から、ガラス繊維が最も好ましく用いられる。
【0036】
また、無機充填材は一種類のみとしても、二種以上を併用してもよい。本発明においては、ガラス繊維とガラス繊維以外の無機充填材との併用、特に、ガラス繊維と粒状及び/又は板状無機充填材との併用が、機械的強度と寸法精度、電気的性質等を兼備する上で好ましい。
【0037】
ポリトリメチレンテレフタレート樹脂組成物中における無機充填材(C)の量は、該樹脂組成物の総質量に対して5〜70質量%である。5質量%以上とすることで機械的強度への改良効果が得られ、70質量%以下とすることで成形品の外観が損なわれることもなく、かつ比重の増加につながることもない。充填材の定量としては、600−650℃の電気炉にて樹脂分を燃焼させ残渣を測定する方法やHFIPにて可溶分を除去する方法等が上げられる。
【0038】
無機充填材の表面処理としては、カップリング剤やフィルム形成剤を用いて行えばよい。なお、本発明においては、カップリング剤及びフィルム形成剤を併用することが好ましい。
【0039】
本発明におけるPTT樹脂(A)、スチレン系樹脂(B)、無機充填剤(C)の混合方法は、具体的には、ミキシングロール、バンバリーミキサー、加圧ニーダー等のバッチ式混練機、単軸押出機、2軸押出機等の連続式混練機が挙げられる。
【0040】
また、本発明の成形には、例えば射出成形、射出圧縮成形、押出成形、ブロー成形、インフレーション成形、真空成形、プレス成形等の方法を用いることができる。
【0041】
特に射出成形においては、樹脂が金型キャビティに充填される直前のキャビティ表面温度は好ましくは60℃以上、さらに好ましくは80℃以上、特に好ましくは100℃以上であると、キャビティ表面への転写性が向上し、さらに意匠性に優れた成形品を得ることができる。一般に、キャビティ表面温度を高くすると冷却までの時間が長くなるため、成形サイクルが長くなるという問題があったが、キャビティ表面を短時間で加熱冷却するヒートサイクル成形法を用いることで、意匠性の向上と生産性を両立することができる。
【0042】
本発明において、その目的に応じて公知の添加剤、例えば、可塑剤、滑剤(例えば、高級脂肪酸、及びその金属塩、高級脂肪酸アミド類等)、熱安定化剤、酸化防止剤(例えば、フェノール系、フォスファイト系、チオジブロプロピオン酸エステル型のチオエーテル等)、耐候剤(例えば、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系、シアノアクリレート系、蓚酸誘導体、ヒンダードアミン系等)、臭素系難燃剤(例えば、テトラブロモビスフェノールA及びその誘導体、テトラブロモビスフェノールS、テトラブロモ無水フタル酸、ヘキサブロモベンゼン、臭素化ジフェニルエーテル、臭素化ポリカーボネートオリゴマー及びその末端変性品、臭素化エポキシ樹脂(ビスフェノールAタイプ、ノボラックタイプ)及びその末端変性品、臭素化フェノキシ樹脂、トリスブロモフェニルフォスフェート、臭素化ポリスチレン、臭素化フェニレンエーテルオリゴマー等)、リン系難燃剤(トリフェニルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリフェニルチオホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリキシレニルチオホスフェート、ハイドロキノンビス(ジフェニルホスフェート)、レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)、ハイドロキノンビス(ジキシレニルホスフェート)等のホスフェート類、赤リン、ホスファゼン系化合物、ポリリン酸アンモニウム等)、難燃助剤(例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン等)、帯電防止剤(例えば、ポリアミドエラストマー、四級アンモニウム塩系、ピリジン誘導体、脂肪族スルホン酸塩、芳香族スルホン酸塩、芳香族スルホン酸塩共重合体、硫酸エステル塩、多価アルコール部分エステル、アルキルジエタノールアミン、アルキルジエタノールアミド、ポリアルキレングリコール誘導体、ベタイン系、イミダゾリン誘導体等)、抗菌剤、抗カビ剤、摺動性改良剤(例えば、低分子量ポリエチレン等の炭化水素系、高級アルコール、多価アルコール、ポリグリコール、ポリグリセロール、高級脂肪酸、高級脂肪酸金属塩、脂肪酸アミド、脂肪酸と脂肪族アルコールとのエステル、脂肪酸と多価アルコールとのフルエステル又は部分エステル、脂肪酸とポリグリコールとのフルエステル又は部分エステル、シリコーン系、フッ素樹脂系等)等をその目的に合わせて任意の割合で配合することができる。
【0043】
また、意匠性を付与する目的で、例えば無機顔料、有機系顔料、メタリック顔料、染料を添加することができる。
【0044】
無機顔料としては、例えば酸化チタン、カーボンブラック、チタンイエロー、酸化鉄系顔料、群青、コバルトブルー、酸化クロム、スピネルグリーン、クロム酸鉛系顔料、カドミウム系顔料などが挙げられる。
【0045】
有機顔料としては、例えばアゾレーキ顔料、ベンズイミダゾロン顔料、ジアリリド顔料、縮合アゾ顔料等のアゾ系顔料、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料、キナクリドン顔料、ペリレン顔料、アントラキノン顔料、ペリノン顔料、ジオキサジンバイオレット等の縮合多環系顔料などが挙げられる。
【0046】
メタリック顔料としては、例えばリン片状のアルミのメタリック顔料、ウェルド外観を改良するために使用されている球状のアルミ顔料、パール調メタリック顔料用のマイカ粉、その他ガラス等の無機物の多面体粒子に金属をメッキやスパッタリングで被覆したものなどが含まれる。
【0047】
染料としては、例えばニトロソ染料、ニトロ染料、アゾ染料、スチルベンアゾ染料、ケトイミン染料、トリフェニルメタン染料、キサンテン染料、アクリジン染料、キノリン染料、メチン/ポリメチン染料、チアゾール染料、インダミン/インドフェノール染料、アジン染料、オキサジン染料、チアジン染料、硫化染料、アミノケトン/オキシケトン染料、アントラキノン染料、インジゴイド染料、フタロシアニン染料等が挙げられる。
【0048】
本発明の耐熱射出成形品は、自動車の内装材向けに適している。車内は夏時等温度が上がる為に、車内の内装材は耐熱エージングの試験を行う。しかしながら、melt-PTTを用いた繊維強化品やアロイ品は、高温時に白い粉を吹くという問題があったため車の内装品に使用される事はなかった。本発明におけるPTT樹脂組成物を用いた耐熱射出成形品は、外観及び高温時の発火防止に優れるため車の内装品に適している。ここでいう車の内装品は、エアコンの噴出し口のブレードやフィン、スイッチ、レバー、ハンドル、前面パネル、センタークラスター、コンソール、ドアフィニッシャー、カップホルダー等である。特にスイッチやレバー、カップホルダー等、固定部品と摺動する部品には、本発明の耐熱射出成形品をGF等フィラーで強化し剛性及び表面を堅くしたものが摺動時の削れ等に優れている。
【実施例】
【0049】
以下実施例により本発明の効果を更に詳細に説明する。なお、使用したPTT樹脂組成物及びその配合剤は下記のとおりである。
【0050】
(A)PTT樹脂
ポリトリメチレンテレフタレート:CP-502901(Shell(株)製):solid-PTT
環状ダイマー含有量 1.06質量%
ポリトリメチレンテレフタレート:Cortera9200(PTTpolycanada製):melt-PTT
環状ダイマー含有量 2.6質量%
*「環状ダイマーの測定」
環状ダイマーの定量は、各試料をHFIP−d/CDCl=1/1の溶媒中5質量%に溶解しH−NMRを測定(積算回数256回)しテレフタル酸の芳香族環のHピークを用いて定量した。
(測定装置 日本電子社製JNM−LA400 400MHz)
【0051】
(B)スチレン系樹脂
ABS1 : ブタジエン濃度30%、スチレン42%、アクリロニトリル28%のA
BS樹脂
(ブタジエンを除いたAS部分のアクリロニトリル比40%のABS) MFR 5.0g/10分
AS1 : スチレン60%、アクリロニトリル40%のAS樹脂
MFR 18g/10分
(アクリロニトリル比40%のAS)
AS2 : スチレン75%、アクリロニトリル25%のAS樹脂
MFR 13g/10分
(アクリロニトリル比25%のAS)
PC110: ポリカーボネイト PC110(奇美実業製)
GF : ガラス繊維 ESC−03T−187(日本電気硝子製)
熱安定剤 : フェノール系熱安定剤 Irganox 1098
(BASFジャパン製)
着色剤 : カーボンブラック 三菱カーボン52(三菱化学製)
【0052】
1.成形品の作成及び物性
成形品は、射出成形機を用いて作成した。装置は日精樹脂(株)製PS40E、シリンダー温度260度、金型温度95℃に設定し、射出40秒、冷却20秒の射出成形条件で、成形品を得た。
(1−1)曲げ弾性率(Mpa)及び曲げ強度(Gpa)
ISO 178に準じて行った。
(1−2)引張強度(Mpa)及び引張伸度(%)
ISO 527−1に準じて行った。
(1−3)ノッチ付きシャルピー衝撃試験(kJ/m
ISO 179に準じて行った。
(1−4)メルトフローレート(g/10分)
ISO 1133に準じて行った。
【0053】
2.熱エージング試験
射出成形機で90mm×50mm×2.5mmの平板を成形し、その表面外観に関してJIS Z8729に準じて、下記熱エージング試験前を基準とし、各試験後のサンプルのL*a*b*を測定し色差(ΔE)を求めた。
【0054】
85℃x95%RHのギアオーブン内に上記平板を放置、100時間、250時間、500時間、又は1000時間でサンプルを取り出し、上記と同様に色差の測定を行った。粉吹きが多ければ多いほど平板は白くなりΔEが大きくなる。
【0055】
また、同サンプルを用いて粉吹きを目視にて判定した。
○:ほとんど粉吹きが見られない △:粉吹きが見られる X:平板全面が白くなった
【0056】
3.外観
住友SH100C射出成形機を用いて、シリンダー温度280度、金型温度95度で100mm×100mm×2mmの平板を成形し、その表面外観に関して、堀場製ハンディー光沢計IG320を用いて、JIS K7150に準じてGs60℃を測定した。また、射出速度変化させを、充填時間がそれぞれ2.3秒(低速)、1.5秒(中速)、0.7秒(高速)になるように調製し成形品を得た。
測定値が60以上の場合は○、60未満の場合は×とした。
外観の判定 外観が優良(○)、良(○)、可(△)、悪い(×)
【0057】
(実施例1〜5、比較例1〜4)
【0058】
PTT、ABS、AS、PC、ガラス繊維、熱安定剤、着色剤を表1に示した配合比でドライブレンドし、2軸押出機(東芝機械(株)製:TEM35、2軸同方向スクリュー回転型、L/D=47.6(D=37mmφ))を用いて溶融混練を行った。スクリュー回転数200rpm、シリンダー温度260−290℃(先端ノズル付近のポリマー温度は、300℃以上であった。)、レート60Kg/hr(滞留時間2分)、減圧度は0.04MPaで押出を行った。先端ノズルからストランド状にポリマーを排出し、水冷・カッティングを行いペレットとした。該ペレットを120℃の窒素雰囲気下で5時間乾燥しペレットを得た。得られたペレットを650度60分電気炉で燃焼させ残った灰分から画像解析を用いてガラス繊維(GF)の繊維長を測定した。
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の耐熱射出成形品は、外観及び高温時の白化防止に優れるため、自動車の内装材向けに適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状ダイマーの含有量が2〜5質量%のポリトリメチレンテレフタレート樹脂(A)20〜90質量%、不飽和ニトリル単量体とスチレン系単量体及びこれらと共重合可能な一種又は二種以上の単量体からなるスチレン系樹脂(B)10〜80質量%を含むポリトリメチレンテレフタレート樹脂組成物を含む耐熱射出成形品。
【請求項2】
環状ダイマーの含有量が2〜5質量%のポリトリメチレンテレフタレート樹脂(A)20〜90質量%、シアン化ビニル系単量体とスチレン系単量体及びこれらと共重合可能な一種又は二種以上の単量体からなるスチレン系樹脂(B)10〜75質量%、並びに無機充填材(C)5〜70質量%を含むポリトリメチレンテレフタレート樹脂組成物を含む耐熱射出成形品。
【請求項3】
請求項1又は2記載のポリトリメチレンテレフタレート樹脂(A)が繊維のリサイクル品である耐熱射出成形品。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の耐熱射出成形品が自動車内装品である、耐熱射出成形品。

【公開番号】特開2013−79295(P2013−79295A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218485(P2011−218485)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】