説明

耐熱性が改善された硬化性組成物

【課題】(A)成分として飽和炭化水素系重合体である、アリル基末端ポリイソブチレンを、(B)成分として変性ハイドロジェンポリシロキサン、(C)成分として白金ビニルシロキサン錯体触媒に、酸化防止剤としてヒンダードフェノール系安定剤、ヒンダードアミン系安定剤、ヒドロキシベンゾエート系安定剤の3種類を併用したものであっても、高温下における長期耐熱性の確保には限界が見られた。
【解決手段】(A)分子鎖末端に少なくとも1個のアルケニル基を有する、数平均分子量3,000〜50,000の飽和炭化水素系重合体重合体、(B)ヒドロシリル基含有化合物、(C)ヒドロシリル化触媒に加え、酸化防止剤として、(D)芳香族アミン系酸化防止剤を必須成分として使用することにより、特に圧縮永久歪みを主とする耐熱性に優れ、耐候性、耐吸水性、低気体/水蒸気透過性の良好な硬化物を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化反応により耐熱性に優れる架橋ゴムを形成する硬化性組成物、及びその架橋ゴムに関する。さらに詳しくは、1分子中に少なくとも1個のアルケニル基を有する飽和炭化水素系重合体と1分子中に少なくとも2個のヒドロシリル基を有する化合物、ヒドロシリル化触媒、芳香族アミン系酸化防止剤、を必須成分として含有し、硬化反応により耐熱性の高い飽和炭化水素系架橋ゴムを形成する飽和炭化水素系硬化性組成物、及びその架橋ゴムに関する。本発明の硬化性組成物から得られる飽和炭化水素系架橋ゴムは、極めて高い耐熱性を有し、各種成形体、接着剤・粘着剤、塗料、塗膜防止剤、シーリング剤、発泡体シーリング剤、電気・電子用ポッティング剤、医療用成形品などの、幅広い用途に利用できる。
【背景技術】
【0002】
従来より、(A)1分子中に1.1〜5個のアルケニル基を有する飽和炭化水素系重合体に相当するイソブチレン系重合体、(B)ケイ素原子に結合している水素原子を1分子中に少なくとも2個有するポリオルガノハイドロジェンシロキサン、並びに(C)白金触媒からなる硬化性組成物が知られている(特許文献1)。該組成物は、付加反応を利用していることから収縮が小さく、深部硬化性に優れる硬化物を与え、さらには、この硬化物は、主成分が飽和炭化水素であるため、優れた耐候性、耐熱性を有するとされている。
また、(A)成分として飽和炭化水素系重合体である、アリル基末端ポリイソブチレンを、(B)成分として変性ハイドロジェンポリシロキサン、(C)成分として白金ビニルシロキサン錯体触媒に、(D)成分としてヒンダードフェノ-ル系安定剤、イオウ系安定剤の2種類を併用することにより、硬化性および初期機械物性の大幅な低下がなく、耐熱性を向上させた硬化物が得られることが示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−214016号公報
【特許文献2】特開2008−266393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記の硬化組成物、すなわち(A)成分として飽和炭化水素系重合体である、アリル基末端ポリイソブチレンを、(B)成分として変性ハイドロジェンポリシロキサン、(C)成分として白金ビニルシロキサン錯体触媒に、酸化防止剤としてヒンダードフェノール系安定剤、ヒンダードアミン系安定剤、ヒドロキシベンゾエート系安定剤の3種類を併用したものであっても、高温下における長期耐熱性の確保には限界が見られる。
一方、自動車分野などを中心に耐熱性の要求レベルは着実に高まっており、弾性体としてガスケットやシール材などとして使用される架橋ゴムに対しても、圧縮永久歪みを主とする長期耐熱の要求は高まっており、より耐熱性の改善された架橋ゴムが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は種々の検討を行った結果、(A)分子鎖末端に少なくとも1個のアルケニル基を含有する数平均分子量3,000〜50,000の飽和炭化水素系重合体、(B)ヒドロシリル基含有化合物、(C)ヒドロシリル化触媒に加え、酸化防止剤として、(D)芳香族アミン系酸化防止剤を必須成分として含有する硬化性組成物において、硬化反応により得られる飽和炭化水素系架橋ゴムは、極めて高い耐熱性を有することを見出し、本発明の完成に至った。
【0006】
本発明者らは、上述の現状に鑑み、鋭意検討した結果、(A)分子鎖末端に少なくとも1個のアルケニル基を含有する数平均分子量3,000〜50,000の飽和炭化水素系重合体、(B)ヒドロシリル基含有化合物、(C)ヒドロシリル化触媒に加え、酸化防止剤として、(D)芳香族アミン系酸化防止剤からなることを特徴とする硬化性組成物を用いることにより上記課題を改善できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、分子鎖末端に少なくとも1個のアルケニル基を有する、数平均分子量3,000〜50,000の飽和炭化水素系重合体重合体(A)、(B)ヒドロシリル基含有化合物、(C)ヒドロシリル化触媒に加え、酸化防止剤として、(D)芳香族アミン系酸化防止剤からなることを特徴とする硬化性組成物である。
上記(D)成分は、ジフェニルアミン系化合物であることが好ましい。
上記(D)成分は、添加量が(A)100重量部に対して、1〜20重量部であることが好ましい。
上記硬化性組成物は、(E)成分として、更に保存安定剤を含有することができる。
上記(A)成分は、ポリイソブチレン系重合体であることが好ましい。
上記(A)成分は、飽和炭化水素系重合体中、イソブチレンに起因する繰り返し単位の総量が80重量%以上であることが好ましい。
上記(B)成分は、ポリオルガノハイドロジェンシロキサンであることが好ましい。
上記(D)成分のヒドロシリル化触媒は、白金化合物であることが好ましい。
上記硬化性組成物を、加熱成形することにより架橋ゴム成型体を得ることができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の硬化性組成物より得られる飽和炭化水素系架橋ゴムは、極めて高い耐熱性に加え、硬化性、耐薬品性、圧縮永久歪、ガスバリヤー性、制振性等に優れることから、電子機器、OA機器、医療機器、自動車、建築等の各分野で使用されるガスケット、Oリング、キャップ、コネクタ、シール材、キースイッチ、コンタクトラバー、各種ロール、防振ゴム、衝撃吸収材、ダイヤフラム、ポッティング材、接着剤、粘着材など、幅広い用途に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本発明の硬化性組成物について詳述する。
[(A)飽和炭化水素系重合体重合体]
本発明に用いる(A)成分は、分子中に少なくとも1個のヒドロシリル化反応可能なアルケニル基を有する飽和炭化水素系重合体である。ここで、飽和炭化水素系重合体とは、芳香環以外の炭素−炭素不飽和結合を実質的に含有しない重合体を意味する概念であり、該アルケニル基を除く主鎖を構成する繰り返し単位が炭化水素基から構成されることを意味する。但し、本発明の目的の一つである耐久性を損なわない範囲において、主鎖骨格中に炭素−炭素2重結合を少量、好ましくは10重量%以下の範囲で含有することは許容される。
【0009】
また、アルケニル基とは、ヒドロシリル化反応に対して活性のある炭素−炭素2重結合を含む基であれば特に制限されるものではない。アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、メチルビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等の脂肪族不飽和炭化水素基、シクロプロペニル基、シクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等の環式不飽和炭化水素基、メタクリル基等が挙げられる。これらの中では、ヒドロシリル化反応に対する活性が高い、アルケニル基の導入が比較的容易であるとの点から、アリル基であることが好ましい。アルケニル基の個数は少なくとも1個以上であれば限定されず、2個以上がより好ましい。アルケニル基の上限は5個が好ましく、3個以下がより好ましい。
【0010】
本発明における(A)成分は、上記ヒドロシリル化反応可能なアルケニル基が、飽和炭化水素系重合体の主鎖末端あるいは側鎖にあってもよいし、また両方にあってもよい。とくに、アルケニル基が主鎖末端にあるときは、最終的に形成される硬化物に含まれる飽和炭化水素系重合体成分の有効網目鎖量が多くなるため、高強度で高伸びのゴム状硬化物が得られやすくなるなどの点から好ましい。
【0011】
(A)成分の飽和炭化水素系重合体の骨格をなす重合体は、(1)エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブチレンなどのような炭素数2〜6のオレフィン系化合物を主成分として重合させる、(2)ブタジエン、イソプレンなどのようなジエン系化合物を単独重合させたり、上記オレフィン系化合物とジエン系化合物とを共重合させたりした後水素添加する、などの方法により得ることができるが、末端に官能基を導入しやすい、分子量を制御しやすい、末端官能基の数を多くすることができるなどの点から、イソブチレン系重合体、水添ポリブタジエン系重合体あるいは水添ポリイソプレン系重合体であるのが好ましい。
【0012】
前記イソブチレン系重合体は、単量体単位のすべてがイソブチレン単位から形成されていてもよく、イソブチレンと共重合性を有する単量体単位をイソブチレン系重合体中の好ましくは50重量%以下、更に好ましくは30重量%以下、特に好ましくは20重量%以下の範囲で含有してもよい。
【0013】
このような単量体成分としては、例えば炭素数4〜12のオレフィン、ビニルエ−テル、芳香族ビニル化合物、ビニルシラン類、アリルシラン類等が挙げられる。このような共重合体成分の具体例としては、例えば1−ブテン、2−ブテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、ヘキセン、ビニルシクロヘキサン、メチルビニルエ−テル、エチルビニルエ−テル、イソブチルビニルエ−テル、スチレン、α−メチルスチレン、ジメチルスチレン、p−t−ブトキシスチレン、p−ヘキセニルオキシスチレン、p−アリロキシスチレン、p−ヒドロキシスチレン、β−ピネン、インデン、ビニルジメチルメトキシシラン、ビニルトリメチルシラン、ジビニルジメトキシシラン、ジビニルジメチルシラン、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、トリビニルメチルシラン、テトラビニルシラン、アリルジメチルメトキシシラン、アリルトリメチルシラン、ジアリルジメトキシシラン、ジアリルジメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。特に好ましくは、単量体単位のすべてがイソブチレン単位から形成されたものである。
【0014】
前記水添ポリブタジエン系重合体や他の飽和炭化水素系重合体においても、上記イソブチレン系重合体の場合と同様に、主成分となる単量体単位の他に、他の単量体単位を含有させてもよい。
【0015】
また、本発明中(A)成分として用いる飽和炭化水素系重合体には、本発明の目的が達成される範囲でブタジエン、イソプレン、1,13−テトラデカジエン、1,9−デカジエン、1,7−オクタジエン、1,5−ヘキサジエンのようなポリエン化合物のごとき重合後2重結合の残るような単量体単位を少量、好ましくは10重量%以下の範囲で含有させてもよい。
【0016】
前記飽和炭化水素系重合体(A)、好ましくはイソブチレン系重合体、水添ポリイソプレンあるいは水添ポリブタジエン系重合体の数平均分子量(GPC法、ポリスチレン換算)は、その取り扱いやすさと硬化後のゴム硬度の点から、好ましくは2,000〜100,000程度、さらに好ましくは3,000〜50,000である。一般的には数平均分子量が大きいほど、得られる架橋ゴムの硬度は低下する傾向にある。
【0017】
[(B)ヒドロシリル基含有化合物]
本発明における(B)成分であるヒドロシリル基含有化合物は、ヒドロシリル基を有するものであれば特に制限無く用いることができるが、数平均分子量400〜3,000のものが好ましく、500〜1,000のものがさらに好ましい。数平均分子量400未満のものでは加熱硬化時に揮発して十分な硬化物が得られなく、3,000を超えるものでは、十分な硬化速度が得られなくなる。このような化合物の例としては、原材料の入手性や(A)成分への相溶性の面から、有機基で変性されたオルガノハイドロジェンポリシロキサンが例示される。また、これら(B)成分は、(A)成分との相溶性が良好なものが好ましい。特に系全体の粘度が低い場合には、相溶性の低いものを使用すると、相分離が起こり硬化不良を引き起こすことがある。このようなオルガノハイドロジェンポリシロキサンの構造を具体的に示すと、例えば、
【0018】
【化1】

【0019】
(式中、1<b+c≦40、1<b≦20、0<c≦38である。Rは、主鎖の炭素数が2〜20の1価の炭化水素基で1個以上のフェニル基を含有してもよい)、
【0020】
【化2】

【0021】
(式中、0≦d+e≦40、0≦d≦20、0<e≦38である。Rは、主鎖の炭素数が2〜20の1価の炭化水素基で1個以上のフェニル基を含有してもよい)、又は、
【0022】
【化3】

【0023】
(式中、3≦f+g≦20、1<f≦20、0<g≦18である。Rは、主鎖の炭素数が2〜20の1価の炭化水素基で1個以上のフェニル基を含有してもよい)等で示される鎖状又は環状のもの等が挙げられる。
(A)成分及び(B)成分との相溶性、又は、分散安定性および硬化速度が比較的良好な(B)成分を具体的に示すと、以下のものが挙げられる。
【0024】
【化4】

【0025】
式中、1<k+l≦20、1<k≦19、0<l≦18であり、Rは炭素数8以上15以下の1価の炭化水素基である。
【0026】
(B)成分のより具体的な例としては、メチルハイドロジェンポリシロキサンを、(A)成分との相溶性確保と、SiH量の調整のために、α−オレフィン、スチレン、α−メチルスチレン、アリルアルキルエーテル、アリルアルキルエステル、アリルフェニルエーテル、アリルフェニルエステル等により変性した化合物が例示され、一例として、以下の構造があげられる。
【0027】
【化5】

【0028】
但し、1<p+q≦20、1<p≦19、0<q≦18である。
本発明における(B)成分であるヒドロシリル基含有化合物の使用量は、 [(B)成分中のヒドロシリル基の総量]/[(A)成分中のアルケニル基の総量]が0.5以上、5.0以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.7以上、3.5以下である。[(B)成分中のヒドロシリル基の総量]/[(A)成分中のアルケニル基の総量]が0.5を下回る場合、得られる架橋ゴムは架橋密度が低いため、圧縮永久ひずみが大きいほか、粘着性が高く、成形体の取り扱いが難しくなる。また、 [(B)成分中のヒドロシリル基の総量]が[(A)成分中のアルケニル基の総量]に比較し過剰になり過ぎると、三次元の網目骨格の形成が困難となり、同様に得られる成形体の取り扱いが難しくなる。このように(B)成分の使用量については、下限、上限の両方に注意する必要がある。
【0029】
[(C)ヒドロシリル化触媒]
本発明の(C)成分であるヒドロシリル化触媒としては特に限定されず、任意のものを使用できる。具体的に例示すれば、塩化白金酸、白金の単体、アルミナ、シリカ、カーボンブラック等の担体に固体白金を担持させたもの;白金−ビニルシロキサン錯体{例えば、PtX(ViMeSiOSiMeVi)y 、Pt〔(MeViSiO)z};白金−ホスフィン錯体{例えば、Pt(PPh 、Pt(PBu};白金−ホスファイト錯体{例えば、Pt〔P(OPh) 、Pt〔P(OBu)(式中、Meはメチル基、Buはブチル基、Viはビニル基、Phはフェニル基を表し、x、y、zは整数を表す)、Pt(acac) (ただし、acacは、アセチルアセトナトを表す)、また、Ashbyらの米国特許第3159601及び3159662号に記載された白金−炭化水素複合体、並びにLamoreauxらの米国特許第3220972号に記載された白金アルコラート触媒も挙げられる。
【0030】
また、白金化合物以外の触媒の例としては、RhCl(PPh、RhCl、Rh/Al 、RuCl 、IrCl、FeCl 、AlCl 、PdCl・2HO、NiCl、TiCl 等が挙げられる。
【0031】
これらの触媒は単独で使用してもよく、2種以上併用しても構わない。触媒活性の点から、塩化白金酸、白金−オレフィン錯体、白金−ビニルシロキサン錯体、Pt(acac)等が好ましい。触媒使用量としては特に制限はないが、(A)成分中のアルケニル基1molに対して10−8〜10−1molの範囲で用いるのがよい。好ましくは10−6〜10−2molの範囲で用いるのがよい。10−8mol未満では、硬化速度が遅く、また硬化性が不安定になる可能性が高い。逆に10−1molを越える場合は、ポットライフの確保が困難であるため好ましくない。
【0032】
[(D)芳香族アミン系酸化防止剤]
芳香族アミン系酸化防止剤としては、ゴム・プラスチック酸化防止剤として市販されている化合物があり、例えばジフェニルアミン系化合物、キノリン系化合物、ナフチルアミン系化合物などのモノアミン化合物や、フェニレンジアミン系化合物、ベンゾイミダゾール系化合物などのジアミン化合物が挙げられるが、ジフェニルアミン系化合物が好ましい。
ジフェニルアミン系化合物としては、p−(p−トルエン・スルホニルアミド)−ジフェニルアミン(商品名:ノクラックTD他)、4,4’−(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(商品名:ノクラックCD、ナウガード445他)、4,4’−ジオクチル・ジフェニルアミン(商品名:ノクラックAD、アンテージLDA他;JIS略号ODPA)、N,N'-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン(商品名:ノクラックwhite)、N-フェニル-N'-イソプロピル-p-フェニレンジアミン(商品名:ノクラック810−NA)、N-フェニル-N'-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン(商品名:ノクラック6C)、N-フェニル-N'-(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピル)-p-フェニレンジアミン(商品名:ノクラックG−1)、4-イソプロピルアミノジフェニルアミン、ジフェニルアミン誘導体(商品名:ノクラックODA−N、アンテージOD−P、アンテージDDP他)などが挙げられるが、4,4’−(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(商品名:ノクラックCD、ナウガード445他)が最も好ましい。
【0033】
(D)成分の使用量は(A)成分100重量部に対し0.1〜20重量部、好ましくは1〜15重量部、さらに好ましくは5〜10重量部である。これら成分の使用量が少な過ぎる場合、得られる架橋ゴムの耐熱性は不十分となる。一方、これら成分の使用量が多過ぎる場合、硬化性組成物の硬化性が低下する。
【0034】
[(E)保存安定性剤]
本発明の(E)成分である保存安定性剤は、(A)〜(D)成分からなる硬化性組成物の保存安定性を改良する目的で使用される。この保存安定剤としては、本発明の(B)成分の保存安定剤として知られている通常の安定剤であって所期の目的を達成するものであればよく、特に限定されるものではない。具体的には、脂肪族不飽和結合を含有する化合物、有機リン化合物、有機硫黄化合物、窒素含有化合物、スズ系化合物、有機過酸化物等を好適に用いることができる。具体的には、2−ベンゾチアゾリルサルファイド、ベンゾチアゾール、チアゾール、ジメチルアセチレンダイカルボキシレート、ジエチルアセチレンダイカルボキシレート、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、ブチルヒドロキシアニソール、ビタミンE、2−(4−モルフォジニルジチオ)ベンゾチアゾール、3−メチル−1−ブテン−3−オール、アセチレン性不飽和基含有オルガノシロキサン、アセチレンアルコール、3−メチル−1−ブチル−3−オール、ジアリルフマレート、ジアリルマレエート、ジエチルフマレート、ジエチルマレエート、ジメチルマレエート、2−ペンテンニトリル、2,3−ジクロロプロペン等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0035】
また、本発明の硬化性組成物を得る方法としては、特に制限はないが、(A)〜(E)成分、さらに必要に応じて使用する各種添加剤や充填剤をプラネタリーミキサーや2軸ディスパなどの回転式ミキサーや、ニーダー、バンパリーミキサー、ロールなどの装置を使用し、混合する方法が挙げられる。特に充填剤を使用する場合は、(A)成分中に該充填剤を均一に分散、安定化させること、及び硬化性組成物中に含まれる水分をなるべく除去することが望ましい。(A)成分中への充填剤の分散が不均一、不安定であれば、組成物の性状が経時で大きく変化する。また、組成物中に水分が多い場合には、硬化反応時に(B)成分と水分との反応による発泡し、架橋ゴム中にボイドを生じることとなる。
【0036】
また、本発明の硬化性組成物から飽和炭化水素系架橋ゴムを得る方法としては、一般的に使用されている加熱硬化型の液状ゴムと同様の方法をとることができる。塗布や注入、スクリーン印刷などのような接着剤やポッティング剤などと同様の取扱や、プレス成形、射出成形、トランスファー成形、押出成形など、ゴム成形体を得る方法を適用できる。中でも、液状シリコーンゴムで適用されている液状射出成形システムに適用した場合には、高い生産性で精密な成形を実現することが可能である。
【0037】
また、これら各種の取扱方法において、本発明の硬化性組成物は、全ての成分を含む1液形態として扱うことも、(B)成分と(C)成分とが混合しないように全成分を2液に配分した2液形態として扱うことも可能である。前者の場合、室温下でも徐々に反応は進行し得るため、低温下での保管が必要となるが、成形に際して2液を混合するなどの手間が省略できる。また、後者の場合には、成形する際に2液を混合し、泡を含まない状態で塗布、充填、射出できるように工夫が必要となるが、液状組成物の長期保管には有利である。このような2液形態の液状組成物の取り扱いには、液状シリコーン向けに開発された液状射出成形システムに使用されている2液混合吐出装置や、2液形態のウレタン樹脂、エポキシ樹脂に使用されている2液混合吐出装置が使用できる。
【0038】
本発明の硬化性組成物より得られる耐熱性に優れた飽和炭化水素系架橋ゴムは、極めて高い耐熱性に加え、硬化性、耐薬品性、圧縮永久歪、ガスバリヤー性、制振性等に優れることから、電子機器、OA機器、医療機器、自動車、建築等の各分野で使用されるガスケット、Oリング、キャップ、コネクタ、シール材、キースイッチ、コンタクトラバー、各種ロール、防振ゴム、衝撃吸収材、ダイヤフラム、ポッティング材、接着剤、粘着材など、幅広い用途に有用である。
【実施例】
【0039】
次に実施例により本発明の硬化性組成物、及びその架橋ゴムを具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0040】
(製造例1)
特開平8−127683号公報、製造例1に記載された方法に準じ、(A)成分である分子量約16,000、アリル基数2.0のアリル基末端ポリイソブチレンを得た。
【0041】
(製造例2)
(−Si−O−)で示される繰り返し単位を平均して7.5個もつメチルハイドロジェンシリコーンに白金触媒存在下全ヒドロシリル基量の0.25当量の平均炭素数13のαオレフィンを添加し、1分子中に平均5.8個のヒドロシリル基を有する化合物を得た。この化合物のSi−H基含有量は6mmol/gであった。なお今回使用したαオレフィンは、1−ドデセン、1−テトラデセンを用いた。
【0042】
(実施例1)
製造例1で得たポリイソブチレン系重合体(A)100部(500g)に、(D)芳香族アミン系酸化防止剤として(白石カルシウム社製;ジフェニルアミン系酸化防止剤"ナウガード"445)を10部、充填剤の焼成クレー(白石カルシウム株式会社製アイスキャップK)250部を加圧ニーダー(株式会社モリヤマ製 DS−1型)に投入し、120℃×60分間混練した。次に50℃に冷却後、製造例2で得たヒドロシリル基含有化合物(B)を(A)成分中のアルケニル基の総量に対し2.2当量(6部)、ヒドロシリル化触媒(C)として白金ビニルシロキサン(3%白金キシレン溶液)を、0.04部、保存安定剤(E)としてアセチレンアルコール(日信化学工業社製 サーフィノール61)を0.12部添加し、混合、脱泡させ、硬化性組成物 約700g(収率93%)を得た。
【0043】
得られた硬化性組成物を厚さ2mmのスペーサと2枚の鏡面仕上げしたプレス板を使用し、180℃、3分間の加熱プレス成形により2mm厚の硬化物シートを得た。得られたシートをさらに180℃、4時間加熱処理した後、以下の各種特性を測定した。これらの結果を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
硬度 : JIS K 6253に規定されるタイプAデュロメーターにて測定した。
圧縮永久歪 : JIS K 6262に規定される、圧縮率25%、試験温度150℃、試験時間1000時間の圧縮永久ひずみを測定した。結果を表1に示す。
引張物性 : JIS A 6251記載の引張試験に基づき、島津(株)製オートグラフを用いて引張速度50mm/分で引張試験を行い、30%モジュラス、破断時の強度、破断時の伸びを測定した。結果を表1に示す。
【0046】
(実施例2)
実施例1において、(D)芳香族アミン系酸化防止剤を5部用いた以外は実施例1と同様にして硬化性組成物を調製し、実施例1と同様にして評価した。その結果を表1に示す。
【0047】
(比較例1)
実施例1において、(D)芳香族アミン系酸化防止剤10部の代わりに、ステアリル-β-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート(株式会社アデカ製;AO−50)10部用いた以外は実施例1と同様にして硬化性組成物を調製し、実施例1と同様にして評価した。その結果を表1に示す。
【0048】
(比較例2)
実施例1において、(D)芳香族アミン系酸化防止剤の代わりに、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(チバ・スペシャルティ・ケミカル社製;イルガノックス1010)を10部用いた以外は、実施例1と同様にして硬化性組成物を調製し、実施例1と同様にして評価した。その結果を表1に示す。
【0049】
表1.の結果に示されるように、実施例1に添加した(D)芳香族アミン系酸化防止剤を単独で用いた方が、比較例1、2に同一部数添加した芳香族アミン系酸化防止剤/ヒンダードフェノール系酸化防止剤併用系、又はヒンダードフェノール系酸化防止剤単独系と比較して、良好な圧縮永久歪みを発現しており、飽和炭化水素系重合体重合体(A)由来の圧縮永久歪みを主とした耐熱性に優れ、耐熱性、特に耐候性、耐吸水性、低気体/水蒸気透過性に優れた飽和炭化水素系架橋ゴムを与えることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)分子鎖末端に少なくとも1個のアルケニル基を有する、数平均分子量3,000〜50,000の飽和炭化水素系重合体、(B)ヒドロシリル基含有化合物、(C)ヒドロシリル化触媒、(D)芳香族アミン系酸化防止剤を含有することを特徴とする硬化性組成物。
【請求項2】
前記芳香族アミン系酸化防止剤がジフェニルアミン系化合物であることを特徴とする請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項3】
(D)芳香族アミン系酸化防止剤の添加量が、(A)成分100重量部に対して、1〜20重量部であることを特徴とする請求項1〜2記載のいずれか1項に記載の硬化性組成物。
【請求項4】
(E)成分として、更に保存安定剤を含有することを特徴とする請求項1〜3記載のいずれか1項に記載の硬化性組成物。
【請求項5】
(A)成分の飽和炭化水素系重合体が、ポリイソブチレン系重合体であることを特徴とする、請求項1〜4記載のいずれか1項に記載の硬化性組成物。
【請求項6】
(A)成分の飽和炭化水素系重合体中、イソブチレンに起因する繰り返し単位の総量が80重量%以上であることを特徴とする、請求項1〜5のうちいずれか1項に記載の硬化性組成物。
【請求項7】
(B)成分のヒドロシリル基含有化合物の主鎖がポリオルガノハイドロジェンシロキサンであることを特徴とする、請求項1〜6のうちいずれか1項に記載の硬化性組成物。
【請求項8】
(C)成分のヒドロシリル化触媒が白金化合物であることを特徴とする、請求項1〜7のうちいずれか1項に記載の硬化性組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の硬化性組成物を、加熱成形することにより得られる架橋ゴム成型体。

【公開番号】特開2012−172084(P2012−172084A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36169(P2011−36169)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】