説明

耐熱性に優れたガスバリア性医療用容器及びその製造方法

【課題】有害な架橋剤をほとんど含有しないために架橋剤の内容物への溶出が抑制されて安全性に優れ、医療分野において使用するのに適したガスバリア性を有し、加熱滅菌処理に耐え得る耐熱性、耐熱水性を有し、加熱滅菌処理後もガスバリア性の低下が極めて少ない医療用容器を提供する。
【解決手段】変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)からなる医療用容器であって、変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)は、未変性のエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)を、二重結合を有するエポキシ化合物(B)で変性して得られたものであり、エポキシ化合物(B)による変性量がエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)のモノマー単位に対して0.1〜10モル%であり、変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)の少なくとも一部が架橋されていて、かつ、そのゲル分率が3質量%以上であることを特徴とする医療用容器である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有害な架橋剤をほとんど含有しないために架橋剤の内容物への溶出が抑制されて安全性に優れ、医療分野において使用するのに適したガスバリア性を有し、レトルト滅菌処理やオートクレーブ滅菌処理などの加熱滅菌処理に耐え得る耐熱性を有し、さらに加熱滅菌処理後もガスバリア性の低下が極めて少ない医療用容器に関する。
【0002】
本発明の医療用容器とは、高圧蒸気滅菌に耐えることができ、かつ、酸素バリア性が必要な、点滴用輸液バッグ、輸血バッグ、薬液バッグ、薬液ボトル、アンプル管など医療用容器全般である。本発明の医療用容器には、ダブルバッグやキットバッグなど外気を介さずに、2種類以上の薬液を混合できる医療用容器も含まれる。好適には、加熱滅菌処理が施される医療用容器である。
【背景技術】
【0003】
近年、輸液バッグなどの医療用容器はガラス製のボトルではなく樹脂製の容器が汎用されている。かかる樹脂製の容器は、通気針が不要な点、焼却廃棄が容易な点、軽量で破損のおそれがない点、取り扱い易い点でガラス製の容器より優れている。しかし、輸液バック等は薬液に糖類、アミノ酸、ビタミン類が頻用されており、変質や変色を起こし易く、高度なガスバリア性が要求される。さらに、内容物の変質、腐敗の原因となる微生物を完全に死滅させ、除去するために、従来からレトルト滅菌処理やオートクレーブ滅菌処理などの耐高圧蒸気を用いた滅菌処理が行われている。この用途に使用される包装材料は、ガラスまたはアルミ箔を含む多層フィルムである。しかしながらアルミ箔を使用した容器は不透明であり、加熱滅菌処理後の内容物の変化を検査することができなかった。
【0004】
従来から、柔軟性があり、ガスバリア性及び透明性に優れた材料として軟質ポリ塩化ビニルがあるが、加熱滅菌処理を施した場合、可塑剤やその他の添加物が溶出するおそれがあり、常温で使用する必要があった。さらに、塩素等が発生するおそれもあり、加熱滅菌処理が施される医療用容器としては好ましくなかった。
【0005】
エチレン−ビニルアルコール系共重合体(以下EVOHと略記することがある)は酸素透過量が他のプラスチックに比べ極めて小さく、各種ガス・薬品の透過量も小さい。このようにバリア性に優れるうえに、耐油性・耐薬品性に優れるので、EVOHは、農薬・医薬品の容器、食品包装材など様々な用途に使用されている。しかしながら、EVOHは、レトルト滅菌処理やオートクレーブ滅菌処理などの高温高湿条件下では、白化や変形が生じたり、バリア性が低下したりするといった問題を有しており、耐熱性・耐熱水性に問題を有していた。
【0006】
高度なガスバリア性を維持し、耐熱性・耐熱水性を改善するためにEVOHに架橋を施すという技術は従来から種々検討されている。例えば、特許文献1にはエポキシ基及びアリル基を有する化合物をEVOHに配合後、光あるいは熱により架橋するとの記載があるが、特許文献1の実施例の熱水溶断温度を見るとその効果は小さく、ほとんど架橋できていない。これはエポキシ基がほとんどEVOHと反応してないことが原因と考えられる。また、当該化合物を製造する際には、エポキシ基及びアリル基を有する化合物を多量に配合する必要があるため、これが残存し、特に医療用容器、医薬品包装用途に使用する場合、衛生上問題となることが懸念される。
【0007】
また、特許文献2及び特許文献3にはEVOHは多官能アリル系化合物、多官能(メタ)アクリル系及び多価アルコール及び金属酸化物から選ばれる少なくとも一種の架橋剤及び架橋助剤を添加し、電子線を照射し、架橋するという記載があるが、これも添加剤が残存することによる衛生上の問題が懸念される。また、架橋剤が溶融混練の段階でEVOHと反応することによりゲル化し、長期運転には問題があった。
【0008】
また、特許文献4にはEVOHにアリルエーテル基が2つ以上有する化合物を添加し、電子線を照射し、架橋するという記載があるが、これも添加剤が残存することにより、衛生上問題であると考えられる。
【0009】
また、特許文献5には架橋剤としてトリアリルシアヌレート及びトリアリルイソシアヌレートを使用し、これらをEVOHと溶融混練した後に電子線照射しEVOHを架橋する方法が記載されているが、トリアリルシアヌレート及びトリアリルイソシアヌレートが残存し、特に食品包装容器に使用する場合、衛生上の問題が懸念される。また。トリアリルシアヌレート及びトリアリルイソシアヌレートが溶融混練の段階でEVOHと反応することによりゲル化し長期運転には問題があった。
【0010】
特許文献6には、EVOHフィルムを水と接触させて含水状態にして電子線を照射することにより架橋する方法が記載されている。しかし、この方法の場合、フィルムを長時間水中に浸漬させる必要があり、高速生産が困難であるという問題があった。
【0011】
特許文献7には、EVOHに特定のエポキシ化合物を反応させて変性することにより、ガスバリア性をなるべく保ちながら柔軟性を改善することが記載されている。しかし、変性により融点が大きく低下するという欠点があり、このままでは耐熱性が要求される用途に使用することが困難であった。また、特許文献8には、特許文献7に記載された変性EVOHと未変性のEVOHとからなる樹脂組成物が記載されている。
【0012】
【特許文献1】特開昭63−8448号公報
【特許文献2】特開平5−271498号公報
【特許文献3】特開平9−157421号公報
【特許文献4】特開平9−234833号公報
【特許文献5】特開昭62−252409号公報
【特許文献6】特開昭56−49734号公報
【特許文献7】WO02/092643号
【特許文献8】WO03/072653号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、有害な架橋剤をほとんど含有しないために架橋剤の内容物への溶出が抑制されて安全性に優れ、医療分野において使用するのに適したガスバリア性を有し、レトルト滅菌処理やオートクレーブ滅菌処理などの加熱滅菌処理に耐え得る耐熱性、耐熱水性を有し、さらに加熱滅菌処理後もガスバリア性の低下が極めて少ない医療用容器を提供することを目的とするものである。また、そのような容器を製造するための好適な製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題は、変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)(以下、変性EVOH(C)と称する)からなる医療用容器であって、変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)は、未変性のエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)(以下、未変性のEVOH(A)と称する)を、二重結合を有するエポキシ化合物(B)(以下、エポキシ化合物(B)と称する)で変性して得られたものであり、二重結合を有するエポキシ化合物(B)による変性量がエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)のモノマー単位に対して0.1〜10モル%であり、変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)の少なくとも一部が架橋されていて、かつ、そのゲル分率が3質量%以上であることを特徴とする医療用容器を提供することによって解決される。
【0015】
また、上記課題は、変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)及び未変性のエチレン−ビニルアルコール系共重合体(D)(以下、未変性のEVOH(D)と称する)を含有する樹脂組成物からなる医療用容器であって、変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)は、未変性のエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)を、二重結合を有するエポキシ化合物(B)で変性して得られたものであり、二重結合を有するエポキシ化合物(B)による変性量がエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)のモノマー単位に対して0.1〜10モル%であり、該樹脂組成物の少なくとも一部が架橋されていて、かつ、そのゲル分率が3質量%以上であることを特徴とする医療用容器を提供することによっても解決される。
【0016】
上記医療用容器において、未変性のエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)のエチレン含有量が5〜55モル%であり、かつケン化度が90モル%以上であることが好ましい。二重結合を有するエポキシ化合物(B)が分子量500以下の一価エポキシ化合物、特に、アリルグリシジルエーテルであることも好ましい。
【0017】
本発明の医療用容器の好適な実施態様は、押出成形品、フィルム又はシート(特に延伸フィルム又は熱収縮フィルム)、熱成形品、フレキシブル包装材、レトルト包装材、オートクレーブ加熱滅菌容器である。
【0018】
本発明の医療用容器は、好適には、変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)からなる層と変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)以外の樹脂(F)(以下、単に樹脂(F)と称する)からなる層とを有する多層構造体からなる。また、好適には、変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)及び未変性のエチレン−ビニルアルコール系共重合体(D)を含有する樹脂組成物からなる層と変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)以外の樹脂(F)からなる層とを有する多層構造体からなる。これらの多層構造体において、樹脂(F)がポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、アクリル樹脂及びポリビニルエステルからなる群から選択された少なくとも1種であることが好ましい。また、樹脂(F)がエラストマーであることも好ましい。上記多層構造体からなる医療用容器の好適な実施態様は、共押出フィルム又は共押出シート、熱収縮フィルム、多層容器(特に共押出ブロー成形容器、共射出成形容器、レトルト包装容器、オートクレーブ加熱滅菌容器)である。
【0019】
また、上記医療用容器に内容物が充填されてなる包装体であって、該内容物が充填される前あるいは後に加熱滅菌処理されてなる医療用包装体も好適な実施態様である。該医療用包装体において、加熱滅菌処理がレトルト滅菌処理又はオートクレーブ滅菌処理であることが好ましい。
【0020】
上記課題は、変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)からなる医療用容器の製造方法であって、未変性のエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)を、二重結合を有するエポキシ化合物(B)で変性して、変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)を製造し、変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)を成形し、変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)の少なくとも一部を架橋させて、かつ、そのゲル分率を3質量%以上にすることを特徴とする医療用容器の製造方法を提供することによっても解決される。
【0021】
また、上記課題は、変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)及び未変性のエチレン−ビニルアルコール系共重合体(D)を含有する樹脂組成物からなる医療用容器の製造方法であって、未変性のエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)を、二重結合を有するエポキシ化合物(B)で変性して変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)を製造し、変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)と未変性のエチレン−ビニルアルコール系共重合体(D)とを混合して樹脂組成物を製造し、該樹脂組成物を成形し、該樹脂組成物の少なくとも一部を架橋させて、かつ、そのゲル分率を3質量%以上にすることを特徴とする医療用容器の製造方法を提供することによっても解決される。
【0022】
上記製造方法において、未変性のエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)のエチレン含有量が5〜55モル%であり、かつケン化度が90モル%以上であることが好ましい。二重結合を有するエポキシ化合物(B)が分子500以下の一価のエポキシ化合物、特にアリルグリシジルエーテルであることも好ましい。
【0023】
上記製造方法において、架橋前の変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)から溶出されるエポキシ化合物(B)の溶出量が0.50μg/g以下であることが好ましい。また、電子線、X線、γ線、紫外線及び可視光線からなる群から選択される少なくとも1種を照射するか、加熱することにより変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)の少なくとも一部を架橋させることも好ましい。
【0024】
すなわち、本発明の目的は、好適には以下のような方法によって達成される。まず、未変性のEVOH(A)に、二重結合を有するエポキシ化合物(B)を反応させる。このとき、触媒存在下で加熱して反応させた後、触媒を添加剤により失活させ、過剰のエポキシ化合物(B)を除去することが好ましい。こうして二重結合を有する変性EVOH(C)が製造される。好ましくはこれを溶融成形あるいは溶液コーティングした後、電子線、X線、γ線、紫外線照射及び可視光線からなる群より選ばれる少なくとも1種を照射するか、加熱を行うことにより変性EVOH(C)を架橋させる。または、これを溶融成形あるいは溶液コーティングした成形品に内容物を充填後、電子線、X線、γ線、紫外線照射及び可視光線からなる群より選ばれる少なくとも1種を照射することにより変性EVOH(C)を架橋させる。以上のようにして、ガスバリア性を保ち、耐熱性に優れた変性EVOH(C)からなる医療用容器が提供される。また、二重結合を有する変性EVOH(C)に対して、未変性のEVOH(D)を配合した樹脂組成物を、同様に成形、架橋することによってもガスバリア性を保ち、耐熱性に優れた医療用容器が提供される。
【発明の効果】
【0025】
本発明の医療用容器は、有害な架橋剤をほとんど含有しないために架橋剤の内容物への溶出が抑制されて安全性に優れ、医療分野において使用するのに適したガスバリア性を有し、レトルト滅菌処理やオートクレーブ滅菌処理などの加熱滅菌処理に耐え得る耐熱性、耐熱水性を有し、さらに加熱滅菌処理後もガスバリア性の低下が極めて少ない高ガスバリア性医療用容器である。また本発明の製造方法は、そのような医療用容器を製造するための好適な製造方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明に用いられる変性EVOH(C)は、未変性のEVOH(A)の水酸基に、二重結合を有するエポキシ化合物(B)を反応させたものである。
【0027】
本発明に用いられる未変性のEVOH(A)のエチレン含有量は5〜55モル%であることが好ましく、より好適には20〜55モル%、更に好適には25〜50モル%である。エチレン含有量が5モル%より小さい場合は耐水性に劣り、60モル%より大きい場合はガスバリア性に劣る。得られる変性EVOH(C)のエチレン含有量は、原料である未変性のEVOH(A)のエチレン含有量と同じである。
【0028】
未変性のEVOH(A)のケン化度は90モル%以上が好ましく、好適には98モル%以上、更に好適には99モル%以上である。ケン化度が90モル%より小さい場合はガスバリア性及び熱安定性に劣る。
【0029】
また、後述する通り、本発明に用いられる変性EVOH(C)は、好適には未変性のEVOH(A)とエポキシ化合物(B)との反応を、押出機内で行わせることによって得られるが、その際に、未変性のEVOH(A)は加熱条件下に晒される。この時に、未変性のEVOH(A)が過剰にアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩を含有していると、得られる変性EVOH(C)に着色が生じるおそれがある。また、変性EVOH(C)の粘度低下等の問題が生じ、成形性が低下するおそれがある。また、後述のように触媒を使用する場合には、触媒を失活させるため、それらの添加量はできるだけ少ないことが好ましい。
【0030】
上記の問題を回避するためには、未変性のEVOH(A)が含有するアルカリ金属塩が金属元素換算値で50ppm以下であることが好ましい。より好ましい実施態様では、未変性のEVOH(A)が含有するアルカリ金属塩が金属元素換算値で30ppm以下であり、更に好ましくは20ppm以下である。また、同様な観点から、未変性のEVOH(A)が含有するアルカリ土類金属塩が金属元素換算値で20ppm以下であることが好ましく、10ppm以下であることがより好ましく、5ppm以下であることが更に好ましく、未変性のEVOH(A)にアルカリ土類金属塩が実質的に含まれていないことが最も好ましい。
【0031】
本発明に用いられる未変性のEVOH(A)の好適なメルトフローレート(MFR)(190℃、2160g荷重下)は0.1〜100g/10分であり、好適には0.3〜30g/10分、更に好適には0.5〜20g/10分である。但し、融点が190℃付近あるいは190℃を超えるものは2160g荷重下、融点以上の複数の温度で測定し、片対数グラフで絶対温度の逆数を横軸、MFRの対数を縦軸にプロットし、190℃に外挿した値で示す。MFRの異なる2種以上の未変性のEVOH(A)を混合して用いることもできる。
【0032】
本発明に用いられるエポキシ化合物(B)は分子中にエポキシ基を1個及び二重結合1個又は複数個存在するものが好ましい。すなわち、一価エポキシ化合物であることが好ましい。また、分子量は500以下であることが好ましい。エポキシ基を複数個有するものは変性の際に架橋する問題がある。また、上記二重結合の種類としては特に好適には1置換オレフィンであるビニル基であり、次に好適には2置換オレフィンであるビニレン基あるいはビニリデン基である。次に好適には3置換オレフィンである。4置換オレフィンは反応性に乏しいため、本発明の目的には適していない。
【0033】
また、エポキシ化合物(B)として、過剰に添加したものを容易に変性EVOH(C)から除去できるものが好ましい。その除去方法としては、押出機のベントから揮発させて除去することが現実的である。したがって、沸点が250℃以下であることが好適であり、200℃以下であることがより好適である。また、エポキシ化合物(B)の炭素数が4〜10であることが好ましい。このような二重結合を有するエポキシ化合物の具体例としては、1,2−エポキシ−3−ブテン、1,2−エポキシ−4−ペンテン、1,2−エポキシ−5−ヘキセン、1,2−エポキシ−4−ビニルシクロヘキサン、アリルグリシジルエーテル、メタアリルグリシジルエーテル、エチレングリコールアリルグリシジルエーテル等が挙げられ、特に好ましくはアリルグリシジルエーテルが挙げられる。また、押出機のベントから水洗除去することも可能であり、この場合、エポキシ化合物(B)が水に可溶であることも好ましい。
【0034】
エポキシ化合物(B)と未変性のEVOH(A)の反応の条件は特に制限されないが、WO02/092643号(特許文献7)に記載の方法と同様に、押出機中で未変性のEVOH(A)にエポキシ化合物(B)を反応させることが好ましい。このとき、触媒を添加することが好ましく、その場合、反応後に失活剤としてカルボン酸塩を添加することが好ましい。押出機内で溶融状態の未変性のEVOH(A)に対して、エポキシ化合物(B)を添加することが、エポキシ化合物(B)の揮散を防止できるとともに、反応量を制御しやすく、好ましい。過剰に添加したエポキシ化合物(B)は押出機のベントから除去可能である。更に、得られたペレットを温水で洗浄することにより、残存するエポキシ化合物(B)の除去が可能であると同時に、残存触媒も除去可能である。
【0035】
本発明で使用される触媒は、周期律表第3〜12族に属する金属のイオンを含むものであることが好ましい。触媒に使用される金属イオンとして最も重要なことは適度のルイス酸性を有することであり、この点から周期律表第3〜12族に属する金属のイオンが使用される。これらの中でも、周期律表第3族又は第12族に属する金属のイオンが適度なルイス酸性を有していて好適であり、亜鉛、イットリウム及びガドリニウムのイオンがより好適なものとして挙げられる。中でも、亜鉛のイオンを含む触媒が、触媒活性が極めて高く、かつ得られる変性EVOH(C)の熱安定性が優れていて、最適である。
【0036】
周期律表第3〜12族に属する金属のイオンの添加量は未変性のEVOH(A)の重量に対する金属イオンのモル数で0.1〜20μmol/gであることが好適である。多すぎる場合には、溶融混練中にEVOHがゲル化するおそれがあり、より好適には10μmol/g以下である。一方、少なすぎる場合には、触媒の添加効果が十分に奏されないおそれがあり、より好適には0.5μmol/g以上である。なお、周期律表第3〜12族に属する金属のイオンの好適な添加量は、使用する金属の種類や後述のアニオンの種類によっても変動するので、それらの点も考慮した上で、適宜調整されるべきものである。
【0037】
周期律表第3〜12族に属する金属のイオンを含む触媒のアニオン種は特に限定されるものではないが、その共役酸が硫酸と同等以上の強酸である1価のアニオンを含むことが好ましい。共役酸が強酸であるアニオンは、通常求核性が低いのでエポキシ化合物と反応しにくく、求核反応によってアニオン種が消費されて、触媒活性が失われることを防止できるからである。また、そのようなアニオンを対イオンに有することで、触媒のルイス酸性が向上して触媒活性が向上するからである。
【0038】
共役酸が硫酸と同等以上の強酸である1価のアニオンとしては、メタンスルホン酸イオン、エタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、トルエンスルホン酸イオン等のスルホン酸イオン;塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン等のハロゲンイオン;過塩素酸イオン;テトラフルオロボレートイオン(BF)、ヘキサフルオロホスフェートイオン(PF)、ヘキサフルオロアルシネートイオン(AsF)、ヘキサフルオロアンチモネートイオン等の4個以上のフッ素原子を持つアニオン;テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートイオン等のテトラフェニルボレート誘導体イオン;テトラキス(3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル)ボレート、ビス(ウンデカハイドライド−7,8−ジカルバウンデカボレート)コバルト(III)イオン、ビス(ウンデカハイドライド−7,8−ジカルバウンデカボレート)鉄(III)イオン等のカルボラン誘導体イオンなどが例示される。
【0039】
上述のように、本発明で使用される触媒はその共役酸が硫酸と同等以上の強酸である1価のアニオンを含むものであることが好適であるが、触媒中の全てのアニオン種が同一のアニオン種である必要はない。むしろ、その共役酸が弱酸であるアニオンを同時に含有するものであることが好ましい。
【0040】
共役酸が弱酸であるアニオンの例としては、アルキルアニオン、アリールアニオン、アルコキシド、アリールオキシアニオン、カルボキシレート並びにアセチルアセトナート及びその誘導体が例示される。中でもアルコキシド、カルボキシレート並びにアセチルアセトナート及びその誘導体が好適に使用される。
【0041】
触媒中の金属イオンのモル数に対する、共役酸が硫酸と同等以上の強酸であるアニオンのモル数は、0.2〜1.5倍であることが好ましい。上記モル比が0.2倍未満である場合には触媒活性が不十分となるおそれがあり、より好適には0.3倍以上であり、更に好適には0.4倍以上である。一方、上記モル比が1.5倍を超えると変性EVOH(C)がゲル化するおそれがあり、より好適には1.2倍以下である。前記モル比は最適には1倍である。なお、原料の未変性のEVOH(A)が酢酸ナトリウムなどのアルカリ金属塩を含む場合には、それと中和されて消費される分だけ、共役酸が硫酸と同等以上の強酸であるアニオンのモル数を増やしておくことができる。
【0042】
触媒の調製方法は特に限定されるものではないが、好適な方法として、周期律表第3〜12族に属する金属の化合物を溶媒に溶解又は分散させ、得られた溶液又は懸濁液に、共役酸が硫酸と同等以上のスルホン酸等の強酸を添加する方法が挙げられる。原料として用いる周期律表第3〜12族に属する金属の化合物としては、アルキル金属、アリール金属、金属アルコキシド、金属アリールオキシド、金属カルボキシレート、金属アセチルアセトナート等が挙げられる。ここで、周期律表第3〜12族に属する金属の化合物の溶液又は懸濁液に、強酸を加える際には、少量ずつ添加することが好ましい。こうして得られた触媒を含有する溶液は押出機に直接導入することができる。
【0043】
周期律表第3〜12族に属する金属の化合物を溶解又は分散させる溶媒としては有機溶媒、特にエーテル系溶媒が好ましい。押出機内の温度でも反応しにくく、金属化合物の溶解性も良好だからである。エーテル系溶媒の例としては、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル等が例示される。使用される溶媒としては、金属化合物の溶解性に優れ、沸点が比較的低くて押出機のベントでほぼ完全に除去可能なものが好ましい。その点においてジエチレングリコールジメチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン及びテトラヒドロフランが特に好ましい。
【0044】
また、上述の触媒の調整方法において、添加する強酸の代わりに強酸のエステル、例えばスルホン酸エステル等を用いても良い。強酸のエステルは、通常強酸そのものより反応性が低いために、常温では金属化合物と反応しないことがあるが、200℃前後に保った高温の押出機内に投入することにより、押出機内において活性を有する触媒を生成することができる。
【0045】
触媒の調製方法としては、以下に説明する別法も採用可能である。まず、水溶性の周期律表第3〜12族に属する金属の化合物と、共役酸が硫酸と同等以上のスルホン酸等の強酸とを、水溶液中で混合して触媒水溶液を調製する。なおこのとき、当該水溶液が適量のアルコールを含んでいても構わない。得られた触媒水溶液を未変性のEVOH(A)と接触させた後、乾燥することによって触媒が配合された未変性のEVOH(A)を得ることができる。具体的には、未変性のEVOH(A)のペレット、特に多孔質の含水ペレットを前記触媒水溶液に浸漬する方法が好適なものとして挙げられる。この場合には、このようにして得られた乾燥ペレットを押出機に導入することができる。
【0046】
使用される触媒失活剤は、触媒のルイス酸としての働きを低下させるものであればよく、その種類は特に限定されない。好適にはアルカリ金属塩が使用される。その共役酸が硫酸と同等以上の強酸である1価のアニオンを含む触媒を失活させるには、当該アニオンの共役酸よりも弱い酸のアニオンのアルカリ金属塩を使用することが必要である。こうすることによって、触媒を構成する周期律表第3〜12族に属する金属のイオンの対イオンが弱い酸のアニオンに交換され、結果として触媒のルイス酸性が低下するからである。触媒失活剤に使用されるアルカリ金属塩のカチオン種は特に限定されず、ナトリウム塩、カリウム塩及びリチウム塩が好適なものとして例示される。またアニオン種も特に限定されず、カルボン酸塩、リン酸塩及びホスホン酸塩が好適なものとして例示される。
【0047】
触媒失活剤として、例えば酢酸ナトリウムやリン酸一水素二カリウムのような塩を使用しても熱安定性はかなり改善されるが、用途によっては未だ不十分である場合がある。この原因は、周期律表第3〜12族に属する金属のイオンにルイス酸としての働きがある程度残存しているため、変性EVOH(C)の分解及びゲル化に対して触媒として働くためであると考えられる。この点を更に改善する方法として、周期律表第3〜12族に属する金属のイオンに強く配位するキレート化剤を添加することが好ましい。このようなキレート化剤は当該金属のイオンに強く配位できる結果、そのルイス酸性をほぼ完全に失わせることができ、熱安定性に優れた変性EVOH(C)を与えることができる。また、当該キレート化剤がアルカリ金属塩であることによって、前述のように触媒に含まれるアニオンの共役酸である強酸を中和することもできる。
【0048】
触媒失活剤として使用されるキレート化剤として、好適なものとしては、オキシカルボン酸塩、アミノカルボン酸塩、アミノホスホン酸塩などが挙げられる。具体的には、オキシカルボン酸塩としては、クエン酸二ナトリウム、酒石酸二ナトリウム、リンゴ酸二ナトリウム等が例示される。アミノカルボン酸塩としては、ニトリロ三酢酸三ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸三ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸三カリウム、ジエチレントリアミン五酢酸三ナトリウム、1,2−シクロヘキサンジアミン四酢酸三ナトリウム、エチレンジアミン二酢酸一ナトリウム、N−(ヒドロキシエチル)イミノ二酢酸一ナトリウム等が例示される。アミノホスホン酸塩としては、ニトリロトリスメチレンホスホン酸六ナトリウム、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)八ナトリウム等が例示される。中でもポリアミノポリカルボン酸が好適であり、性能やコストの面からエチレンジアミン四酢酸のアルカリ金属塩が最適である。
【0049】
触媒失活剤の添加量は特に限定されず、触媒に含まれる金属イオンの種類や、キレート剤の配位座の数等により適宜調整されるが、触媒に含まれる金属イオンのモル数に対する触媒失活剤のモル数の比が0.2〜10となるようにすることが好適である。比が0.2未満の場合には、触媒が十分に失活されないおそれがあり、より好適には0.5以上、更に好適には1以上である。一方、比が10を超える場合には、得られる変性EVOH(C)が着色するおそれがあるとともに、製造コストが上昇するおそれがあり、より好適には5以下であり、更に好適には3以下である。
【0050】
触媒失活剤を押出機へ導入する方法は特に限定されないが、均一に分散させるためには、溶融状態の変性EVOH(C)に対して、触媒失活剤の溶液として導入することが好ましい。触媒失活剤の溶解性や、周辺環境への影響などを考慮すれば、水溶液として添加することが好ましい。
【0051】
触媒失活剤の押出機への添加位置は、未変性のEVOH(A)とエポキシ化合物(B)とを、触媒の存在下に溶融混練した後であればよい。しかしながら、未変性のEVOH(A)とエポキシ化合物(B)とを、触媒の存在下に溶融混練し、未反応のエポキシ化合物(B)を除去した後に触媒失活剤を添加することが好ましい。前述のように、触媒失活剤を水溶液として添加する場合には、未反応のエポキシ化合物(B)を除去する前に触媒失活剤を添加したのでは、ベント等で除去して回収使用するエポキシ化合物(B)の中に水が混入することになり、分離操作に手間がかかるからである。なお、触媒失活剤の水溶液を添加した後で、ベント等によって水分を除去することも好ましい。
【0052】
本発明の製造方法において、触媒失活剤を使用する場合の好適な製造プロセスとしては、(1)未変性のEVOH(A)の溶融工程;(2)エポキシ化合物(B)と触媒の混合物の添加工程;(3)未反応のエポキシ化合物(B)の除去工程;(4)触媒失活剤水溶液の添加工程;(5)水分の減圧除去工程;の各工程からなるものが例示される。
【0053】
反応を円滑に行う観点からは、系内から水分及び酸素を除去することが好適である。このため、押出機内へエポキシ化合物(B)を添加するより前に、ベント等を用いて水分及び酸素を除去しても良い。
【0054】
エポキシ化合物(B)による変性EVOH(C)の変性量としては、未変性のEVOH(A)のモノマー単位に対して0.1〜10モル%の範囲であり、より好適には0.3〜5モル%の範囲であり、更に好適には0.5〜3モル%の範囲である。変性量が0.1モル%以下の場合、変性の効果が小さく、また、10モル%を超える場合、ガスバリア性及び熱安定性が低下するという欠点がある。
【0055】
変性EVOH(C)の好適なメルトフローレート(MFR)(190℃、2160g荷重下)は0.1〜100g/10分であり、好適には0.3〜30g/10分、更に好適には0.5〜20g/10分である。但し、融点が190℃付近あるいは190℃を超えるものは2160g荷重下、融点以上の複数の温度で測定し、片対数グラフで絶対温度の逆数を横軸、MFRの対数を縦軸にプロットし、190℃に外挿した値で示す。
【0056】
こうして得られた変性EVOH(C)を成形して本発明の医療用容器が製造される。このとき、変性EVOH(C)以外の樹脂や各種添加物を配合しても構わない。なかでも、変性EVOH(C)に未変性のEVOH(D)を配合した樹脂組成物を成形することが、特に好適な実施態様である。一般に変性EVOH(C)の製造コストは、未変性のEVOH(D)よりも高いので、二重結合濃度の高い変性EVOH(C)と未変性のEVOH(D)とを混合して所望の二重結合濃度を有する樹脂組成物を製造することが経済的である。前述のような方法によって押出機内で反応させることによって、変性量の大きい変性EVOH(C)を容易に製造できるから、このような樹脂組成物が容易に得られる。また、樹脂組成物の二重結合濃度を、用途に応じて調整することも容易である。未変性のEVOH(D)としては、既に説明した未変性のEVOH(A)と同様のものを使用することができる。
【0057】
変性EVOH(C)と未変性のEVOH(D)を含有する樹脂組成物における配合質量比(C/D)は特に限定されない。樹脂組成物の二重結合濃度を所望の範囲にして耐熱水性に優れた成形品を得るためには、比(C/D)の下限値は2/98であることが好ましく、5/95であることがより好ましく、15/85以上であることが更に好ましく、20/80以上であることが特に好ましい。一方、製造コスト及びバリア性の面からは、比(C/D)の上限値は60/40であることが好ましく、40/60であることがより好ましい。
【0058】
変性EVOH(C)と未変性のEVOH(D)を配合する方法は特に限定されない。溶融混練して配合しても構わないし、溶液中で配合しても構わない。生産性の観点からは溶融混練することが好ましく、例えば変性EVOH(C)と未変性のEVOH(D)のペレットを用いて溶融混練することが好適な態様である。
【0059】
変性EVOH(C)と未変性のEVOH(D)を含有する樹脂組成物における、エポキシ化合物(B)による変性量は、未変性のEVOH(A)のモノマー単位と未変性のEVOH(D)のモノマー単位の合計量に対して、好適には0.1〜10モル%の範囲であり、より好適には0.3〜5モル%の範囲であり、更に好適には0.5〜3モル%の範囲である。
【0060】
変性EVOH(C)、あるいは変性EVOH(C)と未変性のEVOH(D)を含有する樹脂組成物には必要に応じて各種添加剤を配合することもできる。このような添加剤の例としては、増感剤、硬化剤、硬化促進剤、酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、着色剤、充填材、あるいは他の高分子化合物を挙げることができ、これらを本発明の作用効果が阻害されない範囲でブレンドすることができる。添加剤の具体例としては次のようなものが挙げられる。
【0061】
増感剤:ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンジルジフェニルジスルフィド、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスブチロニトリル、ジベンジル、ジアセチル、アセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、ベンゾフェノン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン等。
【0062】
硬化剤:メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサンパーオキサイド、クメンパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルパーベンゾエート等。
【0063】
硬化促進剤:2−エチルヘキサン酸コバルト、ナフテン酸コバルト、2−エチルヘキサン酸マンガン、ナフテン酸マンガン等の金属石鹸や、メチルアニリン、ジメチルアニリン、ジエチルアニリン、メチル−p−トルイジン、ジメチル−p−トルイジン、メチル−2−ヒドロキシエチルアニリン、ジ−2−ヒドロキシエチル−p−トルイジンなどのアミン又はその塩酸、酢酸、硫酸、リン酸などの塩。
【0064】
酸化防止剤:2,5−ジブチル−t−ブチルハイドロキノン、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、4,4’−チオビス−(6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレン−ビス−(4−メチル−6−ブチルフェノール)、オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピロネート、4,4’−チオビス−(6−t−ブチルフェノール)等。
【0065】
可塑剤:フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、ワックス、流動パラフィン、リン酸エステル等。
【0066】
紫外線吸収剤:エチレン−2−シアノ−3,3’−ジフェニルアクリレート、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)5−クロロトリアゾール、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、(2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン等。
【0067】
帯電防止剤:ペンタエリスリトールモノステアレート、ソルビタンモノパルミテート、硫酸化オレイン酸、ポリエチレンオキシド、カーボワックス等。
【0068】
着色剤:カーボンブラック、フタロシアニン、キナクリドン、アゾ系顔料、酸化チタン、ベンガラ等。
【0069】
充填剤:グラスファイバー、マイカ、セライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、酸化ケイ素、モンモリロナイト等。
【0070】
他の高分子化合物:エチレン−ブテン共重合体、エチレン−プロピレン共重合体等のポリオレフィン;カルボキシル基などの官能基で変性された変性ポリオレフィン;ポリアミド、ポリエステル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル等。
【0071】
上記の目的に応じて、必要により添加剤を配合した変性EVOH(C)の樹脂組成物を熱溶融成形によりフィルム、シート、成型品とする場合と、他のプラスチック又は金属などを基材とするフィルム、シート、成型品の表面に溶液コーティングして被覆剤として使用する方法がある。このような場合の条件について次に述べる。
【0072】
変性EVOH(C)、あるいは変性EVOH(C)と未変性のEVOH(D)を含有する樹脂組成物を成形することで、本発明の医療用容器が得られる。成形方法は特に限定されず、溶融成形することもできるし、溶液を乾燥させることによって成形品を得ても良い。溶融成形する場合、変性EVOH(C)に添加剤を添加せずそのまま使用してもよいし、変性EVOH(C)と未変性のEVOH(D)や各種添加剤とを押出機に供給して、溶融混練してそのまま成形してもよい。また溶融混練して一旦ペレット化してから、成形してもよく、適宜好適な手段が採用される。
【0073】
溶融成形における成形温度は、変性EVOH(C)の融点等により異なるが、溶融樹脂温度を約120℃〜250℃とすることが望ましい。
【0074】
溶融成形法としては射出成形法、圧縮成形法、押出成形法など任意の成形法が採用できる。このうち押出成形法としてはT−ダイ法、中空成形法、パイプ押出法、線状押出法、異型ダイ成形法、インフレーション法などが挙げられる。成形物の形状は任意であり、フィルム、シート、テープ、ボトル、パイプ、異型断面押出物などが例示される。また、上記押出成形方法により得られた押出成形品を、一軸又は二軸延伸、若しくは熱成形などの二次加工に供することも可能である。
【0075】
本発明の好適な実施態様は、多層構造体からなる医療用容器である。具体的には、変性EVOH(C)からなる層と変性EVOH(C)以外の樹脂(F)からなる層とを有する多層構造体からなる医療用容器である。また、変性EVOH(C)及び未変性のEVOH(D)を含有する樹脂組成物からなる層と変性EVOH(C)以外の樹脂(F)からなる層とを有する多層構造体からなる医療用容器である。
【0076】
このような多層構造体からなる医療用容器の製造方法は特に限定されず、溶融成形してもよいし、接着剤などを用いてラミネートしてもよいし、溶液をコーティングしてもよい。溶融成形する場合には、共押出成形、共射出成形、押出コーティングなどが採用される。
【0077】
樹脂(F)としては、特に限定されないが、熱可塑性樹脂であることが好適である。樹脂(F)は、特に限定されないが、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、アクリル樹脂及びポリビニルエステルからなる群から選択される少なくとも1種が例示される。ポリオレフィンとしては、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−α−オレフィン(炭素数3〜20のα−オレフィン)共重合体、アイオノマー、ポリプロピレン、プロピレン(炭素数4〜20のα−オレフィン)共重合体、ポリブテン、ポリメチルペンテンなどのオレフィンの単独もしくは共重合体、又はこれらオレフィンの単独又は共重合体を不飽和カルボン酸又はその無水物あるいはエステルでグラフト変性したものなどが例示される。樹脂(F)がエラストマーであることも好ましい。
【0078】
多層構造体の層構成は本発明に用いられる変性EVOH(C)層、あるいは変性EVOH(C)と未変性のEVOH(D)を含有する樹脂組成物からなる層をC(C1,C2,・・・)、樹脂(F)層をF(F1,F2,・・・)、必要に応じて設けられる接着剤層をAdとする時、フィルム、シート、ボトル状であればC/Fの2層構造のみならず、C/F/C、F/C/F、F1/F2/C、F/C/F/C/F、C2/C1/F/C1/C2、C/Ad/F、C/Ad/F/C、F/Ad/C/Ad/F、F/Ad/C/Ad/C/Ad/Fなど、任意の構成が可能である。また、両樹脂の密着性を向上させる樹脂を配合したりすることもある。
【0079】
また、上記押出成形方法により得られた多層構造体が熱収縮フィルムである場合、多層構造体は押出ラミネート法、ドライラミネート法、共押出ラミネート法、共押出シート成形法、共押出インフレ成形法、溶液コート法などにより積層することにより得る事が出来る。このとき押出成形された積層物は直ちに急冷し実質上可能な限り非晶質にすることが好ましい。次いで、積層体を本発明に用いられる変性EVOH(C)の融点以下の範囲で再加熱し、ロール延伸法、パンタグラフ式延伸法あるいはインフレ延伸法などにより一軸、あるいは二軸延伸する。
【0080】
変性EVOH(C)、あるいは変性EVOH(C)と未変性のEVOH(D)を含有する樹脂組成物を成形品の表面に溶液コーティングする場合、上記の変性EVOH(C)含有樹脂組成物を公知のEVOH用溶媒に溶解又は分散して用いられる。該溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、2−ブタノール、2−メチル−2−プロパノール、ベンジルアルコール等の低級アルコール、及びこれらと水の混合物、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等の溶媒が挙げられる。特に、前記の低級アルコールと水の混合溶媒が好ましい。
【0081】
本発明において変性EVOH(C)又はそれを含む樹脂組成物が塗布される基材としては特に制限はなく、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリ塩化ビニル等の各種プラスチックのフィルム、シート、中空容器あるいは紙、天然ゴム、合成ゴム、金属等が挙げられる。
【0082】
塗布の方法としてはローラーコーティング法、スプレーコーティング法、ディップコーティング法その他任意の公知方法が適用できる。
【0083】
また、基材の種類によっては変性EVOH(C)又はそれを含む樹脂組成物との接着力を向上させるため、表面酸化処理、火炎処理、アンカーコート処理、プライマー処理等が適宜実施可能である。アンカー処理剤としては、ポリウレタン系化合物やポリエステル・イソシアネート系化合物が好適に利用され得る。アンカーコート層の膜厚は0.05〜3μm程度が実用的である。
【0084】
変性EVOH(C)又はそれを含む樹脂組成物の溶液を基材に塗布した後、乾燥が行われる。乾燥温度は30〜150℃好ましくは50〜120℃程度の温度で3秒〜5分程度加熱すれば良い。後述の架橋反応を電子線、X線、γ線、紫外線及び可視光線からなる群より選ばれる少なくとも1種を照射することによって行う場合、乾燥条件は低温度又は短時間で行うことが望ましい。
【0085】
本発明の医療用容器は、変性EVOH(C)の少なくとも一部が架橋されていて、成形品のゲル分率が3質量%以上となっているものである。前述のようにして得られた成形物中の変性EVOH(C)の少なくとも一部を架橋させることにより製造することができる。上記した架橋前の成形物は、空気中長時間放置することにより架橋させることが可能であるが、通常、電子線、X線、γ線、紫外線及び可視光線からなる群より選ばれる少なくとも1種を照射するか、加熱を行うことにより、架橋を行うことが望ましい。また、照射は医療用容器に内容物を充填した後、行うことも可能であり、その際、滅菌処理と成形品の架橋といった2つの処理が同時にできる。
【0086】
電子線、X線又はγ線を用いる場合、吸収線量が1kGy以上であることが好ましい。より好適には1kGy〜1MGyであり、更に好適には5kGy〜500kGyであり、特に好適には10kGy〜200kGyである。吸収線量が1MGyより大きい場合変性EVOH(C)の分解が生じることに伴い、フィルム強度の大幅低下、着色等の問題が生じるため好ましくない。また吸収線量が1kGyより小さい場合ゲル分率が向上せず、耐熱水性等の目的の性能が得られない。
【0087】
また、本発明の多層構造体からなる医療用容器が、内容物を充填後、加熱滅菌処理を行うことを特徴とする場合、前述のとおり耐熱水性の改善により、白化、変形、バリア性の低下が発生し難くなる。本多層構造体は加熱滅菌処理を行う必要がある医療用容器に好適である。
【0088】
前記多層構造体に、内容物を充填後、加熱滅菌、特にボイル滅菌又はレトルト滅菌することにより、保存性の優れた医療用容器を得ることができる。ここで、レトルト滅菌処理とは、高圧釜を使用し、密封した対象物を加温加圧下、熱水で滅菌する処理のことをいう。ここで処理条件としては、通常80〜145℃、0.1〜0.45MPaで30〜90分である。レトルト滅菌処理は回収式、置換式、蒸気式、シャワー式、スプレー式など各種の方法が採用される。レトルト滅菌処理を実施した直後は本発明の医療用容器でも白色不透明になる場合があるが、包装材の表面水を除去した後、しばらく放置することで透明化する。より確実に透明化、ガスバリア性の回復を望む場合には、40〜150℃、1〜120分間熱風で乾燥することが好適である。また他の加熱滅菌法としては熱間充填法、オートクレーブ加熱滅菌処理法などもあげられる。ここで、熱間充填とは、85℃以上で内容物を充填し滅菌処理することをいい、オートクレーブ滅菌処理とは、耐圧装置内部に飽和水蒸気や水素ガスなどの気体を入れ、加圧下で加熱することで微生物を滅菌する処理のことをいう。
【0089】
このようにして得られた成形品の、水−フェノール混合溶媒の不溶解率、すなわちゲル分率が3質量%以上であることが重要である。この不溶解率が3質量%未満の場合、本発明の目的である耐熱水性及び耐熱性等の効果が小さくなる。不溶解率は、好適には5質量%、更に好適には10質量%以上であり、特に好適には20質量%以上である。ここで、水−フェノール混合溶媒の不溶解率とは水(15質量%)−フェノール(85質量%)の混合溶剤100質量部に成形品を1質量部入れ、60℃、12時間加熱溶解した後、濾過し、濾液を蒸発乾固して算出される。なおここで濾過は溶解した未架橋の変性EVOH(C)が実質的に100%透過する濾過器材(濾紙、濾布、メンブラン)が使用される。なお、本発明に用いられる変性EVOH(C)を含有する樹脂組成物中にフィラーが含まれる場合、ゲル分率は上記溶媒の不溶分を500℃、1時間加熱した後に残る残渣の重量を減じて算出する。成形品が多層構造遺体である場合、変性EVOH(C)層、あるいは変性EVOH(C)と未変性のEVOH(D)を含有する樹脂組成物層のゲル分率が、上記範囲を満足する。
【0090】
本発明で得られる医療用容器は、有害な架橋剤をほとんど含有しないために架橋剤の内容物への溶出が抑制されて安全性に優れ、医療分野において使用するのに適したガスバリア性を有し、レトルト滅菌処理やオートクレーブ滅菌処理などの加熱滅菌処理に耐え得る耐熱性、耐熱水性を有し、さらに加熱滅菌処理後もガスバリア性の低下が極めて少ないものである。例えば、点滴用輸液バッグ、輸血バッグ、薬液バッグ、薬液ボトル、アンプル管などの医療用容器や、ダブルバッグやキットバッグなど外気を介さずに2種類以上の薬液を混合できる医療用容器として好適に使用される。
【実施例】
【0091】
以下、実施例にて本発明を更に詳しく説明するが、これらの実施例によって本発明は何ら限定されるものではない。なお、評価は以下の方法によって行った。
【0092】
(1)EVOHのエチレン含有量及び変性EVOHの変性度
測定に用いる試料を粉砕し、アセトンにより低分子量成分を抽出した後、120℃、12時間で乾燥させた。この試料をDMSO−dを溶媒としてH−NMR測定(日本電子社製「JNM−GX−500型」を使用)し、得られたスペクトルの内、二重結合を有するエポキシ化合物が反応した変性EVOHの二重結合のメチン位のピーク(5.9ppm)又は二重結合のメチレン位のピーク(5.2ppm)とEVOHのモノマー単位に相当するエチレン部分のピーク(1.4ppm)との面積比より算出した。
【0093】
(2)EVOH及び変性EVOHのメルトフローレート(MFR)
メルトインデクサL260(テクノ・セブン社製)を用い、荷重2.16kg、温度190℃で樹脂の流出速度(g/10分)を測定した。
【0094】
(3)レトルト滅菌処理後の外観の評価
120℃、0.15MPaの熱水下で90分レトルト滅菌処理した後のパウチの外観を次のように評価した。
○:全体的にフィルムは透明で白化やデラミネーションが見られなかった。
×:全体的にフィルムは白化し、デラミネーションが発生していた。
【0095】
(4)臭気評価
レトルト滅菌処理後、2時間室温で静置し冷ました後、パウチを開封し、中身の蒸留水を取り出し、官能試験(5人の総合評価)を行った。
【0096】
(5)アリルグリシジルエーテル(二重結合を有するエポキシ化合物)の溶出量
アリルグリシジルエーテル:0.02g、溶媒(メタノール:クロロホルム=50:50):20mL、100mLの2種の標準液を調製し、下記条件のガスクロマトグラフィー(GC)で検量線を作成した。測定に用いる変性EVOH約0.05gを容量10mlのバイアル瓶に精秤し、メタノール1mlを加えて80℃に加熱して溶解させた。この溶液を室温に冷却後、クロロホルム4mlを少しずつ添加し、白色の沈殿を析出させた。遠心分離機で溶液部と沈殿物を分離し、溶液部をGC分析して、先の検量線によりアリルグリシジルエーテルの溶出量を求めた。
GC装置 Agilent Technologies社製6890、カラム:DB−5(J&Wサイエンティフィック社製、キャピラリーカラム、長さ30m、φ0.25mm、film sickness 1.0μm)
測定条件 Inj.Temp.150℃、キャリアガス:ヘリウム、カラム流速:3.0ml/min、50℃(2分保持)→20℃/分で昇温→200℃(0.5分保持)
なお、本測定での検出の限界値は0.20μg/gである。
【0097】
合成例1
亜鉛アセチルアセトナート一水和物28質量部を1,2−ジメトキシエタン957質量部と混合し、混合液を得た。得られた前記混合液に攪拌しながらトリフルオロメタンスルホン酸15質量部を添加し、触媒溶液を得た。
【0098】
東芝機械社製TEM−35BS押出機(37mmφ、L/D=52.5)を使用し、スクリュー、3つのベント及び3つの圧入口を設置した。樹脂フィード口を水冷し、スクリュー回転部分の温度を200℃に設定し、スクリュー回転数300rpmで運転した。樹脂フィード口からEVOH(エチレン含有量32モル%、ケン化度99モル%以上、MFR6.0g/10分、カリウム含有量8ppm、リン酸根含有量20ppm)を20.0kg/hrで入れ、第1圧入口からアリルグリシジルエーテルを2.93kg/hr、上記触媒溶液を0.5kg/hrの割合で添加した。第2圧入口から酢酸ナトリウム0.82%水溶液を0.6kg/hrの割合で添加した。第1ベントから減圧で過剰のアリルグリシジルエーテルを除去し、第3圧入口から水を1kg/hrの割合で添加し、第2及び第3のベントから減圧で水及びアリルグリシジルエーテルを除去した。これによりアリルグリシジルエーテル変性量1.7モル%、MFR2.0g/10分、融点166℃の変性EVOH(EVOH−1)を得た。変性EVOH(EVOH−1)のAGE溶出量は0.62μg/gであった。
【0099】
合成例2
第1圧入口からアリルグリシジルエーテルを1.76kg/hrに、上記触媒溶液を0.2kg/hrの割合で添加し、第2圧入口から酢酸ナトリウム0.82%水溶液を0.3kg/hrの割合で添加した以外は、合成例1と同様の操作を行うことにより、アリルグリシジルエーテル変性量1モル%、MFR2.0g/10分の変性EVOH(EVOH−2)を得た。変性EVOH(EVOH−2)のAGE溶出量は0.44μg/gであり、AGE溶出量は0.50μg/g以下であった。
【0100】
合成例3
合成例1で得られた変性EVOH(EVOH−1)と未変性のEVOH(エチレン含有量27モル%、ケン化度99モル%以上、MFR4.0g/10分)を質量比60/40の割合でドライブレンドし、25mmφ二軸押出機((株)東洋精機製LABO PLASTOMIL MODEL 15C300)を用い、220℃でスクリュー回転数100rpm、押出樹脂量4.5kg/時間の条件で押出してペレット化した。次いで、80℃で12時間乾燥を行い、変性EVOH(EVOH−3)を得た(ブレンド後のアリルグリシジルエーテル変性量は計算上1.0モル%となり、AGE溶出量は、0.37μg/gとなる)。
【0101】
合成例4
合成例1で得られた変性EVOH(EVOH−1)と未変性のEVOH(エチレン含有量27モル%、ケン化度99モル%以上、MFR4.0g/10分)を質量比30/70の割合でドライブレンドし、25mmφ二軸押出機((株)東洋精機製LABO PLASTOMIL MODEL 15C300)を用い、220℃でスクリュー回転数100rpm、押出樹脂量4.5kg/時間の条件で押出してペレット化した。次いで、80℃で12時間乾燥を行い、変性EVOH(EVOH−4)を得た(ブレンド後のアリルグリシジルエーテル変性量は計算上0.5モル%となり、AGE溶出量は、0.18μg/gとなる)。
【0102】
合成例5
合成例1で得られた変性EVOH(EVOH−1)と未変性のEVOH(エチレン含有量32モル%、ケン化度99モル%以上、MFR4.0g/10分)を質量比60/40の割合でドライブレンドし、25mmφ二軸押出機((株)東洋精機製LABO PLASTOMIL MODEL 15C300)を用い、220℃でスクリュー回転数100rpm、押出樹脂量4.5kg/時間の条件で押出してペレット化した。次いで、80℃で12時間乾燥を行い、変性EVOH(EVOH−5)を得た(ブレンド後のアリルグリシジルエーテル変性量は計算上1.0モル%となり、AGE溶出量は、0.37μg/gとなる)。
【0103】
合成例6
合成例1で得られた変性EVOH(EVOH−1)と未変性のEVOH(エチレン含有量32モル%、ケン化度99モル%以上、MFR4.0g/10分)を質量比30/70の割合でドライブレンドし、25mmφ二軸押出機((株)東洋精機製LABO PLASTOMIL MODEL 15C300)を用い、220℃でスクリュー回転数100rpm、押出樹脂量4.5kg/時間の条件で押出してペレット化した。次いで、80℃で12時間乾燥を行い、変性EVOH(EVOH−6)を得た(ブレンド後のアリルグリシジルエーテル変性量は計算上0.5モル%となり、AGE溶出量は、0.18μg/gとなる)。
【0104】
実施例1
合成例1で得られた変性EVOH(EVOH−1)およびポリアミド「1022FD12」(商品名、株式会社宇部興産製、以下PAと称する)を原料とし、それぞれを別々の押出機に導入し、下記に示す条件に従ってPA/EVOH−1/PAの2種3層多層フィルムを共押出成形により製造した。得られた多層フィルムの厚み構成は15/15/15μmであった。
【0105】
共押出成形機の構成及び運転条件は下記のとおりである。
押出機1[PA]:株式会社プラスチック工学研究所製単軸押出機「GT−32−A型」、スクリュー径:32mmφ、スクリュー回転数:62rpm、シリンダー設定温度:240℃
押出機2[変性EVOH]:株式会社東洋精機製作所製単軸押出機「ラボME型CO−NXT」、スクリュー径:20mmφ、スクリュー回転数:18rpm、シリンダー設定温度:220℃
ダイスサイズ:300mm、フィルム引取り速度:4m/分、冷却ロール温度:60℃
【0106】
得られた多層フィルムをA4サイズ(30×21cm)にカットし、その片面に無延伸ポリプロピレンフィルム「RXC−18#60」(商品名、東セロ株式会社製;以下単にCPPと略称する)をアンカーコート接着剤(タケラックA385(商品名、株式会社武田薬品工業):タケネートA50(商品名、株式会社武田薬品工業):酢酸エチル=24:4:53(質量比))を介してラミネートした。得られたCPPでラミネートした多層フィルムを、CPPをラミネートしていない側から100kGy(加速電圧200kV)の電子線をエリアビーム形電子線照射装置(株式会社NHVコーポレーション製、「EBC−300−60」)により照射し、架橋させた。このとき、水とフェノールの質量比(水/フェノール)が15/85である混合溶媒を用いて、60℃、12時間加熱溶解試験を行った際の変性EVOH層の不溶解分の含量、即ち、ゲル分率は93.4%であった。
【0107】
該CPPでラミネートした多層フィルムを12×12cmの正方形に2枚カットし、両方のフィルムのCPP面を重ねて正方形の4辺の内3辺をヒートシーラー(フジインパルス社製「FR−450」)を用いてヒートシールした。これに、内容物として蒸留水70ccを入れ、最後の1辺を出来るだけ空気が入らないようにヒートシールし、パウチを得た。120℃、90分間のレトルト滅菌処理した結果、フィルム形態は良好であった。該レトルト滅菌処理後(120℃、90分)のフィルムの20℃、65%RH下での酸素透過量(OTR)を測定した結果、0.70cc・20μm/m・day・atmと良好なガスバリア性を示した。得られた結果を表1にまとめて示す。
【0108】
実施例2
合成例2で得られた変性EVOH(EVOH−2)を使用した以外は実施例1と同様にしてCPPでラミネートした多層フィルムからパウチ(蒸留水70cc入)を得た。このとき、ゲル分率は92.7%であった。該パウチを120℃で90分間のレトルト滅菌処理した結果、フィルム形態は良好であった。該レトルト滅菌処理後(120℃、90分)のフィルムの20℃、65%RH下での酸素透過量(OTR)を測定した結果、0.57cc・20μm/m・day・atmと良好なガスバリア性を示した。得られた結果を表1にまとめて示す。
【0109】
実施例3
合成例3で得られた変性EVOH(EVOH−3)を使用した以外は実施例1と同様にしてCPPでラミネートした多層フィルムからパウチ(蒸留水70cc入)を得た。このとき、ゲル分率は90.2%であった。該パウチを120℃で90分間のレトルト滅菌処理した結果、フィルム形態は良好であった。該レトルト滅菌処理後(120℃、90分)のフィルムの20℃、65%RH下での酸素透過量(OTR)を測定した結果、0.51cc・20μm/m・day・atmと良好なガスバリア性を示した。得られた結果を表1にまとめて示す。
【0110】
実施例4
合成例4で得られた変性EVOH(EVOH−4)を使用した以外は実施例1と同様にしてCPPでラミネートした多層フィルムからパウチ(蒸留水70cc入)を得た。このとき、ゲル分率は70.8%であった。該パウチを120℃で90分間のレトルト滅菌処理した結果、フィルム形態は良好であった。該レトルト滅菌処理後(120℃、90分)のフィルムの20℃、65%RH下での酸素透過量(OTR)を測定した結果、0.40cc・20μm/m・day・atmと良好なガスバリア性を示した。得られた結果を表1にまとめて示す。
【0111】
実施例5
合成例5で得られた変性EVOH(EVOH−5)を使用した以外は実施例1と同様にしてCPPでラミネートした多層フィルムからパウチ(蒸留水70cc入)を得た。このとき、ゲル分率は89.4%であった。該パウチを120℃で90分間のレトルト滅菌処理した結果、フィルム形態は良好であった。該レトルト滅菌処理後(120℃、90分)のフィルムの20℃、65%RH下での酸素透過量(OTR)を測定した結果、0.64cc・20μm/m・day・atmと良好なガスバリア性を示した。得られた結果を表1にまとめて示す。
【0112】
実施例6
合成例6で得られた変性EVOH(EVOH−6)を使用した以外は実施例1と同様にしてCPPでラミネートした多層フィルムからパウチ(蒸留水70cc入)を得た。このとき、ゲル分率は68.1%であった。該パウチを120℃で90分間のレトルト滅菌処理した結果、フィルム形態は良好であった。該レトルト滅菌処理後(120℃、90分)のフィルムの20℃、65%RH下での酸素透過量(OTR)を測定した結果、0.56cc・20μm/m・day・atmと良好なガスバリア性を示した。得られた結果を表1にまとめて示す。
【0113】
実施例7
合成例3で得られた変性EVOH(EVOH−3)を使用し、電子線照射量を10kGy(加速電圧200kV)とした以外は実施例1と同様にしてCPPでラミネートした多層フィルムからパウチ(蒸留水70cc入)を得た。このとき、ゲル分率は20.2%であった。該パウチを120℃で90分間のレトルト滅菌処理した結果、フィルム形態は良好であった。該レトルト滅菌処理後(120℃、90分)のフィルムの20℃、65%RH下での酸素透過量(OTR)を測定した結果、0.38cc・20μm/m・day・atmと良好なガスバリア性を示した。得られた結果を表1にまとめて示す。
【0114】
比較例1
変性EVOH(EVOH−1)の代わりにエチレン含有量27モル%、ケン化度99モル%以上、MFR4.0g/10分の「エバール」L171(商品名、株式会社クラレ製)を使用し、電子線を照射しなかったこと以外は実施例1と同様にしてCPPでラミネートした多層フィルムからパウチ(蒸留水70cc入)を得た。このとき、ゲル分率は0%であった。該パウチを120℃で90分間のレトルト滅菌処理した結果、高温高圧に耐えず、フィルム形態は白化し、デラミネーションが激しく発生した。該レトルト滅菌処理後(120℃、90分)のフィルムの酸素透過量(OTR)はフィルムの破壊が激しく測定できなかった。得られた結果を表1にまとめて示す。
【0115】
比較例2
変性EVOH(EVOH−1)の代わりに合成例4で得られた変性EVOH(EVOH−4)を使用し、電子線を照射しなかったこと以外は実施例1と同様にしてCPPでラミネートした多層フィルムからパウチ(蒸留水70cc入)を得た。このとき、ゲル分率は1.7%であった。該パウチを120℃で90分間のレトルト滅菌処理した結果、フィルム形態は白化し、デラミネーションが激しく発生した。該レトルト滅菌処理後(120℃、90分)のフィルムの酸素透過量(OTR)はフィルムの破壊が激しく測定できなかった。得られた結果を表1にまとめて示す。
【0116】
比較例3
変性EVOH(EVOH−1)の代わりに合成例6で得られた変性EVOH(EVOH−6)を使用し、電子線を照射しなかったこと以外は実施例1と同様にしてCPPでラミネートした多層フィルムからパウチ(蒸留水70cc入)を得た。このとき、ゲル分率は1.5%であった。該パウチを120℃で90分間のレトルト滅菌処理した結果、フィルム形態は白化し、デラミネーションが激しく発生した。該レトルト滅菌処理後(120℃、90分)のフィルムの酸素透過量(OTR)はフィルムの破壊が激しく測定できなかった。得られた結果を表1にまとめて示す。
【0117】
実施例8
合成例4で得られた変性EVOH(EVOH−4)を使用した以外は実施例1と同様にして、PA/EVOH−4/PAの2種3層多層フィルムを共押出成形により製造した。得られた多層フィルムの厚み構成は15/15/15μmであった。
【0118】
得られた多層フィルムをA4サイズ(30×21cm)にカットし、実施例1と同様にしてCPPでラミネートした後に12×12cmのパウチを作成し、内容物として蒸留水70ccを入れヒートシールした。
【0119】
内容物(蒸留水)を入れたパウチを片面ずつ両面に100kGy(加速電圧200kV)の電子線を照射し、架橋させた。このとき、ゲル分率は70.8%であった。
【0120】
内容物を入れたまま電子線照射滅菌処理後のパウチをさらに120℃で90分間のレトルト滅菌処理した結果、パウチ形態は良好であった。該レトルト滅菌処理後(120℃、90分)のパウチの20℃、65%RH下での酸素透過量(OTR)を測定した結果、0.40cc・20μm/m・day・atmと良好なガスバリア性を示した。また、官能試験の結果、臭気は感じられず、GC測定の結果も検出限界以下であった。得られた結果を表2にまとめて示す。
【0121】
比較例4
変性EVOH(EVOH−4)の代わりに「エバール」L171(商品名、株式会社クラレ製)を使用したこと以外は実施例8と同様にしてパウチに内容物を入れ、片面ずつ両面に100kGy(加速電圧200kV)の電子線を照射した。得られたパウチを120℃で90分間のレトルト滅菌処理した結果、フィルム形態は白化し、デラミネーションが激しく発生した。該レトルト滅菌処理後(120℃、90分)のフィルムの酸素透過量(OTR)はフィルムの破壊が激しく測定できなかった。また、官能試験の結果、臭気は感じられなかった。得られた結果を表2にまとめて示す。
【0122】
比較例5
変性EVOH(EVOH−4)の代わりに「エバール」L171(商品名、株式会社クラレ製)としたこと以外は実施例8と同様にしてパウチに内容物を入れた。得られたパウチを120℃で90分間のレトルト滅菌処理した結果、フィルム形態は白化し、デラミネーションが激しく発生した。該レトルト滅菌処理後(120℃、90分)のフィルムの酸素透過量(OTR)はフィルムの破壊が激しく測定できなかった。また、官能試験の結果、臭気は感じられなかった。得られた結果を表2にまとめて示す。
【0123】
【表1】

【0124】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)からなる医療用容器であって、変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)は、未変性のエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)を、二重結合を有するエポキシ化合物(B)で変性して得られたものであり、二重結合を有するエポキシ化合物(B)による変性量がエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)のモノマー単位に対して0.1〜10モル%であり、変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)の少なくとも一部が架橋されていて、かつ、そのゲル分率が3質量%以上であることを特徴とする医療用容器。
【請求項2】
変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)及び未変性のエチレン−ビニルアルコール系共重合体(D)を含有する樹脂組成物からなる医療用容器であって、変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)は、未変性のエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)を、二重結合を有するエポキシ化合物(B)で変性して得られたものであり、二重結合を有するエポキシ化合物(B)による変性量がエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)のモノマー単位に対して0.1〜10モル%であり、該樹脂組成物の少なくとも一部が架橋されていて、かつ、そのゲル分率が3質量%以上であることを特徴とする医療用容器。
【請求項3】
未変性のエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)のエチレン含有量が5〜55モル%であり、かつ、ケン化度が90モル%以上である請求項1又は2記載の医療用容器。
【請求項4】
二重結合を有するエポキシ化合物(B)が分子量500以下の一価エポキシ化合物である請求項1〜3のいずれか記載の医療用容器。
【請求項5】
二重結合を有するエポキシ化合物(B)がアリルグリシジルエーテルである請求項4記載の医療用容器。
【請求項6】
変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)からなる層と変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)以外の樹脂(F)からなる層とを有する多層構造体からなる請求項1記載の医療用容器。
【請求項7】
変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)及び未変性のエチレン−ビニルアルコール系共重合体(D)を含有する樹脂組成物からなる層と変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)以外の樹脂(F)からなる層とを有する多層構造体からなる請求項2記載の医療用容器。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか記載の医療用容器に内容物が充填されてなる包装体であって、該内容物が充填される前あるいは後に加熱滅菌処理されてなることを特徴とする医療用包装体。
【請求項9】
加熱滅菌処理がレトルト滅菌処理又はオートクレーブ滅菌処理である請求項8記載の医療用包装体。
【請求項10】
変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)からなる医療用容器の製造方法であって、未変性のエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)を、二重結合を有するエポキシ化合物(B)で変性して、変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)を製造し、変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)を成形し、変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)の少なくとも一部を架橋させて、かつ、そのゲル分率を3質量%以上にすることを特徴とする医療用容器の製造方法。
【請求項11】
変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)及び未変性のエチレン−ビニルアルコール系共重合体(D)を含有する樹脂組成物からなる医療用容器の製造方法であって、未変性のエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)を、二重結合を有するエポキシ化合物(B)で変性して変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)を製造し、変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)と未変性のエチレン−ビニルアルコール系共重合体(D)とを混合して樹脂組成物を製造し、該樹脂組成物を成形し、該樹脂組成物の少なくとも一部を架橋させて、かつ、そのゲル分率を3質量%以上にすることを特徴とする医療用容器の製造方法。
【請求項12】
架橋前の変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)から溶出されるエポキシ化合物(B)の溶出量が0.50μg/g以下である請求項10又は11記載の医療用容器の製造方法。
【請求項13】
電子線、X線、γ線、紫外線及び可視光線からなる群から選択される少なくとも1種を照射するか、加熱することにより変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)の少なくとも一部を架橋させる請求項10〜12のいずれか記載の医療用容器の製造方法。


【公開番号】特開2011−1061(P2011−1061A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−269975(P2007−269975)
【出願日】平成19年10月17日(2007.10.17)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】