説明

耐熱性に優れた多層多孔フィルム

本発明は、電池用セパレータとして用いることができる2層以上の多層多孔フィルムに関するものであって、本発明による多層多孔フィルムは、2層以上の層が互いに異なる空隙率及び気孔サイズを有しており、厚さが9〜50μm、縦方向のループステフネスが0.008mg/μm以上、穿孔強度が0.15N/μm以上、透過度が1.5x10-5Darcy以上であり、シャットダウン温度が140℃以下、溶融破断温度が170℃以上、1mN/(1μmx6mm)の荷重でのTMAにおける横方向の最大収縮率が25%以下、メルトダウン温度(長さが120%となる温度)が160℃以上である多層多孔フィルムに関する。本発明による多層多孔フィルムは、高温で優れた熱安定性を有し、二重気孔構造によって電解液保液性も優れるため、高容量/高出力のリチウムイオン電池用セパレータとして用いられる場合、優れた効果を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性に優れた多層多孔フィルムに関し、より具体的には、2層以上の多層で構成されており、微細孔、低いシャットダウン温度及び高いメルトダウン温度の特性を有するため、リチウム二次電池のセパレータに適用する場合、優れた熱安定性、電解液保液性及び電池組立性を示す多層多孔フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、非常に高いエネルギー密度を有する優れた電池であるが、短絡発生時に爆発の危険性が存在して、用いられるセパレータは高い品質水準とともに品質安定性が大きく要求されている。最近は、ハイブリッド自動車用電池などのように、リチウム二次電池の高容量、高出力の傾向に応じて、既存製品の品質安定性に加えてセパレータの熱安定性がさらに大きく要求されている。セパレータの熱安定性が劣ると、電池の過熱によるセパレータのメルトダウンによって事故が発生する危険性が高くなるためである。
【0003】
セパレータの熱安定性を向上させるための努力は、大きく三つの方向に展開されてきた。無機物または耐熱性を有する樹脂を既存のポリエチレンに添加することによりセパレータの耐熱性を高める方法、耐熱性を有する物質を表面にコーティングする方法、及び耐熱性を有する層を含む多層セパレータを製造する方法である。
【0004】
米国特許第6,949,315号には、超高分子量ポリエチレンに5〜15重量%の酸化チタンなどの無機物を混練することによりセパレータの熱安定性を向上させたフィルムが開示されている。しかし、この方法は、無機物の添加による多少の熱安定性の向上効果はあるが、セパレータのマトリックスがポリエチレンであるため、ポリエチレンの融点以上には熱安定性が向上されない。また、無機物の投入による混練性の低下、混練性の低下による延伸時のピンホールの発生及び品質の不均一などの問題が発生しやすく、無機物と高分子樹脂の界面の親和性不足により、衝撃強度などのフィルムの物性が低下する。
【0005】
無機物の代わりに、優れた耐熱性を有する樹脂を混練することにより製造されるセパレータが米国特許第5,641,565号に開示されている。この技術は、ポリエチレンに5〜45重量%のポリプロピレンを混合した樹脂混合物に、30〜75重量%の有機液状化合物と10〜50重量%の無機物を混合した後、有機液状化合物と無機物を抽出してセパレータを製造する技術である。この技術も、セパレータのマトリックスがポリエチレンであるため、耐熱性の向上には限界がある。また、特許自体で言及されているように、ポリエチレンと混練性のないポリプロピレンの添加により物性が低下する。十分な耐熱効果を得るためには、比較的多量のポリプロピレンが必要であるが、この場合、セパレータの物性はさらに低下する。
【0006】
耐熱性を有する物質を微多孔フィルムの表面にコーティングする方法が米国公開特許第2006-0055075号に開示されている。しかし、コーティング方式は、コーティング層の透過度を高めるには限界があるため、全体フィルムの透過度が低下し、コーティング層と微多孔フィルムの間の湿潤(wetting)性の低下によって品質の不均一が発生する可能性が高い。
【0007】
セパレータの熱安定性を増大させるために多層セパレータを製造する方法の一つは、ラミネーションを用いることである。米国特許第5,691,077号には、優れたシャットダウン特性を有する(溶融温度が低い)ポリエチレンに、溶融破断温度が高い(溶融温度が高い)ポリプロピレン樹脂をラミネーションすることにより、3層構造のセパレータを製造する方法が開示されている。乾式法(厚いポリオレフィンシートを製造した後、低温で延伸してポリオレフィンの結晶部分であるラメラの間に微細なクラックを誘発させることにより微細空隙を形成する方法)により生産されるこのセパレータは、熱的特性は優れるが、乾式法による原反フィルムの製造過程での延伸不均一、ピンホールの発生、厚さ偏差の増加などの短所を有するだけでなく、別工程で行われるラミネーション工程の追加によって生産性が低下し、ラミネーション不良によるデラミネーションの問題もあるため、広く用いられていない。また、乾式法により製造されるセパレータは、生成される気孔のサイズが小さいため、十分な透過度を供することが困難である。
【0008】
日本公開特許第2002-321323号には、ポリエチレン膜とポリエチレン/ポリプロピレンのブレンド膜を積層したポリオレフィン系多孔フィルムが開示されている。しかし、この場合にも、ポリエチレン/ポリプロピレンのブレンド膜のポリプロピレン含量が低いため、十分な溶融破断温度の上昇効果を奏することが困難である。
【0009】
二次電池用セパレータの必須な特性は、剛性、透過性、品質均一性及び熱安定性であり、電解液保液性及び電池組立性がさらに求められる。しかし、上述した従来技術はこれら特性を同時に満たすことができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第6,949,315号
【特許文献2】米国特許第5,641,565号
【特許文献3】米国公開特許第2006-0055075号
【特許文献4】米国特許第5,691,077号
【特許文献5】日本公開特許第2002-321323号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記の従来技術の問題点を解決するためのものであって、厚さが9〜50μm、縦方向のループステフネスが0.008mg/μm以上、穿孔強度が0.15N/μm以上、透過度が1.5x10-5Darcy以上であり、シャットダウン温度が140℃以下、溶融破断温度が170℃以上、1mN/(1μmx6mm)の荷重でのTMAにおける横方向(TD)の最大収縮率が25%以下、1mN/(1μmx6mm)の荷重でのTMAにおける横方向(TD)のメルトダウン温度(長さが120%となる温度)が160℃以上である、多層多孔フィルムを提供することをその目的とする。
【0012】
より具体的には、二次電池に用いられる場合、剛性、透過性、品質均一性及び熱安定性とともに、優れた電解液保液性及び電池組立性をさらに有する多層多孔フィルムを提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記の目的を果たすために導き出されたものであって、本発明は、高温で優れた熱安定性を有し、二重気孔構造によって電解液保液性にも優れている多層多孔フィルムを提供する。
【0014】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0015】
ここで、本発明で用いられる技術用語は、他の定義がない限り、この発明が属する技術分野において通常の知識を有する者が通常的に理解している意味を有し、下記の説明で本発明の要旨を不明瞭にする可能性のある公知機能及び構成についての説明は省略する。
【0016】
本発明は、優れた耐熱性を有する多層多孔フィルムに関するものであって、より具体的には、空隙率が30〜60%、気孔の平均直径が0.01〜0.1μmである第1層と、空隙率が50〜80%、平面平均直径が0.1〜50μmの気孔が第2層の気孔中に占める面積の割合が70%以上である第2層と、が互いに隣接しており、前記第2層の厚さは、3μm以上で、多層多孔フィルム全体の厚さの30〜70%である多層多孔フィルムを提供する。
【0017】
本発明による多層多孔フィルムについて詳細に説明すると、次のとおりである。
【0018】
多層多孔フィルムを構成する第1層は、空隙率が30〜60%、好ましくは40〜55%である。前記第1層の空隙率が30%未満の場合には、多孔フィルムの透過度が低くなるため電池用セパレータとして適しない。また、空隙率が60%を超過する場合には、透過度は高いが、多孔フィルムの強度が低下する。
【0019】
また、前記第1層は、微細な気孔に基づいてセパレータの品質安定性を向上させる層であり、気孔の平均直径が0.01〜0.1μm、好ましくは0.01〜0.08μm、より好ましくは0.01〜0.05μmである。平均直径が0.01μm未満の場合には、透過度が十分ではないため電池用セパレータとして適しない。また、平均直径が0.1μmを超過する場合には、気孔のサイズが大きくなりすぎて、多孔フィルムの品質安定性が低下する。
【0020】
本発明の多層多孔フィルムを構成し、前記第1層と隣接した第2層は、大きい空隙率と気孔に基づいてセパレータの透過度及び電解液含浸性を向上させる層であり、空隙率が50〜80%、好ましくは60〜80%である。前記第2層の空隙率が50%未満の場合には、多孔フィルムの透過度が低くなるため、電池の容量及び効率が低下し、電解液含浸性も低下する。また、空隙率が80%を超過する場合には、透過度が高く、電解液含浸性も優れるが、多孔フィルムの強度が低くなるため電池用セパレータとして適しない。
【0021】
前記第2層において、平面平均直径が0.1〜50μmの気孔が第2層の気孔中に占める面積の割合は70%以上であり、好ましくは、平面平均直径が1〜50μmの気孔が第2層の気孔中に占める面積の割合は70〜90%である。前記気孔の平面平均直径が0.1μm未満の場合には、多孔フィルムの透過度が低くなるという問題があり、平均直径が50μmを超過する場合には、多孔フィルムの強度が低くなって電池の安定性が低下するという問題がある。
【0022】
また、平面平均直径が0.1〜50μm、好ましくは1〜50μmの気孔が第2層の気孔中に占める面積の割合が70%未満の場合には、透過度及び電解液含浸性の向上効果が十分でないため好ましくない。
【0023】
前記第2層の厚さは、3μm以上、好ましくは3〜15μmであり、多層多孔フィルム全体の厚さの30〜70%であることが好ましい。前記第2層の厚さが3μm未満であるか、または多層多孔フィルム全体の厚さの30%未満の場合には、第2層の大きい空隙率及び気孔による効果が得られず、耐熱性の向上も大きくない。また、第2層の厚さが多層多孔フィルム全体の厚さの70%を超過する場合には、多孔フィルムの強度が低下し、品質安定性も低下する。
【0024】
本発明による多層多孔フィルムの厚さは、9〜50μm、好ましくは12〜35μmである。前記多層多孔フィルムの厚さが9μm未満の場合には、フィルムの強度が低くなるという問題があり、50μmを超過する場合には、多孔フィルム全体の透過度が低くなるため電池の容量及び効率が低下する。
【0025】
また、本発明による多層多孔フィルムの縦方向(MD)のループステフネスは0.008mg/μm以上、好ましくは0.008〜0.030mg/μmであり、ループステフネスが0.008mg/μm未満の場合には、電池の組立性が低下する。
【0026】
多層多孔フィルムの穿孔強度は、0.15N/μm以上、好ましくは0.2〜0.5N/μmであり、穿孔強度が0.15N/μm未満の場合には、強度が弱いため電池用セパレータとして適しない。
【0027】
多層多孔フィルムの気体透過度は、1.5x10-5Darcy以上、好ましくは2.0x10-5〜10x10-5Darcyであり、気体透過度が1.5x10-5Darcy未満の場合には、透過度が十分でないため高容量/高効率の電池として適しない。
【0028】
電池内でのセパレータの熱安定性は、シャットダウン温度及び溶融破断温度により決定される。シャットダウン温度とは、電池の内部温度が異常に上昇される時にセパレータの微多孔が閉塞して、それ以上電流が流れないようにする温度である。溶融破断温度とは、シャットダウン温度以上に電池の温度が上昇し続ける時にセパレータが溶融破断されて電流が再び流れるようになる温度である。電池の安定性のためには、シャットダウン温度は低く、溶融破断温度は高いことが好ましい。特に、溶融破断温度は、電池の爆発が誘発される恐れがある状況で電流を遮断し続けることができる温度であり、電池の安定性に最も密接な関係を有している。本発明による微多孔多層フィルムは、シャットダウン温度が140℃以下、好ましくは130〜140℃であり、溶融破断温度が170℃以上、好ましくは180℃以上、より好ましくは180〜300℃である。前記シャットダウン温度が140℃を超過する場合または溶融破断温度が170℃未満の場合には、電池の熱安定性が大きく低下する。
【0029】
熱機械分析(TMA)は、一定の荷重下で温度を増加させながらフィルムの変形(収縮または伸張)程度を測定するための装置である。TMAにおける最大収縮率は、一定の荷重下でフィルムに熱が加えられた時に収縮される程度を示す。TMAにおけるメルトダウン温度は、一定の荷重下でセパレータの温度が上昇する時にセパレータの長さが初期の長さの120%となる温度である。最大収縮率が大きいと、高温でセパレータの収縮により電極が露出されて短絡が発生する恐れがある。また、メルトダウン温度が低いと、高温でセパレータが破断されて短絡が発生する恐れがある。セパレータの最大収縮率が小さく、メルトダウン温度が高いほど、セパレータは高温で優れた安定性を有する。本発明によるセパレータは、1mN/(1μmx6mm)の荷重でのTMAにおける横方向の最大収縮率が25%以下、好ましくは0〜25%であり、メルトダウン温度(長さが120%となる温度)が160℃以上、好ましくは160〜300℃である。横方向(TD)はセパレータが電池に巻かれる方向に垂直な方向であり、横方向のセパレータの変形は電極間の短絡をもたらすため少ないほど好ましい。TMAにおける横方向の最大収縮が25%を超過する場合またはメルトダウン温度が160℃未満の場合には、セパレータの高温安定性が低下するため、電池の安定性が悪くなる。
【0030】
以下、本発明による多層多孔フィルムの製造方法について説明する。本発明のセパレータを製造するための製造方法は、
(a)第1層を製造するための組成物を溶融混練する段階と、
(b)第2層を製造するための組成物を溶融混練する段階と、
(c)前記(a)及び(b)で混練された溶融物を多層シートに成形する段階と、
(d)前記多層シートを延伸してフィルムに成形する段階と、
(e)前記フィルムから希釈剤(diluent)を抽出する段階と、
(f)前記フィルムを二次延伸する段階と、
(g)二次延伸されたフィルムを熱固定する段階と、を含む。
【0031】
以下、各段階をより詳細に説明すると、次のとおりである。
【0032】
(a)第1層を製造するための組成物を溶融混練する段階を行う。
【0033】
前記第1層に用いられる樹脂は、エチレン単独、またはエチレンと炭素数3〜8のα-オレフィンコモノマーの組合せで構成される単一のポリエチレンまたはポリエチレン混合物が好ましい。ポリエチレン混合物は、エチレン単独、またはエチレンと炭素数3〜8のα-オレフィンコモノマーの組合せで構成されるポリエチレンの混合物であり、最終混合物の溶融温度が125〜140℃である。
【0034】
第1層は、小さい平均気孔直径に基づいて微多孔フィルムのシャットダウン温度を低めるものであるため、ポリエチレン及びポリエチレン混合物の溶融温度が125〜140℃であることが好ましい。溶融温度が125℃未満の場合には低い結晶度によって気孔の形成が困難となり、溶融温度が140℃を超過する場合には多孔フィルムのシャットダウン温度が高くなる。
【0035】
ポリエチレン及びポリエチレン混合物の分子量は、重量平均分子量が2x105〜3x106、より好ましくは2x105〜1.5x106である。重量平均分子量が2x105未満の場合には多孔フィルムの物性が劣化し、重量平均分子量が3x106を超過する場合には押出混練性が悪くなって生産性が低下する。
【0036】
前記ポリエチレン及びポリエチレン混合物は、押出機内で希釈剤と混合される。希釈剤としては、ノナン(nonane)、デカン(decane)、デカリン(decalin)、パラフィンオイル(paraffin oil)などの脂肪族(aliphatic)または環状炭化水素(cyclic hydrocarbon)とジブチルフタレート(dibutyl phthalate)、ジオクチルフタレート(dioctyl phthalate)などのフタル酸エステル(phthalic acid ester)など、圧出加工温度で熱的に安定した有機液状化合物(organic liquid)が使用可能である。時に、人体に無害であり、沸騰点(boiling point)が高く、揮発性(volatile)成分が少ないパラフィンオイルが好ましく、40℃で20〜200cStの動粘度(kinetic viscosity)を有するパラフィンオイルがより好ましい。パラフィンオイルの動粘度が20cSt未満であると、押出機内で溶融ポリエチレンとの粘度差により、圧出加工時に混練が困難となる。また、パラフィンオイルの動粘度が200cStを超過すると、圧出工程での動粘度が高いため負荷上昇、シート及びフィルムの表面不良などの問題が発生する恐れがあり、抽出工程で抽出が困難となるため生産性が低下し、残留されたオイルによる透過度の減少などの問題が発生する恐れがある。
【0037】
本発明で用いられるポリエチレンと希釈剤の組成は、ポリエチレンが20〜50重量%で、希釈剤が50〜80重量%であることが好ましい。前記ポリエチレンの含量が20重量%未満の場合(即ち、希釈剤が80重量%を超過する場合)には、ポリエチレンと希釈剤の混練性が低下して、ポリエチレンが希釈剤に熱力学的に混練されずにゲル形態に圧出されて、延伸時に破断及び厚さ不均一などの問題が生じる恐れがある。また、前記ポリエチレンの含量が50重量%を超過する場合(即ち、希釈剤が50重量%未満の場合)には、空隙率及び空隙のサイズが減少して、空隙間の相互連結(interconnection)が少ないため透過度が大きく低下する。
【0038】
前記組成物には、必要に応じて、酸化安定剤、UV安定剤、帯電防止剤、有/無機核剤など、特定機能を向上させるための通常の添加剤がさらに添加されることができる。
【0039】
前記組成物は、希釈剤とポリエチレンとの混練のために設計された二軸コンパウンダ、混練機またはバンバリーミキサーなどを用いて溶融混練させる。溶融混練温度は180〜300℃が好ましい。ポリエチレンと希釈剤はブレンドされてコンパウンダに投入されるか、または分離された供給機(feeder)からそれぞれ投入されることができる。
【0040】
(b)第2層を製造するための組成物を溶融混練する段階を行う。
【0041】
前記第2層を製造するための組成物は、樹脂組成物単独からなってもよく、必要に応じて無機物をさらに用いてもよい。本発明による多層多孔フィルムの溶融破断温度が170℃以上となるためには、大きく二つの樹脂システム(system)が可能である。
【0042】
下記第1様態に記載の樹脂組成物は高耐熱樹脂及び前記高耐熱樹脂と液‐液相分離されるその他の樹脂を含み、第2様態に記載の樹脂組成物は一般耐熱樹脂及び前記一般耐熱樹脂と液‐液相分離されるその他の樹脂を含む。
【0043】
以下、前記二つの樹脂システムについてより詳細に説明する。
【0044】
まず、第1様態として、(1)溶融温度が180℃以上、好ましくは溶融温度が180〜300℃の高耐熱樹脂を用いる場合、前記高耐熱樹脂の含量は樹脂組成物の50体積%以上、好ましくは50〜85体積%であり、気孔形成剤の役割をするその他の樹脂の含量は樹脂組成物の15体積%〜50体積%である。高耐熱樹脂の含量が樹脂組成物の50体積%以上でなければならない理由は、高耐熱樹脂の含量が樹脂組成物の50体積%以上であると、セパレータ内に高耐熱樹脂のマトリックス(matrix)が形成され、これにより溶融破断温度が170℃以上になるためである。高耐熱樹脂の含量が樹脂組成物の85体積%を超過する場合には、延伸過程で気孔が十分に形成されない恐れがある。前記高耐熱樹脂としては、ポルメチルペンテン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリメチレンオキシド、ポリアミドまたはこれらの混合物などが用いられることができるが、これに限定されるものではない。
【0045】
前記第2層に気孔を形成する原理は、高耐熱樹脂のマトリックス内に気孔形成の核の役割をするその他樹脂を混練して、延伸過程で高耐熱樹脂との界面を広げることである。この際、その他の樹脂としては、前記高耐熱樹脂と液‐液相分離される樹脂(以下「その他の樹脂」という)が用いられることができる。
【0046】
前記高耐熱樹脂と液‐液相分離されるその他の樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンビニルアセテート、ポリスチレン、ポリビニルクロライド、ポリビニリデンフルオリド、ポリメチルペンテン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリメチレンオキシド、ポリアミドまたはこれらの混合物などが用いられることができ、最も好ましくは、ポリエチレンを用いる場合、第1層との接着性が向上されるという効果が得られる。
【0047】
また、前記樹脂組成物に50重量%以下の無機物をさらに用いることができる。無機物をさらに用いる場合、耐熱性をより高める効果があるが、無機物の含量が50重量%を超過する場合には、延伸中に気孔が破壊されて物性が大きく低下する恐れがある。
【0048】
前記無機物としては、二酸化ケイ素(SiO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、炭酸カルシウム(CaCO3)、二酸化チタン(TiO2)、SiS2、SiPO4、MgO、ZnO、BaTiO3、天然クレー、有機的に変形されたクレーまたはこれらの混合物から選択される平均粒子サイズが0.01〜5μmの無機物、またはこれらの混合物が好ましい。平均粒子サイズが0.01μm未満の場合には、延伸過程で形成される気孔のサイズが小さいため、多孔フィルムとして適しない。また、平均粒子サイズが5μmを超過する場合には、延伸後に形成される気孔が大きすぎるため、多孔フィルムの物性を低下させる。その他の組成物として、前記高耐熱樹脂と液‐液相分離されるその他の樹脂以外に無機物をさらに用いる場合、耐熱性をさらに高める効果がある。
【0049】
第2様態として、(2)溶融温度が160〜180℃の一般耐熱樹脂を用いる場合、前記第2層は、一般耐熱樹脂含量が樹脂組成物の50体積%以上で、かつ無機物の含量が30〜60重量%でなければならない。一般耐熱樹脂の含量が樹脂組成物の50体積%以上で、かつ無機物の含量が30〜60重量%でなければならない理由は、一般耐熱樹脂の場合、樹脂組成物中の含量が50体積%をなしても溶融破断温度が170℃以上となることが困難であるためである。従って、これに無機物を添加することにより、熱安定性が向上されて溶融破断温度が上昇する。前記無機物の含量が30重量%以上となると溶融破断温度が170℃以上となり、無機物の含量が60重量%を超過する場合には、無機物の混練不良によってフィルムの均一性が低下し、二次延伸過程で気孔が破壊されてピンホールが生じる。
【0050】
前記一般耐熱樹脂としては、ポリプロピレンまたはポリプロピレン混合物などが用いられることができるが、これに限定されるものではない。
【0051】
前記ポリプロピレンは、プロピレン単独、またはプロピレンとエチレン及び炭素数4〜8のα-オレフィンの組合せで構成される、溶融温度が160〜180℃の単一またはポリプロピレン混合物である。また、前記ポリプロピレン混合物は、プロピレン単独、またはプロピレンとエチレン及び炭素数4〜8のα-オレフィンの組合せで構成されるポリプロピレンの混合物である。好ましいポリプロピレンの重量平均分子量は5x104〜2x106である。前記重量平均分子量が5x104未満の場合には、無機物との混練性は優れるが、多孔フィルムの物性が低下する。また、前記重量平均分子量が2x106を超過する場合には、無機物との混練性において問題が生じるため好ましくない。
【0052】
前記第2様態の樹脂組成物には、一般耐熱樹脂と液‐液相分離されるその他の樹脂が、樹脂組成物の50体積%以下で用いられることができる。その他の樹脂としては、ポリエチレン、ポリエチレンビニルアセテート、ポリスチレン、ポリビニルクロライド、ポリビニリデンフルオリド、ポリメチルペンテン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリメチレンオキシド、ポリアミドまたはこれらの混合物などが用いられることができるが、これに限定されるものではない。
【0053】
前記一般耐熱樹脂とともに用いられる無機物としては、二酸化ケイ素(SiO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、炭酸カルシウム(CaCO3)、二酸化チタン(TiO2)、SiS2、SiPO4、MgO、ZnO、BaTiO3、天然クレー、有機的に変形されたクレーまたはこれらの混合物から選択される、平均粒子サイズが0.01〜5μmの無機物、またはこれらの混合物が好ましい。
【0054】
必要に応じて、酸化安定剤、UV安定剤、帯電防止剤、有/無機核剤など、特定機能を向上させるための通常の添加剤がさらに添加されることができ、ポリマーと無機物の混練のために設計された二軸コンパウンダ、混練機またはバンバリーミキサーなどを用いて溶融混練させる。溶融混練温度は180〜300℃が適当である。
【0055】
(c)前記(a)及び(b)で混練された溶融物を多層シートに成形する段階を行う。
【0056】
溶融物からシート形態の成形物を製造する方法としては、通常のキャスティング(casting)法またはカレンダリング(calendering)法が全て用いられることができる。多層のシートを製造する方法としては、共押出法、熱融着法またはコーティング法などが用いられることができる。共押出法は、シート成形時にそれぞれの押出機から圧出される溶融物を多層のTダイを用いて共押出することにより多層シートを製造する方法である。熱融着法は、それぞれの押出機から得たシートを重ねて圧力を加えながら熱融着させる方法であり、コーティング法は、一次で製造されたシート上に他の層を二次で圧出することにより多層シートを製造する方法である。
【0057】
本発明の多層多孔フィルムは、第1層及び第2層から形成された2層多孔フィルム、第2層の両表面に第1層が形成された3層多孔フィルム、又は第1層の両表面に第2層が形成された3層多孔フィルムを含む。
【0058】
(d)前記多層シートを延伸してフィルムに成形する段階を行う。
【0059】
延伸は、テンタタイプの同時延伸、またはロールを用いて縦方向の延伸を行い、テンタを用いて横方向の延伸を連続して行う逐次延伸など、全ての延伸法が使用可能である。
【0060】
延伸比は縦方向が5倍以上、横方向が3倍以上であり、縦方向延伸比と横方向延伸比の割合は1.2以上であり、総延伸比は25〜60倍であることが好ましい。縦方向延伸比が5倍未満の場合には縦方向のループステフネスが弱くなって電池組立性が低下し、横方向延伸比との割合が1.2未満の場合には縦方向のTMAにおける最大収縮が大きく増加する。横方向延伸比が3倍未満の場合には、延伸が不十分であるため、未延伸が発生する恐れがあり、物性も低下する。好ましい横方向延伸比は3倍〜7倍であり、横方向延伸比が7倍を超過する場合には、TMAにおける最大収縮が大きく増加する。
【0061】
延伸温度は、第1層に用いられる樹脂の融点と希釈剤の濃度及び種類によって変わる。最適の延伸温度は、第1層シート成形物中の樹脂結晶部分の30〜80重量%が溶ける温度範囲から選択されることが好ましい。延伸温度が第1層シート成形物中の樹脂結晶部分の30重量%が溶ける温度より低い温度範囲から選択されると、フィルムの柔軟性(softness)がなくて延伸性が悪くなるため、延伸時に破断が発生する可能性が高く、未延伸も発生する。反面、延伸温度が第1層シート成形物中の樹脂結晶部分の80重量%が溶ける温度より高い温度範囲から選択されると、部分的な過延伸によって厚さ偏差が発生し、樹脂の配向効果が低いため物性が大きく低下する。前記延伸温度範囲は、第2層に用いられる高耐熱または一般耐熱樹脂の溶融温度よりは著しく低い範囲であり、この延伸により、第2層の高耐熱または一般耐熱樹脂とその他の樹脂及び無機物の界面が広がって気孔が生じるようになる。
【0062】
一方、温度によって結晶部分が溶ける程度は、成形物のDSC(differential scanning calorimeter)分析から得られる。
【0063】
(e)前記フィルムから希釈剤(diluent)を抽出する段階を行う。
延伸過程を経て厚さが薄くなったシート、即ち、フィルムは、有機溶媒を用いて抽出及び乾燥する。本発明で使用可能な有機溶媒としては、特に限定されず、樹脂圧出に用いられた希釈剤を抽出することができるものであれば如何なる溶剤も使用可能であるが、抽出効率が高く、乾燥が早いメチルエチルケトン、メチレンクロライド、ヘキサンなどが好ましい。抽出方法としては、浸漬(immersion)法、溶剤スプレー(solvent spray)法、超音波(ultrasonic)法など、通常の全ての溶媒抽出法がそれぞれまたは複合的に用いられることができる。抽出時の残留希釈剤の含量は1重量%以下でなければならない。残留希釈剤が1重量%を超過すると、物性が低下し、フィルムの透過度が減少する。
【0064】
残留希釈剤の量は、抽出温度及び抽出時間によって大きく左右される。抽出温度は、希釈剤と溶剤の溶解度増加のために高い温度が好ましいが、溶剤の沸騰による安全性の問題を考慮して、40℃以下が好ましい。抽出温度が希釈剤の凝固点以下である場合には、抽出効率が大きく低下するため、希釈剤の凝固点よりは必ず高くなければならない。抽出時間は、生産されるフィルムの厚さによって異なるが、7〜40μm厚さの多孔フィルムを生産する場合、2〜4分が好ましい。
【0065】
(f)前記フィルムを二次延伸する段階を行う。
【0066】
乾燥されたフィルムを二次延伸する。フィルムには、希釈剤が抽出されて乾燥される過程で部分的な不均一が発生するが、二次延伸は、フィルムの品質均一性を高め、透過度及び強度を向上させる役割をする。二次延伸は、縦方向/横方向に関らず、1.3倍以上、2倍以下であることが好ましい。延伸比が1.3倍未満である場合には品質均一性の向上効果が低く、延伸比が2倍を超過する場合にはフィルムの収縮率が大きすぎる。
【0067】
二次延伸温度は、抽出後乾燥されたフィルムの第1層の結晶部分の30〜80重量%が溶ける温度範囲から選択されることが好ましい。二次延伸温度が第1層の結晶部分の30重量%が溶ける温度より低い場合には、延伸時に破断が発生する恐れがあり、フィルムの収縮率が大きく増加する。反面、二次延伸温度が第1層の結晶部分の80重量%が溶ける温度を超過する場合には、部分的な過延伸によって厚さ偏差が発生し、均一性の向上効果が十分でない。
【0068】
(g)二次延伸されたフィルムを熱固定する段階を行う。
【0069】
残留応力を除去して最終フィルムの収縮率を減少させるために、熱固定段階を行う。熱固定段階では、前記(f)の二次延伸段階でフィルムを延伸した方向(縦方向延伸の場合には縦方向に収縮、横方向延伸の場合には横方向に収縮)にフィルムを二次延伸した後のフィルムを基準として20〜35%収縮させる。20%未満に収縮させる場合には残留応力が大きくなってフィルムの収縮率が大きくなり、35%超過して収縮させる場合にはフィルム内の気孔が閉塞して透過度が急激に減少する。
【0070】
収縮率を低めるためには熱固定温度が高いことが有利であるが、高すぎる場合にはフィルムが部分的に溶けて、形成された微多孔が閉塞して透過度が低下する。好ましい熱固定温度は、二次延伸されたフィルムの第1層の結晶部分の50〜80重量%が溶ける温度範囲から選択されることが好ましい。前記熱固定温度が前記フィルムの結晶部分の50重量%が溶ける温度より低い温度範囲から選択される場合には、フィルムの残留応力の除去効果が微小である。また、前記熱固定温度がフィルムの結晶部分の80重量%が溶ける温度より高い温度範囲から選択される場合には、部分的な溶融により微多孔が閉塞して透過度が低下する。
【0071】
熱固定時間は、熱固定温度が高い場合には相対的に短くしなければならず、熱固定温度が低い場合には相対的に長くすることができる。熱固定時間は、20秒〜2分程度が好ましい。フィルムの第1層の結晶部分の70重量%が溶ける温度範囲では、1分程度が最も好ましい。
【発明の効果】
【0072】
本発明による多層多孔フィルムは、空隙率が30〜60%、気孔の平均直径が0.01〜0.1μmである第1層と、空隙率が50〜80%、平面平均直径が0.1〜50μmの気孔が第2層の気孔中に占める面積の割合が70%以上である第2層と、を含むことにより、多孔フィルムの品質安定性、透過度及び電解液含浸性などを向上させる効果がある。
【0073】
また、本発明による多層多孔フィルムは、厚さが9〜50μm、縦方向(MD)のループステフネスが0.008mg/μm以上、穿孔強度が0.15N/μm以上、透過度が1.5x10-5Darcy以上であり、シャットダウン温度が140℃以下、溶融破断温度が170℃以上、1mN/(1μmx6mm)の荷重でのTMAにおける横方向(TD)の最大収縮率が25%以下、1mN/(1μmx6mm)の荷重でのTMAにおけるメルトダウン温度(長さが120%となる温度)が160℃以上の物性を有することにより、高温で優れた熱安定性を有し、二重気孔構造によって優れた電解液保液性も有するため、高容量/高出力のリチウムイオン電池用セパレータとして用いられる場合、優れた効果を示す。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の一実施例により製造された微多孔フィルムの溶融破断温度を測定するためのフレームである。
【図2】本発明の一実施例により製造された微多孔フィルムの溶融破断温度を測定するためのフレームに微多孔フィルムをテープで固定させた形態である。
【発明を実施するための形態】
【0075】
以下、本発明は、下記の実施例によってより容易に理解されることができ、下記の実施例は、本発明を例示するためのものであって、本発明の保護範囲を制限しようとするものではない。
【0076】
[試験方法]
用いられた樹脂の分子量及び分子量分布の測定は、Polymer Laboratory社の高温GPC(Gel Permeation Chromatography)で測定された。
【0077】
希釈剤の粘度は、Cannon社のCAV-4自動動粘度計(Automatic Viscometer)で測定した。
【0078】
原料からシート及びフィルムを製造した方法は次のとおりである。
【0079】
※フィルムの製造方法
第1層の樹脂と希釈剤は、φ=46mmの二軸コンパウンダで混練された。混練温度は180〜240℃であった。樹脂はメインホッパーに投入され、希釈剤はサイドフィーダーを用いて押出機に投入された。混練された溶融物は、3層シートの製造が可能な多層のTダイを用いて、必要な層の構成を有するように成形された。
【0080】
第2層の組成物は、φ=15mmの二軸コンパウンダで混練/圧出された。混練/圧出温度は200〜250℃であった。組成物は混練された後押出機に投入された。混練/圧出された溶融物も、3層シートの製造が可能な多層のTダイを用いて、必要な層の構成を有するように成形された。
【0081】
成形されたシートの温度によって結晶部分が溶ける現象を分析するために、Mettler Toledo社のDSCを用いた。分析条件は、試験片の重量5mg、スキャン速度(scanning rate)10℃/minであった。
【0082】
シートの延伸は、逐次延伸により行われた。延伸比及び延伸温度を変化させながらロ−ルタイブの延伸機で縦方向に延伸した後、テンタタイプの延伸機で横方向に延伸した。
【0083】
希釈剤の抽出はメチレンクロライドを用いて浸漬法により行い、抽出時間は5分であった。
【0084】
二次延伸及び熱固定は、テンタタイブの横方向延伸/収縮機を用いた。
【0085】
各フィルム層の厚さはSEM(Scanning Electron Microscope)を用いて測定した。製造されたフィルムを液体窒素下で20秒間冷却させた後、瞬間破壊して断面を観察することにより厚さを測定した。
【0086】
各層の気孔の平均サイズ及び空隙率は、二つの方法により測定された。第1層の気孔のサイズは、同一の条件で製造された単層のフィルムを製造し、空隙測定機(Porometer:PMI社)を用いてASTM F316-03に準拠したハーフドライ法により測定された。第1層の空隙率は、同一の条件で製造された単層のフィルムを20cmx20cmに切断して重量を測定し、フィルムの厚さ及び用いられた樹脂の密度に基づいて計算された。第2層の空隙率は、フィルムを20cmx20cmに切断して体積(20cmx20cmx厚さ)と重量を測定した後、上記で測定された第1層の厚さ及び密度に基づいて中間層の体積と重量を計算した後、中間層に用いられた組成物の組成及び密度に基づいて計算された。第2層の気孔において、平均直径が0.1〜50μmの気孔が第2層の全体気孔中に占める体積の割合(Vr)は、下記数学式1のように、第2層の空隙率(P2)と平均直径が0.1〜50μmの気孔が第2層の全体表面で占める割合(Vp)から計算された。
【0087】
[数1]
Vr=Vp/P2*100
【0088】
第2層において、平均直径が0.1〜50μmの気孔が第2層の全体表面で占める割合は、第1層及び第2層を剥離した後、フィルム表面の電子顕微鏡写真から測定した。
【0089】
製造されたフィルムにおいて、微多孔フィルムにおいて最も重要な物性である穿孔強度、気体透過度及び溶融破断温度を測定し、その結果を下記表2に示した。
【0090】
※物性測定方法
(1)ループステフネスは、Toyoseiki社のループステフネス測定機で測定された。試験片のサイズは150mm(長さ)x25mm(幅)で、押し速度は3.3mm/secであった。
【0091】
(2)穿孔強度は、直径1.0mmのピンが120mm/minの速度でフィルムを破断させる時の強度で測定された。
【0092】
(3)気体透過度は、空隙測定機(porometer:PMI社のCFP-1500-AEL)で測定された。通常、気体透過度はGurley numberで表示されるが、Gurley numberはフィルム厚さの影響が補正されないため、フィルム自体の空隙構造による相対的な透過度が分かりにくい。これを解決するために、本発明ではDarcy's透過度定数を用いた。Darcy's透過度定数は下記数学式2から得られる。本発明では窒素を用いた。
【0093】
[数2]
C=(8FTV)/(πD2(P2-1))
ここで、C=Darcy透過度定数、F=流速、T=試験片の厚さ、V=気体の粘度(0.185 for N2)、D=試験片の直径、P=圧力
【0094】
本発明では、100〜200psi範囲でDarcy's透過度定数の平均値を用いた。
【0095】
(4)シャットダウン温度は、インピーダンスの測定が可能な簡易セルで測定した。簡易セルは、ポリエチレン系複合微多孔フィルムを二つの黒鉛電極の間に位置させ、内部に電解液を注入した状態で組み立てられた。1kHzの交流電流を用いて25℃から200℃まで5℃/minで昇温させながら電気抵抗を測定した。この際、電気抵抗が数百〜数千Ω以上に急激に増加する地点の温度をシャットダウン温度にした。電解液としては、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートが1:1で混合された溶液に、1モルの濃度で溶かしたものを用いた。
【0096】
(5)フィルムの溶融破断温度は、図1のような(外枠:7.5cmx7.5cm、内径:2.5cmx2.5cm)フレームに、図2のようにフィルム(5cmx5cm)をポリイミドテープで固定させた後、設定温度に維持される熱風オーブン(convection oven)で5分間放置した後、フィルムの破断有無を観察して測定した。5分が経過してもフィルムが破断されない最高温度を溶融破断温度と定義した。
【0097】
(6)TMAにおける横方向の収縮率及びメルトダウン温度は、Mettler toledo社のTMA/SDTA840で測定された。横方向に1mN/(1μmx6mm)の外部応力を加えた状態で、30℃から200℃まで5℃/minで昇温させながら横方向の長さ変化を確認した。試験片のサイズは横方向に15mm、縦方向に6mmであった。収縮率は、初期長さに対する長さ変化の比を百分率で表示したものである。フィルムは温度が上昇すると初期収縮した後、さらに長さが増加するが、収縮する最大程度を最大収縮率とし、長さが増加して初期長さの120%になる時の温度をメルトダウン温度にした。
【0098】
[実施例1]
第1層には、重量平均分子量が3.0x105、溶融温度が134℃のポリエチレンと、40℃で95cStの動粘度を有するパラフィンオイルと、を用いた。二つの成分の含量はそれぞれ30重量%、70重量%であった。第2層には、高耐熱樹脂としてメルトインデックスが9.0(260℃、5Kg)のポリメチルペンテン50体積%と、前記高耐熱樹脂と液‐液相分離されるその他の樹脂として重量平均分子量が5.7x105、溶融温度が163℃のポリプロピレン50体積%と、を用い、無機物としては平均粒子サイズが1.5μmのCaCO3を50重量%で用いた。
【0099】
シートは、第1層を両表面層として3層に共押出した後、115℃で縦方向に8倍、120℃で横方向に6倍に延伸した。希釈剤の抽出は、メチレンクロライドを用いて浸漬法により行い、抽出時間は5分であった。その後、二次延伸は130℃で横方向に1.4倍にし、熱固定は133℃で横方向に28.6%収縮させた。最終フィルムの厚さは、両表面層の第1層がそれぞれ8μm、中間層の第2層が7μmで、総23μmであった。
【0100】
[実施例2]
第1層には、重量平均分子量が3.0x105、溶融温度が134℃のポリエチレンと、40℃で95cStの動粘度を有するパラフィンオイルと、を用いた。二つの成分の含量はそれぞれ30重量%、70重量%であった。第2層には、高耐熱樹脂としてメルトインデックスが9.0(260℃、5Kg)のポリメチルペンテン50体積%と、前記高耐熱樹脂と液‐液相分離されるその他の樹脂として重量平均分子量が2.5x105、溶融温度が148℃のポリプロピレン50体積%と、を用い、無機物としては平均粒子サイズが1.5μmのCaCO3を30重量%で用いた。
【0101】
シートは、第1層を両表面として3層に共押出した後、115℃で縦方向に7倍、120℃で横方向に5倍に延伸した。希釈剤の抽出は、メチレンクロライドを用いて浸漬法により行い、抽出時間は5分であった。その後、二次延伸は130℃で横方向に1.3倍にし、熱固定は133℃で横方向に30.8%収縮させた。最終フィルムの厚さは、両表面層の第1層がそれぞれ6μm、中間層の第2層が9μmで、総21μmであった。
【0102】
[実施例3]
第1層には、重量平均分子量が3.0x105、溶融温度が134℃のポリエチレンと、40℃で95cStの動粘度を有するパラフィンオイルと、を用いた。二つの成分の含量はそれぞれ30重量%、70重量%であった。第2層には、高耐熱樹脂としてメルトインデックスが9.0(260℃、5Kg)のポリメチルペンテン70体積%と、前記高耐熱樹脂と液‐液相分離されるその他の樹脂として重量平均分子量が2.3x105、溶融温度が133℃のポリエチレン30体積%と、を用いた。
【0103】
シートは、第1層を両表面層として3層に共押出した後、115℃で縦方向に8倍、120℃で横方向に5倍に延伸した。希釈剤の抽出は、メチレンクロライドを用いて浸漬法により行い、抽出時間は5分であった。その後、抽出後の二次延伸は130℃で横方向に1.3倍にし、熱固定は133℃で横方向に23.1%収縮させた。最終フィルムの厚さは、両表面層の第1層がそれぞれ6μm、中間層の第2層が4μmで、総16μmであった。
【0104】
[実施例4]
第1層には、重量平均分子量が2.3x105、溶融温度が133℃のポリエチレンと、40℃で95cStの動粘度を有するパラフィンオイルと、を用いた。二つの成分の含量はそれぞれ30重量%、70重量%であった。第2層には、一般耐熱樹脂として重量平均分子量が5.7x105、溶融温度が163℃のポリプロピレン100体積%と、平均粒子サイズが0.8μmのCaCO360重量%と、を用いた。
【0105】
シートは、第1層を両表面層として3層に共押出した後、115℃で縦方向に7倍、120℃で横方向に5倍に延伸した。希釈剤の抽出は、メチレンクロライドを用いて浸漬法により行い、抽出時間は5分であった。その後、二次延伸は130℃で横方向に1.5倍にし、熱固定は133℃で横方向に33.3%収縮させた。最終フィルムの厚さは、両表面層の第1層がそれぞれ8μm、中間層の第2層が7μmで、総23μmであった。
【0106】
[実施例5]
第1層には、重量平均分子量が3.0x105、溶融温度が134℃のポリエチレンと、40℃で95cStの動粘度を有するパラフィンオイルと、を用いた。二つの成分の含量はそれぞれ30重量%、70重量%であった。第2層には、一般耐熱樹脂として重量平均分子量が5.7x105、溶融温度が163℃のポリプロピレン70体積%と、一般耐熱樹脂と液‐液相分離されるその他の樹脂として溶融温度が173℃のポリビニリデンフルオリド30体積%と、を用い、無機物としては平均粒子サイズが0.8μmのCaCO3を40重量%で用いた。
【0107】
シートは、第1層を中間層として3層に共押出した後、115℃で縦方向に7倍、120℃で横方向に5倍に延伸した。希釈剤の抽出は、メチレンクロライドを用いて浸漬法により行い、抽出時間は5分であった。その後、二次延伸は130℃で横方向に1.3倍にし、熱固定は133℃で横方向に23.1%収縮させた。最終フィルムの厚さは、中間層の第1層が10μm、両表面層の第2層がそれぞれ4μmで、総18μmであった。
【0108】
[比較例1]
第1層に、重量平均分子量が3.0x105、溶融温度が134℃のポリエチレンと、40℃で95cStの動粘度を有するパラフィンオイルと、を用いた。二つの成分の含量はそれぞれ35重量%、65重量%であった。
【0109】
第1層シートは、単独で115℃で縦方向に7倍、120℃で横方向に5倍に延伸した。希釈剤の抽出は、メチレンクロライドを用いて浸漬法により行い、抽出時間は5分であった。その後、二次延伸は130℃で横方向に1.3倍にし、熱固定は133℃で横方向に15.4%収縮させた。最終フィルムの厚さは20μmであった。
【0110】
[比較例2]
第1層には、重量平均分子量が3.0x105、溶融温度が134℃のポリエチレンと、40℃で95cStの動粘度を有するパラフィンオイルと、を用いた。二つの成分の含量はそれぞれ30重量%、70重量%であった。第2層には、一般耐熱樹脂として重量平均分子量が5.7x105、溶融温度が163℃のポリプロピレン100体積%と、平均粒子サイズが0.8μmのCaCO320重量%と、を用いた。
【0111】
シートは、第1層を両表面層として3層に共押出した後、115℃で縦方向に6倍、120℃で横方向に6倍に延伸した。希釈剤の抽出は、メチレンクロライドを用いて浸漬法により行い、抽出時間は5分であった。その後、二次延伸は130℃で横方向に1.2倍にし、熱固定は133℃で横方向に16.7%収縮させた。最終フィルムの厚さは、両表面層の第1層がそれぞれ8μm、中間層の第2層が6μmで、総22μmであった。
【0112】
[比較例3]
第1層には、重量平均分子量が1.8x105、溶融温度が135℃のポリエチレンと、40℃で95cStの動粘度を有するパラフィンオイルと、を用いた。二つの成分の含量はそれぞれ30重量%、70重量%であった。第2層には、高耐熱樹脂としてメルトインデックスが9.0(260℃、5Kg)のポリメチルペンテン30体積%と、前記高耐熱樹脂と液‐液相分離されるその他の樹脂として重量平均分子量が5.7x105、溶融温度が163℃のポリプロピレン70体積%と、を用い、無機物としては平均粒子サイズが1.5μmのCaCO3を70重量%で用いた。
【0113】
シートは、第1層を両表面層として3層に共押出した後、115℃で縦方向に4倍、120℃で横方向に6倍に延伸した。希釈剤の抽出は、メチレンクロライドを用いて浸漬法により行い、抽出時間は5分であった。その後、二次延伸は130℃で横方向に1.5倍にし、熱固定は133℃で横方向に33.3%収縮させた。最終フィルムの厚さは、両表面層の第1層がそれぞれ3μm、中間層の第2層が16μmで、総22μmであった。
【0114】
[比較例4]
第1層には、重量平均分子量が3.0x105、溶融温度が134℃のポリエチレンと、40℃で95cStの動粘度を有するパラフィンオイルと、を用いた。二つの成分の含量はそれぞれ30重量%、70重量%であった。第2層には、一般耐熱樹脂として重量平均分子量が5.7x105、溶融温度が163℃のポリプロピレン50体積%と、前記一般耐熱樹脂と液‐液相分離されるその他の樹脂として重量平均分子量が2.3x105、溶融温度が133℃のポリエチレン50体積%と、を用いた。
【0115】
シートは、第1層を両表面層として3層に共押出した後、115℃で縦方向に8倍、120℃で横方向に6倍に延伸した。希釈剤の抽出は、メチレンクロライドを用いて浸漬法により行い、抽出時間は5分であった。その後、二次延伸は130℃で横方向に1.4倍にし、熱固定は135℃で横方向に35.7%収縮させた。最終フィルムの厚さは、両表面層の第1層がそれぞれ8μm、中間層の第2層が4μmで、総20μmであった。
【0116】
【表1】

【0117】
【表2】

【0118】
【表3】

【0119】
【表4】

【符号の説明】
【0120】
1 フレーム
2 微多孔フィルム
3 テープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空隙率が30〜60%であり、気孔の平均直径が0.01〜0.1μmである第1層と、第1層に隣接した第2層を含む多層多孔フィルムであって、
前記第2層は、空隙率が50〜80%、平面平均直径が0.1〜50μmの気孔が前記第2層の気孔中に占める面積の割合が70%以上、前記第2層の厚さは、3μm以上で、多層多孔フィルム全体の厚さの30〜70%であり、
前記多層多孔フィルムは、厚さが9〜50μm、縦方向のループステフネスが0.008mg/μm以上、穿孔強度が0.15N/μm以上、透過度が1.5x10-5Darcy以上であり、シャットダウン温度が140℃以下、溶融破断温度が170℃以上、1mN/(1μmx6mm)の荷重での熱機械分析(TMA)における、横方向(TD)の最大収縮率が25%以下、メルトダウン温度(長さが120%となる温度)が160℃以上である、多層多孔フィルム。
【請求項2】
第1層は空隙率が40〜55%、気孔の平均直径が0.01〜0.05μmであり、第2層は空隙率が60〜80%、平面平均直径が1〜50μmの気孔が前記第2層の気孔中に占める面積の割合が70%以上であり、前記第1層及び前記第2層を含む多層多孔フィルムは、厚さが12〜35μm、溶融破断温度が180℃以上である、請求項1に記載の多層多孔フィルム。
【請求項3】
多層多孔フィルムは、第1層及び第2層を有する2層多孔フィルムから形成された多層多孔フィルム、第2層の両表面に第1層が形成された3層多孔フィルムから形成された多層多孔フィルム又は第1層の両表面に第2層が形成された3層多孔フィルムから形成された多層多孔フィルムである、請求項1に記載の多層多孔フィルム。
【請求項4】
第2層は、溶融温度が180℃以上の高耐熱樹脂が樹脂組成物の50体積%以上含まれる、請求項1に記載の多層多孔フィルム。
【請求項5】
第2層は、溶融温度が160〜180℃の一般耐熱樹脂が樹脂組成物の50体積%以上含まれるとともに、無機物が30〜60重量%含まれる、請求項1に記載の多層多孔フィルム。
【請求項6】
多層多孔フィルムは、第1層及び第2層を有する2層多孔フィルムから形成された多層多孔フィルム、第2層の両表面に第1層が形成された3層多孔フィルムから形成された多層多孔フィルム又は第1層の両表面に第2層が形成された3層多孔フィルムから形成された多層多孔フィルムである、請求項2に記載の多層多孔フィルム。
【請求項7】
第2層は、溶融温度が180℃以上の高耐熱樹脂が樹脂組成物の50体積%以上含まれる、請求項2に記載の多層多孔フィルム。
【請求項8】
第2層は、溶融温度が160〜180℃の一般耐熱樹脂が樹脂組成物の50体積%以上含まれるとともに、無機物が30〜60重量%含まれる、請求項2に記載の多層多孔フィルム。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−517969(P2013−517969A)
【公表日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−551082(P2012−551082)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【国際出願番号】PCT/KR2011/000505
【国際公開番号】WO2011/090356
【国際公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(508171000)エスケー イノベーション  シーオー., エルティーディー. (19)
【Fターム(参考)】