説明

耐熱性アルミニウム材

【課題】 下地膜および耐熱性塗膜の密着性に優れるとともに、腐食物質や高温環境に対する耐食性に優れた耐熱性アルミニウム材を提供する。
【解決手段】 金属基材1と、厚みが50nm以上700nm以下であり空孔率が5%以下であり含水率が10%以下である陽極酸化膜2と、陽極酸化膜2上に塗布された膜厚が0.3μm以上10μm以下の耐熱性塗膜3とから構成され、耐熱性塗膜3は、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、エポキシ変性ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂のうちの一種または2種以上の主成分樹脂3aに、ポリエーテルサルフォン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂のうちの一種または2種以上からなる耐熱樹脂粒子3bが混合されてなり、かつ耐熱樹脂粒子3bの混合率が25質量%以下であることを特徴とする耐熱性アルミニウム材Aを採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性アルミニウム材に関するものであり、特に、150℃ないし200℃程度の高温に曝しても耐変色性、耐食性、耐熱性塗膜密着性にすぐれた耐熱性アルミニウム材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
オーブンレンジ、ガステーブル等の調理機器、ストーブ、ファンヒータ等の暖房機器、厨房換気扇等の外装材には、軽量化を目的としてアルミニウム材が好適に用いられている。これらの機器はいずれも熱源を有することから、外装材には耐熱性が要求されている。このため外装材には、従来、表面にクロメート処理したアルミニウム板に更に耐熱性塗料を塗布したアルミニウム材が使用されている。
【0003】
しかし、上記の外装材としてのアルミニウム材は、火炎による幅射熱等によって150℃〜200℃程度の高温に暴される場合がある。この結果、アルミニウム板に施されたクロメート皮膜から水分が失われ、皮膜材質が水和酸化物からクロム酸化物に変質され、耐熱性塗膜との密着が低下し耐熱性塗膜が剥がれてしまう問題があった。特に、クロメート皮膜には水分が数十%程度も含まれており、この比較的多量の水分の放出による耐熱性塗膜の密着性低下が著しく、耐熱性塗膜の剥がれを促進してしまう。
【0004】
上記問題の解決のため、クロメート皮膜に代えて硫酸アルマイト皮膜を下地膜として用いる場合がある。硫酸アルマイト皮膜そのものはアルミニウムの酸化物からなるものであり、クロメート皮膜のような変質は起こらないものの、それでも硫酸アルマイト皮膜には20%程度の水分が含まれ、この水分の一部の放出による耐熱性塗膜の密着性の低下は避けられない。
【0005】
更に、耐熱性塗膜には当然ながら耐熱性が必要とされ、ポリエステル樹脂等の主成分樹脂に、ポリエーテルサルフォン、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂からなる耐熱性粒子を混合することで耐熱性に優れる耐熱性塗膜が得られることが知られている(特許文献1)。しかし、このような耐熱性粒子は分子の安定性が高く、比較的活性の高い官能基を分子内に持たないため、これらを主成分樹脂中に分散させると、耐熱性塗膜とクロメート膜等の下地膜との密着性が低下する問題があった。
【0006】
また、厨房周りにおいては、塩分を含んだ調味料の蒸発や飛散によって上記外装材に腐食物質が付着したり、更に腐食物質が付着したまま高温に曝されるなど、腐食性が極めて高い環境にあり、耐熱性塗膜および下地膜が剥離すると直ちにアルミニウムの腐食が発生し、場合によっては外装材に貫通穴が形成されるような激しい腐食が生じるおそれがあった。
【特許文献1】特開2003−138134号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、下地膜および耐熱性塗膜の密着性に優れるとともに、腐食物質や高温環境に対する耐食性に優れた耐熱性アルミニウム材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
本発明の耐熱性アルミニウム材は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属基材と、厚みが50nm以上700nm以下であり空孔率が5%以下であり含水率が10%以下である前記金属基材の表面に形成された陽極酸化膜と、前記陽極酸化膜上に塗布された膜厚が0.3μm以上10μm以下の範囲の耐熱性塗膜とから構成され、前記耐熱性塗膜は、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、エポキシ変性ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂のうちの一種または2種以上の主成分樹脂に、ポリエーテルサルフォン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂のうちの一種または2種以上からなる耐熱樹脂粒子が混合されてなり、かつ前記耐熱樹脂粒子の混合率が25質量%以下であることを特徴とする。
【0009】
下地膜としての陽極酸化膜の含水率が10%以下なので、陽極酸化皮膜自体の熱安定性が高く、熱による下地膜の変質が防止される。また、含水率が従来の下地膜に対して少ないため、熱による水分放出が抑制されて耐熱性塗膜の密着性低下を抑制できる。
更に、陽極酸化膜の空孔率を5%以下にすることで無孔質な陽極酸化膜となり、腐食性物質に対するバリヤー性が高まって耐食性が向上する。また、この耐食性の向上に伴って接着耐久性も向上する。
また、耐熱性塗膜には、上記の耐熱性粒子が25%以下の範囲で含有されているため、耐熱性塗膜の耐熱性をより向上することができる。また、耐熱性粒子は主に耐熱性塗膜の外表面付近に存在するので、主成分樹脂に対する熱による悪影響を分散させることができる。更に、上記の耐熱性粒子を含有させることで、熱による主成分樹脂の膨張や収縮から生じる歪を低減させ、主成分樹脂の化学変化を抑制させることで、熱による変色を低減させることができる。
【0010】
また、本発明の耐熱性アルミニウム材は、先に記載の耐熱性アルミニウム材であって、前記陽極酸化膜と前記耐熱性塗膜との間にシランカップリング剤が塗布されていることを特徴とする。
【0011】
陽極酸化膜と耐熱性塗膜との間にシランカップリング剤を介在させることによって、陽極酸化膜と耐熱性塗膜との接着強度が飛躍的に高まる。特にシランカップリング剤を、成形加工前の金属基材表面に塗布、或いは成形加工済みの金属基材に極薄に塗布することで、接着剤の塗布や乾燥を行なうことなく、耐熱性塗膜の接着強度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の耐熱性アルミニウム材によれば、陽極酸化膜と耐熱性塗膜の密着性に優れるとともに、腐食物質や高温環境に対する耐食性に優れた耐熱性アルミニウム材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1に示すように、本実施形態の耐熱性アルミニウム材Aは、金属基材1と、この金属基材1の一面1aに形成された陽極酸化膜2と、陽極酸化膜2上に塗布された耐熱性塗膜3とから概略構成されている。また、耐熱性塗膜3は、主成分樹脂3aと、この主成分樹脂3a中に分散された耐熱性粒子とから形成されている。
【0014】
金属基材1は、アルミニウムまたはアルミニウム合金から構成されている。アルミニウムまたはアルミニウム合金としては、特に限定されず、純アルミ系の1000系合金、Al−Cu系、Al−Cu−Mg系の2000系合金、Al−Mn系の3000系合金、Al−Si系の4000系合金、Al−Mg系の5000系合金、Al−Mg−Si系の6000系合金、Al−Zn−Mg−Cu系、Al−Zn−Mg系の7000系合金、Al−Fe−Mn系の8000系合金などが用いられ、成形用合金、構造用合金、電気用合金、AC1A,AC2A,AC3A,AC4Bなどの鋳造用合金が用いられる。
また、これらの合金に溶体化処理、時効処理などの種々の調質処理を施したものも用いられる。さらに、これらのアルミニウム合金を表面にクラディングしたクラッド材も使用できる。また、予めプレス成形加工などを施した加工材のものであってもよく、未加工の板材、押出材、鋳造品であってもよい。
【0015】
つぎに、陽極酸化膜2は、後述するように金属基材1の一面1aを電解処理することによって形成されるものであり、厚みが50nm以上700nm以下であり、空孔率が5%以下であり、含水率が10%以下のものである。この陽極酸化膜2は、金属基材1の一面1aを覆うことで金属基材の耐食性を向上させることができる。また陽極酸化膜2は、耐熱性塗膜3の含まれる主成分樹脂3aと化学的に結合することにより、耐熱性塗膜3の接着性を向上させることができる。陽極酸化膜2の膜厚が50nm未満であると、膜厚が不均一になりやすく、金属基材1に対する接着性、接着耐久性および耐食性が低下するので好ましくない。また膜厚が700nmを超えると、金属基材1を所定の形状に成形加工する際に膜自体にクラックが発生し、金属基材1に対する接着耐久性および耐食性が低下するので好ましくない。陽極酸化膜2の特に望ましい膜厚は80nm以上500nm以下の範囲である。
【0016】
また、陽極酸化膜2の空孔率は5%以下であることが好ましい。空孔率が5%を超えると陽極酸化膜2の表面に多数の孔が形成され、これにより陽極酸化膜2のバリア性が低下して金属基材1の耐食性が低下するので好ましくない。より好ましい空孔率の範囲は3%以下である。
【0017】
また、陽極酸化膜2は、その電解処理の過程で水分を含有する場合があるが、陽極酸化膜2における含水率は10%以下であることが好ましい。含水率が10%を超えると、耐熱性アルミニウム材Aが受けた熱によって陽極酸化膜2に含まれる水分の放出量が多くなり、これにより耐熱性塗膜3の接着性が大幅に低下するので好ましくない。より好ましい含水率の範囲は7%以下である。
【0018】
次に耐熱性塗膜3は、主成分樹脂3a中に耐熱性粒子3bが分散されて構成されている。
主成分樹脂3aとしては、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、エポキシ変性ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂のうちの一種または2種以上の樹脂が好ましい。これら主成分樹脂3aは、カルボニル基等のような比較的活性の高い官能基を有しており、このような官能基が陽極酸化膜2との間で化学結合を形成することで、陽極酸化膜2と耐熱性塗膜との接着性を向上させることができる。
【0019】
また、耐熱性粒子3bとしては、ポリエーテルサルフォン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂のうちの一種または2種以上からなる粒子が好ましい。これら耐熱性粒子3bは、200℃以上の耐熱性を備えているので、耐熱性塗膜3の耐熱性を高めることができる。
【0020】
また、耐熱性塗膜3に対する耐熱性粒子3bの混合率は25質量%以下の範囲が好ましい。耐熱性粒子3bの混合率が25質量%を超えると、塗膜が脆くなり密着性が低下するので好ましくない。なお、耐熱性粒子3bのより好ましい混合率は5質量%以上15質量%以下の範囲である。
【0021】
また耐熱性粒子3bの平均粒径は、0.01μm以上5μm以下の範囲が好ましい。5μmを超えると塗膜から剥離しやすくなるので好ましくない。また0.01μm未満では耐熱性粒子3bの均一な分散が困難になる。
また耐熱性塗膜3の膜厚は、0.3μm以上10μm以下の範囲が好ましい。膜厚が0.3μm未満では耐熱性が不足してしまうので好ましくなく、膜厚が10μmを超えると塗膜厚みが不安定になりやすく、塗布の際に二度塗り以上が必要となり、コストアップになるので好ましくない。
【0022】
また必要に応じて、陽極酸化膜2と耐熱性塗膜3との間にシランカップリング剤を塗布させてもよい。シランカップリング剤は、陽極酸化膜2および耐熱性塗膜3の主成分樹脂3aとの間で化学結合を生成し、陽極酸化膜2と耐熱性塗膜3との接着性をより向上させる。シランカップリング剤としては、アミノ系、エポキシ系、ビニル系、メタクリル系、メルカプト系などのものが好ましく、より具体的には、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシランなどを例示することができる。
なお、陽極酸化膜2に対するシランカップリング剤の塗布量は、1mg/m以上150mg/m以下の範囲であることが好ましい。塗布量がこの範囲から外れると、耐熱性塗膜3の接着強度が低下するので好ましくない。
【0023】
次に、本実施形態の耐熱性アルミニウム材Aの製造方法について説明する。
まず、上記のアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属基材1を用意する。金属基材1は、予め前処理を施しておくことが望ましい。この前処理の手段は特に限定されず、要は金属基材1の一面1aに付着した油脂分を除去し、素材表面の不均質な酸化物皮膜が除去できるものであればよい。例えば、弱アルカリ性の脱脂液による脱脂処理を施したのち、水酸化ナトリウム水溶液でアルカリエッチングをしたのち、硝酸水溶液中でデスマット処理を行う方法や脱脂処理後に酸洗浄を行う方法などが適宜選択して用いられる。
【0024】
次に、金属基材1の一面1aを電解浴中で電解処理することによって陽極酸化膜2を形成する。電解浴には、生成する陽極酸化膜が溶解しにくく、かつ無孔質の膜を生成する電解質であるホウ酸、ホウ酸塩、リン酸塩、アジピン酸塩、フタル酸塩、安息香酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩などの群から選ばれる1種または2種以上を溶解した水溶液が用いられる。これらの電解質のなかでもホウ酸、アジピン酸塩、フタル酸塩が酸化膜の性状、コストなどの点で好ましい。電解浴中の電解質濃度は2質量%からその電解質の飽和濃度の範囲で選ばれる。たとえばホウ酸の場合は2%ないし5%の範囲がよい。電解質濃度が高すぎると皮膜溶解性が増して多孔質膜になるおそれがあり、アニオン含有率及び含水率も高くなるおそれがある。電解浴の浴温は20〜40℃の範囲で十分であり、浴温を40℃以上の高温とする必要はない。また、電解浴のpHはpH6.0ないし8.0の範囲が好ましい。pHが高すぎると多孔質化しやすくなるので好ましくない。
【0025】
この電解浴中で、金属基材1は、連続あるいは断続であっても陽極となるように電源に接続されて電解される。陰極には不溶性の導電材料が用いられる。電解電流は、直流電流が用いられ、直流電解では直流密度3〜5A/dm程度、電解時間数秒〜10分程度で電解が行われる。電流密度が低いと、長時間の電解が必要になってコスト高となり、更に皮膜が溶解しやすくなって多孔質化のおそれがある。印加電圧は、直流電流では、電圧1Vに対して形成される酸化膜厚さが約14Åとなる関係があることから約30〜520V、好ましくは約50〜250Vの範囲とされる。電源装置などの点からは200V以下とすることが好ましく、このような低電圧での電解でも優れた密着性と耐食性が得られる。この電解によって金属基材1の一面1aに厚さ50〜700nm、好ましくは80〜350nmの均一な陽極酸化膜2が形成される。
【0026】
このようにして得られた陽極酸化膜2はほぼ無孔質であり、その空孔率は最大でも5%以下となる。また、陽極酸化膜の含水量は10質量%以下、通常は1〜3質量%と極めて低い値を示す。
【0027】
以上の陽極酸化処理は、未加工の状態のアルミニウムまたはアルミニウム合金に対して行うこともでき、またプレス加工などの成形加工を施した後のものに対しても行うことができる。
【0028】
次に、形成した陽極酸化膜2上に耐熱性塗膜3を塗布する。耐熱性塗膜3の塗布は、主成分樹脂3aおよび耐熱性粒子3bを適当な溶媒で分散させた塗料を用意し、この塗料をバーコーターなどを用いて陽極酸化膜2に塗布する。バーコーター等で塗布した後、溶媒を加熱等により除去することで、耐熱性塗膜3が得られる。
このようにして、金属基材1と陽極酸化膜2と耐熱性塗膜3からなる耐熱性アルミニウム材Aが得られる。
【0029】
なお、耐熱性塗膜3を形成する前に、陽極酸化膜2上にシランカップリング剤を塗布してもよい。シランカップリング剤の塗布は、シランカップリング剤を適当な溶媒で希釈させた塗料を用意し、この塗料をバーコーターなどを用いて陽極酸化膜2に塗布する。バーコーター等で塗布した後、溶媒を加熱等により除去することで、シランカップリング剤が塗布される。シランカップリング剤の塗布量は、塗料の希釈濃度、バーコーター等による塗料の塗布量で調整すればよい。
【0030】
上記の耐熱性アルミニウム材Aによれば、陽極酸化膜2の含水率が10%以下なので、陽極酸化皮膜2自体の熱安定性が高く、熱による変質が防止される。また、含水率が従来の下地膜に対して比較的少ないため、熱による水分放出が抑制されて耐熱性塗膜3の密着性低下を抑制できる。更に、陽極酸化膜2の空孔率を5%以下にすることで無孔質な陽極酸化膜となり、腐食性物質に対するバリヤー性が高まって耐食性が向上する。また、この耐食性の向上に伴って接着耐久性も向上する。
また、耐熱性塗膜3には、耐熱性粒子3bが25%以下の範囲で含有されているため、耐熱性塗膜3の耐熱性をより向上することができる。また、耐熱性粒子3bは主に耐熱性塗膜3の外表面付近に存在するので、主成分樹脂3aに対する熱による悪影響を分散させることができる。更に、上記の耐熱性粒子3bを含有させることで、熱による主成分樹脂3aの膨張や収縮から生じる歪を低減させ、主成分樹脂3aの化学変化を抑制させることで、熱による変色を低減させることができる。
【0031】
以上により、上記の耐熱性アルミニウム材Aによれば、陽極酸化膜2と耐熱性塗膜3との密着性を向上させることができるともに、腐食物質や高温環境に対する耐食性を高めることができる。
【実施例】
【0032】
以下、実験例1および実験例2により本発明について更に詳細に説明する。
(実験例1)
まず、金属基材として、0.3mmまで圧延したJISA1100−H24のアルミニウム合金の板材を準備した。この板材を10%NaOH水溶液で50℃で30秒間エッチングした後、30秒間水洗した。引き続き、10%HNO溶液で30秒間洗浄した後、30秒間水洗した。次いで、pH6.1、液温60℃、濃度10%のホウ酸水溶液中で、上記金属基材を陽極とし、カーボンを陰極として、1.5A/dmで電解処理を行い、陽極酸化膜を形成した。無孔質陽極酸化膜の膜厚は電圧で調整し、電解時間は30秒とした。
【0033】
次に、平均分子量7500のポリエステル樹脂からなる主成分樹脂と、平均粒径0.1μmの4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体からなる耐熱性粒子を、石油系シンナーに分散させて塗料を調製した。この塗料を陽極酸化膜上に塗布してから200℃で60秒間の焼き付けを行なうことにより、耐熱性塗膜を形成した。なお、耐熱性塗膜中の耐熱性粒子の含有率は10質量%であり、耐熱性塗膜の厚みは10μmであった。
【0034】
なお、一部の試料については、耐熱性塗膜の形成前に、陽極酸化膜上にシランカップリング剤を塗布した。具体的には、 N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン(アミノ系シランカップリング剤)の1%水溶液を調製し、この水溶液を陽極酸化膜上にバーコーターで塗布して100℃で3分間の熱処理を行なうことにより、シランカップリング剤を塗布した。塗布量は30mg/mとした。
【0035】
以上のようにして、実施例1ないし実施例5および比較例1ないし比較例8の耐熱性アルミニウム材を製造した。表1に実施例および比較例の詳細を示す。
なお、比較例4および比較例5については、無孔質陽極酸化膜に代えて厚みが500nmの硫酸アルマイト膜を形成した。更に比較例6および比較例7については、無孔質陽極酸化膜に代えて厚みが200nmのクロメート膜を形成した。また比較例8については、耐熱性粒子の添加を省略した。
【0036】
なお、表1における空孔率は、陽極酸化膜表面の任意の20カ所について、10万倍の拡大写真を電子顕微鏡で撮影し、撮影面積に対する孔の開口面積率を測定してこの開口面積率を空孔率とした。尚、孔は、開口面積が5nm以上で深さが5nm以上のものを計測対象とした。
また表1における膜厚は、陽極酸化膜をミクロトームで切断し、その断面を観察して膜厚を求めた。
更に表1における含水率は、熱重量天秤で500℃まで加熱したときの重量変化から求めた。耐熱性塗膜の膜厚は電子顕微鏡で断面を観察して測定した。
【0037】
得られた実施例および比較例のアルミニウム材について、耐熱性、耐熱性塗膜の密着性および耐食性を調査した。結果を表1に示す。
耐熱性の評価は、耐熱性アルミニウム材を縦100mm、横150mmの大きさに切り出し、この切り出した板材を180℃で24時間加熱し、加熱後の耐熱性塗膜の外観を観察することで評価した。外観に変化が見られなかったものを○、変色が見られたものを×とした。
【0038】
また、密着性の評価は、耐熱性アルミニウム材を縦100mm、横150mmの大きさに切り出し、この切り出した板材を180℃で24時間加熱し、加熱後の耐熱性塗膜の全面に粘着テープを貼付けてから剥がしたときの、耐熱性塗膜の状態を観察することで評価した。塗膜が剥がれなかったものを○、剥離があったが剥離面積が5%以下のものを△、剥離面積が5%を超えたものを×とした。
【0039】
更に、耐食性の評価は、耐熱性アルミニウム材を縦100mm、横150mmの大きさに切り出し、この切り出した板材を180℃で24時間加熱し、加熱後の板材に対して5%の塩化ナトリウム水溶液を30℃において10日間に渡って噴霧し、噴霧後の腐食状態を観察することにより行った。耐熱性塗膜の外観に変化がないものを○、直径2mm以下の点状の腐食部が10個以下見られたものを△、直径2mmを超える腐食や、直径2mm以下の点状腐食が10箇所を超えて見られたものを×とした。
【0040】
【表1】

【0041】
表1に示すように、実施例1ないし実施例5については、いずれも良好な評価結果が得られた。
【0042】
比較例1については、陽極酸化膜の空孔率が大きいため、バリアー性が低下して耐食性が悪化した。これに伴い、耐熱性塗膜の密着性も低下した。
比較例2については、陽極酸化膜の含水率が大きいため、水分放出量が多くなって耐熱性塗膜の密着性が低下し、これにより耐食性も低下した。
比較例3については、陽極酸化膜の膜厚が厚すぎたため、陽極酸化膜にクラックが生じて耐食性が悪化した。これに伴い、耐熱性塗膜の密着性も低下した。
【0043】
比較例4ないし比較例7については、下地膜が硫酸アルマイト膜またはクロメート膜であったため、耐熱性塗膜の密着性および耐食性が十分でなかった。
比較例8については、耐熱性塗膜中に耐熱性粒子が添加されていないため、耐熱性が大幅に低下した。
【0044】
(実験例2)
実験例1と同様にして、金属基材として、0.3mmまで圧延したJISA1100−H24のアルミニウム合金の板材を準備した。この板材に対して実験例1と同様にして電解処理を行なうことにより、空孔率2%、含水率3%、厚み300nmの陽極酸化膜を形成した。
【0045】
次に、各種材質の主成分樹脂および各種材質の耐熱性粒子を、石油系シンナーに分散させて塗料を調製した。この塗料を陽極酸化膜上に塗布してから200℃で60秒間の焼き付けを行なうことにより、耐熱性塗膜を形成した。耐熱性塗膜の詳細は表2に示す。
【0046】
以上のようにして、実施例6ないし実施例10および比較例9ないし比較例12の耐熱性アルミニウム材を製造した。表1に実施例および比較例の詳細を示す。
得られた実施例および比較例のアルミニウム材について、実験例1と同様にして、耐熱性、耐熱性塗膜の密着性および耐食性を調査した。結果を表2に示す。ただし、表2の耐熱性粒子のかっこ書きは耐熱性粒子の平均粒径である。
【0047】
【表2】

【0048】
表2に示すように、実施例6ないし実施例10については、いずれも良好な評価結果が得られた。
【0049】
比較例9については、耐熱性粒子の含有率が25質量%を超えていたため、塗膜が脆くなって密着性が低下し、耐食性、耐熱性ともに低下した。
比較例10については、耐熱性塗膜の膜厚が薄すぎたため、耐熱性が低下した。
【産業上の利用可能性】
【0050】
オーブンレンジ、ガステーブル等の調理機器、ストーブ、ファンヒータ等の暖房機器、厨房換気扇等の外装用のアルミニウム材として好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施形態である耐熱性アルミニウム材の断面模式図。
【符号の説明】
【0052】
1…金属基材、1a…表面、2…陽極酸化膜、3…耐熱性塗膜、3a…主成分樹脂、3b…耐熱性粒子、A…耐熱性アルミニウム材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属基材と、厚みが50nm以上700nm以下であり空孔率が5%以下であり含水率が10%以下である前記金属基材の表面に形成された陽極酸化膜と、前記陽極酸化膜上に塗布された膜厚が0.3μm以上10μm以下の範囲の耐熱性塗膜とから構成され、
前記耐熱性塗膜は、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、エポキシ変性ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂のうちの一種または2種以上の主成分樹脂に、ポリエーテルサルフォン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂のうちの一種または2種以上からなる耐熱樹脂粒子が混合されてなり、かつ前記耐熱樹脂粒子の混合率が25質量%以下であることを特徴とする耐熱性アルミニウム材。
【請求項2】
前記陽極酸化膜と前記耐熱性塗膜との間にシランカップリング剤が塗布されていることを特徴とする請求項1に記載の耐熱性アルミニウム材。


【図1】
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【公開番号】特開2006−26913(P2006−26913A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−204526(P2004−204526)
【出願日】平成16年7月12日(2004.7.12)
【出願人】(000176707)三菱アルミニウム株式会社 (446)
【Fターム(参考)】