説明

耐熱性ゲル化剤

【課題】非動物性で、食品等に用いた場合に一般的に好まれる物性のゲル状物を提供でき、かつレトルト殺菌のごとき条件下においても、固形物やタンパク質などの内容物をそのままの状態で保持できる、耐熱安定性に優れたゲルを形成できるゲル化剤等を提供する。
【解決手段】第1成分である微細繊維状セルロース50〜95質量%と水溶性高分子または親水性物質5〜50質量%とを含む微細繊維状セルロース複合体と、第2成分であるキサンタンガムと、第3成分であるグルコマンナン、ガラクトマンナン、アルギン酸類、ジェランガムからなる群より選択される1種あるいは2種以上の多糖類とからなるゲル化剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品等をゲル状物に加工する際に多く用いられるゲル化剤に関し、特に非動物性でかつ耐熱安定性に優れたゲルが得られるゲル化剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に市販されているゲル化剤としては、ゼラチン、寒天、ジェランガムなどが知られている。また、グルコマンナンとキサンタンガムの混合物や、ローカストビーンガムとキサンタンガムの混合物などでもゲルを形成することは可能であるが、コンニャクゼリーのような食感となり、一般的な食品として好まれる物性を提供することは困難である。
【0003】
ゼラチンは適度な弾力性を有し、最も物性や食感が好まれるゲル化剤の1つである。特に、高齢者などの嚥下機能が低下した嚥下障害者向けの介護食に、ゼラチンの物性が適していると言われている。近年、動的粘弾性測定による物性分析によって、嚥下障害者に適したゲル状嚥下食の物性が研究されており、非特許文献1では、G’(貯蔵弾性率)10〜1000Pa、tanδ(損失正接)0.1〜1の範囲が、また特許文献1では、G’10〜100Pa、tanδ0.1〜1の範囲が好ましい、と記載されている。この範囲のゲルは小さな応力で大きく変形するので、食塊が咽頭相をスムーズに通過することができる。しかしながら、ゼラチンは動物性であるためBSEのリスクがあり、しかも、そのゲルは常温で容易に溶解してしまう。また、寒天も物性や食感が好まれるゲル化剤の1つであるが、ゼラチンと同様に耐熱性は高いものではない。さらに、ジェランガムは、比較的耐熱性が高いが、一般的に105℃以上の温度で処理されるレトルト殺菌では、そのゲルが溶解し、固形物やタンパク質などの内容物をそのままの状態で保持することは困難となる。また、ゲルの物性としては、非常に脆くて破断後の離水量が多いという欠点がある。
【0004】
つまり、ゼラチンや寒天様の食感を示し、植物または微生物由来で、かつゲル化剤により形成されたゲルが、レトルト殺菌を行っても、固形物やタンパク質などの内容物をそのままの状態で保持することができる、耐熱安定性に優れたゲル化剤が望まれている。
【0005】
ここで、特許文献2には、微細繊維状セルロース複合体と、ガラクトマンナン、グルコマンナン、アルギン酸類から選択される多糖類を含有するゲル化剤が開示されている。また、特許文献3にはそれを利用した耐熱性ゲルの記載がある。しかしながら、これらのゲル状組成物は強度が弱く弾力性に乏しいので、一般的な食品に求められる物性とは言い難い。さらに特許文献2のゲル化剤は、基本的に微細繊維状セルロース複合体と1種類の多糖類の2成分だけから構成されており、目的とするゲル食感を制御することは不可能であった。またこの組み合わせで得られるゲルは、非常に優れた耐熱性を示すため、一度ゲルを形成すると120℃以上の高温で再加熱しても溶解せず、逆に作業性において好ましくない場合があった。
【0006】
さらに、特許文献4には、「熱変性した微粒子の乳性タンパク質」、「微結晶セルロースまたは微小繊維状セルロースを含む組成物」、「ゲルを形成させるためのゲル化剤」の3つを必須成分とするゲル状食品の記載があるが、これはタンパク質の熱凝固性を利用することではじめて発現する効果であり、使用条件がかなり制限される。
【特許文献1】特開2004−159529号公報
【特許文献2】特開2004−41119号公報
【特許文献3】特開2004−248536号公報
【特許文献4】特開2004−344042号公報
【非特許文献1】渡瀬峰男、「嚥下障害者および高齢者に向く嚥下食の開発の研究−14」、食品工業、第44巻、第11号、P.74−85
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、非動物性で、食品等に用いた場合に、目的とするゲル食感やゲル溶解温度が制御でき、かつレトルト殺菌を行っても、固形物やタンパク質などの内容物をそのままの状態で保持できる、耐熱安定性に優れたゲル化剤等を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)第1成分である微細繊維状セルロース50〜95質量%と水溶性高分子または親水性物質5〜50質量%とを含む微細繊維状セルロース複合体と、第2成分であるキサンタンガムと、第3成分であるグルコマンナン、ガラクトマンナン、アルギン酸類、ジェランガムからなる群より選択される1種あるいは2種以上の多糖類とからなることを特徴とするゲル化剤。
(2)前記微細繊維状セルロース複合体と前記多糖類の合計含有量と、前記キサンタンガムの含有量との質量比が、70:30〜98:2であることを特徴とする上記(1)記載のゲル化剤。
(3)前記の多糖類が、グルコマンナンまたはガラクトマンナンであることを特徴とする上記(1)または(2)に記載のゲル化剤。
(4)破断荷重が1.4N〜1.5Nの標準ゲルを形成した場合の、破断歪み率が33〜45%であり、かつ、脆さ歪み率が1〜10%であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載のゲル化剤。
(5)破断荷重が1.4N〜1.5Nの標準ゲルを形成した場合の、破断歪み率が7〜20%であり、かつ、脆さ歪み率が2〜15%であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載のゲル化剤。
(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載のゲル化剤を、水性媒体に分散して得られたことを特徴とするゲル状組成物。
(7)貯蔵弾性率が10〜1000Pa及び損失正接が0.05〜1であることを特徴とする上記(6)に記載のゲル状組成物。
(8)上記(1)〜(5)のいずれかに記載のゲル化剤を使用し、目標のゲル破断荷重を有するように前記ゲル化剤の濃度を調整して水性媒体に分散してゲルサンプルを得る第1ステップと、前記得られたゲルサンプルの破断歪み率と脆さ歪み率とを測定する第2ステップと、前記得られた破断歪み率と脆さ歪み率との測定値と、あらかじめ目標とした破断歪み率と脆さ歪み率との差異に基づいて、前記ゲル化剤の組成を変更する第3ステップとを、順次経ることを特徴とするゲル状組成物の物性制御方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のゲル化剤は、非動物性かつ耐熱安定性に優れることから、それを用いたゲル状製品の流通性や安全性を大幅に向上させることができる。また、強度の高いゲルを得ることも可能である。さらに、特定の3成分をゲル化剤の構成成分とすることで、食感や溶解温度などのゲル物性を制御できるので、顧客および消費者のニーズに合わせた商品設計が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態例について具体的に説明する。本発明者は、第1成分である微細繊維状セルロース複合体と、第2成分である少量のキサンタンガムと、第3成分であるガラクトマンナン、グルコマンナン、アルギン酸類、ジェランガムからなる群から選択される多糖類を配合することで、非動物性で、かつレトルト殺菌を行っても、固形物やタンパク質などの内容物をそのままの状態で保持できる、耐熱安定性に優れたゲルが得られるゲル化剤となること、さらには、このゲル化剤の構成により、得られるゲルの食感や溶解温度における物性制御が可能であることを見出し、本発明をなすに至った。
【0011】
第1成分の微細繊維状セルロース複合体に使用される微細繊維状セルロースは、β−1,4グルカン構造を有するいわゆるセルロースを原料とする。安価な製品を安定的に供給するためには、植物細胞壁を起源としたセルロース性物質を、原料として使用するのが好ましい。この中でも特に、バガス、稲わら、麦わら、竹などを使用したイネ科植物由来のパルプが好ましい。綿花、パピルス草、こうぞ、みつまた、ガンピなども使用が可能だが、原料の安定的な確保が困難であること、セルロース以外の成分の含有量が多いこと、ハンドリングが難しいことなどの理由で好ましくない場合がある。ビートパルプや果実繊維パルプなどの柔細胞由来の原料も同様である。その他レーヨンなどの再生セルロースや、微生物が産出するセルロースを原料として使用しても良い。
【0012】
微細繊維状セルロースは、ゲルの耐熱安定性を向上させるために結晶性であることが好ましい。具体的には、X線回折法(Segal法)で測定されるところの結晶化度が50%を越えることが好ましい。より好ましくは結晶化度が55%以上である。しかし、微細繊維状セルロース複合体は、微細繊維状セルロース以外の他の成分も含有しており、それら他の成分は多くの場合に非晶性である。そのため、微細繊維状セルロース複合体を試料として結晶化度を測定すると、得られる値は、微細繊維状セルロースそのものの正しい結晶化度より低くなる。例えば、微細繊維状セルロース複合体を測定した結晶化度が50%であれば、微細繊維状セルロースの結晶化度としては50%以上であるといえる。ただし、微細繊維状セルロース複合体の結晶化度として、例えば49%という値が得られたような場合は、微細繊維状セルロースだけを他の成分から分離してから結晶化度を再測定しなければならない。
【0013】
微細繊維状セルロースは、セルロース繊維の大部分、つまり90%以上が「微細な繊維状」である。この「微細な繊維状」とは、セルロース繊維を光学顕微鏡または電子顕微鏡で観察・測定した場合に、セルロース繊維の長さ(長径)が5nm〜5mm、幅(短径)が1nm〜200μm、長さと幅の比(長径/短径)が5〜10000であることを意味する。このような微細繊維状セルロースを用いることにより、ゲル化剤のゲル化能が向上してゲル破断強度が高くなる。中でも好ましい「微細繊維状のセルロース」の形態は、長さ(長径)が0.5μm〜1mm、幅(短径)が2nm〜60μm、長さと幅の比(長径/短径)が5〜400のものである。
【0014】
微細繊維状セルロース複合体とは、微細繊維状セルロースと水溶性高分子または親水性物質とのスラリー液の状態から、いったん乾燥状態を経ることによって形成された複合体を言い、微細繊維状セルロースと水溶性高分子または親水性物質とが複合した乾燥組成物である。このような複合体を用いることで、理由は不明であるが、ゲル化剤のゲル化能が大幅に向上する。それぞれの量比は、微細繊維状セルロース:水溶性高分子または親水性物質=50:50〜95:5(ただし、合計で100)である。この範囲でゲル破断強度と分散性のバランスに優れる。
【0015】
好ましくは微細繊維状セルロースと水溶性高分子と親水性物質とが複合したものである。この場合のそれぞれの質量比は、微細繊維状セルロースが50〜94に対して水溶性高分子が3〜47でかつ親水性物質が3〜47の範囲内である(ただし、合計で100)。
この範囲で、ゲル化剤の水中での分散性が良好となり、ゲル化性能も良好となる。より好ましくは、微細繊維状セルロースが50〜70に対して、水溶性高分子が10〜30で、かつ親水性物質が5〜40の質量比率の範囲内(ただし、合計で100)である。
【0016】
この乾燥組成物の形態は、顆粒状、粒状、粉末状、鱗片状、小片状、シート状等の様々な形態を呈する。乾燥組成物を得る際の乾燥方法については何ら限定するものではない。乾燥後は必要に応じて、カッターミル、ハンマーミル、ピンミル、ジェットミル等で粉砕して使用しても良い。
【0017】
水溶性高分子は、乾燥時におけるセルロース同士の角質化を防止する作用を有するものであり、微細繊維状セルロースと水溶性高分子とのスラリー液の状態からいったん乾燥状態を経ることによって、微細繊維状セルロース複合体が形成される。これにより、ゲル化剤を水中に投入した場合の再分散性が改善されると共に、理由は不明であるがゲル化剤とした場合のゲル化能が向上する。
【0018】
具体的な水溶性高分子の例としては、アラビアガム、アラビノガラクタン、アルギン酸およびその塩、カードラン、ガッティーガム、カラギーナン、カラヤガム、寒天、キサンタンガム、グアーガム、酵素分解グアーガム、クインスシードガム、ジェランガム、タマリンドシードガム、難消化性デキストリン、トラガントガム、ファーセルラン、プルラン、ペクチン、ローカントビーンガム、水溶性大豆多糖類、カルボキシメチルセルロース・ナトリウム、メチルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウムなどから選ばれた1種または2種以上の物質が使用される。
【0019】
中でも、分散性が良好になるため、カルボキシメチルセルロース・ナトリウムを用いるのが好ましい。カルボキシメチルセルロース・ナトリウムとしては、カルボキシメチル基の置換度が0.5〜1.5であるのが好ましく、より好ましくは0.5〜1.0であり、さらに好ましくは0.6〜0.8である。
【0020】
また、水溶性高分子の1質量%水溶液の粘度は、5〜9000mPa・s程度で用いるのが好ましく、より好ましくは1000〜8000mPa・s程度で用いることであり、さらに好ましくは2000〜6000mPa・s程度で用いることである。この範囲で、取り扱い性に問題なく、ゲル化剤の性能も良好な範囲となる。
【0021】
親水性物質は、ゲル化剤を水中に投入した際に崩壊剤または導水剤として機能するものであり、親水性物質を用いることで、微細繊維状セルロース複合体が、水中でさらに分散しやすくなる。親水性物質は、冷水への溶解性が高く、粘性を殆どもたらさず、常温で固体または液体の物質である。例えば、デキストリン類(分岐デキストリン、サイクロデキストリン等を含む)、水溶性糖類(ブドウ糖、果糖、庶糖、乳糖、オリゴ糖、異性化糖、キシロース、トレハロース、カップリングシュガー、パラチノース、ソルボース、還元澱粉糖化飴、マルトース、ラクツロース、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖等)、糖アルコール類(キシリトール、マルチトール、マンニトール、ソルビトール等)が挙げられ、これらから選ばれる1種または2種以上の物質である。ところで、親水性物質の中には、デキストリン類のように水溶性高分子としての機能もわずかではあるが合わせ持つものもある。そのような親水性物質を用いる場合でも水溶性高分子を合わせ用いるのが望ましいが、水溶性高分子を用いないことも可能である。
【0022】
親水性物質は、低分子量物質の方が水中での粒子の崩壊・分散性が良くなる傾向にあるが、一方、製造時の乾燥性や、製品の吸湿性、経時安定性に劣る傾向がある。例えば、ブドウ糖、蔗糖、トレハロースなどは良好な性質を示すが、バランスが最も良い物質は、DE(dextrose equivalent)が20以上のデキストリンである。
【0023】
微細繊維状セルロース複合体には、その効果を損ねない限り、微細繊維状セルロース、水溶性高分子、親水性物質以外の他の成分を含めても良い。例えば、デンプン類、油脂類、蛋白質類、ペプチド、アミノ酸、界面活性剤、保存料、日持向上剤、pH調整剤、食塩、各種リン酸塩等の塩類、乳化剤、酸味料、甘味料、香料、色素、消泡剤、発泡剤、抗菌剤、崩壊剤などの成分が適宜配合されていても良い。
【0024】
微細繊維状セルロース複合体は、「水中で安定に懸濁する成分」を、全セルロース中に30質量%以上含有することが好ましい。この成分の含有量が30質量%以上であると、ゲル形成機能がより優れる。含有量は多いほど好ましいが、50〜100質量%であればより好ましい。ここにいう、「水中で安定に懸濁する成分」は、ゲル化剤を0.1質量%濃度の水分散液としてから1000Gで5分間遠心分離した場合でも、沈澱にならずに水中に安定に懸濁しているセルロースの全セルロース量に対する割合で示される。(「水中で安定に懸濁する成分」の測定方法は後述する。)
【0025】
このような成分は、高分解能走査型電子顕微鏡(高分解能SEM)にて観察および測定される長さ(長径)が0.5〜30μm、幅(短径)が2〜600nm、長さと幅の比(長径/短径比)が20〜400であることが好ましく、より好ましくは、幅(短径)が100nm以下、より好ましくは50nm以下である。
【0026】
微細繊維状セルロース複合体は、0.5質量%濃度の水分散液において、歪み10%、周波数10rad/sの条件で測定される損失正接(tanδ)が1未満であることが好ましい。1未満でゲル形成機能が秀でたものとなる。好ましくは0.6未満である。
【0027】
微細繊維状セルロース複合体の損失正接を1未満にするためには、微細繊維状セルロース複合体の構成成分である微細繊維状セルロース、つまりセルロースのミクロフィブリルを短く切断することなく取り出す必要がある。しかしながら、現在の技術では、「短繊維化」させることなく「微細化」だけを行うことはできない(ここで言う「短繊維化」とは繊維を短く切断すること、あるいは短くなった繊維の状態を意味する。また「微細化」とは引き裂くなどの作用を与えて繊維を細くすること、または細くなった繊維の状態を意味する。)。つまり、損失正接を1未満にするためには、セルロース繊維の「短繊維化」を最低限に抑えつつ「微細化」を進行させることが重要である。そのための好ましい方法の例を以下に示すが、これらの方法に何ら限定するものではない。
【0028】
原料として植物細胞壁を起源とするセルロース性物質を選択する場合に、セルロース繊維の「短繊維化」を最低限に抑えつつ「微細化」を進行させるためには、平均重合度400〜12000で、かつ、α−セルロース含量(%)が60〜100質量%のものを選択するのが好ましく、より好ましくは平均重合度400〜12000で、かつα−セルロース含量(%)が60〜85質量%のものを選択することである。
【0029】
また、セルロース繊維の「短繊維化」を最低限に抑えつつ「微細化」を進行させるために使用する装置としては、高圧ホモジナイザーが好ましい。高圧ホモジナイザーの具体例としては、エマルジフレックス(AVESTIN,Inc.製)、アルティマイザーシステム(株式会社スギノマシン製)、ナノマイザーシステム(ナノマイザー株式会社製)、マイクロフルイダイザー(MFIC Corp.製)、バルブ式ホモジナイザー(三和機械株式会社製、Invensys APV社製、Niro Soavi社製、株式会社イズミフードマシナリー製)などがある。高圧ホモジナイザーの処理圧力としては、60〜414MPa程度が好ましい。
【0030】
ゲル化剤の第2成分として使用するキサンタンガムは、主鎖はD−グルコースがβ−1,4結合した構造を有し、この主鎖のアンヒドログルコースにD−マンノース、D−グルクロン酸、D−マンノースからなる側鎖が結合したものである。主鎖に付くD−マンノースの6位はアセチル化され、末端のD−マンノースがピルビン酸とアセタール結合している枝分かれの多い構造である。キサンタンガムは、それ単独ではゲル化しないが、ゲル化剤における食感や溶解温度などの物性制御という観点から、非常に大きな役割を果たす。
【0031】
ゲル化剤の第3成分である多糖類は、グルコマンナン、ガラクトマンナン、アルギン酸類、ジェランガムからなる群より、1種あるいは2種以上を、所望のゲルの物性に応じて選択する。
【0032】
グルコマンナンは、D−グルコースとD−マンノースがβ−1,4結合した構造を有し、グルコースとマンノースの比率が約2:3の多糖類である。グルコマンナンは、精製度が低いと独特の刺激臭があるので、精製度の高いものを使用することが望ましいが、用途に応じてコンニャク粉やコンニャクマンナンを使用しても差し支えない。
【0033】
ガラクトマンナンは、β−D−マンノースがβ−1,4結合した主鎖と、α−D−ガラクトースがα−1,6結合した側鎖からなる構造を有する多糖類である。ガラクトマンナンの例としては、グアーガム、ローカストビーンガム、タラガム等があり、マンノースとグルコースの比率は、グアーガムで約2:1、ローカストビーンガムで約4:1、タラガムで約3:1である。
【0034】
アルギン酸類とは、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム等のアルギン酸塩、またはアルギン酸プロピレングリコールエステルを意味する。アルギン酸類の中でも、アルギン酸がナトリウムで中和された水溶性の多糖類であるアルギン酸ナトリウムを使用するのが好ましい。アルギン酸はβ−D−マンヌロン酸(Mと略する)とα−L−グルロン酸(Gと略する)からなる1,4結合のブロック共重合体である。Mからなるブロック(M−M−M−M)と、Gからなるブロック(G−G−G−G)と、両残基が交互に入り交じっているブロック(M−G−M−G)、という3つのセグメントから成り立っている。これらのアルギン酸類は、pHや塩濃度を制御して使用される場合もある。
【0035】
ジェランガムには、脱アセチル化ジェランガムと、ネイティブ型ジェランガムの2種類がある。その構造は、グルコース、グルクロン酸、グルコースとL−ラムノースという4つの糖の反復ユニットで直鎖状に結合している。グルコースのC−6位にアセチル基が1/2残基存在し、C−2位にグリセリル基が結合しているものが、ネイティブ型ジェランガム、これを脱アセチル化して精製されたものが、脱アセチル化ジェランガムと呼ばれている。ここでいうジェランガムとは、この脱アセチル化ジェランガムのことを指す。
【0036】
また、ここでいう動物性とは、高等動物(ほ乳類、鳥類、魚介類等)に由来することを言い、植物や微生物由来であることを言わない。つまりゲル化剤の構成成分である、微細繊維状セルロース複合体、キサンタンガム、多糖類は、いずれも植物あるいは微生物由来であるから非動物性である。
【0037】
ゲル化剤は、第1成分である微細繊維状セルロース複合体と、第2成分のキサンタンガムと、第3成分の多糖類とを配合して用いる。これにより、ゲルの物性制御が可能となる。つまり第2成分として、単独ではゲル化しないキサンタンガムを少量添加することで、後述の破断歪み率や脆さ歪み率を指標としたゲルの食感を制御することができ、さらに作業性に合わせてゲルの溶解温度を変えることが可能となる。
【0038】
上述の第1成分と第3成分の合計含有量と、第2成分のキサンタンガムの含有量との質量比は、「第1成分(微細繊維状セルロース複合体)+第3成分(多糖類)」:「第2成分(キサンタンガム)」=70:30〜98:2であり、好ましくは80:20〜95:5、さらに好ましくは85:15〜90:10である。この範囲で、耐熱安定性に優れたゲルが得られる。
【0039】
さらに、第1成分である微細繊維状セルロース複合体と、第3成分の多糖類との質量比は、1:9〜9:1であることが好ましく、より好ましくは2:8〜8:2、さらに好ましくは3:7〜7:3である。
【0040】
上記の成分を混合して得られたゲル化剤から形成されるゲルは、意外にもゲル破断強度が著しく向上する。この理由は不明であるが、第1成分である微細繊維状セルロース複合体と第2成分であるキサンタンガムだけとを混合してもゲル化が生じず、一方、第1成分である微細繊維状セルロース複合体と第3成分である多糖類とだけを混合すると、120℃以上の高温でも溶解しない耐熱性に優れたゲルが形成され、さらに第2成分であるキサンタンガムと第3成分である多糖類とだけを混合すると、弱いゲル強度ではあるがゲル化が生じることから、第1成分と第3成分との間、及び、第2成分と第3成分との間の結合が相乗的に作用することで、ゲル全体の強度が大きくなるのではないかと考えられる。
【0041】
次に、ゲル化剤から形成されるゲルの性状についてより詳しく説明する。まず、ゲル化剤をイオン交換水に分散させて、5℃において後述の測定条件に従って得られた破断荷重が1.4N〜1.5Nになるようにして、評価用の標準ゲルを形成したとする。標準ゲルの破断荷重を調整するには、ゲル化剤の濃度を適宜調整すればよい。ただしジェランガムが、ゲル化剤の構成成分に含まれる場合は、カルシウム塩(乳酸カルシウム、塩化カルシウム等)を併用するのがよい。このように、標準ゲルの破断荷重を一定範囲に調整するのは、ゲル物性評価の前提条件を揃えるためである。
【0042】
ゲル化剤から形成されるゲルは耐熱安定性に優れる。本発明でいう耐熱安定性とは、レトルト殺菌のような高温処理を行って、いったんゲルが溶解したとしても、ゲル中の内容物(粒子ということがある)が均一に分散配置された状態で固定化され、ゲル中の位置を変化させずにそのまま保持される機能をいう。ここでいう耐熱安定性は、標準ゲルにおける粒子固定化指標を以下の式(1)で算出して評価することができる。粒子固定化指標とは、全粒子における固定化粒子の割合(%)であり、この粒子固定化指標が60%以上の時、耐熱安定性に優れると判断する。
粒子固定化指標(%)=〔{α−(β+γ)}/α〕×100 ・・・・(1)
(α:全粒子数、β:液面に浮いている粒子数、γ:底面に沈殿している粒子数)
【0043】
ここで、標準ゲルにおける破断歪み率とは、標準ゲルサンプルの元の厚さに対する破断変形量の比率を言い、後述の方法で測定した値を以下の式(2)に代入することによって求められる。
破断歪み率(%)=破断変形(mm)/サンプル厚さ(mm)×100 ・・・(2)
(破断変形(mm)とは、破断点の変形距離を意味する。)
【0044】
また、標準ゲルにおける脆さ歪み率とは、標準ゲルサンプルの元の厚さに対する脆さ変形の比率を言い、後述の方法で測定した値を以下の式(3)に代入することによって求められる。
脆さ歪み率(%)=脆さ変形(mm)/サンプル厚さ(mm)×100 ・・・(3)
(脆さ変形(mm)とは、破断点から脆さの点までの変形距離を意味する。)
【0045】
ゲル化剤は、それを用いて上記の標準ゲルを形成した場合における破断歪み率が33〜45%となり、かつ、脆さ歪み率が1〜10%となるものであることが好ましい。このような物性を呈するゲルは、ゼラチン様物性を示すゲルであり、一般的な食品として、より好まれる食感を提供することが可能となる。このためには、第3成分である多糖類として、グルコマンナンまたはガラクトマンナンを選択して用いるのが好ましく、ガラクトマンナンの中では、ローカストビーンガムを選択するのが好ましい。ゼラチン様のさらに好ましい食感を示すためには、標準ゲルのより好ましい破断歪み率は、36〜42%とするのがよい。
特に、嚥下障害者向けの介護食に適したゲル物性を示すためには、動的粘弾性測定によって得られるG’(貯蔵弾性率)が10〜1000Pa、tanδ(損失正接)が0.05〜1の範囲となるようにゲルを調製するのが好ましい。
【0046】
また、ゲル化剤は、それを用いて上記の標準ゲルを形成した場合における破断歪み率が7〜20%となり、かつ、脆さ歪み率が2〜15%となるものであることもまた好ましい。このような物性を呈するゲルは、寒天様物性を示すゲルであり、一般的な食品として、より好まれる食感を提供することが可能となる。このためには、第3成分である多糖類として、まずジェランガムを用い、さらにガラクトマンナンまたはグルコマンナンを選択して用いるのが好ましく、ガラクトマンナンの中では、ローカストビーンガムを選択するのが好ましい。寒天様のさらに好ましい食感を示すためには、標準ゲルのより好ましい破断歪み率は13〜18%とするのがよい。
【0047】
本発明のゲル化剤は、第1成分、第2成分及び第3成分の質量比を変えることで、形成されるゲルの溶解温度を制御することができる。これは使用する多糖類の種類によっても異なるが、第1成分(微細繊維状セルロース複合体)と第3成分(グルコマンナンまたはガラクトマンナン)の合計含有量と、第2成分(キサンタンガム)の含有量との質量比70:30〜98:2において、キサンタンガムの含有量が少ないほど形成されるゲルの溶解温度は高くなり、100℃以上でも溶解しない場合がある。一方、キサンタンガムの含有量が多いほど形成されるゲルの溶解温度は低くなり、60℃〜80℃の範囲で溶解する傾向を示す。これによって、各温度条件下において、ゲル状態を維持するか、流動性のあるゾル状態を維持するか、工程に適したゲル物性を選ぶことが可能となる。
【0048】
ゲル化剤には、第1成分、第2成分及び第3成分以外に、その他の成分が適宜配合されていても良い。その他の成分の例としては、ペクチン、カラギーナン、タマリンドシードガム、カルボキシメチルセルロース・ナトリウム、メチルセルロース、キチン・キトサン、大豆多糖類、サイリウムシードガム、アラビアガム、トラガントガム、カラヤガム、ガッティガム、アラビノガラクタン、ファーセルラン、カードラン、プルランなどの増粘多糖類、ゲル化に必要な補助成分(無機塩類、酸、アルカリ、糖類など)、デンプン類、デキストリン類、油脂類、蛋白質類、ペプチド、アミノ酸、界面活性剤、保存料、日持向上剤、pH調整剤、食塩、各種リン酸塩等の塩類、乳化剤、酸味料、甘味料、糖類、糖アルコール類、オリゴ糖類、香料、色素、消泡剤、発泡剤、抗菌剤、崩壊剤などである。
【0049】
ゲル化剤を製造するにあたっては、微細繊維状セルロース複合体とキサンタンガムと多糖類とを所定比率で配合し、乾燥状態のままで十分混合すればよい。微細繊維状セルロース複合体は、通常は乾燥物のまま使用するのが望ましいが、水性媒体に分散して液状にしてから使用しても差し支えない。またキサンタンガム、多糖類に関しても同様である。
【0050】
次に、上記のゲル化剤を用いて調整するゲル状組成物について説明する。ゲル状組成物は、ゲル化剤を水性媒体に分散することで得られる。ゲル状組成物におけるゲル化剤の配合量は、特に定めるものではないが、0.1〜5質量%程度が好ましい。この範囲で、食品などで一般的に望まれるゲル破断強度のゲルが得られる。さらに好ましくは0.3〜1.5質量%程度である。
【0051】
ゲル状組成物には、食品具材などのその他材料を混合するのが通常である。そのようなゲル状組成物を調製するときの、ゲル化剤やその他材料を加える順番は特に限定しないが、その他材料の中にはゲル形成を阻害するものもあるので、まずゲル化剤分散液を調製してから、その他材料を添加して混合し、ゲル化剤を含む液状組成物を調製するのが望ましい。また、ゲル化剤を分散させる際の水性媒体の温度は特に指定しないが、ゲル化剤の構成成分の組み合わせに適した温度を選択する。
【0052】
このゲル状組成物は、食品等に用いた場合に一般的に好まれる物性となりうる上に、レトルト殺菌を行っても、固形物やタンパク質などの内容物をそのままの状態で保持できる、優れた耐熱安定性をも合わせ持つので、商品の流通性や商品性を大幅に向上させることが可能である。
【0053】
ゲル状組成物に配合するゲル化剤と水以外の他の成分としては、例えば、食品素材(畜肉、魚肉、豆・穀類およびその粉砕物、牛乳・乳製品、はっ酵乳、野菜、果物、果汁、食用油脂等)、嗜好飲料(コーヒー、茶類、ジュース、乳飲料、豆乳等)、調味料(みそ、しょうゆ、砂糖、塩、グルタミン酸ナトリウム等)、甘味料、糖類、糖アルコール類、香料、色素、香辛料、酸味料、乳化剤、界面活性剤、保存料、日持向上剤、抗菌剤、崩壊剤、消泡剤、発泡剤、pH調整剤、増粘安定剤、食物繊維、栄養強化剤(ビタミン、ミネラル、アミノ酸類等)、エキス類、タンパク質、でんぷん類、ペプチド、アルコール類、有機溶剤、可塑剤、油脂、緩衝液、燃料、火薬・爆薬類、酸、アルカリ、イオン性物質、マイクロカプセル、美容成分(美白成分、保湿成分等)、生理活性物質、薬効成分、医薬品添加物、農薬、肥料、消臭剤、殺虫剤、金属類、触媒、セラミック、塗料、インク、顔料、研磨剤、合成高分子(プラスチック、ゴム、合成繊維等)、天然由来高分子(コラーゲン、ヒアルロン酸、天然繊維等)、紙などが挙げられる。つまり、ゲル化剤やゲル状組成物は、食品用途だけではなく、医薬医療品、化粧品、工業製品用途にも応用できる。また、これらのゲル状組成物を冷やし固めたり、冷解凍、乾燥などの処理を経てから使用しても良い。
【0054】
応用できる食品の例としては、「プリン、ゼリーなどのデザート類」、「フルーツヨーグルト、栄養強化ヨーグルト(Ca強化等)を含むヨーグルト類」、「アイスクリーム、ソフトクリーム、シャーベットなどの冷菓」、「飲料、みつまめ、ヨーグルトなどにアクセント付けとして添加される具材」、「饅頭、くずきり、羊羹、餡などの和菓子類」、「グミキャンディー、キャンディー、キャラメル、ガム、チョコレートなどの菓子類」、「クッキー、ビスケット、煎餅などの焼菓子類」、「フィリング類」、「バッターミックス類」、ショートニング類」、「嚥下障害者用食品、介護食、きざみ食、とろみ食などのユニバーサルデザインフード」、「ゼリー状飲料」、「ソース、タレ、ドレッシング、マヨネーズなどの調味料」、「練りがらしに代表される各種練り調味料」、「麺類」、「餃子、春巻き、中華饅頭などの皮」、「フルーツソース、フルーツプレパレーション、ジャムに代表される果実・野菜加工品」、「食品に区分される流動食類」、「健康食品や栄養強化食品」、「茶碗蒸しや豆腐などのゲル状食品」、「かまぼこなどの練り製品」、「ソーセージ、ハムなどの畜肉食品」、「スプレッド、チーズ、ホイップクリームなどの乳製品」、「惣菜・弁当類」、「通常飲料(コーヒー、茶類、アイソトニック飲料、牛乳、乳飲料、酸性乳飲料、豆乳類、大豆飲料、抹茶、ココア、しるこ、ジュース、果肉入り飲料など)として摂取されるもののゲル化物」、「ペットフード類」などがあげられる。一般的な食品は、pH3〜8、食塩濃度0.01〜20%程度で提供されることが多く、ゲル化剤は、これらの条件下でも好ましい機能を発現する。なお、レトルト食品、冷凍食品、電子レンジ用食品等のように、形態または使用時調製の加工手法が異なっていてもよい。
【0055】
上述の例以外にも、ゲル化剤を使用することによって、現在一般的に市場に流通していない新規な食品形態をも提供することが可能となる。新規な食品形態の例としては、卵の代わりにゲル化剤を使用した茶碗蒸し、プリン、マヨネーズなどの「新規なアレルゲン除去食品」、米の代わりにゲル化剤を使用したかゆ状食品などの「新規な低カロリー食品」、スープやみそしるなどをゲル化させ温めて摂取できる「食事代替チュアパック飲料」などがある。
【0056】
また、応用できる医薬医療品の例としては、「経口医薬品、ホルモン剤などの経鼻医薬品、経腸医薬品、外皮用薬、経皮医薬品などの医薬品類」、造影剤、「医薬品に区分される流動食類」、「薬用化粧品、ビタミン含有保健剤、毛髪用剤、薬用歯磨き剤、浴用剤、殺虫剤・防虫剤、腋臭防止剤、口内清涼剤などの医薬部外品」、「人工軟骨、薬物担体、DNA担体、生体用接着剤、創傷被覆材、人工臓器などの生体材料」、貼布剤、コーティング剤、カプセルなどがあげられる。
【0057】
また、応用できる化粧品の例としては、「美容成分含有ゲル状化粧料、パック、モイスチャークリーム、マッサージクリーム、コールドクリーム、クレンジングクリーム、洗顔料、バニシングクリーム、エモリエントクリーム、ハンドクリーム、日焼け止め用化粧料などの皮膚用化粧品」、「ファンデーション、口紅、リップクリーム、ほほ紅、サンスクリーン化粧料、まゆ墨、マスカラ等まつげ用化粧料、マニキュアや除光液等のつめ化粧料などの仕上用化粧品」、「シャンプー、ヘアリンス、ヘアトリートメント、ポマード、チック、ヘアクリーム、香油、整髪料、ヘアスタイリング剤、ヘアスプレー、染毛料、育毛剤や養毛剤などの頭髪用化粧品」、さらにはハンドクリーナーのような洗浄剤、浴用化粧品、ひげそり用化粧品、芳香剤、歯磨き剤、軟膏、貼布剤などがあげられる。
【0058】
また、応用できる工業製品の例としては、顔料、塗料、インク類、消臭・芳香剤、抗菌・防カビ剤、接着剤、コーティング剤、界面活性剤、「紙おむつなどの衛生材料」、「細胞、細菌、ウイルスなどの培養材料」、「電気泳動用ゲル、クロマトカラムあるいはその充填剤などの実験材料」、「土壌改良剤、植物栽培用保水材などの農業・園芸用品」、人工雪、ろ過材、洗剤、液体石けん、火薬・爆薬類、燃料などがあげられる。
【0059】
次に、ゲル化剤から得られるゲル状組成物の物性の制御方法について説明する。ゲル状組成物は食品に多く利用されるが、顧客の嗜好性が強い商品群であり、顧客の要望に応じた物性・食感を提供することが求められる。また、ゲル化剤の濃度を調整するだけでは、ゲル化剤の量が多い場合には食品の食味や食感に影響することもあるため、ゲル化剤の濃度を一定以下に留めたままで、ゲル物性が調整できることが望ましい。
【0060】
上記のゲル化剤は、第1成分の微細繊維状セルロース複合体と第2成分のキサンタンガムと第3成分の多糖類とが配合されて構成されているため、大きいゲル強度のゲルを得ることも可能な上、組成変更による調整の自由度が比較的大きく、ゲル化剤の濃度を一定以下に留めたままでも、ゲル化剤の組成を調整することで、好ましい特性のゲルを得ることが可能である。そのため、ゲルの食感や溶解温度など所望の物性を持つゲル状組成物を得やすい。
【0061】
具体的には、標準ゲルに関連して説明した上述の破断荷重を一定にした状態で、破断歪み率と脆さ歪み率とを指標としながら、ゲル化剤の組成を変更して調整すればよい。まず目標の破断荷重を有するように、ゲル化剤の濃度を調整しつつ水性媒体に分散・ゲル化させて、ゲルサンプルを得る第1ステップ。次に、得られたゲルサンプルの破断歪み率と脆さ歪み率とをあらかじめ定められた条件で測定する第2ステップ。さらに、これら前ステップで得た測定値と、あらかじめ目標として設定した破断歪み率と脆さ歪み率との差異に基づいて、ゲル化剤の組成を変更する第3ステップ。そして変更された組成のゲル化剤を用いて再度ゲルサンプルを得て、破断歪み率と脆さ歪み率とを再測定して確認する第4ステップ。これら第1〜第3のステップと、必要により第4のステップとを順次実行して、ゲル化剤の組成を調整することができる。さらに必要により第3ステップと第4ステップを繰り返し、ゲル化剤の組成をより最適化することもできる。多くの場合、第1〜第4のステップに加え、1、2回の第3ステップと第4ステップの繰り返しで、目標とする特性のゲルが得られ、ゲル化剤の組成を最適化することができる。
【実施例】
【0062】
次に実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお、諸物性の評価は以下の手法に拠った。
<セルロース性物質の平均重合度>
【0063】
ASTM Designation: D 1795−90「Standerd Test Method for Intrinsic Viscosity of Cellulose」に準じて行う。
<セルロース性物質のα−セルロース含有量>
【0064】
JIS P8101−1976(「溶解パルプ試験方法」5.5 αセルロース)に準じて行う。
<セルロース性物質の結晶化度>
【0065】
JIS K 0131−1996(「X線回折分析通則」)に規定されるX線回析装置で得られたX線回折図の回折強度値から、Segal法により算出したもので次式によって定義する。
結晶化度(%)={(Ic−Ia)/Ic}×100
(ここで、Ic:X線回析図の回折角2θ=22.5度での回折強度、Ia:同じく回析角2θ=18.5度付近のベースライン強度(極小値強度)である。)
<セルロース繊維(またはセルロース粒子)の形状(長径、短径、長径/短径比)>
【0066】
セルロース繊維(またはセルロース粒子)のサイズの範囲が広いので、一種類の顕微鏡で全てを観察することは不可能である。そこで、繊維(粒子)の大きさに応じて光学顕微鏡、走査型顕微鏡(中分解能SEM、高分解能SEM)を適宜選択し、以下のようにして観察し、写真撮影して測定する。
【0067】
光学顕微鏡を使用する場合は、固形分濃度が0.25質量%の水分散液となるようにサンプルと純水を量り取り、攪拌機(エクセルオートホモジナイザー(商品名)、日本精機株式会社製)で、15000rpmで15分間分散したものを、適当な濃度に調整し、それをスライドガラスにのせ、さらにカバーグラスをのせて観察及び写真撮影を行う。
【0068】
また、中分解能SEM(JSM−5510LV、日本電子株式会社製)を使用する場合は、光学顕微鏡の場合と同じに調整したサンプル水分散液を試料台にのせ、風乾した後、Pt−Pdを約3nm蒸着してから、観察及び写真撮影を行う。
【0069】
高分解能SEM(S−5000、株式会社日立サイエンスシステムズ製)を使用する場合は、同様なサンプル水分散液を試料台にのせ、風乾した後、Pt−Pdを約1.5nm蒸着してから、観察及び写真撮影を行う。
【0070】
セルロース繊維(またはセルロース粒子)の長径、短径、長径/短径比は、撮影した写真から15本(個)以上の繊維を選択し、測定した。繊維はほぼまっすぐの形状のものや、髪の毛のようにカーブしている形状のものがあったが、糸くずのように丸まっているものはなかった。短径(太さ)は、繊維1本の中でもバラツキがあったが、複数箇所を測定して平均値を採用した。高分解能SEMは、短径が数nm〜200nm程度の繊維の観察時に使用したが、一本の繊維が長すぎて一つの視野に収まらなかった。そのため、視野を移動しつつ写真撮影を繰り返し、その後写真を合成して解析した。
<損失正接(=損失弾性率/貯蔵弾性率)>
【0071】
(1)固形分濃度が0.5質量%の水分散液となるように試験サンプルと水とを量り取り、エースホモジナイザー(日本精機株式会社製、AM−T型)で、15000rpmで15分間分散する。
(2)続いて25℃の雰囲気中に3時間静置して試験サンプル液を得る。
(3)動的粘弾性測定装置に試験サンプル液を入れてから5分間静置後、下記の条件で測定し、周波数10rad/sにおける損失正接(tanδ)を求める。
装置 :ARES(100FRTN1型、TA Instruments 製)
ジオメトリー:Double Wall Couette
温度 :25℃
歪み :10%(固定)
周波数 :1→100rad/s(約170秒かけて上昇させる)
<「水中で安定に懸濁する成分」の含有量>
【0072】
以下の(1)〜(5)または、(1)〜(2)及び(3’)〜(5’)より求める。
(1)ゲル化剤等の試験サンプルの固形分濃度が0.1質量%の水分散液となるように、試験サンプルと純水を量り取り、エースホモジナイザー(日本精機株式会社製、AM−T型)に投入して、15000rpmで15分間分散してサンプル液を調整する。
(2)サンプル液20gを遠沈管に入れ、遠心分離機にて1000Gで5分間遠心分離する。
(3)遠心分離により生じた上層の液体部分を取り除き、下層の沈降部分の質量a(g)を測定する。
(4)次いで、沈降部分を絶乾し、固形分の質量b(g)を測定する。
(5)下記の式を用いて「水中で安定に懸濁する成分」の含有率c(質量%)を算出する。
c=5000×(k1+k2)
(ただし、k1:上層の液体部分に含まれる「微細繊維状のセルロース」の量、k2:下層の沈降部分に含まれる「微細繊維状のセルロース」の量、w1:上層の液体部分に含まれる水の量、w2:下層の沈降部分に含まれる水の量、s2:下層の沈降部分に含まれる「水溶性高分子+親水性物質」の量をそれぞれ意味する。)
ここで、k1およびk2は下記の式を用いて算出して使用する。
k1=0.02−b+s2
k2=k1×w2/w1
【0073】
また、w1、w2、s2は以下の式で求める。なお、試験サンプルに配合された水溶性高分子と親水性物質の合計量:d(g)を、試験サンプルに配合されたセルロース成分の合計量:f(g)で除した比率を配合比率:d/fとする。
w1=19.98−a+b−0.02×d/f
w2=a−b
s2=0.02×(d/f)×w2/(w1+w2)
d/f=(水溶性高分子の配合量+親水性物質の配合量)/セルロースの配合量
【0074】
ところで、「水中で安定に懸濁する成分」の含有量が非常に多い場合は、沈降部分の重量が小さな値となるので、上記の方法では測定精度が低くなってしまう。その場合は、上記(3)以降の手順を以下のようにして行う。
(3’)上層の液体部分を取得し、質量a’(g)を測定する。
(4’)次いで、上層成分を絶乾し、固形分の質量b’(g)を測定する。
(5’)下記の式を用いて「水中で安定に懸濁する成分」の含有率c(質量%)を算出する。
c=5000×(k1+k2)
これにおけるk1およびk2は下記の式を用いて算出して使用する。
k1=b’−s2×w1/w2
k2=k1×w2/w1
また、w1、w2、s2は以下の式で求める。
w1=a’−b’
w2=19.98−a’+b’−0.02×d/f
s2=0.02×(d/f)×w2/(w1+w2)
もし、(3)または(3’)の操作で上層の液体部分と沈降部分の境界が明瞭ではなく、分離が難しい場合は、適宜セルロース濃度を下げて同様な操作を行えばよい。
<ゲルの耐熱安定性>
【0075】
(1)後述の方法で測定する5℃における破断荷重が、1.4N〜1.5Nの範囲内となるようにゲル化剤を計り取る。ただしゲル化剤の第3成分の多糖類としてジェランガムを用いる場合は、適宜、カルシウム塩(乳酸カルシウム、塩化カルシウム等)を併用する。
(2)上記ゲル化剤をイオン交換水に分散させたゲル化剤分散液を試験サンプルとして用い、紙製板状粒子(長径5mm、短径5mmの正方形、厚さ0.3mm)を添加して、均一に混合する。必要があれば、さらにカルシウム塩を加えて分散する。この時の分散条件(攪拌装置、温度等)は、ゲル化剤に応じて適宜選択する。
(3)紙製板状粒子が充填容器あたり20個となるように、内径約45mmの円筒状ガラス容器に高さ約45mmになるまで注入・充填する。
(4)120℃×30分間、加熱処理する。
(5)加熱処理終了後、静置状態を保ち、25℃で3時間冷却後、ゲルの液面に浮いている粒子数と、底面に沈降している粒子数を数える。
(6)耐熱安定性の判定:(5)で数えた各粒子数をもとに、以下の式を用いて、固定化指標を求める。この固定化指標が60%以上であるときに、耐熱安定性があると判断する。
固定化指標(%)=〔α−(β+γ)〕/α×100
(α:全粒子数、β:液面に浮いている粒子数、γ:底面に沈降している粒子数)
<ゲル状組成物の耐熱安定性>
【0076】
(1)目標のゲル破断荷重が得られるようにゲル化剤をはかり取る。ただしゲル化剤の第3成分の多糖類として、ジェランガムを用いる場合は、適宜、カルシウム塩(乳酸カルシウム、塩化カルシウム等)を併用する。
(2)上記ゲル化剤をイオン交換水に分散させ、さらにその他成分を添加して混合した、ゲル化剤分散液を試験サンプルとして用い、任意の粒子を添加して、均一に混合する。必要があれば、さらにカルシウム塩を加えて分散する。この時の分散条件(攪拌装置、温度等)は、ゲル化剤に応じて、適宜選択する。
(3)任意の粒子が、充填容器あたり同じ個数となるように、内径約45mmの円筒状ガラス容器に高さ約45mmになるまで注入・充填する。
(4)105℃×30分間、または95℃×10分間加熱する。
(5)加熱処理終了後、静置状態を保ち、25℃で3時間冷却後、ゲル状組成物の液面に浮いている粒子数と、底面に沈降している粒子数を数える。
(6)耐熱安定性の判定:(5)で数えた各粒子数をもとに、以下の式を用いて、固定化指標を求める。この固定化指標が60%以上であるときに、耐熱安定性があると判断する。
固定化指標(%)=〔α−(β+γ)〕/α×100(α:全粒子数、β:液面に浮いている粒子数、γ:底面に沈降している粒子数)
<標準ゲルの破断荷重、破断歪み率、脆さ歪み率の測定>
【0077】
(1)内径約45mm、高さ5cmのステンレス製円筒の、開口部の片方に耐熱性ラップを貼り、輪ゴムでとめて、ゲル充填用の容器を準備する。
(2)ゲルの耐熱安定性評価の(1)〜(2)で使用したゲル化剤分散液を、試験サンプルとして用い、上記の容器に、高さ約40mmになるまで注入・充填する。
(3)容器に耐熱性ラップをかけて、輪ゴムでとめて、密閉する。
(4)ゲルの入った容器を、80℃のウォーターバスで1時間加熱後、5℃で24時間冷却する。
(5)容器の上部及び底部のラップを外し、ゲルの底面が上になるように上下を反転させた状態で、容器ごとレオメータの試料台に載せる。
(6)容器をそっと抜き取り、ゲルだけを試料台に載せた状態で、標準ゲルサンプルの厚み(mm)を測り、以下の条件で測定する。
装置:レオメータ(RE−33005−1型)(株式会社山電製)
モード:破断強度解析
ロードセル:2kg
押し込み速度:1mm/sec
押し込み治具:12mmφ×25mm円柱状
測定温度:5℃
(7)得られた破断パターンから、破断点の荷重値である「破断荷重(N)」を読みとり、1.4〜1.5Nであることを確認する。その後さらに、「破断変形(mm)」と、「脆さ変形(mm)」を読みとる。ここで「破断変形(mm)」とは、破断点の変形距離を示し、「脆さ変形(mm)」とは、破断点から脆さの点までの変形距離を示す。なお、図1に破断パターンの読み方を示す。
(8)(6)で測定した標準ゲルサンプルの厚みと、(7)で得られた破断変形(mm)から、次式に従って破断歪み率を求める。
破断歪み率(%)=破断変形(mm)/サンプル厚さ(mm)×100
(9)脆さ歪み率とは、サンプルの元の厚さに対する脆さ変形の比率であり、(6)で測定したサンプル厚みと、(7)で得られた脆さ変形(mm)から、次式に従って、求められる。
脆さ歪み率(%)=脆さ変形(mm)/サンプル厚さ(mm)×100
<ゲル状組成物の破断荷重、破断歪み率、脆さ歪み率の測定>
【0078】
(1)内径約45mm、高さ5cmのステンレス製円筒の、開口部の片方に耐熱性ラップを貼り、輪ゴムでとめて、ゲル充填用の容器を準備する。
(2)ゲル状組成物の耐熱安定性評価の(1)〜(2)で使用したゲル化剤分散液を、試験サンプルとして用い、上記の容器に、高さ約40mmになるまで注入・充填する。
(3)以降の操作は、標準ゲルの破断荷重、破断歪み率、脆さ歪み率の測定の手順に準じて行う。
<標準ゲルの貯蔵弾性率G’、損失正接tanδ>
【0079】
(1)標準ゲルの破断荷重、破断歪み率、脆さ歪み率測定の(1)〜(6)と同じ手順で調製したゲルを30mm×30mm四方、厚み2mmサイズに薄くスライスする。
(2)動的粘弾性測定装置に、スライスしたゲルをセットして5分間静置後、下記の条件で測定し、周波数2rad/sにおける貯蔵弾性率G’、損失正接tanδを求める。
装置 :ARES(100FRTN1型、TA Instruments 製)
ジオメトリー:25mm Parallel Plate
温度 :15℃
歪み :5%(固定)
周波数 :0.05→2rad/s
<ゲルの溶解温度>
【0080】
標準ゲルの破断荷重、破断歪み率、脆さ歪み率測定の(1)〜(6)と同じ手順で調製したゲルを60℃に加温したホットプレートに載せる。30分加熱してゲル形状を維持していれば、ホットプレートの温度を5℃上げて同様に加熱し、流動性のあるゾルになるまで繰り返す。流動性のあるゾルとなった温度をゲルの溶解温度とする。
<ゲル状組成物のpH>
【0081】
ゲル化剤やカルシウム塩を添加しないで、ゲル状組成物のブランク液を調製し、pH計(東亜ディーケーケー株式会社製、「HM−50G形」)で測定した。
【0082】
次に、実施例、比較例で使用する微細繊維状セルロース複合体、キサンタンガム、グルコマンナン、ローカストビーンガム、ジェランガムについて、以下の(1)〜(7)にまとめて示す。
(1)微細繊維状セルロース複合体の調製:市販バガスパルプ(平均重合度=1320、α−セルロース含有量=77%)を、6×16mm角の矩形に裁断してパルプチップとし、これに固形分濃度が77質量%になるように水を加えた。
【0083】
水とパルプチップができるだけ分離しないよう注意して、カッターミル(カッティングヘッド/水平刃間隙:2.03mm、インペラー回転数:3600rpm)に1回通した。セルロース濃度が2質量%、そしてカルボキシメチルセルロース・ナトリウムの濃度が0.118質量%になるようにカッターミル処理品と、カルボキシメチルセルロース・ナトリウム(1質量%水溶液粘度:約3400mPa・s)と水を量り取り、これらを混合して繊維の絡みがなくなるまで撹拌した。
【0084】
得られた水分散液をそのまま、高圧ホモジナイザー(処理圧力90MPa)で9パスし、微細繊維状セルローススラリーを得た。光学顕微鏡および中分解能SEMで観察したところ、長径が10〜500μm、短径が1〜25μm、長径/短径比が5〜190の微細な繊維状のセルロースが観察された。損失正接は0.32だった。「水中で安定に懸濁する成分」は99質量%だった。「水中で安定に懸濁する成分」を高分解能SEMで観察したところ、長径が1〜20μm、短径が10〜400nm、長径/短径比が20〜300のきわめて微細な繊維状のセルロースが観察された。
【0085】
微細繊維状セルロース:カルボキシメチルセルロース・ナトリウム:デキストリン:ナタネ油=68:12:19.7:0.3(水を含まない重量部)となるように、微細繊維状セルローススラリーにカルボキシメチルセルロース・ナトリウム(1質量%水溶液粘度:約3400mPa・s)とデキストリン(DE:約28)を添加し、15kgを攪拌型ホモジナイザー(プライミクス株式会社製、「T.K.AUTO HOMO MIXER」)で、8000rpmで10分間撹拌・混合した後、前述の高圧ホモジナイザーで20MPa、1パス処理し、微細繊維状セルローススラリーを得た。
【0086】
微細繊維状セルローススラリーをドラムドライヤーにて乾燥し、スクレーパーで掻き取り、得られたものをカッターミル(不二パウダル株式会社製)で、目開き2mmの篩をほぼ全通する程度に粉砕し、微細繊維状セルロース複合体を得た。微細繊維状セルロース複合体の結晶化度は57%以上、損失正接は0.52、「水中で安定に懸濁する成分」は100質量%だった。「水中で安定に懸濁する成分」を高分解能SEMで観察したところ、長径が1〜15μm、短径が10〜330nm、長径/短径比が20〜250のきわめて微細な繊維状のセルロースが観察された。
(2)キサンタンガム(大日本製薬株式会社製)
(3)グルコマンナン(清水化学株式会社製)
(4)ローカストビーンガム(ユニテックフーズ株式会社製)
(5)ジェランガム(脱アセチル化ジェランガム)(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)
(6)ゼラチン(宮城化学工業株式会社製)
(7)寒天(一般用)(伊那食品工業株式会社製)
[実施例1]
【0087】
以下の(1)〜(16)に従って、ゲル化剤を調製し、標準ゲルを得て評価した。
(1)第1成分として上記の微細繊維状セルロース複合体を、第2成分としてキサンタンガムを、第3成分の多糖類としてグルコマンナンを、第1成分:第2成分:第3成分=50:10:40の質量比で混合し、ゲル化剤aとした。
(2)ゲル化剤aの濃度が0.92質量%となるように、25℃のイオン交換水に添加し、約11000rpmの家庭用ミキサー(サンヨー株式会社製)で5分間分散し、ゲル化剤分散液を得た。
(3)耐熱安定性を確認するため、ゲル化剤分散液を試験サンプルとして用い、紙製板状粒子(長径5mm、短径5mmの正方形、厚さ0.3mm)を複数添加して、スパチュラで均一に混合した。
(4)紙製板状粒子が、充填容器あたり20個となるように、内径約45mmの円筒状ガラス容器に高さ約45mmになるまで注入・充填し、密封した。
(5)120℃×30分間、加熱処理した。
(6)加熱処理終了後、静置状態を保ち、25℃で3時間冷却後、標準ゲルの液面に浮いている粒子数と、底面に沈降している粒子数を数えた。
【0088】
(7)耐熱安定性の判定:(6)で数えた各粒子数をもとに、以下の式を用いて、固定化指標を求めた。結果を表1に示す。
固定化指標(%)=〔α−(β+γ)〕/α×100
(α:全粒子数、β:液面に浮いている粒子数、γ:底面に沈降している粒子数)
(8)次に、標準ゲルの破断荷重、破断歪み率、脆さ歪み率の測定のために、内径約45mm、高さ5cmのステンレス製円筒の、開口部の片方に耐熱性ラップを貼り、輪ゴムでとめて、ゲル充填用の容器を準備した。
(9)上記(1)〜(2)で使用したゲル化剤分散液を、試験サンプルとして用い、上記の容器に、高さ約40mmになるまで注入・充填した。
(10)容器に耐熱性ラップをかけて、輪ゴムでとめて、密閉した。
(11)標準ゲルの入った容器を、80℃のウォーターバスで1時間加熱後、5℃で24時間冷却した。
(12)容器の上部及び底部のラップを外し、標準ゲルの底面が上になるように上下を反転させた状態で、容器ごとレオメータの試料台に載せた。
【0089】
(13)容器をそっと抜き取り、標準ゲルだけを試料台に載せた状態で、サンプル厚み(mm)を測り、以下の条件で測定した。
装置:レオメータ(RE−33005−1型)(株式会社山電製)
モード:破断強度解析
ロードセル:2kg
押し込み速度:1mm/sec
押し込み治具:12mmφ×25mm円柱状
測定温度:5℃
(14)得られた破断パターンから、「破断荷重(N)」を読みとったところ、1.40Nであった。その後さらに、「破断変形(mm)」と、「脆さ変形(mm)」を読みとった。
(15)(13)で測定したサンプル厚みと、(14)で得られた破断変形(mm)から、次式に従って、標準ゲルにおける破断歪み率を求めた。その結果を表1に示す。
破断歪み率(%)=破断変形(mm)/サンプル厚さ(mm)×100
(16)標準ゲルにおける脆さ歪み率を、サンプルの元の厚さに対する脆さ変形の比率であり、(13)で測定したサンプル厚みと、(14)で得られた脆さ変形(mm)から、次式に従って、求めた。その結果を表1に示す。
脆さ歪み率(%)=脆さ変形(mm)/サンプル厚さ(mm)×100
【0090】
次に、標準ゲルの貯蔵弾性率G’、損失正接tanδを測定するために、前述の(8)〜(11)で得られたゲルを30mm×30mm四方、厚み2mmサイズに薄くスライスした。スライスしたゲルを動的粘弾性測定装置にセットして5分間静置後に、下記の条件で測定して、周波数2rad/sにおける貯蔵弾性率G’、損失正接tanδを求めたところ、貯蔵弾性率は212Pa、損失正接は0.08であった。
装置 :ARES(100FRTN1型、TA Instruments 製)
ジオメトリー:25mm Parallel Plate
温度 :15℃
歪み :5%(固定)
周波数 :0.05→2rad/s
【0091】
さらに、ゲルの溶解温度を調べたところ、85℃であった。
表1の結果より、得られたゲルはゼラチン様のゲル物性を示し、嚥下障害者向けの介護食に適したゲル物性を示すことがわかった。さらに、レトルト殺菌に相当するような温度でも、流動性のあるゾル状態となるにも関わらず固形物をそのままの状態で保持できる、優れた耐熱安定性を有するゲルが得られたことがわかった。
[実施例2]
【0092】
第1成分として上記の微細繊維状セルロース複合体を、第2成分としてキサンタンガムを、第3成分の多糖類としてローカストビーンガムを、第1成分:第2成分:第3成分=35:15:50の質量比で混合し、ゲル化剤bとした。ゲル化剤bの濃度が1質量%となるように、実施例1と同様の方法で標準ゲルを作製して評価した。
【0093】
破断荷重は、1.42Nであった。また、耐熱安定性判定のための固定化指標、破断歪み率、脆さ歪み率の測定結果を表1に示す。さらに、貯蔵弾性率は145Pa、損失正接は0.12、溶解温度は70℃であった。
表1の結果より、得られたゲルはゼラチン様の特性で、嚥下障害者向けの介護食に適し、かつ耐熱安定性に優れることがわかった。
[実施例3]
【0094】
第1成分として上記の微細繊維状セルロース複合体を、第2成分としてキサンタンガム、第3成分の多糖類として、ローカストビーンガム及びジェランガムを、第1成分:第
2成分:第3成分=40:10:50の質量比で混合し、ゲル化剤cとした。(ここで第3成分である多糖類における、ローカストビーンガム:ジェランガムの比率は、35:15の質量比である。)
【0095】
ゲル化剤cの濃度が0.96質量%となるように、25℃のイオン交換水に添加し、実施例1で用いた家庭用ミキサーで5分間分散させ、さらにプロペラ攪拌翼で攪拌しながら、95℃まで加温した。これに外割で、乳酸カルシウムを0.25%加えて攪拌したものを、ゲル化剤分散液とし、実施例1と同様の方法で標準ゲルを作製して評価した。
【0096】
破断荷重は、1.37Nであった。また、耐熱安定性判定のための固定化指標、破断歪み率、脆さ歪み率の測定結果を表1に示す。得られたゲルは寒天様の特性を有しているにも関わらず、耐熱安定性に優れるゲルが得られた。
[実施例4]
【0097】
第1成分として上記の微細繊維状セルロース複合体を、第2成分としてキサンタンガムを、第3成分の多糖類としてグルコマンナンを、第1成分:第2成分:第3成分=50:15:35の質量比で混合し、ゲル化剤dとした。ゲル化剤dを使用して、桃ゼリーを作製し、評価した。なお、ゲル化剤を添加せずに調製したブランク溶液のpHは、6.3であった。
【0098】
ゲル化剤dの濃度が1質量%となるように、実施例1と同様の方法でゲル化剤分散液を調製した。ゲル化剤分散液をプロペラ攪拌翼で攪拌しながら、5質量%のグラニュー糖(第一糖業株式会社製)を加えて混合し、桃ゼリー液とした。
【0099】
この桃ゼリー液を試験サンプルとして用い、7mm角のサイコロ状に切った黄桃粒子を添加して、スパチュラで均一に混合した。粒子が充填容器あたり10個となるように、内径約45mmの円筒状ガラス容器に高さ約45mmになるまで注入・充填し、密封し、105℃で30分間、加熱した。加熱後、静置状態を保ち、25℃で3時間冷却後、果汁ゼリーの液面に浮いている粒子数と、底面に沈降している粒子数を数え、実施例と同様の方法で、固定化指標を求めた。
【0100】
次に、桃ゼリーの破断荷重、破断歪み率、脆さ歪み率を測定した。上記桃ゼリー液を、試験サンプルとして用い、実施例1と同様の方法で評価した。破断荷重は、1.38Nであった。固定化指標は90%であり、耐熱安定性に優れると判断した。破断歪み率は43%、脆さ歪み率は2%であった。ゼラチン様で耐熱安定性に優れるゲル状組成物が得られた。
[実施例5]
【0101】
実施例3で使用したゲル化剤cを用いて、果汁ゼリーを作製し、評価した。ゲル化剤と乳酸カルシウムを添加せずに調製したブランク溶液のpHは、4.2であった。
【0102】
ゲル化剤cの濃度が0.93質量%となるように、実施例3と同様の方法でゲル化剤分散液を調製した。ゲル化剤分散液をプロペラ攪拌翼で攪拌しながら、95℃まで加温し、5質量%のグラニュー糖(第一糖業株式会社製)と、10質量%ラズベリーピューレを加えて混合し、果汁ゼリー液とした。
【0103】
この果汁ゼリー液を試験サンプルとして用い、ブルーベリー粒子(直径10mmφ)を添加して、スパチュラで均一に混合した。粒子が充填容器あたり5個となるように、内径約45mmの円筒状ガラス容器に高さ約45mmになるまで注入・充填し、密封し、95℃×10分間、加熱した。加熱後、静置状態を保ち、25℃で3時間冷却後、果汁ゼリーの液面に浮いている粒子数と、底面に沈降している粒子数を数え、実施例と同様の方法で、固定化指標を求めた。
【0104】
次に、果汁ゼリーの破断荷重、破断歪み率、脆さ歪み率の測定した。上記果汁ゼリー液を、試験サンプルとして用い、実施例1と同様の方法で評価した。破断荷重は、1.46Nであった。
【0105】
固定化指標は80%であり、耐熱安定性に優れると判断した。破断歪み率は13%、および脆さ歪み率は12%で、寒天様の特性を有するゲル状組成物が得られた。
[比較例1]
【0106】
第1成分の微細繊維状セルロース複合体と、第3成分の多糖類としてグルコマンナンを、第1成分:第3成分=70:30の質量比で混合し、比較ゲル化剤eとした。比較ゲル化剤eの濃度が1.2質量%となるように、実施例1と同様の方法で標準ゲルを作製して評価した。この時、比較ゲル化剤による増粘が激しく、1.2質量%より高濃度の標準ゲルは調製できなかった。また、破断荷重は0.51Nであり、2つの構成成分だけでは、破断歪み率、脆さ歪み率および貯蔵弾性率、損失正接を測定する際の前提である、破断荷重1.4〜1.5Nの標準ゲルを調製できなかった。得られたゲルの溶解温度を調べたところ、250℃で30分加熱してもゲルが溶解せずに形状を維持していた。
[比較例2]
【0107】
第1成分の微細繊維状セルロース複合体と、第3成分の多糖類としてローカストビーンガムを、第1成分:第3成分=50:50の質量比で混合し、比較ゲル化剤fとした。比較ゲル化剤fの濃度が1.2質量%となるように、実施例1と同様の方法で標準ゲルを作製して評価した。この時、比較ゲル化剤による増粘が激しく、1.2質量%より高濃度の標準ゲルは調製できなかった。破断荷重は0.37Nであり、2つの構成成分だけでは、破断歪み率、脆さ歪み率および貯蔵弾性率、損失正接を測定する際の前提である、破断荷重1.4〜1.5Nの標準ゲルを調製できなかった。
[比較例3]
【0108】
実施例1のゲル化剤の代わりに、2.5質量%のゼラチンを、95℃のイオン交換水に添加し、10分間プロペラ攪拌翼で攪拌して溶解した。このゼラチン溶液を使用して標準ゲルを調製し、実施例1と同様の方法で評価した。破断荷重は1.4Nであった。固定化指標は0%であり、耐熱安定性が無かった。また破断歪み率は39%、脆さ歪み率は2%、貯蔵弾性率は173Pa、損失正接は0.10であった。
[比較例4]
【0109】
実施例1のゲル化剤の代わりに、0.63質量%の寒天を、95℃のイオン交換水に添加し、10分間プロペラ攪拌翼で攪拌して溶解した。この寒天溶液を使用して標準ゲルを調製し、実施例1と同様の方法で評価した。破断荷重は1.45Nであった。固定化指標は0%であり、耐熱安定性が無かった。また破断歪み率は16%、脆さ歪み率は7%であった。
[比較例5]
【0110】
実施例1のゲル化剤の代わりに、0.11質量%のジェランガムを、95℃のイオン交換水に添加し、10分間プロペラ攪拌翼で攪拌して溶解した。さらに外割で、0.1質量%の乳酸カルシウムを添加した。このジェランガム溶液を使用して標準ゲルを調製し、実施例1と同様の方法で評価した。破断荷重は1.41Nであった。固定化指標は20%であり、耐熱安定性が無かった。また破断歪み率13%、脆さ歪み率1%の、非常に脆いゲルを形成した。
[比較例6]
【0111】
第2成分のキサンタンガムと、第3成分の多糖類としてローカストビーンガムを、第2成分:第3成分=30:50の質量比で混合し、比較ゲル化剤gとした。比較ゲル化剤gの濃度が0.55質量%となるように、実施例1と同様の方法で標準ゲルを作製して評価した。破断荷重は1.44Nであった。固定化指標は10%であり、耐熱安定性が無かった。また破断歪み率57%、脆さ歪み率2%の、過剰に伸びが大きい餅様物性を示した。
[比較例7]
【0112】
実施例4のゲル化剤dの代わりに、2.6質量%ゼラチンを使用した以外は実施例4と同様にして、桃ゼリーを作製した。ただしゼラチンは、95℃のイオン交換水に添加し、10分間プロペラ攪拌翼で攪拌して、溶解した。破断荷重は1.47Nであった。固定化指標は0%であり、耐熱安定性が無かった。また破断歪み率は40%、脆さ歪み率は2%であった。
[比較例8]
【0113】
実施例5のゲル化剤cの代わりに、0.15質量%ジェランガムを使用した以外は実施例5と同様にして果汁ゼリーを作製した。ただし外割で、0.15質量%の乳酸カルシウムを添加した。固定化指標は10%であり、耐熱安定性が無かった。破断荷重は1.46N(参考値)であったが、ラズベリーピューレの繊維分が不均一な状態でゲル化しており、破断荷重・破断歪み率・脆さ歪み率を、正確に測定することは不可能であった。
【0114】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】ゲルの破断パターン例における、破断荷重、破断変形、破断歪みの読み取り方を示した模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1成分である微細繊維状セルロース50〜95質量%と水溶性高分子または親水性物質5〜50質量%とを含む微細繊維状セルロース複合体と、第2成分であるキサンタンガムと、第3成分であるグルコマンナン、ガラクトマンナン、アルギン酸類、ジェランガムからなる群より選択される1種あるいは2種以上の多糖類とからなることを特徴とするゲル化剤。
【請求項2】
前記微細繊維状セルロース複合体と前記多糖類の合計含有量と、前記キサンタンガムの含有量との質量比が、70:30〜98:2であることを特徴とする請求項1記載のゲル化剤。
【請求項3】
前記の多糖類が、グルコマンナンまたはガラクトマンナンであることを特徴とする請求項1または2記載のゲル化剤。
【請求項4】
破断荷重が1.4N〜1.5Nの標準ゲルを形成した場合の、破断歪み率が33〜45%であり、かつ、脆さ歪み率が1〜10%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のゲル化剤。
【請求項5】
破断荷重が1.4N〜1.5Nの標準ゲルを形成した場合の、破断歪み率が7〜20%であり、かつ、脆さ歪み率が2〜15%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のゲル化剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のゲル化剤を、水性媒体に分散して得られたことを特徴とするゲル状組成物。
【請求項7】
貯蔵弾性率が10〜1000Pa及び損失正接が0.05〜1であることを特徴とする請求項6に記載のゲル状組成物。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載のゲル化剤を使用し、目標のゲル破断荷重を有するように前記ゲル化剤の濃度を調整して水性媒体に分散してゲルサンプルを得る第1ステップと、前記得られたゲルサンプルの破断歪み率と脆さ歪み率とを測定する第2ステップと、前記得られた破断歪み率と脆さ歪み率との測定値と、あらかじめ目標とした破断歪み率と脆さ歪み率との差異に基づいて、前記ゲル化剤の組成を変更する第3ステップとを、順次経ることを特徴とするゲル状組成物の物性制御方法。

【図1】
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