説明

耐熱性ゴム組成物

【課題】本発明では、耐熱性及び引張り物性(伸び,強度)に優れ、特に、自動車のエンジンルーム等の高温環境下において好適に使用できる防振ゴムを提供することを課題とする。
【解決手段】ゴム成分として天然ゴム(NR)とエチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)とを含むと共に、加硫剤として有機過酸化物を含み、かつ共架橋剤として、低級アルキルフェノールジサルファイド重合物を含むことを特徴とする耐熱性ゴム組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性が良好であり、引張り物性等の機械的特性に優れた耐熱性ゴム組成物に関し、例えば、自動車のトーショナルダンパー、エンジンマウント、マフラーハンガー等の高温になる部位で好適に使用できる防振ゴム製品、その他の一般的ゴム製品に広く用いられる耐熱性ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的には、ゴム製品の性能である耐熱性と引張り物性とは背反関係にあり、それらを両立させることは困難であった。例えば、防振ゴムは、優れた防振性能(低動倍率)のほか、上記の耐熱性及び引張り物性の両面に優れていることが望まれている。
【0003】
従来の防振ゴムについて詳細に説明すると、防振ゴムは、自動車等の各種車両において、搭乗者の快適性を向上させるため、振動や騒音の発生源となる部位に配置されるものである。室内への振動や騒音の侵入を低減するために、例えば、振動や騒音の主たる発生源であるエンジンに対しては、トーショナルダンパー、エンジンマウント、マフラーハンガー等の構成部材に防振ゴムを用いることでエンジン駆動時の振動を吸収し、室内への振動及び騒音の侵入や、周辺環境への騒音の拡散を低減している。
【0004】
このような防振ゴムの基本的な特性としては、エンジン等の重量物を支える強度特性や、その振動を吸収し抑制する防振性能が要求される。更に、エンジンルーム等の高温環境下で使用される場合には、強度特性に優れ、かつ動倍率が低く防振性能に優れるのは勿論のこと、耐熱性,耐オゾン性及び耐クリープ性が高いことが求められる。特に、近年では、エンジンの高出力化や、室内空間拡大等によるエンジンルームの省スペース化に伴い、エンジンルーム内の温度は上昇する傾向にあり、自動車用防振ゴムの耐熱性に対する要求もより厳しいものとなっている。
【0005】
これまで、防振ゴムのゴム成分としては、破壊特性などの物性面に優れる天然ゴム(NR)が用いられることが多かった。しかしながら、NRは、破壊特性等に優れるものの、耐熱性や耐オゾン性が合成ゴムに比較して劣るため、高温環境下での使用においては耐熱性及び耐オゾン性等が不十分であった。
【0006】
そのような中で、防振ゴムの耐熱性や耐オゾン性の特性を向上させるためにNRの一部もしくは全部をエチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)に置換し、パーオキサイド架橋することが行われている。例えば、特開平4−246448号公報(特許文献1)には、EPDM単独配合に不飽和脂肪酸亜鉛を配合して耐熱性を改良する技術が開示され、特開平7−268147号公報(特許文献2)及び特開平7−268148号公報(特許文献3)には、特定のEPDMをパーオキサイド架橋することにより、耐久性を向上させた耐熱防振ゴムが得られる耐熱性ゴム組成物が提案されている。しかしながら、これら手法では、引張り強度(常温、高温)、引裂き性などのゴム物性及び耐久性が大幅に低下してしまうおそれがある。更に、防振ゴムでは重要な特性である動倍率が上昇し、得られる硬化物が性能として劣ったものとなることが多い。
【0007】
一方、他の手法で性能を向上させた防振ゴムとして、特定のクロロプレン系ゴムをベースとし、これに特定量のカーボンブラックと軟化剤を配合した、高硬度で低い動倍率を有するゴム成形品を得られるゴム組成物(特開平8−127673号公報:特許文献4)や、共役ジエンを含まないエチレン−α−オレフィン共重合ゴムを用いて、有機過酸化物で加硫した耐熱性及び動的ヘタリ性に優れた防振ゴム(特開平1−299806号公報:特許文献5)なども提案されているが、更なる改善が望まれる。また、優れた防振性能を得ることができる耐熱性ゴム組成物を得るために、ジエン系ゴムに特定のビスマレイミド化合物のみを加硫剤として用いる技術(特開2006−273941号公報:特許文献6)も提案されているが、防振ゴムの諸性能を更に改良することも望まれる。
【0008】
また、本出願人は、先に、NR/EPDMのゴム配合に、(メタ)アクリル酸亜鉛とビスマレイミド化合物とを併用することによりゴムの破壊特性、疲労特性及び耐熱性を低下させずに動倍率を下げ、且つ耐セット性を上げる提案をしている(特願2009−195021)。しかしながら、この提案でも、防振ゴムの要求特性の一つである引張物性の低下が若干見られ、未だ改善の余地があった。
【0009】
従って、一般的に、耐熱性と引張り物性とは背反関係にあると考えられている防振ゴム等のゴム組成物については、耐熱性及び引張り物性(伸び,強度)の両面で優れるゴム組成の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平4−246448号公報
【特許文献2】特開平7−268147号公報
【特許文献3】特開平7−268148号公報
【特許文献4】特開平8−127673号公報
【特許文献5】特開平1−299806号公報
【特許文献6】特開2006−273941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、耐熱性及び引張り物性(伸び,強度)の両面に優れるゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、NR及びEPDMを配合してゴム成分とし、これに加硫剤として有機過酸化物を配合するとともに、共架橋剤として、アミルフェノールジサルファイド重合物等の低級アルキルフェノールジサルファイド重合物を使用することにより、耐熱性及び引張り物性(伸び,強度)に優れるものであり、特に、自動車用の防振ゴムやその他のゴム用途に広く適用可能であることを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0013】
即ち、NR/EPDM系配合は非相溶性ポリマー系であるため、EPDMとNRとに均等に分散させることが困難であり、引張り特性等の物理特性について課題が残っていた。なお、NR/EPDM系配合の機械的特性を改良する方法として、ポリマーのモルフォルジーをコントロールする以外にポリマー間の架橋を効果的に行う手法を本出願人は過去に特許出願しており、具体的には、NR/EPDM系配合の共架橋剤として、1)アクリル酸亜鉛に加えて、アクリル酸亜鉛と脂肪酸エステルとをプレミックスしたものを使用すること、2)アクリル酸亜鉛とビスマレイミドとを併用すること、3)アクリル酸亜鉛とトリメチロールプロパントリメタクリレートとを併用すること、及び4)アクリル酸亜鉛とジメタクリル酸エチレングリコールとを併用すること、の手法を提案することにより、低動倍率や耐クリープ性等の物理特性を改善する試みを行った。
これに対して、本発明では、NR/EPDM相界面により、耐熱性及び引張り物性の改善を行うものである。具体的には、共架橋剤として、アミルフェノールジサルファイド重合物等の低級アルキルフェノールジサルファイド重合物を採用するものであり、そのメカニズムは明らかではないが、この架橋剤が加硫時にEPDMにグラフトし、そのグラフトサイトとNRとが反応して共架橋するものと推測される。そして、本発明のNR/EPDMのモルフォルジーについては、EPDMが海相、NRが島相になるものと推察される。そして、このようなゴム分子の特異な架橋機構により、本発明では、一般的なゴム組成物では両立が困難とされてきた耐熱性と引張り物性(伸び,強度)の両立が可能となったものであると考えられる。
【0014】
従って、本発明は下記の耐熱性ゴム組成物を提供する。
[1]ゴム成分として天然ゴム(NR)とエチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)とを含むと共に、加硫剤として有機過酸化物を含み、かつ共架橋剤として低級アルキルフェノールジサルファイド重合物を含むことを特徴とする耐熱性ゴム組成物。
[2] 低級アルキルフェノールジサルファイド重合物が、下記の化学構造(1)
【化1】


[但し、上記式中のRは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、n−アミル基(ペンチル基)、iso−アミル基(ペンチル基)、tert−アミル基(ペンチル基)、sec−イソアミル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、iso−ヘキシル基、tert−ヘキシル基から選ばれる炭素数1〜6の低級アルキル基を示し、nは2〜20の範囲の重合度を表す。]
である[1]記載の耐熱性ゴム組成物。
[3]低級アルキルフェノールジサルファイド重合物がアミルフェノールジサルファイド重合物である[1]記載の耐熱性ゴム組成物。
[4]低級アルキルフェノールジサルファイド重合物の配合量が、ゴム成分100質量部に対して0.5〜6質量部である[1]、[2]又は[3]記載の耐熱性ゴム組成物。
[5]有機過酸化物の配合量が、ゴム成分100質量部に対して1〜10質量部である[1]〜[4]のいずれか1項記載の耐熱性ゴム組成物。
[6]防振ゴム用のゴム組成物である[1]〜[5]のいずれか1項記載の耐熱性ゴム組成物。
【発明の効果】
【0015】
本発明の耐熱性ゴム組成物によれば、耐熱性及び引張り物性(伸び,強度)等の機械的特性に優れるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の耐熱性ゴム組成物は、ゴム成分として天然ゴム(NR)とエチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)とを含み、加硫剤として有機過酸化物を含み、かつ共架橋剤として、低級アルキルフェノールジサルファイド重合物を含むものである。
【0017】
天然ゴム(NR)としては、特に制限はなく、具体的には、RSS(Ribbed Smoked sheet)、White Crepes、Pale Crepes、Estate Brown Crepes、Comp Crepes、Thin Brown Crapes(Remills)、Thich Blancket Crapes(Ambers)、Flat Bark Crepes、Pure Smoked Branket Crapesの全ての等級、またブロックゴムでは、SMR(Standard Malaysian Rubber)、SIR(Indonesian)、STR(Thai)、SSR(Singaporean)、SCR(Ceylon)、SVR(Vietnamese)などを例示することができる。
【0018】
一方、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)として具体的には、JSR製の「EP96」「EP57C」や住友化学社製の「E601F」などの市販品を使用することができる。
【0019】
ゴム成分としては、NRとEPDMとを含む。その際、NRとEPDMとの配合割合については、特に制限はないが、好ましくは、NR/EPDM=70/30〜20/80(質量比)の範囲とすることである。EPDMの割合が上記範囲より少なすぎると、耐オゾン性及び耐熱性が低下するおそれがあり、多すぎると、耐久性,強度及び加工性等が低下するおそれがある。なお、上記のNR及びEPDMは、公知のものを適宜選択使用すればよく、特に制限されるものではない。
【0020】
また、本発明では上記のようにNR及びEPDMを含むゴム成分を用いるが、その目的を逸脱しない範囲であれば、必要に応じて上記ゴム成分のほかに、公知の合成ゴム等の他のゴムを併用してもよい。その具体例としては、ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、イソブチレン・イソプレンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、シリコーンゴム、アクリルゴム、エポキシ化天然ゴム、アクリレートブタジエンゴム等の合成ゴム及びこれら合成ゴムまたは天然ゴムの分子鎖末端が変性されたもの等を挙げることができ、これらの中から1種又は2種以上を適宜選択して使用すればよい。上記ゴムを配合量する場合は、ゴム成分全量の通常20質量%以下(0〜20質量%)とすることが好ましい。
【0021】
加硫剤としては、本発明においては有機過酸化物を用いる。有機過酸化物を加硫剤として用いて上記ゴム成分をパーオキサイド架橋することにより、硫黄を用いて架橋した場合と比較して、耐熱性や高温下での耐クリープ性に優れるため、耐熱性及び耐久性を高めることができる。過酸化物は、この分野において通常使用されるものを配合することができ、その具体例としては、1,1−ジt−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、ジt−ブチルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、t−ブチルクミルパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシ−イソプロピル)−ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン、t−ブチルパーオキシ−i−プロピルカーボネートなどが例示され、これらの1種又は2種以上を用いることができる。これら加硫剤の配合量は、上記ゴム成分100質量部に対して、通常1〜10質量部、好ましくは2〜8質量部である。配合量が10質量部を超えると、ゴムが硬化しすぎて、破断伸びの低下及び耐久性の低下等を招くおそれがあり、1質量部未満の場合は、架橋密度が低下し、破断強度の低下、動倍率の悪化、圧縮永久歪みの悪化及び耐久性の低下等を招くおそれがある。
【0022】
なお、本発明の目的を逸脱しない範囲において、架橋助剤として硫黄を配合することもできる。該架橋助剤を配合する場合、その配合量はゴム成分100質量部に対して0.1〜0.5質量部の範囲とすることが好ましい。
【0023】
共架橋剤は、それ自体で架橋点の生成能力はないが、上記有機過酸化物と併用することによって、ゴム中の架橋反応を起こす添加剤であり、本発明の所望の作用効果を得るために、低級アルキルフェノールジサルファイド重合物を必須成分として含む。
【0024】
ここで、低級アルキルフェノールジサルファイド重合物としては、特に制限はないが、下記の化学構造(1)を有するものであることが好適である。
【0025】
【化2】

【0026】
上記式(1)中、官能基Rとしては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、n−アミル基(ペンチル基)、iso−アミル基(ペンチル基)、tert−アミル基(ペンチル基)、sec−イソアミル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、iso−ヘキシル基、tert−ヘキシル基から選ばれる炭素数1〜6の低級アルキル基を示すものであることが好ましい。また、上記式(1)中、nは2〜20の範囲の重合度を表す。
【0027】
また、低級アルキルフェノールジサルファイド重合物として特に好ましいのは、下記の化学構造(2)で示されるtert−アミルフェノールジサルファイド重合物〔但し、上記式(2)中、nは2〜20の範囲の重合度を表す。〕であり、具体的には、「VULTAC5」(エルフ−アトケム−ジャパン社製)等の市販品を用いることができる。
【0028】
【化3】

【0029】
本発明に使用される低級アルキルフェノールジサルファイド重合物の配合量については、特に制限はないが、上記ゴム成分100質量部に対し、好ましくは0.5質量部以上であり、上限値として、好ましくは6.0質量部以下、より好ましくは5.0質量部以下である。配合量が上記範囲を超えると、ゴムが硬化しすぎ、破断伸びの低下等を招くおそれがあり、また、上記範囲を下回ると、ゴムの架橋が十分になされず、破断強度の低下,引き裂き強度の低下等を招くおそれがある。特に、防振ゴムとして用いた場合、動倍率の上昇,圧縮永久歪みの上昇等を招くおそれがある。
【0030】
なお、本発明では、共架橋剤として上記アミルフェノールジサルファイド重合物に、アクリル酸亜鉛またはメタクリル酸亜鉛等の他の架橋剤を併用することもできる。この場合、本発明の所望な効果が損なわれない範囲の配合量で他の架橋剤を使用することができる。
【0031】
また、上記ゴム成分に対して、本発明の効果を損なわない範囲で必要に応じて、ゴム工業で通常使用されている加硫剤、加硫促進剤、老化防止剤、カーボン、シリカ、亜鉛華(ZnO)、ワックス類、酸化防止剤、充填剤、発泡剤、可塑剤、オイル、滑剤、粘着付与剤、石油系樹脂、紫外線吸収剤、分散剤、相溶化剤、均質化剤等の添加剤を適宜配合することができる。
【0032】
オイルとしては、公知のものを使用することができ、特に制限されないが、具体的には、アロマティック油、ナフテニック油、パラフィン油等のプロセスオイルや、やし油等の植物油、アルキルベンゼンオイル等の合成油、ヒマシ油等を使用することができる。本発明においては、パラフィン油を好適に用いることができる。これらは1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらオイルの配合量は、特に制限されるものではないが、上記ゴム成分100質量部に対し、概ね80質量部以下とすることができる。配合量が上記範囲を逸脱すると、混練作業性が悪化するおそれがある。なお、油展されたゴムを上記ゴム成分に用いる場合は、該ゴムに含有されるオイルと、混合時に別途添加されるオイルとの合計量が上記範囲となるように調整すればよい。
【0033】
カーボンとしては、公知のものを使用することができ、特に限定されるものではないが、例えば、SRF、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAF、FT、MT等のカーボンブラックを挙げることができ、本発明においては、FTまたはFEFを好適に用いることができる。また、これらのカーボンブラックは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらカーボンブラックの配合量は上記ゴム成分100質量部に対し、通常15〜60質量部、好ましくは20〜50質量部である。配合量が60質量部を超えると、作業性が悪化するおそれがあり、15質量部未満になると、接着性の悪化を招くおそれがある。
【0034】
本発明においては、加硫を促進する観点から、亜鉛華(ZnO)や脂肪酸等の加硫促進助剤を配合することができる。脂肪酸としては飽和,不飽和あるいは直鎖状、分岐状のいずれの脂肪酸であってもよく、脂肪酸の炭素数としても特に制限されるものではないが、例えば炭素数1〜30、好ましくは15〜30の脂肪酸、より具体的にはシクロヘキサン酸(シクロヘキサンカルボン酸)、側鎖を有するアルキルシクロペンタン等のナフテン酸、ヘキサン酸、オクタン酸、デカン酸(ネオデカン酸等の分岐状カルボン酸を含む)、ドデカン酸、テトラデカン酸、ヘキサデカン酸、オクタデカン酸(ステアリン酸)等の飽和脂肪酸、メタクリル酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等の不飽和脂肪酸、ロジン、トール油酸、アビエチン酸等の樹脂酸などが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。本発明においては、亜鉛華及びステアリン酸を好適に用いることができる。これら加硫促進助剤の配合量は上記ゴム成分100質量部に対し、好ましくは1〜10質量部、より好ましくは2〜7質量部である。配合量が10質量部を超えると、作業性の悪化及び動倍率の悪化等を招くおそれがあり、1質量部未満になると、加硫遅延等のおそれがある。
【0035】
老化防止剤としては、公知のものを用いることができ、特に制限されないが、アミン系老化防止剤、フェノール系老化防止剤、イミダゾール系老化防止剤などを挙げることができる。具体的には、p,p’−ジオクチルジフェニルアミン、p,p’−ジクミルジフェニルアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−1,3−ジメチルブチル−p−フェニレンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンポリマー、6−エトキシ−2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン等のアミン系老化防止剤;2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ・フェニル)プロピオン酸ステアレート、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、テトラキス(メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ・フェニル)フロピオネート)メタン、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,5−ジ−t−ブチルヒドロキノン等のフェノール系老化防止剤;2−メルカプトベンゾイミダゾール、トリブチルチオウレア、2−メルカプトベンゾイミダゾール亜鉛塩、2−メルカプトメチルベンゾイミダゾール亜鉛塩等のイミダゾール系老化防止剤などが例示される。これら老化防止剤の配合量については、上記ゴム成分100質量部に対し、通常1〜10質量部、好ましくは2〜7質量部である。
【0036】
本発明のゴム組成物を得る際、上記各成分の配合方法に特に制限はなく、全ての成分原料を一度に配合して混練しても良いし、2段階あるいは3段階に分けて各成分を配合して混練を行ってもよい。なお、混練に際してはロール、インターナルミキサー、バンバリーローター等の混練機を用いることができる。更に、シート状や帯状等に成形する際には、押出成形機、プレス機等の公知の成形機を用いればよい。
【0037】
また、上記ゴム組成物を硬化させる際の加硫条件としては、そのゴムの使用用途により異なり、特に限定されるものではないが、例えば、防振ゴム用のゴム組成物では、通常140〜180℃で、5〜120分間の加硫条件を採用することができる。
【0038】
本発明のゴム組成物は、耐熱性を良好に維持しつつ、ゴムの引張り物性や伸び特性を飛躍的に上昇させることができる。一般的に、耐熱性と引張り物性とは背反関係にあると考えられているが、本発明ゴム組成物は従来に比べて遥かにゴム寿命を延すことができ、且つそのゴムの用途範囲が広くなり、自動車用防振ゴム組成物のほか、例えば、自動車用ホース,コンベアベルト,タイヤなどの耐熱性及び引張り物性の両方の要求度が高い種々のゴム製品に広く使用できる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明について実施例及び比較例を挙げて詳細に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0040】
[実施例1〜6、比較例1〜5]
下記表1に示す配合組成で混練し加硫して、実施例1〜6及び比較例1〜5の各々の耐熱性ゴム組成物を所定の条件で加硫硬化させ、長さ120mm×幅120mm×厚さ2mmのシート成型物を作製した。このシートを本発明「耐熱性ゴム」の評価体とした。得られたゴムシートについて、硬度(Hd)、引張伸び(Eb)、引張強さ(Tb)及び耐熱性を下記JIS規格に準拠して測定を行い評価した。その結果も表1に併記する。
【0041】
[硬度(Hd)]
JIS K 6253(タイプA)に準拠
[引張伸び(Eb)]
JIS K 6251に準拠した。Ebが900%以上であると「良好」と判断した。
[引張強さ(Tb)]
JIS K 6251に準拠した。Tbが15MPa以上であると「良好」と判断した。
[耐熱性(熱老化試験)]
JIS K 6257に準拠し、熱老化(1)は120℃,96時間の条件下に試験片を放置した後、上記硬度(Hd)、引張伸び(Eb)、引張強さ(Tb)を測定した。硬度(Hd)については変化値(度)を、引張伸び(Eb)及び引張強さ(Tb)については変化率(%)を示す。即ち、硬度(Hd)の変化値が±3以内、Ebが900%以上、Tbが10MPa以上である場合に、各物性値につき、それぞれ「良好」であると判断した。
【0042】
上記の配合についての詳細は下記の通りである。
(1)NR:天然ゴム、「RSS#4」
(2)EPDM:JSR製の「EP96」、ENB含量 6.0質量%、エチレン含量 66質量%(ポリマー成分:30phr,オイル成分:15phr)
(3)FT級カーボンブラック:旭カーボン製の「アサヒサーマル」
(4)老化防止剤:2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン重合体、大内新興化学工業社製の「ノクラック224」
(5)ワックス:マイクロクリスワックス、精工化学社製の「サンタイトS」
(6)硫黄:粉末硫黄、鶴見化学社製
(7)有機過酸化物(DPC):ジクミルパーオキサイド
(8)加硫促進剤「TBT」:川口化学工業社製の「アクセルTBT」
(9)加硫促進剤「NS」:大内新興化学工業社製の「ノクセラーNS−F」
(10)アミルフェノールジサルファイド重合物:エルフ−アトケム−ジャパン社製の「VULTAC5」
(11)マグネシウムジメタクリレート:精工化学社製、商品名の「ハイクロスGT」
【0043】
【表1】

【0044】
表1の結果から分かるように、本発明にかかる実施例1〜6のゴム組成物は、比較例のゴム組成物と比べると、耐熱性及び引張り物性(伸び及び強度)の両面に優れていることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分として天然ゴム(NR)とエチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)とを含むと共に、加硫剤として有機過酸化物を含み、かつ共架橋剤として低級アルキルフェノールジサルファイド重合物を含むことを特徴とする耐熱性ゴム組成物。
【請求項2】
低級アルキルフェノールジサルファイド重合物が、下記の化学構造(1)
【化1】

[但し、上記式中のRは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、n−アミル基(ペンチル基)、iso−アミル基(ペンチル基)、tert−アミル基(ペンチル基)、sec−イソアミル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、iso−ヘキシル基、tert−ヘキシル基から選ばれる炭素数1〜6の低級アルキル基を示し、nは2〜20の範囲の重合度を表す。]
である請求項1記載の耐熱性ゴム組成物。
【請求項3】
低級アルキルフェノールジサルファイド重合物がアミルフェノールジサルファイド重合物である請求項1記載の耐熱性ゴム組成物。
【請求項4】
低級アルキルフェノールジサルファイド重合物の配合量が、ゴム成分100質量部に対して0.5〜6質量部である請求項1、2又は3記載の耐熱性ゴム組成物。
【請求項5】
有機過酸化物の配合量が、ゴム成分100質量部に対して1〜10質量部である請求項1〜4のいずれか1項記載の耐熱性ゴム組成物。
【請求項6】
防振ゴム用のゴム組成物である請求項1〜5のいずれか1項記載の耐熱性ゴム組成物。

【公開番号】特開2011−225717(P2011−225717A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−96778(P2010−96778)
【出願日】平成22年4月20日(2010.4.20)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】