説明

耐熱性フィルター材

【課題】高温の排ガス中に含まれるダストを高い捕集効率にて濾過するための耐熱性フィルター材において、フェルトを構成する繊維同士の交絡性に優れ、フェルト製布時のニードルパンチ工程、およびダスト払い落とし時の衝撃による繊維の脱落や、ニードルパンチ工程における白い毛玉状の繊維屑の発生量を軽減するとともに、さらに、PPS繊維100%からなる耐熱性フィルター材よりも高い運転温度領域で使用することができ、また寸法安定性に優れた耐熱性フィルター材を提供する。
【解決手段】耐熱性フィルター材は、耐熱性有機繊維と捲縮を有するガラス繊維とを含む耐熱性フィルター材において、該耐熱性有機繊維が、少なくともポリフェニレンサルファイド繊維を含むものであることを特徴とするものである。また、バグフィルターは、かかる耐熱性フィルター材を濾布として構成されてなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温の排ガス中に含まれるダストを高い捕集効率にて濾過するためのフィルターであって、かつ、PPS繊維100%からなる耐熱性フィルター材よりも高い運転温度領域で使用することができ、また、寸法安定性に優れる、耐熱性フィルター材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、空気を清浄化する耐熱性フィルター材には、内部濾過用耐熱性フィルター材と表面濾過用耐熱性フィルター材とがあり、集塵機では表面濾過用耐熱性フィルター材が用いられる。表面濾過とは、ダストを耐熱性フィルター材表面で捕集してダスト層を耐熱性フィルター材表面に形成させ、そのダスト層によって次々にダストを捕集し、ダスト層がある程度の厚さになったら耐熱性フィルター材表面からダスト層を除去し、再び耐熱性フィルター材表面にダスト層を形成させる操作を繰り返すものである。
【0003】
表面濾過用耐熱性フィルター材としては、不織布が利用され、ニードルパンチフェルトを加圧加熱(カレンダー)処理して表面を平滑にしたもの、更にはニードルパンチフェルトの表面にシリコーン樹脂やフッ素樹脂を加工、またフッ素樹脂製微多孔膜をラミネートしてダスト層の高剥離性を付与したもの、ダストの捕集効率を高めるため、濾過層を形成する繊維の直径を細くし表面積を大きくしたものなどが知られている。
【0004】
特にゴミ焼却炉、石炭ボイラー、あるいは金属溶鉱炉などから排出される高温の排ガスを濾過するための耐熱性フィルター材を構成する繊維としては、耐熱性および耐薬品性に優れたポリフェニレンサルファイド(以下、PPSと略す。)繊維、メタ系アラミド繊維、フッ素系繊維、ポリイミド繊維などが好適であり、これらの素材を用いて、織物と不織布を合わせて、ニードルパンチあるいはウォータージェットパンチなどで繊維を絡合させて得られる不織布からなる耐熱性フィルター材が用いられてきた。
【0005】
一般に、これらの耐熱性フィルター材は、ゴミ焼却炉などにおける使用において、高温排ガスやその排ガス中に含まれる薬品などによる化学的な劣化と、これに加え、排ガス濾過時の圧力損失や逆洗時のパルスジェットによる摩耗や屈曲による物理的な劣化、フィルター表面で捕集したダスト重量による伸びが同時に進行するものである。したがって、バグフィルターに用いられる耐熱性フィルター材には、上述したダスト捕集効率、耐熱性、耐薬品性、耐加水分解性に加え、耐摩耗性や寸法安定性などの機械的強度が要求される。
【0006】
上述の濾過層を形成する繊維の直径を細くして、ダストの捕集効率を高める方策として、二成分ガラス繊維及び非捲縮繊維、第三の捲縮繊維(ポリテトラフルオロエチレン)を含む、カード可能な十分に混ざった繊維の混合物からなるフェルトが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この方法では確かに、優秀な濾過特性が得られ、改良された磨耗抵抗を有する点では良好なものの、フェルトを構成するポリテトラフルオロエチレン繊維の捲縮率が低いため、非捲縮繊維との交絡性が弱く、ダスト払い落とし時のパルス圧等の衝撃力によって、非捲縮繊維の脱落が発生するためユーザーより脱落抑制の改善要望があった。さらに、フェルト製布時のニードルパンチ工程においても、非捲縮繊維の交絡性が弱いため、ニードルパンチによる非捲縮繊維の脱落、および屈曲して折れちぎれた繊維の発生量が多くなり、脱落繊維がフェルト上に滞留したままさらにニードルパンチ工程を通過させるため、白い毛玉状の屑がフェルト表面に大量に発生、駆除作業が必要となるため工程通過性や品位面で問題があり、上述と同様に非捲縮繊維の脱落抑制の改善の要望があった。
【0007】
また、ガラス繊維とポリテトラフルオロエチレン繊維との緊密な配合物をニードル加工したバットを含有するフィルター用フェルトが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
この方法では確かに、粒状物質のもれ量を著しく減少させると同時に、ガス流に対しては高い透過性を保持でき、目づまりが少なく、容易にきれいにすることができる点では良好なものの、ガラス繊維(非捲縮繊維)とポリテトラフルオロエチレン繊維の混合物だけでは、ポリテトラフルオロエチレン繊維の捲縮率が弱いため、捕集効率とダストの払い落とし性に寄与する細い直径のガラス繊維(非捲縮繊維)を高い配合率で混合することが困難であり、捕集効率向上のためガラス繊維(非捲縮繊維)の配合量を多くすると、フェルト製布工程時等でガラス繊維(非捲縮繊維)が脱落してしまうという問題があった。
【0009】
一方、PPS繊維は価格も安く耐薬品性が極めて優れているにもかかわらず、耐熱性は前述のメタ系アラミド繊維、フッ素系繊維、ポリイミド繊維に比較して低く、連続190℃以上の高温下で使用されるフィルター材には適用できないという問題があった。
【特許文献1】特表2002−505384号公報
【特許文献2】特開昭61−160446号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、例えばゴミ焼却炉、石炭ボイラー、あるいは金属溶鉱炉などから排出される高温の排ガス中に含まれるダストを高い捕集効率にて濾過するための耐熱性フィルター材において、フェルトを構成する繊維同士の交絡性に優れ、フェルト製布時のニードルパンチ工程、およびダスト払い落とし時の衝撃による繊維の脱落や、ニードルパンチ工程における白い毛玉状の繊維屑の発生量を軽減するとともに、さらに、PPS繊維100%からなる耐熱性フィルター材よりも高い運転温度領域で使用することができる、耐熱性に優れた耐熱性フィルター材を提供せんとするものである。さらにまた、PPS繊維100%からなる耐熱性フィルター材よりも伸度が低い、寸法安定性に優れた耐熱性フィルター材を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、本発明の耐熱性フィルター材は、耐熱性有機繊維と捲縮を有するガラス繊維とを含む耐熱性フィルター材において、該耐熱性有機繊維が、少なくともポリフェニレンサルファイド繊維を含むものであることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の好ましい形態によれば、該耐熱性フィルター材が捲縮を有さないガラス繊維を含んで構成されていることが好ましく、さらに該耐熱性フィルター材を構成する繊維の配合率は、PPS繊維が25〜75重量%の範囲内であり、ガラス繊維が25〜75重量%の範囲内であることが好ましい。
【0013】
また、該耐熱性フィルター材が、織物構造体を含んでいることが好ましく、濾過層表面の繊維が部分的に融着されていること、あるいは、濾過層表面にフッ素樹脂製微多孔膜が貼り合わせられていることが好ましい。
【0014】
本発明のバグフィルターは、かかる耐熱性フィルター材を濾布として構成されてなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、フェルトを構成する繊維同士の交絡性に優れ、フェルト製布時のニードルパンチ工程、およびダスト払い落とし時の衝撃による繊維の脱落や、白い毛玉状の繊維屑の発生量を軽減するとともに、さらに、PPS繊維100%からなる耐熱性フィルター材よりも高い運転温度領域で使用することができ、また、寸法安定性に優れる耐熱性フィルター材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の耐熱性フィルター材を実施するための最良の形態を実施例の図面を参照しながら説明する。
【0017】
図1は、耐熱性フィルター材の断面図、図2〜3は、耐熱性フィルター材の分解断面図、図4〜5は、集じん性能試験装置の概略図である。図1において、本発明の耐熱性フィルター材は、不織布1のみで構成されたものであり、図2は不織布1と、織物2と、不織布1とから構成され、これらが一体に積層されたものである。
【0018】
本発明の耐熱性フィルター材のベースとなる、不織布1としては、捲縮を有するガラス繊維と耐熱性有機繊維を含んで構成されたものであり、かつ、該耐熱性有機繊維としてPPS繊維を使用して構成されたものである。ここでいう該耐熱性有機繊維としては、少なくともPPS繊維を含むことが必須であるが、それ以外の耐熱性有機繊維としては、例えばパラ系アラミド繊維、メタ系アラミド繊維、ポリイミド繊維、フッ素系繊維および炭素繊維から選ばれた少なくとも1種を使用することができる。本発明において、特にPPS繊維を必須の構成要件として用いるのは、耐薬品性、耐加水分解性、捲縮率の観点からであり、さらに、かかるPPS繊維に捲縮を有さないガラス繊維を混綿することにより、安価でありながら高捕集効率化を達成することができる、耐熱性に優れたフィルター材を提供することができる。
【0019】
なお、耐熱性フィルター材として用いるにあたり、耐熱性有機繊維としては、常用使用温度は150℃以上が必要であり、常用使用温度が150℃以下である、たとえばポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維などの通常合成繊維は、本発明の耐熱性有機繊維としては使用されない。
【0020】
本発明の耐熱性フィルター材の捕集効率は、フィルターを構成する繊維の繊度(直径)を細くすると向上させることができるが、また、繊維の表面摩擦係数や帯電性の異なる異繊維同士を混綿することによっても、捕集効率を向上させることができる。さらにまた、帯電性の異なる繊維同士を混綿することにより、繊維間で電気的な作用が働き(トリボエレクレット効果)捕集効率を向上させることが可能となる。
【0021】
上述のPPS繊維と捲縮を有さないガラス繊維とを組み合わせると、上述の捕集効率の向上効果のほかに、PPS繊維の常用使用温度を引き上げるという耐熱性向上効果を奏するものである。すなわち、ガラス繊維の常用使用温度は260℃であり、これに近い常用使用温度を有する耐熱性有機繊維との組み合わせでは、該常用使用温度の改善をすることはできない。したがって、たとえばフッ素系繊維やポリイミド繊維の常用使用温度は260℃であり、メタ系アラミド繊維の常用使用温度は210℃であるから、かかる耐熱性有機繊維と捲縮を有さないガラス繊維との組み合わせでは、さして大きな改善効果は期待できないのである。ところが、PPS繊維の常用使用温度は190℃と低いため、常用使用温度260℃のガラス繊維を混綿して構成された不織布は、PPS繊維100%の不織布に対して、特筆すべき向上幅の大きい耐熱性向上効果が得られるのである。ここで常用使用温度とは、10万時間暴露で強度が半分となる温度である。
【0022】
さらにまた、PPS繊維単独では、比較的高い寸法安定性を示すものの、常用使用温度以上に曝される時などの寸法変化を改善する必要があった。本発明はガラス繊維とPPS繊維とを同時に用いることで、優れた寸法安定性を有する耐熱性フィルター材を提供せんとするものである。
【0023】
ここで、「PPS繊維」とは、耐熱性、耐薬品性、耐加水分解性に優れていることで知られている繊維であり、該繊維はその構成単位の90%以上が−(C−S)−で構成されるフェニレンサルファイド構造単位を含有する重合体からなる繊維である。したがって、この繊維を使用すれば、耐熱性、耐薬品性、耐加水分解性に優れた耐熱性フィルター材を得ることができる。
【0024】
また、「ガラス繊維」とは、上述のPPS繊維に比べ耐薬品性、耐加水分解性には劣るものの、他の耐熱性有機繊維や炭素繊維に比べると、最も安価で耐熱性に優れた繊維であり、PPS繊維と繊度(直径)の細いガラス繊維を混綿することによって、フィルター表面の繊維表面積を大きくすることができ、高捕集効率化を達成することができる耐熱性フィルター材を提供することができる。
【0025】
本発明において、かかるガラス繊維の混綿比率を高くする手段としては、通常、混綿する対象繊維の捲縮率を高くし、繊維同士の交絡性を良くする手段が採用されるが、しかし、かかるガラス繊維の捲縮率を極端に高くしすぎると、フェルト製布時において、ローラーカードで引き揃えられた繊維をフライコームでかき落とすことが困難となり、場合によっては、ローラーカードへの埋綿等の問題が発生し、工程通過性不良の原因となる可能性が高くなるので、かかる場合には、捲縮を有するガラス繊維を少量混入させることで調整をするのが最も好ましい手段である。
【0026】
かかる捲縮を有するガラス繊維の捲縮数としては、特に限定するものではないが、好ましくは1〜30個/25mmの範囲内が好ましい。捲縮数が1個/25mm未満であると、捲縮を有さないガラス繊維と何ら差がなく、フェルト製布時において繊維同士、および織物との交絡性が悪くなるため、ニードルパンチ工程、およびダスト払い落とし時の衝撃により、捲縮を有さないガラス繊維の脱落が発生しやすくなる。また、ニードルパンチ工程で屈曲して折れちぎれたガラス繊維が、フェルト上部に滞留したまま、さらにニードルパンチ工程を通過させるため、白い毛玉状の屑がフェルト表面に大量に発生し、フェルトの品位が損なわれるため好ましくない。また、捲縮数が30個/25mmを超えると、捲縮を有さないガラス繊維との交絡性は向上するが、上述のようにフェルト製布時の工程通過性不良の原因となる可能性が高くなるので好ましくない。
【0027】
かかる捲縮を有するガラス繊維の比率は、捲縮を有さないガラス繊維の比率を高くするほど高くする必要があるが、捲縮を有するガラス繊維の比率は、ガラス繊維全体のわずか1〜5重量%程度混綿することにより、画期的なフェルト製布時の工程通過性改善効果を有する。
【0028】
PPS繊維とガラス繊維の混綿比率としては、それぞれ25〜75重量%の範囲内が好ましい。PPS繊維の混綿比率が25重量%未満となると、ガラス繊維の混綿比率が高くなるので、細い繊維の混綿比率が増えて捕集効率は向上するが、耐熱性フィルター材自身の耐薬品性や耐加水分解性が低下するため好ましくない。さらに、PPS繊維の混綿比率が75重量%を超えると、ガラス繊維の混綿比率が低くなるので、PPS繊維の混綿比率が増えて耐薬品性や耐加水分解性は優れるが、耐熱性フィルター材の捕集効率や寸法安定性が低下するため好ましくない。
【0029】
次に、不織布1と不織布1の中間に積層される織物2としては、例えば有機繊維や無機繊維などの耐熱性を有するものが好ましく、パラ系アラミド繊維、メタ系アラミド繊維、PPS繊維、ポリイミド繊維、フッ素系繊維、炭素繊維、ガラス繊維などを用いることができる。中でも耐薬品性、耐加水分解性の観点から特にPPS繊維、フッ素系繊維を用いることが好ましい。かかるフッ素系繊維は、従来公知のマトリックス紡糸法により製造されるものや、エマルジョン紡糸法またはペースト押出法などによって得られるものも差し支えなく用いることができる。PPS繊維としては、紡績糸またはマルチフィラメントを用いることが好ましい。特に、紡績糸は、繊維の表面積が多くなるため、不織布との絡合性に優れる点でより好適である。
【0030】
PPS繊維よりも高い耐熱性を有し、耐薬品性にも優れるフッ素系繊維としては、その重合体の繰り返し構造単位の90%以上が、主鎖または側鎖にフッ素原子を1個以上含むモノマーで構成された繊維であれば、いずれのものでも使用することができるが、フッ素原子数の多いモノマーで構成された繊維ほど好ましく、例えば、4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体(FEP)、4フッ化エチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、または、エチレン−4フッ化エチレン共重合体(ETFE)、またはポリ4フッ化エチレン(PTFE)などを使用することができる。かかるフッ素系繊維としては、耐熱性、耐薬品性、また表面低摩擦性に特に優れているポリ4フッ化エチレン(PTFE)を用いることがさらに好ましい。
【0031】
かかる織物を構成する繊維の繊度としては、適度な強度を有しているものであれば特に限定するものではないが、繊度が太すぎると、織条件によっては織物の目が詰まりやすい傾向にあり、圧力損失が高くなってしまうため好ましくない。逆に、繊度が細すぎると、織り密度が低くなり、通気量は高くなるので、圧力損失は低くなる傾向が出てくるが、織物自身の強度が低下してしまい、耐熱性フィルター材の機械強度を損なう傾向がある。したがって、織物を構成する繊維の総繊度としては、好ましくは100〜1000dtex、より好ましくは300〜600dtexの範囲内にあるのが、適度な強度を有し、また、高温時の形態保持性に優れた耐熱性フィルター材を提供することができる。総繊度が100dtex未満になると、かかる織物と不織布を積層してニードルパンチ、またはウォータージェットパンチにより交絡させ、一体化させた場合でも、織物積層化による寸法安定性や引張強力の向上効果を十分に得ることができない。また、総繊度が1000dtexを超えると、寸法安定性や引張強力には優れるものの、耐熱性フィルター材の通気量が低くなる傾向が出てくるため、フィルター性能である捕集効率は良くなるが、初期の圧力損失が高くなり、これを耐熱性フィルター材でバグフィルターとした場合は、その寿命を短くしてしまうため好ましくない。
【0032】
かかる織物は、フィルター性能である圧力損失に影響しないように目の粗い織り組織にすることが好ましく、一般的な構造としては、平織り、二重織り、三重織り、綾織り、朱子織りなどがあるが、特に低コストで汎用的な平織りの織物で満足した性能のものが得られるため好ましく用いられる。織り密度としては、経糸密度が、好ましくは15〜40本/2.54cmの範囲内、さらに好ましくは20〜30本/2.54cmの範囲内で、緯糸密度が、好ましくは10〜30本/2.54cmの範囲内、さらに好ましくは15〜25本/2.54cmの範囲内であるものが使用される。目付としては、好ましくは49〜270g/mの範囲内、さらに好ましくは100〜150g/mの範囲内であるものが使用される。
【0033】
耐熱性繊維からなる不織布、あるいは、該不織布と織物を絡合する手段としては、ニードルパンチおよびウォータージェットパンチから選ばれた少なくとも一方の手段が好ましい。絡合強度の上からは、前者のニードルパンチが好ましく採用されるが、要求される圧力損失や捕集性能によってはウォータージェットパンチが好ましい場合があり、また、これらの組合せ処理が施されたものが、バランス調整されたものを与える場合があるので、適宜選択して採用するのが好ましい。
【0034】
本発明の耐熱性フィルター材は、ダストが堆積するエアー流入面の濾過層の繊維の一部を融着させることにより、さらにダスト剥離性能や捕集性能を高めることができる。かかる繊維の一部を融着させる方法としては、毛焼処理やミラー加工などの方法を用いることができる。特にダスト捕集効率の高いものが要求される場合は、両面とも処理を施したものが好ましく使用されるが、具体的には、耐熱性フィルター材の濾過面に、バーナー炎あるいは赤外線ヒーターなどによる毛焼き処理を行ったり、熱ロールでプレスするものである。かかる処理をすることによって、濾布表面の繊維の少なくとも一部を融着したり、目詰めしたり、さらに両方の手段でカレンダー加工することにより、捕集性能を向上させることができる。
【0035】
さらに、本発明の耐熱性フィルター材においては、そのエアー流入面にフッ素樹脂製微多孔膜3を貼り合わせることにより、ダスト剥離性能や捕集性能を向上させることができる。かかるフッ素樹脂製微多孔膜3としては、優れた耐熱性と化学安定性をもつポリテトラフルオロエチレン(PTFE) 樹脂からなるものが好ましい。かかるフッ素樹脂製微多孔膜を用いることによりほとんどのアルカリ、酸、溶剤に対して安定で耐薬品性に優れ、低摩擦抵抗のためダストの剥離性に優れる。また、均一な孔径を有していることから、耐熱性フィルター材の表面にラミネートした場合でも、場所による通気性のバラツキ等も少なくダスト捕集効率に優れた耐熱性フィルター材を提供することができる。かかるフッ素樹脂製微多孔膜3の孔径としては、1〜20μmの範囲が、膜厚としては1〜100μmの範囲内が、目付としては1〜30g/mの範囲内が、耐熱性フィルター材の圧力損失の上から好ましい。
【0036】
かかるフッ素樹脂製微多孔膜3の通気量としては、1〜20cm/cm・secの範囲内が好ましい。通気量が1cm/cm・sec未満だと、初期の圧力損失が高くなるため、集塵機の運転状態によっては、パルスジェットの頻度が多くなり、バグフィルターの寿命が短くなる可能性が高くなる。逆に20cm/cm・secを越えると、圧力損失が低くなり、パルスジェットの頻度は軽減するが、フッ素樹脂製微多孔膜ラミネート化によるダスト剥離性や捕集性能を十分高くすることができず、該微多孔膜と不織布(フェルト基材)の間にダストが進入する可能性が高くなり、差圧が異常上昇し、最悪の場合はフィルターが破損することがあるので好ましくない。
【0037】
次に、本発明の耐熱性フィルター材の製造方法の一例をあげて、以下工程別に説明する。
【0038】
1.第1工程
この工程では、不織布1のウエブを製造する。まず原綿を一定の方向に引きそろえる為に無数の針の付いた回転ドラム、シリンダーの中に投入し、繊維を引きそろえ(カード工程)、得られた不織布をクロスラッパーの振り分け装置により、ラチス上に一定の割合で折り重ねていく。最終的に仕上がるフェルトの目付としては、この時の原綿投入量とライン速度からほぼ決まると言える。原綿投入量が多くライン速度が遅ければ目付は高く、原綿投入量が少なくライン速度が早ければ目付は低くなる傾向である。
【0039】
2.第2工程
得られた不織布1は、押さえロールによって軽く圧縮をかけラップ状態にしてから、ニードルパンチにより繊維同士を厚み方向で絡合させて、エアー流入面およびエアー排出面の濾過層を形成する耐熱性繊維からなる不織布とする。
【0040】
また、図2の織物を積層した耐熱性フィルター材に関しては、耐熱性繊維からなる織物の片面にエアー流入面の濾過層を形成する不織布を積層し、もう一方の面にエアー排出面の濾過層を形成する不織布を積層した、少なくとも3層構造で上述と同じ方法で繊維同士を交絡処理して、一体化させ、織物を含んだ不織布とする。
【0041】
かかる交絡処理としての、ニードルパンチの針密度としては、耐熱性フィルター材の強度や見かけ密度、また通気量の点から300本/cm以上であることが好ましい。かかる針密度は、少なすぎると繊維同士の交絡性が弱く、耐熱性フィルター材の強度が低くなってしまい、また見かけ密度も低くなる傾向があり、得られるフェルトの目も粗く、通気量も高くなりすぎてしまうため、ダストの捕集性能が悪くなる傾向があり好ましくない。逆に、針密度が多くなり過ぎた場合、ニードルによって繊維や織物構造体が傷つけられるため、耐熱性フィルター材の強度は低くなる場合があり好ましくない。また耐熱性フィルター材の収縮傾向が強くなるため、見かけ密度が上がって、ダスト捕集性能は良くなるが、通気量が低くなるため、使用初期の状態から圧力損失が高くなってしまい、短寿命化につながるため好ましくない。
【0042】
上述のことから、耐熱性フィルター材の見掛け密度としては、適宜ニードルパンチ条件を調整して、0.1〜1.5g/cmの範囲内にすることが好ましく、さらには0.1〜0.6g/cmの範囲内にすることが好ましい。また通気量についても、適宜ニードルパンチ条件を調整して、10〜80cm/cm・secの範囲内が好ましい。不織布の目付としては、好ましくは250〜800g/mの範囲内、さらに好ましくは500〜600g/mの範囲内であるものが使用される。
【0043】
本発明におけるエアー流入面とは、表面濾過用耐熱性フィルター材において、ダストが含まれたエアーが最初に耐熱性フィルター材と接触する面のことを示し、ダストを耐熱性フィルター材表面で捕集しダスト層を形成させる面のことを表す。また、その裏面側でダストが除去されたエアーが排出される面のことをエアー排出面と定義する。
【0044】
3.第3工程
得られた耐熱性フィルター材は、耐熱性フィルター材の濾過面に、バーナー炎あるいは赤外線ヒーターなどによる毛焼き処理、あるいは熱プレスまたは熱プレスロール加工を行い繊維の一部を融着させる。さらには、毛焼き処理面側にフッ素樹脂製微多孔膜を積層して熱プレスまたは熱プレスロール加工などにより圧着、融着といったラミネート加工法により貼り合わせを行う。
【0045】
ラミネート加工時の熱プレスまたは熱プレスロール処理温度は、特に限定するものではないが、耐熱性有機繊維を基材とした耐熱性フィルター材を構成する繊維の種類により、処理温度は、該耐熱性有機繊維の融点もしくは分解点以下とすることが熱による強度劣化の影響がなく好ましく、例えば、設定温度は150〜500℃の範囲内とすることが好ましい。また、ラミネート加工時のプレス圧力も特に限定するものではないが、必要以上に高圧でプレス加工を施すと、フッ素樹脂製微多孔膜の均一な孔径が損なわれる可能性があり、耐熱性フィルター材自体の通気量が低下するため、プレス圧力の設定としては、ラミネート加工後の通気量に影響が出ないことが好ましく、例えば、98〜980kPaの範囲内とすることが好ましい。
【0046】
4.第4工程
このようにして得られた耐熱性フィルター材は、袋状に縫製し、耐熱性の要求されるゴミ焼却炉や石炭ボイラー、もしくは金属溶鉱炉などの排ガスを集塵するバグフィルターとして好適に使用される。この縫製に使用される縫糸としては、該耐熱性フィルター材やそれを構成する織物に使用した繊維と同様の、耐薬品性、耐熱性を有する繊維素材で構成された糸を使用するのが好ましく、たとえばPPS繊維やフッ素系繊維などを使用するのがよい。
【0047】
かかるバグフィルターを縫製する際は、毛焼き処理面側あるいはフッ素樹脂製微多孔膜側が濾過面となるように縫製するのが、ダストの払い落とし性に優れるため好ましく、さらにはリテーナーとの摩耗から回避できるため好ましい。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の実施例をさらに具体的に説明する。
【0049】
なお、耐熱性フィルター材の各物性の測定方法は以下の通りとした。
【0050】
[目付]
JIS L 1906:2000 5.2に基づき、40cm×40cmの試験片を1枚採取し、標準状態におけるそれぞれの質量(g)を量り、その平均値を1m当たりの質量(g/m)で表した。
【0051】
[厚み]
JIS L 1906:2000で準用するJIS L 1096:1999に準じて、試料の幅50cm当たり5ヶ所について、シックネスダイアルゲージ(押し圧力3.5N、直径10mmの加圧子)の加圧下、厚さが落ち着くまで10秒待った後に厚さを測定し、平均値を算出した。
【0052】
[通気量]
JIS L 1096:1999 8.27.1 A法(フラジール形法)に準じて測定した。試料の異なる6か所から約20cm×20cmの試験片を採取し、フラジール形試験機を用い、円筒の一端(吸気側)に試験片を取り付けた。試験片を取り付けた後、加減抵抗器によって傾斜形気圧計が125Paの圧力を示すように吸込みファンを調整し、そのときの垂直形気圧計の示す圧力と、使用した空気孔の種類とから、試験機に付属の表によって試験片を通過する空気量を求め、6枚の試験片についての平均値を算出した。
【0053】
[繊維の脱落量]
フェルト製布工程時の原綿投入量と不織布1の重量を計測し、次式から繊維の脱落量と重量変化率を算出した。
繊維の脱落量(g)=投入量−不織布1重量
(注)投入量と不織布1の重量の単位はgである。
重量変化率(%)=(1−(不織布1の重量÷投入量)×100
繊維の脱落量の判定基準は、重量変化率5%未満を○(マル)、5%以上10%未満を△(サンカク)、10%以上を×(バツ)とした。
【0054】
[繊維屑発生量]
耐熱性フィルター材を400mm角にカットして、直径5mm以上の白い毛玉状の繊維屑の数を計測した。
【0055】
繊維屑発生量の判定基準は、5個未満を○(マル)、5個以上10個未満を△(サンカク)、10個以上を×(バツ)とした。
【0056】
[大気塵捕集効率試験]
図4の装置(JIS B9908に準拠)を用いて大気塵計数法による捕集効率の測定を行った。
【0057】
図4の大気塵捕集効率試験機において、9は耐熱性フィルター材、13は送風機、18、19はパーティクルカウンターである。
【0058】
すなわち、耐熱性フィルター材9(φ170mm)の下流側に設置された送風機13により耐熱性フィルター材9に対し、濾過風速1m/minの気流を5分間通気させた後、耐熱性フィルター材9の上流側の大気塵(粒径:0.3〜5μm)個数Aをリオン社製パーティクルカウンター(上流)18によって測定し、同時に耐熱性フィルター材9の下流側の大気塵(粒径:0.3〜5μm)個数Bを同社製パーティクルカウンター(下流)19によって測定した。測定試料はn=3で行った。
【0059】
該大気塵個数から次式によって捕集効率を求めたものである。
大気塵捕集効率(%)=(1−(B÷A))×100
式中、A:上流側大気塵個数
B:下流側大気塵個数
大気塵捕集効率の判定基準は、粒径1μm未満のダスト捕集効率が50%以上を○(マル)、45%以上50%未満を△(サンカク)、45%未満を×(バツ)とした。
【0060】
[集じん性能試験]
図5の集じん性能試験装置(JIS Z 8909−1:2005に基づいて、同規定における試験装置を用い、初期30回における繰り返しダスト払い落とし後の集じん率の測定を行った。
【0061】
図5の集じん性能試験機において、4はダスト供給機、5はパルスジェット負荷機、6は上流チャンバー、7はダストが含まれたエアー、8は払い落としダスト捕集部、9は耐熱性フィルター材、10は下流チャンバー、11はHEPAフィルター、12は流量計、13は送風機、14はダストが除去されたエアー、15はデジタル差圧計である。
【0062】
すなわち、耐熱性フィルター材9(濾過面積0.9m)の下流側に設置された送風機13と流量計12により耐熱性フィルター材9に対し、濾過風速2.0m/minの気流を与え、耐熱性フィルター材9のエアー流入面側に、JIS10種ダストをダスト供給機4にてダスト供給量54g/hr(ダスト濃度5g/m)に調整したダストを耐熱性フィルター材9に負荷し、耐熱性フィルター材9の下流方向にあるパルスジェット負荷機5によりパルスジェット圧力500kPa(50msec)の条件で装置を運転させ、圧力損失が1.0kPaまで上昇する毎にパルスジェットを初期30回打ち、圧力損失の推移をデジタル差圧計15で連続モニターリングした。
【0063】
また、耐熱性フィルター材9の下流側にJIS Z 8122に規定するHEPAフィルター11を設置し、耐熱性フィルター材9から漏れ出たダストを捕集させ、ダストの供給量とダストの漏れ量から集じん率を以下の計算式にて求めた。
集じん率(%)=(ダスト供給量−ダスト漏れ量)÷ダスト供給量×100
(注)ダスト供給量とダスト漏れ量の単位はgである。
【0064】
集じん性能試験の判定基準は、集じん率が99.9900%以上を○(マル)、99.9400%以上99.9900%未満を△(サンカク)、99.9400%未満を×(バツ)とした。
【0065】
尚、試験室の条件は、温度23℃、相対湿度45%、大気圧1005hPaであった。
【0066】
[長期耐熱処理後のテーバ型磨耗試験(耐熱性向上効果率)]
JIS L 1906:2000 5.6で準用するJIS L 1096:1999 8.17.3 C法(テーバ形法)式摩耗試験に準じて、質量の減量を求めた。
【0067】
標準状態に調整した試料から、直径13cmの円形試験片を5枚採取し、各試験片の中心に直径約6mmの孔を開け、テーバ形摩耗試験機を用い、試験片の表面を上にして試料ホルダのゴムマット上に取り付けた。
【0068】
次に、摩耗輪(No.CS−17、荷重9.81N)を試験片の上に載せて70回/minで500回、回転摩擦した。回転摩擦した後の質量(mg)を量り、次の式によって重量変化率を求め、5回の平均値を算出し、整数位に丸めた。
WL=(W―W')/W×100
ここに、WL:重量変化率(%)
W:摩擦前の質量(mg)
W':500回摩擦後の質量(mg)
なお、テーバ型磨耗試験に供する試験片は事前に高温処理を施すこととし、処理温度条件は各種耐熱性フィルター材を構成する有機繊維の常用使用温度+30℃とし、処理期間は60日間とした。
【0069】
また、ガラス繊維混綿化による耐熱性向上効果率を以下の計算式にて求めた。
耐熱性向上効果率(%)=(有機繊維100%フェルトの重量変化率÷有機繊維50%とガラス繊維50%フェルトの重量変化率)×100
(例)有機繊維がPPSの場合
(PPS100%フェルトの重量変化率÷PPS50%とガラス繊維50%フェルトの重量変化率)×100
長期耐熱処理後のテーバ型磨耗試験の判定基準としては、耐熱性向上効果率が150%以上を○(マル)、125%以上150%未満を△(サンカク)、125%未満を×(バツ)とした。
【0070】
[破断伸度]
JIS L 1096:1999 8.12.1 A法(ストリップ法)のラベルドストリップ法に則り、タテ方向について、試験片を3枚ずつ採取し、幅50mmとし、定速緊張型の試験機にて、つかみ間隔200mm、引張速度200mm/minで試験したときの破断伸度を測定し、タテ方向について平均値を算出した。
【0071】
[総合判定]
総合判定の判定基準は、繊維の脱落量、繊維屑の発生量、大気塵捕集効率、集じん率、耐熱性向上効果率の判定で全項目が○(マル)の耐熱性フィルター材を○(マル)、△(サンカク)が3ヶ未満あるいは×(バツ)が2ヶ未満の耐熱性フィルター材を△(サンカク)、△(サンカク)が3ヶ以上あるいは×(バツ)が2ヶ以上の耐熱性フィルター材を×(バツ)とした。
【0072】
[実施例1]
まず、繊度2.2dtex(繊維径14.5μm)、カット長51mm、捲縮数12.3個/25mmのPPS短繊維(東レ(株)製“トルコン”(R)S301−2.2T51mm)を用い、単糸番手20s、合糸本数2本の紡績糸(総繊度600dtex)を得た。これを平織りとし経糸密度28本/2.54cm、緯糸密度18本/2.54cmのPPS紡績糸からなる織物2を得た。
【0073】
次に、繊度2.2dtex(繊維径14.5μm)、カット長51mm、捲縮数12.3個/25mmのPPS短繊維(東レ(株)製“トルコン”(R)S301−2.2T51mm)50%、繊度0.75dtex(繊維経6μm)、カット長50mm、捲縮数0個/25mmの非捲縮性ガラス繊維(ADVANCED GLASSFIBER YARNS LLC“DE GLASS”(R))45%、繊度2.3dtex(繊維経10μm)、カット長25.4mm、捲縮数4.5個/25mmの捲縮性ガラス繊維(Owens−Corning Fiber glas,Inc“MIRAFREX” (R))5%をオープナー、カーディング処理して刺針密度40本/cmで仮ニードルパンチした不織布1として、目付が210g/mと215g/mの2種類を作成した。
【0074】
そして、それぞれの不織布で織物2をサンドイッチし、さらにニードルパンチ加工により織物と上述の不織布とを交絡させ、目付が678g/m、総刺針密度が300本/cmの耐熱性フィルター材を得た。なお、ここで得られた耐熱性フィルター材は、ニードルパンチ処理により収縮して理論上より目付が高くなっている傾向がみられた。
【0075】
さらに、耐熱性フィルター材のエアー流入面側に、バーナー炎にて毛焼き処理、熱プレス加工を行い繊維の一部を融着させ、目付が683g/m、厚みが3.4mm、通気量が23.3cm/cm・secの耐熱性フィルター材を得た。
【0076】
得られた耐熱性フィルター材の性能を表1に示した。
【0077】
得られた耐熱性フィルター材の破断伸度を表2に示した。
【0078】
[実施例2]
実施例1と同様の方法で耐熱性フィルター材を作成し、目付664g/m、厚みが3.3mm、通気量が24.2cm/cm・secの耐熱性フィルター材を得た。さらに、毛焼き処理面に厚さ30μm、孔径15μmのフッ素樹脂製微多孔膜(住友電工ファインポリマー(株)製“ポアフロン(R)メンブレン”AP1500−30)を積層、60TON熱プレスにて温度200℃、プレス圧力5kPa、加圧時間30秒でラミネート加工を行い目付673g/m、厚みが3.3mm、通気量が4.2cm/cm・secの耐熱性フィルター材を得た。
【0079】
得られた耐熱性フィルター材の性能を表1に示した。
【0080】
[比較例1]
繊度2.2dtex(繊維径14.5μm)、カット長51mm、捲縮数12.3個/25mmのPPS短繊維(東レ(株)製“トルコン”(R)S301−2.2T51mm)75%、繊度0.75dtex(繊維経6μm)、カット長50mm、捲縮数0個/25mmの非捲縮性ガラス繊維(ADVANCED GLASSFIBER YARNS LLC“DE GLASS”(R))25%をオープナー、カーディング処理して刺針密度40本/cmで仮ニードルパンチした不織布1として、目付が205g/mと210g/mの2種類を作成した。
【0081】
それ以外は実施例1と同様の方法で耐熱性フィルター材を作成し、目付が630g/m、厚みが3.3mm、通気量が28.2cm/cm・secの耐熱性フィルター材を得た。
【0082】
得られた耐熱性フィルター材の性能を表1に示した。
【0083】
得られた耐熱性フィルター材の破断伸度を表2に示した。
【0084】
[比較例2]
繊度2.2dtex(繊維径14.5μm)、カット長51mm、捲縮数12.3個/25mmのPPS短繊維(東レ(株)製“トルコン”(R)S301−2.2T51mm)のみをオープナー、カーディング処理して刺針密度40本/cmで仮ニードルパンチした不織布1として、目付が200g/mと203g/mの2種類を作成した。
それ以外は実施例1と同様の方法で耐熱性フィルター材を作成し、目付が579g/m、厚みが2.8mm、通気量が29.6cm/cm・secの耐熱性フィルター材を得た。
【0085】
得られた耐熱性フィルター材の性能を表1に示した。
【0086】
得られた耐熱性フィルター材の破断伸度を表2に示した。
【0087】
[比較例3]
繊度7.4dtex(繊維径13.5μm)、カット長70mm、捲縮数11.6個/25mmのPTFE短繊維(東レ(株)製“トヨフロン”(R)T201−7.4T70mm)をオープナー、カーディング処理して刺針密度40本/cmで仮ニードルパンチした不織布1として、目付が217g/mと225g/mの2種類を作成した。
それ以外は実施例1と同様の方法で耐熱性フィルター材を作成し、目付が661g/m、厚みが2.5mm、通気量が32.6cm/cm・secの耐熱性フィルター材を得た。
【0088】
得られた耐熱性フィルター材の性能を表1に示した。
【0089】
[比較例4]
繊度7.4dtex(繊維径13.5μm)、カット長70mm、捲縮数11.6個/25mmのPTFE短繊維(東レ(株)製“トヨフロン”(R)T201−7.4T70mm)50%、繊度0.75dtex(繊維経6μm)、カット長50mm、捲縮数0個/25mmの非捲縮性ガラス繊維(ADVANCED GLASSFIBER YARNS LLC“DE GLASS”(R))45%、繊度2.3dtex(繊維経10μm)、カット長25.4mm、捲縮数4.5個/25mmの捲縮性ガラス繊維(Owens−Corning Fiber glas,Inc“MIRAFREX”(R))5%をオープナー、カーディング処理して刺針密度40本/cmで仮ニードルパンチした不織布1として、目付が209g/mと201g/mの2種類を作成した。
それ以外は実施例1と同様の方法で耐熱性フィルター材を作成し、目付が652g/m、厚みが2.7mm、通気量が31.4cm/cm・secの耐熱性フィルター材を得た。
【0090】
得られた耐熱性フィルター材の性能を表1に示した。
【0091】
[比較例5]
繊度2.2dtex(異型断面)、カット長55mm、捲縮数10.0個/25mmのポリイミド短繊維(INSPEC FIBRES Inc“P84”(R)をオープナー、カーディング処理して刺針密度40本/cmで仮ニードルパンチした不織布1として、目付が207g/mと204g/mの2種類を作成した。
【0092】
それ以外は実施例1と同様の方法で耐熱性フィルター材を作成し、目付が633g/m、厚みが3.2mm、通気量が22.6cm/cm・secの耐熱性フィルター材を得た。
【0093】
得られた耐熱性フィルター材の性能を表1に示した。
【0094】
[比較例6]
繊度2.2dtex(異型断面)、カット長55mm、捲縮数10.0個/25mmのポリイミド短繊維(INSPEC FIBRES Inc“P84”(R))50%、繊度0.75dtex(繊維経6μm)、カット長50mm、捲縮数0個/25mmの非捲縮性ガラス繊維(ADVANCED GLASSFIBER YARNS LLC“DE GLASS”(R))45%、繊度2.3dtex(繊維経10μm)、カット長25.4mm、捲縮数4.5個/25mmの捲縮性ガラス繊維(Owens−Corning Fiber glas,Inc“MIRAFREX”(R))5%をオープナー、カーディング処理して刺針密度40本/cmで仮ニードルパンチした不織布1として、目付が209g/mと213g/mの2種類を作成した。
それ以外は実施例1と同様の方法で耐熱性フィルター材を作成し、目付が618g/m、厚みが3.3mm、通気量が23.4cm/cm・secの耐熱性フィルター材を得た。
【0095】
得られた耐熱性フィルター材の性能を表1に示した。
【0096】
[比較例7]
繊度2.2dtex(繊維径14.2μm)、カット長40mm、捲縮数12.3個/25mmのメタ系アラミド短繊維(デュポン(株)製“ノーメックス”(R))をオープナー、カーディング処理して刺針密度40本/cmで仮ニードルパンチした不織布1として、目付が211g/mと206g/mの2種類を作成した。
【0097】
それ以外は実施例1と同様の方法で耐熱性フィルター材を作成し、目付が631g/m、厚みが3.3mm、通気量が22.6cm/cm・secの耐熱性フィルター材を得た。
【0098】
得られた耐熱性フィルター材の性能を表1に示した。
【0099】
[比較例8]
繊度2.2dtex(繊維径14.2μm)、カット長51mm、捲縮数12.3個/25mmのメタ系アラミド短繊維(デュポン(株)製“ノーメックス”(R))50%、繊度0.75dtex(繊維経6μm)、カット長50mm、捲縮数0個/25mmの非捲縮性ガラス繊維(ADVANCED GLASSFIBER YARNS LLC“DE GLASS”(R))45%、繊度2.3dtex(繊維経10μm)、カット長25.4mm、捲縮数4.5個/25mmの捲縮性ガラス繊維(Owens−Corning Fiber glas,Inc“MIRAFREX”(R))5%をオープナー、カーディング処理して刺針密度40本/cmで仮ニードルパンチした不織布1として、目付が209g/mと201g/mの2種類を作成した。
【0100】
それ以外は実施例1と同様の方法で耐熱性フィルター材を作成し、目付が602g/m、厚みが3.4mm、通気量が21.4cm/cm・secの耐熱性フィルター材を得た。
【0101】
得られた耐熱性フィルター材の性能を表1に示した。
【0102】
[比較例9]
繊度2.2dtex(繊維径14.5μm)、カット長51mm、捲縮数12.3個/25mmのPPS短繊維(東レ(株)製“トルコン”(R)S301−2.2T51mm)20%、繊度0.75dtex(繊維経6μm)、カット長50mm、捲縮数0個/25mmの非捲縮性ガラス繊維(ADVANCED GLASSFIBER YARNS LLC“DE GLASS”(R))80%をオープナー、カーディング処理して刺針密度40本/cmで仮ニードルパンチしたが、不織布として形態を保持したものが得られなかった。
【0103】
得られた耐熱性フィルター材の性能を表1に示した。
【0104】
[実施例3]
実施例1で用いたPPS短繊維、非捲縮性ガラス繊維、捲縮性ガラス繊維の混合割合をそれぞれ30%、65%、5%とした以外は、実施例1と同様の方法で耐熱性フィルター材を得た。ガラス繊維の混率が合計で70%と多いが、捲縮性ガラスを5%含むので、カーディング処理で若干の巻き付きが発生したものの、加工上大きな問題ではなかった。得られた耐熱性フィルター材の破断伸度を表2に示した。
【0105】
[比較例10]
比較例1で用いたPPS短繊維、非捲縮ガラス繊維の混合割合をそれぞれ30%、70%とした以外は、比較例1と同様の方法で耐熱性フィルター材を得た。非捲縮ガラスの混率が70%と多く、カーディング処理での巻き付きが発生し、連続加工は困難であった。少量の加工のみ実施し、耐熱性フィルター材を得た。得られた耐熱性フィルター材の破断伸度を表2に示した。
【0106】
【表1】

【0107】
表1の評価結果から明らかなように、実施例1、2の耐熱性フィルター材は、フィルター性能の全試験項目が○(マル)の判定であり、比較例1〜9の耐熱性フィルター材に比べ、フェルト製布時の繊維の脱落量や繊維屑の発生量を抑制する点で工程通過性に優れ、大気塵捕集効率にも優れ、集じん性能試験による初期30回後の捕集効率にも優れ、ガラス繊維混綿化による耐熱性向上効果率が最も高く優れている。比較例1、2、3、5、7の大気塵捕集効率ならびに集じん率が低い原因としては、繊維経の細いガラス繊維の混綿比率が低いため、あるいはガラス繊維を混綿していないので、表面濾過が不十分となり、ダストケーキ層が形成されにくいため、長時間の運転で徐々にダストが濾材内部を浸透しているためである。また、比較例4、6、8の耐熱性向上効果率が低い原因としては、耐熱性フィルター材を構成するフッ素系繊維やポリイミド繊維ならびにメタ系アラミド繊維自身の常用使用温度がガラス繊維の常用使用温度とほとんど大差がないため、フッ素系繊維やポリイミド繊維ならびにメタ系アラミドにガラス繊維を混綿した不織布にしても、常用使用温度の低いPPS繊維ほどの耐熱性向上効果が得られないためである。かかる結果から、実施例1、2の耐熱性フィルター材の有機繊維と捲縮性を有するガラス繊維を含み、ガラス繊維の混綿比率を高くすることにより、耐熱性フィルター材の高捕集効率化および耐熱性向上化を図ることが可能であることが分かった。
【0108】
【表2】

【0109】
表2の結果から明らかなように、実施例の耐熱性フィルターは破断伸度が低く、寸法安定性が比較例10よりも向上していることがわかる。一方で比較例1や比較例2は破断伸度が向上しておらず、寸法安定性が満足なものではなかった。すなわち、非捲縮ガラス繊維の混率を単純に増やしても、耐熱性フィルター材の寸法安定性は向上せず、本発明の必須要件である捲縮性ガラス繊維を使用し、繊維同士の絡合を充分なものとして初めて、優れた寸法安定性を示すことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明は、ゴミ焼却炉、石炭ボイラーあるいは金属溶鉱炉などから排出される高温の排ガス中に含まれるダストを高い捕集効率にて濾過するための耐熱性フィルター材の他、例えばクリーニング用資材、保温材等の分野にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】本発明にかかる耐熱性フィルター材の一例である。
【図2】本発明にかかる耐熱性フィルター材の分解断面図の一例である。
【図3】本発明にかかる耐熱性フィルター材の分解断面図の一例である。
【図4】図1〜3の耐熱性フィルター材の大気塵捕集効率試験装置の概略図である。
【図5】図1〜3の耐熱性フィルター材の集じん性能試験装置の概略図である。
【符号の説明】
【0112】
1 不織布
2 織物
3 フッ素樹脂製微多孔膜
4 ダスト供給機
5 パルスジェット負荷機
6 上流チャンバー
7 ダストが含まれたエアー
8 払い落としダスト捕集部
9 耐熱性フィルター材
10 下流チャンバー
11 HEPAフィルター
12 流量計
13 送風機
14 ダストが除去されたエアー
15 デジタルジ差圧計
16 大気塵エアー
17 大気塵が除去されたエアー
18 パーティクルカウンター(上流)
19 パーティクルカウンター(下流)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱性有機繊維と捲縮を有するガラス繊維とを含む耐熱性フィルター材において、該耐熱性有機繊維が、少なくともポリフェニレンサルファイド繊維を含むものであることを特徴とする耐熱性フィルター材。
【請求項2】
該耐熱性フィルター材が、捲縮を有さないガラス繊維を含んで構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の耐熱性フィルター材。
【請求項3】
該耐熱性フィルター材を構成する繊維の配合率が、ポリフェニレンサルファイド繊維が25〜75重量%の範囲内であり、ガラス繊維が25〜75重量%の範囲である、請求項1あるいは2に記載の耐熱性フィルター材。
【請求項4】
該耐熱性フィルター材が、織物構造体を含んで構成されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の耐熱性フィルター材。
【請求項5】
該耐熱性フィルター材の濾過層表面の繊維が、部分的に融着されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の耐熱性フィルター材。
【請求項6】
該耐熱性フィルター材の濾過層表面に、フッ素樹脂製微多孔膜が貼り合わせられていることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の耐熱性フィルター材。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の耐熱性フィルター材を濾布として構成されてなることを特徴とするバグフィルター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−305562(P2006−305562A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−87394(P2006−87394)
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】